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No.34559の一覧
[0] ゼロの出来損ない[二葉s](2012/08/13 02:16)
[1] プロローグA エンチラーダの朝[二葉s](2012/08/13 22:46)
[2] プロローグB テオの朝[二葉s](2012/08/13 22:47)
[3] 1テオとエンチラーダとメイド[二葉s](2012/08/12 23:21)
[4] 2テオとキュルケ[二葉s](2012/08/13 02:03)
[5]  おまけ テオとタバサと占い[二葉s](2012/08/13 23:20)
[6] 3テオとエンチラーダと厨房[二葉s](2012/11/24 22:58)
[7] 4テオとルイズ[二葉s](2012/11/24 23:23)
[8]  おまけ テオとロケット[二葉s](2012/11/24 23:24)
[9] 5テオと使い魔[二葉s](2012/11/25 00:05)
[10] 6エルザとエンチラーダ [二葉s](2012/11/25 00:08)
[11] 7エルザとテオ[二葉s](2012/11/25 00:10)
[12] 8テオと薬[二葉s](2012/11/25 00:48)
[13] 9エルザと吸血鬼1[二葉s](2012/11/25 00:50)
[14] 10エルザと吸血鬼2[二葉s](2012/11/25 01:29)
[15] 11エルザと吸血鬼3[二葉s](2012/12/20 18:46)
[16]  おまけ エルザとピクニック ※注[二葉s](2012/11/25 01:51)
[17] 12 テオとデルフ[二葉s](2012/12/26 02:29)
[18] 13 テオとゴーレム[二葉s](2012/12/26 02:30)
[19] 14 テオと盗賊1[二葉s](2012/12/26 02:34)
[20] 15 テオと盗賊2[二葉s](2012/12/26 02:35)
[21] 16 テオと盗賊3[二葉s](2012/12/26 02:35)
[22]  おまけ テオと本[二葉s](2013/01/09 00:10)
[23] 17 テオと王女[二葉s](2013/01/09 00:10)
[24] 18 テオと旅路[二葉s](2013/02/26 23:52)
[25] 19 テオとサイトと惨めな気持[二葉s](2013/01/09 00:14)
[26] 20 テオと裏切り者[二葉s](2013/01/09 00:23)
[28] 21 テオと進む先[二葉s](2013/02/27 00:12)
[29]  おまけ テオと余暇[二葉s](2013/02/27 00:29)
[30] 22 テオとブリーシンガメル[二葉s](2013/02/27 00:12)
[31] 23 テオと救出者[二葉s](2013/02/27 00:18)
[32] 24 サイトとテオと捨てるもの[二葉s](2013/02/27 00:27)
[33] 25 テオとルイズ1[二葉s](2013/02/27 00:58)
[34] 26 テオとルイズ2[二葉s](2013/02/27 00:54)
[35] 27 テオとルイズ3[二葉s](2013/02/27 00:56)
[36] 28 テオとルイーズ.[二葉s](2013/03/22 22:39)
[37] 29 テオとルイーズとサイト[二葉s](2013/03/24 00:10)
[38] 30 テオとルイーズと獅子牙花.[二葉s](2013/03/25 15:13)
[39] 31 テオとアンリエッタと竜巻[二葉s](2013/03/31 00:39)
[40] 32 テオとルイズと妖精亭[二葉s](2013/09/30 23:46)
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[34559] 18 テオと旅路
Name: 二葉s◆170c08f2 ID:dba853ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/26 23:52
朝早く。

 まだ朝靄が世界を支配し、景色は一面真っ白です。
 数メイル先も見えないような濃い靄の中、魔法学院の校門の前に数人の人間がおりました。

 それは昨日、アンリエッタ姫より勅命を受けたメンバー。即ち、ルイズ達でした。

 彼らは校門の前で旅の準備をしています。
 たかが準備、されど準備。どんな事柄も準備はとても大切な工程ですし、ましてや今回の任務はとても危険なものなのです。
 ちょっとした準備不足から、それが死につながるなんてことも十分に考えられることなのです。
 ですから一同は真剣な表情で旅の準備をしていました。
 
 しかし、そこに例外が一人。
 
 テオフラストゥスだけは様相が違いました。
 
 彼は陽気に鼻歌なんぞを口ずさみ。
 その両足に金属製の義足を付けて、踊りださんばかりのステップでもって荷物を馬に乗せていきます。
「さて、非常食に陣中食に携帯食に野戦食に戦闘食…あと入れていない食はあるかな?」

 その表情は如何にも楽しそうで、事実、テオは楽しんでいました。
 まるで観光旅行にでる前日の子供のように、楽しくてたまらなかったのです。

 どうしたら死地に向かう準備を楽しめるのか。他のメンバーには理解ができません。
 その特殊な生い立ちによる常識の欠如が故か、あるいは今回の任務の危険性を単に理解していないだけなのか。
 それとも元々、危険を求める特殊な性癖を持ち合わせているのか。
 いかなる理由で彼がこの状況を楽しめるのかは不明でしたが、そのあまりにも楽しそうな様子は、他のメンバーの目にはとても異様に映りました。
 
 楽しそうに準備をするテオの前にルイズがコメカミを引くつかせながらこう言いました。
「テオ、正直あなたと一緒にいくのはものすごく嫌だけど、確かに貴方の魔法は学院一だし、役に立たないこともないわ。だから百歩譲ってアンタの同行は許してあげる」
「…別に君の許しなど不要だが、まあそういう言うのであれば、その許可を甘んじて受け取ろう」
「でもねテオ。1つ、1つだけどうしても許せない事が有るのよ」
「ふむ、全く興味が無いが一応聞いてやろう。その許せない事とは何だね?」

