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No.33928の一覧
[0] Einmal mehr ~もう一度~(新世紀エヴァンゲリオン・習作)チラ裏より[うにうに](2012/07/17 23:45)
[1] プロローグ アスカ[うにうに](2012/07/08 06:58)
[2] プロローグ シンジ[うにうに](2012/07/08 13:42)
[3] 第1話 もう一度出会いたい[うにうに](2012/07/08 14:55)
[4] 第2話 悲劇の選択[うにうに](2012/07/09 23:16)
[5] 第3話 迫る別れ[うにうに](2012/07/08 17:02)
[6] 第4話 再会の約束[うにうに](2012/07/09 23:35)
[7] 第5話 セカンド・チルドレン誕生[うにうに](2012/07/08 23:28)
[8] 第6話 ドイツへ[うにうに](2012/07/09 23:19)
[9] 第7話 一人じゃない[うにうに](2012/07/09 17:03)
[10] 第8話 電車を降りたら[うにうに](2012/07/09 18:26)
[11] 第9話 使徒襲来!?[うにうに](2012/10/26 16:51)
[12] 第10話 初心者兄妹の出会い[うにうに](2012/10/26 17:36)
[13] 第11話 初心者兄妹の始まり[うにうに](2014/03/12 20:30)
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[33928] 第6話 ドイツへ
Name: うにうに◆b1370127 ID:71ba60e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/09 23:19
 アスカは今、後の第三東京市へと来ていた。ゲンドウ達にセカンド・チルドレン着任の挨拶をする為だ。

 今アスカが居るのは、ジオフロントへ向かう車の中だ。そして外の様子を眺めながら、アスカはポツリと呟いた。

「結構活気があるのね」

 アスカがそう思ったのも当然だろう。今の箱根は第三東京市になる為に、ゲヒルン関連会社と道路の建築ラッシュで湧いているのだ。キョウコと日本に来た時は開発が始まる前だったので当然だが、前回の使徒戦争時には疎開で閑散としていたので余計そう感じるだろう。

(今がいくら活気があっても、使徒が来たら如何なるんだろう)

 前回見た破壊されつくした第三東京市を思い出し、今必死に建物を建造して居る人達に複雑な思いを抱く。

(いや。あたし達がこの町を守れば良いんだ)

 アスカは首を振って、余計な考えを打ち消し決意を新たにした。

 建築中の建物や人を見ている内に、車は目的の場所へ到着した。そこは前回アスカが良く利用したゲートだが、まだ作りかけでセキュリティと呼べるような物は無いに等しかった。その様子に機密は大丈夫なのか少し不安になる。

 車を近くの駐車場に停めると、運転手兼護衛が「こちらです」と簡素な言葉を吐く。

 その態度に辟易としながらも、アスカは文句も言わずに頷いた。この手の男には、何を言っても無駄だと知っているからだ。

 未だ工事中のゲート脇にある通用口を通り、簡素なエレベーターでジオフロントへ降りる。

(あれ?)

 エレベーターから見えるジオフロントに違和感を感じ首をひねる。少し考えると、違和感の正体は直ぐに分かった。

(工事の規模が大きすぎるんだ。明らかにあたしが知らない建物を作ってる)

 アスカの記憶には、建物が取り壊されたような跡も無かったし、景観を気にして建物跡を除去する余裕があったとは思えない。つまり前回と比べて、本部の建物が増えていると言う事だ。

 不思議に思っていると、エレベーターは停止しそのまま地下通路へと案内される。

 ……そこからの移動距離が長かった。おそらくエレベーターやエスカレーターと言った設備が完成していない所為だろう。いい加減文句の一つも言ってやろうと思った所で、ようやく目的の場所へ到着した。

「セカンド・チルドレンをお連れしました」

 護衛の一人がインターホンで連絡をすると、直ぐ近くのドアがプシュっと言う音と共にスライドした。

「中で碇所長がお待ちです」

 研究員らしき黒髪の女性が出て来て、続きを案内してくれるようだ。ここまで連れて来てくれた護衛は、一緒に入って来る気配は無かった。どうやら彼らはここまでのようだ。彼らの態度に息苦しさを感じていたアスカは、その事にホッとした。

「本当に子供なのね」

 女性研究員が、アスカを見ながら小さくで呟いた。以前のアスカらなこの一言で腹を立てていただろうが、今は不思議なほど何も感じなかった。それよりもアスカの関心は、この女性研究員に注がれていた。何処かで会った様な気がしたからだ。

