前書き
管理者「」
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場所を移し、人気のないコンテナがあるところでようやく槐は歩みを止めた。
「詳しく聞かせてくれ」
「はい、姐さん、実はインフィニティーズに勝つために徹夜で訓練してたんです。あ、といってもイメージトレーニングとか私達での戦術を練ったりとかなんですけど」
「私達は途中で切り上げたんですけど、姐さんは納得のいく動きが出来てなくて、朝になって気づいたんですけど、徹夜だった見たいです」
「………偶然聞いただけで盗み聞きしたわけじゃないが、私に勝つため、か?」
槐の言葉に頷くヤァファ達、引き継ぐ形でショウフォウが口を開く。
「姐さん、元からこの演習には乗り気じゃなかったんです」
「?」
槐は疑問符を浮かべる。ああまでイキイキとした表情で宣戦布告をしてきた彼女が、この演習に乗り気ではなかったことに、首を傾げざるを得なかった。
「姐さんが変わったのは大尉と戦ってからなんです。ずっと大尉のことを目標にしてて、次は絶対に勝つって言って―――」
「―――だけど、それから姐さん無理な訓練内容を自分に課するようになったヨ。ウー大尉は珍しく乗り気だった姐さんにそれほど咎めはしなかったけど、ここまで戦いに固執することなかったアル」
「………全ては私を倒すためか。だが、インフィニティーズに敗れた」
「あそこまで一方的にやられて、姐さん、凄く落ち込んでました」
「姐さんの泣いた顔、初めて見たんです」
「私達の言葉にもあまり耳を貸してくれなくて、もうどうしたら良いのか」
「ウー大尉に進言は?」
「それは―――」
槐の指摘に三人が俯きつつ首を横に振る。してない、ということか。
「軍人としての立場から言えば、部下の不始末というのは被害が拡大する前にその上司が何とかするもの。ウー大尉の出方を見てから私も考えよう。少なからずこの出来事には私が原因でもあるのだ」
「じゃあ………!」
嬉しそうに顔を上げる三人に槐は待った、と手を突き出す。
「私が出るのはどうしてもやむを得ないと判断した場合だ。その時に連絡してくれ。これは私の直通の番号だ。ウー大尉としっかりと相談をして効果が無い場合には私が手を貸す。同じ基地で任務をこなすとはいえ、私は中華統一戦線の人間ではない部外者だ。まずはこれで勘弁してくれ」
「いえ!こちらこそ、無理を言ってしまい、申し訳ありませんでした!」
「用事があるのに態々時間を割いていただき、恐縮の至りであります!大尉!」
「ありがとうございました!」
「ほぼ強引に私を話し合いの席に持って行ったのは貴様らなんだがな?」
わざとか?こっちだって忙しいのだぞ。という意を含めた視線にアハハと苦笑いする三人にため息が漏れる槐。
―――唯衣も、安芸と志摩子を相手にするとき、こんな気持ちなのだろうか………。
よもやこんな形で唯衣の心労の一つを知ることになるとはまったく思いもしなかった槐であった。
「はぁ」
大分時間を消費した。唯依を探さねば。
◆◆◆
一方で、唯依がいるアルゴス試験小隊の隊舎―――
「はぁ………」
溜息と共に作業の手を止める。ふと視線を横に動かす。そこには机に置かれた写真立てがあり、中にはとある集合写真を写したものだった。
志摩子、安芸、和泉、上総、アナスタシヤ、トーラス、そして、槐と自分。安芸、志摩子は肩を抱き合って屈託のない笑みを浮かべ、和泉と上総は真面目な二人らしく背筋を伸ばしている。トーラス博士は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべて変わらぬスタンスを保っている。
そして、自分と槐は―――
「ふふ」
手を繋ぎ、少しだけ笑みを零している場面を写していた。あの後安芸達からの羨望の眼差しは心地が良かった。
「っ」
いかんいかん思い出にふけるのは作業を終えてからにせねば。
