「ん~~~! 今日もいい天気ね~」
学園祭があった翌日、ルーアンの宿屋にて起床したエステル。
窓を開けて、雲ひとつ無い空を仰いだ。
快晴の空を飛ぶ鳥を見てなんだか清々しい気分になってくる。
「エステルさん、朝食の時間ですよ」
「あ、クローゼ。ありがとう、今行くね」
朝食の時間だということで、一足早く起きて階下に降りていたクローゼが、エステルを呼びに来た。
エステルはクローゼに返事を返し、白いフリル付きという意外と可愛いパジャマから、いつもの白いシャツを着て、防刃タイプの茶系のチョッキを着る。オレンジ色のスカートにオレンジと白色のジャケットを着た。
愛用の武器を腰元に挿し、革のホルダーを装着。
髪を二つに結い、髪留めで固定するといつも通りの自分がいた。その作業を鏡を見もしないで支度を終えた。
エステルは16歳という年齢にも関わらず、化粧をした事もなければ化粧品を一個も持っていない。
着替えも特に鏡を見ずに終わらせるという作業を16年間やってきた。そんな娘を母であるレナも頭が痛そうにしていたのだが、いくら言ってもめんどくさがってやりたがらない娘の態度に、ほぼ諦めていたのだ。
準備を終えたエステルは宿のベッドを整理して、忘れ物がないかチェックし、朝食を食べたあとすぐに出れるように確認を終えると、エステルは部屋の扉に手をかけた。
そのまま出た――――と思えば。
「・・・・・・・・・・・・」
傍にあったある両開きの台に目をやり、ピタリと停止。
それは、朝クローゼがエステルより早く起きて、身支度を整えうっすらと化粧を施していた時に座っていた台。
それをエステルはベッドの上でぼんやりと寝ぼけ半分で眺めていた。
その時にエステルが思った事は「クローゼ・・・・・・可愛いいなぁ」という、率直な感想だった。
「・・・・・・・・・・・・」
エステルは両開きの扉を開き、大きな鏡の正面に立った。
サササッとツインテールの髪を手で何度も梳く。顔の向きを何度も変え、何かをチェックしているようだ。
眉毛を何度もなぞり、また髪をいじり始め、前髪を梳く。
そんな作業に、およそ5分。
「・・・・・・う~~ん」
すると今度は、洋服のジャケットの襟を整えたり、パタパタと洋服に付いたゴミをはたき落としたり、スカートを度々翻して折り目をチェックしたり、肌が見えてる太ももを見たり。
とここで、妙なポーズをとり始めたエステル。腰に手を据えてポーズを取るその姿は「うふ~ん」といった擬音がどこからか聞こえてくるような錯覚がした。
それからまた5分ほど、様々なポーズをとっていたエステルは、大きな溜息を吐いてトボトボと部屋を出て行ってしまった。
ドンヨリと落ち込んだエステルは小さくこう呟いたという。
「・・・・・・これからは報酬で少しは服を買おうっと・・・・・・あとアクセサリーとか・・・・・・化粧品も・・・・・・クローゼに教えてもらおう・・・・・・はぁ」
◆ ◇ ◆ ◇
「やっぱり意地悪な質問だったと思うんですよ」
「まぁねぇ。それがナルらしさといえば、それまでなんだけど」
「ナルさんは、もう少し女の子に優しくするべきだと思います」
「・・・・・・やっぱり女はめんどうだ」
立ち入り禁止の塔から出てきた人たちは、合計3人。
まるで浮浪者のように薄汚れた格好の少女―――ティオ。隣には真っ赤な髪の女性と真っ白な髪の男性が一緒に歩いていた。
ティオは疲れたような顔で出てきながら、不満をぶつぶつと呟いていた。
「でもティオ。あんたはあんたなりの『真実』を答えたんでしょ?」
