前書き
お久しぶりです。きりたんぽです。
今日は唯衣姫のキャラ崩壊が激しいです。欲を出した結果です。最初に言っておきます。気に障ったらごめんなさい。
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イーニァは今にも泣きそうな表情で必死に槐に助けを求めていた。それに対し、槐は戸惑っていた。彼女は槐を見上げながらも自身に対して恐怖心を抱きながらもその気持ちを必死に抑え込んでいた。
「シェスチナ少尉?」
「クリスカを助けて!お願い!あっちでクリスカが苦しんでるの!」
そう言ってイーニァが指さす方向は海。
槐は指を指された方向を見やるが、そこにはクリスカが居るであろうボートは見当たらない。
≪広域サーチを開始篁唯衣の反応……………………………………………………………なし。サーチ範囲外≫
「とにかくイーニァ。君はサンダーク中尉に報告して次の指示を仰ぐんだ。私はオルソン大尉と相談して捜索隊編成の準備を行う」
「うん!」
そう言って瞬く間に走り去るイーニァの背中を見送りながら、槐もまた、オルソン大尉がいるであろう場所へと向かうのであった。
◆◆◆
一方で唯衣達は雨風を凌ぐための洞窟へと移動していた。
ユウヤがボートの様子を見てくると言ってその場を後にした頃、今まで体調を崩して寝込んでいたクリスカが意識を取り戻したようだった。
唯衣は彼女の体調を確認した後、現在の状況を説明した。
「篁中尉」
説明を終えた後、クリスカが不意に口を開いた。
「二つほど、訊いても良いだろうか?」
「?……ああ」
「こんな状況下で、聞くようなことでもないのかもしれないが、極個人的な質問だ」
「個人的?」
唯衣が続きを促す。
「別に諜報活動にかかわる内容ではないから、心配しなくていい」
「……なるほど。良いだろう。何が訊きたいんだ?」
質問の許可を受けたクリスカは自身の疑問を口にした。
「ユウヤ・ブリッジスについて聞きたいことがある」
◆◆◆
その後、試験小隊の関係者たちは一時アルゴス小隊のガレージへと集められた。唯衣達と連絡が取れないことで、彼らはオルソン大尉の指揮の下、捜索隊の編成を行うための会議を行っていた。
行方不明になった人物はクリスカ・ビャーチェノワ少尉、篁唯衣中尉、そして、ユウヤ・ブリッジス少尉の三名。
彼らを最後に観たヴィンセントの証言をもとに付近の島を捜索する手はずだったのだが、間もなくここ近辺が暴風雨に見舞われ、捜索が難しい状況になっていた。
「………」
槐は会議の内容を一語一句聞き逃すことなくボートレースの経路と島のある位地、そしてヴィンセントの目撃情報をもとにして彼女たちが最も避難する確率の高い場所を算出する。
「ここ!ここにクリスカが居る!」
ふと、イーニァの張り上げた声に槐は思考を中断させる。
イーニァが地図に向けて指さした場所は島のとある一角だった。
「オルソン大尉。シェスチナ少尉の目撃証言から、ここにビャーチェノワ少尉が居る可能性が高いと推測いたします」
捕捉を入れる形でサンダーク中尉が言う。
オルソン大尉は顎に手を当て考える仕草を取った後、槐の方を見た。
「烏丸大尉、君はどう思う?」
「………」
槐は先ほど算出した場所をもとにして島の一角を指差す。それはイーニァが指を指した場所と同じだった。
「私も恐らくここに篁中尉達が居るのではないかと思います。あそこには洞窟があって、避難する場所にはもってこいの場所です。ボートレースの経路とヴィンセント軍曹の目撃証言から私はそう推測いたします」
「なるほど、よし、決まりだな。状況を見て我々は捜索隊を派遣する。アルゴス小隊、イーダル小隊、レイヴン小隊は準備しておくように。解散!」
―――ハッ!―――
各々が素早く持ち場について準備を始める。
「なぁ、槐」
「なんだ、安芸?」
戦術機の状態を確認していた槐に既に強化装備に着替えていた安芸が声をかける。
「唯衣、大丈夫かな?」
「唯衣ならきっと大丈夫だ。ちゃんと避難している」
「でもさ………もし、唯衣が………」
「?」
俯いて遠慮がちに口を開く安芸に、彼女らしくないと思った槐は、作業の手を止めて安芸を見遣る。
