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No.34559の一覧
[0] ゼロの出来損ない[二葉s](2012/08/13 02:16)
[1] プロローグA エンチラーダの朝[二葉s](2012/08/13 22:46)
[2] プロローグB テオの朝[二葉s](2012/08/13 22:47)
[3] 1テオとエンチラーダとメイド[二葉s](2012/08/12 23:21)
[4] 2テオとキュルケ[二葉s](2012/08/13 02:03)
[5]  おまけ テオとタバサと占い[二葉s](2012/08/13 23:20)
[6] 3テオとエンチラーダと厨房[二葉s](2012/11/24 22:58)
[7] 4テオとルイズ[二葉s](2012/11/24 23:23)
[8]  おまけ テオとロケット[二葉s](2012/11/24 23:24)
[9] 5テオと使い魔[二葉s](2012/11/25 00:05)
[10] 6エルザとエンチラーダ [二葉s](2012/11/25 00:08)
[11] 7エルザとテオ[二葉s](2012/11/25 00:10)
[12] 8テオと薬[二葉s](2012/11/25 00:48)
[13] 9エルザと吸血鬼1[二葉s](2012/11/25 00:50)
[14] 10エルザと吸血鬼2[二葉s](2012/11/25 01:29)
[15] 11エルザと吸血鬼3[二葉s](2012/12/20 18:46)
[16]  おまけ エルザとピクニック ※注[二葉s](2012/11/25 01:51)
[17] 12 テオとデルフ[二葉s](2012/12/26 02:29)
[18] 13 テオとゴーレム[二葉s](2012/12/26 02:30)
[19] 14 テオと盗賊1[二葉s](2012/12/26 02:34)
[20] 15 テオと盗賊2[二葉s](2012/12/26 02:35)
[21] 16 テオと盗賊3[二葉s](2012/12/26 02:35)
[22]  おまけ テオと本[二葉s](2013/01/09 00:10)
[23] 17 テオと王女[二葉s](2013/01/09 00:10)
[24] 18 テオと旅路[二葉s](2013/02/26 23:52)
[25] 19 テオとサイトと惨めな気持[二葉s](2013/01/09 00:14)
[26] 20 テオと裏切り者[二葉s](2013/01/09 00:23)
[28] 21 テオと進む先[二葉s](2013/02/27 00:12)
[29]  おまけ テオと余暇[二葉s](2013/02/27 00:29)
[30] 22 テオとブリーシンガメル[二葉s](2013/02/27 00:12)
[31] 23 テオと救出者[二葉s](2013/02/27 00:18)
[32] 24 サイトとテオと捨てるもの[二葉s](2013/02/27 00:27)
[33] 25 テオとルイズ1[二葉s](2013/02/27 00:58)
[34] 26 テオとルイズ2[二葉s](2013/02/27 00:54)
[35] 27 テオとルイズ3[二葉s](2013/02/27 00:56)
[36] 28 テオとルイーズ.[二葉s](2013/03/22 22:39)
[37] 29 テオとルイーズとサイト[二葉s](2013/03/24 00:10)
[38] 30 テオとルイーズと獅子牙花.[二葉s](2013/03/25 15:13)
[39] 31 テオとアンリエッタと竜巻[二葉s](2013/03/31 00:39)
[40] 32 テオとルイズと妖精亭[二葉s](2013/09/30 23:46)
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[34559] 29 テオとルイーズとサイト
Name: 二葉s◆170c08f2 ID:dba853ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/24 00:10



 テオ達がサイト達と合流したのは、日も暮れる寸前でした。
「ああ、全く。くそう何が『確か夕日のある方向に真っ直ぐ進めば到着する』だ。まるっきり反対方向じゃないか。おかげでえらく時間がかかった」
「ごめんなさいテオ…あのね、勘違いしないで。別にアレなのよ?間違った方向を教えたのは…わざとなのよ?」
「……なお悪いじゃないか!なぜ嘘を教える!?」
「えへへ、少しでもテオと二人っきりで居たかったから」
 そんなことを言い合いながら二人は森の中から出てきたのです。


 それは森にやってきた時とさほど変わらない様子でした。
 浮かれるルイズ。翻弄されるテオ。
 ただそこに、なんとなく、サイトは違和感を覚えます。

 少し。ほんの少し。
 テオが先ほどまでに比べて嫌がっていないような気がしたのです。

 だから、思わずサイトは彼女に声をかけてしまいました。
「おいルイズ…」

「…」
 彼女は返事をしませんでした。

「…?なんで返事をしないんだねルイズ?」
「…」
「ねえ、どうしたの?ルイズ?」
「…」

 ギーシュの言葉にもモンモランシーの言葉にも。彼女は反応しませんでした。

「「「ルイズ!!」」」

 サイト達が大声でルイズの名を呼ぶと、彼女は今気づいたといった様子で言いました。
「はあ?それはワタクシのことでしょうか?」
「オマエ以外居ないだろ!!」
「なにこれ、新種のジョーク?」
 彼女の妙な反応に皆は困惑しました。