「真実・・・・・・ええ、まあ。そう言えると思います。昔捕まっていたロッジで私は、いえ、私たちは・・・・・・めんどくさい事ですが、皆が死を待つだけの身でした。毎日続く人体実験で本当に未来などみえず、死が着々と近づいてくるのを誰もが感じていたと思います」
「・・・・・・・・・・・・そう」
「そんな時、私は思ったんです。もちろん同じように捕まっている仲間もいましたが・・・・・・ひとりぼっちで死んでいくのかって。なんて虚しい、寂しいんだろうと」
「・・・・・・・・・・・・」
「それからルシアと出会って・・・・・・こ、恋をして、なおさら独りで死にたくないって思ったんです。そう、せめて死ぬのなら―――大好きな人と一緒に迎えたいって」
「なるほど。確かにそれは、ある意味で一番幸せな瞬間かもしれないな」
ナルが頷きながら同意する。
彼も、そしてルビィも、その生きた年月の長さから、含蓄のある言葉しか出てこない。
「そうね。先に死ぬ者も、残される者も、どちらも本当に辛いもの。それにティオ、なんだかんだ言っても全てを守ろうとするんでしょ?」
「ふふ・・・・・・それは勿論」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべるティオ。めんどくさいけど私は欲張りなんです、と続けた。
いやいや結構結構、とナルとルビィは笑う。
昨日の戦いは嘘のようで、いや、確かに幻という事で嘘ではあったのだが、その激しさ故に、今の緑溢れた雲ひとつ無い天空はギャップがありすぎて、ティオは一瞬だが目眩がしたという。
クロスベルにある百貨店『タイムズ』に行って、可愛い流行の洋服を買って熱いシャワーを浴びたい、ティオは心底そう思っていた。
すると、そんなティオに対し、海岸線まで歩いたナルが振り返ってこう言った。
「そんじゃ、まあ、ここら辺でお別れだ」
「へ・・・・・・もうですか?」
「まあな。3週間程度だが、あとは自力で鍛えろ・・・・・・それも、ドラゴンマスターの道だ」
「そういうこと。それに基礎は全部教えたしね。もう私たちが教えれる事はなにもないわ。それに私たちにもやらなければならない事があるの・・・・・・大事な準備がね」
「そう、ですか・・・・・・ルビィ、ナルさん。この数週間のあいだ鍛えてくれて、色々と知識を分け与えてくれてありがとうございました」
ペコリと頭を下げるティオ。
彼等が持つ、文字通り数千年の知識を無償で譲ってもらったのだ。その価値は計り知れない。
知識の偉大さと重みを、その頭脳の高さ故に常人より遥かに知っている。
2人は打算はあったかもしれないが、それでも失敗する可能性が高いにも関わらず、自分に賭けてくれた。だから、その気持ちに応えたい。
「ああ。俺は最初の竜の試練である『白竜の試練』を乗り越えた魔道士ティオを、心から祝福する」
「あたしも。まあ、あたしに見込まれた時点で『赤竜の試練』は乗り越えたことになるんだ。だから赤竜ルビィは魔道士ティオを祝福するわ」
白竜ナルの指先が向けられ、その指から小さな白光がキラキラと輝きながらティオへと向かって宙を漂ってくる。
赤竜ルビィの指先が向けられ、その指から小さな紅の光がキラキラと輝きながらティオへと向かって宙を漂ってくる。
その光は、ティオにはただの光とは思えなかった。
まるで生きているかのようにティオの回りをくるくると漂い、不自然に点滅を繰り返している。温度なんか無い筈なのに温もりが伝わってくるような、不思議な光で。
それは確かな確信だった。
(私は今、誰も体験した事がない――――不思議な現象を体感してるっ!)
