前書き
今回は少し短め。
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先に動いたのはセラフ。突撃砲で牽制しつつ距離を詰めようとする。チェルミナートル跳躍ユニットが火を噴き、アフターバーナーで即座にセラフを飛び越す。
反転し、突撃砲が放たれる。
後ろを見ずにそのまま真横に回避行動を取ってビルの陰に滑り込み、機動性を活かした戦闘へと移る。
チェルミナートルの背後へと回り込むと同時に叢雲を振るう。
対してモーターブレードを出してそれを防ぐ。同時に槐は内蔵された機構を炸裂させた。
―――ギャリリリィィ!!
「!」
中の薬莢が炸裂するにはどうしてもタイムラグが存在する。刃が接触したと同時にチェルミナートルのモーターブレードが動いた。
―――ドッギャァァウ!
轟撃がモーターブレードの刃を削り取ったがその程度だった。衝撃を逃がしながら補助碗に取り付けられた突撃砲が八咫烏に向けられ火を噴く。
同じく槐も突撃砲を撃ちながら後退、距離を取った。
イーニァとクリスカも後退しつつ突撃砲で弾幕を張る。
猛スピードでビルの間を縫いながらチェルミナートルの射線を撹乱。接近戦へ持ち込もうとする。
叢雲の刃をモーターブレードが阻む。もう片方の叢雲もブレードが阻む。
弾かれ、一気に懐に入ったチェルミナートルの突きはクイックブーストによる後退で届かない。更に踏み込むが、振り降ろされる刃が防がれる。
防ぐ、斬る、弾く、斬る、斬る、防ぐ、弾く、弾、弾、防、斬、斬弾防斬斬斬弾防弾防
チェルミナートルがクワガタの顎のように左右から挟み込むブレードの剣閃をセラフの両の叢雲が受け止める。互いの機体の額がぶつかり合い、睨みあう。
二機が同時に動く。互いの両足が互いの機体を蹴りつけ、互いに後退する。
セラフが右手の長刀を逆手に持ち、オーバードブースト。その勢いのまま縦に回転。
刃の突いた車輪となってチェルミナートルを襲う。
突撃砲での迎撃を考えたが銃口を向けて撃つ時間が無かった。
「!クリスカ!ダメ!」
「な!?」
飛び越すことで回避行動を取ろうとした瞬間、クリスカに驚愕の声が漏れた。
同時にマズルフラッシュ。
イーニァの機転によってチェルミナートルは物陰に隠れることが出来、難を逃れる。
「ありがとう、イーニァ!」
「うん!」
快活な笑顔で礼に応えるイーニァ。
失念していた。八咫烏の突撃砲は手に持っているのではない、腕に付いているのだ。
槐が態々大仰な技を使ったのはこの乱射が目的だった。
誰も考えないような奇策、考えたとしてもやれるような代物ではないそれをやってのけるのが烏丸槐という男。
彼は既に次の行動へと移っていた。
「?」
クリスカから疑問の吐息が漏れる。あの一瞬の攻防から八咫烏の反応がレーダーから消えた。範囲から逃れたのか?
「エンジュ、どこか行っちゃったね」
「そうね」
「でも、楽しいね」
「ええ」
「………」
しばしの静寂。
「………」
二人のチェルミナートルは一切の油断も慢心もなく周囲を見渡す。
「………」
―――――!!
「クリスカッ!」
イーニァの呼び声と同時にチェルミナートルは動く。両手のモーターブレードが唸りを上げた。
その瞬間、チェルミナートルは踊った。
腰を折り曲げ、かがみ、機体が軋む音を耳に入れ、二人は次の行動へ移る。
関節部の電磁炭素収縮帯が軋み声を上げる。ソビエトが作り上げた最新のチェルミナートル。血と汗が滲む熱意と思想が生み出した二人のためだけのチェルミナートルが二人の思いに応えんと眼光を輝かせる。
思いは一つ。
槐に勝つことだ。
跳躍ユニットが真下を向き、全身が一つのバネとなる。
そして、一気に解放する!
解放のカタルシスによって生み出された力はチェルミナートルを持ち上げる。
まるで、チェルミナートルと一体化したかのようだ。
自分たちが行ったのは跳躍だ。体操のような、宙返りだ。
腕を振るう。何かを切り裂いた感触。
いつの間にか目を閉じていたようだ。
スッ、と目を開く。まず目に入ったのは紅と黒。ツートンカラーの機体が自分の真下を潜り抜けていた。
自分たちはいま何を切り裂いた?
