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No.34017の一覧
[0] 【チラ裏より移転】風の翼と魔法使い(魔法少女リリカルなのは×マテリアル・パズル、オリ主)[まるさん](2012/08/30 23:02)
[1] 滅びた後のプロローグ[まるさん](2012/07/09 22:36)
[2] 少年と翼[まるさん](2012/07/09 22:54)
[3] 【魔法】と【魔法】[まるさん](2012/07/10 23:54)
[4] 風の翼と不屈の勇気[まるさん](2012/07/11 23:00)
[5] 自己紹介と夢の樹の残滓[まるさん](2012/07/12 22:10)
[6] ジュエルシードとマテリアル・パズル[まるさん](2012/07/12 22:28)
[7] 初めての連携と犬[まるさん](2012/07/12 23:03)
[8] 鮫ともう一人の魔法少女(前編)[まるさん](2012/07/14 11:32)
[9] 鮫ともう一人の魔法少女(後編)[まるさん](2012/07/14 12:51)
[10] 風と雷[まるさん](2012/07/14 20:37)
[11] 温泉と決闘(前編)[まるさん](2012/07/16 03:09)
[12] 温泉と決闘(後編)[まるさん](2012/07/16 03:10)
[13] 過去の『思い』と今の『思い』[まるさん](2012/07/16 03:12)
[14] 定まる心と大いなる危機[まるさん](2012/07/16 03:13)
[15] 黒い風と御風の思い[まるさん](2012/07/16 03:14)
[16] 彼女の母と三人目の魔導師[まるさん](2012/07/16 03:25)
[17] 言えない気持ちと肉食系彼女[まるさん](2012/08/03 00:41)
[18] 甘党艦長と空を見上げる子供達[まるさん](2012/08/03 00:46)
[19] 盗んだバイクと夜の路[まるさん](2012/08/03 00:50)
[20] 『H.R.D』総統とリンディの罠[まるさん](2012/08/03 23:55)
[21] 海上決戦と天から来る雷[まるさん](2012/08/04 00:03)
[22] それぞれの胸の誓いと最初で最後の本気の勝負[まるさん](2012/08/04 00:12)
[23] 天穿つ雷槍と煌めく星光[まるさん](2012/08/04 22:34)
[24] 少女の涙と母の涙[まるさん](2012/08/04 22:40)
[25] 天翔る御風とフェイトの挑戦[まるさん](2012/08/04 22:49)
[26] 初めての親子喧嘩とプレシアの告白[まるさん](2012/08/06 00:40)
[27] プレシアの真実と本当の絆[まるさん](2012/08/06 00:41)
[28] 崩壊する庭園と最後の試練[まるさん](2012/08/06 00:41)
[29] ここから始まるエピローグ[まるさん](2012/08/06 01:19)
[30] 幕間 『眠れる闇と孤独な少女』[まるさん](2012/08/06 22:02)
[31] 序章 『名もなき闇は請い、願う』[まるさん](2012/08/06 22:03)
[32] 第1話 『御風と新しい友達』[まるさん](2012/08/06 22:03)
[33] 第2話 『戦いの嵐と予期せぬ再会』[まるさん](2012/08/06 22:04)
[34] 第3話『炎の魔剣と風の刃』[まるさん](2012/08/07 22:17)
[35] 第4話『がっかりフェイトと偉大な男の死』[まるさん](2012/08/07 22:37)
[36] 第5話『新たな杖と新たな翼』[まるさん](2012/11/07 21:54)
[37] 第6話『それぞれの戦いと友との対面』[まるさん](2012/11/18 00:12)
[38] 第7話『激突と闇色の雷』[まるさん](2012/11/28 23:13)
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[34017] 彼女の母と三人目の魔導師
Name: まるさん◆ddca7e80 ID:e9819c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 03:25
世界と世界を繋ぐ次元の海を、一隻の船が航行している。次元空間航行艦船『アースラ』。それが、この船の名である。それぞれの役割を果たすべく、クルーたちが忙しなく働くブリッジにて、二人の人物がある世界で観測されたデータを見て眉を顰めていた。