それこそ、これを体験したことのある人は数える程で、きっと数千年前が最期の人だと。
光が形を構築されると同時に、なぜか自分の身体の中にその光が入ってくるような、そんな錯覚すら感じる。
その瞬間だ。
ティオの額から後頭部まで囲む、真っ赤で炎を模したデザインのカチューシャが現れた。驚いたティオがソレを触ろうとした瞬間、両手には何の素材で出来ているのかさっぱり解らないが、確かに鉄甲と呼べるものだった。
だが甲冑兵が付けるような無骨なものではない。手の甲が重点的に網目状に巡らせ、一種の手袋にも思えてしまう。だが素材は確かに頑丈で壊すのは不可能なのではと思ってしまう真っ赤な素材で出来ていた。
そんな手の甲とは逆に掌を覆うものは何もなく、魔導杖を持つのにも何の不具合もない。
それが両手に装着された。
今度はナルから発された白光が身体全身を覆ったと思うと、裏面が白で表が深い紺色のマントが装着された。
毛皮にしか見えないのに、いざ触ってみると全く違う材質だと分かる。だがそれも鉄甲やカチューシャ同様に、何の材質かさっぱり解らない。
その重厚な、でも軽すぎるマントはティオのひざ下まであり、小さな身体のティオをすっぽりと包んでしまうサイズであった。
紺の薄汚れた上下の服、スカートという衣装にプラスして、エイオンシステムという無機質な小さな機械が胸部に装着している服装に加えられた、新しい衣装たち。
アンバランスになるはずなのに、何故かマッチしているように感じてしまう。
それは衣装の神聖さを醸し出す雰囲気がそのように魅せていた。
「そのマントは俺、白竜に認められた証だ。効果と性能は言わずとも分かるよな・・・・・・無くすなよ?」
「その防具は赤竜に認められた証だよ。私の力が貴方を助け、補助してくれる。私のが赤竜の証。そっちが白竜の証って所」
そして来るべき時がきたら、その力の全てが十全に発揮される、そうルビィは告げ、2人はゆっくりと光の中に消えていった。
塔の前で一人残されたティオは、大きく息を吸い込む。
「空が・・・・・・青い・・・・・・」
まるで、自分を祝福しているように感じた。
確かに生まれ変わったと言える程の力を手にした自分は、今たしかに自信に満ち溢れている。
だから、世界が活力に溢れているように見える。
やる事がいっぱいある、そうティオは呟く。
ルシアの捜索。ルシアと敵対する『魔族』の動向を探り、目的を知ること。
そしてルビィから教わった、魔族の背後にいるという、ルシア最大の敵である『ゾファー』という存在。
ゾファーというのはどういった存在かは解らないが、魔族の背後にいるというのだから厄介な敵である事は間違いないだろう。
「絶対に―――」
小さな身体で、ちっぽけな少女だったティオは、鉄甲を装着した左手を空へと掲げる。
何かを求めるかのように、天空に輝く太陽を掴む。
真っ赤な武具が紺の服でより映え、太陽光でキラキラとマントと武具が光った。
それは、大きな一歩を踏み出した少女を、世界が祝福しているようなほど、美しい光景であった。
◆ ◇ ◆ ◇
男は石造りの廊下を歩いていた。
紫炎の色の上下がひと繋ぎになった衣装を纏い、メガネをかけたその男は歩く。
密閉された空間を歩いているからか、足音が妙に反響する。
その男の顔はまさに知的で端正な顔付きをしていて、一切の油断などない。
だが、反響する足音はその男のものだけではない。複数の足音がこだましていた。
それもそのはずだ。
男の後ろには、複数の人影があったからだ。
「この度はよく集まってくれた。突然の招集に集まってくれたこと、感謝する」
「全くだ教授。しかもこんな所に呼び出すなんてよ」
「フフフ。まあいいじゃないヴァルター。こんな所、なかなか来る機会はないんだからさ」
ヴァルターという、オールバックヘアーの筋肉質の男に話しかけてきたのは、長い髪を一つにまとめ、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す女性だった。
「でも教授。こんな呼び出しは当初の予定には無かった筈でしょ? どうなってるのさ?」
「ふむ、確かにね」
緑色の髪に、上質な赤紫色のスーツを着込んだ、目の下に刺青を刻んだ若い青年の言葉に、全身真っ白のタキシードに仮面を付けた、まさに変態という単語が相応しい出で立ちの男が頷いた。
