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No.34561の一覧
[0] (IS)インフィニット・イクサス 狂人が夢見た漆黒の無限[九束](2012/10/21 21:40)
[1] 1.混ざる[九束](2012/08/13 01:06)
[2] 2.侵食[九束](2012/08/18 20:54)
[3] 3.残業[九束](2012/08/13 01:04)
[4] 4.ブリュンヒルデとドイツの冷氷[九束](2012/09/10 22:42)
[5] 5.敵意と[九束](2012/08/15 13:56)
[6] 6.困惑と[九束](2012/08/19 12:38)
[7] 7.そして好意[九束](2012/08/19 12:46)
[8] 8.グスコーブドリ[九束](2012/08/25 21:18)
[9] 9.勧誘[九束](2012/09/09 12:54)
[10] 10.門戸と襲撃[九束](2012/09/22 19:42)
[11] 11.入獄または入学[九束](2012/10/12 22:07)
[12] 12.デュノア時々たらし後シャルル[九束](2012/10/21 14:18)
[13] 13.シャルロット・デユノアという女[九束](2012/10/21 21:51)
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[34561] 6.困惑と
Name: 九束◆a9ba9ff2 ID:72ee2259 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/19 12:38
弟が目の前を歩いている。
研究所の廊下をカツカツと大足で。
白衣をはためかせて。
そして、心底からの怒りをあらわにして。

その後ろを私はまるで弟の副官か秘書かのように、一歩引いて歩いている。
私の心にも怒りが灯っている。
そしてソレを上回る困惑が心を漂っている。

「千冬姉。ここの所長と、彼女たちの上官は?」
歩きながら一夏が聞いてくる。
「所長室で待たせている」
1時間前、VTシステムの無効化作業に入るときに1時間以内に来いと奴らを呼びつけるように言ったのは一夏だ。
有無を言わさない、問答無用で。
「…上官は誰が来た?」
「せ、戦力基盤軍総監だ」
「そう」
言って、一方的に会話を切る一夏。
私はその態度に抗議の声を上げることさえできない。
どうすればいいかも、分からない。

淡々とVTシステムが入っていること、ソレがどういう影響をおよぼすのかを説明し、ソレを取り除くと言い放った。
隊員に一時待機を命令し、研究員に作業の指示を行った。
私に、責任者を呼びつけるように言った。
VTシステムを見つけたと言い放ったあの時から今まで1時間、一夏の言葉に私は逆らえない。

「所長室はそこ?」
「あ、あぁ。その木のドアだ」
「ISを部分展開して切り捨てて」
「なんでそんなこ―――――」
「そうやって入ったほうが、『俺と千冬姉がどれだけ怒っているか』が相手に伝わる」
「…」
雪片を展開し、木製の扉に振り下ろす。
ガアアアアアンと派手な音を立てて、トアが『消えた』。









織斑教官も、憤怒に染まったときはあのような雰囲気をまとうのだろうか?
VTシステムの無効化処置を終え、朦朧とする意識の中で織斑一夏を見て思った第一の感想はそれだった。
織斑一夏…織斑博士への敵意は1時間前、別の衝撃と共に吹き飛んでいた。
その衝撃は、私の身体と私のISにVTシステムが組み込まれていたと博士から聞いた時だ。

ヴァルキリー・トレース・システム。
過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、アラスカ条約で現在いかなる国家・組織においても研究・開発・使用全てが禁止されているISという世界において禁忌とも言えるシステム。

ソレが私の中にあると、博士は言った。

淡々と、ひたすら淡々と博士は説明した。
検査の結果、私の身体にあるナノマシンと私のISにVTシステムが仕込まれていると。
そのシステムは現在有効な状態になっており、一歩間違えば試験中にも稼働する危険がったこと。
そのVTシステムは博士が設計者から譲り受けたプログラムによって除外が可能だと。

途中の詳しい説明はほとんど覚えていない。
その時の私は…

私の成果が私のものではなく、すべてVTシステムによるのものではないか?

そういう思いに囚われかけていた。
しかしそんな私に、同じく淡々とした口調でこう言った。
「VTシステムは厳密に使用が禁止されている。特に、外部に公開する公式な試合ではVTシステムであることを隠しつつVTシステムを利用して試合を行うことなんてのは、探した学術論文の範囲では少なくともありえない。安心しろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前の身体の中に何が仕込まれていたかの如何を問わず『お前の成果もお前の能力もお前自身のもの』なんだ」
心臓が止まりそうになった。
淡々と無表情に博士は言った。
だが、私はその博士の後ろに、微笑みかける織斑教官を見たのだ。
もちろん、実際に教官がそこにいたわけではない。
その時教官は私達の上官を呼びつけに行っていたのだから。
だから、私の幻影だ。
でも、はっきりと見えた。
よく頑張ったなと、本で見た『子を褒める母親』の様な、そんな顔をしている教官が見えたのだ。
博士から憤怒の感情を感じたのは同時だ。

私からVTシステムを取り除くために説明する博士。
そして、VTシステムを除去してから、織斑教官とを引き連れて所長室に向かう博士。
そのには、私に向けられたと考えると震えてしまいそうな、確かな憤怒があった。