「失礼ですが、私をどなたかと勘違いされていません?」
 いかにも他人行儀な調子でルイズはそう言いました。
「どなたかって…ルイズだろ?」

 その言葉に対して、
「いや、ルイーズだ」
 テオがそう言いました。

 そう、
 サイトたちの目の前に現れた少女。
 
 それはもう、ルイズではなく『ルイーズ』その人なのです。

「始めまして!ルイーズです。ルイーズ。家名も何も無い。ただのルイーズ。特技は編み物!好きなものはテオ!みんなよろしくね!」
 にっこりと笑いながらルイーズはそうやって自己紹介をしました。

「大変だ、惚れ薬がとうとう脳まで侵食し始めた」
「テオの異常さが感染したんだわ」
「ルイズ、そこらに落ちているものは食べたらダメだって…」

 ルイズそっくりの少女の言葉に、皆が騒ぎ出す中。一人、エンチラーダは冷静に状況を理解していました。

「…なるほど。そういうことですか」
 その様子を見ながらエンチラーダが静かに呟きました。

「ミス・エンチラーダはこんな時でも冷静だなあ…何がなるほどなんだい?」
 ギーシュがエンチラーダに問いました。

「ルイズ様は思いの他聡明であらせられる」
「はあ?」
「先程私が言いましたね。ルイズ様がルイズ様である限り御主人様はルイズ様を受け入れはしないと」
「ああ言ってた。でもそれと何の関係が?」
「ですからルイズ様はルイズ様でなくなったのです」
「「「????」」」
 サイトもギーシュもモンモランシーも。その言葉を理解できませんでした。

「ルイズ様はルイーズ様となることで御主人様の気を引こうとなさっているのです」
「何だよそれワケワカンネエよ」
「ええ、普通に考えたらナンセンスです。詭弁もいいところでしょう。しかし、御主人様には非常に有効な詭弁です。御主人様はそういった妙な理屈を受け入れやすい方ですので。ルイズ様は御主人様のそういった性格を中々に良く観察していらっしゃるようで…正直、これは私も予想外です」
 そう言ってエンチラーダは腕を組みました。

 サイトの心は穏やかではいられませんでした。
 何やらとても嫌な状況になりつつあるような予感がしました。
 
 その予感をごまかすようにサイトはテオに話しかけます。
「その…テオ。アノさ、精霊の涙を手に入れるのには、此処にくる襲撃者ってのを倒さなきゃいけないらしいんだけど…」
「そうか…で?」
「テオは手伝う気ある?」
「……………………………ふむ」
 そう言ってテオは少しの間悩む素振りを見せました。
 
 サイトはテオがいったいどんな答えを出すのか。
 不安な気持ちでその回答を待ちました。
 
 そして、テオの出した答えは。
「…止めておく」
 テオの言葉。
 それは純粋に襲撃者退治の戦力が減った以上の大きな意味がありました。

 先刻まで一秒でも早く薬の完成を求めていたテオが、ここにきて協力を拒む。

 サイトの中を真っ黒な恐怖が走り抜けます。

「襲撃者退治?なるほど、面白そうじゃあないか。確かに魅力的な提案だ。しかしな。吾は貴様らに便利に使われる道具ではない。何か勘違いしているようだが、吾やエンチラーダがここに居るのはそこのクルクル頭が作業を放棄して逃げ出さないかを監視するためであって、薬の材料調達を手伝うためじゃあない。そもそも吾はちょっと用事がある…エンチラーダ手伝え」
「御意にございます」

 そう言ってテオとエンチラーダはその場を後にしました。
 勿論ルイーズも連れて。
 
 
 それは如何にも自分勝手なテオらしい行動と言えました。
 気に入らないから手伝わない。
 そこには全く他意が無いように思えます。
 
 だからサイトは自分に言い聞かせました。
 なるほど気分屋のテオらしい考え方だ。単に気が乗らないだけだ。そうに違いない。
 実際、テオ自身が言っていたじゃあないか。
『吾が、吾が、他人が惚れ薬を飲んだことを、これ幸いと、それを利用して肉体関係を結ぶような下衆だと、そう言っているのか』と。
 テオは惚れ薬にかかった人間に不埒な事はしないさ。
 違うさ。テオはそんなゲス野郎じゃあ無い。

