人々の憧れにして最強の象徴、『女神アルテナ』を守護する存在という、あらゆる意味で英雄と呼ぶにふさわしい存在。それが『ドラゴンマスター』。
最後のドラゴンマスター・アレスの冒険譚からどれほどの時が過ぎたのか……。
彼らの活躍がルナに住む人々の記憶から薄れて伝説となってしまった頃、アルテナ神団を名乗る教団が現れた。彼らは女神アルテナの名の下にルナを強力に統べようとしていた。
そのとき、ひとりの少女が凍てついた青き星で目覚めた。天空に輝くルナを見て彼女はつぶやく。
「まだ目覚めのときではないのに……」
と。
考古学者の卵であるヒイロは、ルナに存在する最古の遺跡ともされる青き塔を盗掘……もとい、発掘していた。まんまと竜の目と呼ばれる宝を入手したヒイロの前にまばゆい光が走り、少女が姿を現わした。
彼女は言う。
「わたしの名はルーシア。青き星からやってきました。この世界は危機に瀕しています」
強力な魔法を操り、塔に棲む魔物を一掃するほどの力を持つルーシアであったが、かつて青き星を滅ぼしたゾファーの前にその力を奪われてしまう。
ルーシアは冒険を通じ、ヒイロや仲間たちと触れ合い、人間らしさを身につけていった。
だがその結果、ゾファーの完全復活とルーシアの敗北、そして女神アルテナが人間に最後の転生をしていたという、女神不在の真実であった。
ヒイロはルーシアを助けたいと叫び、暗黒の破壊神『ゾファー』と戦った。
限りない人間の可能性を見せつけたヒイロはルーシアを助け出し、ゾファーを打ち破った。
2人はその後、青き星へと渡り、2人っきりで青き星の再生と復活を見守り続けたのである。
————それが、およそ1000年前の話。
そして今。
復活して緑溢れ、数多の命が存在する青き星が、再び全滅の危機に陥っていた。
「…………」
少年がひとり、荘厳で神聖、天高く聳え立つ神殿の最深部にいた。
年の頃は5歳ほどだろうか。
青い髪。緑色の瞳。黒の衣服に身を包み、紅い外套を身につけ、真っ白の雪の世界へと変貌した大地を見下ろしていた。
下界は唯一の命ある者たちであった動物たちが、一斉にこの塔へと集まってくる。
その身を腐らせ、悲鳴を上げ、雄たけびを上げ、呪いの怨嗟を上げていた。
「…………」
少年がスッと手を挙げるとそこに水晶が出現し、『死滅した青き星』とそうなった『元凶』の姿を映した。
少年は外套を翻し、宙に浮いて下界へと舞い降りた。
生きる死体となった、大切な動物たち。
目には映りにくい、小さな微生物たち。
それらが皆、敵の手に落ちた。
『青き星のルシア。再び滅ぼされる事になった青き星はどうだ?』
「…………」
ルシアと呼ばれた少年の前に立ちふさがるのは、天から大地へと突き出てる巨悪。
実態無き存在。人々の悪意から生まれる災害。1000年の刻より蘇った、女神の敵。
暗黒の破壊神『ゾファー』
『フハハハハハハ。青き星のルーシアは言った。人々の可能性を信じると。女神アルテナも言った。人々を信じると。その結果がこれだ』
「…………」
『暗黒の破壊神』との戦いは熾烈を極めた。
その存在から半径50kmほど一帯は完全に焦土と化しており、巨大なクレーターは出来、底が見えないほどの断崖絶壁すらある。
天は黒い雲が光を遮り稲妻が走り、大地は巨大な振動で揺れ動く。
その様はまさに『世界の終わり』と呼ぶに相応しい。
ルシアはゆっくりと、左腕を天へと掲げた。
『そう。そうだ、そうして私を滅ぼすがいい! ルナの人間の所為で、ふたたび青き星を死の星へと変えるが良い!』
「…………」
少年の瞳が揺れ動いた。
その眼に映るのは、変わり果てた愛すべき青き星の命たち。
「アルテナの光よ…………」
一縷の光が青き星を包んだ。
つんざくような落雷の音。大地を雷が穿ち、世界中から小さな命の結晶である魔素が集まる。
その数は、無限。
数多の光が少年が掲げた左手へと集う。
世界から色が無くなり、灰色の世界へと変貌する。
『だが我は同じ失敗はしない。貴様も一緒に———』
少年は目を瞑り、そしてゆっくりと目を開けた。
周囲を見回して再度目を閉じる。
「アルテナの……光よ」
『死ねぇえええええええええええええええええええ』
ゾファーから放たれる死の一撃。
山を吹き飛ばし、生ける死体となった青き星の動物たちを消し飛ばし、少年へと迫る。
その破壊光線は、辺りへエネルギーを放散しつつ、跡は破片すら残さぬほどの破壊力。
それを見て、少年は左手を。
その手を振りおろした。
この日。
青き星は再び滅び、ルナの人々は青き空を見上げてそこに映る青き星の異変を知った。
衝突した力と力は全てを吹き飛ばし、青き星は誰もいない死の星へと変わり果てた。
ゾファーも、そして少年も。
その場には誰もいなかった。
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