第24話 出発の前に。
父親の存在って、普段は何も感じないし、何も有り難みを感じなかった。
ただ当たり前に仕事から帰ってきて、ただ当たり前にそこにいて。
だから、気付かなかった。
————父さん、何やってるの?
『あ、いや、ちょっと酒のつまみを……母さんには言わないでくれよ?』
————パパ、今日はいつ帰ってくるの?
『そうだな……夕飯までに帰ってくる! 帰ったらパパと遊ぶか!』
————何故、どうして僕を……
『家族になれると信じているからだ……失った事があるのなら、尚更その尊さを知っているだろう?』
————お父さんは、私の事を知っているんですよね……ならどうして。
『おまえは私の娘だ。もし父さんの事が嫌いじゃないなら……かっこ悪い父親にさせないでくれ』
父はいつもそうやって、家族を支えてくれていたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ロレントの街は、街灯以外はすべて電気が消えた暗闇に包まれていた。
時計もすでに深夜の3時を回っており、月明かりと虫たちの鳴き声しか聞こえない。
あんな事があったというのに変わらない世界に、少し苛立ちを覚えてしまうアイナ。
カラン、と遊撃士協会の扉が開き、親友にしてC級遊撃士として活躍する女性が入ってきた。
彼女の名はシェラザード・ハーヴェイ。
ブライト家と懇意にしている間柄であり、カシウスを師として慕い、遊撃士の中でも信頼されている実力者にして、『銀閃のシェラザード』と二つ名すら持つ若手でもトップを争う23歳の女性だ。
アイナとは呑み仲間にして親友だが……お互いの表情は優れず、とてもそんな気分ではない。
分かり切ってる事とはいえ……思わず尋ねてしまった。
「みんなの様子はどう……?」
「さすがにだいぶ落ち込んでるわ……特にレンの動揺が酷いわね」
「無理ないわ……仲のいい親子だものね」
「ええ、本当に。見ているこっちが幸せな気持ちになるくらい……」
疲労の色が隠せないシェラザードは、大きく溜息を吐いて席に腰をかけた。
アイナはカップに紅茶を注ぐとシェラザードへ渡し、向かいの席へと座る。
シェラザードは紅茶を一口呑んで呟くように語り出した。
「やっぱり信じられないわ……先生ほどの遊撃士がこんな事件に巻き込まれるなんて……何かの間違いなんじゃないのかって思うわ」
「……今分かっているのは、カシウスさんが乗せた飛行船が消息不明なのと、未だにそのカシウスさんから連絡がないということだけよ」
「はがゆいわね……待つ事しかできないなんて」
無暗に探し回っても駄目だという事をシェラザードは知っている。そしてシェラザード本人もC級遊撃士としての立場がある。勝手に動き回ることもできない。
軍人と違って遊撃士は自由に動けると思われがちだが、実際は様々な事情に振り回されているのだ。
「夜明けまで…………長いわね」
窓から眺めた夜空は、いくつもの星が輝いていて、少し不快だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………」
ヨシュアは自宅のベランダでハーモニカを吹いていた。
彼がいつも奏でる曲。真夜中にも関わらず吹いているのは、ヨシュア自身が己の心を落ち着かせる為だった。
それほど、いつも冷静なヨシュアにとっても今回の件は衝撃的だったのだ。
「…………」
妹のレンを思い出した。
あの件の直後、呼吸不全になるほど恐慌状態に陥り、我に返ったレナが安心させるのに、今もずっとレンを抱きしめているのだろう。
レンは両親のことが大好きだから。
それは自分だって負けないつもり、そうヨシュアも思う。だが曲がりなりにも『体験した過去』の事があるので、自分はこうやっていられているのだ、そう思った。
すると背後から扉が開き、家の中からエステルとティオが出てきた。
「うん。今日も素敵な音色ね」
「はい。ヨシュア兄さんのハーモニカ、とても上手いです」