 しかし、そうやってテオを信じようとする反面で。
 サイトの中の不安はムクムクと大きくなっていきます。

 サイトはその不安を振り払うように首を振りました。
 とりあえず、今集中するべきは目の前のことだ。
 襲撃者退治に集中しよう。

 テオとエンチラーダの協力を得られないのであれば、戦力になるのは自分一人だ。
 ギーシュは頼りにならないし、モンモランシーは問題外。
 
 サイトはまずテオの行動以前に、自分たちが本当に襲撃者を倒せるのかという不安に、その顔を歪めるのでした。
 
 


 一方その頃。
 テオは何やらエンチラーダに指示を出していました。

「…と言うわけで、瓶と…そして」
 テオがエンチラーダに何やら指示をしていると、
「テオ…ねえテオ?」
 ルイーズがテオの裾を引きました。

「なんだ?ルイーズ。あんまり裾を引っ張るな。伸びちゃうだろ」
「私、お花を摘みに行きたいの」
「…そうですか、では行って来ればいいんじゃないカナ?というか、一々吾に言わずとも勝手に行って来ればいいことではないのか?」
「何言ってるのよ、貴方も来るのよ?」
「は?」
 ナニヲイッテイルンダコイツ?という様子でテオは聞き返します。
「一人でお花を摘んでも面白くないじゃない」
「待て待てまて待て待て、さすがにそれはいかんだろう。吾、そういうのはちょっと…」
「何で?お花を一緒に摘むのが健全な恋人どおしの戯れじゃないの」
「…そうなのか?」
「大丈夫よ、別にテオにも花を摘めとは言わないわよ、私が摘むところを隣で見てればいいんだもの」
「…え?君はそういう趣味を前々からもってたりするのか?」
「私だって女の子なんだもの。好きな人とお花を摘みたいと思ったことくらいあるわ」
「デカルチャーである」
 テオは動揺を隠せません。

 なにせ彼はそういった事を経験したことがなかったのです。

「しかし…吾にはやることが…」
「花を摘みながらやればいいじゃない」
「いや、それはさすがに…」
「え?不可能なの?」
「いや…出来ないというわけではないが…」
「まあ、しかたがないわよね。いくらテオでも、片手間に作業するなんて、絶対に、無理だし、不可能よね、しかたがない。ああ、しかたがない…残念、残念」
 少し演技かかった大げさな表現でルイーズはそう言いました。

「にゃ!にゃにおう!出来るわい!吾にかかれば花摘みしながら別の作業なんて、チョチョイのチョイのチョイでチョイなのだ!」
「じゃあ問題無いわね。一緒にお花摘みに行きましょう」
「望むところである!……………あれ?」
 
「…ルイズ様…いえ、ルイーズ様は本当に良く御主人様をご理解なさっていらっしゃる」
 エンチラーダはテオとルイーズのやり取りを見ながら言いました。
 
 
 奇しくも、サイトが緊張で顔を歪めているそのころ。
 テオもまたルイーズにのせられその表情を歪めるのでした。

 
◆◇◆◇◆


 サイトはラグドリアン湖の岸辺にある木陰に隠れながらじっと襲撃者を待っていました。
「結局頼れるのは自分だけか」
 思わずサイトはそう呟きました。
 
 チロリと後を見ると、そこにはチョコンと座るモンモランシーとギーシュが居ました。
 全くもって戦う気配が見えません。
 
「私は戦わないわよ?絶対に戦わないからね?解ってる?そこんとこ、解ってる?」
 モンモランシーはしきりにサイトにそう言っていました。
 ここまで念を押して戦わないと言うあたり、本当に戦うのが嫌なのでしょう。
 嫌がる人間を無理矢理戦闘に狩りだしても邪魔にしかならないでしょうからサイトはモンモランシーを戦力から外していました。

 そして、一応は戦力になりそうだったギーシュはと言うと。
「僕が~居れば。百人力なのら。ヒック。僕の勇敢な戦乙女たちが、ならずものなんてチョチョイのチョイっと~」
 モンモランシーの隣でべべれけに酔い呂律の回らない口で何やら喚いています。どうやら戦いに対する不安を紛らわせるために飲んだワインが効果を発揮しすぎたようです。
 
 頼れるのは自分しか居ない。マジで。
 サイトはそう考えて覚悟を新たにするのでした。

 サイトは思案しました。
 自分は襲撃者を倒せるだろうか?
 自分は強くなった。その実感はありました。
 しかし、それだけで勝てるほどこの世界は甘くないこともサイトはよく知っていました。

