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No.34561の一覧
[0] (IS)インフィニット・イクサス 狂人が夢見た漆黒の無限[九束](2012/10/21 21:40)
[1] 1.混ざる[九束](2012/08/13 01:06)
[2] 2.侵食[九束](2012/08/18 20:54)
[3] 3.残業[九束](2012/08/13 01:04)
[4] 4.ブリュンヒルデとドイツの冷氷[九束](2012/09/10 22:42)
[5] 5.敵意と[九束](2012/08/15 13:56)
[6] 6.困惑と[九束](2012/08/19 12:38)
[7] 7.そして好意[九束](2012/08/19 12:46)
[8] 8.グスコーブドリ[九束](2012/08/25 21:18)
[9] 9.勧誘[九束](2012/09/09 12:54)
[10] 10.門戸と襲撃[九束](2012/09/22 19:42)
[11] 11.入獄または入学[九束](2012/10/12 22:07)
[12] 12.デュノア時々たらし後シャルル[九束](2012/10/21 14:18)
[13] 13.シャルロット・デユノアという女[九束](2012/10/21 21:51)
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[34561] 1.混ざる
Name: 九束◆a9ba9ff2 ID:7f3fcfb8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/13 01:06
月が綺麗な夜だった。
普段、気にすることすらなかったその明かりは、屋根に空いた隙間から煌々とこの室内を照らす。
ようやく暖かくなってくる季節ながらもまだ肌寒い室内の僅かな温かみに少し和む。
まあ、和む状況じゃあないけれども。
鉄骨の柱に括りつけられ両手両足を縛られている状況は和む状況じゃ絶対にない。
だけど、それさえ薄れるほどに強烈な何か。
心臓の鼓動が少しずつ早くなる。
それにしても綺麗なものだ。
普段は見ない夜の空をじっくり見る機会を得ただけでも、少しは誘拐犯を許そうという気分になる。
ほんとうに綺麗だ。
そして思う。
「あそこに…行きたいなあ」
口が勝手に動く。
…どこに?
「…」

『宇宙に』
…宇宙に?

確かに、そうだなあ。
あの広い空を征服して、人が行ける限界まで行って。
ライト兄弟が切り開いたように。
フォン・ブラウンとコロリョフが切り開いたように。
グスコーブドリがその命をかけて人のために生きる道を切り開いたように。
「俺も…オレのエンジンで人を幸せにしたいなぁ」
宇宙、愛しい宇宙。
人の次の住処。
屋根の隙間の月に手を伸ばそうとする。
縛られてるから出来るわけがない。
まるで今の人類のようじゃないか。
「近いけど、遠いなあ…」
だが人は一度足を踏み入れた。
そう、たった一度だけ。
だが、それだけじゃあ満足できない。
人は飛躍する。
富を手にするために。夢を手にするために。
その為ならばなんでもできる。
ひとの命だろうと自分の命だろうと。ベットするのを戸惑わない。
何かに頭が満たされる。
なんだろう?
分からない。
わかるのは一つだけ。
「いい、夜だ」
それに、いい夜だ。
「陸に降りるのは何年ぶりだろうなぁ…」
陸?
…今オレの口は陸って言ったのか?
じゃあ今までオレは…
「どこにいたんだ?」
そう口にした時、唐突に面前の倉庫扉が歪む。
メキメキめきと音をたてながら東風開けられた扉から光が漏れる。
なんだ、眩しいなあ。
そう思いながらも目を細めて視線は前。

扉の隙間からぬうっと姿を表したのは装甲…いや、ISに身を包んだ女性。
見覚えのある女性。
厳しい表情をしていた彼女はオレを見つけてその顔が安堵に変化する。

「イチカ!!無事か!!」
そしてそのまま駆け寄ってくる。
その後に続くように次々に黒い人影。SWAT?
彼女に抱きしめられながら、ひとつの疑問。

イチカ?

…誰だそれは。

聞き覚えのある名前だ。
身体が覚えている名前だ。

イチ…夏…?

一…カ?

そんなオレの様子を何か危険な状態と勘違いしたのか彼女の表情に焦りが見える。
「一夏!一夏!!しっかりしろ一夏!!直ぐに病院に運ぶ!もう大丈夫だ!!」

必死さの滲み出る表情で、彼女は俺の肩に手を回す。
うるさいなあ。
こちとら数年以上月面にいたんだ。
地球の重力は重たいんだよ。
というか変な人だな。救助隊にしては少し感情的すぎる。
まるで身内がひどい状態になっているようなそんな感じ。
あぁ何だチフユネエ。そんな顔をして。
俺は大丈夫。無事だよ。
なんだ、意外に弟思いなんだな。

弟?

