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No.34464の一覧
[0] 【習作】【R-15】LUNAR~英雄伝説~ (LUNAR×軌跡シリーズ)[セラフィム](2017/05/23 02:35)
[1] 一章 FC編 プロローグ[セラフィム](2012/08/08 23:50)
[2] 序盤ステータス[セラフィム](2012/08/08 23:36)
[3] 第1話 全ての始まり[セラフィム](2012/08/08 23:38)
[4] 第2話 歩き出した少年[セラフィム](2012/08/08 23:39)
[5] 第3話 マリアベルのお説教[セラフィム](2012/08/09 23:27)
[6] 第4話 歌という魔法[セラフィム](2012/08/11 05:52)
[7] 第5話 狙われ始めた少年[セラフィム](2012/08/11 21:11)
[8] 第6話 来訪、クロスベル[セラフィム](2012/08/11 21:32)
[9] 第7話 シスター・マーブル[セラフィム](2012/08/14 21:20)
[10] 第8話 過去と未来[セラフィム](2012/08/14 21:19)
[11] 第9話 変化[セラフィム](2012/08/16 23:18)
[12] 第10話 涙[セラフィム](2012/08/18 00:20)
[13] 第11話 ブライト家[セラフィム](2012/08/18 21:55)
[14] 第12話 ひとつの選択[セラフィム](2012/12/27 19:23)
[15] 第13話 事件の始まり[セラフィム](2012/12/27 19:23)
[16] 第14話 愚かなのは・・・[セラフィム](2012/12/27 19:24)
[17] 第15話 記憶[セラフィム](2012/10/17 23:18)
[18] 第16話 ティオ・プラトー[セラフィム](2012/11/08 22:57)
[19] 第17話 欲望[セラフィム](2012/11/07 20:55)
[20] 第18話 惨劇[セラフィム](2012/11/08 22:53)
[21] 第19話 事件発生後[セラフィム](2012/11/28 19:18)
[22] 第20話 心[セラフィム](2012/12/05 21:28)
[23] INTER MISSION 01[セラフィム](2013/01/16 21:28)
[24] INTER MISSION 02[セラフィム](2013/05/12 00:10)
[25] 二章 FC編序章  設定[セラフィム](2012/12/26 23:10)
[26] 第21話 準遊撃士エステル[セラフィム](2012/12/26 21:25)
[27] 第22話 遊撃士とは[セラフィム](2012/12/26 22:54)
[28] 第23話 廻り始める歯車[セラフィム](2013/01/01 00:52)
[29] 第24話 出発の前に[セラフィム](2013/01/06 20:21)
[30] 第25話 ボース市長登場[セラフィム](2013/01/16 21:25)
[31] 第26話 噂と人物像[セラフィム](2013/01/16 21:11)
[32] 第27話 誠と真実[セラフィム](2013/02/26 00:05)
[33] 第28話 人は変わるもの[セラフィム](2013/03/20 23:18)
[34] 第29話 絆は共にいた長さ[セラフィム](2013/04/03 23:53)
[35] 第30話 過去を知る女[セラフィム](2013/04/05 00:51)
[36] 第31話 竜使いとしての道[セラフィム](2013/04/10 22:46)
[37] 第32話 魔法[セラフィム](2013/05/09 21:33)
[38] 第33話 その選択の行方は・・・[セラフィム](2014/01/11 22:15)
[39] 第34話 蠢く勢力[セラフィム](2014/05/13 18:40)
[40] 第34.5話 設定 ティオ[セラフィム](2014/05/17 01:13)
[41] 第35話 歌姫誘拐事件 その①[セラフィム](2014/05/13 16:12)
[42] 第36話 歌姫誘拐事件 その②[セラフィム](2014/05/17 01:11)
[43] 第37話 歌姫誘拐事件 その③[セラフィム](2014/06/11 00:57)
[44] 第38話 歌姫誘拐事件 その④[セラフィム](2014/10/28 00:43)
[45] 第39話 歌姫誘拐事件 その⑤[セラフィム](2015/01/01 03:02)
[46] 第40話 歌姫誘拐事件 その⑥[セラフィム](2015/05/11 00:50)
[47] INTER MISSION 03[セラフィム](2017/05/23 02:31)
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[34464] 第12話 ひとつの選択
Name: セラフィム◆52a32f15 ID:b75bd50d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/27 19:23
 ルシアが目覚めて翌日から、エステルとルシアは自然と一緒にいる事が多くなった。
 