 例えばフーケ。
 自分たちはフーケに勝利しました。しかし、実際フーケのゴーレムを倒したのはテオですし、ロケットランチャーがあればあのゴーレムを倒せたでしょうがそれはサイトの実力ではありません。

 例えばワルド。
 たしかに自分はワルドを退けました。
 しかし、アレは良くて痛み分け。ワルドの腕を切り彼は逃げましたが、その時サイトは満身創痍で死にかけていました。
 勝ったと胸を張る事は出来ません。
 
 思えば、サイトは此処に来てギーシュにしか勝ったことがありませんでした。
 
 湖にくる襲撃者とやらがギーシュ程度の実力ならば構わない。
 しかし、もしフーケやワルドのような奴らだったら?
 いや、それならばまだイイ。あれからサイトは欠かさず訓練しています。
 もし相手がワルドだとしても、今度は負けないという自信がありました。
 
 しかし。
 もし、襲撃者がテオと同等だったら?
 
 そこまで考えてサイトは首を振りました。
 ありえない。テオほどの強さの人間なんてそうそういてたまるものか。
 あんな怪物、絶対に現れない。 
 そうしてサイトは考えるのをやめました。

 


 それからしばらくすると、岸辺で人が動く気配がしました。
 サイトが目を凝らしてみると、そこには二人の人間。
 暗い色のローブを身にまとった二人組です。
 
 唯でさえ真っ暗闇の中そんな暗いローブを頭からかぶるように着ているので人相はおろか、性別さえわかりません。
 
 サイトは剣の柄を握りました。
 左手のルーンが光り、サイトの感覚が研ぎ澄まされます。
 今にも飛び出したい衝動を必死に抑えながらサイトは二人を観察します。
 
 二人組は水辺に立つと杖を掲げ何やら呪文を唱え始めました。
 
 
 間違いない。サイトは確信しました。
 
 サイトは二人組の背後へと向かいました。
 勝てる。大丈夫だとサイトは自分に言い聞かせます。
 十数匹のオークとも戦った。
 あれから毎日素振りもしている。
 
 そうやって自分に自信を持たせながらサイトは二人組の後方にある木陰へとしゃがみ込むと左手を上げて合図をしました。
 その合図を見て、ギーシュが呪文を唱えます。幸い酔っていても魔法を使う程度の理性は残っていたようです。
 
 すると、二人組の真下の地面が盛り上がり、それはそのまま襲撃者の足を押さえつけました。
 
 
 
 
 今!
 
 サイトは弾丸のように木の影から飛び出て敵との距離を詰めます。
 それは一瞬の出来事でしたが、敵の反応は迅速でした。
 
 
 背の高い方が、自分達の足に絡み付いた土の腕を炎の魔法で焼き払いました。
 体の自由を取り戻した小さいほうが、次の瞬間にはサイトへと体を向けていました。
 そして素早く身をひねり、杖をふりました。
 
 
 途端。
 サイトの体に大きな衝撃がひびきます。
 
 嘗てワルドからも受けた、エア・ハンマーの魔法が、カウンター気味にサイトにぶつかったのです。
 
 サイトは大きく吹き飛ばされましたが、体を捻り、なんとか地面に足をつけて着地しました。
 
 しかし、その次の瞬間には彼の目の前に氷の矢が迫っていました。
 サイトは後方にジャンプしてそれをかわします。
 すると、今度は巨大な火の球がサイトに迫ります。
 
 敵は、まるでチェスの終盤のように、サイトを追い詰めていきます。
 このまま行けばいずれサイトに攻撃が当たる。

 サイトは焦りました。
 
 
 今はなんとか相手の魔法を避けることが出来ています。
 しかし、間髪入れずに迫りくる魔法を避けるばかりで、自分には攻撃をする余裕はありません。
 避けるばかりでは一向に状況は好転しません。
 
 或いは、このまま逃げ続ければ相手の魔力が切れる可能性もありますが。
 それまでにずっとこの攻撃を避け続けられるとは思いませんでした。
 
 
 このままではいけない。
 何か、何か状況を打開する方法を見つけなければ。
 
 その、考え、その焦りが命取りでした。
 相手はサイトのその一瞬の思考による隙を見逃しませんでした。
 
 風の固まりがサイトの腕に当たり、彼の腕から剣を奪い取ります。
 
 サイトは体が重くなるのを感じました。
 最早彼にはガンダールヴのアドバンテージはありません。
 
 そして、そして彼の目には、自分に迫りくる火の球が見えました。
 
 ああ、そうか。
 自分は今死ぬのか。
 そう思いました。
 
 こんなに、あっさりと人は死ぬのだと、妙に冷静に考えている自分が居ました。

 そして、次の瞬間彼の心に登ったのは、恐怖ではなく申し訳ないという気持ちでした。

 心配をかけているであろう、元の世界の家族。友人。
 帰れなくてゴメン。
 この世界で出会った人たち。
 恩返しも何もせずに死んでゴメン。
 
 
 ルイズ。
 
 
 戻せなくて。
 ゴメン。
 
 
 