「何で…何で!ナンデ!メイドが当然のように一緒に居るのよ!!」
 そう言ってルイズはビシッとテオの傍らで荷物の整理をするエンチラーダを指さしました。
 
「私ですか?」
 名前を出されたエンチラーダは自分を指さし聞き返します。

「テオ!アンタこれが極秘の任務だって理解してる!?何さも当然のようにメンバーを増やしてるのよ!」
「ははは、そう怒るな。確かに無能者が増えれば問題だが、エンチラーダは有能だぞ?」
 テオのその言葉にルイズは頭を抱えます。

「ええ、知っているわ。有名だものね。テオフラストゥスの専属メイドはとても有能って学院で周知の事実よ。なにせアンタに付き従っている時点で有能であることに疑問の余地は無いわ。でも…でもね!……
…………メイドじゃない!」
「メイドだが?」
 何を当然のことを?と言った様子でテオが聞き返します。
「メイドとして有能な人間が!どうしてこの任務に役立つのよ!?なに?アルビオンの掃除でもするっていうの?レコンキスタの服を洗濯でもするの!?」
「ははは、いやいや。エンチラーダの能力は掃除や洗濯に限らんのだよ。エンチラーダはなぁ、こう見えても……」
「こう見えても?」
「…料理もできるのだ」
「見た目どおりよ!」
 
 楽しそうなテオとは対照的にルイズは今にも爆発寸前です。
 それも、比喩表現ではなく、文字通り爆発を起こしそうな雰囲気でした。
 
 出発前に校門で爆発事故を起こされてはたまらないと、サイトがルイズをなだめに入ります。
 
「まあまあ、俺もいいと思うよ?エンチラーダさんは有能だし度胸もあるし、力も強いし。たぶん邪魔になるようなことは無いと思うぜ?」
「なによ!ギーシュの時は殴りかかったくせに、相手が女だと途端肯定的になるのね、このエロ犬」
「イヤイヤイヤイヤ!エロ関係ねーだろ!極めて普通で中立的な意見だって!な、な!おまえもそう思うよな!」
 そう言ってサイトは隣で黙々と作業をしていたギーシュに話を振りました。
 
「僕も良いと思う」
 作業をする手を一旦止めて、ギーシュがそう言いました。

「男って!本当に救いがたいわね!!」
 ルイズが額に手を当てて嘆きました。

「いやいや、別に男だからとか、そういう理由じゃなくてね。実はさ、その、僕も使い魔を一緒に連れていきたいんだ」
 言い辛そうにギーシュがそう言いました。ギーシュとしては、エンチラーダの同行を否定してしまうと自分の使い魔の同行を言い出せなくなってしまうので、肯定するほかなかったのです。

「使い魔?どこに居るんだ?」
 サイトがキョロキョロと辺りを見渡しますが、周りには乳白色の世界が広がるばかりで使い魔らしき影はどこにもありません。
「ここにいるよ」
 ギーシュがそう言うと、突如彼の足元の土が盛り上がり、中から巨大なモグラが顔を出しました。
 
「でっけえモグラだな!」
 サイトがそう叫びました。
 そのモグラは小熊ほどの大きさがあり、サイトが知っているモグラとは明らかに違うものでした。
 
「其れってジャイアントモール?」
 ルイズがそのモグラを指さしながら言いました。

「そうさ。ああヴェルダンデ、君は何時見ても可愛いね、困ってしまうね」
 そう言いながらギーシュは大きなモグラに頬を摺り寄せました。

 その光景に一同は呆れます。
 いい年をした一人の貴族がモグラを溺愛する光景は、同じメイジであるルイズやテオからしても異様なものでした。

 テオは、馬鹿にしたように鼻を鳴らし、
「ふん、まったく、見てて哀れですらある。貴族たるもの、たとえ使い魔の前であっても凛としていなくてはならんと言うのに…」
 テオがその言葉を発し終わらんとした時、校門の中からテオを呼ぶ声が聞こえてきました。

「テオー!準備できたよー!」
 そう言いながら靄の中から登場したのは、何時もより少し綺麗な服を着たエルザでした。

「ほう、エルザ。よそ行きの服が似合っているではないか。大丈夫か?準備は一人で出来たか?忘れ物は無いか?必要なものがあれば直ぐに言うんだぞ?」
 そう言いながらテオはエルザに頬を摺り寄せます。
 ギーシュのそれとは違い、人間を溺愛する光景は別に変なものではないのですが、あいにくとエルザは完全に幼女の容姿をしています。
 幼女に頬を寄せると言うある種ギーシュ以上に危ないその光景を見て、サイトが一言。

「なるほど見てて哀れだ」
 と言いました。
 

「しかし、モグラが付いてこれるのか?」
 サイトがふと疑問に思いギーシュに尋ねました。
 いかに大きいとはいえ、所詮はモグラです。果たして馬の進行に付いてこれるのか疑問でした。
「なに、問題ないさ、ヴェルダンデは地面の中をそれは早くすすめるのさ、な!ヴェルダンデ!?」
 そう言ってギーシュがモグラを見ると、モグラはまるで言葉を解しているかのように頷きました。

 しかし、そんなギーシュとモグラに、ルイズが困ったように言いました。
「ギーシュ、あのね?ダメよ、連れていけないわ。私たちアルビオンに行くのよ?地面を掘ってすすむモグラを連れて行くことはできないわよ」
 ルイズのその言葉にギーシュはその場で両膝を地面に付け、泣きださんばかりの勢いで嘆きました。
「そんな!お別れだなんて!悲しすぎるよ…ヴェルダンデ…」