「……エイミィ、このデータに誤りはないのか?」

その内の一人、詰襟の黒のコートを纏った少年が、傍らの女性――エイミィ・リミエッタに尋ねた。

「間違いないよ、クロノくん――って、あたしも言いたいんだけど……」

エイミィは少年――クロノ・ハラオウンになんとも言えない表情で返した。二人の目の前にあるのは、当該世界にて観測された強い魔力の変動値のグラフである。そのグラフはある時を境にして急激に上昇し、そして別の時を境にほぼゼロ、と言ってもいいぐらいにまで下降しているのだ。ゆえに、その図はまるで絶壁を描くようになっている。

「明らかに人為的な何かが働いているな。その管理外世界には魔法技術が無いと聞いているが?」

「うーん……。このロストロギアを回収するために、魔導師が独自にその世界に渡っている可能性はあるけどねー」

「ふむ、やはりその線が濃厚か……」

その時、考え込むクロノの背後から新たな人物の声が掛かった。

「なら、急がないといけないわね」

「!艦長」

クロノ達が振り向くと、そこには腰まで届く艶やかな緑色の髪をポニーテイルにした、妙齢の美女がこちらに歩いて来ていた。
リンディ・ハラオウン。この船、アースラの最高責任者、つまりは艦長である。

「その魔導師が存在するとして、これほど強力なロストロギアを求める理由が解らない以上、こちらも迅速に行動しなければならないわ」

言いながら、ブリッジの最上段、艦長席に座ったリンディは、クルー全員に命を下す。

「これより我がアースラは強力な魔力反応があった当該世界に向かいます。また、素性の定かではない魔導師が介在している可能性もあるので、最大限の注意を払う様に」

「「「「了解!」」」」

クルーの唱和に頷いたリンディは出航を指示する。向かうは第97管理外世界――地球。



駅前商業区域での戦闘より、一夜明けた翌朝。ひび割れ傷ついたレイジングハートはユーノに任せ、なのははいつものように登校していた。がらりと教室の扉を開けると、目の前にアリサがちょうど立っていた。

「おはよう、アリサちゃん」

「あ、なのは。おはよう。……ちょっと来てくれる?」

「?」

言いながら、アリサはなのはの手を引いて、自分の席まで連れて来た。そこにはすずかも居た。

「すずかちゃん、おはよう」

「おはよう、なのはちゃん」

すずかがこちらへ笑みを向けてくると、なのはもそれに答え、朝の挨拶を交わした。と、そこで振り返ったアリサが、なのはを見つめる。

「な、何かな……、アリサちゃん」

少したじろいだなのはに、

「例の探し物だけど……、どうなってるの?」

アリサがそう聞いて来た。ある程度は納得したとは言え、やはり気になるのだろう、その瞳にはこちらを案じる色が窺える。それは、口は出さずともこちらを見つめるすずかも同様である。そんな、二人になのはは安心させるように笑いかける。

「大丈夫。心配しないで」

「……ならいいけど」

「危ない真似だけはしないでね」

なのはの様子に嘘が無い事を見たのか、二人の肩から少し力が抜ける。と、そこでなのはは、フェイトに関して二人の意見を聞いてみようと思った。魔法の事など、話すべきではない事は口にしていないが、本質的な部分は既に二人に話しているなのはである。ならば、フェイトの事も大まかな部分をぼやかした上で聞いてみたくなったのである。