「………」
キーボードをたたく音が部屋に木霊する。そろそろ日も堕ち始め、小腹が空き始めた頃、はぁ、と唯衣は二度目の溜息と共に
―――槐に会いたい
虚空に溶けてしまうほどに小さな声を漏らしたその時、ドアからノックが鳴り響いた。ビクッ!と突然の予期せぬ音に唯衣の肩が揺れる。
「誰だ?」
もしや、という期待を胸に秘めながら、声を投げ掛ける。
「唯依、私だ。槐だ」
聴き慣れた、あまりにも聴き慣れた愛おしささえ感じられる声に唯依の胸が高鳴った。
「っ!エ、エン!?」
会いたい時に会いに来てくれるなど、出来すぎだ。タイミングが良すぎるぞエン!歓喜する心を必死で抑え込む。
「入ってもいいか?」
「あ、ああ!勿論だ!」
パパッと鏡を見て自分の見た目がおかしくないかどうか確認してから応答する。少しだけ浮ついたような声が出てしまったことに唯依は少しだけ羞恥心を覚えた。
「?……失礼する」
ドアを開き、槐が部屋に入ってくる。
「唯依、調子はどうだ?」
「あ、ああ。大丈夫だ。体調はこの上なく良好だ」
「………」
「ひゃっ!?な、何を!?」
槐はおもむろに唯依の両頬に手を添えた。突然の行動に対応できず、戸惑う唯衣。自分の目元をのぞき込むように見てくる彼の仕草に自然と鼓動が高まる。
「(ま、まさかこんなところで!?まだ事務が、あ、でも………このまま)」
赤面して火照った頭で思考する。自分が槐に求められてしまったら抗えないどころか、逆に求めてしまうほど彼にどうしようもなくされてしまっていることを自覚した。
「(このまま………このまま)」
不意に槐が口を開く。
「少し、疲れてるように見える。寝不足でもしたか?」
「え………?あ、あぁ、そう、だな」
「無理はしないでくれ」
「ああ……ありがとう」
俯く唯依に槐は少しだけ目を細める。
「期待、したか?」
「ッ!?ば、ばかもの!」
ポカッ!と頭一つ分ほど身長の高い彼の胸元に一つ拳を落とす唯依。図星なだけに、その力は弱く、いつもの凛々しさを漂わせる彼女とは違う、愛らしさを露にする彼女がいた。
「今日はそれとは別の用事で来た」
そういって槐の懐から出てきたのは掌サイズの小箱。その中に入っているのは銀色に光り輝く片翼を模した二つのイヤリング。
「………え、槐、これって」
「プレゼント。唯衣には何をあげればいいのか一番悩んでこれになった」
「………」
何の変哲もない目立った装飾さえないシンプルなデザインのイヤリングだ。
だが、見惚れた。控えめながらも確かな存在を主張し、煌びやかに灯りの光を反射する銀のイヤリングに、唯依は槐からのプレゼントという事実が付属するだけでそれがどんな財宝よりも輝いて見えてしまった。
先ほどとは違った意味で顔に血が集まるのを感じ、鼻にツンと鈍く小さな痛みが走った。心がざわつき、目元が潤み、自分は感激していた。
「まったく、もう。なによ、馬鹿。お前は馬鹿だ」
「……唯衣?」
「いや、なんでもないわ。お前は私達が居ないと本当にダメなやつだって思ったんだ」
「………???」
目元を拭い、うんうんと、何かを確信したようにうなずいた後、小箱を両手でしっかりと包み、胸元で抱えると唯依は笑った。
「ありがとう。嬉しい」
「……ん、これからも、よろしく頼む」
満面の笑みを向けてくれた唯依に、槐はそういうのであった。
◆◆◆
「………」
プレゼントをようやく渡し終え、一息ついた槐。
部屋に戻る彼の姿は、知っている人間ならばとても機嫌が良いことが分かる。今日において、最大の目的を果たせたのだ。幾つかの道草を食ってしまったが、彼女たちの喜ぶ姿を記録に残せただけでも十二分に報酬となる。
因みに、槐の持つ十数年分の彼女たちに関連する記録は、無駄に厳重なファイアーウォールと無駄に作成されたパスワードととにかく無駄に多いダミーフォルダによって保管されている。
「………♪」