「その答えは・・・・・・この先にある『もの』を見てから答えよう」
一同の先頭を行く男が皆の疑問に口を釣り上げて笑い、重たい重厚な扉の前に立つと、ゆっくりとその扉を開いた。
その先にあったのは、広大な空間。
あまりにも大きな空間の、その中央には先に中に入っていたのか、既に幾人かの人影が見える。
ヴァルター、そして妖艶な女性であるルシオラ。《幻惑の鈴》の異名を持つ執行者No.VIは目を細めて、誰がいるのか見た。
刺青を入れた若い青年は立ち位置の都合上、すでに誰がいて何があるのか見えているのか「・・・へぇ」と興味深そうな声をあげる。
仮面を被った変態、もとい男は無言であったが、口が半開きになっていることから、驚いているのがよくわかった。
「おや、やっと来ましたか」
「待たせたようだね、博士」
「いやいや、こちらとしては解析が全く済んでないのでね、むしろもっとゆっくりでも良かったくらいですよ」
「ほう・・・・・・『身喰らう蛇の』頭脳である博士ですら手こずる程ですか」
とある『もの』の前で、様々な機械を持ち込み、何かを調べていた白衣を来た中年男性と仲良さそうに話す男。
白衣の男の名はF・ノバルティス。《蛇の使徒》の第六柱。《身喰らう蛇》の研究機関「十三工房」の長という肩書きを持つ、身喰らう蛇の中でも幹部の一人だ。
「いやいや、実に興味深い。計画の為に『あちら』の仕事の最中だったんですがね。この話を聞いて興味が湧いて今回の招集に来てみれば、実に面白いものに出会えた。感謝してますよ『教授』」
「いやこちらこそ感謝してるんですよ。恥ずかしながら、私では何も分からなかったのでね」
教授と呼ばれた男は小さく笑い、背後で『とあるもの』に見入っている連中―――『執行者』たちへ振り返った。
「今日は皆にこれを見てもらいたく集まってもらった。今後の計画にも大きく関わりそうな案件であるし、事の次第によっては計画を大幅に前倒しして進める、かもしれないからね」
教授は『それ』を触る。透明なガラスのように見えるそれを割らないように優しく触る。
だが教授は、でもこれを砕く事もヒビすらも入らないんだ、と溜息を吐いて言う。
「あぁ? 割れないって・・・・・・冗談言ってんじゃねぇよ。これガラスじゃねぇのか?」
「違う。ヴァルター、君の腕力でも破壊はできないだろうね」
「あたしの幻惑の技でもかい?」
「アーツも既に試した。ビクともしなくてね」
「いやちょっと待てよ教授。俺の力でも砕けないって、なんでそんな事がわかんだよ?」
ヴァルターは少しイラついた声で問う。執行者の中でも随一の力を誇るヴァルター。大型重機などで代用しない限り力を測定出来ないはずの現状、特にそれらしき物が見当たらないので見縊られたとイラついていた。
アーツなどはまだ分かる。ルシオラ以外にも彼女に匹敵、もしくは超えるアーツを放てる人物はたくさんいるからだ。
だが、そんなヴァルターの気を察した教授が彼に教えようとした瞬間、言葉を遮る声が響いた。
「―――私がソレに攻撃を加える実験を先に行ったからですよ、No.VIII《痩せ狼》ヴァルター」
その瞬間、全員が硬直していた。その場にいる全員が、その声の主に覚えがあったからだ。
その声は機械を通した声であるのに、一発で女性の声だとハッキリと分かる。
暗闇の中から現れたその人物は、真っ白なフルプレートアーマーに顔を全面隠した、一見するとロボットのように見えた。
そしてその人物の後ろには女性3人の、同じく鎧を身にまとった部下が。
誰もが感じる。部下3人ですら、自分たち執行者に匹敵する実力を持った猛者であることを。
そして誰もが知っている。
声をかけてきた、フルプレートアーマーの鎧の人物こそが、自分たちすら相手にならない程の次元違いの実力を持つ『身喰らう蛇』最強の存在。
「―――『鋼の聖女』だと!?」
ヴァルターは驚愕の表情を浮かべ、刺青の青年―――執行者No.0《道化師》の異名を持つカンパネルラは、ニッコリと笑ってヒラヒラと聖女へ手を振る。
ルシオラは納得したように頷き、変態仮面の男《怪盗紳士》の異名を持つ執行者No.Xブルブランはなんだか面白そうに口元を緩めている。
ただ『聖女』が登場しただけで、場の全員が納得していた。
イラついていたヴァルターですら、牙を引っ込めているのだから、聖女がどういう位置づけなのかは一目瞭然だった。