まるで他人事のように視線を這わせる。翼だ。なんと、ほとんどの戦いを無傷で終わらせたあのレイヴンを、自分たちが初めて傷をつけたのだ。
「………」
驚いた。驚嘆の意を持ったのはどちらが先だったか。切り裂かれた槐か、それともイーニァたちだったか。
「ぅむ」
この時槐は、以外にも冷静だった。誘爆する前にオーバードブースターを分離(パージ)。同時に肩と腰の跳躍ユニットを姿勢制御に専念させる。左の叢雲を手放し、腕を突きだす。
掌が地面に着いた。
奇襲という形で全速力での背後からの一撃は避けられた。しかも翼を断ち切られるという手痛い反撃をもらった。
「………」
視界の上下が反転する。左腕の各関節部のダメージを知らせる警報が五月蠅く鳴り響いている。ダメージレベルはC、マッハに達するスピードを抑えるのは、やはり片腕だけでは負担が大きすぎる。
手放した叢雲が地面に突き立てられたのを確認する。
近接武器は一本だけ、手放すことはできない。
「むぅ」
チェルミナートルに視線を向ける。既に突撃砲が此方を狙っている。それは困る。
撃墜されるのだけは勘弁だ。
―――ドパゥッ!
火産霊神が咆哮し、突撃砲を撃ちぬく。これで打ち止め。
何発かが此方に当たった。特に大きなダメージは確認されない。戦闘続行。
火産霊神を撃った反動で機体が回転、シミュレーション通りだ。
チェルミナートルが無事な二挺でこちらに狙いを定めようとしているが、こっちの方が早い。
突撃砲を放ちつつ後退。弾幕がセラフを襲う前に物陰に隠れ、やり過ごすことに成功した。
「………」
ああ
アア
嗚呼
「素晴らしい………」
槐は胸の内から湧き上がる抑えきれぬ高揚感を口にした。
◆◆◆
「なんだ……………これは」
常に自分のスタンスを崩さず冷静に大局を見ていた表情は既に崩れ去っていた。
男、サンダークの見開いた目の先で繰り広げられている戦い。理解の許容を超えたモノに対してそう告げることしかできなかった。
イーニァとクリスカは兵器だ。我々ソ連の力だ。その力は十全に振るわれている。いや、振るわれすぎている。
今までで見たことのない動きを見せた。あれは何だ?なぜあんなことをした?そんな動きでどうやってレイヴンに傷を付けた?
「ど、どういうことだ!?」
専属の科学者が困惑した声を上げた。
「プラーフカレベルが上昇している!?」
「何!?」
サンダークは遂に声を張り上げた。
―――が、すぐにその表情は元の氷のようなソレへと変わる。
命令もなしに?そもそもなぜこの状況で?烏丸槐が何かをしたのか?まさか我々の計画を知っている?
「―――どういうことだ?」
「わ、解らない。こんなこと初めてだ。脳には全部異常なし。意味がわからない。一体何が何だか、このままいけば命の危険もありえる………すぐに中止した方が」
「……………」
訳が分からない。不可解なこの現象に対して科学者がそう言う。それを解明するのが貴様らの仕事だろうに、とはサンダークも言わなかった。
再度モニターを見る。持ち直した八咫烏が長刀を両手で持ち、再度構える。チェルミナートルと一進一退の攻防を再開させた。
―――意味がわからない。が、面白い―――
「このまま続けろ」
「な?!正気か!?間違いが起こったらただでは済まないんだぞ!?」
君らしくもない!と荒々しく言う科学者だが、既にサンダークはモニターに映されている映像にしか興味を示していなかった。
「………さぁ、どうなる」
◆◆◆
―――ガッ!!ギャリリッ!ゴッ!ガッギッギッガリリリィィィィィッ!
