それは、ある冬の出来事……
ーーーーーーーーーーーー 朝。太陽が眩しい。さ、二度寝でもしようか… あぁ、学校か…
「おに~ちゃ~ん、朝だよ~。」
げ、麻衣が来た。
麻衣「起きないと遅刻するよ~ってお母さんが言ってるぞ~」
ちょっとまて、い、今来ては、ダメだぁ!時よ止まれぇ!
『ガチャリ。』
麻衣「お兄ちゃん、起き……………ごめん、ごゆっくり…」
「ちょっとまて!い、今のは誤解だっ…」
麻衣「うん、大丈夫。誤解なんてしてないよ、お兄…弘樹くん。」
弘樹「ちょっとまてぇ!しかも、さりげなく兄ということを否定するな!」
『ガチャリ。』
終わった…俺の人生終了のお知らせか…
まぁ、仕方ないか、あんなR-18って書かれた本を見てしまえばそんなもんか…
って、もうこんな時間か!
祐希「いってきます!」
寒ぃ、なんでこの世界はこんなにも寒いのか…
「あ、弘樹く~ん!」
弘樹「ん?」
「はぁ、はぁ、ま、間に合ったぁ。」
弘樹「おう、凛か。」
凛「うん、弘樹くんが見えたから走って来ちゃった♪」
弘樹「ケータイで言ってくれれば止まってたのに」
凛「あ、そっか…てへへ…」
凛はさりげなく自分の右手で頭をコツンと叩く。さらに上目遣いとか、凛も腕をあげたな…
凛「さ、弘樹くん学校いこ♪」
弘樹「ああ、行こうか。」
ーー 一瞬。目の前が歪んだ。
凛「だ、大丈夫!?ねぇ?ねぇってば!!」
薄れる意識の中、凛の声が遠のいていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
弘樹「…ん、痛っ!…って、ここは、どこだ?」
見た感じ、草原。花が咲いている…。確か、俺は凛と学校に行く途中で… あれ?今、冬だよ…な…
「あら?今度の勇者様はお目覚めが早いことですのね♪ミラ、感激しちゃう♪」
弘樹「っ!」
ミラ「そんなにビックリされなくてもよろしくてよ?これからあなたとはしばらくの間共に 過ごすのですから」
弘樹「…えと、、、」
ミラ「どうかなさいましたか?勇者様?あ、失礼いたしました。私はミラ。アレイアス・ミ ラ・フリート。みんなは、ミラって呼んでいるわ。」
弘樹「は、はぁ。えっと、ミラ…さん、ここは、どこなのでしょうか?」
ミラ「ミラでいいわよ。ここは、レスターヴァ。あなた達からすれば、異世界ってところか な?」
弘樹「れす、たーう゛ぁ…異世界…」
ミラ「そう、レスターヴァ。そんなことも知らないでこの世界に来たの?こっちがビックリ しちゃうわ。」
弘樹「って、そんなことより、俺を元の世界に戻してくれよ!!」
ミラ「……したくない…。」
弘樹「なんでだよ!ああ、そうか!これは夢の中なんだ!こうして、ほっぺたをつねれば、 痛く…痛ぇ!!」
ミラ「これは、夢ではありませんの。一応、勇者様を元の世界に返すこともできますが…そ れではダメなのです!」
弘樹「なんでだよ!俺だって学校に行って、勉強…はしないが、サッカーして、凛と一緒に 帰って、家族と夕飯食べて、サッカーの試合見て、ゲームして、ってやることがたくさんあ るんだよ!」
ミラ「本当は、すぐに返してあげたいわよ…ただ、勇者様を悲しませたくないから、返した くないのよ…」
その時、俺の前に小さな扉が出て来た。その扉をくぐった…
弘樹「ま、まさかだろ…」
ミラ「いいえ、今、起こっている事よ。」
…止まってる……何もかもが止まっている。人も、風も、水もすべて止まっている。けれど、 触れられる。写真じゃない、これが、現実なのか…
ミラ「今、あなた達の世界は、時が止まっているの。その前に一人の少年をレスターヴァに 連れてくるの。今回、たまたま選ばれたのが、あなた。今回の勇者様よ。」
弘樹「今…回…。」
ミラ「そう、今回。あなた達の世界は、よく時が止まるの。なんでか、すぐに『時が止まれ ばいいのに』とか言っちゃうからかもしれませんけど、その度に一人の少年を連れてきて、 天使を探すの。ただ、それだけ。」
弘樹「それだけ、か。」
ミラ「あなた達の世界を守るには、勇者様しかいないの。だから、お願い。」
弘樹「…わかった。天使を探せばいいんだな…」
ミラ「はい♪」
そうして、俺とミラの天使探しが始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
弘樹「で、どこを探せばいいんだ…」
