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No.34409の一覧
[0] 刀系ヒロインを攻略する話(短編)[卍るカブラ](2012/08/06 21:51)
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[34409] 刀系ヒロインを攻略する話(短編)
Name: 卍るカブラ◆a0691b77 ID:20d43e1f
Date: 2012/08/06 21:51
例えばの話をしよう。
ある日の夜、君は一人暮らしのアパートを出て歩いて10分の所にあるコンビニに向かう。

用事はなんだっていい。
小腹が空いたとか、夜道を無性に歩きたくなったとか、家にいると何だか得体の知れない恐怖(多分将来への不安)に襲われるとか……何だっていい。
そうだな、ここは……コンビニでバイトしているクラスメイトの女子の前でグラビア雑誌を買い反応を見る、とでもしておこうか。

クラス女子の限りなく害虫に近い物に向ける視線を背に、君はコンビニを出る。
君は人知れない性癖を満たし、非常に満足して帰路に着く。
スキップなんかもしているかもしれない。
明日教室であの女子に会った時、どんな言葉をかけられるか考えるだけで気分は高揚、鼻歌を歌っているかもしれない。

そして君は血に塗れた怪しくも美しく光る刀が、コンクリートである地面に突き刺さっているを発見するのだ。
すぐ側には血塗れの少女。

さて、いきなり日常(クラスメイトの女子に限りなくエロ本に近いグラビア雑誌を見せつけるのが日常かどうか疑問だが)から、非日常に踏み入れてしまった君。
さあどうする? どういったアクションをとる?

ここで優柔不断系なあなたの為にいくつか選択肢を用意しよう。
ちなみにこの選択肢は数多の選択肢の一部であることを言っておく。世界は無限の選択肢で構成されているのだ……。
では、選んでみてね。

1.異能力ラノベの主人公に習い、少女を家に連れて行き治療する。何やかんやで少女と同居し、何らかの組織と戦ったり、少女と(性的な意味で)戦ったりする。あなたが能力に目覚め前線に立つか、少女の戦いの解説役になるかは運次第!(仮にの能力が女性しか扱えないという世界観なら逆にチャンス! あなたは例外である男性能力者として敵味方から(性的な意味で)狙われちゃうかも!)

2.見なかったことにして家に帰る(将来大人になった時、今日のことを思い出し罪悪感に陥るかも……。その罪悪感が常にあなたを身を苛み、受験に失敗し面接に落ち、お見合いは破断し、頭部は不無地帯、ダンボール生活のプロに……)

3.警察、救急車を呼んでから立ち去る(最低限の義理は果たしたと思い込むあなた。でもそれってどうなの? それで満足? もっと他にやりようがあったんじゃないの? あんたの心の中にある小さな影……それって罪悪感じゃないの? 小さな影はいずれ心を覆い、何やかんやでダンボール生活のプロに)

4.治療系能力を施す(あなたが日常に潜む異能力者ならオッケー。もしそう思い込んでる痛い人なら、取りあえず『癒えろッ!』とそれっぽいポーズと呪文を唱えてみよう。あなたの思い込みの深さによっては、プラシーボ効果によって治っちゃうかも。治らなかったらダンボール生活のプロな)

5.そもそも外出したこと自体が妄想だった(コンビニに行ったと自らを錯覚するレベルの引き篭りのあなた。ダンボール生活のプロとか、興味ない?)

6.ダンボール生活のプロになる。


取りあえずざっとこれくらいの選択肢が現れたけど、どうかな?
こう見ると人がダンボール生活のプロになる可能性ってのは、非常に高いね。
そもそもダンボール生活のプロってなんだろうね。僕には分かんないけどね。

と。ここでネタばらし。
さっきまで話しかけていたあなたって実は僕のこと。
唐突に血塗れ現場に遭遇したせいで、ちょっと混乱してらしい。

「……ふぅ」

改めて目の前の光景を眺める。
自動販売機。販売機から漏れる光がまるでスポットライトのように少女を照らしている。少女は俯せで倒れており顔は見えない。まるで舞台劇のの一幕のようだと、僕は場違いな感想を抱いた。
刀は夜の闇の中にあって、その輝きを失っておらず、その輝きから目が離せない。抜き身と刀を初めて見たけど……こんなにも心が引き込まれるものなのか。