「……エステル。ティオ」
2人も今まで起きていたのだろう。少し目の周りに隈ができている。
「レンは?」
「うん……だいぶ落ち着いたみたい。今もお母さんと一緒にいる」
「ひとまずは安心かと」
「そう……良かった」
ヨシュアはホッと安堵し、2人へと向き直った。
「さっきまでシェラ姉さんが来てたんだけど、知ってた?」
「うん、知ってる」
「さっき遊撃士協会の方へ行きましたが……」
「そう。何か情報が入ってるかもしれないからって」
「! そっか!」
ヨシュアの言葉にエステルの表情が少し明るくなる。
ティオもその言葉に頷き「私たちも行きましょう」と言う。
「そうね!」
「ああ、僕とエステルは仮にも遊撃士なんだ。ここでこうやって黙って過ごしている訳にもいかないよ」
「あら、それじゃあ家族みんなで行きましょうか」
突然背後から聞こえた声に驚いて振り返るエステルとティオ。
後ろにいたのは、レンを抱きかかえながら僅かに顔色を取り戻したレナであった。
レンの目は赤くなり腫れていた。どうやら泣いてしまったようだが、今は平気なようだ。
「もちろんレンも行くわ。いいでしょママ?」
「ええ、もちろん。皆で行って、皆で確かめて、今後の方針を決めましょう」
レナは伊達にカシウスの妻を務めていない。危険な仕事である以上、この事態は覚悟はしていた。
もちろん、動揺するしないは別にして、ある程度の気構えはしていたのだ。
だからレナは笑える。彼女には子供たちが残っているのだから。
そんなレナの言葉にエステルもヨシュアもティオも、笑みを浮かべて大きく肯いたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
こうして、ロレント郊外のブライト邸からロレントに入り、遊撃士協会に向かう中、レナは不意に足を止めた。
奇しくも、エステルも同時に足を止めた為、ティオとレンとヨシュアは怪訝な表情をした。
その場所は、ロレントの象徴でもある『時計台』であった。
「ちょっと、ここに寄ってもいいかしら?」
レナの言葉に皆が不思議そうにしながらも肯き、エステルはレナを見ながらアイコンタクトで何かを話して小さく肯いている。
不思議と、同じことを考えていることが感じられたのだ。エステルとレナは。
内部の決して大きくは無い階段を昇っていくと、頂上に出る。
頂上からはロレントが一望でき、遠くの山も見えるのだが、夜中なので全く見えない。
見えるのは寝静まったロレントの街中だけだ。
頂上の端の手摺りに寄りかかり街を見るレナとエステル。
「母さん、珍しいね? ここには絶対に登ろうとしなかったのに」
「そういえばそうね……ここに登った事って一回もないかも。ママ?」
「確かに。家族で登った事はないです」
ヨシュアの言葉にレンとティオは今気付いたようで彼に同意する。
そんな兄弟の言葉に苦笑するエステルと、少し困った顔で肯くレナ。
「ごめんね、みんな。ごめんね、レンも」
「ううん。レンは大丈夫よ。でも何で今のこのときに……」
「それは……ねぇ? エステル」
「うん……この場所はあんまり気軽に登れる場所じゃないんだ」
「やっぱりそうだったんですか。なんとなくエステル姉さんもお母さんも避けてる気はしてましたが」
「あ、やっぱりティオにはバレバレだったんだ」
「はい」
実際には街の人などに噂で何があったか聞いたというのが真実なのだが、そんな無粋な発言はしない。
エステルは少し切なそうな目で街を見ながら過去へ思いを馳せた。
「ここは、お母さんが大怪我を負った場所、だから」
「「!?」」
エステルの言葉にレンとヨシュアはぎょっとなりレナへ振り返る。
それを知っていたティオは表情を変えずに黙って聞いていた。
レナは子供たちの視線に、少しだけ困ったように笑って肯く。
「ティオには何度か聞かせた話だけど。そうね……10年前、エレボニアとの戦争の時、この時計台は攻撃を受けて崩壊したわ」
「その時に、あたしとお母さんはこの時計台の下にいたの」
