第25話 ボース
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『先生を捜しに行くですって!? って、レナさんがいるって事は、レナさんも認めたって事ですよね』
シェラザードは溜息を吐いて少し苦笑した。
『……でも今は定期飛行船が運休しているから、ボースへは徒歩で行くことになるわよ?』
『わかってる!』
『では当面の路銀とボース地方の地図です。あとこれはヴェルテ橋関所の通行許可証の申請書類よ。ボースに着いたら遊撃士協会のルグラン老人を訪ねてちょうだい。ボース支部には連絡を入れておいたから』
『っ!』
既に準備は整っていた。次々と提示される品にエステルたちは感動した。
アイナは自分達が言い出す前に、既に察してくれていたのだ。
どれだけこの人は、自分達を理解してくれていたのだろうか。
『あたしは仕事ですぐには動けないのよ。でも後で追い着いておいしーとこかっさらってあげるわ。だから心配しないでふたりで、いや3人でやれるところまでやってみなさい』
『がんばってね』
シェラザードの激励とアイナの応援に励まされて、エステル・ヨシュア・ティオの一行はボースへと向かったのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ロレントを出てミルヒ街道を沿って行くと、ヴェルデ橋が見えてくる。
ヴェルデ橋までの道は森を抜けていかねばならないが、それまでに魔獣や手配魔獣など危険な目に遭う可能性が大きい。
故に人はほとんど歩いておらず、行商の人や軍人や遊撃士、偶に一般人が歩いているがそれにしても救いない。
エステルとティオが並んで歩き、その後ろをヨシュアが歩く形でミルヒ街道を歩いていた。
「ん〜〜! 良い天気ね!」
「ほんと。お昼寝をしたくなります」
ぐ〜っと伸びをして気持ちよさそうな声を出すエステル。
「だよね! こう、おにぎり片手にのんびりしたいなぁ」
「エステルらしいや。ミルヒ街道の景色より食い気の方が強いなんて」
「なによヨシュア。悪い?」
「いや、良い意味で言ったんだよ」
「……なんか納得できないような」
腕を組んで傾げるエステルに、ティオはクスッと笑った。
そして先刻に母からもらったオカリナを取り出し、見詰めながら歩く。
(不思議です……普通の楽器の筈なのに、なんだか心がぽかぽかするような)
どこか温かな感じがする。
「しかしティオがルシアと知り合いだったとはね〜〜〜。前からルシアの話をしてたときに教えてくれればよかったのに」
「そういえばそうだね……それも言いたくなかったのかい、ティオ」
「いえ、言いたくないというのは不適切な表現です。どちらかと言えば、言い辛かった、が正しいと思います」
「? ふ〜ん? なんか複雑なんだ」
「ええ……それに実のところ、彼も私を覚えているかどうか……」
ティオは少し悲しそうに言う。
あの施設内には自分以外にもたくさんいた。少しの期間しかいなかった。
だから、自分など大勢の中の1人でしかないかもしれない。
(これで覚えてなかったら……とても滑稽です)
彼から教えられた歌を歌い、彼から教わった指示通りに頼ってカシウス邸に赴き家族を得て、彼を捜し続け、挙句の果てに彼の私物まで受け取ったのにも関わらず彼は覚えていなかった、なんて間抜けにもほどがあるだろう。
いや、
「……正直かなりショックかもです」
「へ?」
「ん?」
「…………いえ、なんでも」
ズーンと暗くなり落ち込んだ妹に、おろおろとエステルとヨシュアはうろたえたのだった。
「え、えっと……あ! ヴェルデ橋よ!」
「ほ、ホントだ! ほらティオ、早く観に行こう!」
「……ええ」
トボトボと歩みが遅くなったティオの手を引っ張ってエステルと共に小走りにヴェルデ橋へ行くが、ヨシュアが見る限りは、ティオは散歩を嫌がる犬が引き摺られているようにしか見えなかったという。
ヴェルデ橋は、ロレント地方とボース地方の掛け橋であり、防衛の際の要塞でもある。
簡素な造りながらも通り道は一本の為、非常に攻め難い構造をしている。
