王のソウルを見出したものにより火の時代が始まった。
新世に最も大きなソウルを持つ太陽の光の王グウィンは自らの力を小さき者や神々に示すためにアノール・ロンドを建都した。
太陽の光の加護を有する壮大なる巡礼の道である。
それは、王の力を象徴する雄大で美麗な寺院であり、神の血を受け継ぐものが坐する城であった。
王都、アノール・ロンドは最初から巡礼の道として築かれた。王の近辺のものはなぜと尋ねた。王は答えられた。
―――いずれ火は消えるだろう。薪を継ぐものが必要なのだ。
選別の道。薪を選び出すための道。
王は火の終焉を恐れていた。例え太陽でさえも那由他の時間の前では有限の存在に等しいのだから。火の時代が終わることは決して許されなかった。
王のソウルを見出した小さきもの。その子孫たちは自覚こそなくとも、王のソウルを継承する正統なる世界の主の一人である。もし火が消えたのならば、その者たちが世界の主となるのは明白であった。
王は闇を恐れた。
王は世界の蛇の一匹に、薪となるものを選ぶ抜くことを命じた。
世界の蛇の中でも異端者と呼ばれるフラムトである。
本来、蛇は古竜のできそこないであった。あるとき竜が敗れた時、その永遠なる力は打ち砕かれ、小さき岩となり、あるいは力を失い蛇となった。蛇の役割は最初の火が生じる以前から存在する世界の復興であり、循環させることである。
異端者フラムトはその命を守り、王の器を納める間の直上で時を過ごすことを承諾した。
また王は、世界の鴉にも命令を下した。かつて古竜が敗れた時、主を失った木々の主人となった黒き鳥の種族である。彼に名前はなかったが、グウィンらと親交があった。
王は、北の不死院の場所を教えると、力をもった勇者を巡礼の道へと連れていくことを命じた。彼は承諾したと同時に、かの血筋を受け継ぐ者たちが巡礼の道で子孫を残すための許しを得た。
やがて火は尽きかけた。
最初の火は世界の薪を食いつぶし、消えかけた。
王は持つ財産のほとんどを身内のものらに配った。
豪華絢爛なる装飾品を。光の力を持つ奇跡を。火の力を。雷を。
グウィン王の親族は多く、王の持ち物はあまりに少なかった。すべてを分け与えた時、王の持ち物は何の力も持たぬ衣服と彼の大剣だけであった。
王は剣を手に、火継ぎの旅へと出た。
王の騎士たちは二手に分かれた。残された王の近辺に使える道を選んだもの。例え自ら焼かれようとも王に忠誠を誓うべく旅路を追いかけたもの。
王は最初の火の炉に到達した。
かつて古竜ばかりが世界を支配していたころに生じた差異の根源に。
そしてグウィンは薪の王となった。もっとも大きなソウルを薪に最初の火は世界中に火の力を拡散した。
王を追った騎士たちは再び熾った火に焼かれ燃え尽きた。以後、彼らは灰となって世界を彷徨うことになったと伝えられている。
世界の鴉は脈々と血を継ぎながら勇者の訪れを待っていた。
古竜の血を受け継ぐ岩の種族や蛇とは違い、かのものの一族は時の経過で死ぬからだ。世界の鴉の子たちは元の大きさを保ったまま時代を経たが、なかには小さき体を持つものもいた。稀に人の言葉を話すものもいた。
北の不死院に不死者が閉じ込められるようになったのはいつのことだったか。
時の流れのよどみ、正常ではなくなった巡礼の道においては、現世とは異なるため、世界の蛇にも鴉にも正確な時はわからなくなっていた。
不死者の中には閉じ込められたせいか発狂して亡者に成り果てるものもいた。
だが一握りだけがよどんだ時の中に機会を見出して、北の不死院の崖にたどり着くことができた。
世界の蛇は、その勇者を運んだ。
チェインメイルに身を包んだもの。タマネギのような鎧を着込んだもの。寵愛の鎧に抱かれたもの。名も無きもの。数えきれない勇者がやってきた。鴉は仕事をこなした。
だが、巡礼の道は険しい。
薪になるに相応しい勇者を選別するために悪質な罠の数々が仕掛けられているからだ。
かつて王を追い、そして火に焼かれた黒い騎士。
亡者ばかりが溢れたという国の騎士。
グウィン王の戦友、もしくはその信者のもの。
混沌の魔女の身内のもの。
四騎士の一人の墓を守る忠実なる大狼。
センの古城を守る巨体。
シースの作りし神秘の生物。
王都を守る竜殺しと処刑人。
大勢の亡者たち。
そして王のソウルを持つものら。
鱗の無い白き竜、シース。混沌の魔女イザリスが創造した混沌の苗床。最初の死人ニト。その昔ソウルを分け与えられた四人の公王。
多くの勇者が挫折し、心を折られて亡者となっていった。
不死者が人間性を失い、心が駄目になってしまえば、もはや死んでいることと大差ない。
王が求める勇者はいつまでも現れず最初の火は王のソウルを食い荒らし続けた。
薪の王グウィンはいつしか燃え殻の王グウィンになっていた。だがそれでも、王の力は消えかけてなお圧倒的である。
それだけの時間が流れただろうか?
一人の騎士が己が正気を保てないことを悟り、一人の不死者を助け、エスト瓶を託した。
そのものは崖に到達した。
突然開けた風景に見入った刹那、世界の鴉がその身を足で包み飛び去った。