回転するブレードが接触部から火花を散らし続けている。手数が少なくなった分、接近戦においての軍配はイーニァたちに上がる。
「ふふ」
イーニァは笑う。その眼は僅かに光っていた。
「クリスカ、視える?」
「ええ……」
「怖い?」
「ええ、怖いわ。色々な色が混ざってて、巨大で、底が見えない」
クリスカの瞳も、イーニァと同じく輝いていた。
様々な感情がない交ぜとなって文字通り良く分からないといったクリスカとは対照的に、イーニァの表情は喜びに満ちていた。
「でもね、凄く暖かいの。優しくて、子供みたいに無邪気で」
まるで私達より年下見たい。
楽しげに、歌うようにイーニァは口ずさむ。
「ええ、視えるわイーニァ。とても暖かい。これが、貴方なのですね。大尉」
◆◆◆
先ほどから左手首関節の接触部が不調を訴えている。これ以上の接近戦は難しいと槐は判断する。
データ集めにはできるだけ長い近接戦闘を行うのが望ましいが、どうやら限界のようだ。
≪ プラン変更を確認 現状においての戦闘データをプロフェッサートーラスに送信 プログラムレベルの変更を承認 ≫
「え?!」
「な!!」
―――ドパゥッ!
イーニァとクリスカの戸惑いの声と叢雲が爆ぜる音が重なった。
「ぐあっ!?」
チェルミナートルが弾き飛ばされる。今の炸裂で右手は動かなくなったが、それは相手も同じ。槐の視線は敵機の破砕された右モーターブレードに注がれていた。
攻撃手段を一つ潰すことに成功。
「………」
≪ 敵攻撃パターンを計算 計算 計算 処理 プラン形成 排除開始 ≫
狙いを定めずに突撃砲を乱射する。当然当たらず、チェルミナートルの接近を許す。慌てることなくセラフが後退を始める。
機動力ではこちらが上。ならば距離を取るのは容易い。
『貴様は………』
「?」
『貴様は……何だ?』
「………何を言っている?」
僅かに拾った声は槐には意味がわからなかった。
≪ 戦闘続行 目標地点にマーキング 18通りの攻撃パターンから現状の態勢において最速で出せる反撃を予測 調整 配置 ≫
「………」
≪ 完了 ≫
チェルミナートルのモーターブレードがセラフの胴体へと吸い込まれていく。それを阻むのはセラフの右手、無理やりその軌道を変える。
右手が引きちぎれた。幾つもの配線が垂れ下がっているのが見える。
「………!」
砕けたモーターブレードの方の手には既に新たな突撃砲が握られていた。叢雲で斬り裂く。
既にこれを予期していたようですぐに近接戦闘へと切り替わる。反撃の突きはチェルミナートルの片腕に阻まれた。
叢雲―――コンマ0.3秒間に合わない
火産霊神―――弾切れ
突撃砲―――避けられた。
≪ 突撃砲残弾なし ≫
弾丸はむなしくチェルミナートルの脇を通り抜けた。
突きだされたモーターブレードがセラフの左肩を抉った。
≪ ナインボール・セラフ 左腕部破損 ≫
「………」
ここまでのダメージを負ったことはなかった。淡々と脳内で告げられる機体の状況は正確に現状打開しうる方法を指定させた。
≪ 問題なし 残存武装残り1 ≫
肩のグレネードの弾はもう無い。翼は捥がれた。突撃砲も失われた。刀を持つ『手』はない。
「………」
≪ 目標地点に到達 敵機チェルミナートル接近を確認 ≫
モーターブレードが迫る。セラフが動く。跳躍ユニットが唸りを上げた。最後の足掻きとでも言うかのように。しかし、それは捨て鉢ではなく勝利へ向けての最後の布石。
槐の瞳にはどこまでも冷静な紅が宿っていた。
そして、遂に二機の影が重なった。
「な!?」
チェルミナートルに襲ったのは脇に走る衝撃だった。
それも、自身の身体が一瞬持ち上がるほどの強大な威力!