そして、また新たにそのフォルダに彼女たちの姿が保存された。まさに『頭脳』の無駄遣い。いや、槐にとって無駄遣いではない。決して無駄ではない。
話を戻そう。彼が次に向かったのはトーラス博士の下だ。
事前に言っておくが、別にプレゼントを渡すためではない。菓子折りをプレゼントとして既に送るよう手配してあるため、問題ない。
「失礼します。博士」
扉を開けると同時に飛びかかってくる黒い小さな影、AMIDAくん。それをひっつかんで投げ捨てる槐だが、今回は違った。
「ムキャーーッ!」
翅を広げて飛翔、再び襲い掛かってくる。………が
「ムギュ」
それさえも読んでいた槐が手刀によってAMIDAくんを叩きつける。相変わらず学習しないAMIDAくんの涙ぐましい?挑戦は今後も続いていく。
「え?……槐大尉?」
「やぁ、アナスタシヤ」
「………」
「アナスタシヤ?」
「ッ!ご、ごきげんよう?」
「?……ごきげんよ、う?」
「!?~~~~~ッ!し、失礼いたします!」
パタパタとその場を後にするアナスタシヤ。普段の彼女から見られぬ狼狽した様子に、槐は疑問符を浮かべる。
プレゼントを渡した効果だろうか?渡した時はいつもと変わらぬ様子だった気がするが、後になって恥ずかしくなったのだろうか。
最後は意味不明な挨拶をしたことに気付いて顔を瞬時に真っ赤に染め上げ、退出してしまった彼女の姿は見ていて、槐の胸元の奥にポウッと熱くなるような気持ちになった。
それに違和感を感じつつ、槐は今までずっと蚊帳の外だったトーラスを見やる。
「君も隅に置けないねぇ」
何となく言いたいことは理解できるがあなたに言われると妙に腹が立つ。
「それはともかく博士、本日呼び出した理由は?」
「ああ、うん。明日の予定に着いてなんだけどね。広報部から連絡が来たんだ」
「広報部となると、オルソン大尉からですか?」
「正解、明日の予定に着いて演習の実行部と連携を取りたいそうだ」
「なぜ今になって?」
「さぁね?」
そういって肩をすくめる彼に、槐は絶対なにか噛んでるだろ、と思いつつも続きを視線で促す。
「演習は我々にとって村雨の重要なデータ収集の一つだ。仕上げに入ってるとはいえ、気の抜ける状況ではないのは確かだ。私も個人的な理由も入っているが、せめて明日は予定通りにスケジュールが運ぶように具申してみるさ」
◆◆◆
時間は夜へと移る。
「あに、た、大尉!」
タイミングを見計らったかのように連絡が来た。連絡の主は暴風小隊のワン・ショウフォンだった。
二人は一度外で合流するという形となった。
「どうした?ウー大尉と話はしたのか?」
「は、はい!けど、ウー大尉は放っておけと言っていて……。姐さんは部屋に籠って誰も入れようとしないんです。お願いします!大尉!」
矢継ぎ早に言うワンに槐は彼女の鬼気迫る様子を感じつつ頷く。
「分かった。案内してくれ」
「はい!」
場合によっては更に悪評が増えるのだろうな………。
彼女の後頭部で歩くたびにゆらゆらと揺れる纏められた黒い長髪を見つつ、槐はイーフェイをどうやって元気づけるかの計画を練る。
「………」
女性を元気づける方法は多種多様とあるが、それがその女性個人に適したものでなければならない。
これはまぁ当たり前の話だろう。しかし、自ら引き受けたこととはいえ、今槐がやらなければならないことは、交流をして一ヶ月にも満たない間柄の彼女にどう元気になってもらうかである。
思考を巡らせつつ、槐はワンを見やる。
自分よりも明らかに長く濃密なコミュニケーションを取っていた彼女たちでさえ、立ち直らせることが出来なかったことから、イーフェイの心はより深いところまで傷ついていると、仮説できる。
あるいは、直情的な彼女のその傷心が、一時的なものであって、明日になればケロッとしている可能性もある。
ウー大尉がそれを見越しての、様子見という判断ならばそれで納得がいく。客観的な損得勘定で言えば、安請負してしまった自身が言うべきことではないとはいえ、ウー大尉の判断が間違っていたことを願ってしまう。でなければ、自分がイーフェイの下へ行くのは無駄だったというのだから。