 その、あまりにも情けない様子に、テオは再度鼻を鳴らしました。
「はッ!まったく、使い魔を連れていけないだけでその嘆きよう。貴族を自負するのであればもっとこうデーンと構え…」
「あ、ちなみにその子も連れていっちゃダメよ!」
 ルイズがエルザを指さして言いました。
 
「ふじゃけんな!お前には人間の心が無いのか!?エルザが寂しがるだろ?アレか!いじめか?このあまりにも非道な仕打ちに、さすがの吾も泣き叫びそうだぞ!」
「お前ほど言動と行動がチグハグな人間も珍しいな」
 ルイズの言葉に怒り心頭と言った様子のテオをみて、サイトがポツリとそう言いました。

 怒りの声をあげるテオに対して、ルイズも同じように怒りを含んだ声で言い返します。
「だ・か・ら!なんで当然のようにメンバー増やしてんのよ!あんた守秘義務って言葉知ってる?しかも子供だなんて!危なくて連れていけるわけ無いでしょ!ピクニックに行くんじゃないのよ!これは任務なの!」
「だからといってエルザを一人置いていくなんてことが出来るか!そっちのほうが危険だろうが!良いじゃないか!子供が一人増えたって!」
「良くないわよ!」

 その時でした。
 突如ギーシュの使い魔が、ルイズに覆いかぶさったのです。

「え?ええ?ちょっと?なに?なにこれ?」
「飼い主に似てエロなのか?」
「失敬だね君は…」
 ルイズは体をモグラにつつきまわされ、地面をのたうちまわります。

「なるほど、此処でルイズを亡き者にしてしまえば、同行に反対するものがいなくなる、更には一人分の馬のスペースが増えるという算段か。よし!モグラ!ヤレ!吾が許す!」
「許すな!」
 ルイズはそう怒鳴りながらもがきますが、モグラの巨体を押しのけることはできません。

「ああ、そうか、宝石だ。その右手の宝石が原因だ」
 そう言ってギーシュが指さした先、ルイズの右手には昨夜姫から身分証明となる品として渡されていた水のルビーの指輪が有りました。
「なんで宝石?」
「ヴェルダンデは宝石が大好きなのさ」
「嫌なモグラだな」
「そう言わないでくれよ。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕のために探してくれるのさ、土のメイジである僕のこれ以上無いパートナーなのさ」

 特にモグラにルイズを害する気が無いと判って、サイトもギーシュもぼんやりとルイズが押し倒されるのを見るばかりで、なかなか彼女を助けようとはしませんでした。
 しかし、押し倒されている側のルイズとしてはたまったものではありません。害意があろうがなかろうが押し倒されている事実は変わりませんから、なんとかその状況を打破しようと渾身の力でもがきます。が、一向にモグラから解放される気配はありませんでした。
 

 その時でした。
「!」
 エンチラーダが何かに気がつくと、テオとエルザの前に立ちました。
 
 そして次の瞬間。
 一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きついていたモグラを吹き飛ばします。
 
「何事!」
 ギーシュが叫びました。
 懐から杖を取り出し戦闘態勢に入ります。
 テオも腰にさした杖に手をかけました。
 
 すると、朝靄の中から一人の男が姿を現しました。
「失礼、敵ではないよ」

 男はそう言いながら頭にかぶっていた羽帽子を取ると一礼しました。
「女王陛下の魔法騎士隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵だ、姫に命じられてね。君たちに同行することになったのさ。本当はもう少し人数が欲しいところだけど、お忍びの任務だからね、僕だけが指名されたってわけさ」
 
 そう言いながらニカリと笑うその男は、いかにも物語の主人公のような出で立ちをした男でした。
 整った容姿に、品のいい服装、体つきは逞しく、鷹のように鋭い目。更に先ほどモグラを吹き飛ばした手際を見るに、魔法の腕も一流。それもそのはず、魔法騎士隊の隊長と言うのですから魔法はもちろん戦闘全般においてこの国でトップクラスの腕前のはずです。
 
 そんな男が突然現れて、一同は言葉を失ってしまいました。
 
「悪いね、婚約者がモグラに襲われて居れば助けないわけにはいかなくてね」
 そしてその言葉にルイズ以外の一同は更に驚くのでした。
 
 取り分け、その中でもサイトの驚きようときたらかなりのものでした。
 なにせ、サイトは今までの人生において、婚約者と言う関係を現実に見たことはなかったのです。なにせサイトの居た世界では『婚約者』なんて、それこそ昔の話や昼メロの中でしか聞く機会が無い単語なのです。
 ですからルイズの婚約者と名乗る男の突然の登場に、馬鹿みたいに口を開けそのまま体を固めてしまいました。
 
 そんなサイトとは違い、テオとギーシュは驚きこそしましたが、それは然程の物ではありませんでした。
 というのも貴族の世界において、婚約者が居るということは別に珍しいことではありません。
 大抵の貴族にとって結婚は当然のことで言わば義務です。それも、好き勝手に結婚をすれば良いと言う訳ではなく、家としての付き合いを考慮しなくては行けません。
 ですから家どうしの思惑によって若い内に婚約者が決まっているなんてことは別に珍しいことではありませんし、当人同士が全く望まないながらも家の都合上婚約をしているということもざらにあるのです。
 ですから、突然現れたワルドと言う男が、ルイズの婚約者であるということには驚きましたが、婚約という事実そのものにはさしたる驚きを感じはしなかったのです。
 