「私の全力の攻撃に、ソレは傷ひとつ付きませんでした。その結果を加味すると、任務と諸用で来れなかった『剣帝』や『死線』でも不可能でしょう」
「それは無理だね~。《蛇の使徒》の第七柱の貴方ですら無理なら僕らじゃ無理だね」
「そうですねカンパネルラ。あとはアーツですが、彼女に行ってもらいましたが、結果は同じでした」
そういって聖女がすっと手をかざすと、反対側の暗闇の中から一人の女性が出てきたではないか。
コツコツとハイヒールを鳴らすルシオラと違い、音を立てずに楚々と歩き、その様は正に清楚で可憐としか言い様がない。
白いフレアスカートを履き、天女が着る服を模した匠の服を纏い、薄い灰色の髪を腰元まで伸ばしたその姿は、絶世の美女だと誰もが言うだろう。
「執行者No.ⅩⅤ『氷の魔女』フェイシアが直々にか。これでアーツも効かない事が証明されたね」
「・・・・・・お久しぶりです皆様。ご健勝のこと、心より喜び申し上げます」
「おおっフェイシア。相変わらず君は美しいね。君が現れると私の心も踊るようだ」
「ブルブランさんも。お元気そうですね」
フフフと笑うフェイシアと呼ばれた女性は、皆へニッコリと微笑む。
ルシオラは若干不機嫌そうにそっぽを向いたが、カンパネルラの断言した言葉に誰も何も言わないところ、誰もが彼女のアーツの実力を否定せず認めている証拠だった。
「とまあ、ここに大変豪華なメンバーが集まってもらった訳だが《蒼の深淵》など、他のメンバーは外せない任務の都合上来れなかった。すまないね」
「まあ、それはいいんだけどよ」
「うん。それよりさ教授。『ソレ』を調べたいのに破壊も出来ない、傷も入れられない、だから何も解らない未知のものというのはわかったし、僕らを集めて協力させるってのもわかったんだけど――――そもそもコレ何?」
カンパネルラは目の前に浮かぶ物体まで歩き、コツコツと拳でドアをノックするように叩いた。
無機物の中にいるもの。そもそもこの物体事態がおかしいのに、更にその中にみえるものもおかしい。
この物体は『計画』のあの道具に匹敵、それ以上に不可思議な道具であると皆が察して、しかしそれ以上に訳が分からなかった。
故にその場にいる全ての執行者、そして使徒が教授の言葉を待っていた。
皆がどれだけ目を凝らそうが、肝心な部分は見えないもの。
だが。
――――結晶体の中に一人の人間が浮かんで入っている事だけは、分かった。
「この中のやつ、男か? それとも女か?」
「イヤラシい奴だねヴァルター。どこを見てんだい?」
「うるせーよ。区別つく所がそこしかねぇだろうが。とは言っても顔以外は見えないんだがな。つーかなんでこんなに濁ってんだ?」
「フッ。悲しいな。女とか男とどうでもいいじゃないか。この人物はどっちだろうが、美しいのだから。その事実の前には些細なものさ」
「フフフ、その言葉には僕も同意するよブルブラン」
「・・・・・・」
執行者たちはその摩訶不思議な結晶体を観察する中、違う反応を示した者たちがいた。
数年前より執行者のポジションに付き、瞬く間に見た目とは裏腹に卓越した戦闘技術を要するフェイシアと。
皆をニコニコ笑いながら観察するフェイシアへと顔を――正確には面だが――向ける鋼の聖女の2名だ。
「考え事ですか、フェイシア」
「・・・・・・これは鋼様。いえ、私は皆様が楽しそうなので見守らせて頂いただけですわ」
「・・・・・・・・・・・・」
フフフと笑うフェイシアと聖女。
穏やかな、一見普通のやり取りのはずなのに、どこか寒々しかった。
そんな彼等を他所に、結晶体の中にいる人物は目を閉じて浮かんでいた。
外界では鎖骨より上しか見えなかったが、それでもその顔立ちは人形のように美しく。
ピクリとも動かないので、死亡しているのではと勘違いしてしまいそうで。
綺麗な長い髪を臀部まで伸ばして、その様はまさに『女神』様としか例えようのない容姿の持ち主。
結晶体の中は、そのような人物を囲うのに相応しくない汚水だった。
まるで『血』が水に染み込んだように。
――――青き星のルシアが、その中にいた。
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短いですけど、ここで一旦切ります。
次の話は完全オリジナル。ティオの大冒険の始まり始まり~~~~(オイ