「あのね、その事で少し聞いてほしい事があるんだけど……」

「何?」

予てよりなのはの力になりたいと思っていたアリサとすずかは、なのはの『相談』にすぐ喰いついてきた。

「その探し物なんだけど、私達以外にもそれを探している子がいるの」

「その子は、その探し物の持ち主なの?」

すずかの問いになのはは首を横に振る。

「ううん、違うみたい」

「それって横取りって事?ドロボーと同じじゃない!」

アリサが憤慨して唸った。

「うーん……、客観的に見たらそうなんだけど、その子、とても真剣で必死な様子なんだよ」

「何か事情があるって事?」

「うん、たぶん。私はその事情って奴を聞きたいんだけど、向こうは話を聞いてくれなくて……。どうしたら、その子は私のお話を聞いてくれると思う?」

なのはの言葉に、アリサとすずかは腕を組んだ。

「私なら、きちんと話し合う場を設けるけど……」

すずかが控えめな意見を言うと、

「ま、あたしなら首根っこ引っ掴んで無理矢理にでも聞かせるけどね!」

アリサが物騒な案を出した。しかし、なのははそ二人のそのそれぞれの意見に閃く物があった。

「話し合う場……、無理矢理……」

急に深く考え込んだなのはに、アリサがその顔の前でひらひらと手を振る。

「おーい、なのはー?」

「わかったよ!アリサちゃん、すずかちゃん!」

「ぅわ!?」

そのとき不意に、なのはが立ちあがって叫んだため、アリサとすずかは大層びっくりした。

「ありがとう、二人とも!私、頑張るから!」

嬉しそうななのはに、アリサとすずかは訳が解らないまま、思わず頷いた。

「お、お役に立てたならいいけど……」

「あれ?あたし、何かやばい事言っちゃった?」

将来的にある少女に訪れるO・HA・NA・SIのきっかけを作ってしまったアリサは、自分がとんでもないスイッチを押してしまったような気がして、少し冷や汗をかいた。



朝。教室に入った御風は、数名の男子生徒に取り囲まれていた。

「さて天馬御風、何か弁明する事はないかね?」

御風の正面に立った男子生徒が尊大な物言いで御風に尋ねた。そんな彼は何故か――エプロンを着けていた。

「俺が弁明する前に、お前らは誰なのか説明しろよ……」

朝っぱらから訳のわからない連中に絡まれた御風の心中は、だいぶどんよりとしていた。

「我々が誰か、だと?それを知りたくば、あれを見るがいい!」

そう言ったエプロン付きがびしりと教室に備え付けられているテレビを指す。御風がそれに目を向けると同時に、独りでにテレビの画面が点く。幾分かのノイズが走った後、その画像が映し出された。
そこに居たのは、一人の男。凄まじく怪しい事に、全身を真っ黒いローブで覆い、覆面をかぶっているため、年齢ははっきりとわからない。そんな彼は、人の顔が付いた岩の様なものに無造作に腰かけ、こちらを見つめている。

『リア充よ……。見えて……いる……か?』

男は唐突に話し始める。

『カッポーよ、聞こえている……か?』

御風は嫌な予感がした。物凄く、碌でもない事を聞かされそうに感じたからだ。

『神は……嘆き……悲しんでいる。これ程苦しいなら、愛などいらぬぅっ!、と……』

「何処の聖帝だよ」

御風は聞こえないと判りつつも、思わず突っ込んだ。

『そうして流した、血の涙の中から、我らは来た……』

男は一拍溜めた後、己を、己達を誇る様に告げた。

『我らは【H.R.Dヒルダ】。神に愛されし者』

「どう聞いても邪神の類にしか思えん……」

げんなりしながら、御風は呻いた。

『リア充達よ……スデに手遅れだ。キサマらに未来はない』

それだけ告げると、映像はゆっくりと消えていった。そして、映像が完全に途絶えた後、エプロン付きは胸を張った。

「そう言う事だ。判ったか!?」

「判るか!!」

御風は全力で突っ込んだ。

「因みに、【H.R.D】って、何の略なんだ?」

素朴な疑問を口にした御風に、エプロン付きはなぜか見下したかのような目を向けながら、

「ふん、決まっている。非リア充同盟の略だ。そして私は、【H.R.D】が上級幹部、高町なのは嬢非公認ファンクラブ、『喫茶翠屋・H.R.D支店』を統べる、《店長》だ」

「……うん、それで、何の用?」

御風は一刻も早くこの変態達から離れようと、さっさと用件を済ませる事にした。

「フン、あくまで白を切るか。……おい」

「はっ!」

そんな御風の様子を気にも留めず、店長はさっと手を上げた。すると、一人の男子生徒が一歩前に進み出た。彼は何故か見事な敬礼をしながら、口を開いた。

「昨日の夕刻、自分は放課後、天馬御風と高町なのは嬢が共に歩いているのを目撃致しました!高町嬢はとても上機嫌なご様子であり、それらの状況から察するにあれはで、ででで、デートであると推察されます!」