突き刺さった刀の側で血塗れになり倒れている少女。この場合、劇の種類はなんだろうか。ミステリー? 悲劇? サスペンス?
じゃあ、僕の役割はなんだろう。
物語の始まりを告げる通行人A?
それならそれでいい。
僕はどうちらかといえば、平和な日常が続くことに憧れているタイプだから、あまり厄介ごとには巻き込まれたくない。

だからといって血まみれで倒れている少女を放置するほど薄情なつもりもない。
しかしネックは少女の側にある刀だ。
これさえなければ少女は、通り魔に襲われただけの被害者かもしれない。
ただこの刀のせいで、何らかの敵と戦っていた力尽きた……みたいな。ラノベ的な。
でも、綺麗だ。やはり場違いな感想を僕は抱いた。血塗れでありながら彼女は美しかった。

「……うぅ」

音一つないこの空間に、少女の口から消え入りそうな小さな声が響いた。
少女は生きている。
血が実は全部返り血だった、なんてオチかと思いきや少女のミニスカートから伸びた生足に傷があったので、やっぱり違うようだ。

「……し、死ぬぅ……や、薬草……薬草的な物を……」

少女は掠れた声で呟く。
地面とキッスしている状態なので、僕が見えているわけではないのだろう。
胡乱な、半ば眠っている状態で呟いているのか。

「死にたくない……まだ、イヤ……死にたく、ない」

無意識に出ているその言葉は、本能から出ているものか。
僕は迷った。
面倒なことに巻き込まれたくない。できれば警察やらに電話してそのまま去りたいと思っていた。
でも少女の心から出た偽りようのない言葉を聞き、揺らいだ。
今ここで去ったならば、きっと後悔する。
少女が保護された助かろうが、間に合わず命を落とそうが……それが分からないままだったら、一生後悔する。
ここにいよう。
既に警察と救急車は呼んだ。
彼女の行く末を見届けよう。
それが彼女を見つけてしまった僕の責任だと思ったから。

「うぅ……おいしい物食べたい……お金欲しい……顔はそこそこで優しい彼氏欲しい……海外旅行行きたい……むふふ」

僕は帰ることにした。
多分この子大丈夫だわ。横顔だけ見てもなんかニヤけてるし。死にそうにないし。
でも流石にそのまま帰るのはあれだから、さっき勝った栄養ドリンクでも置いていこう。

「じゃ、僕帰りますんで。あと少ししたら警察とか来るんで、頑張って下さい」
「……警察……やばい……でも、動きたくない……でも、警察はやばい……ああ、コンクリート冷たくて気持いい……」

本人曰く警察はやばいらしいけど、世の中には警察よりやばいもの(追徴課税とかモンペアとか)いっぱいいるから大丈夫じゃね?

「破産とか差し押さえに比べれば警察なんて大したことないですよ」
「……うむむ、確かに……うん、それは、確かに……ぐぅ」
「じゃ、帰ります」

僕は帰路についた。
この先、今日この日の出来事について思い出すことはあるのだろうか。
大人になってふとワイフ(眼鏡美乳。切れ味のいい刀のようなスッパリとしあ性格)と仕事後のお酒を飲んでいる時に思い出すかもしれない。
でも、罪悪感を感じることはなさそうだ。
僕はやれることをやった。
彼女にはこのまま、頑張って欲しい。僕の知らない所で。
さようなら、異能バトル系の人……もう会うことは無いでしょう。

今日僕は異能バトル系の世界の一端に触れた。
あのまま別の選択肢を選んでいたら、その世界に浸かっていた可能性もあるんだろう。
ただ、僕はそんなことより、早く家でグラビア雑誌を読みたかった。
異能よりも性欲が勝ったのだ! 第一部完!



