俺は今、戦っている。
「いい加減に外へ出ろぉっ!!」
「いーやーだぁーっ!!」
ついに説得に業を煮やし、俺の足を掴んで外へと引っ張り出そうとする慧音と。
床に爪を立て、しがみ付いて抵抗している。
「この人でなし! 言葉が通じなければ強行手段か!? だから婚期が遅れまくるんだバーカバーカ!」
「引きこもりに何を言われても痛くも痒くもない! お前こそ無駄な抵抗を止めろ!」
「絶対に外へなど出てたまるか!!」
本来ならば、半人半獣の慧音に俺が力で敵うはずも無いのだが、今はいわゆる非常事態。
脳のリミッターが外れ火事場の馬鹿力で抗う俺を、流石の慧音も押し切れずにいた。
「う、ぐぐぐ……くっ……はーっ……はーっ……なんて強情な………」
やがて拮抗した状況に慧音の方が先に疲れ、肩で息をしつつ俺の足を放す。
「せ、正義は勝つ……俺も疲れた……」
「お前は、絶対、正義じゃ、無い……」
何を言うか。引きこもりは正義なのだよ。
俺、輝夜、パチュリー、さとり、そしてフランの5人で結成した『屋内戦隊ヒキコモルンジャー』の存在を知らないらしいな。
なぜか引きこもりに対して悪い印象を持っている慧音のような偏見に満ちた奴等と戦う全国一千万のひきこもり達の希望の星、ヒキコモルンジャー。
ちなみに俺はヒキコモルンジャーブラックだ。
「すぐに解散しろそんなもの!」
「とても具体的なサトラレのお陰で、説明する手間さえ省けるという」
最近サトラレを有効活用しようかと考えるようになってきた今日この頃。
「……そもそも! どうしてそんなに外に出たがらないんだお前は!?」
「どうしてって、んなもん決まってるじゃん」
外は物騒だもの。
「たとえば外に出るとする。するとどこからともなく大木や建物が飛んできたり、ガラの悪いにーちゃんに「ちょっと跳んでみろや」とか言われる」
「極端過ぎるぞその思考……しかも、それはお前が悪運だった頃の話だろうが」
「いーや、運が良かろうと悪かろうと外はそんなもんだ。きっとモヒカン頭が集団でうろついているに違いない」
「1人も居ないわそんな輩!」
絶対居るって。
そんでもって、汚物は消毒だーとか言って回ってるって。
「それに他にもあるぞ。たとえば外を歩いていたら、テラロイド星のシスティーナ姫が突然現れてイリュージョンで消されるかも」
「どこだテラロイド星って!? 誰だシスティーナ姫って!? どうしてイリュージョンで消されるんだ!?」
「俺が知るかよそんなこと」
システィーナ姫に聞いてくれ。
「有り得んわ! そもそもそんな奴が居てたまるか!」
「居るかも知れないだろうが! ここは幻想郷だぞ!?」
「幻想郷を何だと思ってるんだお前は!?」
人外魔境の大巣窟。
「だから俺は絶対に外に出ない! モヒカン共にカツアゲされた挙句にイリュージョンで消されるからな!!」
「消されるか! いいから外に出ろこの阿呆!」
「アホっつったなこの馬鹿!」
「馬鹿とはなんだこの⑨!」
「それを言ったらお終いじゃぁぁぁぁっ!!!」
乱闘に持ち込んだが、ボロ負けした。
決め手は慧音の16連頭突きだった。
頭がぶれて見えるほどの早業だった。
1R1分13秒でKOされた。
「だ、だが……今日も追い返して、やったぜ……」
試合にゃ負けたが、勝負には勝った。
絶対絶対、外になんか出るもんか。
「…………に、しても……」
誰だシスティーナ姫。どこだテラロイド星。
勢いのまま適当なこと喋ったが、思い返すと我ながら意味が分からなかった。