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No.34561の一覧
[0] (IS)インフィニット・イクサス 狂人が夢見た漆黒の無限[九束](2012/10/21 21:40)
[1] 1.混ざる[九束](2012/08/13 01:06)
[2] 2.侵食[九束](2012/08/18 20:54)
[3] 3.残業[九束](2012/08/13 01:04)
[4] 4.ブリュンヒルデとドイツの冷氷[九束](2012/09/10 22:42)
[5] 5.敵意と[九束](2012/08/15 13:56)
[6] 6.困惑と[九束](2012/08/19 12:38)
[7] 7.そして好意[九束](2012/08/19 12:46)
[8] 8.グスコーブドリ[九束](2012/08/25 21:18)
[9] 9.勧誘[九束](2012/09/09 12:54)
[10] 10.門戸と襲撃[九束](2012/09/22 19:42)
[11] 11.入獄または入学[九束](2012/10/12 22:07)
[12] 12.デュノア時々たらし後シャルル[九束](2012/10/21 14:18)
[13] 13.シャルロット・デユノアという女[九束](2012/10/21 21:51)
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[34561] 4.ブリュンヒルデとドイツの冷氷
Name: 九束◆a9ba9ff2 ID:7f3fcfb8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/10 22:42
私は守れなかった。
何を?
かけがえのない大切な人を。
何故?
決まっている、慢心だ。

当時の私は今思うと恥ずかしいほどに有頂天だった。
政府でさえ無視できない地位と名声、自分の身内くらいならばお金の苦労なく養える富、初めて自分の足で、誰にも頼らずに自分の大切なモノを守ることが出来るようになり、有頂天だった。
まるで自分が全能の様な気分、おそらくアイツ…束もそういう気分だったのだろう。
だが、私は束よりもずっと一人で生きていく力なんてなかった。
その証拠があのザマだ。
私は守れなかった。
最愛の弟を、たった一人の家族を。
死んだわけではない。
何かの障害を負ったわけではない。
それどころか一夏は誘拐後、その才能を開花した。
あとで知ったことだが、一夏は事故のあと、束のように世界の今を否定するように世界の時計を数年…いや、数十年はすすめる発明をし、人類を進歩させている。
アイツに比べれば私のしていることなど児戯にすぎない。
そういう意味ではあの誘拐事件は世界にとってはプラスだろう。
だが、私にはそうではない。
…あの日以来、一夏が怖いのだ。
一夏はあの日以来変わった。
ずっと空を見るようになった。
悲しい顔をするようになった。
まるで織姫と引き離された彦星のように。悲しそうに空を見る。
そして、私を見る目が、冷たい。
あの時からだ。
ドイツ軍からの提供された情報で一夏が監禁されている倉庫を特定し、扉をこじ開けて、中にいる一夏がこちらを見たそのとき。
一夏の目を見て私はゾッとした。
視線は私に向いている。
だが、一夏は私を見ていなかった。
はじめは誘拐が原因の一時的なものだと思った。
だが、日が経ち、表面上は元通りになってもアイツの目は変わらなかった。
軽蔑の目ではない。嫌悪の目でもない。
ただただ何もない。
束が『他人』を見る時の目にそっくりだった。
違うのは表情が家族を見る時のそれだった事。
だが、私はその目を見て気づいてしまった。
私は、私は一夏を守れなかったのだ。
あの日、一夏を壊してしまった。
今思うと変質してしまったの間違いであろうが一夏の平穏を乱してしまったのは間違いない。

それを理解してしまった私は、一夏から逃げた。

情報提供の見返りにIS特殊部隊の教官への打診は私にとっては僥倖だった。
私は一も二もなくその打診を快諾し、一夏から逃げた。
怖かったのだ。
壊れた一夏を見るのが。
怖かったのだ。
自らの手から大切なものがこぼれ落ちたと知るのが。
私は卑怯者だ。
そんな私が人を教える資格があるはずはない。
そう思いながら私はドイツに渡った。
しかし私の公開は幸運なことに別の感情で塗り替えられる。
聞けば、私の教える部隊は身寄りのない娘や試験管ベイビーを集めた特殊部隊という、
私はここで失敗しても後があるが、彼女たちには後が無い。
彼女たちの最後の希望は私の教育で這い上がるしか無い。
資格があるないの話ではない。
彼女たちを引き上げなければならない。
私はこの部隊に配属された瞬間、彼女たちの人生を背負った。
何重にもドイツ軍には感謝をしなければならない。
私は彼女たちを育てるのに没頭した。
それだけに集中した。
守れなかったから。彼女たちだけは見捨てない。
そう思った。
「欺瞞だな…」
誰もいない廊下。会いたくない人。愛しい家族がいる所への廊下で自嘲する。
彼女たちを引き上げる?
見捨てない?
っは!この偽善者が!
そんなものじゃない!
私は私は!!
「私は…一夏を忘れたかったのだ…」
あの娘達を一夏の代わりにしたんんだ…。
なんという恥しらず!
なんという性悪女だ!!
その上、その上…!!!
「一夏がすぐ側にいたら会いたくなるなどと…」
度し難い。
どの面を下げてお前はアイツに会うのだ!
心の中の私は私を罵る。
だが、
「仕方がないじゃないか…」
後悔は海よりも深い。
罪悪感は山よりも高い。
だけど…
「どうしようもなく会いたいんだ…」
私の拠り所はアイツしか居ない。
たった一人の家族。
それは私にとってなによりも優先して、剥がせることのないものだった。
怖い。
どうしようもなく怖い。
でも、
「会いたいんだ…」
人の居ない袋小路に行って座り込む。
音が出ないように嗚咽を抑える。
アイツにこんな姿を見せる訳にはいかない。
肩を抱き必死に震えを抑える。
少しの時間。
何分だろうか?…5分か。
ティッシュで涙を拭き、アリスガワの目薬をさして、ファンデーションで腫れかけた瞼を隠す。
「…よし。行くか」
声に出して、私は任務と愛しい弟との逢瀬のために目的の場所に向かった。