確かにブレードを振り降ろした。その時は目と鼻の先だった距離は少しだけ離れていた。
不意に二機の間に細長い何かが突き立った。剣だ。長刀だ。叢雲だ。
イーニァとクリスカの視線が自然とセラフの左腕へと注がれる。
手を失い、武器を握ることが出来なくなったそれは、いつの間にか肩口まで失われていた。
その傷は何か強い衝撃を受け、無理やり千切られたかのように拉げていた。
その時彼女たちはああ、そうか。と納得した。
自分たちは、負けたのか。
・
・
・
・
・
勝ちたかったなぁ………。
チェルミナートルの上半身が下半身を残して後ろに倒れていく。叢雲の衝撃による損傷と自重によるものであり、ソ連軍の敗北を物語らせた。
『………はっ!?こ、これにて演習を終了!ハスラーワンの勝利です!』
勝敗が決したのを機に、槐は長く息を吐き、全身にかかった緊張を解く。
最後の一瞬の攻防。槐はセラフのちぎれた左手に刀の柄を突き刺し、無理やり叢雲を炸裂させたのである。
マーキングした地点は叢雲が突き刺さったこの場所。事前の戦いではこの場所を目標に迂回しながら彼女たちを誘い込むための作戦だった。
それは無事に成功。
だが、代償にセラフはボロボロになってしまった。
ギリギリの戦いだった。
「………」
それはそれとして―――
「クリスカは、なぜあんなことを?」
槐の疑問は晴れなかった。
「今のは、いったい………」
最後の戦闘で何かが変わった。リーディングをしているからわかった槐の確かな変化。
「イーニァ、今のは?」
得体のしれない何かだった。今回初めて槐のリーディングを行ったクリスカとは違い、時間が長いイーニァに問うことにした。
「………イーニァ?」
しかし反応が無かった。
「イーニァ!?」
彼女は呆けた表情のまま彫像のように固まっていた。
「イーニァ!しっかりして!イーニァ!」
「あ………クリスカ?」
「大丈夫なの、イーニァ?」
「うん。少し驚いただけ」
『ビャーチェノワ少尉、シェスチナ少尉に何か問題でも発生したか?』
「!………いえ、問題ありません」
『……そうか。ならばさっそくデブリーフィングを始める。速く降りて来い』
「はっ!イーニァ。行きましょう」
「………うん」
こくり、と頷き、応えるイーニァは少しだけ名残惜しそうにコックピットを降りるのであった。
◆◆◆
コックピットから降りて志摩子たちからの手厚い歓迎を受けた後、槐は更衣室へと赴く。
「それでは、槐大尉。この後ラボまでご足労願います」
「了解した。ご苦労だったアナスタシヤ中尉」
「はっ!お疲れ様です。槐大尉」
本日二度目の演習が終わった。アナスタシヤから差し入れにと渡された水分補給のパックを口に運びながら、彼は長椅子に座る。その隣を、アナスタシヤが座った。
何と無しに槐は首裏のAMSに手を触れる。
首輪のようになっているそれをまるでマッサージするような手つきに、アナスタシヤは彼の臀部にまで伸びたそれに手を伸ばす。
「やはり連戦は厳しいですか?」
「………そうかも、しれんな」
半身不随のリスクを常に背負いながら早くも数年が経つ。よくもまぁ、いつ死ぬともわからぬ世界で大事にならずに今までやっていけたものだと自分でも感心してしまう。
AMSとのリンクは良好。特に異常はないが、戦闘中は常に視覚内外からくる情報の処理だ。
正直に言えば、こういう無機質なものよりも、もっと人間的な生物感のある情報を取り入れたい。
「槐?」
「いや、何でもない。少し考えごとをしていた。データを集めながら戦うということはあらゆる状況を想定して、その状況下で戦わなければならないこと。それを踏まえての4対1の戦いがこれほど難しいとは思わなかった」
「何事も経験ですよ」
「こんな特殊な経験はあまり歓迎したくないものだが」
「それにしても驚きです。紅の姉妹、あれほどの実力とは思いませんでしたね。槐が唯依達以外であそこまで追いつめられるのを見るのは初めてでした」
「そうだな。意外と居るものだな。ああいう人間は」
「…………。」
「?どうした?」
「いえ………そういえば………。最近彼女たちとは戦っているのですか?」
「している。息抜きに仮想敵としてな」
「なるほど。それは槐自ら誘って?」
「いや、ほとんど唯衣達からだ」
「あら、受け身な男は飽きられますよ?」
「む」
「ふふふ、それともただのヘタレなのでしょうか?」
「ヘタレとはなんだヘタレとは?そういう話題をしてくるということはアナスタシヤ。貴様私を弄る心算だろう?」
「はい」
語尾に音符が付きそうなくらい楽しそうに笑む彼女に槐は小さくため息。
「ため息をすると幸せが逃げていきますよ?」
「心配するな、ただの深呼吸だ。貴様がそう来るのならば先手を打たせてもらおう」
