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No.34578の一覧
[0] 可愛い神様のせいで寝不足がマッハ[卍るカブラ](2012/08/14 00:11)
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[34578] 可愛い神様のせいで寝不足がマッハ
Name: 卍るカブラ◆a0691b77 ID:20d43e1f
Date: 2012/08/14 00:11
よく最近の風潮でトラックに跳ねられたり、通り魔にグサリとやられたり、空から落ちながら「バルス!」とか叫んだりすると、神様に会えるみたいな展開あるじゃん。
あれってどうなんだろうね。
つまり死ぬ=神様とミーティングってことでしょ?
神様ってそんなに暇なの?
死んだ人一人一人に会っちゃえるくらい暇なの?

そりゃないよな。
そんなに暇だったら、思い立って10年連れ添った幼馴染に告って玉砕した哀れな道化師(ピエロ)のことも3分クッキング感覚で助けることもできるよね。
つまり何が言いたいかって言うと、時間よ巻き戻れ!ってことかな?

「……おぅおぅ」

つい1時間前幼馴染に告って玉砕したピエロである俺は、自室のベッドで枕に顔を埋めて泣いていた。

いけると思ったのに……!
何か雰囲気的にいけると思ったのに……!

やっぱ雰囲気に任せちゃ駄目だよな。これ即ちアフターカーニボゥ(巻き舌で)
でもさ「今日親いないから……」って頬染めながら誘われて部屋行ったら「……えへへ、いっくん(僕のあだ名)がウチの部屋に来るの……久しぶりだね」ってベッドで二人並んで座りつつ言われたらさ……どこまでも行っちゃうでしょう!?
若さに任せて。雰囲気に委託したくなるじゃん! ルート分岐だと思っちゃうじゃん!

「……畜生、畜生め……!」

つーかあの幼馴染は一体何なんだよ……!
あの誘い方は絶対に「私達……幼馴染から次の段階に……すすもっか」とか「あの約束……覚えてる?」みたいな展開でしょうが!
何でちょっとヒいた顔で「……え、あ、いや、そんなつもりじゃなくて……いっくんのクラスメイトの斎藤君のこと聞きたかったんだけど……なんかゴメン」だよ!
そりゃ俺も謝るよ! 悪くないのに!

そんなわけで勘違いと失恋という最悪のコンボを決めた俺のライフポイントはとっくにゼロどころかマイナスに突入してこりゃもう堕ちるところまで堕ちてやろうか……フフフ。
手始めに斎藤君とやら(実は全く話したことない)に、幼馴染の悪評をこれでもかと流して……いや、やっぱ無理。だって好きだったんだもの……。10年間好きだったんだもの……。

ダークサイドに堕ちることもできないヘタレな俺は、ただ自室という聖域で泣くことしかできないのだった。
あー、もうこの心地のいい聖域で一生過ごそうかな……。
ニートになるには十分な理由じゃなイカ?
多分あの口の軽い幼馴染(そんな所も好きだった)のことだ、俺は若さ溢れ勘違い告白したことなんて、とっくにご町内に知れ渡ってるに違いない。
だって、それを証拠に妹からひたすら草生やしたメールが山ほど送られてくるんだもの。
ちなみに妹は隣の部屋にいるが、いわゆるネット弁慶の人なので、実際に突撃してくることはない。
こちらが何か動作を起こす度に身体をビクッと震わせる可愛らしい小動物系妹だ。

『ちょwwwwwwwおまwwwwwww兄者がフラれてメシがウマいwwwwwwwwww』

壁越し飛んでくるメールが追撃とばかりに、俺の心を抉ってくる。
今から部屋行って、想像もつかない様なセクハラ行為でもかましてやろうか……?
でも、実際あの小動物前にすると何もできないんだよな……可愛すぎて。

「……うぅ……もう寝よう」

取りあえずこの辛い現実から一刻も早く逃げたい俺が選んでのは、眠ることだった。
眠っている時だけは現実を忘れられる。
10年間ラヴィだった幼馴染に振られたことも忘れられる……多分。

今日一日ですっかり摩耗してしまった俺の精神は、それと深く繋がりある肉体を容易く眠らせた。
おやすみなさい。
目が覚めたら昨日に戻ってますように。それか世界が滅びてますように。もしくはD○GDAYSの世界に転生してますように。