「私がエステルを咄嗟に突き飛ばしたから、エステルは助かったけど……私は生き埋めになった」
「お母さんがあたしを守ってくれたんだ……でもお母さんはそれが原因で大けがをした」
「正直、助かる怪我ではなかったでしょうね」
「そんな!?」
レナの言葉にレンは慌てる。
普段は呆れるくらいに聡明で冷静なのに、両親のことになると崩れるレンに、レナは嬉しいような困ったような、複雑な気持ちになる。
レンの頭を撫でながら、レナは言葉を繋ぐ。
「その時だったわ……彼が現れたのは」
「彼、というと……」
「皆には何度か言った事あったわね? 養子に迎えたい子がいるって。その子のことよ」
「…………ルシア、ですね」
「そう。あの時、ルシアがお母さんを押しつぶしてた瓦礫を退かして、お母さんとあたしを助けてくれたの」
「そんな事が……」
ヨシュアは絶句した。母がそんな怪我を負った事と、そんな怪我が『どこにも見られないこと』に。
「あの時の……私たち家族を助けてくれたのは、彼だった。でも今現在は、あの子はいない」
「…………うん」
きっと己に言い聞かせているのだ母は。
そうエステルは、ティオは感じた。
「へぇ……あいつがねぇ」
「「!?」」
レンの呟きに、エステルとティオは驚いて振り返る。
言葉のニュアンスと含みが、まるで知人を語るかのようだったからだ。
「レ、レン。あんた……知ってたの?」
「え、知り合い?」
「…………」
レナは、皆と反応が違った。
知っていて当然だ。『彼女を送った』のは彼なんだから。
彼女の瞳は「言うの?」と訴えていて、レンはそれに小さく肯く。
レナは正直なところ、話すのは止めたかった。
でもそれが彼女の意思ならば……それを尊重しよう、そう思った。
「まぁね。あいつとはレンがここに来る前の場所で知り合ったの」
「へぇ〜〜〜〜、ルシアとレンがねぇ」
「…………」
レンはそこで肩を竦め、
「ああ、それでどうしていきなり言いだしたかっていうと、エステルお姉ちゃんもヨシュアお兄ちゃんも、パパを探しに行くつもりなんでしょ?」
「「!!」」
「それなら一緒にあいつの事も探してくれば? って言いたかったから。それならティオお姉ちゃんの普段の仕事量も減って楽になるだろうし」
その言葉に2人は驚く。特に話し合ってはいなかったが、なんとなくそうなる事はお互いに察していたからだ。
2人の驚愕を余所に、レンは続ける。
「レンはママを家で独りすることはできないから、レンは残るわ。ただ、ティオお姉ちゃんは一緒に連れて行ってあげてね?」
「へ? ティオを?」
「どうしてだい?」
「…………レン、貴方は」
「どうしてって、ティオお姉ちゃんはこの機会にパパと一緒にルシアも捜したいでしょ? 何か手掛かりを見つけられるかもしれないし。あれだけ毎日探してたらかなりの手間だったろうし」
「ああ、なるほど…………って、ティオもなの!?」
「…………」
ヨシュアは姉妹全員の繋がりに作為的な不自然さを感じ訝しみ、また自分だけ知らない事に少し不満に思う。
ティオはレンの言葉に意外にも驚いていなかった。
「やはり……レンは知ってたのですか」
「ええ。お姉ちゃんが常日頃から調べていたこともね。でも『何時知り合ったか』は知らないわ」
「…………」
「ちょ、ちょっとティオ。あんた顔が怖いわよ。どうしたの?」
「い、いえ。ちょっと昔を思い出しまして……」
「で、ティオは僕達に教えてくれないのかい? どこで知り合ったかとか」
「…………それは、言いたくありません」
「…………そっか。言いたくなければいいんだ。僕だって母さんやエステルが辛い過去を話してくれたのに、自分のことは隠してるんだから」
ヨシュアは5年前、カシウスが突然連れてきた子だった。
毛布に包まれて、その身体は切り傷だらけで怪我をしていた。
最初は心を開かず口も利かなかったヨシュアを、家族の皆がゆっくりと変えたのだ。
そしてヨシュアは、自分がどこの誰で、どういった経緯でこの家にやって来たのか、明かしていない。