その男子生徒の報告を聞いた店長は一つ頷くと、先程と一言一句同じ事を御風に聞いてきた。

「さて天馬御風、何か弁明する事はないかね?」

「いやいやいやいやいや。俺となのははただの友達だからね?」

だがしかし、店長は御風の言葉を聞いた途端、くわっと目を見開いて、

「き、貴様!高町さんを下の名前で呼んでいるのか!?」

「まずはそこからかよ!?」

憤激する店長に御風は驚愕する。加えて、周りの男子達も店長と同じ反応をしている。

「もはや貴様に一片の慈悲もいらん!我ら、『喫茶翠屋・H.R.D支店』の恐ろしさをその身に刻んで逝くがいい!」

「お前ら本当に小学生か?」

半眼で呟く御風だが、やはり店長は聞いていない。そんな店長に同調するかのように、他の男子生徒も口々に御風を非難する。

「高町さんとデートなぞ許せん!」

「しかも下の名前をえらく呼び慣れたご様子。一体二人はどういう関係何ですか!」

「恋人か!?」

「幼馴染か!?」

「腹違いの兄妹か!?」

「最後のは絶対違うからな」

不穏当な発言には一応突っ込む御風である。

「俺だって高町さんとデートしてぇよ!」

「そうだ!俺もなのはちゃんと――はっ!?」

その時、一人の男子生徒が不用意にも、なのはの下の名前を口にした。その瞬間、空気ががらりと入れ替わる。

「……貴様、今高町さんを名前で、ちゃん付けで呼んだな!会員規則第16条4項目、『彼女の名前を勝手に呼ぶべからず』を忘れたのか!?」

「くっ!ぬかった!」

「つい口に出るほど、普段から呼んでいるようだな。……残念だ、会員番号102番、司馬宙。貴様は将来有望な奴だったのだがな」

「こんな所でやられてたまるか!来い、H.R.Dの悪鬼ども!貴様ら全員、全滅だぁ!!」

「いや、お前も数秒前までその悪鬼どもの一員だっただろーが」

御風の突っ込みは誰にも聞こえてない様子だった。一瞬で仲間割れを始めたH.R.Dの面々をどうしようかと思った御風だが、これ以上関わり合いになりたくなかったので、放って置く事にした。彼らを尻目に自分の席に着いた御風は、空を見上げて思いに耽る。

(フェイトの奴、昨日大丈夫だったかな)

今日も今日とて、フェイトの心配をする御風であった。その背後では、「――ブリーカー!死ねぇ!!」だとか、「――パーツ、シュート!」等の謎の声が響いていたが、関わりたくなかった御風は、完全にそれらを無視した。



「そろそろ行こうか、アルフ」

フェイト・テスタロッサは、己が使い魔にそう呼び掛けた。手には小さなケーキの箱。その格好は普段なのはや御風が見ている黒いバリアジャケットではなく、可愛らしい私服姿である。

「甘いお菓子、かぁ……。こんなもの、あの人が喜ぶのかねぇ」

フェイトが手にしたケーキの箱をつつきながら、アルフが言う。

「わかんないけど、こういうのは気持ちだから。……早くいかないと、母さんが心配しちゃうね」

「心配、するかぁ……?あの人が……」

難しい顔で唸るアルフに、フェイトは少し困ったような顔で微笑みかけて、

「母さんは少し不器用なだけだよ。私には、ちゃんと解ってるから」

「む~……」

そのように主が全幅の信頼を置く「母さん」に含む所があるアルフは不満そうに唸って黙りこんだ。

「……次元転位、次元座標876C、4419、3312、D669、3583、A1460、779、F3125」

二人の足元に金色の魔法陣が渦を巻く。

「開け、誘いの扉。『時の庭園』、テスタロッサの主の元へ!」

魔法陣から膨れ上がった光がフェイトとアルフを包む。数瞬の後、二人の姿は「世界」から消えていた。体が引き摺られる様な浮遊感を感じた後、二人は己達の本拠地、『時の庭園』に帰って来ていた。

「……帰ったのね、フェイト」

早速母の元へ報告に行こうとしたフェイトの耳に、その声が飛び込んできた。よもや迎えに出てくれるとは思っていなかったフェイトの顔はパッと喜色に輝く。アルフは心の準備ができていなかったのか、むっと眉を顰めて嫌そうな顔である。
波打つ様な黒髪に、病的な程白い肌を持った黒衣の美女――プレシア・テスタロッサ。フェイトの母、その人である。



その日の夕刻。放課後、いつもの様にジュエルシードの探索に赴こうとしていた御風は、背筋が震えるような感覚に襲われた。

(これは……、ジュエルシードか!?)