俺は祈って眠りについた。



■■■




眠りについた瞬間、俺は目を覚ました。

「……は?」

理解が及ばない。
確かに深く身体が沈み込む、あの睡眠特有の感覚はあった。
自慢じゃないが、一度眠れば滅多なことじゃ目を覚まさない俺だ。
眠った瞬間に目を覚ますことなんてあるはずがない。

そして自分の周囲を見渡した時、これが夢だと気づいた。

白。

見渡す限りの白。

俺の視界は白に覆われていた。

別に○らぶるに有り勝ちなリトさん現象(パンツに顔突っ込むアレ)に巻き込まれたわけじゃない。つーか巻き込まれたい。
360°全てが白で塗りつぶされた空間にいるのだ。
普通こんな環境があれば、地面なんて分からずバランスを崩しそうなもんだが……ま、こりゃ夢だからね。
目が痛くなるような白一色の空間を見ていても、特に頭が痛くなったりはしない。
夢なんてのはこういうものだ。
羽が無いのに空を飛んでも、空気がないのに水の中をどこまでも泳げても……夢だから問題ない。

「しかし、妙にハッキリした夢だな……これ」

今まで見た夢の体験を思い出す。
現実ではありえない体験をし、どことなく視界には靄がかかったり、唐突に場面が飛んだり……今まで見た夢がそんな感じだ。

今見ている夢は違う。
夢を見ている時特有の、妙にフワフワした感覚がない。起きている時と同じ感覚だ。
視界に靄がかかったりもしないし、不自然に場面が飛ぶこともない。
だが……今まで体験したことがないだけで、こういう夢もあるのかもしれない。

それはそうと、現実逃避する為に眠ったのにこんなに意識がハッキリとした夢を見るのはどうなんだろう。
告白して玉砕したことも完全に覚えている。
え? なに? これって辛い現実に目を背けず受け入れろっていう神様の導き?
いや、導きはいいんすけど……受け入れるの無理っぽい……今すぐ自害したい……。

何で夢まで来て辛い現実に苛まれないといけないんだろう。
夢くらい好きに見させて下さいよ神様!

俺はどこぞにいるとも知れぬ神様を呪ったin夢の中。

「さて、と」

改めて周りを見る。
さきほどと変わらず、ただ白い空間が広がっているだけだ。
さっき白一色見てても精神に変調をきたさないって言ったけどやっぱ訂正。
ちょっと吐きそう。
原色一色の空間ってかなりキツい。
現実にこんな景色あるか分からないけど、実際あったらリバース祭り開催だな。

「とりあえず歩こうかな」

別に今すぐ頬を抓って現実に戻ってもいいけど、どうせ現実に戻っても妹からの煽りメール眺めるくらいだしな……。
だったら、このいつもとは違う夢の中を探索したい。
そうでもして気を紛らわせないと、玉砕したショックで衝動的に出家しちゃいそう。
ところでBOUSANとSUMOUってどっちが強いんだろう?
SUMOUのHARITEが強烈なのはもちろんだけど、BOUSANのOKYOUも防御無視の精神攻撃で痛烈だからな……。

ちょっと思考がおかしくなっているが、それもしょうがないだろう
なにせ歩いても歩いても何もない。
ただ白い空間が続いているだけだ。
かれこれ20分くらいは歩いているけど、本当に何の変化もない。

「夢ってその人の潜在的な欲求を示すとか聞くけどさ……こんな夢見る俺ってどうなの?」

俺の呟きに帰ってくる返事はない。
ただ白い空間に吸収されるかのように、霧散するだけだ。
徐々に虚しくなってきた。
そろそろ頬でも抓って起きようかな。

と、頬に手を伸ばした俺の目が、何かを捉えた。
遥か彼方、白い空間に黒い点を見つけたのだ。

代わり映えのない景色の唐突な変化に、俺の心は沸き立つ。

「よしっ、走るぜ!」

必殺技を叫ぶ気概で俺は走り出した。
目指すは白い地平線の先にある黒い点。

近づくにつれて黒い点は徐々に大きくなってくる。
大きくなるにつれて、その黒い点の正体が明らかになってきた。

黒い点の正体は、その、なんだろう。
よくテレビのコント番組とか部屋を半分に分割した、観客から見て丸見えの部屋があるじゃん。
それがあった。
玄関があって、四畳半の畳があって、中心には卓袱台があって、ダイヤル式のテレビがあって……全体的に昭和の匂いが色濃い部屋がそこにあった。
ヨシモ○みたいに俺から見て中が丸見えの部屋が。

「こ、これは一体……?」

どこまで続くか分からない広大な白い空間にポツリと存在する四畳半1/2。
これは一体なんなんだろうか。
俺の中の欲求ちゃんは、一体何ものなわけ?