「ワルド様」
 立ち上がったルイズがふるえる声で言いました。
「久しぶりだねルイズ、僕のルイズ!」
 ワルドは笑いながらルイズに駆け寄ると、彼女を抱えあげました。
 
 その行為にサイトは更に口を大きく広げました。
 
 いかにも中のよさそうな二人。
 
 ある意味では、ルイズとワルドの婚約関係はかなり良いものでした。
 お互い特に嫌い合うことも無く、それどころかルイズはワルドを尊敬しています。
 ルイズは。昔から有能であるワルドに対して尊敬と情愛の念を深く感じていたのです。
 昨日、姫の傍らに居るその姿を見て、ルイズの中ではその昔の情念が再度燃え上がって居たのでした。
 
「彼らを紹介してくれないかい?」 
 ワルドはそう言いながらルイズを地面に下ろします
「あ、えと…ギーシュ・ド・グラモンと、テオフラストス・ホーエンハイム、あと使い魔のサイトです」
 ルイズはそれぞれを指さしてそう紹介すると、ギーシュは深々とお辞儀をし、テオはまるでカーテンコールで出てきた役者のように仰々しく礼をしました。
 そして、サイトはつまらなそうに頭を下げました。
 
「君がルイズの使い魔かい?人間とは思わなかったな、僕の婚約者がお世話になっているよ」
「そりゃどうも」
 それはあまりにも無礼な返答でした。
 いかにも彼はワルドの事を気に入っていないと言った態度が、全面に押し出されていました。
 しかし、そんな失礼な態度のサイトに、ワルドはにっこり笑うと彼の肩を叩き言いました。
「どうした?緊張してるのか?ひょっとしてアルビオンに行くのが怖いのかい?なに!怖いことなんてあるものか、君達はあの土くれのフーケを捕まえたんだろう?その勇気があればなんでも出来るさ!」
 そう言ってワルドは豪快に笑いました。
 その如何にも大人のワルドに、サイトは少し悔しそうに顔を伏せるのでした。
 
 ワルドはそのまま後ろを振り向くとが口笛を吹きました。
 すると朝靄の中からワシの頭と獅子の体を持った幻獣が現れました。
 グリフォンです。
 
 ワルドはそのグリフォンにまたがると、その膝にルイズを乗せ、杖を掲げて叫びました。
「さあ諸君、出発だ」
 そう言ってグリフォンは駆け出し、一同もその後に続きました。
 
 先頭を走るワルドの姿はそれはそれは様になっていて、まさに絵巻物の世界から飛び出してきたようです。
 ギーシュなどはその姿を見て感動すらしていました。
 サイトも嫌々ながら、ワルドの立派さを認めざるおえません。
 
 しかし、ただ一人。
 テオだけは別の感想をワルドに対していだきました。
「危険だな」
 誰に言うでも無く。テオはそう呟きます。

「は?」
「え?」
 テオの口から漏れたその言葉に、男二人は聞き返します。

「あの男、危険だ」
 危険。
 実力もあり、地位もあり。なによりルイズの婚約者というこれ以上無い身分保証があるワルドに対して『危険』というその感想はあまりにもかけ離れたものでした。
 しかし、いえ、だからこそ。テオの口から出たその言葉にサイトもギーシュも真剣な表情になるのです。
 なにせテオは別に馬鹿な男ではありません。
 常識こそ偏っていますが、学年で座学一位を取るほどに聡明な男なのです。
 
 そんな彼の口から出たその感想は、二人の目付きを真剣な物にしました。
 
「危険ってどういうふうにだい?」
 真面目な顔でギーシュが聞き返します。

「ああ、あいつはルイズの婚約者で、ルイズの事を好いている」
「………………だから?」

「エルザに近づけないようにしなくては」
「「は?」」
 
「良いか?エルザ、ああいった幼い容姿の人間に欲情する類の輩が稀にいるが、そういった人間にはあまり近づかないようにしなさい。…エンチラーダもあの男がエルザに近づかないように注意してくれ」
「はーい」
「御意にございます」


 そのテオとエルザとエンチラーダのやり取りを聞きながら。
 サイトとギーシュは一瞬でも真面目にテオの言葉に反応してしまった自分を恥じるのでした。



◇◆◇◆



 極秘の任務。それも姫の勅命の任務。更にはその内容はとても危険なもの。
 とうぜん皆真剣になります。背筋をぴんと伸ばし、真面目な表情で馬に乗っていました。
 
 しかし。
 
 それが持続したのはせいぜい数時間でした。

 時間が経ち、太陽が下がり始める頃にはサイトやギーシュの緊張感は限界に達し、太陽が黄昏色を含む頃にはもう最初の真面目さは見る影もありません。
「もう半日以上走りっぱなし、どうなってるんだ」
 ギーシュがぐったりと馬に体を預けながら、同じく馬に体を預けているサイトに言いました。
「知るか」
 疲れ果てた声でサイトが言いました。
 
「まったく、これだけ走りっぱなしだってのに疲れを見せない魔法衛士隊の隊長は化け物なのか?」
 そう言ってギーシュは前方に視線を向けます。
 そこにはルイズを抱きながら依然凛々しい姿勢を崩さないワルドの姿がありました。
「あと、違う意味で感心するのが…」
 そう言ってギーシュが後方のテオに視線を向けました。
 
