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No.34464の一覧
[0] 【習作】【R-15】LUNAR~英雄伝説~ (LUNAR×軌跡シリーズ)[セラフィム](2017/05/23 02:35)
[1] 一章 FC編 プロローグ[セラフィム](2012/08/08 23:50)
[2] 序盤ステータス[セラフィム](2012/08/08 23:36)
[3] 第1話 全ての始まり[セラフィム](2012/08/08 23:38)
[4] 第2話 歩き出した少年[セラフィム](2012/08/08 23:39)
[5] 第3話 マリアベルのお説教[セラフィム](2012/08/09 23:27)
[6] 第4話 歌という魔法[セラフィム](2012/08/11 05:52)
[7] 第5話 狙われ始めた少年[セラフィム](2012/08/11 21:11)
[8] 第6話 来訪、クロスベル[セラフィム](2012/08/11 21:32)
[9] 第7話 シスター・マーブル[セラフィム](2012/08/14 21:20)
[10] 第8話 過去と未来[セラフィム](2012/08/14 21:19)
[11] 第9話 変化[セラフィム](2012/08/16 23:18)
[12] 第10話 涙[セラフィム](2012/08/18 00:20)
[13] 第11話 ブライト家[セラフィム](2012/08/18 21:55)
[14] 第12話 ひとつの選択[セラフィム](2012/12/27 19:23)
[15] 第13話 事件の始まり[セラフィム](2012/12/27 19:23)
[16] 第14話 愚かなのは・・・[セラフィム](2012/12/27 19:24)
[17] 第15話 記憶[セラフィム](2012/10/17 23:18)
[18] 第16話 ティオ・プラトー[セラフィム](2012/11/08 22:57)
[19] 第17話 欲望[セラフィム](2012/11/07 20:55)
[20] 第18話 惨劇[セラフィム](2012/11/08 22:53)
[21] 第19話 事件発生後[セラフィム](2012/11/28 19:18)
[22] 第20話 心[セラフィム](2012/12/05 21:28)
[23] INTER MISSION 01[セラフィム](2013/01/16 21:28)
[24] INTER MISSION 02[セラフィム](2013/05/12 00:10)
[25] 二章 FC編序章  設定[セラフィム](2012/12/26 23:10)
[26] 第21話 準遊撃士エステル[セラフィム](2012/12/26 21:25)
[27] 第22話 遊撃士とは[セラフィム](2012/12/26 22:54)
[28] 第23話 廻り始める歯車[セラフィム](2013/01/01 00:52)
[29] 第24話 出発の前に[セラフィム](2013/01/06 20:21)
[30] 第25話 ボース市長登場[セラフィム](2013/01/16 21:25)
[31] 第26話 噂と人物像[セラフィム](2013/01/16 21:11)
[32] 第27話 誠と真実[セラフィム](2013/02/26 00:05)
[33] 第28話 人は変わるもの[セラフィム](2013/03/20 23:18)
[34] 第29話 絆は共にいた長さ[セラフィム](2013/04/03 23:53)
[35] 第30話 過去を知る女[セラフィム](2013/04/05 00:51)
[36] 第31話 竜使いとしての道[セラフィム](2013/04/10 22:46)
[37] 第32話 魔法[セラフィム](2013/05/09 21:33)
[38] 第33話 その選択の行方は・・・[セラフィム](2014/01/11 22:15)
[39] 第34話 蠢く勢力[セラフィム](2014/05/13 18:40)
[40] 第34.5話 設定 ティオ[セラフィム](2014/05/17 01:13)
[41] 第35話 歌姫誘拐事件 その①[セラフィム](2014/05/13 16:12)
[42] 第36話 歌姫誘拐事件 その②[セラフィム](2014/05/17 01:11)
[43] 第37話 歌姫誘拐事件 その③[セラフィム](2014/06/11 00:57)
[44] 第38話 歌姫誘拐事件 その④[セラフィム](2014/10/28 00:43)
[45] 第39話 歌姫誘拐事件 その⑤[セラフィム](2015/01/01 03:02)
[46] 第40話 歌姫誘拐事件 その⑥[セラフィム](2015/05/11 00:50)
[47] INTER MISSION 03[セラフィム](2017/05/23 02:31)
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[34464] 第28話 人は変わるもの
Name: セラフィム◆52a32f15 ID:b75bd50d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/20 23:18
第28話 人は変わるもの