10分ほど立ち尽くしていたが、考えても仕方がないので、取りあえず部屋に上がることにした。
何となく部屋には玄関から入ることにした。
丸見えな方から直接部屋に上がることもできだけど、何故かそうしてしまった。

部屋に上がり、卓袱台の前の座布団に座る。

「……ふぅ」

落ち着く。
夢の中だからだろうか、この異常な空間の中でも不思議と落ち着くことができた。
これでお茶でも出るば完璧なのに。
部屋の中には戸棚もある。
あの中を漁ればお茶やお菓子もあるかもしれないけど……何となく躊躇した。
自分の夢の中とはいえ、知らない部屋の中を漁るのに抵抗があったからだ。
俺って職業勇者じゃないし。

「……」

座ること10分。
落ち着くには落ち着くが、やはり何の変化もない。
やはり変わった夢だ。
普通、夢ってのは、息つくまもなく何かが起こり、気がついたら目を覚ましている……そんなもんじゃなかろうか。

「ふーふーふーん」

と、俺が自分の夢について考察していたら、部屋の外から鼻歌らしきものが聞こえてきた。

「んーんーんー、サナララー……ジャジャン!」

鼻歌らしき音は徐々に近づいてきて、『ジャジャン!』の部分で部屋の扉(引き戸)がガラガラと開かれた。
玄関に向かって座っていた俺の目に、扉を空けた何者かの姿が入ってくる。
少女、恐らくは俺と同じ歳くらいの少女であった。
俺は少女を見て思った。

――ああ、やっぱこれ夢だわ。

だって可愛すぎる。
ウチの妹に匹敵しうる可愛さだ。
腰まで届く髪も銀色でなんかキラキラ輝いてるし、着てる服は花柄の浴衣だし、胸の大きさも黄金比率(俺的に)だし……。
目元がちょっと眠たげなのもいいね。
とにかく100点中の120点の美少女!

そんな美少女が玄関で履いていたサンダルを脱いで部屋に上がり込んできたのだ。
まるで自分の部屋に上がるかの様に、気兼ねない感じで。

少女の視線は座布団に座る俺に向けられた。
俺と少女の視線が交差する。
少女はコクリと首を傾げた。

「……?」
「おっすおっす」

少女の無言に対し、軽快に挨拶をする。
少女は首を傾げながら部屋隅の冷蔵庫に向かい、冷蔵庫の扉を空けた。
中からお茶らしき物が入ったボトルを取り出し、卓袱台の上に置く。
次いで戸棚に向かい、ガラスのコップを取り出した。
取り出す瞬間、俺の方を振り返り

「……えーと、喉とか……渇いてます?」
「砂漠」
「そうですか」

少女は頷き、ガラスのコップを二つ取り出した。
そのまま卓袱台の上にコップを置き、俺の正面に座る。
少女の手でボトルから、お茶がコップへ注がれる。

「……まあ、どうぞ」
「どうも」

お言葉に甘えて飲み干す。
何故か田舎のお婆ちゃんの家で飲んだ麦茶の味がリフレインされた。
少女も俺が飲んだのを見届けたあと、片手でコップの底を支えながらお茶を飲み干す。
ゴクリと少女の喉が鳴った。
儚げな容姿とは裏腹に、少女はお茶を一気に飲み干す豪快さを見せてくれた。

「……」
「……」

卓袱台の上には空のコップが二つ。
そして卓袱台挟み座る俺と彼女。
改めて視線が交差する。

俺が少女へと言葉を投げかける瞬間、同時に少女の口も開いた。

「「で、誰ですか?」」

と。
それは至極真っ当な、この場に相応しい質問であった。

俺は思う。
目の前の少女は何者であろうか、と。
ここは俺の夢の中だ。
夢の中に出てくるとはつまり、彼女は俺自身の潜在的な欲求に含まれる存在なのか?
以下の公式を解け。

夢の中×美少女×欲求=?