ミラ「えっと、確か、いつもこの辺なんだけど、ありませんの…」
弘樹「何が?」
ミラ「飛行機です。」
弘樹「飛行機?」
ミラ「昨日は、ここに置いたはずですのに…」
弘樹「昨日も使ったのか?」
ミラ「はい。ほぼ、毎日同じ事の繰り替えしです。」
弘樹「繰り替えし?」
ミラ「毎日、あなた達の世界では、時が止まります。その度に一人の少年を連れてきて天使 を探しています。」
弘樹「毎回、違うやつか?」
ミラ「はい。違う少年を連れてきてます。そして、たまたま選ばれたのがあなたなのです。 」
弘樹「そうか、なら、仕方ないといえば仕方ないのか…」
ミラ「あ、ありましたわ!」
弘樹「やけに、ボロくないか?」
ミラ「き、気のせいよ。ただ、いわゆるビンテージものなだけよ。」
弘樹「それを俺達はボロいと言うのだが。」
ミラ「ささっ、細かいこと気にしないで乗って乗って♪」
ごまかしたな。
ミラ「うん、メインエンジンとかは平気そうね。じゃ、出発するわよ~」
弘樹「え、ちょっとまて、まだ、準備がー」
俺は、珍しく一日(?)に二回気絶した。
ミラ「さて、着いたよ…ってあれ?勇者様?起きてますか?」
弘樹「…いてて、な、なんとか…な。」
ミラ「この先に天使がいるはずよ。」
ミラが指差したのは、洞窟だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺は、ミラの後を歩いていた。ミラの後を歩くのが精一杯。
弘樹「しかし、何も見えないな…」
ミラ「はい、いつもこんな感じですよ。」
ミラは松明。俺はケータイ(流石に電波も圏外。)片手に洞窟を歩いていた。
ミラ「もう少しですよ。」
すると、外から光がさしてきた。
弘樹「ウソだろ……」
目の前には、翼を生やした人。いわゆる天使が飛んでいた。
ミラ「さ、早く、天使を捕まえて…て言っても、一人呼べばすぐに来るわ。ちょっと勇者 様、耳を貸して下さいまし。」
『ごにょごにょっ』
それで来るのかよ…。 とりあえず言ってみるか…
弘樹「おーい、天使さーん。時を動かす手伝いをしてくれー。」
『パサッ』
本当に来たよ…もう、何がなんだか…
ミラ「さ、天使さん来たよ。早く。」
弘樹「え?早くって、この後は?何も聞かされてないけど?」
ミラ「あ、そっか勇者様に言ってませんでしたね。」
弘樹「まだあったのかよ…さっさとしてくれよ。」
ミラ「じゃあ…」
ミラ「殺して。」
え?殺す?何を?ミラを?まさか、天使を?
ミラ「ほら、早く。目の前に武器も置いてあるでしょ。」
俺の前には小型のナイフがあった。 要するにこれで見知らぬ天使を殺すのだろう。
弘樹「…なこと、できるかよ…」
ミラ「早く!」
弘樹「できねえよ!!」
ミラ「早く!あの天使を殺せ!!」
弘樹「嫌だ!」
ミラ「あなた達の世界が、どうなってもいいの?」
弘樹「………。」
確かに、元の世界は時が止まってる。だからと言って、見知らぬ天使を殺してもいいのか?
弘樹「悪い、ミラ。俺には天使を殺す事はできな……」
ミラが泣いてる。そうか、何回も同じ事の繰り替えしだっけ。 何回も天使が殺されるのを見てきたのか。知らない少年が、知らない天使を殺す。その瞬間 を毎回目の前で繰り返される。 でも、そのおかげで、『今』がある。そうか、次は俺がやらなくちゃいけないのか、そし て、『未来』を作らなきゃいけないのか…
弘樹「わかった。俺やるよ。」
ミラ「勇者様…」
弘樹「名前も知らない天使さん。ごめんなさい。俺達の未来の為に死んで下さい。」
『ザシュッ』
鮮血が溢れる。天使の翼は白から紅に染まる。
始めて天使を殺した。
生々しく手の感触が残る。
俺の手も紅く染まる。
俺は俺自身を責めた。結局は、俺の為に殺した訳だ。いっそのこと俺もここで…
その時、光が天使を包んだ。
紅く染まった翼は、白く戻り、傷跡は塞がり、たちまち元の状態に戻っていく。
そして、飛んだ。
気づけば、俺の手も紅い血の跡はない。
ミラ「ありがとう。勇者様のおかげで、みんな救われたよ。」
弘樹「なあ、ミラ。」
ミラ「はい?なんですか?勇者様?」
弘樹「お前は、知っていたのか?」
ミラ「…はい。」
弘樹「そうか、なんで、言ってくれなかったのか?」
ミラ「勇者様の哀しみも必要だったから。もし、言ってしまうと、哀しみが無くなってしま うから…。」
弘樹「そっか、わかった。帰ろう。」
ミラ「はい♪」