 実際には挨拶をした直後、すぐに出て行こうとしたのだ。

 だがルシアを背後から抱え上げたレナにより、強制的に寝室へ連行されてしまった。

 子供が無理をしちゃ駄目という言葉に、レナに対して負い目があったルシアは大人しくその日は仮眠を取り、翌日の朝から怪我の療養の意味でブライト家に厄介になっていた。

 もっとも、腕や肩の全快には2〜3週間はかかると言われたので、ルシアは大人しくしているつもりだった。

 何故、魔法で一気に回復させないのか。

 それは今回の事で力を一気に解放した事による、弱体化した頃に戻ってしまった事が原因だった。

 アルテナの力がちょっとずつだが回復してきた所に、感情の発露から破壊力のみに力を注いだ魔法攻撃。その後の転移魔法。

 自業自得とはいえ事態を深刻に考えたルシアは、自然治癒による治療を選び、ゆっくりと療養する事にしたのだ。

 また、自分の中の訳の解らない感情に戸惑いを理解できなかった事がその決断に拍車をかけたのだが、彼自身は気付いていない。

 そして。

 ———ゾファーの行方が皆目見当付かないのも原因の一つであった。

 アルテナと対を成す存在故に、ただの生命には行方は察知できない。

 なんとも歯がゆい状況ではあるが、アルテナに会い、ゾファーを打倒するという事が優先順位であった事が、お互いが同列同位に来ただけのことだ。

 尤もそんな事を知る由もないレナやカシウスは、ルシアがレナを助けた時のように不思議な力で一足飛びに回復しない事に不思議に思っていたが、少しは自分たちを気に入ってくれた、警戒を解いてくれたのだろうと思っていた。

 さて、微妙に勘違いが起こっている中、住人が1人増えたブライト家では、レナがちょっといつもより多い洗濯物を庭で干していた。

 パンっと小気味よい音を立てながら気持ちよい日差しの中洗濯物を干すのは、晴れやかな気分になる。

 そんなレナを更に嬉しくさせているのは、家の前にある池で釣りを楽しむ子供たちであった。


「ほら、先が動いてる! 竿を上げて!」

「…………こう、でしょうか?」

「それじゃ遅すぎる〜〜〜!」


 釣りを嬉々として教えるエステルだったが、ゆっくりと竿を持ち上げるルシアの遅さに地団太を踏んでいる。

 そんな娘の様子に思わず笑いが零れた。

 怪我をしている身に釣りをさせるなんて、と一瞬思ったが、特に本人も辛そうにはしていないようだ。

 娘のいつもより遥かに高いテンションに微笑ましく思いながら、ルシアを見る。


(本当に不思議な子……親もいないようだし、クロスベルで世話になっているという教会にも、積極的に帰ろうとしている訳でもないみたい。まるで・・・・・・そう。感情というものをどこかへ置き去りにしたような……)


 いろいろと、辛い思いをしてきたのだろう。

 レナはそう考え、悲しそうに目を伏せる。

 自分は彼に間違いなく助けられた。だから今度は自分が助けられないだろうかと。


「……難しい問題ね」

「何がだ?」

「あら、あなた」


 何時の間にか帰って来ていたカシウスが、レナの隣にやってくる。

 レナが思っていた事を話すと、カシウスは険しい顔をしてそれに同意した。

 2人の視線がエステルとルシアたちへ向かう。


「こんな事を言っては親として、いや大人として駄目なのかもしれんが……」

「ええ」

「あの娘がルシア君に関わるのは、個人的に推奨できない」

「……何故です?」

「彼と接して感じたのだが、彼は普通ではない。彼は私たちが想像つかない程の何かを背負っているように思える」

「…………」

「普通の範囲内の異常ならば、遊撃士の身である自分としても積極的に関わり力を貸し、助ける事を推奨するだろう」


 だが、とカシウスは続ける。


「彼は違う。そう、彼をまとう雰囲気は、それこそ人ではなく————」


 その先を言おうとして、止めた。
 レナはジッと旦那を真剣な瞳で見つめていた。


「そんな彼と関わると、エステルは確実に辛い目に会うだろう」


 親としては賛成できない、そうカシウスは独白するように言った。

 レナはその言葉に肯かず、されど否定せずに目を伏せた。


「ん? 何をしてるんだ、あの娘は」

「あら?」


 ふと見てみると、娘が急に立ち上がり、頭を下げたではないか。

 何事だろうと、レナとカシウスは2人の子供の様子を窺った。


 