 そこにはいつもとは違い、黙って馬に乗るテオの姿がありました。
 それもそのはず。
 テオは。
 
 
 寝ていました。
 
 
 膝にのせたエルザと共に、馬に乗りながら船を漕ぐという器用な芸当を見せていたのです。
 
 普通、どんな乗馬の達人であっても馬の上で寝るような事はしません。
 確かに馬は生き物ですので、乗り手が寝ていても勝手に動いてくれるでしょう。しかし、それは馬の勝手な判断であって、馬上で眠ったが最後、起きたときには見ず知らずの土地、なんてことになりかねません。
 しかし、それでもテオが眠れるのは、其の隣りにいるエンチラーダのおかげでした
 
 エンチラーダは自分の馬の手綱と一緒に、テオの馬の手綱も握り、器用に二頭の馬を操りながら進んでいるのです。
 
「ほんとに優秀だなあ」
 ギーシュはその姿をみて思わずそう呟き、その言葉にサイトも頷きました。
 
 ふと、その姿を見て、ギーシュはかねてよりの疑問を彼女に聞いてみようと思いました。
「ええっと、一つ聞いて良いかな?」
「はい、なんでございましょう」
 淡々とした調子でエンチラーダが答えます。

「君は一体どうしてテオフラストゥスに仕えているんだい?」
「ああ、それは俺も気になってた」
 ギーシュのその質問に隣に居たサイトも身を乗り出しました。
 
 ワガママで散漫であるテオフラストゥスに、誠心誠意、滅私奉公のエンチラーダ。
 果たして如何なる経緯によって彼女はテオに仕えているのか。
 それは、二人の好奇心を刺激するに十分でした。
  
「どうして?とは?」
「いやね?君は別にホーエンハイム家に仕えていたメイドと言うわけでもないのだろう?つまりはテオフラストゥスに仕える義務も義理も無いわけだ。更には君は貴族が集まる学院のメイドたちの中でも取り分け優秀じゃないか。それこそ、今よりも条件のいい職場はたくさんあるはずだろ?」
 ギーシュはそう言い、サイトがそれに頷きます。

 しかしエンチラーダが静かに首を横にふりました。
「私は今の状況に満足をしていますので」

「しかし、テオフラストゥスは将来的に家を継げるとは思えないし、最悪の場合貴族では無くなるわけだ。それでも仕え続けるのかい?」

 そのギーシュの質問にエンチラーダは間髪入れずに答えます。
「無論です。私がテオフラストゥス様と言う『貴族』に仕えているのではありません。テオフラストゥス様という『個人』に仕えて居るのです。私が知るかぎり、御主人様以上に仕えるべき人間が存在しません」
 それは当然のことを当たり前に言うような口調でした。
 
 その言葉を聞いてサイトもギーシュも不思議に思いました。
 ナゼこうもこのメイドはテオフラストゥスの事を尊敬できるのだろうかと。
 
 確かにテオは有能で優秀です。他に類を見ないほどの才能も持っています。
 しかし、彼が一人の主人として相応しい人間であるかについては、サイトもギーシュも首を捻らざるおえません。

「あの、そのね?勘違いはしないでくれたまえよ?僕は別にテオフラストゥスを貶すつもりは無いんだ。しかし、その、彼が理想的な主人であるとは思えないんだ。と言うか、彼以上に立派な人間は世の中にもっと居るだろうし…ほら、例えば目の前を進むワルド隊長みたいな。地位も名誉も実力もそして容姿と性格に優れた人間に仕えたいとは思わないのかい?」
 
 その一言を聞いて。
 
 エンチラーダは遠くの一点を見ながら、一言こう言いました。



 
「全く無粋な輩ですね」

「「え!??」」

 その言葉にギーシュもサイトも驚きました。
 常に慇懃な彼女の口から、まさかそのような言葉が出てくるとは夢にも思わなかったのです。
 
「ふむ…無粋な輩か」
 エンチラーダのその言葉に、テオが目を擦りながら起きだしました。

「はい、無粋な輩です」
「まったく、どのような場所にもこういった、品のない奴らは現れるものだ」

「ちょ…ちょっといいすぎじゃね?」
 あまりの二人のことばにサイトがそう言いました。

「無粋な輩に無粋と言って何が悪い」
「事実として無粋な輩なのですから、言われて当然です」

 その二人の容赦ない言葉にギーシュは大いにうなだれました。
「僕もう泣いても良いかな?」
「いや、たしかに、たしかに俺たちが悪かったさ。本人が寝ている間に無粋な事を聞いたけれどもさ…そんなに言うこと無いじゃん…」


「馬鹿者、お前たちのことではない…前の二人!止まれ!」
 テオはそう叫び、目の前を走るワルドとルイズを呼び止めました。


「なんだ!?」
「どうしたの?」
 ワルドとルイズが振り返りながら聞きました。

「エンチラーダ」
「はい…賊です、此処より1リーグほど前方、あの段差の上の森の中に数人隠れています」

「「1リーグ!?」」 
 一同が驚いた声を出しました。1リーグとはサイトの元いた世界で約1キロメートルに相当します。確かに見通しの良い開けた場所ですが、太陽の沈みかけた暗い中そんな遠くに、しかも森の中に居る集団を普通の人間の目で確認できるとは一同信じられなかったのです。
 
「本当かい?」
「山菜摘みか何かじゃないの?」
「木に隠れているので正確な数字は不明ですが…10人以上いますね、この時間に複数人で森に山菜摘みとは考えられません。しかも、武装しています。装備は弓、おそらく剣や棍棒も持っているでしょう」
 エンチラーダが森の中をじっと見ながら言いました。
「決まりだな、こんな時間に街道沿いの森の中に武装した一団。どう考えても盗賊の類だ」