…。

「…あぁ、そうか…」

オレの名前か、イチカっていうのは。
担架に乗せられながらその名前が自分だと理解する。
目の前には赤いライトを回す救急車と心配そうな千冬姉。
そんな顔をするなよ。
俺の身体は大丈夫。

オレが誰かは…落ち着くまで待ってくれ。
救急車の天井をボーっと見る。
横にいる白い上着を着た人が話しかけてくる。
「意識はありますかー?」
「…………はい」
少し朦朧とするだけです。
「そうですか。では貴方のお名前は?いえますか?」
「…」
名前…?
「お名前ですよ。ご自分のお名前を言えますか?」
オレの名前は…。
「…ヤ―ガ――」
「はい?」
「シン・ヤマガタ―――――」
声にすると同時に、意識が落ちた。









ゴゴゴという地響きと共に、建物を支える鉄骨が目の前に落ちてくる。
同僚はことごとく床に転がるか、落ちてきた柱に挟まれている。
非常灯が管制室を照らし、レッドアラートが鳴り響いている。
うめき声が本当ならば聞こえるのだろうが、アラートがかき消していた。
エンジンを制御する制御室はすでに天国へと旅立ち、安全装置はすでに消滅していた。
暴発して月面に汚い花火を打ち上げるのも時間の問題だろう。
デブリ屋の皆さんにはさぞ恨まれるだろう。
「…っは、はははは、今さら何を!」
解っていた事ではあった。
本来、構造的に暴走しようの無い核融合炉を、その出力を上げる事と引き換えに暴走し得る様に設計したのは他ならぬオレである。
その結果が予想できなかったわけが無い。いや、予想できていた。
予想した上で、あえて実行した。
すべては目的のため。
これが完成すれば人類の行動範囲は飛躍する。
人類の飛躍と研究員365人の命、天秤にかけるまでもないだろう。
人はいつか死ぬ。
それが速いか遅いか。それだけの違いだ。
そしてその間にいかに何を生み出せるかだ。
ここの研究員は十分に生み出した。
欲を言えばもっとできるが、天秤にかけた結果、今の結果がつりあわないものではない。
かつて錬金術師が言った等価交換の原則で言えば、十分に対価は得ている。
腹部に手をのせる。
ニチャっとした不快な感覚と共に手が汚れた。
部屋の明かりが赤くて色はわからないが、自分の血液だと言うことは直感的にわかった。
ここはもうダメだろう。
オレも、もうダメだろう。
さて、最後の一仕事だ。
「っ…ぐぉ…」
あちこちで不具合に悲鳴を上げる身体。
「…おおぉぉぉおおおぉぉぉぉおお!!!!」
それを無視して、机の上の衛星通信機をつかみ、データの転送を行う。
目の前に落ちていた鏡から見える自分の顔は血まみれで、生きているのが不思議なくらいだ。
「っは…うぐっ…はぁ…はぁ…」
送信モードのダイヤグラムが正常にデータを送る、
これで大丈夫。
これで実験は『成功』だ。
あぁ、めまいがする。
あぁ、見たかったなあ。
木星循環船―――――。


フォン・ブラウン号


まあ、いい船に…仕上がるだろうから…
…満足では、あ…る―――――


「―――――」
チチチとススメが外で鳴く中、酷い違和感の中で視界が朝日にゆがむ。
ついさっきまで全身にあったはずの痛みはなく、赤い非常灯の明かりが見えていた視界には穏やかな朝日が見える。
チチチという鳥の声がそれを助長する。
「ひどい寝汗だ」
全身がべっとりと汗を書いていて、パジャマが肌に張り付いている。
入院して今日で5日目。
5日連続の悪夢。
「今日も最悪な目覚めだ」
そりゃあ悪夢だ。
あんな今際の際。
リアルな今際の際。
余程の悪夢だ。
「夢、か…」
呟いて夢を思い出す。
アレはホントの夢なのだろうか?
オレはそう考えた時、夢だと断言できない。
全てはあの日から。
誘拐され、助け出される直前のあの夜。
空を見上げて感じた愉悦から。
オレは俺なのかが自信がない。
「俺は…だれだ…?」
誰も答えてくれない問を小さくつぶやく。
ひらめきや気づきの瞬間に「あっ!」と感じる体験をアハ体験という。
脳の元からあゆ情報を総括して、その眼の前の情報を理解することだ。
なら、自分が知らないはずの記憶が流れてきて、それに納得してしまうことはなんというのだろう?
情報と執着とが一緒に浮き上がり、どうしてもそれをせずには居られないのはなんというのだろう?
そして、その流れてきた記憶と俺が俺だと思っている記憶。
どちらが正しいかを分けるのは、何なのだろう?

あの事故以来、自信がない。

分からない。
今あるのは、空を見た時の胸の高まり。
自分の手に収まるものの執着心。
その二つだけはオレがオレたるものだと断言できた。
それ以外は、分からない。
どうしてこうなってしまったのだろうか?
世の中っていうのは、理不尽だ。

夢のたびに織斑一夏ではない記憶が流れてくる。
木星循環計画のエンジン制御分野の責任者。
磁気流体力学の第一人者。
『ここ数ヶ月』はニューアラマゴルド実験場という施設に缶詰状態。
そして、あの事故。

そいつの名前はシン・ヤマガタという。

オレは誰だ?

『オレは織斑一夏だ』

そう断言できる。
だけど、

『俺はシン・ヤマガタじゃない』

とは最近断言ができない。


希求心がオレに残っている
今までの記憶は本物でありたいと思っている。











※『オレ』と『俺』は誤字じゃありません。


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