「な、なあ槐、唯衣ってさ凄くスタイルが良いじゃんか」
「?そうだが、それがどうかしたのか?」
「し、心配にならないのか?唯衣が襲われるかもしれないとか、ユウヤ・ブリッジスとかいう奴に襲われるかもしれない、とか」
「………私見が入るが、彼がそんなことをする人間とは思えない。唯衣もまた彼に良いようにされる要素が見当たらない。だから大丈夫だ」
槐の直接会ってみての感想だった。物静かな様子であったところから見て、槐は、彼がそんな荒くれ者だとは考えられなかった。
「知らないのか槐?」
「?」
「アメリカ人は皆猫被ってるんだぜ!女と二人きりになったら何をするかわかったものじゃないんだぜ!」
「!?そ、そうなのか?」
ここで初めて槐の顔が驚愕に染まる。
そしてイメージする。
「もしかしたら力に物を言わせてあんなことや」
「!!??」
「こんなことを」
「………」
「するかもしれないんだZE(ズビシッ!)あいたっ!?」
「そんなわけがないだろう。私でもわかるぞ」
途中からわざとらしくなってきたことで槐は安芸が悪ふざけをしているとわかり、槐は彼女の頭にチョップを入れて中断させる。
安芸も分かっていたのか、てへ、と笑顔を見せてばれたかと呟く。あざとい。
「それで………村雨のチェックは終わったのか?」
「ああ、皆終わってる。これで何時でも出られるよ」
槐の言葉に安芸は頷く。
「よし。あとは出撃許可を待つだけだ。安芸も村雨の中で待機しててくれ」
「了解!………なぁ槐」
「どうした?」
「明日の広報活動さ、女装、楽しみに(ゴンッ!)いったぁ!?」
槐はすぐさま安芸に拳骨を入れた。
「良いからさっさと行け!」
「ひ~~ん!志摩子ぉ~~槐がいじめる~~」
「はいはい自業自得自業自得。早く乗るわよ」
「安芸はそろそろ学習したほうが良いんじゃないかな?」
「和泉~、最近あたしに対して酷くないか~?」
「きっと気のせいだよ(キラキラキラキラ)」
「うっわ!?清々しいほど綺麗な笑顔!」
「二人とも!つべこべ言わずに乗りなさい!」
「「あたしらだけ!?和泉は!?」」
「私はもう終わってるよ~」
「「ちゃっかり!?」」
「貴様ら!良いからさっさと乗れ!!」
そんな会話を耳にしながら槐は全てのチェックを終え、八咫烏に乗り込む。網膜投射された視界に問題無し。システム上に置いての異常は検出されない。
整備班にサインを入れて良好であることを示し、コックピットを閉じる。
≪リンク開始≫
お決まりの様にAMSに八咫烏が接続されていく。
「………セラフ。唯衣を助けるために力を貸してくれ」
≪……………≫
機械に声をかけても反応は帰ってこない。だが、それに応じるかのように槐の乗る八咫烏のカメラアイが、わずかに輝きを増すのであった。
◆◆◆
初めて会ったのは全試験小隊を交えての会食の時。それ以前からクリスカ・ビャーチェノワは烏丸槐を調べていた。
彼女の上官であるサンダークは少なからず彼に対し警戒心を抱いており、ユーコン基地へ向かうことが決まった時、彼はクリスカに烏丸槐という男に気を付けておけと言われていた。
自分と同じ銀髪の青年。日本人離れした容姿。性格や人柄、コネ、経歴、功績、家族関係に至るまで調べられることは全て頭に叩き込んだ。
一言で言えば衛士として優秀。同時に、他人が思いつかないような発想を持って戦う男。
僅かに残っていた横浜基地での戦いの記録を目にしたとき、クリスカは目を見開いた。
なんだあの動きは、普通の衛士が、あんな動きが出来るというのか?いや、その動きに戦術機が何故対応できている!?
敵を踏み台にして別の敵を倒す。それがどれほどの集中力が必要になるか。まっとうな人間であれば怖くて出来るはずがない。
彼女が目にしたのは正しく未知だった。
クリスカにとって、イーニァ以外で他人に対し興味を持ったのはこれが初めて。それからというもの、基本はイーニァと一緒に居る以外では烏丸槐を知るために調べものを行うようになった。
一目見た時から他人と何かが違う。自分たちと似た何かを持っている。
その考え方は確信にも似ていた。
だが、どれだけ調べてもそれを裏付ける情報は見当たらなかった。まるで雲をつかむようだった。
彼は一体何者なのだろうか?
