「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
自らをルイズと名乗った一人の少女が、そう呪文を唱えて杖を振り下ろした。
彼女は今、召喚の儀式を行っている。
ここ、トリステイン魔法学院では、試験の一環として使い魔の召喚を行う。
使い魔とは文字通り召喚した者に一生仕え、共に生きていく存在のこと。
それは犬や猫といった一般的な動物であったり、魔物であったり、そして時には竜であったりと、様々であった。
『使い魔を見れば、そのメイジが分かる』という言葉が示すとおり、召喚した使い魔というのは、そのメイジのステータスであり、全てと言って過言ではない。
だから、皆必死になって他者よりもより良い使い魔を召喚してやろうと必死になっているのだ。
ルイズもまたその一人であった。
「おい、また『ゼロのルイズ』が失敗したぞ!」
先ほどの嘲笑がルイズの脳裏にフラッシュバックする。
ルイズは魔法を上手く使うことの出来ない劣等生であった。
魔法を使おうとすると、何故か爆発が起き、望む結果を彼女にもたらすことはなかった。
例え、他のことでどんなに優秀な成績を修めようと、まともに魔法が使えないのはメイジとしては致命的である。
この召喚の儀式にしたって、ルイズは既に何回も失敗をしていた。
そして、試験監督を務めるコルベールに最終通告を言い渡され、今に至るのである。
(お願い!何でもいいから、私に使い魔を!)
ルイズは瞼が千切れてしまいそうなくらい強く目を閉じてそう願った。
果たしてその願いは叶ったのか。
ルイズの目の前に強い魔力が集まっていき、そしてそれが大きく膨れ上がった。
そして、次の瞬間、それは大爆発を起こした。
それは今までにない規模の爆発であった。
凄まじい爆風により、ルイズを含めた周りの生徒たちも思わず後ろへ飛ばされてしまう。
もうもうと巻き上がる土煙に辺りが包まれ、皆の視界が遮られていた。
「おい、あそこに何かいるぞ!!」
誰かが爆心地を指差してそう叫んだ。
確かにそこには大きな影が立っている。
そのことにルイズは大きく喜んでいた。
(やった!やったわ!成功した……成功したんだわ!)
心の中でそう叫ぶと、ルイズはすくっと立ち上がり、視界の悪い土煙の中を駆ける。
そして、誰よりも先に自分の召喚した使い魔をその目に見ようと胸を躍らせた。
(私の、私の使い魔!)
やがて周囲を覆っていた土煙が晴れ、影の正体をルイズへ見せた。
それは『人』であった。
「……えっ?」
ルイズはあまりの衝撃に一瞬立ち止まってしまう。
通常、人間が使い魔として召喚されることはない。
あまりに常識外れな事態に、周囲も戸惑いを見せていた。
「…………」
それは、召喚されたその人物も同様であった。
全身をローブに包んだ大男。
ローブの奥底にある筈の顔は深い闇に隠されて全く見えない。
男は一見すればメイジに見えるが、手にはメイジに似つかわしくない大剣を持っている。
男を包むローブも、このハルケギニアでは見たことのない紋様が刻まれていて、かなりの異彩を放っていた。
「我は……何故……?」
男は呟いた。
まるで洞穴の向こうから響いてきたかのような声がとても不気味であった。
「ここは……『無』ではないのか?」
再び男は呟いた。
そしてとてもゆっくりとした動作で周囲を見回すような仕草をする。
男の得体の知れぬ不気味さに、誰も声をあげることが出来ないでいた。
ただ一人、男を召喚したルイズを除いては。
「コルベール先生!召喚のやり直しを要求します!」
ルイズはコルベールに向かって声を掛ける。
人間を召喚してしまったという異常な事態よりも、自分の使い魔が人間であるということがルイズには我慢ならなかった。
ただでさえ魔法が使えないことで馬鹿にされているのに、こんな例外を受け入れてしまえば更に馬鹿にされるに違いない。
ルイズのプライドが男を使い魔とすることを拒んだのだ。
男の雰囲気に圧倒されていたコルベールは、ルイズのあまりに場にそぐわぬ提案に答えかねていた。
すると、男がルイズに向かって問い掛けた。
「召喚……我を召喚したのは貴様か?」
男の威圧的なオーラに一瞬気圧されながらも、ルイズは毅然と答える。
「ええ、そうみたいね。でも、人間を召喚したなんて何かの間違いに決まってるわ。だからすぐにやり直して別の使い魔を召喚してみせるわ」
「そうか……」
男はそう言ってニヤリと笑う。
実際に笑ったかどうかは定かではないが、言葉にそういった含みがあるのが感じられた。
「礼を言わねばな……」
男はゆっくりと手を上へ翳す。
「一つ教えてやろう。我が名はエクスデス。刻むがよい。絶望の無の中で永遠に……」
メテオ
その日、ハルケギニアの一部の場所へ数多の隕石が落ちた。
トリステイン魔法学院とそこにいた生徒たち、そして教師たちは消失した。