「………大尉」
「?」
ワンからの呼び掛けに槐は一旦思考を止め、彼女を見やった。彼女は歩を進めず続けた。
「大尉は姐さんのことを、ツイ中尉のことをどう思われているのですか?」
「………何故だ?」
我ながら卑怯な問いかけだと思った。槐自身鈍感な男だとは思っていない。むしろ、格納庫前で聞いたあの会話の内容。アレを憧れという枠組みで判断するには難しい要素がある。
だが、同時に男と女の関係というものに結び付けるのにも十分とは言えない。
彼女の問いかけに問いで返したのは、二つの仮説のどちらがイーフェイにその行動を取らせたかの判断をするための材料が欲しかったからだ。
「大尉の言葉からお聞かせ願います」
「………」
振り向かず歩み続けるワンの背中からはどこか、有無を言わさぬ迫力めいたものがあった。いや、これでいいのだ。卑怯な問いかけで安全圏からモノを見ようとする理的な行動だけでは全てが実る筈もない。
槐は現時点での率直な、イーフェイに対しての感情を吐露した。
「素直で芯の入った真っ直ぐな人間だと思う。君たちが彼女たちを姉と呼ぶほど親しんでいることから、彼女が部下、君たちに対して厳しくも優しく接し、共に研鑽を積んでたことが窺える。模範的且つ理想的な上司と呼べる」
少しだけ俯き加減になるワンの様子に、どこか落胆したかのような、そんな感情を感じた。
―――違う、そうじゃないだろう。ワンが聞きたいのはそんな教科書のような感想じゃないだろうに。
槐は続ける。
「だが、プライベートではまたどこか違った面が見受けられた。君たちと共にいた時とあまり違いを感じるには難しいが、よく見れば違いが見えてくる。私と接していた時は、どこか生意気な子供のようで、可愛げのある面が見受けられた。褒めた時に照れていた時などには、凛々しい面から一転して愛らしさがあった」
これが、私の感想だ。
そういって槐は締めくくる。いつの間にか歩みは止まっており、ワンはこちらに向けて頭を下げていた。
「申し訳ありませんでした。大尉。修正は謹んでお受けいたします」
「さて、何の話だ?私は貴様の質問に答えただけだ。それ以上でも以下でもない。だが、貴様らがイーフェイをどれだけ慕っているのが良く分かったよ」
「そんな、私達は、別に」
「良いから案内してくれ。私とて暇ではないのだ」
突き放すような言い方になってしまったが、ワンはむしろ笑顔になってハッ!と応え、歩を進める。
程なくして、イーフェイの部屋へと到着した。
「それでは、私は失礼いたします」
そういって足早と去ろうとするワンを槐は止める。
「待て、見守ることはしないのか?」
「い、いえいえ!お邪魔をするわけにはいきませんので」
………なにか、勘違いしてないか貴様は?
「それでは!今度こそ失礼いたします!」
「あ、ちょっと………!」
走り去っていくワン。その顔は耳まで真っ赤にしており、何を考えているのか、槐は経験(意味深)から予想ができた。
「隊長に似て人の話を聴かん奴らだ」
こんなことなら悪い点も言っておけばよかった。
槐は内心で溜息を吐きつつ部屋の内部をスキャン、イーフェイの居場所と状態を確認する。彼女の状態に異常は見られない。椅子に座って何かを飲んでいるようだ。
槐は部屋に入るために一度ノックをする。
「イーフェイ、わたしだ。入ってもいいか?」
「大尉~?どうぞどうぞ~」
「……まさか」
彼女らしからぬ間延びした声に槐は脳裏に過った予感を確信しつつ扉を開ける。
するとそこには、頬を赤く染め、酒を煽るイーフェイの姿だった。
「あ~~大尉ぃ~いらっしゃ~い」
「イーフェイ。呑んでも大丈夫なのか?」
「大丈夫らいじょうぶ、平気どぅえすよ~」
………重症だ。
「座ってもいいか?」
「どうぞどうぞ~」
酔っているイーフェイはこれまた違った彼女の一面を見せていた。