■■■


アパートに帰ったら、先ほどの血塗れ少女がいた。

「あ、やっぱりこの部屋だったんですね。よかったー」
「……げげぇ」

何となく予想はしてたけど外れていて欲しかった……。
僕は右手に携帯(110をワンプッシュできる状態)、左手を手刀の形にした天地魔闘の構え~不法侵入編~を発動し、血塗れ少女と相対した。

「ど、どうして僕の家が……」
「匂いです。わたし鼻が効くんですっ」

にへらぁと笑う少女with刀。
先ほどは俯せで分からなかったが、かなり可愛い顔だ。血塗れだけど。
街中ですれ違ったら後を追って家を確認して偶然を装って出会いを演出しちゃうくらい。
まあ、僕のタイプではないけど。

「いや、そもそもあの傷でどうやって……」
「あのお薬あなたがくれたんですよね! 一瞬で傷が治っちゃいました!」

知らなかった……。大塚○薬っていつの間にかエリクサー開発してたんだ……。

「傷つき倒れていたわたしはすぐ側にあるお薬を飲み干しました。回復する身体。わたしは悟りました。この○ロナミンCとやらを提供しれくれた人は恩人だと。わたしは○ロナミンCに付着した匂いを辿りここでやってきました。あわよくばお風呂を借りてご飯もいただけたらという思いを胸に秘めて……」

オシャレTシャツの膨らみに手を当て、そんなことを言う少女。
全然胸に秘めてないし、すんごい厚かましいC。

「あの速やかに帰っていただけると嬉しいんですけど」
「……恥ずかしながらお腹が減ってしまい、一歩も動けません……」

顔を赤くして俯いちゃう女の子。
それほんとか? どうせ僕が「じゃあ、身体で払ってね」って下衆心とズボンの中のモンスター(レアモン。滅多に人前に現れない)を露出したら、「そ、そんなつもりじゃありませんでした」とか言って逃げんでしょ? 分かってるし。
いや、もし本当に一歩も動けないとしたら……試してみる価値はありますよ主任!
まだ一度も起動してないロボを溢れ出る若さで出撃させようと上司に掛け合う新人はひとます置いとこう。一度でも出撃させたら後には引けないからね。

「……何か食べさせたら帰ってくれるんですか?」

可愛い女の子(ワケあり)と同居するのは男の夢だろうけど、ワケの度合いにもよるよね。
血塗れとか、明らかにバトルに巻き込まれる展開になるだろうし。
彼女がもし血塗れじゃなくて、実はどこぞのお姫様だった、とかなら大いにありなんだけど(追ってきた美人護衛とのバトルくらいなら許可)

「はいっ、ご飯食べたら帰ります。こんなによくしてくれたのに、ご迷惑をかけちゃいけないですし……」

もう十分かかってんだよ。つか人に家上がり込んでおいてよく言えるな。そんなこと言う口はここかな、それとも……こっちの口かな?(こっちがどこか分からない人はお父さんかお母さんに聞いてね。お正月で親戚が集まった時とかに聞くとベネ!)
よし決めた。食わせるもん食わせてさっさと出て行ってもらおう。
こういう輩は調子に乗らせると、どこまでも調子に乗るからな。
僕は冷蔵庫から箱買いし過ぎてどうしよもなくなった、チョコエッグを取り出しつつそう思ったのだった。



■■■



「それから何やかんやでお前が生まれたんだよ」
「マジでか!?」

僕の膝の上に座った愛娘が驚きの声をあげた。

「マジだよ。お前のママは道端で血塗れになって倒れていた上、見ず知らずの男に家に上がり込む尻軽ビッチなのさ!」
「ショック! 自分の奥さんのことをビッチって言っちゃうパパにもショック!」

僕だって本当はこんなことを言いたくはない。
でもこれからこの子が大きくなって、色んなコミニュティに触れることになったらもっとショックな言葉に触れることになるんだ。

「そ、それでパパに家にママが上がり込んでから何があったの?」
「なんやかんやさ」
「何やかんやって?」
「何やかんやは何やかんやさ。その色んな何やかんやの中でお前が生まれたんだよ……」
「そんな曖昧な表現で濁されても……ママを追ってきた敵と戦ったりしたの?」

敵。
そうあれから僕と彼女は敵と戦った。
時に力を合わせ、時に突き放し、そして和解し、逃げ、立ち向かい、別れ、出会い、1年間に続くダンボール生活……。
今でもあの日々の記憶は、僕の心フィルムに鮮やかな形で残っている。