 牢獄。

 誰もがその単語を聞けば思い浮かぶイメージといえば、犯罪者や悪人や罪人だろう。

 過去に国が定めた『法』を侵したり、窃盗、脅迫、そして殺人。

 人に迷惑をかけた者は例外なく幽閉される場所。そんな場所に、その3人はいた。


「あたし達は空賊を捕まえようとしてるのに……どうしてこんなところに捕まっちゃってるのよぅ」

「う〜ん」

「ホントだね。まったく原因がわからないな」

「あんたが余計なことしたからでしょ! まさか牢屋にお世話になる日が来るなんて……」


 ぶちっとキレて突っ込みを入れるエステル。

 ……遊撃士という正義の味方の立場にいる筈なのに、こんなところにぶち込まれていたら、それは御立腹になっても仕方ないというものだろう。


「いやいや、ボクはただ君達に贈り物をしただけさ。君の心の中にも一筋の光明が差しているのがわかるだろ? それがあの時ボクの歌が届けた愛と平和なのだよ」


 フサッと前髪を掻きあげてポーズを取るオリビエ。

 バカっぽくみえるポーズもどこか彼に似合っている、のだがエステルもヨシュアもなんだかジト目を向けているので少し間抜けにも見える。

 そんな2人の視線にも気付かず、大仰なポーズを更に取るオリビエ。


「そう! 今風に言うと……ラブ&ピース」

「誰もそんなこと聞いてないんだけど……」

「エステル、彼には聞こえてないみたいだよ」

「それにこんな所と君は言うが、牢はある意味最高の環境と言えるのだよ。薄暗い灯りせまい空間。そして二度と外へは出られない悲劇的状況……」


 二度と出られないという言葉にエステルは「いやいやいや」と手を振って突っ込もうとするが、オリビエは止まらない。

 ススっとヨシュアに近寄り、彼の手を両手でギュッと包み込むように握りしめ、顔を近づける。


「麗しの美少年とロマンスを育むのに絶好のシチュエーションだと思わないかい」

「え?」

「こら〜〜〜〜!! あんたそういう趣味の人!?」

「美しいものに目がないだけさ」

「うっさい! それ以上近づくな!」


 なんだか薔薇が咲いた光景を幻視したオリビエ・ヨシュア空間に割って入り、弟の貞操や世間体を守るために彼を引き離すエステル。


「大丈夫、ヨシュア!? なんだかボーっとしてるけど!」

「え、ああ。ごめんごめん。少し気になることがあって……」

「気になること?」

「うん。気になる点は2点。1つは……王国最強の将軍がティオに何の用があるのか」

「あ……そうね。ティオ、少し震えてたっていうか、顔を青褪めてたし……大丈夫かな」

「まぁ酷い事はされていないだろうね。君達の妹君とは話をしたいと言っていたが」


 オリビエもその点に同意し、エステルやヨシュアは妹に何の用なのか、この場にはいないティオを心配しつつ、石造りの無骨な牢屋の天井を眺めた。







「そこに掛けて楽にしてくれ給え。おい、彼女に茶請けも」

「ハッ、了解しました!」

「……どうも」


 妙に丁寧な軍人の対応に、ティオの戸惑いは大きい。

 とりあえず案内のまま椅子に腰掛け、正面に座ったモルガン将軍の指示で部下の兵士がお茶と茶菓子を持ってきたので一息吐く。

 部下の兵士が壁際に直立で立った所で、モルガンは佇まいを直して話しかけてきた。


「まずは、そうだな……私の事は知っているだろうか?」

「はい。リベール王国軍総司令官モルガン将軍。数々の武勇伝を残した猛将と謳われ、リベール王国の砦とも言われています」

「うむ……そして『あの』事件にも関わり、リベール王国側を担当、指揮した者でもある」

「…………」

「1つだけ、ずっと言いたかった事がある…………勿論、これは君の気持ちを蔑ろにしているのかもしれない。そうだ、これはただの自己満足でしかないのだろう。だが、それでも言わせてもらう」


 そう言うと、モルガンは席から立ち上がった。窓際にいたモルガンの傍付きの兵士たちも傍へと駆け寄り整列する。

 何を言われるのかと眉を顰めていたティオだが、その様子に思わず身構える。

 そして行われたのは———敬礼。


「……あの時、もっと早く助ける事ができず、すまなかった。そして助かって……生き延びてくれてありがとう。我々はリベール王国軍を代表して、貴殿に感謝と謝罪の意をここに示させて頂く!!」

「敬礼〜〜〜〜〜〜!!」


 ティオは知らない事だが、この敬礼しているモルガンと兵士6名は、あの作戦に参加していた古参の兵士であった。そしてあの子供たちの骸を直接その眼でみて、絶望し、慟哭し、悲しみ、そして悔んだ者たちだった。

 きっと自分達の言葉はただの自己満足に過ぎない、それは分かっていた。軍人としてこんな事は私情を挟んだものであり、とても褒められたものではない。

 だがそれでも言いたかったのだ。人として『助かってくれた子供』に。

 助かった彼女ではなく、自分達が助けられたかのように嬉しかったのだ。

 そしてティオは、


「いえ……恨んではいません。感謝もしてます。だから、気にしないでください」


 小さく微笑んでいた。


「そうか……ありがとう」

「でもどうしてそこまで……」

「あの一件は過去に類を見ないほど酷かった。生存者も20名足らず……死者は子供たちを含めて500人以上だった」

「そんなに、だったのですか」

「ああ……一生涯、忘れることはないだろう」


 ふぅ、と眉間を小さく揉むモルガン。再び席に腰を掛けて感慨深く呟く。

 ティオはモルガンの態度に目を伏せてしみじみと語り出した。彼の姿勢に何かを感じたのだろうか。あの事件以来、初めて語ることだった。


「あの時……私を含めた皆が泣いていました」

「…………」

「何時終わるともしれない人体実験。毎日聞こえてくる絹を裂くような悲鳴や断末魔。ゆっくりと忍び寄る、でも確かに聞こえる自分の死期。あれは……昨日のように思い出せます」 

「……むごいな」

「ええ。でもそんな時出会ったんです。希望に」

「希望?」

「ふふ……1人の男の子です」

「!」


 もしや、とモルガン達は反応した。

 ティオは少し照れ臭そうに頬を染めながら言葉を紡ぐ。


「その人は自分が人体実験でボロボロになっているのにも関わらず、捕まっていた私たちを励ましてくれたんです。まあ、励ましてくれたと言っても、本当に一言二言でしたし、実際にはとある歌を教えてくれただけなんんですけど。でも彼が言った言葉の1つ1つがあの時の私たちの希望になり、支えになったんです」

「そうか……」

「だから、きっと生き残れたんだと思います……彼の、ルシアのおかげで生き残れた子も大勢いると思います」


 そこで、初めてティオの顔が曇る。

 その瞳に浮かぶのは悲しみであり、罪に苛まれるような孤独な目であった。


「でも、助けられた時こう思いました。私が助かってよかったのか、生きていて良いのかって」

「っ! それは……」

「申し訳なさと薬でこうなった自分が汚く感じて……正直生きていたくなかった……」


 ふふっと自嘲するティオに、モルガンは目を見張る。

 助けて終わり、ではなかったのだと思い知らされた。


「でも、そんな時に思い出したのも、彼の存在と彼が教えてくれた歌でした。不思議なんですが、歌っていると胸があったかくなるのを感じました。生きる活力みたいなのが漲ってくるのを感じたんです」

「…………」

「それからです。せめて生きて彼に会うまでは頑張ろう。生きて会ってお礼を一言言おう、そう思えたのは」

「そうか……」

「はい。そしてブライト家に養子になって、家族の一員になって、生きていて良かったと、自然に思えるようになりました」


 やっぱりルシアと家族のお陰です、と悲しみの表情から穏やかな表情へと変わる。

 モルガンはそんな彼女にホッとして、そして彼女がいう『恩人』へと焦点を当てた。


「ルシア君か……カシウスがずっと捜している子だな?」

「はい……ガイさんもでした。というかやはり知っていたのですか」

「それは当然だな。各国軍の上層部、部隊長クラスなら誰もが知っている。発見次第保護しろとの命令も下っているのでな」

「保護、ですか?」


 確保ではなくて、と言外に匂わせる。

 そんなティオの意思を感じたのだろう。モルガンは苦笑してそれを否定した。


「少なくてもリベールは保護だ。帝国の鉄血宰相は捕獲したいのだろうがな」

「っ!」

「しかし依然として未だに発見できていない。君たちの父親であるカシウスも探しているようだが……結果は知っての通りだ」

「あ、あの、お父さんの件は……?」

「ああ、行方不明になっている事だろう。こちらとしても探ってはいるが事実確認は取れていない。だがあのカシウスが乗り合わせていながら易々と賊に奪われるはずがない」

「……ですよね、やっぱり」

「まぁ心配する必要もあるまい。あいつは滅多な事でやられるようなタマではないからな」

「そう……ですね」


 実力に関しては疑っていない。おそらく実の娘であるエステルよりも知っているつもりだ。

 あのガイよりも実力は上であり、遊撃士の中でも頂点に立つ実力者たちの一人。

 おそらくだが、辺り一帯を爆弾か何かで吹き飛ばさない限り、父は死ぬことはないだろう。

 いや、それで死ぬかも怪しい。それくらい父は強いのだ。

 それでも心配するのが家族ってもので。理屈じゃないのだ。


「ところで君には家族がいたな。だがどうしてブライト家に養子に?」

「いえ、それは……」

「報告書で見たことがあるが……あの力のことが関係しているのか?」

「そ、それは……その……それもあって……上手くいかなくなって……いろいろあって……」

「そうか。不躾なことを聞いたな。だが今の君はとても幸せそうだ。ブライト家とはよくやれているようだ。まぁ、揃いもそろって遊撃士なんかになるのが気に入らんが」

「ふふ」

「君と末娘のレン君の工房での実績も大したものだ」

「そんなことも知ってるのですか」

「言っただろう? 君やレン君。いや事件関係者の君の事は心配していたと」

「…………」


 モルガンの言葉に苦笑しつつ、だがある言葉に反応して思わず目を薄める。

 敢えてそこには突っ込まず、前から気付いていた事に確信した。

 すると部下らしき兵士が飛び込んできた。


「モルガン将軍! お話中失礼します」

「どうした?」

「遊撃士を名乗る女性が面会と拘留中の人物について話があると」

「なにぃ? 遊撃士ぃ?」


 なにやら雲行きが怪しくなってきた、と怒りを漲らせるモルガンを笑いつつ、ティオは小さくため息をついた。



 