「あたしは惣流・アスカ・ラングレーです。あなたは?」

 案内を始めた女性研究員に聞いた。初対面の相手に高慢な態度を取らない様にするのは、アスカが最近覚えた処世術だ。

「あら。ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私は赤木リツコよ。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

(金髪じゃないじゃない。若いし煙草タバコの臭いもしない。分厚ケバい化粧もして無いから分からなかったわ)

 内心で物凄く失礼な事を考えていたのは、御愛嬌と言う事で……。

「赤木って事は、ナオコさんの……」

「娘よ。それから母さんと紛らわしいから、私の事はリツコで良いわ」

 初対面の振りをするのは、正直に言って疲れる。これから一緒にやって行くなら、猫を被っていても仕方が無いとアスカは判断した。

「OK リツコ。あたしの事はアスカで良いわ」

 リツコはアスカの態度の豹変に呆気にとられた物の直ぐに平静を取り戻す。

「あら。その年でずいぶん大きな猫を被っていたのね」

「変な奴等が群がって来るような生活を続けてたからね。礼儀正しくしておかないと、向こうに絡んで来る理由にされるのよ」

「私には良いのかしら」

「チルドレンとしてやって行くなら、ナオコの娘とは永い付き合いになるでしょう。そんな相手に誤魔化し続ける事も出来ないし、そんな事に労力を割くなんて馬鹿げてるわ」

 アスカが素気なく言うと、リツコは笑顔になった。

「資料を見る限り『子供らしくない』と思っていたけれど、あてにならない物ね。普通にしてもらっていた方が好感が持てるわ」

 リツコがそう言った所で目的地に到着した。

「ここが所長室よ。所長は悪人面だから驚かない様にね」

 リツコが悪戯っぽく言うと、インターフォンを取りアスカを連れて来た事を伝える。と同時に、ドアがスライドして開いた。

「入れ」

 促されて入室すると、そこにはアスカが良く知る髭とサングラスの碇指令(今は所長)が居た。冬月とナオコも一緒に居る。

「セカンド・チルドレンに着任した惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」

 碇所長の前に行き宣言する。

「期待している」

 ……その一言で会話が終わってしまった。

「アスカ君のこれからについては、私の方から指示するよ」

 フォローに入ったのは冬月だった。赤木親子は苦笑いするばかりである。

「アスカ君の配属先は松代になる。詳しい話は、護衛兼世話役を付けるからその人に聞くと良い」

「はい(本部じゃないの? 何故?)」

 不思議に思っていると、すぐに原因らしき物に思い至った。

「あの」

「何かね」

「冬月先生からは、ここにファースト・チルドレンが居ると聞いています。彼女とは会えないのですか? 同じチルドレンとして、顔を会わせておきたいのですが……」

 アスカがゲンドウに向かってそう聞くと、答えたのは冬月だった。

「ファースト・チルドレンの綾波レイは、アルビノで生まれつき体が弱くてね。今治療の為にここを離れているのだよ。何処に居るかは機密だから教えてあげる事は出来ない」

 冬月の答えに、アスカは自分の出した答えが正しいと直感した。

(ファーストに余計な感情が芽生えない様に、同年代のあたしと接触させたくないのね。あたしが松代に移されるのも、それが理由か。ひょっとしたら、クローニング中の素体成長が追いつかなくて、あたしと同年代に見えないだけかもしれないけど……)

 そんな事を考えながらも、アスカはその決定に助かったと思っていた。それは松代の方がサクヤの家に近いからである。流石に毎日とは言わないが、松代からなら頻繁に帰る事が出来るだろう。

「それは残念です。彼女の体が良くなったら、是非会ってみたいです」

「分かった。約束するよ」

 そこで会話が打ち切られ、アスカは退出する事になった。

「所長の人相の悪さにびっくりしたでしょう」

 所長室を出ると、リツコがアスカに話しかけて来た。

「ええ、あの髭面にはびっくりしたわ。初対面だったら悲鳴上げてたかもしれないわね。それに『期待している』って、一言だけじゃべって、後はピクリとも動かないんだもん。なんか……趣味の悪い置き物みたいだった。代わりに信楽焼しがらきやきたぬきを置いといても、誰も気づかないんじゃない?」