「ねえ、ルシア」

「…………」

「ルシアは何で怪我したの?」

「…………いろいろ、ありまして」

「ふーん。あ、そうそう。そんなにタニンギョウギじゃなくていいんだよ!」

「…………何がです?」

「ことば! もっと砕けた感じでいいのに」

「…………これが私ですので……たぶん」


 記憶が欠如しているからか、自分の言葉遣いが本来のものかは分からない。

 そしてエステルはそんな答えに首を傾げながらも、淡々と池を見詰めるルシアに嬉しそうに笑う。


「でもよかった〜」

「?」

「あのね、ルシアが普通の男の子でよかったって思ったの」

「…………」

「こうしてお友達になれてよかった〜」


 普通、とルシアは口の中で呟く。

 そっと目を伏せた。


「あのね、おかあさんが怪我した時、助けてくれたよね?」

「…………ええ、まあ」

「あれから言いたい事があったの」


 エステルが釣り竿を脇に置いて立ち上がった。

 そしてペコリと腰を曲げで頭を下げた。

 その様子に、ルシアは何事かと目を向けた。


「あのとき、おかあさんを助けてくれてホントーにありがとう!」

「!」

「ルシアのおかげなの! こうしておかあさんとおとうさんと3人で暮らせてるのは!」


 幸せと嬉しさでいっぱいという、満面の笑みで

 無表情の彼の目が、大きく見開かれた。


(私のおかげ……わたしが助けたことが?)


 その言葉に、胸の中が掻き毟られるような衝動に駆られた。

 何かが込み上げて来て、でも不愉快ではない。

 その瞬間、あの死んでしまった赤ん坊の姿が思い浮かんだ。

 ひょっとしたら、自分の力があれば助けられたのではないか?

 そんな今となっては不毛な問い。

 そしてもう、あの子は戻ってこない。自分の手に抱く事は無い。

 温もりを感じることはない。


「エステルー! ルシア君ー!」

「2人とも、釣れてるか?」

 こちらへと何か察したように笑いながら歩いてくる、エステルという目の前の少女の親。

 男性と女性、その女性の方。

 優しい笑顔を浮かべる、エステルの将来を彷彿とさせる女性。


「どうかしたの? ルシア君」


 お日様の香りがする手が、ルシアの頭を撫でる。

 呆然と見詰めるルシアの様子に首を傾げながら、優しく何度も撫でた。

 膝を曲げて同じ視線の高さまで屈み、微笑む。

 その手は、暖かかった。


「……いえ、何でも」


 思わず小さく俯いた。

 なんだか堪らなくなり、釣り竿を持って腰を畔に下ろす。

 レナとカシウスは首を傾げ、エステルはドーンと飛びついた。


「! ……危ないですよ」

「エヘヘ。だいじょぶだいじょぶ。ルシアが助けてくれるもん」

「…………」


 スリスリと頬を擦りつけてくるエステルに、ルシアは気にせずに竿を見ていた。


(やれやれ。人懐っこいというか無邪気というか。まだ幼いとはいえ女の子なのにこの明け透けっぷりは誰に似たんだか)

(ん〜、やっぱりエステルはルシア君を気に入ってるようね。まあ憧れてた存在が、身近に感じた喜びの反動だろうでしょうけど)


 思わず苦笑した。


「さあ2人とも。おやつの時間よ。手を洗ってきなさい」

「は〜〜い」

「……わかりました」


 エステルに引っ張られて引きずられながらルシアは家の中へと入って行った。

 ちなみに、本日のお菓子はドーナツであった。











「さてルシア君。君はこれからどうするのかな?」

「……どう、とは?」


 夕飯が終わり、一息吐いて紅茶を飲んでいるとカシウスが唐突に切り出してきた。


「君の目的、それが何かは分からんが、遺跡巡りの為に各地を回るのか。それとも先の一件のような連中を捕まえる為に探すのか」

「…………」

「あの件は既に遊撃士協会に連絡済みだ。現在A級遊撃士とB級の信頼を置ける者のみで情報収集、捜索に回る為に作戦を練っている最中だ。資料から察するに、金銭の規模、研究施設、動員数を鑑みると、相当に大きな組織が相手だと分かる。故に遊撃士協会も各国上層部に慎重に接触し、協力を要請する。時間はかかるだろうが、いずれ大きな戦いが起こるだろう」