そういって懐から取り出したのはプレゼント用に包装された袋だった。
「まぁ、もしかして、私が来るのは予測済みでしたか?」
「偶々、偶然だ」
「開けてみても?」
物静かな雰囲気とは裏腹にその眼は期待に満ちていた。口角が緩むのを必死に抑えようとひくつかせているのは彼女なりのプライドゆえか。
頷くと彼女は丁寧にその袋を開封させていく。
「これは?」
それは銀色のバングルだった。
目立った装飾が施されることもなくただ銀色の棒を角ばったデザインにしたようなシンプルなマーキスライン。ちょっとした贈り物には最適と判断できるものだった。
「どうだ?」
早速彼女はそれを身に着ける動きを見せる。バングルの付いた腕をしばし見つめると。
「わぁ……」
と、囁く様に零した。その表情は見とれているそれ。ただ少し驚いたのはそれが子供のように凄く可憐に思えた。
「――――――はっ!?」
ようやく自分の行動を省みたのかすぐに引き締まった表情に戻る。
「気に入ってくれたようだな」
良かった。
そう言って嬉しそうに笑う槐にアナスタシヤは少しだけ毒気を抜かれた。
てっきり先ほどの自分に対して何か言ってくるのかと思ったからだ。
「ふん………今日はこれくらいにしてあげます」
「素直じゃないなお前は」
「五月蠅いですよ。今日勝ったくらいでいい気にならないでください」
「別に勝ち誇っているつもりはない。お前が勝手に自滅しただけだ」
「むむ」
槐の癖にやる様になりましたね。
そういう意味合いを含めたジト目が槐を射抜くが、その眼光に力はない。
「まぁ、良いです。………では改めて、ありがとうございます。嬉しいですよ槐」
そういって笑顔を見せるアナスタシヤは取り繕ったものではない。本心からそう思っていることを槐は知っていた。
「どういたしまして」
槐もまた、僅かに笑むことでそれに応えるのであった。
◆◆◆
それから少しして、槐とアナスタシヤはトーラスのラボへと赴くことにする。
「失礼します博士。槐大尉をお招きいたしました」
トーラスは入ってきた自分達に対し背を向けて何かを作っているようだった。微かに鼻歌も聞こえるあたり、随分とご機嫌なようだ。
「は~い、ご苦労さ………ま?」
二人が入ったのを機に一度作業の手を止め振り返るトーラス。次に彼は心なしか機嫌のよいアナスタシヤの姿を目にし、疑問符を浮かべた。
「中尉、何か良いことでもあったのかい?」
「貴方には教えません」
即答である。
「………槐くん」
「教えません」
これまた即答である。
「最近二人とも私に対して厳しすぎると思うんだけどな~!私拗ねちゃうよ~?AMIDAくん量産させちゃうよ~?良いのかな~?」
―――ジャジャキッ!
一糸乱れぬ動きで二人が銃を取り出してトーラスに銃口を向ける。
「はいごめんなさい、いやほんとすいませんでした」
彼が土下座をするのはほぼ同時だった。
閑話
「まぁ悪ふざけはこれくらいにして、今回の演習で良いデータがとれた。これを元にしてまた新しい叢雲を作ってみるよ。槐くんはいつものように今回の演習でのレポートを作成してくれ。終わったら、あとは休んでいいから」
「了解です」
「プレゼント頑張りたまえよ(ぼそぼそ)」
「?なにか言いましたか?」
「いやなにも、それじゃ」
「はい、しつれいします」
そういって槐はラボを後にする。後に残るのは彼を睨むアナスタシヤとニヤニヤと彼女を見つめるトーラスだった。
「やはり知っていましたか。性悪め」
「知っていたら気味が悪いだろう?」
「まったくです。気味が悪い。せっかくの機嫌が急降下しました」
「おやおや、お熱いことで。おっと、別に挑発してるわけじゃない。クッションだよ。次の話の」
「次の?」
その通り、と自信満々気にトーラスは頷く。彼がパソコンのデスクトップから何かをクリックし、アナスタシヤに画面を向ける。
「アナスタシヤ中尉」
―――もう一度パイロットをやらないか?
◆◆◆
思わぬタイミングで暇が出来てしまった。
特にやることもなくなってしまった槐はふと部屋内のロッカーを見やる。
そこには先日買った唯衣達のためのプレゼントが大切に保管されている。
「(これはチャンスなのではないか?)」
槐は唯衣達のスケジュールを確認する。
「………よし」
都合のいいことに今ならば全員とちょっとした話程度ならできる状況であることを槐は知る。
行ける!
こんな都合のいいタイミングを見逃す訳にはいかない。思い立ったが吉日だ!
槐は早速動くことにした。
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あとがき
この演習でイーニァとクリスカにハラショー!!と叫ばせたかったのはここだけの秘密
戦闘描写難しい。