その時、驚愕する御風の携帯に一通のメールが届く。差出人は、高町なのは。メールを開いてみると、

『ジュエルシードが発現したって、ユーノくんから念話が来たよ!現地集合しよう!場所は海鳴臨海公園!』

と、書かれていた。

「りょーかい……!」

御風は人気のない路地裏に飛び込むと、ばさりと翼を広げて大空へ舞い上がった。



フェイトの使い魔、アルフはその内心を苦々しい物でいっぱいにしていた。その源は己が主の母、プレシア・テスタロッサと、不敬ながらも己が主、フェイト・テスタロッサに対するものである。

(何だってフェイトは、あんな女にこうも従うんだい!)

話は、数刻前まで遡る。時の庭園に帰ったフェイトを待っていたのは、母による労いの言葉――等ではなく、フェイトの不手際を責める言葉と、教育を称する鞭による体罰であった。心身共に打ちのめされたフェイトにアルフはプレシアに対する怒りと不満を爆発させるが、フェイトはそれをやんわりとなだめた。
そして力無い笑みでこう言うのだ。
自分は大丈夫だと。
母さんは自分のためを思ってしてくれているのだと。
だって、自分達は親子なのだからと。
ジュエルシードは母さんにとってとても大事な物で、それをちゃんと集めて来れなった自分が悪いのだと。
そんな訳ない、たとえそうであったとしても、自分の娘に鞭を打っていいはずがないと、アルフは思ったが、

「ずっと不幸で悲しんできた母さんだから、私、なんとかして喜ばせてあげたいの」

傷だらけの体で、そう美しく微笑む主の姿に、その母を思う気持ちの強さに、アルフは黙りこむしかなかった。

(あの子を守ってやれるのはあたしだけだ。あの子がこれ以上傷つかないよう、これ以上無茶をしないよう、あたしが頑張るんだ。だから――)

「邪魔をするなぁっ!」

アルフは吠え叫ぶと、目の前にるジュエルシードの暴走体に挑みかかった。



御風が現場に到着すると、すでに戦端は開かれていた。無事修復の完了したレイジングハートを手にしたなのはとユーノのコンビ。そしてこちらも修理を終えたらしいバルディッシュを手にしたフェイトとアルフの主従。それら二組が相対するのは、公園の樹が変じた物であろう、妖樹であった。

「邪魔をするなぁっ!」

一声吠えたアルフがオレンジの魔力弾を妖樹に放ったが、それは妖樹が張った見えざる壁に阻まれ、虚しく虚空に散った。

「バリアを張れんのか……!」

妖樹の力に目を見張った御風はばさりと翼をはためかせ、なのは達の元へ飛んだ。

「悪ぃ、遅れた!」

「御風くん!」

「来てくれたか……!」

御風の参入に喜ぶなのはとユーノとは対照的に、フェイトとアルフは顔を険しくする。

「ミカゼ……!」

ぎゅっとバルディッシュを握りしめるフェイト。

「やっぱり来たね、あいつ……!」

昨日は主を庇ってくれた相手である御風に、アルフは少し複雑な気持ちを抱いたが、それでもフェイトの邪魔をするならば容赦しないと、牙を剥きだし唸る。そして当の御風と言えば、昨日ぶりとなるフェイトを見て眉を顰める。

(何か、昨日よりも余裕がなくなってねぇか、あいつ?)