これはもしかすると、幼馴染にフラれて傷ついた俺の心が、「ほら、美少女だよ? だから幼馴染のことなんか忘れて?」と気を遣ってくれてるのか?
だとしたら逆効果だ。
だってこれ夢だもん。
いくら美少女が目の前にいたって、これ夢だもん。
余計虚しくなるわ。

ただ、まあ……だからと言ってこの夢を否定するのもアレだよね。
折角俺の心が用意してくれた夢だ。
例え夢とはいえ、少しくらい楽しんでもいいのかもしれない。
よし。

俺は右手を差し出した。

「あの今だけでいいんで、彼女になってくれませんか?」
「……え、いや……無理、ですけど」

少女は「何言ってんだコイツ」みたいな頭パーマンを見る目を俺に向けた。
あれ? おかしくね? これ俺の夢だよね。何で夢の中の登場人物がいわゆる主人公である俺のことそんな目で見ちゃうわけ?
夢って都合のいいもんでしょ?
ここは「……ハイ。喜んで! じゃあ、お布団行きましょうか!」みたいなお手軽インスタント感覚でエロゲー夢展開になるんじゃないの?

俺はちょっと逆ギレ気味に声を発した。

「は? 何で無理なんですか?」
「いや、それは……いきなり全く知らない人に恋人になってとか言われても……普通は断りますよね?」
「まあ、普通は。じゃあ普通じゃないんで恋人になってください」
「普通じゃないって……何がですか? え? アナタの頭が、ですか?」

おかしいな……二度目のお誘いも断られたぞ。
この夢難易度高すぎね? 糞ドリかよ。KDTY(クソドリームオブザイヤー)に投票してやろうか?

少女は恐る恐るといった様子で俺に話しかけてきた。

「あのー、そもそもアナタ誰なんですか?」

これはおかしなことをおっしゃる。
俺の夢に出てくるキャラが、俺を誰かと問いかける。言ってやろうか? 俺はこの夢を生み出した神であると。
ただまあ、いくら夢の中とはいえ、自分が夢に出てくるキャラに過ぎないと知った彼女がショックを受けるかもしれないから、これは黙っておこう。

「俺か? 俺の名前は伊月。――恋に敗れた、哀れなピエロさ」
「はあ……。で、その哀れなピエロさんがどうして私の部屋に?」
「え? ここ君の部屋なん?」
「はい、そうですけど」

ああ、どおりで不審者に向ける類の視線を食らってるわけね。
自分の部屋に見知らぬ誰かがいたら、そりゃ警戒するわ。

でもどうなんだろう。
確かにこの部屋は彼女の部屋なんだろうけど、そもそもその部屋が存在する夢自体俺のもんなんだよね。
これってこの部屋も俺の物ってことになるんじゃなかろうか。
それとも夢の中とはいえ、所有権は彼女の物になるのか……。
うーん分からん。これはもう行列のできる相談事務所に相談するしかないな……。

「で、伊月さんとやら。どうしてアナタが私の部屋にいるんです? それもさも自分の部屋にいるかのようにリラックスして」
「え? 俺リラっちゃってる?」
「ええ、それはもう。かなりのリラリ具合ですね。休日のお父さんレベルの」

そりゃリラッてるな……。
俺ってそんなにくつろいでるかな?
いや、確かに靴下脱いで、あぐらかいて、もし好きな女の子がたまたまバスの隣に座った時に家に居候してる女の子(記憶喪失)から電話がかかってきたら、って妄想したりしてるけど……。

とりえあず正直に話そうか。

「あの、俺気づいたらここにいたんですよ」
「気づいたら……ああ、そういうことですか」

少女は納得いったと頷いた。
そして何故かこちらを憐れむかの様な表情を浮かべた。

「下の階層から迷い込んでしまったみたいですね。もっと防壁を強化すべきしたか……いや、あまり強化し過ぎると私が通る時に辛い、か」

少女は思案顔でブツブツと呟いた。
一体何なんだ? 階層とか防壁とか……同盟(ユニオン)が反逆(リベリオン)を起こして革命(クーデター)を起こし神器(ゴッドウェポン)を奪取したとか……む、後半俺の妄想ストーリーが混じったか。

「……はぁ」

少女は重く溜息を吐き、俺を見た。
何か伝えにくい言葉を伝えるような、そんな面持ちで。

「伊月さん。非常に言いにくいんですが、その……アナタは……お亡くなりになっています」
「は?」

少女の言葉は俺を混乱させた。
亡くなり? 死んでる? 何で夢の中のキャラが俺に死亡宣告しちゃってるわけ?
いや、生きてますけど。
辛いことはあったけど……俺は元気ですけど!