陽気な彼女の言葉に、槐は彼女とは対面での席に座った。
「大尉~、そんなところに居ないで隣に来てくださいよ~」
「私は酒癖が悪いから飲めないぞ?」
「そんなこと関係ありませんってヴぁ~」
もはや泥酔と呼んでも良い彼女の状態では、何を言っても無駄なのだろう。予想される最悪の展開を回避するためのプランを考えつつ槐は言われるままにイーフェイの隣に席を移動させる。
「うふふ、いらっしゃ~い」
「………オジャマシマス」
「あははは!そんな生真面目に答えなくても良いレすよ大尉~」
「………随分と酔ってるな」
「ええ、寄っかかってますよ~」
酔ったイーフェイは槐の肩に頭を乗せて寄りかかっていた。酔っているから寄っかかる。
誰が上手いこと言えと。
「えへへ、大尉、私ね」
「?」
「負けちゃったんですよ」
「そうだな」
「インフィニティーズっていうアメリカ最強の部隊がぁ、私達のこと、一方的に叩きのめしちゃったんですよ~」
「………そうだな」
「一糸報いはしたんですけど~、やる前に機体が壊れちゃって負けちゃいました~」
「………」
「悔しかったな~」
「………」
「もう飲まなきゃやってられないですよ~」
そういって酒の瓶をラッパ飲みする彼女はどこか無理をしているのが分かった。酔ったことで緩んだ心が、悔しいという気持ちを静かに吐きだしていた。
酒に逃げているというのは少々悪い傾向だが、何とかしなければならないという使命感にも似た何かを槐は感じた。
「少し飲みすぎだ。体にも悪い」
「え~?」
拗ねたような表情になるイーフェイ。
え~、じゃない。
「だったら大尉が残りを飲んでくださいよ~」
そういって瓶の口を突き出してくるイーフェイに槐はやんわりと押し返す。
「私は飲むわけにはいかない、それに酒癖も悪いから、君にも迷惑がかかる」
「あっはっはっは!何言ってるのよ~ちょっと暴れる程度、あたしが止めてやるからド~ンと行きなさいド~ンと!」
遂に敬語を辞めてしまった。元からプライベートでは敬語は必要ないと言っているため、その点については特に咎めはしないが、少々、いや、かなり目がなにか怪しい光を宿し始めている。
言ってしまえば、目が据わっている。
「いや、そういうわけではなくてだな。呑むと記憶が飛んで私自身自制が効かなくなる。酒ならまた明日飲めばいい。今日はこれでやめろ」
「………へぇ~あくまで飲まないんだ~。ふふ、そうこなくっちゃ」
ペロリと唇を舐めて子供のような陽気な雰囲気から一変、スイッチの入った志摩子のような妖艶なものへと変化する。
「……イーフェイ?」
「昔から思ってたんですけど~、大尉ってぇ、経験あります~?」
「なんの話だ?」
「ふふふ~それを女の方に言わせるなんて~、大尉って意外と意地悪なんですね~」
つまり、そういうことか。思わせ顔で言ってくる彼女は、いつの間にか槐の懐に入ってトンと身体を押した。
「む!?」
踏ん張ろうとする槐に対し全体重を乗せて押し倒しにかかるイーフェイ。強行的な手段にかかる彼女にほとんど抵抗らしき抵抗も出来ずに二人でベッドに寝転んでしまう。
マットとシーツ越しで背中に伝わる金属の感触と、腹部、胸部から感じる女性特有の柔らかさと鼻腔をくすぐる香り。
今や普通の男性であればクラクラしてしまうほどの色香をイーフェイは持っていた。
「イーフェイ、待」
近い未来に起こるかもしれぬことを予感し、制止に掛かった槐の口元には。
「スキヤキ!!」
「てヴぉ………!?」
酒の飲み口があった。
狙いすましたかのような動きは見事イーフェイのもくろみ通り、槐の口の中へと叩き込まれた。
酒特有のアルコールと甘さと辛さが舌の上で踊り狂う、一瞬だけパニックになって狂った思考をすぐに元に戻し、吐きださんと瓶を手に取る。
「チェイ!」
ドムッ!
「ゴヴォバッ!?」
ゴクッ
――――――――――――――――――――
あとがき
あっ………(察し)