 アスカがそう言うと、リツコは噴き出した。その場を想像したのだろう。

 何故ここで信楽焼の狸が出て来たかと言うと、サクヤの家の近くにある古い店の前に飾ってあったからである。その所為で今のアスカの認識は、日本の伝統的な置物=信楽焼の狸だったりするのだ。

 リツコの笑いが治まると、リツコと最初に会った場所に移動した。

「それではアスカの事をよろしくお願いします」

 目の前に居るのは、来る時にアスカを護衛していた人達だ。

「上の町にホテルを用意してありますので、今日はそちらに一泊し明日松代へ移動します」

 その一言に、アスカの気分は落ち込んだ。

(こいつらが護衛な上に、またあの距離を歩くのか)

 そんなアスカの心情を知ってか知らずか、リツコは笑顔で手を振っていた。



 松代での訓練は、アスカがドイツに居た時と変わらない物だった。違う事と言えば、エヴァ弐号機を確保出来なかったので、シンクロ実験と操縦訓練がシミュレーターである事くらいだろう。

 シンクロ実験は、ドイツから提供されたデータが滅茶苦茶な物だった為、今のアスカでも起動指数を確保するのがやっとだった。

 しかし、そんな無茶苦茶なデータで起動指数を確保したアスカを、再び手に入れようとする動きが出て来た。計画通りドイツ行きの話が出る度に、シンクロ室を0%付近まで下げた甲斐もあって、ゲンドウからドイツ行きの命令が出る事は無かった。しかしその所為で、アスカの護衛の数は大幅に増員され、サクヤにまで護衛が付く事になってしまった。

 何故アスカ獲得の動きが止まっていたかは、未だに分からずじまいである。その一方で分かった事もある。ジオフロント内部の建物が増えていた原因についてだ。

 前回は箱根の第三東京市がネルフ本部になっていたが、事実上の本部はドイツ支部が担っていた。しかしドイツ研究所の相次ぐ不祥事で、他国の研究所から反感の声が上がり、ドイツ研究所(後のネルフドイツ支部)の規模縮小が決定されたのだ。その分の予算を獲得したのが、日本ゲンドウだっただけの話である。これでネルフが発足した時には、名実共に第三東京市が本部となるだろう。

 そうこうしている内に時間ばかりが過ぎ、何も出来ないまま2010年を迎えてしまった。正史通りゲヒルンが解体され、特務機関ネルフが結成された。

 そして何も進展が無いまま、更に二年の歳月が経過してしまう。使徒襲来まであと三年しか無い。アスカはこの状況に焦りを覚えていたが、焦っていたのはアスカだけでは無かった。

 突然冬月がアスカを訪ねて来たのである。

「アスカ君。久しぶりだね」

「冬月先生。いえ、冬月副司令。お久しぶりです」

「そんなに畏まらなくても良いよ」

 笑顔でそう言った冬月だったが、その表情には硬さがあった。冬月がアスカを訪ねて来ると言う事は、何らかの話があると見て間違いないだろう。そして現状を考えれば、話の内容は大体想像がつく。

「今日訪ねて来たのは、アスカ君にお願いがあってね……」

 切り出し辛そうにしている冬月に、アスカは確信をもったが黙って聞く事にした。“察しが良すぎる子供は気持ち悪いだけ”と言うのが理由だ。

「その……約束を破る様で、気が引けるのだが」

 これから言われる事が分かっているのに、アスカは不思議そうに首をかしげた。自分のわざとらしさに苦笑が漏れそうになる。

「……ドイツに行って欲しいのだ」

 その言葉を聞いたアスカは、心の中で(やっぱり)と溜息を吐いた。しかし簡単に了承する訳には行かない。簡単に了承したら他の約束も軽んじられ、下手をしたらモルモットにされかねないからだ。

「チルドレンになる際の約束は?」

「分かってる。それは重々承知しているのだ」

「じゃあ……」

「弐号機の受け渡しは、ドイツ支部がかたくなに拒否しているのだ。加えて国連の偉い人たちが、現状で起動不可能な決戦兵器に疑問の声を上げているのだよ。このままではネルフの存亡自体が危ういのだ。聞き分けて欲しい」

(国連の偉い人=ゼーレメンバーか。流石の碇司令も出資元には逆らえきれないと言う事ね)

「お断りします」

「そこを何とか」

 喰らい下がろうとする冬月だが、次のアスカの言葉で黙らざる負えなかった。

「……何故ネルフは、ドイツ支部だけ特別扱いをするのですか?」

「そ それは……」

 冬月も委員会ゼーレの事は口に出せない。更に言えば、世界の命運がかかったこの状況で、子供アスカが譲歩して見せたのに、“大人の下らない意地と利権を捨てられない事が理由”とは言えなかった。