一体何なのだろうか。
それからというもの、彼女はかゆいところに手が届かない苛立ちにも似た感覚を抱えるようになった。
そしてその日、クリスカ・ビャーチェノワは烏丸槐と対面した。
「……………」
会食中、サンダーク中尉と話している間、クリスカはずっと槐だけを見つめていた。
見た目は記録で見た頃よりも身長は伸びて大人への一歩を踏み出し始めた頃であり、クリスカは彼を見た瞬間、胸の中で何かが跳ね上がったのを感じた。
「ぁ………」
開きかかった口をクリスカは必死に押し込めて抑える。
話に割り込んで問いかけるのは無礼に当たる。しかし、何を言えばいい?
クリスカはそもそも自分が槐に対して何を言いたかったのかが分からなかった。
そもそも、自分の身体の調子がおかしくなっていた。
身体は熱くなっていて、握っていた手は少々汗ばみ、異常に咽喉が乾いていた。
その感覚が緊張しているということをクリスカはさほど時間をかけることなく理解する。
長らく忘れていた感覚だった。
そこまで思考を巡らせてクリスカはそれを否定する。
いや、違う。緊張とは何かが違う。
頭の中で言いようのない何かがぐるぐるとまわる。
身体が「変」になっていた。言葉では表せない感覚をまるで稚拙な子供のように自身の今の状況を心の中で呟く。
その感覚がどういうものなのか、彼女は理解できなかった。
手早くサンダーク中尉と話しを終えて踵を返す槐を見て思わずクリスカは小さく声を漏らした。
「ぁ………!」
呼び止めようと腕が一瞬動くが、結局、クリスカはその日、槐を呼び止め、話をすることは出来なかった。
「?………クリスカ?」
彼女の変化を悟ってか、自身の後ろにしがみついていたイーニァが彼女の身を案じるように声をかける。
いけない。心配を掛けさせてしまった。
「………大丈夫よイーニァ」
行き場を失った手は、自然と自身の胸に置かれる。
先ほどまで感じていた感覚は、既に無くなっていた。
◆◆◆
ユウヤ・ブリッジスについての話を終えた頃、ボートの様子を見に行っていたユウヤが帰ってきた。
が、木にくくりつけていたボートは流されており、脱出するための手段、基地に帰還するための手段を失ってしまったのである。
ユウヤが新しい薪を得るために再び外に出ていく。
唯衣とクリスカはたき火を挟んで向かい合ったままだ。クリスカはふと、烏丸槐と篁唯衣との関係を思い出し、彼について何か訊けるのではないかと思い、質問を投げかける。
「もう一つは、烏丸槐大尉についてだ。彼のことについて聞かせてもらいたい」
「エン………槐大尉に興味が?」
「そう。彼は、貴方とはかなり深い関係を持っていることが窺えた。………その、こういっては失礼なのだろうが、彼は何処か普通の人間とは違う。私はそう感じた」
「!」
「ソ連に居た頃から、彼のことはある程度知っていたのだが、初めて会った時から、その、変なんだ」
「へ、変?」
唯衣の言葉にクリスカは頷いた。
「ああ、よくわからないんだが、彼に会った時、彼を見た瞬間、身体が変になったんだ。こんなこと初めてだ」
戸惑う様に呟くクリスカ。要領を得ない彼女の言い方に唯衣はとクリスカを見やる。
まるで、難しい言葉を使って言い表そうとして逆にどういえば良いのか分からず、頭の中で言葉を選ぼうとしている子供のようだった。
最初槐が普通の人間とは違うという言葉を聞いて彼の正体について聞こうとしているのかと一瞬身構えもしたが、自身の考えとは違ったようだ。
「ビャーチェノワ少尉、変になったというのは、具体的にはどういう事なんだ?」
「………彼と初めて会った時、そう、身体が熱くなった」
「!」
「それに咽喉も渇いて、手も汗ばんでいた」
「な………」
そこまで聞いたところで唯衣の頭は高速に思考を巡らせる。
―――――ま、まさかそれは!?いや!いやいやいや!ビャーチェノワ少尉がエンを!?だがしかし初対面ではないか!?―――――
―――――いや、ある程度知っているという事はプロフィールを見たという事なのだろう!?顔写真だってあるんだ!それは考えにく―――――
―――――いが!実際に会ってみたら写真よりもかっこいいとかそう言う事なのか?そうなのか!?―――――
―――――た、た確かに今のエンはかっこいいし訓練兵の頃は学校の皆から注目の的だったしな。可愛かったし、っていやいやいや!まずはそれは後回しだ!重要なことじゃない!―――――
―――――つまりその感覚は、アレか?アレなのか?―――――
―――――それは………それは恋という奴なのではないか!?―――――
―――――一目惚れという奴なのか!?―――――
―――――一目惚れなのか!?―――――
―――――また増えるというのか!?―――――