俺の「何言ってんだこの美少女」的な表情を見た少女は、やはりこちらを憐れむ様子で首を振った。

「確かに信じられないのは分かります。誰だっていきなり自分が死んでると言われても……信じることなんてできませんよね」
「そりゃ、ねえ。俺ちょっと訴えてやろうかと思ったもん。まあ、美少女だから訴えないけど」
「美少女、ですか。……フフ、ありがとうございます」

うっわ、なんだこの反応。
「美少女? ええ、まあ……言われ慣れてますけど」みたいな! 腹立つデース! バブーチャーン!
俺の全能力を開放して赤面させてやろうか? 「え、ええ!? そ、そんなこと言われたの……初めてです」とか言わせてやろうか!?
ただまあ俺の全能力を開放したところで、局部を露出させて赤面させるくらいしかできないんだが。

「信じられないかもしれませんが……ここにいる以上、アナタはお亡くなりになっているんです。思い出してみてください、ここに来る前の記憶を……」

ここに来る前の記憶、だと?
俺はこの夢を見る前、わずか数時間前の出来事を思い返した。

『えっとね、いっくんのことは好きだけど……付き合うのは無理かな? ほ、ほらもうウチら家族みたいなもんじゃん! 家族と付き合うのは、無理だよね?』

『そ、それでね斎藤君のことなんだけど……』

『斎藤君ってどんな女の子が好きなのかな?』

『そ、そのできたらでいいんだけど……斎藤君に、ウチのことそれとなく伝えてくれない? え? ホント! ありがとう! いっくんだーいすき! 家族として!』

『……お、お帰り。お、お兄ちゃん……ど、どうかしたの?』

『暗いwwwww顔が暗いwwwwww いつにも増して暗いよwwwww ブサメンが隠れていいけどなwwwwww』

『つーかお前オレのプリン喰ったろwwwwwwww許せんwwwwwwwwwww買ってこいやwwwwwww苺ライドオンしてるやつなwwwwww」

『無視wwwwをwwwwwwwするなwwwwwwww目付いてんだろうがwwwwwwお前はfusianaさんかwwwww』


「う、うぐぅぉぉぉぉ……!」

俺の脳裏を駆け回った辛いメモリーは、容易く俺の涙腺を決壊させた。
涙という名の悲しみが零れおちてくる。辛い! 今すぐ人生からログアウトしたーい!

涙を流しながら畳に突っ伏す俺の頭に、暖かな何かが乗った。
昔母親に怒られた時、お婆ちゃんが頭を撫でてくれた感触を思い出す。

見上げると慈愛の目でこちらを見つめてくる少女が、俺の頭に手を乗せていた。

「辛かった、ですよね。もういいんですよ。辛いことは……全部終わりました。もうアナタを傷つけるものはいませんよ」

俺は思った。
天使がいる。天使はいたんだ。どこでもない、俺たちの夢の中に!

少女が頭を撫でるつれて、俺の心は浄化されていった。
確かに辛い。現実は辛いことばかりだ。
それでも生きていける気がした。
少女が向けてくる愛は、俺の心を容易く癒した。

「俺、もう大丈夫だ」
「そうですか」
「ありがとう、名前も知らない誰か……」
「どういたしまして。次の人生では、もっと幸せになって下さい。誰よりも、ずっと幸せに」

両の手を組み、祈る様に呟く少女。
少女の言葉に偽りは感じられず、心の底から出た真実の言葉だった。そう思った。
彼女は見ず知らずの誰かの幸せを心から願っている。
まさに天使だった。