 一方。

 牢屋の中ではヨシュアがもう一つの考察を述べていた。


「そしてもう一つは『あの時』のモルガン将軍の言い方だとさ、あの時軍はまだ廃坑にあった飛行船を知らなかったみたいだよね」

「ああ、そういえばそうね。遊撃士が軍より早く見つけちゃうなんて、あたし達って天才!?」

「いや、それはおいといて」


 エステルの自画自賛の言葉に苦笑しつつ、ヨシュアは横に置いておく仕草を見せ、


「そう……だったら、あの検問は何の意味があるのかな」

「え……軍があたし達遊撃士の邪魔をするためでしょ?」

「ふむ」

「うん、確かに飛行船と空賊艇を隠すために行われたと思う。でもそれなら封鎖の命令を出した軍の上層部が、この事件の指揮をとっているモルガン将軍が飛行船の存在を知らないなんてあり得ない筈なんだ」


 うーんと唸り考え込むヨシュアに、エステルは指摘されて初めて気づいたようにハッとなる。

 確かにモルガンは、飛行船の存在を知らないようだった。だから自分たちが投獄されたといっても過言ではないのだ。

 だが封鎖していたのにモルガンが知らないとはありえない。

 それはつまり———。


「モルガン将軍が嘘をついている可能性と、あるいは……」

「将軍以外の何物かが軍を動かしている、か」


 オリビエが物言いたげな笑みを浮かべつつ呟いた。

 エステルはオリビエに驚き、そしてヨシュアがその可能性に気がついたオリビエを警戒する。


「あなたは一体……」


 なんとなく流されていたが、よく考えるとこの人物は警戒しなくてはならなかった。

 そうヨシュアは思い、オリビエを見つめる、のだが。


「ボクとデートしてくれたら教えてあげるよ!」

「結構です」

「ああ、つれない君も魅力的だ!」

「あんたはちょっとは黙ってなさい!!」

「まったくだ」


 せっかく話の中で重要な点について気付きかけたのに、オリビエにめちゃくちゃにされたエステルは激しく突っ込む。

 オリビエはヨシュアの手を握り頬を染め、ヨシュアはドン引きするというカオスな空間が出来上がった中、牢の外から3人に声がかかった。


「おぬしらのおしゃべりは聞き飽きた。さっさと出て行くがいい!」

「な、なによ突然……ってティオ! 大丈夫だった!? なにもされてない!?」

「姉さん……軍の人たちが何かするわけないです」

「そ、そうよね。よかった」

「全く。我々の前でそんな会話を……まあいい。さぁ、釈放だ」

「は〜い」


 やったーと陽気に牢から出るエステルと苦笑しつつ姉を出迎えるティオ。

 何気に失礼な事を言ったエステルの変わりに謝りながら出るヨシュアと、関係ないとばかりに優雅に出るオリビエ。

 なんてフリーダムな連中なんだと付き添いの兵士が思いながら、4人は外へと出て行った。


「ヨシュア・ブライト。エステル・ブライト。ティオ・P・ブライト……カシウスの子供たち、か」


 振り返り、ぺこりとお辞儀をするティオ。

 モルガンは4人の背を見ながら、感慨深そうに呟いた。









 さて、急に釈放されたエステルとティオたちであるが、外に出ると待っていたのは意外な人物であった。

 銀色の髪を靡かせ、肩を露出した大胆な服装を上手く着こなす女性は、エステルたちにとって馴染みの女性。


「シェラ姉!」

「はぁい。監禁生活は満足した?」


 C級遊撃士にして『銀閃』の名を持つ有名な実力者、シェラザード・ハーヴェイであった。

 シェラザードはくすくす笑いながら妹分達を迎えた。


「シェラ姉ってばどうしていつもあたし達のピンチに現れるの!?」

「すごいでしょ〜、って言いたいところだけど、事の次第を知らせてくれたのはリベール通信社の記者さんなの」

「あぁ、そっか! ナイアルとドロシーが、ってあの2人あたし達置いてきちゃったのに……あ、そっか。その時に」

「そういう事。まあ、その後、気になることがあるとか言ってどこかへ行っちゃったわ。あたしだってあんた達に色々と聞きたいのよ。たとえば……」


 と言って指を差したのは、シェラザードの手をとって手の甲にキスをしようとしてるオリビエの姿が。


「コレ、あんた達の友だち?」

「ブンブンブン」


 擬音まで口に出して否定するエステルとヨシュアとティオ。

 余程そのように思われたくないらしい。というより、シェラザードの笑顔に嫌な予感を感じたのかもしれない。

 そんな状況を無視するかのごとく、オリビエの暴走は止まらない。


「ああ、ボクはなんという幸せ者なんだろう。暗き牢から出て最初に目にしたのが貴女のような美女だとは!」

「あらありがとう。でもあたし達これから仕事なの。席をはずしてもらえない?」

「シェラ姉気をつけて! そいつ変人よ! っていうかオリビエも早く言うとおりにした方が———」

「これも女神のお導き。どうです? 僕と今晩一晩の———」

「———聞こえなかったのかしら?」


 ひぃ! という奇声を上げて、オリビエは電光石火のごとく離れて行った。

 どうやらシェラザードの視線と言葉がよほど怖かったのだろうか。オリビエが怯える子犬に見えたティオであった。


「さあ話して頂戴」


 何事もなかったように話すシェラザードに、3人はさすがだなぁと思わずにはいられなかったのであった。








 その日の夜、シェラザード・エステル・ヨシュア・ティオ、そして何故か同行しているオリビエの5人がいる場所は、ヴァレリア湖畔のリゾード宿『川蝉亭』にいた。

 まずヨシュア達から飛空艇の件やモルガン将軍たちの件を聞いたシェラザードは、軍部の妙な点について同意を示した。

 そして自分が掴んでいた『間もなく王家から乗客たちの身代金が窃盗団に支払う』ことが照らし合わせ、時間がないことが発覚する。

 つまりそれまでに犯人を捕まえなくてはならないのだが、ボースの窃盗事件も急に無くなり、また捜索範囲も絞り込めずに打つ手なしの状況であった。

 しかしそこで意外や意外。頭脳派とはいえないエステルが突発的な閃きにより、状況は打破されることとなった。

 それは、ジョゼットと出会った時の会話。