 
 
 
 
 そして、サイトの体に大きな痛みが走りました。







 具体的には、その…膝の関節に。
 
 
 
「え?」
 サイトの口からそんな声が出る頃には。
 サイトの体はヘタリとその場に仰向けに倒れこみ、その彼の上方、正に彼の目の前を炎の玉が通り過ぎていました。
 
「全く、あんな攻撃も避けられないとは」
 ふと彼の横から声が聞こえました。
  
「エンチラーダ…さん?」
 そこにはエンチラーダが立っていました。
 彼女がサイトの膝の裏を蹴り、サイトの体勢をわざと崩して火の球を避けさせたのです。
 突然現れた援軍に、相手の二人組は戸惑い、攻撃が一時的に止みました。

「甘いですね、まるでカステーラの端っこのように甘い」
 エンチラーダはそう言うとため息を一つつきました。

「貴方には全て足りないですが、なにより一番に覚悟が足りていない。人を殺そうとすると言うことは、自分を殺す攻撃が向こうからは来ると言うことです。恐ろしい魔法が来ることはわかりきっているでしょう。
 確かに剣を飛ばされれば、衝撃を受けるでしょう当然です。
 攻撃手段がなくなるんですから。普通は不味いと思うでしょう。私ですらそう思うはずです
 しかし、もしこれが覚悟有る人間ならば、決して戦う意志を無くしたりはしません。
 たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともです。 
 なのに貴方は怯んだ。目の前の攻撃に恐怖し体を硬直させた。避けるというただ単純な行動すら放棄した。もし覚悟があれば。決して怯みはしなかったはずです。冷静に判断し、難なくあの攻撃を避けたでしょう。はっきり言って貴方の身体能力ならばどんな人間にでも勝ちうるのです。しかし、それが出来ない理由は至極単純。貴方は覚悟が足りないのです」
 至極淡々と、それでいて重い口調でエンチラーダそう言いました。
 口では雄弁に語りつつも、視線は目の前の二人の敵から外しません。
 
 一見すると隙だらけの姿。
 しかし、サイトを助けたその動きと、今この瞬間までここにいることを悟らせない気配の殺し方から、エンチラーダが並の人間ではないことに敵も気づいたのでしょう。
 

「この世界で生きるつもりならば、覚悟が必要です。目的のため全てを捨て、そして、目の前の如何なる敵も打ち倒す覚悟が!」
 そして。

 その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに。
 ただ、ただまっすぐにエンチラーダは動いていました。

 真っ直ぐ。

 ただそれだけ。
 
 サイトよりも早いわけでも無い。
 フェイントをおりまぜているわけでも無い。
 相手の死角を狙うでも無い。
 ただ。真っ直ぐ敵の正面にむかって走っていました。
 正面から攻撃する。
 
 正に愚行。
 手の正面に突っ込むなんて、どうぞ自分を攻撃して下さいと言っている様なものです。
 サイトでもわかるほどに愚行。
 
 しかし、しかしその愚行に。
 
 
 サイトの魂は揺さぶられました。
 まるで、それはその動きは、そう動くことが当然で有るようでした。
 サイトが見た如何なる動きより正直で、愚直で。そして、何よりも自然。
 それを見たサイトは、その動きに、まるで見入ってしまうように動けなくなってしまいました。
 

 そして、それは敵も同じでした。
 無論、敵もその動きに見惚れていたというわけではありません。
 純粋に目の前の二人の敵は、突然正面からやってくるエンチラーダのその行動を予想していなかっただけに対応を大きく遅らせたのです。
 
 その愚行が、正に功を奏したのです。
 愚行を犯す覚悟を持ったが故に、彼女は相手の意表をつけたのです。
 
「グェ!」
 エンチラーダのパンチは吸い込まれるようにして背の高い方に当たりました。相手はくの字に折れ曲がり、そのままうずくまってしまいました。
 
 エンチラーダがもう一人につかみかかろうとした時に。
 サイトは殴られた敵の出したうめき声に聞き覚えがあることに気が付きました。

「あえ?」
 そう。
 それは良く学院で聞いた声。
 キュルケの声と全く同じに聞こえたのです。

「タンマ、タンマ!エンチラーダさんタンマ!」
 サイトは大急ぎでエンチラーダに駆け寄り、そして背の低い方への攻撃にストップをかけます。
「何ですか?」
「ちょっと待って!その二人、その二人ってひょっとして…・」
 