言いたくても言えない、そんな表情のヨシュアに、レンやティオは何かを言おうとして、
「いいのよ、そんな無理して言わなくたって!」
エステルの声が響いた。
嫌な空気、淀み、そんな嫌なものを全てを吹き飛ばすような、そんな清涼さがあった。
「そりゃ、過去が気にならないって嘘になるけど……でもね! 父さんがヨシュアを連れて来てからは、今のヨシュアは『私たち』が一番知ってるんだから!」
「……知られちゃってるんだ?」
「そうよ! えっへん!」
胸を張って威張るエステルに、ヨシュアは思わず苦笑した。
少し元気を取り戻したかな、そう思ったエステルは、ふんっ、と鼻を鳴らして拳を突き上げた。
「あたし、強くなる! 皆が嫌な思いをしないように、苦しまないように、辛い思いをしないように! お母さんやヨシュア、レン、ティオが守ってくれたように、あたしも皆を守れるようになる!」
「……ルシア君がかつてエステルを守ったように?」
母の問いかけ。
「うん! あたしの目標なの、ルシアは。きっとわだかまりもなくなれば、ヨシュアだって苦しい想いをしなくて済むでしょ? ルシアならきっとパパっと片付けそうだもの」
「…………」
それは、エステルのルシアに対するイメージであった。
そしてそれは、正しいのか間違っているのか……だれにも分からない。
「きっとここに来たのも、あたし、本能でルシアに助けを求めちゃたのよきっと。今度も助けてって」
「そうね……お母さんも否定できないかも」
「うん。それくらいルシアは凄かったから。でも頼ってばかりだと、私の目的も達成できないし、だからあたし、強くなるの!」
「……なら、お姉ちゃんはもう少し勉強がんばって賢くならないとね。脳筋では強くなれないわよ?」
「うぐっ。レンったら生意気なのよ!」
「フフフ」
「大丈夫。エステル姉さんの頭脳的なサポートは私が行いますから」
「ん? ん〜〜〜、なんか納得いかないけど、まあティオがルシアの知り合いだっていうなら、付いてきてもいっか。どうかなヨシュア?」
「そうだね……ある程度の戦闘はこなせるようになってもらわないと困るけど、まあ僕たちが守ればいいだけか。実際にはかなり問題あるけど」
「心配いりません。自分の身は自分で守ります。その為に以前から戦えるように準備はしてきました」
「い、いつのまに……我が妹ながら羨ましいくらい頭良いのね」
そうやって話が纏まりつつある中、レナがティオの前へ歩み出て彼女の視線の高さまで屈み、両手を握って話しかけた。
「ティオ」
「……はい」
「…………お母さんは、正直賛成はできない」
「…………」
「貴方は、戦闘の訓練を積んでいない。それはかなり大きな問題だと思う」
「……はい」
「それは、きっと戦闘訓練を積んでる人からしたら、なめるなよって話だと思うわ」
「そうだと思います」
ティオとレナの話に、エステルたちは声を挟めない。
それはまぎれもなく、母と娘の会話だった。
「……あなたに闘う才能があったとしても、それは遊撃士の方たちの足を引っ張ることになるかもしれないわ」
「…………はい」
「それでも、それでも一緒に行きたいのね?」
「行きたいです。例え……怪我を負う事になったとしても」
「そう……本来なら、親としては止めなくてはいけないんだろうけど……だからと言って親のエゴで子供の気持ちを無視する訳にはいかないわね。正直、判断に迷うところではあるのだけど」
ふぅ、と小さく溜息を吐いて、
「とにかく…………無事で帰ってくること。これは約束よ?」
「はい……っ」
ジワっと、ティオの瞳に涙が浮かぶ。
母の想いが伝わって来て、心が温まるほど嬉しい。
「そして、あの人……お父さんと、ルシア君を、宜しくね?」
「任せて下さい。必ず、見つけて帰ってきます」
「よし! それならお母さんは応援しちゃう! っと、そうだ」
ガッツポーズをとって握りこぶしをみせるレナだが、何かを思い出したようにポンっと手を叩いた。