 ヨシュアが宿について尋ねた時、咄嗟に出てきた地名や場所などは、実は焦りから関係した場所、そこに近いところを言ってしまうものではないだろうか、という事だった。

 その意見に僅かながら光明を見出したシェラザードたちは、とりあえず賛成して川蝉亭へと向かった。

 川蝉亭に着いた一行は、とりあえず聞き込みを開始。

 宿の周辺を調べるのはエステル、ヨシュア、ティオの3名。

 そして宿内を聞きこむのが、シェラザードとオリビエであった。

 その際、オリビエが懲りずにシェラザードを、お酒を飲みながら食事でも、と誘い、シェラザードも「酔わせて何をするつもりなの」と言いながら誘いを受けていた。

 少し『大人』な雰囲気が漂った両者の間に、エステルが頬を赤らめて過剰反応を示すが梨の飛礫。

 2人は和気藹藹としながら宿へ入って行った。

 エステルは「シェラ姉がオリビエの毒牙に」と心配したがヨシュアは大丈夫でしょ、と心配せず、ティオはハァと大きなため息と共に呆れながら一人スタスタと歩いて行ったのであった。

 そうして始まった捜索活動だが、宿内で飲んだくれる2人は余所に、3人は宿周辺を回っていた。

 怪しい人影、物などないか探していたのだが、これといって怪しいものなど無く、辺りは暗くなっていた。


「エステル。そろそろ暗くなってきたら戻ろうか」

「うん……」

「そうですね。シェラ姉さんたちも何か掴んでいるかもです」


 自分が提案しただけに、エステルは何も成果がなかったことに意気消沈していた。

 そんな彼女を気を使うように慰めるヨシュアとティオはポンポンと背中を叩くのだが、ふと前方に建物が目に入った。


「ねぇ、あれって……」

「あれは琥珀の塔というそうです」

「そう。四輪の塔の1つで、ロレントにも翡翠の塔があるね」

「へぇ〜〜〜。そういえば、翡翠の塔であった変なおじさん。えっと……アルバ教授だっけ。あの人があの塔にもいたりして」

「まさか、そんな偶然が……」

「アルバ教授?」


 会ったことがないティオは首をかしげるが、次の瞬間、エステルがいた横の茂みから人が飛び出してきた。

 その人物こそ、今まで話していた人である、


「アルバ教授!?」

「おや、君たちは翡翠の塔であった……」


 アルバ教授であった。

 彼は出会った時と同じように本を片手に何やら難しそうな書類を持っていた。


「ん? ああ、また懲りない人ね。琥珀の塔に入るなんて」

「いえいえ、そんな! 皆さんにこってり叱られましたからね」

「ふ〜〜ん。で、何かいいもの見つかった?」

「いいえ、ここもダメでした。やはり四輪の塔は謎が多いです」

「ほら。やっぱり登ったんじゃないの」

「はっ!?」


 エステルの誘導尋問にうっかり本音を零すアルバ。

 ティオはそんな迂闊だが愉快なアルバに笑みを零す。


「どうか私のことは見なかったことに!」

「はいはい。まあ、次は気をつけてね」


 と、大らかにも見逃してあげるエステル。

 するとアルバが何かを思い出したように、ポンと手を叩いた。


「そういえば、見つかると言えば妙なものがありましたよ」

「?」

「琥珀の塔の頂上から見えたのですが、あれはたぶん飛行船の一部かと」


 その言葉に、エステルとティオとヨシュアはお互いの顔を見合わせて、コクンと大きく頷いたのであった。









「シェラ姉! 空賊たちの場所がわかったわ!」


 と、さっきまでの落ち込みが嘘のように元気良く宿の扉を開けるエステル。

 ヨシュアとティオも追っていた犯人達の有力な情報が手に入ったこともあり、頬が紅潮していることから少し興奮している事が分かる。

 しかしそんな気分も上機嫌な3人とは余所に、宿の食事スペースではカオスな空間が広がっていた。


「お〜かえりなさ〜〜〜い」

「う〜ん、う〜ん……もう無理だ……」


 机の上には所狭しと酒瓶が転がり、その数は常軌を逸した程の量が散乱していた。

 それにも関らず上機嫌で未だに酒を煽るシェラザードと、対照的に真っ青になって突っ伏しているオリビエがいた。


(あ〜、やっぱり変人オリビエといえども、シェラ姉には勝てなかったか)

(ま、無理だよね)

(予想通りです。これでシェラ姉さんよりアイナさんの方が酒豪なんだから、人は見かけによらないというか……)

 目の前の惨状に各々の感想を述べるティオたちであった。


「んもう。またこんなに飲んで」

「なに言ってるのよ。まだ序の口よ」

「これで序の口ですか……」

「いやティオ。これは普通の感覚でいえば飲みすぎだから」

「ほら、オリビエ。まだ飲みなさい」

「ま、待ってくれシェラ君。君は何故天使のような笑顔でそんな悪魔のような所業をっ!」

「なによ、私の酒が飲めないっていうの?」

「…………」


 ついに言葉すら発さず動かなくなったオリビエに、シェラザードは「だらしないわねぇ」と言い、


「じゃあ、エステル。こっちへ来なさい!」

「ダメよ。あたし達、まだ未成年だもん」

「なによつまらないわね〜。なら、ヨシュア〜〜〜。一緒に飲もっ!」


 むぎゅーっと豊満な胸にヨシュアの顔を押し付け、ぎゅーっと抱き締めるシェラザード。

 何気にテンションはハイになっているらしい。


「付き合ってくれたら、服を脱いであ・げ・るっ!」

「ぬっ!?」

「あ〜も〜」

「もう手はつけられません」


 シェラザードの言葉に敏感に反応し復活を告げたオリビエと、呆れるエステル、もはや放置することに決めたティオ。

 そして顔を真っ赤にしながらバタついているヨシュア。

 誰にもこのカオスな空間は止められなかったのであった。










「な〜るほど。確かにあれは空賊艇に間違いなさそうね」


 日も暮れた暗闇の林の中で、木々に隠れるように鎮座する飛行艇を前にして火を囲み食事を取っている空賊。

 なんだか和気藹々とした雰囲気は賊というよりも、仲の良い友達のようにも見える。


「うん。お手柄よあんた達。ざっと見て空賊は7人ってところだけど」

(す、すごい……)

(もうシラフなのね……)

(シェラ姉さんの不可思議な人体をレポートに纏めたいです)


