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No.34293の一覧
[0] それでも、生きる[シスターブシドー](2012/07/20 15:11)
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[34293] それでも、生きる
Name: シスターブシドー◆8f32a496 ID:05f976bd
Date: 2012/07/20 15:11



人間は優しい生物だと思う。
誰かが命を亡くせば涙を流し、その魂が安らぐことを祈る。




人は恐ろしい生き物だと思う。
本当の怒りに染まり上がった人間は潜在的な恐怖すら引き起こし、恐怖を煽る。




人は慣れる生き物だと思う。
感情の整理が一度ついてしまえば、その物事に対して何処までも俯瞰的に自身を見れる。






【一九九九年 八月五日 日本帝国 神奈川県横浜市 旧旭丘】





「――――私は」


掠れたような声が漏れ出た。
薄暗く、赤く染まった視界。
一拍の時を置いて非常灯が周りを薄っすらと照らしていた。
聞こえるのは金属の軋む音。
材料の耐久力を超える無理な力を無理にかけているから、そんな断裂音が聞こえるのだろう。
この薄暗い小部屋――――機能停止した戦術機管制ユニットの内部に反響し、響く音。
固いクラッカーを噛み砕くような、咀嚼音が徐々に近づく。
それは、残り短い命を私に教えてくれる鐘の音のようだった。
戦車級BETAと、短く呟く。
今から私を殺そうとする、死神の名前。


「………」


今から死ぬという可能性に恐怖は無かった。
贔屓目に見ても、自分は頑張った――――そう思えたからことがあった。
徴兵され、訓練校では指導教官に扱かれ、幸いにも事故死者もなく訓練部隊の仲間と揃って卒業。
前線部隊への配属、頼りになる上官たち。
これならBETAなんかに負けないと、勝てると……一人目の仲間が死んだのを目の前にするまで浮かれていた僕。
当たり前じゃないか。
私がしているのは戦争、殺し殺されする戦争なんだから。
だから、私はそれに慣れようとした。
泣いても、情けなくても慣れようとした。
その頃にはもうBETAは私の部隊が守る防御拠点に近づきつつあったからだ。
仲間はこれからも死ぬ、早く乗り越えないと私が死ぬ。
そうして戦ったのだ。
もう、何回も。
何度も。


「……」


何時からだろうか。
誰かの死に感情が動かなくなったのは。
少なくとも、もう馬鹿らしいほど人が死んだ時から気にしていないだろう。
誰も彼もが気にするのは戦術機の数、弾薬の数、撤退命令の三つだけ。
死人に口なし、何ももう語らないのなら気にするだけ無駄。
皆、疲れていた。
終わりがない戦い、消耗品という自分の在り方に。
それが今、ここでやっと終わる。
終れる、かも知れない。
そう考えると、死神としか思えなかったBETAが今度は天国より迎えに来た天使にも思えた。


「――――……ああ、なるほど」


私は自分の考えを反復し、思い出す。
米国の古い雑誌に掲載されていた記事の一つ。
あれは月面でのBETAとの接触、そして地球へのBETA到達。
空から雲のラインを描きながら落ちてくる降下ユニットに向け、旗を掲げる集団の背中が写った写真。
旗や、周囲にあった垂れ幕にはこう書かれていたのだ。

『ようこそ、地球へ!』

今からすると正気とは思えないものだ。
娯楽が少ない今の時代、同じ雑誌を読み返すことは多い。
そのローテーションの内の一冊にあった、古いSF雑誌の記事だったような気がする。
その写真の集団はBETAを神が遣わした使徒とも語れば、月での戦争は人類の不備によるものだと主張する者。
宇宙生命体との接触、意思疎通、信仰。
あれはある種の極限状態が生み出した錯覚なのかも知れないと、自分がBETAに天使性を感じたことで思い返したのだ。
BETAが天使なら、神様というのは悪魔だろう。
何も感じさせることなく、淡々と人類を処理していく様なぞは正しくデスクワークのような作業に思えるからだ。


「きっと、頬杖でもしながら野球観戦の気分だろうな…」


今頃、あの雑誌はどうなっているだろう?
基地は既に陥落し、今じゃBETAの巣となっている場所だ、人っ子一人も居ないだろう。
攻め落とされた当時の燃え盛る基地の火が燃え移って焼却処分となったか、瓦礫に埋もれたか。
まさか、兵士級BETAが器用に手を使ってアレを読んでる、なんて可能性も思いついては一人で笑う。
気が触れて居るのかも知れないなと、目を細める。
恐怖は感じない。
だが、既に恐怖という物では片付けれない、「諦めた」という意思の放棄の状態なのだろう。
戦闘中に過剰投薬した鎮静剤の影響もある。
もし、鎮静剤が切れたらどうなるのだろう?
理解できているのは死ぬまでに鎮静剤が切れる事は無いということだ。