そして持ってきていた手さげカバンをごそごそと漁り始めた。
「持ってきておいて良かったわ〜。私の勘も捨てたものじゃないわね」
「?」
母の言葉に首を傾げるエステルやティオだが、レナが取り出した『モノ』を見て、エステルは思わず大声をあげてしまった。
「!? ええええええええええ!? お母さん、そ、それって!?」
「……? 何でそんなに驚いているんです、エステル姉さん」
レナの手にあるのは……金色の卵型のネックレスと、空色のオカリナ、そしてコンパクトな折り畳み式のケースで、中にはクリスタルが収められている物があった。
「そのネックレス…………もしかして……」
ブルブル震えながら指さすエステル。
エステルにはそのネックレスは覚えがあった。
金色の卵型で、黒い円状の淵があるデザイン。光沢はどこか不思議な雰囲気を放っており、そのネックレスは材質がさっぱり分からない。
そして空色のオカリナ。
かなり古ぼけていて、擦り傷も目立つ。
ティオにはその三つが何か解らなかった。
だが。
だが、エステルの頬を紅潮させてふらふら近寄るその姿を見て、ピンと来た。
「もしや、それは…………」
ティオ、そしてエステルを見て、微笑みながら肯く。
「そう…………これは、ルシア君の私物よ」
「な、なんでお母さんがそれを持ってるの!?」
「!?」
思わずそのネックレスをひったくり、ジッと見詰める。
ティオはゆっくりとオカリナを預かり、それを見詰める。
(このオカリナで、彼はあの曲を歌って、いえ、吹いていたのでしょうか……アルテナの歌を)
「これをお母さんが持ってる訳は…………お父さんが、彼が失踪する直前に会っていたから、彼の私物を受け取っていたのよ」
「へ〜〜〜」
「そう、なんですか」
「そのルシアという人は、おしゃれな人物のようだね、母さん」
(———成程。あの事件の直後に『最低な場所』の現場検証で見つけた、ってところかしら)
実際には、レンの予想が当たっていた。
『楽園』の現場検証でルシアやレン、そして今までの子供たちが『連れてこられる前』に着ていた服や私物を発見。それを関係者、親類縁者に引き渡されたのだ。
故に今まで管理していた。いつの日か、彼に直接渡せる日が来ると信じて。
「お母さん、それは?」
エステルが指さしたのは、三つ目の折り畳み式の小物。
「これ? これは……お母さんにも解らないけど、ただの小物だと思うわ」
「へぇ」
少しの嘘を含ませる。
それらを、今、渡す。
自分から、娘たちへ。
「持って行きなさい」
「……ありがとう!!」
「ありがとうっ」
(きっとこれから先。彼を助けられるのは私じゃない)
あの子は、ルシア君はきっと数奇な運命を辿る子よ。あの人はあの子の運命を見抜いていた。愛娘にはルシアから離れて欲しいと。
(でもそれは、きっと無理な事。
エステルと、ティオ。ヨシュアとレン。4人は嫌でもあの子に関わる。
おかしな話だけど、それを確信してる。
そして何よりも。
何よりも。
———————————あの映像を見てしまったからには、放っておく事はできない)
レナは子供たちを連れながら、塔から降りて遊撃士協会までの道を歩く。
敢えて娘に教えなかった、ある大きな秘密。
自分はその中の1つしか見る事はできなかったが、きっと娘達は見る事になるのだろう。
そして、あの残酷な真実を見る事になるのだ。
その時、皆が、みんなが無事でいる事を、願うだけだ。
レナは『その為に前から動いてきた夫』の今に想いを馳せ、そして夫を、娘達を信じた。
これから先の未来に、幸多からん事を。
************************************************
レナは『クリスタル』が何を意味するのか、それを知っています。
もちろんカシウスも。
そして彼女が見たのは何の、いえどこのシーンなのか。
LUNARを知ってる人なら予想つくかもしれませんが、知らない人はお楽しみに!
かなり衝撃的な内容ですので。