「じゃあ、俺、行くよ」

もう俺は大丈夫だった。
幼馴染にフラれて近所の好奇の視線に晒される日常も。
妹からの嘲笑メールも。
全て受け入れて次に進んでいける。

「では、行きましょうか。願わくば次のアナタの人生が幸せでありますように」

少女が手を差し出した。
が、俺は首を横に振る。
彼女の手を煩わせるのは忍びない。

「俺、自分で帰るよ」
「……え? い、いや帰るって……どこに?」
「えーと、現実?」

そう現実だ。ここは夢の世界。
夢の中の彼女とはお別れだ。寂しいけど。

少女の慈愛の表情の中に、困惑と哀れみの表情が交じる。

「あ、あの……ですから、アナタは亡くなっていて、私は次の人生にアナタを……」
「ハハハ」
「何で笑ってるんですか!?」
「いや、もう俺大丈夫ですから。心配ないです」
「大丈夫とか大丈夫じゃないとかじゃなくて……次の人生に行くには私と……」
「だから大丈夫だって。俺一人で帰れるし。子供じゃないんだしさ」
「あの私の話聞いてました? アナタ死んでるんですよ? 帰る場所なんて……ないんですよ?」

同情を浮かべたまま、こちらを気遣うように行ってくる天使ちゃん。
流石にちょっと構いすぎじゃなかろうか。

俺は再び首を横に振った。

「もうさ、俺一人で帰れるから大丈夫だって。えーと……夢子ちゃん?」
「誰が夢子ちゃんですか!? 人にセンスの無い名前を勝手につけないで下さい!」
「夢山夢子ちゃん。趣味は昼寝」
「合ってますけど! 趣味は合ってますけど!」
「特技は夢占い。得意奥義は夢想転生。カラオケの18番は夢で終わらせない」
「人のパーソナルデータを勝手に設定しないで下さい!

俺の夢の中のキャラなのに文句が多いな。
夢製作者(チョサクケンシャ)の俺にかかれば、夢枕獏が愛読書のドリ子ちゃんって設定にすることもできるんだぜ?

「じゃ、もう帰るから。そろそろゆるめいつ始まる時間だし」
「い、いやいや! ですから! 帰れないんですって! どうやって帰る気ですか!? あんまり神舐めてたら怒りますよ!?」

卓袱台を叩いて訴えてくる夢子ちゃん。
衝撃で倒れたコップを慌てて立てる様子が可愛い。

俺は頬を抓った。
古今東西、夢から覚める方法はこれが一番だ。

自慢の餅肌を抓り、間もなく俺の身体はうっすらと透け始めた。

「ちょっ!? は、はぁ!? き、消えっ……はぁ!?」

驚愕に顔を歪める夢子ちゃんに、俺は手を振った。
ありがとう夢子ちゃん。
多分もう会うことは無いだろうけど。同じ夢なんてそうそう見ることもない。
君のおかげで俺は立ち直ったよ。
神々しいまでの慈愛を持った君、俺は二度と忘れないよ。

「ま、待ってください! 勝手に消えっ、ていうか何で消えてるんですか!? トリックですか!? プ、プラズマ!? て、天狗の仕業なんですか!?」

最後に俺の目に映ったのは、よくわからないことを叫びながらあたふたする夢子ちゃんであった。
そして俺は目を覚ます。


■■■



清々しい目覚めだった。
ベッドから跳ね起き、カーテンを開ける。
外はどっぷり闇に染まっていた。
夕方から随分と眠ったらしい。

「ハハハッ」

俺の心は外の闇と反比例するかのように、晴天の如く晴れ渡っていた。
もう大丈夫。
大丈夫だよ夢子ちゃん、俺、これからも頑張っていくから。
落ち込んでいた昨日の俺とはサヨナラ!
新しい俺、デビュー!

よーし、じゃあ早速携帯のメールボックスに溜まった妹からの煽りメールに返信するか!
取りあえず最新メールの『もしお前が結婚できなかったら……あたしが結婚してヤンヨ! 嘘ですwwwwwコニャニャチワwwwww意味分かんねえwwwwwこれが深夜テンションかwwwww』に対する文章を打ち始めた。

ずっと先、ふと俺はこの日の夢を思い出すかもしれない。
不思議な女の子に会った夢を。
その時、「大丈夫だったよ、夢子ちゃん」そう言えるようになりたい。
そんな人生を歩みたい。

俺はまだ見ぬその日を夢想して、生きていく。




この日からずっと、夢子ちゃんが出る夢を見ることになった。


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