「しかし…本当に見えているのかね?1リーグも先なんだろ?」
「此処で嘘を言って何の得があるというのだ?エンチラーダが居るというからには居る」

「じゃあどうする?迂回するか?」
 サイトのその言葉にテオは大げさに首を横に振りました。
「なぜ我々が盗賊何ぞのために道を変えねばならんのだ。そのまま進むに決まっているだろ」
 そう言ってテオが杖を取り出しました。
 
「そうだな、幸い相手は、まだこちらが相手の存在に気がついていることを知らない。上手く奇襲すれば容易に倒せるだろう」
 そう言ってワルドも杖を抜こうとしますが、テオは右手をワルドの前に出し、彼の行動を制しました。
 
「失礼だがミスタ。吾の楽しみを取らないでいただきたい」
 それはまるで老人が、楽のしく遊んでいたチェス盤をしまわれてしまったかのようなセリフでした。
 
「しかし…」
「何、別に吾が単独で肉弾戦で戦おうと言うのではありませんよ。ゴーレムを使って戦う。であれば我々に被害は無い。もし、万が一、何かの間違いで、吾のゴーレムが全滅したら、その時はミスタに協力をしていただきたい」
 それはテオのただのワガママのようですが、然程悪い提案ではありませんでした。
 
 彼の言うとおり、ゴーレムを先行させて戦えば自分たちは安全な所にいられます。更にはもしそのゴーレムが倒されたとしても相手の人数や武装の詳細を知ることができます。もし勝てないような人数であった場合、ゴーレムを囮に自分たちが逃げることだって出来ます。

 ですからワルドもそれ以上反対する事無く、テオの提案に黙って頷くのでした。
 
 
「あのデカイの出すのか?」
 サイトがフーケとの戦いで出したゴーレムを思い浮かべながら言いました。
「いや、アレはださない。本来ああいった巨大なゴーレムは攻城用だ。対人で出すならば…」

 そしてテオは杖を振りながら呪文を唱えます。

「…この程度か」


「「「「!!!!!」」」」
 そのゴーレムに一同は驚愕します。
 
 そのゴーレムはとても精巧でした。
 サイトはそのゴーレムを見て、『マネキン』に似ていると思いました。もし彼が人形に詳しければ『球体関節人形』に似ていると思ったでしょう。
 容姿、大きさ、体つき。もし服を着て座って居れば、人間と見間違ってしまうほどの出来でした。
 しかし、そのゴーレムは服をつけず、片手にナイフを持ち、関節をギシギシ言わせながら立っています。
 焦点の合わない視線で無表情に立つそのゴーレムはまるで不気味の谷から這い出たかのような、言いようのない気持ち悪さを持ち合わせていました。
 
 とはいえ、そのゴーレム自体は特に驚愕に値する程のものではありませんでした。
 確かに精巧な作りですが、それくらいのゴーレムを作るメイジは別に珍しくはありません。
 一同が驚愕したその理由は、そのゴーレムの容姿や精巧さでは無く…
 
「「「「多い」」」」

 …その量でした。
 
 そこには10以上のゴーレムが、規律よく整列していたのです。



「進軍!」
 テオがそう叫ぶと、ゴーレムたちはガシャガシャと前に進んでいきました。
 
 ゴーレムたちは隊列を乱す事無く進み、ある程度森に近づくと、森の中から矢が射られました。
 
「ほれみろ、やっぱり居るだろう?エンチラーダの言うことに間違いなど無いのだ」
 テオが胸を張って言いました。
 
 森の中から射られた矢は其の半数はゴーレムに当たらず、当たった矢も貫通すること無く高い音を出して弾かれ、また一部の矢はゴーレムに刺さりましたが、ゴーレムはそれを気にする事無く進みます。 
 矢にさしたる効果が無いと判断したのか、森の中から一斉に盗賊たちが飛び出しました。
 盗賊たちはそれぞれ手に武器を持ち、ゴーレムの集団に襲いかかり、そして乱戦が始まります。
 
 
 それは一方的な戦いでした。
 
 一方的に。
 
 
 ゴーレムが倒されていったのです。
 
 あるゴーレムは盗賊に頭を飛ばされます。
 あるゴーレムは盗賊の打撃に上半身と下半身が別れます。
 あるゴーレムは盗賊に両手を吹き飛ばされ、動くことしかできなくなります。
 
 ゴーレムたちはいとも容易く倒され、盗賊たちの周りには倒れたゴーレムが散乱します。
 
「え?え…え?」
「これまずくないかい?」
「ちょっと、あのゴーレム弱くないか?」

 眼の前のワンサイドゲームにサイトたちが不安の声をあげますが、テオは笑顔を変えずに言いました。
「うん。弱いよ」

「「「「駄目じゃん!」」」」
 皆の心が一つになりました。
 
「全く、うるさい奴らだ、まあ見ていろ。弱いということが必ずしも負けるということでは無い」

 そう言ってテオが再度盗賊たちに視線を向けます。
 
 視線の先では相変わらず盗賊たちがゴーレムを倒していきます。
 
 しかし。
 ある時点で一人の盗賊があることに気が付きました。
 
 ゴーレムの数が半数程度になってから、それ以上にゴーレムの数が減らないのです。
 ゴーレムの強さは変わりません。相変わらず倒しています。
 盗賊の人数も変わりません、先ほどと同じ人数で戦っています。
 つまり、最初と殆ど変わらないペースでゴーレムを倒し続けています。
 なのに数が減らない。
 