フェイトの悲壮感すら漂う様子に、御風は何があったのかと訝しんだ。その時、新たな闖入者に吠えた妖樹の足元から鋭い槍に似た何かが飛び出して来た。慌ててそれらを回避する面々だが、何かは御風達の後を追う様に次々に飛び出してくる。

「根っこか、ありゃ!」

妖樹の攻撃を看破した御風は、風刃を生み出してそれらを切り裂いた。

「多芸な奴だな」

防御、攻撃と今までのジュエルシードの暴走体よりも色々と繰り出してくる妖樹に、御風が唸る。

「なのは、俺があいつの動きを止めてやる!お前は封印しろ!」

御風のその言葉に、なのはは戸惑った様な声を上げる。

「で、でも御風くん。あれ、何かバリア張るんだけど!」

「お前の魔法なら力づくで何とかなりそうな気もするけど……。まか、被害が大きくなりそうだから止めとこう。それに、ここにはもう一人封印できる奴がいるだろ」

「あ……」

その言葉になのはが目をやる先には、フェイトの姿。フェイトは、不意に御風から発せられた提案に戸惑った様な顔をした。

「私に、協力しろというの…?」

「効率がいいし、余計な怪我とかせんでもいいだろ」

フェイトはしばしの逡巡の末、こくりと一つ頷いた。

「よっしゃ、話は決まりだ!任せたぜ、なのは!フェイト!」

「うん!」

「わかった!」

二人の魔法少女がそれぞれのデバイスを構える。そして御風は【魔法マテリアル・パズル】を発動させ、掌に風を凝縮させていく。

「【魔法マテリアル・パズル】エンゼルフェザー、『大圧縮魔眼球ツザンメン・ドリュッケン』!」

御風は掌に生まれた光の球を、妖樹に向けて投げつけた。当然それは妖樹のバリアに阻まれるのだが、それを受け止めた瞬間、妖樹は凄まじい過負荷に襲われ、その体を地面にめり込ませた。少しでも気を抜けば、己の壁が破られるの感じた妖樹は、必死にこれを受け止める。当然、他の事に気をやる余裕など無く、その姿は完全に無防備になった。

「今だ、やれ!」

御風の声を合図に、なのはとフェイトが己の魔法を解き放つ。

「お願い、レイジングハート!」

『オーライ』

「行くよ、バルディッシュ!」

『イエッサー』

二人の杖の先端に、それぞれの魔力光が灯る。

「撃ち抜いて!ディバイン──」

『バスター』

「貫け、轟雷!」

『サンダースマッシャー』

轟音と共に桃色と金色の魔力砲撃が、妖樹を十字に打ち貫く。断末魔の悲鳴すら許されず、妖樹は瞬時に光の粒子と化して消滅した。後に残るのは、青く煌めくジュエルシードのみ。

「ジュエルシード、シリアル7!」

「封印!」

二人の声と共にジュエルシードの封印が完了する。だがしかし、本番はここからである。
ジュエルシードを挟んで睨みあう二組の探索者達。

「ジュエルシードには、衝撃を与えたらいけないみたいだ……」

フェイトが告げる。 

「うん…昨夜みたいな事になったら、私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも、可哀想だもんね……」

なのはが応じる。

「だけど、譲れないから……」

フェイトがバルディッシュを構える。

「私は、フェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど……」

なのはもまた、レイジングハートを構えて迎え撃つ態勢をとる。

「私が勝ったら……、ただの甘ったれた子じゃないって証明して見せたら、お話……聞いてくれる?」

なのはの真剣な言葉と表情に、フェイトはしばしの後頷いた。

口を挟んではいけないと、当人達以外が固唾を飲んで見守る中、二人の間に流れる静かな時間。
そして――。

「てぇぇぇぇいっ!」

「はぁぁぁぁぁっ!」

二人が裂帛の気合いと共にそれぞれの杖で打ちかかる。なのはとフェイト、4度目の激突。そう思われた刹那。二人の間に突如青い魔法陣が生じ、そこから現れた人影が、互いのデバイスの一撃を受け止めていた。

「ストップだ!」

金属板で補強された黒の詰襟のコートを纏った黒髪の少年が鋭い声を発する。

「ここでの戦闘は危険過ぎる!」

突如己達の戦いに割って入った少年を、なのはとフェイトは茫然と見つめる。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!詳しい事情を聴かせてもらおうか!」

少年――クロノ・ハラオウンが強い意志を込めた視線で戦場を見やりながら言った。それを受けた【魔法使い】、天馬御風は、風を操る者として一言述べた。

「お願いだから、ちょっと空気読んで!」

口にこそ出さなかったが、その場にいた全員が内心で頷いていた。



【あとがき】
何だか色々出てきました。【H.R.D】は好きに動かせるので、割と好きな奴らです。
それでは、また次回。


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