周囲は湖で囲まれており、意外と深さもかなりのものがある。
しかしその周りは森林や花など植物で囲まれており、通り抜ける人々を楽しませた。
エステルと落ち込むティオ、苦笑するヨシュアは関所員に通行許可書を見せて無事にヴェルデ橋を通過。そのまま東ボース街道へと入った。
ちなみに一般人などがヴェルデ橋を通る為には、身分証と通行許可が降りるまでの滞在、諸々の書類への記入など、非常に面倒臭い事務手続きが待っている為、どれだけ通行許可書が便利か解るだろう。
東ボース街道はこれまた林の中を抜けなければならない。
視界が悪く、いつ魔獣が出てくるか分からない為に気を抜けない……が、今回は運が良いのか、全く出てこず、エステルやティオを肩すかしさせた。
が、そんな2人を待っていたのは、ロレントのような田舎町とは違う、都会。
そう。
そこはリベール王国王都グランセルに次ぐ最大の都市であり、商業都市と国外にも名高い街。
その名は『商業都市ボース』。
街の中央に巨大なマーケットがある、若者たちから老人まで幅広い世代に人気があり、集まってくる。
「大きい〜〜〜」
「そうですね。ロレントとは違います」
「あれは何かな?」
「きっと噂のマーケットだと思います、エステル姉さん」
「よく知ってるわね、ティオ」
「…………何言ってるのさエステル。シェラ姉さんの講義でも教えてくれたじゃないか。それと日曜学校でも
」
「うっ! ちょ、ちょっと最近突っ込みが多くなってきたわね……復習でもしようかな」
「ハハハ」
「エステル姉さんらしいです」
姉としての威厳が、と呟くエステルに、ティオもヨシュアも苦笑する。
一応兄弟姉妹の中で最年長と豪語するエステルにとっては看過できない問題らしい。まあ、自業自得ではあるのだが。
「そうよ! 早くボースの遊撃士協会へ行かなくちゃ!」
「誤魔化したね」
「誤魔化しましたね」
2人の突っ込みを無視して冷や汗をかきながらエステルは駆け出した。
ちなみに……エステルが向かった方向は遊撃士協会が在る方角ではなかったという。
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「……こんにちは〜〜」
ボースの遊撃士協会は初めてな為、そーっと扉を開けて入ると、室内はロレントとそこまで違いは無かった。
だが受付にいたのは、アイナのように若く美人の女性ではなく、老人の男性。
「ほほぅ……よう来たのぉ、カシウスの子供たち」
「「「!」」」
老人の言葉にびっくりして中に入る。
眼の前まで歩み寄ると、老人———ルグランは髭を撫でるとにっこりと笑った。
「アイナから話は窺っておる。ようこそ、ボースへ」
「よろしくね! ルグラン爺さん!」
「よろしくお願いします、ルグランさん」
「……どうも」
ルグランはなにやら満足そうに肯く。
(ふむ。この子たちがカシウスとレナの子か…………成程、どの子も面白い)
ルグランの老年の瞳には、とても面白い子たちだと映る。
どの子も何かを抱えつつも、両親と同じでどこか同じ匂いを感じる。
ルグランはそんな事を考えつつも、資料を出した。その資料に3人は食いつく。
「ルグランお爺さん。この資料は……」
「こちらでも独自に調べたのじゃよ、ティオちゃん。そして残念じゃが……例の船の乗客名簿にもカシウス・ブライトの名は確認された。お前さんたちの親父さんが飛行船に乗っておったのは間違いなさそうじゃの」
「ねぇルグラン爺さん。飛行船の行方は分かっていないの?」
「うむ。ボース港を出発してからの足取りは未だにさっぱりじゃ」
そんな……と落胆する3名。
しゅん、と落ち込む3人に伝え辛そうに、ルグランは続ける。
「というのも厄介な事に、この件では王国軍も出動して捜索がなされておるんじゃがな、どうやら指揮をとっておるのが、あのモルガン将軍らしいんじゃよ」
「「えっ!?」」
ヨシュアとティオの顔色が変わる。
その名は有名であった。そしてその意味するところも。
尚追い打ちをかけられた2人であったが、そこへ脱力するまさかの言葉が。
