第6話「いろいろあって」
「へえ、よくできているねぇ」
「行人っ!?」
行人はしげしげと士郎を見上げ、士郎のボディアーマーを無遠慮に触りだす。行人の奇行に驚愕の声をあげるすず。
「うわ~、すごいな。まるで本物みたいだ」
「い、行人……だ、大丈夫なの……?」
「ああ、すずも触ってみなよ」
「い、いいよ……」
「そお?」
恐れ慄くすずを尻目に行人は熱心に士郎を触るながら、あやねに尋ねる。
「よくできているねぇ。ところで誰が仮装しているの?」
どうやら行人は島の誰かが、変装していると考えている様子。
「い、行人様……」
恐る恐るとあやねは口を開く。
「彼は……」
「あやね」
礼儀の欠ける行動に激怒していると思いきや士郎は落ち着いた様子でぽつりと一言。
「もう一度見せたほうが分かりやすいだろう」
そう言って、再び霊体化する。
「う、うにゃああああああっ!?」
幽霊が大の苦手のすずが悲鳴を上げて、行人にしがみ付く。もにゅんっと豊満な胸を押し付けられた純情少年、行人も悲鳴を上げる。
「きゃああああああっ!!」
そして、鼻血が水芸の如く吹き荒れる。
「い、行人様~!」
鮮血に染まる大地。出血多量で力尽きる行人にあわてて駆け寄るあやね。
(面白い子どもたちだな……)
鼻血を出しながら気絶する行人を介抱するすずとあやねを眺めながら、士郎は思ったのだった。
「「英霊?」」
「その通りよ!」
誇らしげに薄い胸を張るあやねをまじまじと見つめる行人とすず。
英霊。
どのような手段であれ、一個人の力で人の身に余る偉業を成し遂げ、人を超えて精霊の領域に達した者たち。
世界最高位の『人を守る力』であり、人類の守護精霊。
式神としては破格の存在を召喚したのだと自慢げなあやね。
その様子を鼻で笑うように、冷笑する士郎。
「何を言っている? 私は式神になどなった覚えなどないぞ。君が余りにも不甲斐ないので傍で稽古をつけようと思っただけだ。私を式神として仕えさせるなどの巫女となるには100年早い。」
「そ、そんなぁ!?」
ガビーンとショックを受けるあやねにすずは納得したように、頷く。
「やっぱり、あやねだね」
「やっぱりってどういうことよ!」
がーと怒り出すあやねとにゃはははっと笑いながら逃げ出して追いかけっこに興じるすず。
その隣では。
「英霊? ははっ……何を言っているんだ。あれは手品か何らかのトリックで……でも、この島に男の人はいないし……ああ! そっか!!」
ぶつぶつ呟いていていた行人が唐突に手を叩き。
「そうか……ボク以外にもこの島に流れ着いた人がいたのか!」
「……あの~、行人……?」
「なに、すず?」
「どゆこと?」
「いいかい……すず、この世には幽霊・英霊とか式神とかそういう非科学的なモノは一切存在しないんだ! この世の全ては科学で証明できることばかりであって……!」
目の前のあやねの説明を無視し、行人は英霊の存在を全否定したのだった。
「……彼は変わっているな?」
「ええ……まあ、ちょっと、ね……」
「ちょっと、だと?」
科学的がどうだのとすずに熱弁する行人尻目に、士郎とあやねがぼそぼそとぼやく。
「……あれ?」
ふと、足を止めるすず。
「ぶにょっ!?」
突然、立ち止まったすずの背中に顔からぶつけたあやねが呻き声をだす。
「なに、急に立ち止まっているのよ!」
「そういえば、とんかつの姿が……」
あわてて辺りを見回すすず。
すると、木の陰にかたかたと震え、ひどく怯えた様子のとんかつの姿が。
「どうしたの、とんかつ!?」
あわてて駆け寄り、抱き寄せるすず。
「あれは……ぶた、なのか……?」
手足がなく(実際は脂肪の中に隠れて見えないだけ)スラ●ムのように丸っこい、ぶた(?)らしき存在がぴょんぴょん跳ねてすずに抱きついていた。
藍蘭島産の生物を初めて目撃する士郎が驚愕の声を上げた。
「その気持ち、よく分かります」
いつの間にか復活した行人が共感したように呟いたのだった。