『遺伝子強化試験体C-0037』
『君の新たな識別記号は「ラウラ・ボーデヴィッヒ」』
私はただ戦いのためだけに作られ…いや、生まれ、育てられ、鍛えられた。
東ドイツの尤も希有な資産。20XX年に崩壊し、西ドイツに吸収された時、軍上層部は私のことをそう評した。
私は優秀だった。
最高レベルを維持し続けた。
だがそれは、世界最強の『兵器』ISの登場までだった。
直ちに私にも、適合性向上を目的とした右視神経へのナノマシンの移植がされた。
だが、私の身体はそのナノマシンを制御することができなかった。
結果、ISに乗ったの私の成績は最低レベルに留まり…出来損ないの烙印を押された。
明日にも除隊、そして行先は廃棄か軍の慰安施設か。
私に残されているのはそんな、屈辱的で耐え難い、惨めな未来だけだった。
しかし、その末路は一変する。
あの人…世界最強のIS操縦者―――織斑千冬教官に出会ったのだ。
彼女は極めて有能な教官だった。
私はIS専門の、しかも落ちこぼれと言われた部隊の中で、再び力を手に入れた。
部隊の中で勝つのは簡単だった、織斑教官の指導を真摯に受け入れ、自分ありの道を見つけ、そして強くなればいい。
そうしているうちに、織斑教官に訓練を受けて3ヶ月。
私は、ドイツ軍のエースパイロットまで上り詰めていた。
そして私の『シュヴァルツェ・ハーゼ』も。
私の部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』は織斑教官が着任してから4ヶ月後の軍事演習、NATO軍合同軍事演習トナーメントで各国を破り作戦成功率1位を獲得した。
全ては織斑教官のおかげだ。
貴方のおかげで私は…。
私は今でも生きている。
織斑教官は私の恩人だ。
命の恩人だ。人生の恩人だ。
感謝しきれてもしきれない。
私も、いつか、貴方のようになりたい。
そう、思った。


あるとき、私は尋ねた。
「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」
私の心からの質問だった。
「強くなんか無いさ。強くなんか無い。どうしようもなく、私は弱い」
「馬鹿な!折村教官が弱いなど!教官は誰よりも強くて、凛々しくて…」
「そうじゃない。ボーデヴィッヒ。そうじゃあないんだ」
「ならなんなのです!?ならなぜ弱いなどと…」
「試合で誰かに勝ったから強い。強さとは、そういうのか?ボーデヴィッヒ」
「当たり前ではないですか教官!強さを示すものなのどそれ以外に…」
「そうか。誰かに勝てば強いか。ボーデヴィッヒ。一ついい事を教えてやる」
「何でしょうか。教官」
「試合に勝てることが強いというならば、強くても何も得ることなどできん」
「…な!?」
「そしてお前のいう強さというのは、弱い」
「ですが…」
「お前のいう基準では、たしかに私は強いのだろう。だが、その強さは私が本当に欲しかったものを何も…守ることができなかった。そんな私が強い?そんな訳がない」
「…!!!!」
反論しようとする。しようとするが、声が出ない。
声を出せない原因は目の前の織斑教官だ。
どうしようもなく悲しい顔をしていたのだ。
そんな、織斑教官に『ありえない』顔に私は絶句してしまったのだ。
「ボーデヴィッヒ。私はな。守れなかった」
教官が再び言う。
「何をですか。教官」
「大切なヒトを」
「大切な…ヒト」
「死んでいるわけではない。傷ついたわけではない。だけど…私は守れなかった…弟を…」
「…」
「だから、私は弱い」
織斑教官は悲しそうに自嘲する。

…何故ですか、教官。
私が憧れる貴方は、強く凛々しく、堂々としているのに。
貴女は私を導く光のはずなのに。
貴女になりたくて!
貴女のように輝かしい存在になりたくてただひたすらになったのに!
なんで私の目標である貴女はそんなにも!
どうしてそんなにも悲しそうな顔をするのですか!!
私ではダメなのですか教官!
私ならば、私ならば貴女をそんな顔にさせません!
私ならば、貴女の期待に答えてみせる!
期待を裏切ったしなんてしない!!
だから!だから私を見て下さい教官!
声は届かない。
声にならずに消えて霧散する。
どす黒い感情が身体を覆う。

何故、貴女…そんな貴女を煩わせるモノに惑わされるのですか。
何故、貴女は私を見てくれないのですか。

憎い。
あの男が憎い!!

貴女をそんな風に変えるあの男が憎い。
「認めない」
一人の部屋で小さくつぶやく。

排除できるものならば排除したい。
だが…それは…。
織斑教官にも類が及ぶ。

しかし…いや…どうすれば…。

そうしこうが堂々巡りになりかけていたところで、
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。いるか?」
織斑教官の声がドアの外から聞こえた。


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