かふかふかふかふ。
「ん、おかわり」
「そう急くなよ。別に飯は逃げやしない、ゆっくり食えや」
いつも通りの無気力な口調とは裏腹に、素早く茶碗を突き出してくる霊夢にいささか苦笑しつつも、新たに飯をよそってやる。
それを渡すと、また勢いよくかふかふと掻き込み始めた。
「やれやれ、どれだけ腹が減ってたんだ? 死にそうな面して家に入ってくるなり「ご飯……」とだけ呟いてぶっ倒れた時には、流石の俺もびっくりしたぞ」
「かふかふ……だって、お賽銭が全く入ってこないんだもの。食べるにも困るに決まってるじゃない……おかわり」
ちなみに5杯目だ。
「ほいほいっと。煮物とか漬物も食え、材料は例の如くよく分からんが」
「まず小腹を満たしてからよ。そうしないと味なんてわかりゃしないから損した気分になるわ」
「飢えまくりだなぁオイ……そこまで腹空かす前に来いよ。いつもいつも極限になってから来るな」
「そうしたいのは山々だけど。頻繁に来てアリスにでも出くわしたら話が拗れて面倒だもの」
「?」
何故アリスが出てくるのか分からない。
そういえば咲夜もこの前似たようなこと言ってたし。
「アリスがなんかしたのか? あいつが何か良からぬことしたなんて噂、聞いたこともないが」
「新月さんには言えないわね。もし明言でもしようものなら殺されるわ」
「……咲夜もそんなことを言ってたが、本当になんなんだ」
アリスって実はおっかない奴なのか?
いやいやまさか。基本的に温和だし、ドジっ子だし。
「うん? 咲夜もここに来てるの?」
「割とな。目的も無くここにふらっと立ち寄るのなんざ、アリスと咲夜ぐらいだ」
「ふぅん……」
あいつらそんなに暇人なのか? 咲夜は仕事あんだろうに。
「おおそうだ。咲夜といえば、八雲さんを何とかしてくれ霊夢。俺に嫁を取れとうるさい」
「あー、例の馬鹿みたいに高い信仰力を次世代に受け継がせるってやつね。いいじゃない別に、結婚すれば」
「結婚するには外に出なきゃあかんだろうが!」
「そこまで外に出たくないわけ?」
「当然だ!」
俺は一生ここで暮らすと決めている。
それに幻想郷の女はそろって癖が強いから、嫁になんかしたら尻に敷かれるのが目に見えている。
「とにかくこのままでは、消去法で咲夜あたりを嫁にしなくてはいけなくなる。八雲さんを何とかしてくれ」
「…………?」
「どうしたの? 咲夜」
「あ、いえ。今誰かにとても微妙な扱いを受けた気が」
「新月さんも大変ねえ。悩みなんてないと思ってたけど」
「何気に酷いな霊夢。そんなこと言うともう飯を食わせてやらんぞ」
「ごめんなさい」
「よし、許す」
飯の効力恐るべし。
霊夢が素直に頭を下げることなんて、そうそうないだろう。
「……けど、確かに新月さんが結婚したら、こうしてご飯をたかるのも難しくなるわね」
「そーだそーだ」
「ま、一応言うだけ言っといてあげるわ」
「恩に着るよ」
持つべきものは友達だね、やっぱ。
「だからおかわり」
「いくらでも食ってけ」
今日の霊夢の食欲は、ぶっちゃけゆゆさん張りだった。