娘の頭を撫でる。

「そうだね、戦ったよ。でも本当の敵はね……僕たちの中の弱い心なんだ」
「いや、そんなイイコト言った風に締められても……」
「本当の強さは相手を許すことなんだよ、分かるかい?」
「いや、だから話の流れが飛びすぎだよパパ」
「だからお前も健太君のことを許してあげなさい」
「誰健太君!? いや、この話の発端私が健太君と喧嘩してパパが自分の人生を語りつつ私を諌めるとかじゃないからね!? ただパパとママの出会いを聞いただけだからね!?」

目をカっと開きつつ、まくし立てる娘。
あまり母親とは似ていないと人から言われるけど……僕には分かる。
目元や口元がそっくりだ。

「お前はどんどんママに似ていくね……嬉しいことだけど、ママがここにいないことを改めて思い知らされるよ。……ゴメン、ちょっと湿っぽくなったね」
「ほんとにね。何かママ死んでるみたいな流れだし。めちゃくちゃ生きてるし。町内会の温泉旅行に行ってるだけだし」
「今日は一緒に寝ようか」
「淋しいからって、私にママを重ねるのやめて。……一緒に寝るのはいいけど」

プイと顔を背けながら言う娘。
今のところ「パパ臭いから洗濯別にしてー」とか言われていないけど、将来はどうなるか分からない……。
「もう一緒にお風呂入らない!」とか言われたら僕もショックでお風呂に入らなくなるかも。

「そのかわり、パパとママの話もっと聞かせて。ママは全然話してくれないし」
「お前のママ酷いな」
「なんか昔のこと話すの恥ずかしいんだって」
「確かに昔のママは恥ずかしかった。ママの過去がネットに流出したら、多分ママ出家すると思うよ」
「そんなに恥ずかしい人だったの!?」
「ああ、恥ずかしい子、略して恥子だったよ……お前のママは恥子なのさぁ!」
「だから何でさっきからタマに、息子に母親は娼婦だったって罵る姑みたいなテンションになるの?」

それはねえ……お前のママが家にいなくて寂しいからさぁ!

そもそも何故この子は急に俺と彼女の馴れ初めなんて聞きたがったのか。

「クラスの男の子に言われたの。お前の母ちゃん変だって。変じゃないのに。でも、やっぱり他のお母さんとは変わってるから……」

それで、か。
確かに僕のワイフは少し変わってる。
自分と他人が違うっていうのは、子供にとって恐ろしいことだ。
輪の外側に追いやられたような感覚。

「お前の母さんは少し変わってるけど、別におかしいことじゃないよ。少し違うだけさ。個性的なだけ、分かる?」
「個性的……うん。そうだね、ママ個性的なんだよね!」
「そうさ」

笑顔を浮かべる娘の頭を撫でる。

「よし、じゃあまずはママが編み出した必殺技を解説しようか」
「ママ、必殺技とかあったんだ……まあ、何かと戦っていたなら、まあ……うん」
「必殺技っていうか、ママは絶技って呼んでたけど」
「……うお」

娘が胸を抑えた。
多分得体の知れない痛みに襲われているのだろう。
僕もだ。彼女と会ってからの日々を思い出すと、無性に枕に顔を埋めてバタバタしたくなる。

「まず絶技には4体系あって、それぞれ白虎の型、朱雀の型、青龍の型、弩猫の型に分かれているんだ」
「亀がリストラされて猫ちゃんが入ってるよ!?」
「お前のママはねぇ……亀が大嫌いなのさぁ! そして猫ちゃんが大好きな女なんだよぉ!」
「知ってる」

猫グッズ多いしね、この家。
未だに週一回は猫ちゃんがプリントされた下着履いてるしね。

「白虎の型は近接系、朱雀の型は遠距離系、青龍の型は中距離、弩猫の型は可愛い系の必殺になってるんだ」
「明らかに一匹浮いちゃってる!」
「まあ、猫の型は僕に甘える時に使う必殺技だからね。ママの部屋に猫耳と尻尾あるじゃん? あれ使って――」
「聞きたくないよ! あれが何に使われてるかなんて知りたくないし! っていうか私あれ何回か付けちゃってるし!」