 カシウスの言葉にレナは悲しそうにし、エステルは難しい話に頭を捻った。


「この件において、君が関わらなくてもいずれ解決するつもりだ。それを前提とした上で、君はどうしたい?」

「…………」

「ちなみにこの件について、遊撃士よりも真っ先に見つけて潰した君の功績を、遊撃士協会は大きく評価している。教会内部には君を現在の年齢で遊撃士にするべきだという声すら上がっている程だ」

「まあ」

「うわぁああああ、凄い!」


 今度は話を理解できたのか、エステルが声をあげて驚いた。


「正直云って、この決定は異例であり異常だ。少なからずこれが洩れたら各国や市民から批判の声が上がるだろう。だが、それを許容するほどこの事件を遊撃士協会は重く見ている。当然といえば当然だな。遊撃士の存在意義であり価値である『一般市民を守る』という理念に真っ向から反している事件なのだから」


 カシウスはそう続け、


「だからこそあえて批判覚悟で、君程の若さにおける異例の遊撃士推薦の話があるのだ。これは遊撃士協会からの情報共有と早期発見してくれた事による感謝と誠意と捉えてもらって構わない」


 カシウスは真剣な瞳で説くが、その言葉にルシアは即座に首を振った。


「……申し訳ありませんが、それはお断りします。その身は時に役立つかもしれませんが、時間も膨大に取られます。それは私にとって有益ではない」

「……そうか。まあ、仕方ないだろうな」

「そして私はまた近い内にクロスベルに戻ります」


 その言葉に、エステルがガーンとショックを受けたような、寂しそうな顔をする。

 レナはその言葉を予想できていたようで、あまりショックを受けてはいなかった。


「……私は、私の使命を果たします」

「君の使命とは?」

「青き星の再生を見届ける事。そして……アルテナに会う事。それだけです」

「…………」


 妙に饒舌になったルシアに、カシウスは目を細めた。

 レナは眉を顰め、その言葉を吟味する。


「……そのついでに、答えを探します」

「そうか。それが何かについては聞かないでおこう」


 どうも、と頭を下げたルシアは自分の部屋へと戻り、彼の部屋へエステルが突撃していった。

 騒がしい居間が静かになると、レナがポツリと呟いた。


「あなた……」

「何だ?」

「青き星、とはなんでしょう? アルテナって知ってます?」

「いや……知らないな。だが再生を見届ける、か。それではまるで、現在は滅んでいる、壊れているかのような意味になるが」


 情報が少なすぎて答えが出そうにない、とレナに答えた。

 そんなカシウスにレナはそうですねと返し、消えていった階段の方へと視線を向けた。

 確かに旦那の言う通りなんだろう。

 恐らく想像もつかないものを背負っていて、迂闊に踏み込めば大変な事になるかもしれない。

 ここで賢い選択は、傍観者として過ごすのが、一番正しい答えなんだろう。

 でも。


(でも、それでもあの子を助けたいって。“息子”として迎えたいって思うのは、いけない事なのかしら)


 レナは手元のホットミルクを飲みながら、切実に願った。








 翌日、仕事に出かけたカシウスを除く3人でロレントの街へ買出しに出かけた。

 復興作業が続く街並み。

 順調に作業進み、人口も再び増え始め、かつての賑わいが復調の兆しを見せ始めていた。


「これは……何です?」

「りんごよ? フルーツの1つでね、とっても美味しいわ」

「…………これは?」

「梨ね」

「…………同じに見えるんですが」

「フフ。まあ、部類は一緒ね」

「とっても美味しいの!」


 食料品店前で買い物をするレナたち。ルシアは果物売り場前でジッと見ては何かを尋ねていた。

 何も知らないルシアに丁寧に教えるレナと得意げに語るエステル。


(ルシアって何も知らないんだ。なら私が教えてあげよっと!)