 酔いつぶれたオリビエと違い、それ以上に飲んでいたシェラはすっかりいつも通りだ。

 酔って赤くなった顔も元通りで、一瞬でシラフになったシェラザードの神秘に、ヨシュアもエステルもティオも驚愕の顔をしていた。
 

「あ、でも違うわシェラ姉。ジョゼットが見えないもの」

「あの男、キールとかいう空賊もいないね」

「それに飛行船の中にも数名いるみたいです。気配を感じます」

「なるほど。ここにいる奴らが全員って訳じゃないのね。あんた達ならどうする?」

「もちろん突撃あるのみよ! また飛行艇で逃げられたら元も子もないもの!」

「ふむ……その作戦はどうかな?」


 ふと聞こえてきた声。

 声の主は、酔いつぶれて放置してきた、何故かずぶ濡れのオリビエであった。


「オ、オリビ——っ!?」

「エステル、静かに——!!」

「しー、ですよ、姉さん」


 あんた潰れてたんじゃ、と叫びかけたエステルに、ヨシュアとティオが2人がかりで口を塞ぐ。

 こんな所で大声だして賊に見つかったらどうするんだと目力で語っていた。


「驚いたわ。あれだけ酔いつぶれてよく回復したわね」

「まあね。胃の中のものを全部吐き出して冷たい水を頭からかぶってきたのさ。ははっ。おかげで文字通り水もしたたるイイ男だよ」


 濡れた髪を無理やりベチャっとかき上げ、良い男を演出するオリビエ。

 しかしどうにも様になっていなかった。

 そんな彼に、みんなはどん引きだ。それこそ正に「うわー……」という表現が正しい程に。


「それよりさっきの続きだが、こんな所で空賊の下っ端を制圧して終わりなのかい?」

「え?」


 オリビエの言葉に思わず言葉が洩れるティオ。

 そんな彼女に、オリビエはウインクをしながらこう言ったのだった。


「奥に潜む根悪に辿りつく為には、思い切って敵の懐に潜り込む事も必要ってことさ」










 空賊団カプア一家の飛行艇は、頭領の兄弟であるジョゼットとキールが戻って来ると同時に移動開始した。飛行艇は真夜中から飛び立ち、明朝と同時にリベール国境の山脈地帯に入り、とある廃坑のように人の手が加わった洞窟の中に飛行艇は入って行った。

 長い期間、管理すらされていないその洞窟内は、意外と広い。飛行艇すら一艇のみだが出入りできる離着場。そして枝分かれした通路に無数の部屋。

 だがそれらはすべて洞窟内にある為に、隠れ家としては最適だった。

 飛行艇が到着すると中からカプア一家が出てくる。

 中にはジョゼットと、そしてボースの中で脱出する際にエステル達から逃げきった男・キールの姿があった。


「じゃあボクたち、先にドルン兄に報告してくるね!」

「へ〜い」

「いってらっしゃ〜い」


 ジョゼットとキールがにこやかに笑いながら駆けていくと、手下らしき男たちは談笑を始めた。


「しかし忙しいなぁ、近頃は」

「もう少しの辛抱さ。身代金が手に入ればこんな生活ともオサラバできるさ」

「そうそう。その為に……お嬢や兄貴たちがあんなに頑張ってくれるんだぜ」


 その語る彼らの顔はとても嬉しそうで、賊に似つかわしくない程ほのぼのとした雰囲気だ。

 そして。

 そんな彼らの背後に忍び寄る、人影。

 ゴチンという強烈な殴打音と共に彼らは昏倒した。

 彼らを襲った人物たち。それは……。


「よっし。潜入成功!」

「フッ。上手くいったようだね」

「まさか空賊艇に密航しちゃおうなんてね」

「一見無謀のようにも見えますが、大胆で効果的かもしれませんね」

「うん。これで捜査状況は一気に進展したといっても良いよ」


 空賊艇にこっそり密航したエステル達であった。

 オリビエの閃きによりこっそり闇夜に紛れて飛行艇に潜り込んだのが上手くいき、アジトへの潜入に成功した。

 シェラザードは妙案を思い付いたオリビエを褒める。


「オリビエには感謝しなくちゃね」

「だったらその感謝の気持ちを具体的に示して頂こう……シェラ君の魅惑の———」

「いいわよ。帰ったら酒場でい〜〜っぱい奢るわ」

「ひぃぃ〜〜〜〜!! ごめんなさい!!」


 完全にトラウマになっているらしい。オリビエは目尻に涙を浮かべて怯えていた。

 少し可哀想に思ったエステルは、どことなく昔の自分をオリビエに重ね見たのだった。


「さぁ、一気にいくわよ!!」

「「「おう!」」」

「…………おーけーだ! シェラ君!」


 復活も早いオリビエであった。
 

 




「どぅおおりゃあああああぁぁ!!」


 凄まじい破壊音と共に女性らしからぬ掛け声で木製の重厚な扉を破壊して入って来る、見た事のない人。

 部屋の中にいた大勢の人々は突然の音に驚いて扉から離れ、おっかなびっくりで様子を窺っていた。


「いた!」

「ビンゴですね」


 一方で部屋に突入したエステルとティオたちは、部屋の中に閉じ込められていた乗客を発見した。

 どこかにいる筈だと踏んで捜しまわっていたのだが、一層堅牢な扉があり怪しいと踏んだのが見事に大当たり。その中に乗客たちはいた。


「みなさん! 遊撃士協会の者です。皆さんを救出に来ました!」

「おお」


 シェラザードが乗客たちにそう告げると、皆が安堵と共に喜びの声を上げた。

 こういう状況の鉄則を知っているシェラザードは、更なる安心感を与えれる情報を明らかにした。


「見張りの空賊は片付けました。安心して頂戴」

「おおおっ」


 そういうと皆に安堵の表情が浮かぶ。

 見張りを縛り終わったオリビエが室内に入ってくると、エステルとティオがきょろきょろと何かを捜していた。

 オリビエは何をしているのか訪ねようとするが、その前に彼女たちが怪訝な表情を浮かべたではないか。だがそれにはオリビエもすぐに気付くことになった。乗客の様子が少しおかしいのだ。

 何かを話しているようだ。

 オリビエは耳を澄ます。


「やっぱり凄いよ。また当たった」

「日時も人数も当たるなんてな。今まで占いなんて馬鹿にしてたけど、今度からは信じるぜ」

「いや、それにしても凄過ぎ」


 困惑と驚き、嬉しさと若干の恐怖を浮かべる乗客達がいたのだ。

 その一団に気付いたエステルとティオ、そしてオリビエとシェラザードは近づいて事情を聴く。

 中の中年男性が応えてくれた。


「ふむ。興味深いことを言っているね。何のことか僕達にも聞かせてもらえるかい?」

「あ、ああ。あそこにいる女性、占い師らしいんだ」

「ふむ。占い師か」

「占いねぇ……なんか胡散臭いわね」

「……ですね」


 遠慮のないエステルの言葉に、苦笑しながらもティオも肯く。

 彼女にとって専門は電子系である。論理じゃない事はどうにも信じがたい。

 中年男性は彼女たちの感想を笑い、それを否定した。

 
「俺たちも最初はそう思ってたんだ。けれど、最初は賊の見回り時間を占いで当てて、ここにいる連中の過去にあったプライベートの事を占いで当て、そしてあんた達遊撃士、救出隊が今日のこの時間に来る事を予想していたんだ。今のところは100発100中。もはや占いというよりも未来視や予言のレベルに感じたよ」