「………」


一秒が長い。
一分が短い。
後どれだけの装甲の厚さが残っているのだろうか。
後どれだけ、他の仲間だった人間の機体が残っているのだろうか。
外からの唯一の情報源の音に新しい音が混じっている……火薬の炸裂する音、拳銃の音だ。
つまりは、生き残っている人間がそこには居る。
拳銃の発砲音が3発、4発と響き、止まる。
そしてまた直ぐに1発、2発……逃げ惑っているのだろうか?
だが、それはあまり続かない。
脳内で発砲回数を数え、戦術機のサバイバルキットに搭載されている拳銃の型を思い出す。
残りの残弾数は1発……それが発射されない。
その前に死んだのかと思えば、1発。
最後の1発が響いたのが、聞こえた。
まるで躊躇っていたように感じれる空白があり、そしてあまりにも呆気ない音の反響。
耳を澄ませば、頭部に風穴を開け、崩れ落ちる人間の最後の音が聞こえそうな気がした。


「諦める、か……」


あの衛士のように最後まで足掻いて、駄目だった。
でも足掻けるだけあの衛士は幸せだった。
最後まで戦い、死ねたのは無念ではある。
だけど、それは他者は評価するだろう、「よく諦めなかった」と。
その評価を受け取れるのは、最後までその足掻きで偶然に生き残れた人間だけが受け取れるもので、今死んだ人間には無意味な言葉だ。
そこで、ふと思う。
私は何度も諦めているのに、どうしてもう死んでいないのだろうか?
拳銃を取り出し、銃口を咥え、1発。
それで楽になれるのが人体の構造からも判明している。
なら、何故それをしない?
疑問は尽きず、だがしかし、答えは得れない。

だけど、それは当然のことなのだ……少なくとも、私には。
無駄な労力をする理由が、足掻く意味がない。
だって、それは――――



『そこのファントム!生きている!?生きているのなら何かしら反応しろ!』



―――また、こうして私は生き残るのだから。
だから、私はただ待っているのだ。
生き残れるから、こうして座して待つ。
こじ開けられる、管制ユニット。
急激に差し込んだ外の明かりに目を細める。
そして一拍遅れ、続くように入り込むBETAの死臭、火薬の香り、燃料の燃える匂いにむせる。
そんな僕の“生きている”様子に、外部スピーカーから漏れでる声――――今、僕を当然のように救出した英雄は、安堵のような溜息を微かに響かせていた。

「よかった」と。

私は答えるように呟く。

「また、死ねなかった」と。




          △
          ▼




【一九九九年 八月十六日 日本帝国 神奈川県横浜市 旧桜木町駅】



明星作戦―――オペレーション・ルシファーと呼ばれたその一大反抗作戦はH.22、横浜ハイヴの攻略という結果に終わった。
そう、結果的には、だ。
本当は失敗に終わるという段階まで食い下がった作戦を、米軍が投下した新兵器によって
私はそれに思うことはない。
ここ数日、毎日のようにキャンプ地で起き、三角巾でぶら提げられた腕を揺らさないように海を見に行く。
復旧がほぼ進んでいない横浜港が一望できるこの場所。
沖合いに止まる輸送艦隊からの上陸艇や水中母艦から発艦した国連のA-6や帝国のA-6Jが立ち並ぶのが見渡せる。
その風景が、ここは戦場ではないのだと、私に嫌でも事実として認識させた。


(次は、何処に配属されるんだろう)


今回で、同じ隊の仲間は全てが死に絶えた。
私は常に生き残っていた。
そしてまた新しく配属される前に掛け合い、前線勤務を希望してきた。
次は、欧州あたりか?
日本の佐渡島やインド戦線、スエズの防衛ラインも中々に激しい戦場だ。
産油地帯や資源鉱山は各国軍、加えて米軍の海外派遣部隊―――海兵隊―――が派遣されているが故に、言わば暇だ。
戦闘の終了から、一週間。
この戦場の後片付けは国連から専門の部隊や帝国軍が済ませるだろう。
世界各地から召集された部隊は元の所属に戻り、また戦場で戦う日々を続ける。
私の基地はもう存在しないから、配属を待つのと傷が癒えるのを待つだけだろう。
そう考えつつ、眠気を噛み殺す。
ただ座り込んでいるだけ、そんな空気が生んだ眠気が自分を襲わんとした瞬間、腰に下げた無線に一通。
それが呼集命令であるのを確認すると、私はゆっくりと拠点へと足を進める。

次は、何処だろう?

何所か楽しげにも感じれる声色で、そう呟いた。











次の配属先が通達されるまで、後三十九分。







・あとがき
アニメTE、戦術機動く、嬉しい。


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