「…………だれ?」
エステルである。
ずるっと転ぶヨシュアやルグラン、額を覆い天を仰ぐティオ。
リベール王国に住んでいながら、まさかの言葉であった。
「10年まえの戦争で帝国軍を撃退した英雄だよ! 教科書にも載ってたでしょ!」
「そーだっけ?」
「エステル……」
ひそひそと声を静めて言うヨシュアだが、残念だがルグランにも丸聞こえであった。
「で、なんでその将軍が厄介なの?」
「エステル姉さん。猛将と唄われるモルガン将軍ですが、実は有名な話もあるのです」
「そうじゃ。実はな、モルガン将軍は大の遊撃士嫌いで知られとってな。その所為か軍からちーっとも情報が入ってこんのじゃよ」
「そんなぁ!」
ガクーンと机に突っ伏すエステル。ようやくヨシュアやティオの反応の意味が分かったのだ。
だが。
「なぁに! わしらは軍とは違う切り口で解決策を見出せばいいんじゃ。実際、そうして欲しいとボース市長からも正式な依頼ではないが激励が届いているでな」
「え……」
「期待しとるぞ、カシウスの子供たち!」
ルグランは、エステルたちからすれば不自然に映るくらいに落ち着いていた。
不敵に笑う仕草から、カシウスの安否に関しても全く心配してないように。
ルグランから激励の言葉を貰い、意気揚々と出て行こうとした時、ティオはルグランへと話しかけた。
「あの」
「ん? 他にも何かあるのかの? ティオちゃん」
「はい。あの、ルシアという名前の、私と同じ年齢か少し上くらいの青髪の男の子を知りませんか?」
その言葉に、エステルもヨシュアも驚いて振り返った。
まさか遊撃士協会の受付の人にその件について聞くとは思ってなかったようだ。
だが、ルグランの反応は少し大きく目を見開き、手元にあったコーヒーを呑む、そんなわざとらしい仕草であった。
「何か知ってるのですね!?」
ティオは詰め寄る。パソコンを使った情報では掴む事ができなかった情報を、この人は持っているのだ。
「わしも深くは知らん……だがその子に関して、遊撃士協会本部の通達により、全遊撃士支部へと勅命が下っておる。もちろん、正式なモノではない為に公開はされとらんがのぉ」
「教えて下さい!」
「ふむ…………」
「ルグラン爺さん! あたしにも教えて!」
「僕も知りたいです」
エステルとヨシュアも詰め寄ると、ルグランは隠すことではないから構わんが、と前置きして話した。
「彼に関しては、捜索・保護命令が出ておる」
「遊撃士協会自ら、ですか? さすがにそれは妙な話ですよね」
ヨシュアは眉を顰めて疑問を呈す。
いかに民間人を守る遊撃士協会とはいえ、たかが1人の一般人を本部が全支部へと命令するほどの事はしない。行ったとしても、該当する地方、支部へのみが普通だ。
「……まあ、それはヨシュア君の言うとおりじゃが……彼も訳ありじゃからのぉ」
「訳あり?」
「これ以上は言えん。お主たちが知りたければ、一刻も早く正遊撃士になり、A級かB級になる事じゃ」
「そんな……」
「行こうエステル、ティオ。これ以上は情報の秘匿度から僕らには話せないんだよ」
「……でも!」
「悔しいですが……行きましょう」
「……分かったわよ」
どの件も、先行きは真っ暗であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて、と。これからどうしようか」
ボースマーケット内で昼食を摂っていた3人。少し落ち込み気味だったので、エステルは気持ちを切り替える為に元気な声を出す。
売っていたホットドッグを頬張りつつ、ティオは言う。
「ボース市長に会ってみませんか? ルグランお爺さんも言っていましたし」
「そうだね。激励もあったことだし、なんでそんな事をしたのか話しを聞いた方がいいかも」
「うん、りょーかい! 依頼者への挨拶は遊撃士としての礼儀だもんね」
「そうだね」
ヨシュアはサンドウィッチを手に周囲を見まわしつつ肯く。
するとエステルが感心するように言った。
「しっかし、にぎやかね〜、ボースマーケットって。こんな人混み初めてかも」