 そしてサイトは
 エンチラーダが掴みかかる背の低い相手のフードから、青い髪の毛が見えるのを確認しました。
「やっぱり…エンチラーダさんストップストップ待って待って!その二人!キュルケとタバサだ!」

「だから?」
 そう言ってエンチラーダは首をかしげました。

「だからって…?」
「それは攻撃を辞める理由になりません」
 そう言ってエンチラーダは腕を振り上げますが、サイトはがっしりとそれにしがみついて叫びます。

「話し合おう!話しあおうよ!とにかくそれからでも遅くはないはずだ!!!!」


 暗闇の中。サイトの声が響きました。


◇◆◇◆


 月のあかりに照らされながら。
 テオとルイーズは花畑に居ました。
 沢山の花に囲まれながら、ルイーズは上機嫌に花を摘んでいます。
 その隣でテオは本を読みながら呟きました。
「本当にお花摘みだとは思わなかった…」
「何言ってるの?テオ」
「いや…なんでもない。むしろ変な方向に邪推した自分が恥ずかしいと自戒していたところだ」
「ふふふ、変なテオ?」
 ルイズは笑いながらそう言うと、目の前にあった花を一本引きぬきました。

「ホラホラ、珍しい花」
「芥子だな、薬にも毒にもなる花だ。種は普通に食える」

「コレも綺麗ね」
「アザミか、根っこが美味い花だな」

「テオほら、コレなんか綺麗じゃない?」
「ふむ、獅子牙花の亜種だな、煮れば食える」
「ハイ、マントのブローチの所に付けてあげる」
「…うむ」
 獅子牙花をマントに取り付けられた、テオは何処か気まずい気分になりましたが、花を身にまとうことにさほどの抵抗を覚えなかったので、彼女のするに任せました。

「テオ似合ってるわ」
「ふん、当然である。吾の前では自然の作り出す絶対的な美さえも、吾を引き立たせるアクセントとなるのだよ」
「うん、知ってる」
「…そうか」
 そう言いながらテオは目の前の本に視線を戻しました。
 
「フフフ、テオ!今私すごく幸せなの」
 本に集中するテオに向かってルイーズは言いました。

「そうか…」
「愛する人と二人っきり。このまま時間が止まっちゃえばいいのに」
「そうか…」
「テオ楽しい?」
「そうか…」

「…」
「そうか…」
「えい」
「そ…ハップシュン!!おい!やめろ、いい年して人の鼻に花を突っ込むとか」
「あら、私ったらテオを困らせちゃった。まあいいわ。だって、やっとテオは私の方を見てくれたんだもの。全く、せっかく一緒にいるのに本ばっかり読むなんてマナーが悪いわよ?」
「全く、本ぐらいはゆっくり読ませてくれてもいいだろうに…」
 そう言ってテオはパタリと本を閉じました。

「あら?もう本はいいの?」
「邪魔しておいてよくそんなことが言えるな。まあ、主要な部分は読み終わってしたし、もう必要ないよ」
「ふーん…ところでテオは何を読んでいたの?」
「これか?ああ、これはクルクル頭のかばんに入っていた本だ」

 そう言ってテオはその本を鞄にしまいました。
 その本はモンモランシーの私物でしたし、テオはそれを読むにあたって彼女の許可を得たわけではありませんがテオはさも当然のようにそれを借り、そしてまるで自分の本であるかのように読んでいたのです。
 
 テオは他人の物をさも自分のもののごとく扱うようなジャイアニズム主義者と言うわけではありません。しかし、今回、彼は他人の本を勝手に持ち出すことに躊躇をしていませんでした。
 
 なぜならテオには。
 それが必要だったからです。
 
「どんな本?」
「ん?これか?うん、そうだな、惚れ薬の作り方の本だ」
 テオがそう言うと、ルイーズは驚いた声をあげました。
「あら、テオって惚れ薬が嫌いだと思ったけれど?」
「ああ、嫌いだよ、嫌いだとも。しかしな、嫌いだという理由で対象を遠ざけるのは逃げだ。吾は今回それを痛感したよ。知るべきだったんだ。たとえ嫌いだとしてもね。実際本を呼んでみると面白い」

