「新月、居るわよね」
「居るに決まっているともさ」
一服してると、来客があった。
自分の左右に人形を控えさせている人形遣い、アリス・マーガトロイド。
我が家への来客率第4位の常連さんだ。
ちなみにゆゆさんは5位、1位は当然うるさい慧音である。
「いらっしゃい。紅茶、コーヒー、ココアに番茶。妖怪の山のおいしい水もあるが、どれにする」
「コーヒーを頂くわ。貴方の淹れる紅茶は紅茶と呼べない代物だもの」
「美味いのに」
「コーヒーはね」
紅茶も美味いぞ。煮詰めまくってすげー渋くしたやつ。
あれの味が分からんとは、悲しいことだ。
「シャンハーイ」
「ホウラーイ」
「む、来たな妖怪人形共め。どんなに善行を積んだって人間にはなれんというのがまだ分からんのか」
「別に目指してないわよそんなの……貴方を手伝おうとしてるだけでしょ」
コーヒー淹れるのに人手は要らないんだが。
「さあできたぞ。熱いからぐいっとやってくれ」
「火傷するわよ!」
「んなもん舐めときゃ治るって」
「舌を火傷するのよ? どうやって舐めればいいのよ」
「…………」
なんて難しい質問してきやがるんだこいつは。
火傷を舐める。舐めるのは当然舌だ。
しかしその舌を火傷している場合、どうやって舐めればいいんだ?
舌を舌で舐める? 無理だろそれ。
フェルマーの最終定理以上の難問がここに!!
……あ、いや、そうか。俺が舐めればいいのか。
まさにコロンブスの卵。発想を転換すれば簡単だった。
「新月?」
「大丈夫だ、結論が出た。アリスが舌を火傷したなら、俺が舐めれば問題ない」
「…………」
ぶん殴られた。
少し考えれば当然のことだった。
「済まん、思慮が足りてなかった。舌をどうやって舐めるかしか考えてなかった」
「あ、貴方ね……そんなだから幻想郷三大⑨とか言われるのよ!」
「なんだとぉ!!?」
衝撃の事実だった。
俺が、賢くてカッコいいこの満月新月様が、あの1桁の足し算も満足にできないバカ妖精チルノと、2秒前のことも頭から抜け落ちる究極鳥頭の空と同レベル!?
有り得ん。絶対に有り得ん。
「誰がそんなことを……」
「みんな言ってるけど」
「おーまいがッ!! 俺の信じる神は死んだ!!」
「厄神なら元気よ」
悪運に塗れた俺の救世主、我が神こと雛ちゃんは元気だった。
今日は祈る時間を倍にしよう。
「雛ちゃんが最近俺の厄が増えたと言っていたが、まさかその影響か……あえて言おう、これは異変であると!!」
「随分個人的な異変ね。博霊の巫女動かないわよ」
「だったら俺が直接解決に臨んでくれるわ! 俺は賢いんだ、⑨じゃない! 俺の頭脳はえーりんクラスだ!」
「へぷしっ!」
「あら永淋、風邪? 薬師が病気なんて笑えないわよ」
「いえ、今しがた不愉快なところで名前を出された気が……」
「誇張もここまで来るといっそ清々しいわね……」
「シャンハーイ……」
「ホウラーイ……」
人形連中に気の毒な目で見られている気がするが、んなこたぁどうでもいい!
お前らは自分のローザミスティカでも賭けて戦っていろ! そして完全な乙女アリスにでも……もう居たわアリス。目の前に。
「で、アリス。手っ取り早く異変を解決するにはどうすればいい」
「無駄骨だと思うけど……まあ、元凶を叩きのめせばいいんじゃない?」
「よし、外に出たくないから却下だ!」
家から出るくらいなら、謹んで⑨の称号を受け取ろう。
ひきこもり舐めんな。
「……ホント、貴方ってぶれないわね」
「そんな俺のところにふらっと立ち寄るお前も相当な変わり者さね」
ウチの来客者は大体目的あってくるし。例外も居るけど。
ゆゆさんとか霊夢辺りは飯食いに来るし。
魔理沙なんか人んちの物をかっぱらいにくるし。むしろ来客者から除外だな。
ああいうのは強盗って言うのだ。
「目的も特に無く俺のところに来るなんて……まさか俺が好きなのか?」
「そそそそんなわけ、なななないじゃない」
「シャンハーイ!」
「ホウラーイ!」
「なんだつまらん」
まあ、そんな奴が居るのならそれこそ変わり者だけど。
「ん……俺もコーヒー飲むか」
「すすす好きにしたら?」
ちなみにアリスの奴、なぜか慌ててコーヒー飲むもんだから舌を火傷してた。
ドジッ子さんめ。