「ほえ〜〜〜」

「その占いをしたのが、あの人なのですか?」


 ティオが中年男性が教えてくれた女性へと仰ぎ、皆がその人物を見る。

 壁際の席に座り水晶を片手に持っていた女性。フードを被っているが顎まで伸ばした金髪の髪がフードから覗き、左頬には入れ墨らしき模様がある。肌の色が真っ白で瞳が赤く小さく微笑み、どことなく『魔女』のようなイメージを彷彿させる女性だった。


(そうだ。そこまで凄い占い師なら、お父さんの事やルシアの事を聞けば何か解るかも)


 と、そう思ったティオが近づこうとした時だった。


「何の騒ぎだ!? って、お前ら!」

「あっ!?」

「あいつら、あのときのっ!」

「ヨ、ヨシュア!!」


 物音を聞きつけた賊が駆けつけてきたらしく、拘束された仲間に驚き、そして室内の破壊された扉と遊撃士一同に驚き武器を向ける。

 先頭にいるリーダー格のキールと、周囲にいる子分連中。そしてヨシュアに反応しているジョゼット。

 見事に見つかってしまったのだった。

 シェラザードは思わず舌打ちをし、しかし見つかってしまったのだから仕方ないと開き直り、犯人へ宣告する。

 この切り替えの早さと対応は、慌てるエステルやティオとは違い、やはり経験の差が出ていた。

 ……ヨシュアだけは刃物を取り出し、臨戦態勢であったが。


「空賊団カプア一家! 遊撃士協会の規約に基づき貴方たちを逮捕するわ!」

「キ、キール兄貴!」

「いや、ここまずい。一旦ひかねば。ここには———」


 キールが険しい顔をしてそう言うが、その瞬間に背後からエネルギー攻撃が襲いかかり、部屋の中の壁を破壊した。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 運が良かった。たまたま人がいない場所の壁に直撃し、壁は崩落。人的被害は0ではあった。

 だが、当たれば間違いなくただではすまない攻撃に、全員が攻撃主へと睨みつける。

 キールたちの背後からやって来たのは、クマのように体格が大きく、ジョゼットたちと同じく青髪に髭を生やし、大きな導力砲を手に周囲に威圧感をまき散らしながら入ってくる男。


「なーに言ってるんだキールよぉ。そんな奴ら、ここで殺しちまえばいいじゃねぇか」

「ド、ドルン兄」


 ジョゼットたちの反応と男の風格から、この男が親玉だと察する。

 そしてその言葉から発せられた内容から、慌てていたエステルやティオも臨戦態勢になる。


「ほぅ。てめぇらが例の遊撃士か。ふん、直接乗り込んでくるとはいい度胸だ。全員血祭りにあげてやるぜ」

「待てよ兄貴! 場所を変えよう! ここじゃ戦闘は無理だ!」

「なに?」

「そ、そうだよドルン兄! ここには人質がいるんだよ! こんなところで導力砲なんか使ったら人質のみんなまでケガしちゃうよ!」


 キールとジョゼットがドルンに待ったを掛けた。

 その表情は必至で、この場にいる乗客を含めたエステル達は、彼女たちは賊ではあるが人でなしではないのだと理解する。

 しかし、そんなジョゼットたちの一番上の兄であるドルンは、顔を歪ませ残忍な顔で言った。


「それがどうした?」

「なっ……!」

「いいじゃねぇか。身代金は手に入ることになったんだ。人質なんざお払い箱よ。丁度いい。みんなまとめてあの世に送ってやるぜ!!」

「ドルン兄!!」

「よせ兄貴!!」

「うるせぇ!! 俺のすることに文句言うんじゃねぇよ!」

(チャンス!)


 揉めてる所をチャンスだと判断したヨシュアは一息で懐に飛び込み、導力砲を刃で叩き上げる。


「なっ!?」


 衝撃で思わず撃ってしまったドルン。放たれた攻撃は天井に直撃し、追撃しようと一緒に飛び込んでいたシェラザードの背後に崩落した。

 つまり、室内に閉じ込められたエステル・ティオと乗客、そしてジョゼット達と。

 ドルン・ヨシュア・シェラザード、そしてドルンの配下の連中に分断されてしまったのだ。


「エステル! ティオ! 大丈夫かい!?  ……エステル!? ティオ!?」


 ヨシュアは崩落に巻き込まれたのではと心配し、珍しいほど取り乱してエステルとティオの心配をしていた。シェラザードはそんなヨシュアを初めて見たが、経験から即座に我に返り、ヨシュアを嗜めた。


「ヨシュア! まだ眼の前に敵がいるんだから、こっちに集中しなさい!!」

「は、はい!」

「てめぇらぁ……舐めやがって!! ぶっ殺す!!」


 ドルンの目は血走り、怒りに震えている。

 サッと構えたヨシュアとシェラザードに向かって、ドルンの導力砲が火を噴いた。







 一方。

 閉じ込められたエステル・ティオ組みの方はというと、戦闘中のヨシュア達とは違い、間抜けな光景が広がっていた。

 
「能天気女! どうしてお前がこんなところに!」

「な、なによボクっ子! あんたたち空賊をやっつけに来たに決まってるでしょ!!」

「へーんだ。やれるもんならやってみなよ!」

「あ、あんですってー! あんた自分が何やってんのかわかってんの!? 飛行船襲って街を騒がせて」

「だってボク空賊だもーん」

「関係ない人を巻き込んで! こんな所に閉じ込めて! あたしが、残された家族がどんな辛い思いしてたのかあんたにはわかんないの!?」


 エステルの怒気と指摘にジョゼットは怯み、何も言えなくなった。

 場の空気もジョゼットたち空賊団に向けられ、敵意しかない。


「だ、だってドルン兄が……」

「ドルン!? 全部あいつの仕業なの!? そうよ、あいつが一番めちゃくちゃよ。遊撃士であるあたし達どころか人質まで傷つけようとするなんて! どうしてそんな酷いことができるのよ!!」


 そんなエステルの言葉に、ジョゼットは堪らなくなって、悲鳴のように大声で叫ぶ。


「うるさぁい!! ドルン兄を悪くいうな! ドルン兄は、ドルン兄はとってもとっても優しいお兄ちゃんなんだから!!」


 痛ましいといえるジョゼットの言葉に今度はエステルが怯む。

 そんなジョゼットの頭をポンっと叩き、兄のキールが一歩前に出る。


「事件はおれたちカプア一家が起こしたことだ。今更弁解する気はないさ。そして今は二対一……ここであんたとやりあってもいいんだぜ?」

「っ!」


 その言葉にエステルはさっと相棒の武器を向け構える。

 一気に緊迫した空気が流れる、が。彼らは忘れている。

 一見、まったく戦闘者にみえない可愛らしい少女が、実はこの中で一番冷静かつ論理派な人間であることを。

 ガチャリ、とキールの背中に機械らしき感触が。

 ジョゼットとキールはハッとなった。


「遊撃士ではありませんが……私を忘れられては困りますね」

「…………っ」

「キール兄!」

「ティオ!」

「ああ、動かない方がいいですよ。あなたに突き付けてるのは私がツアイス工房で造った護身用の10万ボルトスタンガンです。そしてもう一つが導力杖と呼ばれる武器です。基本はアーツ発動の補助機能ですが、近接戦闘用としてボーガンも搭載済みです」