「うん……? ………」
「あっ、ほらヨシュア、ティオ。見て見て!」
「え、何ですか?」
「…………」
「ほら、ヨシュアも見なさいよって……ヨシュア?」
ヨシュアの反応が無い事に気がついたエステルとティオは怪訝そうに窺うと、ヨシュアはとある方向をじっと見ていた。
その視線の先を見ると、買い物区画の一角。
そこにいたのは、清楚な服で着飾った水色の髪の可愛い女の子であった。
「あらあら? ヨシュア君ってば、ああいう子が好みなんだ〜〜〜!」
「確かに可愛い顔をした人です。それにあの胸元の飾りは————」
「はい?」
目を輝かせてニタニタ笑って頬を突いてくるエステルと、妙に分析するティオ。
ヨシュアは少し頬を赤らめて否定するのだが、
「そっかそっか。いや〜〜〜、お姉さん知らなかったな〜〜〜」
「妹として情けなかったです。ごめんなさい、ヨシュア兄さん」
「なに言ってんだか……」
全くもって梨のつぶてであった。
「違うの? じゃあ、ああいう美人さんはどう? って、本当に美人ね」
「ハイハイ」
ヨシュアはどうでもよさそうに聞き流す。
確かにエステルが指定して女性は美人であった。
金髪の女性で、髪はカールして長く腰まであり、ふわふわしたその髪はとても柔らかそうだ。そして顔の造りも美人であり、雰囲気が年上のお姉さんというオーラを発揮している。
その女性に付き添うのもこれまた美人の女性であった。メイド服を着ているところから付き添いの侍従の立場らしかった。
その女性たちは、どこか違う、そんな雰囲気を発していたのだ。
エステルは続けて美人ねぇ、とティオに振ろうとしたが、ティオは背後を凝視していた。
何事かとエステルが振り返ると、そこにいたのは自分たちが座っているベンチに隠れてこそこそと蠢く何か。
「…………ジー」
ササっと俊敏な動きをみせ、こそこそと物陰へと移動しつつ、先ほどの金髪の女性の後を追う2人組み。
「なるほどー。そうやって人気のないところで一気に! なんですね〜!!」
「シー! バカ! 声が大きい!」
30代の細身の男性と、20代前半の赤髪の女の子というなんだか似つかわしくない組み合わせの2人が、こそこそと怪しい動きをしていた。
怪しい、とエステルが呟き、ヨシュアへと振る。
「ヨシュア。あれは……どう?」
「ある意味女の子より気になるけど……」
「ヨシュア兄さんの好みからするとあの女の子も十分狙い目かと」
「そこから離れてよ!?」
「だよね! 後を追うわよ!」
「はい。あの方にヨシュア兄さんを売り込みます」
「話しが合ってるようでむちゃくちゃだよ! それにさっき決めた事を早速忘れちゃうんだ」
ヨシュアの突っ込みすも当然スルーし、エステルとティオは2人の後を追いかけた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
さて、そんな噂の2人は、金髪の美人の女性の後方の物陰で、ジーッと彼女たちを窺っていた。
「やっと人混みから出てきたか……おい、ドロシー。いつでも撮れるようにしとけ」
「はーい」
「何を撮るって?」
「もちろん! あの綺麗な女の人のあーんなところやこーんなところですぅ〜〜」
「あ、あんですってえぇ〜〜〜〜〜〜〜!?」
「うぉ!? 誰だお前!?」
いつもの帰ってくる声が違うことに男は振り返ると、そこにいたのは見知らぬ女。
それも怒髪天を突く、といわんばかりに怒りに燃えていた。
もっとも、そこに油を注いだのが傍らにいる相棒なのだが。
「あんたたちね! 白昼堂々、美人のお尻を追いかけまわすなんて、破廉恥にも程があるわよ!!」
「?」
「はい?」
「申し開きがあるなら言ってみなさい!」
エステルは棒を自分達へと突き付け、そう宣言する。
面倒臭そうに溜息を吐いた男に、ドロシーと呼ばれた女の子が囁く。
「だそうですよ、ナイアル先輩」
「ああ? あーめんどくせぇな。ドロシー説明しといてくれ」
「はい!」
くるっとエステルへと振り返る。ティオはドロシーを観察し、ヨシュアは困ったように窺っているが、ドロシーと呼ばれる女の子はどうやって説明しようかと悩む。