今に戻る。
憤怒を抱えたまま、廊下に消えていく博士。
もし、アレが自分に向けられると考えると怖いと思う。
でも、何故だろうか。
彼が憤怒を抱えていることそのものは怖くない。
むしろ…嬉しい。
何故だ?
分からない。
クラリッサならばわかるだろうか?
部隊の最年長にして、私の副官が頭に浮かぶ。
「…私は、勘違いをしていたようです」
近くでクラリッサの声がする。
見ると、私の真横にクラリッサは居た。
「正直、見直しました」
「見なおした…誰の、何を、だ?」
クラリッサに問う。
「織斑博士です。織斑教官にそっくりの、優しい方ではないですか」
クラリッサの織斑博士への評価が180度変化している。
「優しい…?」
「彼は…私達をきちんとヒトとして見ている。でなければ、あんなに怒ったりはしません」
そうなのだろうか?
織斑一夏。
お前は…。
『私』をきちんと見ていたのか…?

博士はここに居ないからその返答は返ってくるわけがない。
ただ、タイミングよく部屋の外から『ガアン』と、鈍い音が聞こえた。









私達が一歩部屋に入った途端、部屋の中にいた壮年の男女はビクリと肩を震わせた。
総監は女性の方だ。
「時間前にはきちんといたんだな」
一夏が言う。
それに反応するように総監が一夏の前に歩み出る。
それに対して、片手を差し出す一夏。
その手をがっしりつかむ総監。
「織斑博士!お会いできて光栄です!私はドイツ戦力基―――」
「いいから。別にお前の名前なんて聞きたくないしどうでもいい。俺の質問に答えろ」
冷たく突き放す一夏。
それは『他人』に接する束にそっくりだった。
表情を歪ませる総監。
「それで…私達を呼びつける内容はどんな内容なんです?私も暇ではないのですが」
若干敵意が出ている総監の問い。
それに一夏は
「俺も同じだよ。時間が惜しいから単刀直入に聞く」
ポインターを出して、ホログラムディスプレイに例のものを写す。
そして切り出した。
「試験の段階でVTシステムがラウラ・ボーデヴィッヒのナノマシンとISに搭載されている事が確認された。どういうことだ?」
「ぶ、VTシステム!?」
所長が驚きの声を上げる。
「ラウラのVTシステムは無効化した。その間に他の隊員も調べたらそいつらにも同じようにVTシステムが組み込まれてた」
「そ、そんなバカな!」
驚愕の声を上げる総監。
その反応は本当に知らなかったかのようだ。
しかし、知っていたか知っていなかったかは一夏にとってはどうでも良かったらしい。
「俺はお前の反応なんて聞いてねえんだよババア。証拠は今見せた。何ならデータを持ってってもいい。分かったなら」
「分かったなら、何なのかしら博士」
「48時間以内にあの子たちにこんなことをしたクズどもを始末して書類上げてこい。行動は今すぐにだ。返答は『Да』か『Ja』だ」
吐き捨てるように一夏はそういった。
「ま、まってください博士!貴方に一体何の権限があって―――」
その言葉に総監はとっさに反論してくる。
その言葉に後ろで黙っていた私の頭に血がのぼる。
何の権限があって?
総今こいつはそう言ったのか!?
権限があればこんなことをしていいと言っているのかコイツは!!
『私の』!
この織斑千冬の教え子たちはお前にとってはそんな―――!!
手が出そうになる。
「そ――――」
が、
「ドイツ連邦軍戦力基盤軍総監」
それも一夏が邪魔をした。
目の前のババアの役職をフルで言う一夏。
「な、なんだい」
「日本政府がオレをレンタルビデオ扱いにしてて軽く扱ってるんだろうけどね。俺が束さんより厄介じゃないじゃないと思ったら大間違いだよ」
「じゃあどうするんだい?坊ちゃん?」
「…ヴォーダン・オージェって、一般人に投与したらどうなるんだろうね」
「エ?…なに、をっ!!?!?あがああああああああああああああああ!?」
「ちょっと握手した時に投与てみました。最新式のナノ注射器はスゴイよね。刺したことさえわからないんだから。あと、今の痛みは身体の拒否反応だから、死ぬかもしれないけど痛いだけだから安心するといいよ。アハハ」
ケラケラと笑いながら言う一夏に少し引く。
「しかし、美少女が悶えているならともかく、ババアの七転八倒見ても面白く無いなあ。帰ろうかなあ。えーと、このボタンだっけ?」
ディスプレイをいじり、少しするとのたうちまわっていた総監の動きが収まる。
「がはっ!ごほっ!げほっ!」
動きが収まった総監がむせ始める。
「じゃ、後始末をよろしく。24時間でこっちに報告が来なかったら再発します。多分アンタの歳だと死ぬんじゃないかな。まあ、頑張って」
「ま、待――――」
「しらねえよ。千冬姉の守る対象にそんなもんを埋め込んだ奴がいる。ソレを見逃してただけで重罪だ。そもそもアレが試験中に作動したらアンタらオレに後始末押し付けただろうが間違いなく」
吐き捨ててそのまま部屋を出ていく一夏。
付いて行こうとするが、私は身体が固まって動けなかった。
理由は一夏が怒っていた理由を理解したせい。
一夏は…。
「私の、守りたい者たちが害されそうになっているのを怒っていたのか」


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