 そう決意するエステルであった。ここで他人を馬鹿にしない所が彼女の良い所であり、母のレナとカシウスによる教育の賜物であった。


「これ知ってる?」

「いえ」

「これはイチゴって言って、甘いの!」

「そうですか」


 分かっているのか分かっていないのか解らない表情で肯くルシア。

 なんとも微笑ましい会話が続き、レナはニコニコしながら聞いていた。

 結局買い物が終わったのはそれから1時間ほど後の話で、外に出ると主婦が多くみられるようになっていた。

 通りを歩いていると、見えてくるのは時計台跡地。

 未だ更地のままだった。

 レナが後に知った事だが、時計台の中に避難していた住民がたくさんいたらしく、崩落の際に全員死亡したのだった。

 死体の片付け、元々の時計台の文化的価値と機材の値段など、諸々の問題から未だ再建の目処は経っていない。

 ロレントの街で一部だけ復興が進んでいないのは、少し異様な光景だった。

 そこを通りかかった時、自然と3人の足が止まった。

 レナがエステルとルシアに語りかける。


「懐かしいわね。ここが私たちが初めて会った場所……覚えてる?」

「もちろん!」

「…………ええ」

「君が居てくれたから、私たち親子が助かったの。ありがとう」


 そっと背後からルシアを抱きしめる。

 すっぽりと腰元までに収まる小ささに改めて驚き、己の決断を実行しようと決意を固めた。

 レナの言葉に顔を背ける仕草を見せるルシア。それを見つつレナは屈んで同じ目線の高さに合わせ、手を重ね合わせる。


「実はね、貴方に提案があるの」

「…………」

「ねえ、ルシア君」


 あなた、と続ける。

 既にレナから聞いていたのか、エステルが目を輝かせて次ぐ言葉を待つ。


「ウチの子に————————私の息子に、ならない?」

「……………………え?」


 風が、心を突き抜けた錯覚を感じた。

 言霊。言魂だ。

 身体の芯に浸透してくる優しい声。まるで桜の花のような、観る者の心を洗うような願い。




『さすが———と———の子だね。まだ幼いのに聡明な子だよ』

『ねぇねぇルシア? ヴェーンに入会しない? え? お金はいらないから!』

『いいか、ルシア。人生は博打だ。最後の最後には絶対に勝つ勝負をしろよ』

『正義の心を忘れるな。己の魂に誓う正義を。それが大事なことなのだ』

『なあルシア。この剣はなお前の親父も使ったんだぞ。当然、お袋さんもこの剣に助けられた。その剣をくれてやる』

『いい? 悪い人にはついていっては駄目だよ? 危なくなったら私を呼びなさい? いいわね!』




『そう。そうだ。そうして私を滅ぼすがいい! ルナの人間の所為で、ふたたび青き星を死の星へと変えるが良い!』



「……申し訳ありません」

「…………そう」

「え……」


 心底悲しそうにするレナに対し、ルシアは言葉を続ける。


「……私には、その資格はありません」

「?」


 俯いて、そう言う。

 レナもエステルも、その意味する所が理解できなかった。


「…………帰りましょう」


 レナから逃げるように、ルシアは歩き出した。

 エステルは露骨に残念そうにして足元の石を蹴ったりしている。


「やっぱり駄目だったか……」


 レナも寂しそうに呟き、彼の後を追った。

 諦めないけど、と呟いたのをルシアは当然聞こえていなかった。





「……依頼が貯まっているかもしれませんね」


 家に戻ると、教会からルシア宛てに手紙が来ていた。

 カシウスが連絡していたようで、マーブルからであった。

 お世話になっている件の感謝の言葉がレナ達宛てにあり、怪我は大丈夫なのかといった言葉も書かれていた。

 そこでクロスベルから随分と長い間リベールに滞在している事に気付き、『何でも屋』の仕事が溜まっているかもしれないと、ようやく思い出すに至った。


「……レナ。ありがとう」


 2階から出れるベランダの扉を開け、バルコニーに出る。

 そこで振り返って、レナに感謝のことばを述べる。

 昼間の件について、ずっと引っかかっていた。


「エステル。貴方は温かかった」


 あの何の邪気も感じない真っすぐな笑顔には驚いた。

 貴方は確かにレナの娘だと、実感した。


「カシウスさん。怪しい私を見逃してくれた。配慮感謝します」


 警戒していた自分を攻撃しなかった。

 妻と娘の為に見逃してくれた。

 そんな人間もいるんだと、知る事ができた。


「……また、顔を出しにきます」


 そう言って仮面とマントを纏い、いつもの仕事着に着替える。

 もう一度振り返り、小さくお辞儀をする。

 そして深夜の月が辺りを照らす夜の闇の中へと消えていった。


「…………」


 資材置き場の裏で、カシウスが目を瞑りながら腕を組み、何かを考えていた。


「…………なるほど。最近噂の人物が彼だったか」


 納得出来た事と、余計に納得できない事もあったが。

 とりあえずは明日、妻と娘にどう説明したものかと頭を悩ます事になった。


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