「え、えーと、私たちは、え———っと………………あ!」
ポンっと手を叩き、そして————。
どこかへと走り去って行った。
「…………」
「…………」
ひゅーと風が間に吹き抜け、呆然と見送るエステルたち3名と、男——ナイアル。
「…………逃げたわね」
「はい!? ちょ、ちょっと待て! 俺は怪しい者じゃ———」
「何事ですの?」
そこへやってきたのは、先ほどの金髪の女性と、メイド服を纏った女性。
その場にいる全員が、あ、と声を上げると、メイド服の女性が何かに気付いたようで、ナイアルへと話しかけた。
「あら、また貴方たちですか」
「おねーさん、こいつの事知ってるの?」
「存じております」
エステルの疑問に即座に肯き、そして女性は『真実』を告げた。
「先日からお嬢様につきまとう不届き者です」
な、なんだって〜〜〜、と全員の間に雷が落ちた気がした。
ギギギギ、と擬音が聞こえるほどゆっくりとエステルがナイアルへと振り返り、そして———。
「ちっ!」
「待ちなさい! このストーカー男!」
「だれがストーカーだよ!」
「ヨシュア兄さんには悪いですが、ストーカーとお付き合いは妹として認められないです」
「はぁ!?」
と、喚き合いながら走っていってしまった。
その場に残ったヨシュアと金髪の女性とメイドさん。ヨシュアは苦笑しながら彼女たちへ告げる。
「ご心配なく。僕らは遊撃士のものですから、あとは任せてください」
「! ……そうでしたか。では、どうかよろしくお願いしますわ」
ふわりと優しい笑顔を浮かべる女性に、ヨシュアは少しテレてエステルたちへ追いかけたのだった。
一方、追いかけていったエステルとティオだが、
「逃げ足速いわね〜〜〜。どこいったのかしら」
「そうですね……って、エステル姉さん、あれ」
「ん?」
意外とすぐに見つけた。
何故なら近くの公園へと続く階段のところで、大きく肩を上下させて息切れしていたのだから。
「……体力ないわね、ストーカーさん」
汗でグッショリとなったナイアルだが、エステルの言葉にブチっとキレて言い返した。
「……っるせぇ!! それ以上言ったら正義のペンで訴えるぞ!」
「ペン?」
「そうだ! 俺はナイアル・バーンズ。リベール通信社の記者だ。覚えとけ!」
「リベール通信って、あの情報雑誌の?」
それには驚いた。
エステル自身、その情報誌は知っている。何故なら。
「それ、お父さんもお母さんも楽しみにしてるわ! あたしが毎号買いに行ってるのよ!」
「お! 感心じゃねぇかお嬢ちゃん」
「いえ、実は姉さんはそのお釣りが目当てなだけです。お小遣いにできますから」
「オイ」
「あはははは」
その理由に、1人の記者として突っ込まざるを得なかった。
「あれ? ってことはもしかして取材?」
「やっと解ったか。ボースで噂の美人市長に完全密着! っていう我ながら情けない記事だがな」
「…………市長?」
「え?」
エステルとティオはお互いに顔を見合わせて、その言葉の意味を理解し、それが指し示す人物を思い出し、
「市長〜〜〜〜!?」
エステルの絶叫が響き渡った。
だが、さらにエステルとティオを驚かす事が続いた。
「あら、呼びましたか?」
「へ?」
エステルが振り返ると、そこにいたのはヨシュアが護衛するようにしてやってきた、1人の女性。
先ほどの金髪の女性で、隣にはメイドの女性。
「初めましてですね。わたくし、ボースの市長を務めていますメイベルと申します。以後お見知り置き下さいね」
これが、長い付き合いになる人物たちとの出会い。
リベール通信社の記者ナイアル。
そしてボース市長メイベル。付き人のリラ。
そんな皆との出会いは、ナイアルストーカー疑惑という、少し情けないものであった。
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辛い日々が続いております。更新遅くなりました。
感想の返信は後日行います。申し訳ありません。
もう眠くて仕方なくて…………
戦闘はまだありません。少々お待ち下さい。