 そう言いながらテオは鞄から今度は液体の入った瓶やアルコールランプを取り出します。

「テオ、嬉しそうね?」
「ああ、そうだな。きっと吾は楽しいんだろうな。」
 アルコールランプに火を灯しながらテオは言いました。

「吾はきっと間違った事をしている。でも、それでもそれを何処かで楽しんでいる自分がいる。
 はっきり言って吾がこれからすることは残酷極まりないものなのだろう。そういうものを作ろうとしている。
 でも、それでもやっぱり何かを作るのは楽しい。
 嫌なのにな。でもどうしようもないんだ」
 準備をしながら言ったテオの言葉。
 それは半ば無意識の言葉だったのでしょう。殆ど独り言でした。
 
 しかし、そんな言葉を、ルイーズは肯定しました。
「あら?テオ。貴方らしくないわよ?私の知るテオは、自分の思う事のためならば、間違いとか、残酷とか、そんなことを気にしない人間よ。胸をはりなさいテオ。この世界の誰がそれを否定しても、私だけはそれを肯定するわ。テオ。いいのよ、貴方の思うようにやれば」
 そう言ってルイーズは笑いました。
 
 テオはふと、彼女の顔を見て。
 

 そして直ぐに視線を戻しました。
 
 
 だって、月明かりに照らされて笑うルイーズの表情はとても楽しそうで。
 そして、とても綺麗で。
 
 
 だからテオは、もう少しでもその表情を見れば、
 全てを忘れて見入ってしまいそうだったのです。


◆◇◆◇◆


「でもなんだかんだ言っても手伝ってくれたんですね」
 サイトがエンチラーダにそう言いました。
 
「暇でしたので」
 無表情にエンチラーダはそう言いました。
 そこから何の感情も読み取れませんでしたが、エンチラーダの行動に、サイトは大いに安堵していました。
 
 なんだかんだで手伝う。テオの常套手段です。
 今までも人を手伝ったり、助けたり絶対しないと口では言いながら最終的にサイトやルイズを助けてきました。
 ギーシュとの決闘でボロボロになった時、フーケと戦った時、ワルドとの戦いで死にかけていた時。
 いつもテオはサイト達を助けてくれました。
 今回も同じ。
 
 口では手伝わないような事を言っておいて、最後はこうしてエンチラーダを手伝いに寄越している。
 ああ、やっぱり自分の心配は杞憂であったと。サイトはとても上機嫌でした。
 
 一方。その場にサイトとは対照的に非常に不機嫌な人間が居ました。
 それも二人。
 キュルケとタバサです。
 
「ねえ、コレほどいてくれない?」
「…」
 不満そうにそういうキュルケの体はまるでミノムシのようにロープでグルグル巻にされていました。
 隣で無言のタバサも同様です。
 確かに先程まで戦っていたのだから拘束するというのも無理からぬ事かもしれませんが、それでもここまで厳重にヒモで縛ることは無いだろうと彼女たちは不満でした。

「無理です」
 にべもなくエンチラーダはそう言いました。

「まあ、正しい行為で有ることは認めるけどね…」
 そう言ってキュルケはため息をつきました、

 身内であるから安心。
 それはとても危険な考え方です。
  
 知っている人間、友人、家族。
 たとえどんな間柄であっても、時に人は簡単に裏切ります。
 学友で有るといっても、それが相手を絶対的に信頼する理由にはなりません。
  
 更に言うのであれば此処は魔法のある世界。
 人そっくりに化ける魔法や、人を操る魔法も有るのです。
  
 むしろ知り合いこそ警戒する。それはとても正しい行為でした。
 
「ところでルイズとテオは?」
 いつものメンバーの中に二人が見当たらないことに気がついてキュルケが言いました。
 
「あ…ええと」
「御主人様とルイーズ様はご一緒にお花を摘みにいってらっしゃいます」
「…二人で?」
「ええ、二人っきりで」
「変ね?あの二人、思いっきり相性が悪いじゃないの」
「それなんだよ。じつはルイズが惚れ薬を飲んじゃって、テオに惚れてるんだ」
「惚れ薬?テオがなんでそんなの作るの?彼、そういうの大ッキライでしょ?」
「作ったのはモンモランシーだよ」
「貴方が?なんでそんなの作ったの?」
 キュルケはモンモランシーに向き直るとそう尋ねました。
「…もう二度と作らないわよ」
 不快そうにモンモランシーが答えました。
「…ふん、自分に自信の持てない女って、惨めね」
 軽蔑の眼差しでキュルケはモンモランシーを見ます。モンモランシーはそれがとても不快でした。
 何故ならば惨めであることなんて、モンモランシー自身が一番に理解していたからです。
「うっさい!そんなことあんたに言われるまでもなくとっくに解ってんのよ!って、言うかもとはといえば、このバカが浮気ばっかりするから…」
「え?僕のせいなのかい?」
 モンモランシーとギーシュはそのままギャイノギャイノと言い争いを始めてしまいました。
 