―――――無意識に女を惚れさせるのも良い加減にしろエンンンンンンン!!!―――――
―――――…………ハッ!待て、そもそもビャーチェノワ少尉はエンに惚れたなんて私のそもそもの勘違いなのではないか?―――――
―――――緊張、そう、恐らくは緊張していただけなのかもしれない。憧れの相手とかそういうものかもしれない。いかんいかん危うく取り返しのつかない間違いを犯すところだった。―――――
―――――よし、まずは聞こう。話はそれからだ。―――――
「ビャ、ビャーチェノワ少尉。それは、緊張というものではないのか?」
「緊張?」
「そうだ。初めて会う目上の人物に対して、身体が思う様に動かなくなる時があるだろう?それと同じなんじゃないか?」
「そうなのか………だが、身体が熱くなったり、色々と話しをしてみたいという気持ちは湧かなかった」
「!?」
唯衣の思考が今度は光速で動き出す
―――――は、話をしてみたいだとぉぉぉおおっ!?―――――
―――――じょ、冗談じゃ……。―――――
―――――いや。お、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。まて、早まるな。これはクリスカの罠だ。(?)―――――
―――――ど、どちらにせよ情報が少ない。ここはあえて後で一度エンと会わせて話をさせて反応を見て………。―――――
―――――駄目だぁぁぁっ!それは不味い!確実に増えてしまうぅぅ!彼奴の言葉は無意識に女を堕とす!何が起こるかわかったものじゃない!ああもうオジサマの馬鹿!「あんな本」をエンに読ませたせいでどれだけの女が彼奴に撃ち堕とされたことか!というかどこからあんなものを手に入れたんだ!?―――――
―――――しかも本人は 自 覚 な し !―――――
―――――うにゃああああああああ!!エンのばかあああ!!―――――
―――――本当は私が独り占めしたいのにぃぃぃぃ!!―――――
―――――……………。―――――
―――――お、落ち着け。落ち着け私。情報を集めなければ。今は取り乱している場合じゃない。―――――
「篁中尉?」
「な、なんだビャーチェノワ少尉?」
「やはり、答え辛いことなのだろうか?」
「あ、いや、そうではない。因みに、話してみたいこととは、一体何なんだ?」
「それは………」
唯衣の言葉にクリスカは戸惑う様に身じろぎする。
表面上唯衣はポーカーフェイスを保っているが、先ほどから分かるように、内心ではお祭り騒ぎの様にざわついていた。
「おい、薪を持ってきたぞ」
不意に、薪集めから戻ってきたユウヤ・ブリッジスに。唯衣は思わずよくやった少尉!と声を大にして言うのだった。
その言葉にどのような意味合いが込められていたのかは、本人のみぞ知る。
◆◆◆
その後、嵐は止み、ほどなくして唯衣達は救助部隊に救出されることとなり、特に異常も見られず一日に終わりが告げられた。
が、その翌朝。
灼熱の太陽が照りつける中、唯衣は再び?ピンチに陥っていた。
周りから向けられる視線は全て好奇の視線。その中にはアルゴス小隊の面々もいた。
唯衣は全身を純白のバスローブに身を包んでおり、その視線から身体を隠そうとしていた。
顔は言わずもがな羞恥で顔を真っ赤にしている。
何故この状況になっているのか。
それは元々の目的となる広報活動に唯衣が遭難事故での責任を取るために協力することになったからである。これは唯衣自身の意思でもあったが、まさか、こうなるとは思いもよらなかった。と後に唯衣は語る。
「あっれ~?中尉殿、まさかここまで来てお止めになるつもりじゃあないですよねぇ?」
「そ、それは」
「皆見守っていてあげますから!」
「さあさあ、覚悟を決めてパーッと!」
「中尉。こういうのは半端な方が淫靡です」
「ぐぬぬ」
「がんばれ唯衣姫~!あたしたちはそんな唯衣姫を応援してるぞ~」
「あ、安芸!だから唯衣姫と言うな!うぅぅぅ~~~」
「アッチはもう終わってるんだぜ?早く覚悟を決めなよ~」
あっち?と安芸の言葉に唯衣は視線を向けると、そこにはスクール水着を着込んだスカーレットツインが居た。
―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
それを見た広報活動委員全員が興奮で声を張り上げた。そして全員の視線が再び唯衣に集まる。
全員が期待の目を向けている。唯衣が彼女らのようなクラシックな水着を着ているという事に。
逃げるに逃げられない。
「さぁて、撮影を始めようかぁ」
カメラマン全員が各々の撮影機を構える。
「(ええいままよ!)」
義理と義務が板挟みとなった唯衣は覚悟を決め、バスローブを天高く投げ、その身をさらけ出した!