「……おいおい。戦いすらできないお嬢ちゃんが、武器なんか危ないもの持ってんなよ」


 キールはティオが持つ凶悪な武器にギョッとする。エステルですら初めて聞いた妹の武器に仰天しているのだから、突き付けられてるキールは溜まったものではないだろう。

 しかしよく見れば大した年齢にも達してない少女ではないか。

 虫すら殺せそうにない雰囲気に色白な肌。戦闘訓練すら積んでいないようにみえる身体付き。

 迂闊に手を出せずにおろおろしているジョゼットを視界に入れつつキールは手を上げながら、挑発半分でそう言った。彼としては隙を窺っているのだろうが、その言葉はティオにとって、今の彼女には地雷であった。

 
「貴方たちこそ何を勘違いしてるんです?」

「……なに?」

「これでも私、この状況に怒ってるんです」

「…………」

「人質にすら手を出す犯罪者。それを兄の責任としてなすりつける手下…………ええ、貴方たちは本当に不愉快です……人のトラウマを刺激する……なんだか躊躇わずに引き金を引きそうです」

「ティ、ティオ、やめなさい!」


 エステルは思わず妹へ待ったをかけた。理知的な妹ならば攻撃しない事は信じている。これは自分への援護だとも察せる。

 だが、今の妹はどこかおかしい。焦燥感に駆られているというか、興奮気味というか、高ぶっているというか。とにかく危ないのだ。

 それはキールやジョゼットも思ったのだろう。思わず武器を地面に下ろして降参していた。


「と、とりあえず降参する。だがその前に、この瓦礫の山をどうにかしないか? 一時休戦というか」


 発したキール自身、苦しい言葉だなぁ、あり得ない提案だと思ったが、既に出てしまった言葉故に諦める。周りも「いや、それは」と思ったのだが。

 そしてそれはティオもである。何を言ってるんだと、ジト目で見ている。

 だが。

 ここでエステルという少女は斜め上をいくのが彼女たる所以である。


「……分かった! じゃあこの瓦礫をなんとかしましょ!」


 エステルは笑みを浮かべてそう言い、くるっと背を向けて瓦礫の前に立った。

 その見事な無防備に晒すエステルに、ティオは「はぁ……まあこれが姉さんです」と苦笑し、キールたちは逆に突っ込んでしまった。


「おいおい……いいのかよ。そんな簡単に敵に背中を見せて」

「あ〜〜〜〜確かに不味いかな」


 今頃気付いたといわんばかりに目を泳がせるエステル。周囲も皆思ったのだった。おいおいと。

 そしてその答えは実にエステルらしい理由であった。


「……うん。あたしはあんた達と自分の勘を信じるわ!」

「さすがはエステル君。それでこそラブ&ピースだよ!」

「うわっ! オリビエいたんだ。完全に忘れてた」


 今までどこにいたのか、突如オリビエがニョキっと出てきて薔薇を振りまく。


「ま、いいわ。早く手伝ってオリビエ。ティオも」

「了解です」

「まかせてくれ」


 そう言って武器を仕舞い、エステルの下へ駆け寄るティオとオリビエ。

 そんな彼女たちに触発されたのか、人質となっていた乗客たちまでが手伝うと言ってきた。


「よし、俺たちも手伝うぞ!」

「俺も!」

「私も!」

「あ、え、えといいの! みんなは監禁で疲れてるから——」

「それがそうでもないんだ。ドルンってやつはともかく、他の空賊には結構よくしてもらってたんだ」

「ああ。誘拐事態は悪いことだけど、待遇はそんなに悪くなかったよ」

「……そっか」


 嬉しそうに笑うエステルと、ティオは少し気まずげに顔を反らす。

 理屈ではまったくティオに恥じることも間違ってることもないのだが、本来の彼女の優しい性格から、彼らを一緒くたに捉えた事が、少し気まずかったのだろう。


(あれ……でもあたしの父さんが……)


 最初から気になっていたのだが、父親の姿が乗客の中に見えないのだ。

 エステルはティオへ視線を向け、彼女もその意味を察してコクリと肯く。

 そう、周囲の乗客へと父親について尋ねようとした。

 だが。


「フ、フフフフフフフフフフ」


 突如部屋に木霊する女の笑い声。

 何事かと皆が声の発信源へと振り返り、自然とその主と遊撃士たちが向かいあえるように道が開かれた。

 その声の主は、先ほどの占い師の女であった。


「フフフフ。なるほどなるほど」

「な、なに?」


 その女性は壁にもたれ掛かっていたが、スッと離れ、エステルたちの下へと近づいてくる。

 紺のローブがどこか不気味さを際立たせ、皆が後退りして道を更に開ける。

 エステルが何かと尋ねると、女性は聞こえていないかのように何度も呟いた。


「面白いお嬢さん。興味深い余興を見せてくれたお礼に、お嬢さんの未来を占ってあげる。ついでにこの瓦礫も除けてあげるわ」

「へ?」

「このロウイスの占いは、なかなか当たるんですのよ」

「え、えっと」

「…………」


 勝手に始めた占い師ロウイスにエステルは困惑する。

 それどころじゃないんだけど、と言いたいのだが、目の前の女性の妙な迫力が場を支配していて強く言い出せない。


(この女性は一体……この感覚……なんですこの気配)