 その様子を無視して、サイトはキュルケとタバサに事の詳細を話しました。
「ふーん、とにかく、あなた達は水の精霊の涙を手に入れるために水の精霊を守っていたと言うわけね?」
「ああ、そっちはどうして水の精霊を襲っていたんだ?」
 サイトの質問に、キュルケは少し困った顔を見せながらこう言いました。
「えっと…。タバサのご実家に頼まれたのよ。水の精霊のせいで水かさが上がってるでしょ?だからタバサの実家の領地が被害にあってるの。それで私達がその退治を頼まれたってわけ」
「なるほど…ならこうしないか?水の精霊を襲うのは中止して、そのかわり水の精霊と話し合ってみよう。なんで水かさを増やすのを止めてくれって」
「水の精霊が聞くと思う?」
「聞くさ。実際俺たちは昼間交渉したぜ?襲撃者を倒せば精霊の涙をくれるって約束してくれた」

 キュルケは少し思案するとタバサに言いました。
「要は湖が元のかさに戻ればいいんでしょ?」
 タバサが頷きました。
 
「よし!決まった!じゃあ早速交渉だ!」
 そう言ってサイトが立ち上がります。

「今から?」
 モンモランシーが呆れたように言いました。
 すでに時間は夜遅く。
 
 しかも戦闘直後で皆疲れています。
 確かに水の精霊は昼も夜も気にしないでしょうが、さすがに次の日の朝を待ったほうが得策のように思えました。

 しかしサイトは今直ぐにでも精霊の涙を手に入れようとしています。
「当然だろ?」
「なんでそんなに急ぐの?」

 なぜ?
 そんなの決まってる。
 決まって…あれ?
 
 ふと、サイトは自分がなぜこんなにも急ぐのかを考え直しました。
 
 なぜ?
 なぜかな。
  
 そこまで考えて、サイトは考えを放棄しました。 
「まあ…こう言うのは早いほうがいいからな」
 そういってサイトはラグドリアン湖へと歩き出しました。
 
 周りの人間も慌ててそれについていきます。
 縛られているキュルケとタバサはエンチラーダに担がれて。

 
 サイトは自分自身で気がついていませんでした。
 いえ、気が付かないことにしていたのかもしれません。
 自分が急ぐ理由。
 エンチラーダが助けに来てくれたことで消えたと思っていた不安は依然として自分の中にあることに。
 心の何処かで焦っていることに。一刻も早くルイズを元に戻したいと思っていることに。



 そして、心の何処かでテオを疑っていることに。
 


◆◆◆用語解説


よく解らない解説
 
・愛。
 なんだか愛をテーマに一連の話を書いているが、
 正直筆者自身は愛とかよくわからない。


・花を摘む
 文字通りの意味の他に、貴族の隠語の一種で『トイレに行く』という意味も持っている。
 まあ、筆者はそんな隠語を使ったことが無い。

・上級者向け過ぎる
 文字通り花を摘むのか、トイレに行くのかで話の意味合いが大きく違ってくる。
 テオが慌てたのは後者の意味だと思ったから。
 筆者にはそんな性癖が無いのでよく解らない。
 
・デカルチャー
 別にヤック!ヤック!と言いたいわけじゃない。
 トリステインのモデルとおもわれるフランスの言葉に従ってみた。
 deは前置詞、実際の発音はデと言うよりドェやドゥに近いのだろう。
 この場合のテオの言葉は、
 Je ne sais pas de culture
『そんな文化、俺知らねーよ!!』とかになる…んじゃないのか?間違ってるとは思う。
 Je ne sais lesmots de la France。
 フランス語とかよくわからん。

・ジャイアニズム
 一言で言うと「オマエのモノはオレのモノ」な考え方。
 他にも「欲しいものは手に入れるのがおれのやり方」
 「うるせえ、かったものの勝ちだ」「正しいのはいつも俺!」などの傍若無人主義
 しかし一方で、絶対に人を裏切らず、妙に男気あふれている性格でもあるらしいが…
 筆者はよくわからない。
 
・たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようとも~
 エンチラーダ「だから貴方はマンモーニなんですよサイト」
 サイト「分かったよエンチラーダ兄ィ!!兄貴の覚悟が!“言葉”でなく“心”で理解できた!」
 筆者は理解できない。
 
・…あれ?
 今回で惚れ薬の話を終わりにするつもりが思いの外長くなってしまって中途半端なところで切るはめに。
 正直、筆者は文章の書き方とか未だにわかっていない。


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