その瞬間、今までの喧騒が嘘のように静まり返った。海のさざ波の音だけがしばし世界を支配した。
まばゆい光の中にさらけ出された山吹色の水着。それは唯衣の家系の色と同じもの。そしていつもスーツで隠されていた清潔感のあるシミ一つない綺麗な肌。
「こ、これでよろしいでしょうか!?」
―――うおおおおおおおおおおおおおっ!!!
「んん~!大いに結構!!」
一気にカメラのフラッシュがたかれる!予想以上の反響に唯衣は思わずたじろいだ。
初々しいその反応がギャップとなってカメラのフラッシュに勢いが増した。
「ひゅ~!良いじゃん唯衣姫~!綺麗だぞ~!」
「ほらほら槐くん。槐くんも何か言ってやりなよ」
「え?わ、私か?」
「え、エン!?み、見てたのか!?」
安芸と志摩子に押し出されるように前に出る槐。そして一連のやり取りを見ていた唯衣は別の意味で驚愕する。
状況を理解した唯衣は首元から耳まで真っ赤にしてしまう。
「唯衣………」
戸惑いの含んだ声で槐は唯衣に声をかける。
「あ……ぅ、み、見ないでくれ」
そう言って胸元を隠そうとする唯衣だが腕で押さえられた豊満な胸が押し上げられ、それが逆に淫靡さを増していた。
「恥ずかしい」
初々しい反応で槐から目を反らし、消え入りそうな声で言う唯衣に、槐は思わずドキリとした。
「で、でも………綺麗だ」
「ひへぇえ………!?」
思わず裏返った声を上げてしまう唯衣。
「お、おまえは!お、おおおおお前は人がいる前で!そ、そんなことを言うな!」
「だ、だが、これしか言いようが」
「うるさい!馬鹿!」
「ばっ!?」
が~んっ!!と唯衣の言葉にショックを受け、その場に崩れ落ちる槐。
「ばか………ば、ばかって言われた。唯衣に………嫌われた。嫌われてしまった」
「ああ!?ち、違うんだエン!私はそんなつもりで………はっ!?」
ふと気づけば、カメラのフラッシュは止まっており、全員が二人のやり取りをニヤニヤと意地の悪そうな笑みで見つめていた。
「ふむ、さて諸君。なかなか良い夫婦漫才が見れたところで諸君らにはもう一つ紹介したいものがある。それは、マスコットキャラだ!」
キリの良いところで話題転換をするオルソン大尉の言葉に全員がマスコット?と首を傾げる。
「では紹介しよう!私がひそかにキサラギ博士に頼んで作ったマスコットキャラだ!その名も!!」
ガラガラガラと開かれる扉から小さな影が一つ飛び出した。それは太陽を背に彼らの頭上を飛びまわり、そして、オルソン大尉の足元に降り立つ。
それは頑強そうな甲羅と翅を持っていた。それは多くの前足を持っていた。それは愛らしい複眼を持っていた。
それは、正しくデフォルメ化されたムシだった。
「AMIDAくんだ!」
「ムキュッ!」
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・うわぁ
その日、全員が声を揃えて漏らした言葉だった。
「可愛い」
「!?」
イーニァを除いてだが。
言わずもがなAMIDAくんマスコット化計画は却下された。喋るところとか、生き物らしい行動を取るところとか、突っ込みどころ満載なのだがそれについて現場に居た全員が口をそろえてこう言った。
トーラス博士だから仕方が無い、と。
何はともあれ、穏やかな時間は過ぎ、戦場は移り、彼らは、極東戦線へと赴く。
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後書き
まずはここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。面白かったでしょうか?トーラス キサラギ マスコットこれら三つのキーワードが合わさればAMIDAが出来上がるのではないか。そんな気持ちで最後のオチをつけさせていただきました。
次話は極東戦線。ようやく槐とナインボールの活躍が書けそうです。楽しみにしてくださるならば幸いです。
感想・ご指摘・アドバイス。お待ちしております。
それではノシ