 逆にティオは背筋が怖気立つ感覚を感じていた。背中から背骨を引きずり出されるような、強烈な悪寒と痛さ。

 自分の能力が、この女性はおかしいと訴えている。


「……出たわ。フフフフフ、なるほど。これは面白い」


 水晶を取り出しみていたロウイスは、不気味に笑って何度も肯き、顔を上げた。

 そこで初めてエステルと視線を合わせる。

 思わず、ドキリとした。

 その真っ赤な瞳が、まるで血のように見えたから。


「運がいいわ、お嬢さん。貴方は今この時点で未来を知ることができたのだから。この不幸の未来を」

「え。ふ……不幸?」


 エステルはどもりながらそう返す。

 先ほどの中年男性の言葉が脳裏に過った。まったく外さないという占いを。

 そしてその内容は、お世辞でも良い結果ではなかった。


「お嬢さんはこれからある男に裏切られる。そして向かう先は絶望と破滅よ」

「絶望と破滅って……」

「どのような破滅かは分からないけど……男は何人か見えたわ。黒髪と青髪の2人ね」

「……!!」


 その言葉に、エステルとティオは目を大きく見開いた。


「ふむ。もはや占いというより未来視みたいだね」

「そう取ってもらっても構わないわ。私には見えるのだから」

「いや、美人のお姉さん。そんな未来を占うことより、僕とのめくるめく熱烈な———」

「そちらのお嬢さんも」


 オリビエを無視し、今度はティオへ振り返る。


「!」

「貴方はこれから先、一人ぼっちになるわ。あなたも青髪の男の子の所為で破滅に向かうみたい」

「ああ、なんて不吉な占いだ。でも美人のお姉さん。回避する方法もあるのだろう?」

「ええ、もちろんよ」


 今度はオリビエの言葉に反応し、顔色を悪くしたエステルとティオへ視線を向ける。

 ジョゼットやキールは不吉な占いに眉を顰め、突如出てきた女に訝しむ。

 しかしそれよりもエステルとティオの顔色の悪さに、思わず心配してしまう程、様子がおかしい。

 ヨシュアがこの場にいれば思わずにはいられなかっただろう。

 幼なじみの男の子の知らなかった一面を知った時の反応とそっくりだ、と。


「回避する方法は1つ。関わらないことよ」

「ふむ」


 ふふふ、と呟き色っぽく囁く。


「悪いことは言わないわ、お嬢さんたち。止めときなさい、その子に関わるのは。貴方たちだって不幸な目に遭いたくないでしょう?」


 ロウイスはエステルやティオたちへ語りかける。

 ゆっくりと、伝わるように。


「私も貴方たちの不幸な未来を知った以上、放ってはおけないわ。寝覚めも悪いしね。だからその子に関わるのはやめておきなさい。その子に関わらなければ貴方たちは平穏かつ幸福な生活を送れるでしょう」


 既にエステルにも、そしてティオにも分かっていた。

 この占い師は本当に凄いのだろう。

 誰も知らない筈の自分たちと青髪の彼との繋がりを占いで言い当てたのだ。きっとその占いも本当なのだろう。

 迫る未来も、そして破滅も。

 目を瞑ると、彼が犯したという、怪我をさせた事件が過った。

 彼は優しくも英雄でもなかった。被害が周囲へ及ぼうが問答無用で攻撃するし、人の機微も疎い。

 世俗に疎い事から、彼といても楽しい事など無いのかもしれない。

 彼といても世話がかかることばかりで、実は面倒ばかりで疲れ果てるのかもしれない。



 ————エステル、どうしたのですか?


 ————大丈夫ですかティオ


「「!!」」


 耳を過る、過去の光景。

 そして未来に待ちうける光景に思わず尻ごみをする。

 ロウイスの言葉に、その通りだと思う。それが賢い生き方だ。きっと母も父もそれを望むだろう。

 そう思い、占い師ロウイスの言葉に肯こうと———。


「「違う」」

「エステルくん? ティオくん?」


 全く違う、逆の言葉が口から突いて出ていた。

 俯いていた顔が上がったその表情。閉じていた目は深い色を魅せ、そして光が灯る。


「あたし……知ってるから」

「元々……彼がいなければ私の未来は真っ暗でしたから」


 そう、自分は知っていたはずなのに。

 自分の未来は真っ暗だったと。そこから助かったのだ。彼が教えてくれた歌のおかげで。

 だから自分には、それ以外に進むべき道はないのだ。

 そうティオが言うと、エステルはクスっと笑ってティオの頭を撫で、ポツポツと口にした。


「ハハハ……あいつね、最初に出会ったあの時、お母さんが死にそうだった時、普通に素通りしようとしてた。興味なさそうに、まるで石ころと同じように」


 クスっと笑い、過去を懐かしそうに振り返る。


「困っているお年寄りがいても無視は当たり前。目の前で泣いてる子供がいても無視。だから……なんて嫌な奴なんだろうって、子供ながらに思ったっけ」


 苦笑しながらポリポリと頬を掻く。


「ふむ……エステル君にとってはさしずめ、嫌な知り合いってところかな?」

「ううん」


 事情を知らないオリビエの言葉にも苦笑し、オリビエではなくロウイス占い師と視線をぶつけ合う。


「でも、ルシアは徐々に、本当に徐々に変わった。怪我した子を見捨てても、影でこっそり治療してた。お母さんも結局は助けてくれた」


 だから、と続ける。


「だから今度は———あたしがルシアを助けたい! ルシアが助けてくれなかったら、あたしは泣いていたと思うから。お母さんは死んじゃってたから。そんな悲しい今なんて地獄としか言えないから」


 膨らみの胸元にそっと手を当てて、自分に言い聞かせるように言霊を紡ぐ。

 そうだ。自分は旅に出るとき、そして旅立つ前からずっとそう思ってきたはずだ。
 
 やっぱり初心を持ち続けるのは、そして貫き続けるのは難しい。

 それを、初めて実感した。


「たとえロウイスさんの占い通りの未来が待っていたとしても…………あたしは、ルシアを見捨てたら後悔するから。だからあたしは、あたし達はルシアを探すわ!」


 ——————そうだ。

 探そう。あたし達の家族の恩人を。

 助けてくれた、最高の幼馴染を。


(……きっとルシアだってあたし達と一緒にいることを願ってるはずよ。だって、一人は寂しいんだから…………あたし達を待ってるはずよ!)


 見捨てるなんてできない、1人は寂しいから。

 1人でなんていられない、1人は寂しいから。


「…………そう。それならがんばりなさい」


 ロウイスは目を伏せ、小さく俯く。

 ローブで目が隠れ表情がうかがえなくなり、せっかく占ってもらったのに悪かったかな、とエステルは思うが、ロウイスから「ちょっとそこ退きなさい」と言われ、皆が瓦礫の山の前から離れる。


(あ、そういえば瓦礫を退かしてあげるって……)


 ふと最初に言われたロウイスの言葉を思い出し、何をするのかと思うと、ロウイスは掌を瓦礫へ向ける。

 ゴウッ、と炎が弾ける音がして、ぎょっとした表情をするエステル、ティオ、オリビエたち。

 アーツか!と思った瞬間であった。


「————アークフレア」


 その呟かれた言葉が耳に聞こえた瞬間、室内は眩しい閃光につつまれ、導力砲など歯牙にもかけないほどの破壊音が響き渡った。


「っ!?」

「なっ!?」


 恐る恐る目を開けると、瓦礫の山があった場所は何もなくなっており、地面が焼け焦げている。

 おそるべき破壊力をもったアーツであった。


「すごい! ロウイスさんって凄いんだ!」

「フフフ……これはサービスですわ。最初で最後の」

「ありがとう!」

「いえ。で、行かなくていいのですか?」

「! っとティオ、オリビエ、行くわよ! 皆さんはまだここに居て下さい!」


 そう言ったエステルは慌ててヨシュアたちを援護する為に走りだし、その後をティオとオリビエが追う。もちろんキールとジョゼットも慌てて追いかけていき、室内には乗客とロウイスが取り残された。


「……残念ねぇ。ここで諦めてたら、あんたたちも死ななくても済むのに」


 それまでの言葉遣いが一変し、まるで別人のような口調になったロウイスは、誰にも聞こえない声で独りポツリと呟いた。

 真っ赤な瞳はエステルとティオの背をジッと捉えていた。



 ———この数分後、まるで何かに操られていたように穏やかになったドルンを打倒し、王国軍の若手急上昇中の有名将校・リシャール大佐により捕縛された。


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