やはり血筋か……。

「ママの猫パンチが僕の身体に及ぼす効果とか知りたい?」
「知りたくないし!」

まあ、それ言っちゃうと、昔話じゃなくて保健体育の話になっちゃうからね。

「うぅ……色々ショック。ママが異能バトル系のヒロインだったってこともショックだけど、猫ちゃんが夫婦の夜の生活に深く絡んでいることの方がもっとショック」
「ママが猫まんま食べてる時は『今夜どう?』の隠語だったり、これ豆知識な」
「ママ週6日猫まんま食べてるけど!?」
「お前が生まれる前は週7日だったんだよ」
「……うぅ、知りたくなかった」

娘にはショックな出来事過ぎたか……。
でも、これから社会に出るともっとショックな(略)獅子は我が子を(略)心を鬼にして(略)エア味噌汁(笑)

ショックを受けながらも話を急かしてくる娘の頭を撫でつつ、過去を思い出す。
あの時、血塗れの彼女と会ったあの日、違う選択肢を選んでいたらどうなっていたんだろうか。
もしかするとこの子は僕の膝の上にいないかもしれない。
あの頃、僕は自分の選択を何度も悔いた。最良の選択肢を何度も逃してきた。
二度と手に入らないものをいくつも失ってしまった。手に入れた物の重ささえ理解せずに手放した。

それでも。
今膝の上にある重さを感じると。
あの頃の選択は間違っていなかったんだと思う。

「お前もいつか人生の岐路に立たされると思う。でも絶対に選んだ道を後悔しないで欲しい」
「パパは後悔してないの?」
「してないよ」
「他の道を選んでたら、とか思わない?」
「思わないよ」
「……そっか」

娘は何か思うところがあったのだろうか。
僕の言葉を噛み締めるかのように、頷いた。

「――ただいま帰りましたー」

玄関が開く音と聞きなれた声。

「あ、ママ達だ!」

娘が膝を降りて、駆け出していく。
僕は娘を追い越して玄関に走った。

「パパ大人気ない!」

大人気あろうがなかろうがワイフに最初に会うのはこの僕だ!
玄関に向かうと彼女がいた。

昔、会った頃と変わらない姿の少女。そして彼女の腰に佩びている刀。

「ただいま帰りましたよー。いやぁ温泉ってほんといい物ですね」
「お帰りマイワイフ! 会いたかったよ!」

僕は彼女を抱きしめた。

「わわ! ちょ、ちょっと待ってください! ストップ! ストップです! きゃあ!」

少女は僕の腰へのタックルを喰らい、玄関に倒れた。
僕はすかさず少女の腰から彼女を抜き取った。
抜き取った彼女を思い切り抱きしめる。
彼女は照れ混じりの声でただいまと呟いた。

「3日ぶり! 錆びてない!? 曇ったりしてない!? ちゃんと手入れされた!?」
「も、もう……ちゃんとやってますってばぁ」
「本体の人は黙っててくれないかな」
「す、すみません」

愛しの彼女を抱きしめる。
3日離れていただけでこれだ。彼女がいないとダメだ。ほんと彼女は魔性の刀だ。そんな魔性の刀に僕は魅入られていた。初めて会った時から。

「ママー!」

娘が駆け寄ってくる。
僕は彼女を挟むように娘を抱きしめた。
はいここで一家揃った。一家揃ったよ!
恥ずかしいと口ごもりながら言う彼女を離さず、僕はカメラを取り出した。

「本体の人! 写真を! タイトルは三日ぶりの再会で!」
「分かりましたー。あ、あのできれば、わたしもその中に入れて欲しいなー、なんて」
「え?」
「え?」
「い、いや何でもないです、はい」

彼女を抱きしめていると思い出す。
昔のことを。様々な障害があった。人と刀、結ばれるのには多すぎた。
だが僕達はそれを乗り越えた。
だから今がある。
だからこれでいいんだと思う。

「……それにしても何で持ち主のわたしにすら聞こえないこの子の声が聞こえるんでしょう。いや、今さらですけど」
「そんなの愛に決まってるでしょ!」
「そうだよー! 愛だよー!」

愛ってなんなんでしょうね、と涙目で呟く本体さん改めワイフの持ち主を背に、僕達は3日振りの再会を大いに喜んだのだった。




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