 そして、盗賊たちはゴーレムを良く観察して気がつくのでした。
 ゴーレムたちがどんどんと復活していることに。
 
 体をバラバラにされたゴーレムたちは、外された体の一部をその身に取り付けなおして再度戦いに参加していくのです。
 戦闘不能な程に壊されたゴーレムなどは、同じくバラバラに壊れた別のゴーレムの体を使ってその無くした体を補っていきます。
 倒したゴーレムたちは一時的に戦闘を離脱しながらも、その数を殆ど減らすこと無く、依然盗賊たちの前に立ちはだかってくるのです。
 
 再生できないように体のパーツを粉々に砕けば復活はしないのでしょうが、力を込めてゴーレムを叩けどもゴーレムはバラバラになるばかりで『壊れ』はしないのです。
 
「壊れにくいようにわざと弱く、分解するようにしてあるのだ。ちなみに関節部分には磁石が仕込んであってスムーズに関節部分が…」
 テオは得意そうに自分のゴーレムについて語り出しました。
 
 しかし、一同その言葉は耳に入りません。皆、目の前の状況に視線が釘付けでした
 
 そして、それは遂に起こります。
 戦い続けて注意力が落ちてきたある盗賊の脇腹に、ゴーレムのナイフが刺さったのです。
「ギャ!」
 それは弱い力で刺され、命に別状が有るほどのものではありませんでした。
 しかし、その傷によって生まれた隙が命取りでした。
 ひるんだ盗賊に別のゴーレムのナイフが刺さり、そしてその隙にまた別のゴーレムのナイフが…
 
 その盗賊は何度も何度も刺され、その体をエメンタールのようにしてその場に倒れるのでした。

 その様子を見たその隣の盗賊は、あまりの恐怖にその場から逃げ出そうとしますが、その前にはゴーレムが立ちはだかります。
 棍棒の一振りでそのゴーレムをなぎ払いますが、その隙に別のゴーレムが現れ彼は逃げることが出来ず、ただ目の前のゴーレムを倒すことしか出来ません。
 
 そして少しずつ、しかし確実に盗賊はその数を減らします。
 
「ぎゃあ!」
「やめてくれ!」
 盗賊たちは叫びますが、ゴーレムは止まりません。
 必死で命乞いをする盗賊たちに、無感情にナイフを入れていくのです。
 
 刺された盗賊たちは、ゴーレムとは違い再生するようなことはありませんでした。
 
 それは正に地獄絵図でした。
 
 
「わあ…」
「うわ」
 サイトとギーシュは顔を歪めてその光景を見ていました。
 
「うっ」
 ルイズは、その光景から目を逸らしました。
 
 そしてワルドは。
「………」
 その光景を見ながら思案をしました。
 ワルドは、その光景を見ながらテオと言うメイジに対してどのような評価を下すべきか悩んでいたのです。
 
 はっきり言ってテオの魔法の使い方は欠点だらけです。
 
 確かに容姿こそ素晴らしい出来のゴーレムです。貴族の少女の好むような人形をそのまま大きくしたようなそのゴーレムは、動きと音から察するに中が空洞のようで、なるほど、大量にクリエイトゴーレムできた秘密もそのあたりにあるのでしょう。
 
 使う素材を少なくして、個体数を増やすのはゴーレム生成の際の常套手段と言えます。
 しかし、そこには大きな欠点があります。軽量になることによる攻撃力の低下と、中が空洞であるがゆえの脆さです。
 敢えて。関節を外れやすくし、その脆さを克服したのは中々に素晴らしいアイディアと言えるでしょう。
 とはいえ、だからと言って、それが実戦に向くかは別問題です。
 例えば盗賊の中にひとりでもメイジが居ればこの状況は一変していたでしょう。
 風の魔法で軽いゴーレムを一掃したり、土の魔法で落とし穴でも作れば、ゴーレムたちは容易く全滅したに違いありません。
 たとえ相手にメイジがいなかったとしても。もう少し相手の盗賊たちが冷静であったりチームワークに優れていれば、バラバラになったゴーレムのパーツを砕く人員を作ったり、或いは散らばったパーツを遠くに投げたりする事を簡単に思いついたはずです。
 
 しかし、今眼の前の状況は一方的に盗賊を蹂躙するゴーレムの姿があります。
 果たしてテオには戦いの才能があるのか、無いのか。ワルドはその判断をしかねていました。
 ただ、少なくとも度胸と言うか、胆力のような物はあるのでしょう。
 
 目の前のテオフラストゥスは、自分でさえ目を逸らしたくなるようなこの状況を。
 笑って見ているのですから。
 
「はははは、さてさて。ジワジワと形勢が逆転していくな!」
 そう言って笑うテオの視線の先では、盗賊たちが叫びながらゴーレムを倒しています。

 相変わらずゴーレムは簡単に倒されますが、盗賊たちの表情は絶望に満ちて居ました。

「くそ!」
「ぎゃあ!」
「神様!」

 盗賊たちはとうとう神にすがりました。
 或いはそれは、その盗賊たちが初めて、心の底から神に何かを願った瞬間だったのかもしれません。
 
 
 果たして。
 
 
 
 その願いは叶えられました。
 
 
 突風が吹いたのです。
 
 ゴーレムと盗賊たちは皆吹き飛ばされ、ゴーレムはすべてバラバラになって崩れてしまいました。
 

「何事!?」
 テオは突然のことに目を丸くし、彼を含めた一同はワルドの方を見ました。
 なにせこのような突風の魔法を仕えるのはこの中で彼しかいなかったのですから。
 
 しかしワルド自身目の前の突風に驚いている様子でしたし、その手は胸の前で組まれて杖を持ってはいませんでした。
 
 皆が混乱する中。
 
 その突風の主は、上空から登場しました。
 
 
 青い色をした見慣れた幻獣。
 そしてその上に乗る青と赤の髪の二人。
 それはタバサとキュルケでした。
 
 唖然とする一同の前に、タバサの使い魔である風竜が着陸すると、その上からキュルケが飛び降り髪をかきあげながら言いました。
 
「おまたせ」
 
「おまたせじゃないわよ!何しにきたの!?」
 ルイズが怒鳴りました。
「助けに来てあげたんじゃない。朝、窓の外にいるあんたたちを見て、急いでタバサと一緒に後をつけてきたのよ?」
 そう言ってキュルケは風竜の上のタバサを指さしました。
 そこにはパジャマ姿のタバサがいました。
 
「…助け?」
 テオがキュルケに聞きました。
 
「そうよ?…あのゴーレムはテオが出していたのかしら?殆どヤラれていたわね。辺りが残骸だらけだったじゃない。まあそれなりに盗賊も倒していたみたいだけど、あのままじゃ負けていたかもしれないから私とタバサで一掃してあげたってワケ。感謝してくれても構わないわよ」
 そう言ってキュルケが胸を張りました。
 
 確かにアノ状況を見た限りではキュルケのような感想を抱くのも無理はありません。
 周りにはゴーレムの破片が散乱し、そしてゴーレムは盗賊によって簡単に壊されているように見えます。じっくりと状況を観察しているならばまだしも、突如アノ状況に遭遇すれば圧倒的にゴーレム側が負けていると判断するのは当然のことだと言えるでしょう。
 
「………………うん……ええっと、どうしよう。吾、このやるせない感情をどう処理すれば良いんだ」
 頭をおさえながらテオがそう言いました。
 
 テオとしては「余計なことを」と叫びたい状況ですが、それをすればキュルケに対する負け惜しみになってしまいます。ですから、彼女に対する不満を飲み込むのですが。しかし釈然としない感情がモヤモヤと彼の中で渦巻き、テオは低く唸るのでした。
 
「ご主人さま」
 そんなテオに寄り添いエンチラーダは彼をなだめます。
 
「そんなことより!ツェルプストー!これお忍びの任務なのよ!」
「お忍び?知らないわよ。そうならそうと予め言っておいてくれないと」

 ぎゃあぎゃあとルイズとキュルケが言い争い、その状況にサイトとギーシュはどうしていいかわからずオロオロとするばかりです。
 そしてその周りでは、痛む体に悶えつつも、自分たちの命が助かったことを知り、倒れつつも泣きながら喜ぶ盗賊たちがおりました。
  
 散乱するゴーレムの破片。
 泣きながら喜ぶ盗賊。
 高らかに笑うキュルケ。
 怒るルイズ。
 唸るテオ。
 なだめるエンチラーダ。
 オロオロとするサイトとギーシュ。
 本を読むタバサ。
 無言のワルド。
 
 
 
 
 
 混乱する状況の中。



「むにゃむにゃ。もう食べられない」

 エルザの寝言だけが平和でした。
 
 
 
 
◆◆◆用語解説


・そっちのほうが危険だろうが
 吸血鬼を一人、監視なしの状態で学院に残して行く。
 確かに危険である。
 主にエルザ以外が。
 
・無粋な輩か
 テオは盗賊に気がつくことは出来ない。
 しかし、エンチラーダの声色からある程度の状況を読むことが出来る。
 声色や口調から相手の言いたいことを理解できる程度には二人の関係は深い。

・棍棒
 極めて原始的な武器だが、有用性が高く、特に鎧を着ている相手に対しては、剣以上に有効である。
 作りやすく、扱いも簡単なため、近年までよく使われた武器の一つである。
 さらに現在に至っても警棒等が広く使われているように、棍棒の有用性は失われていない。

・崖、 
 原作では盗賊は崖の上に立ちそこから一方的にサイトたちに攻撃をしていた。
 果たして崖の上に居る一団に対して乱戦に持ち込めるのか?書いていてすごく悩んだ。
 もしその崖がペトラ遺跡のような場所であれば、たとえどんなに離れていようとも盗賊の発見は不可能だし、戦うにしても崖をよじ登らないことには不可能だ。
 しかし、原作をよく読み返してみると、盗賊たちはタバサに崖の上から風の魔法で叩き落された際に、うめき声を上げる程度で、死んで居なかった。
 受身も取れない状態で落とされていても、命に別状がないうえにその後意識がある。更にはその後再度宿に襲撃をしていることから骨も折れていないのだろう。となれば左程高い崖ではないことが予想される。
 おそら数メートル程度の、崖と段差の中間程度のものなのだろう。
 
・ペトラ
 世界遺産。
 インディー・ジョーンズの最後の聖戦の神殿のある谷と言えば解りやすいだろうか

・不気味の谷
 ロボットやCGなどで、人間に対する忠実度が上がるほどに人は好印象を抱くが「完全に忠実の手前」で人間はとたんに嫌悪感を抱くようになる。
 これを不気味の谷現象と言う。
 身近な例では、一部CGアニメ、某FF映画、昭和花子、邪神モッコス等。

・関節部分には磁石
 ダンダダダダン ダダンダンダダン
ダンダダダダン ダダンダン
 ………
 ……………わかる人だけわかれば良い。

・エレメンタール
 穴あきチーズのこと。
 
・寝言だけが平和
 待てよ…。
 吸血鬼の寝言で…「もう食べられない」って事は…。
 それは果たして平和な夢なのか?


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