 だから今の冬月は、頭を下げる事しか出来ない。そんな冬月の様子に、アスカも同情的になってしまった。

「……考えさせてください」

 アスカは思わずそう答えてしまった。



 冬月の来訪から一月で、アスカのドイツ行きが決定してしまった。滞在期間は一週間の予定だ。

 アスカが冬月に同情してしまったのもあるが、一番の理由は“弐号機は如何なっているか?”と“ドイツが裏で何を行っているか?”を、確かめるのが目的である。それはアスカが“安全な日本では、これ以上何も分からない”と、見切りをつけたと言う事だ。

 正直に言えば、アスカもドイツ行きに危険を感じて居ない訳ではない。しかし不確定要素を増やしたくないアスカは、危険を冒してでも確かめるべきと判断したのだ。

(虎穴に入らずんば、虎子を得ず……ってね)

 ドイツに行くにあたり、アスカは優秀な護衛を冬月にお願いした。その際に“信用出来る事”“腕の良さ”“同性である事”“一緒に居て息苦しくない事”と言う条件を提示した。

 その結果、ドイツに行く一週間前に派遣されて来たのが……

「もう朝よ!!起きなさい!!」

 アスカは自分の部屋に転がり込んできた護衛を、叩き起こそうとする。しかし、返礼として飛んで来たのは拳だった。

「って!!イタッ!!何すんのよ!!」

 怒ったアスカが殴って起こそうとすると、今度は蹴りによるカウンターだ。その蹴りを腹に受けて、アスカは部屋の中で縦に一回転する羽目になる。

「痛いわね~」(注 一般人なら痛いじゃ済みません。病院行きです。と言うか、下手すりゃ死ぬ)

 起き上がったアスカが見たのは、未だスヤスヤと眠る護衛の姿だった。あの体勢からあの蹴りを打っておいて、起きていないと言うのだから不条理である。と言うか、前回シンジが生きていた事が不思議でならない。

「ん~~ むにゃむにゃ」

 ……イラァ

「禁酒(ボソッ)」

 眠っているはずの護衛がピクンと反応をした。

「財布没収。YEBISUビール廃棄」

 ようやく起き上がった護衛を無視して、アスカは台所へと向かう。目的はアスカの冷蔵庫スペース半分を牛耳っているブツだ。

「お願い!! アスカ大明神様!! それだけは許して~ん」

 冷蔵庫の目前で捕まり、縋り付かれてしまった。

「チィ」

 アスカは護衛に思いっきり舌打ちをしてやる。そのままフローリングの床に護衛を正座させ、お説教開始である。

(シンジはこんな奴の面倒を、よく見てたわね。加持さんも趣味が悪すぎよ)

「聞いてるのミサト!!」

「はい!!」

 ここ最近毎日の様に繰り広げられる光景である。

「明日はドイツに出発だって言うのに、準備とかは大丈夫なんでしょうね」

「パ~ペキよん」

 アスカは本当に大丈夫なのか心配でならない。

 葛城ミサトが何故ここに居るか?と言うと、ドイツ支部の規模縮小が原因だった。前回は軍属を経験した後、ドイツ第三支部に配属になっていたが、今回は直接本部に配属になったらしい。心配したリツコ(金髪ヘビースモーカー化済み)が、忙しい仕事の合間を縫って様子を見に来たのは流石にアスカも驚いた。……ちなみに加持は、ドイツ支部に配属になった様だ。

 アスカはニコニコしているミサトに、溜息しか出なかった。



 そしていよいよアスカがドイツに行く日が来た。同行するのは、ミサトを始めとする数人の護衛だ。

「では、行ってまいります」

 見送りに来た冬月にミサトが挨拶をしている。そこには普段家で見せる様なグウタラな態度は微塵も無い。

「うむ。気を付けてな。セカンド・チルドレンの事は頼んだよ」

 アスカも適当に挨拶をすませ、サッサと飛行機に乗り込む。飛行機は順調にスケジュールをこなし、無事にドイツに到着する事が出来た。

「空港にドイツ支部の案内役が、迎えに来ているはずだけど……」

 ミサトが周りを見渡しながら、それらしい人を探している。アスカは他の護衛に囲まれ、身動きが取れない状態だった。その時ミサトが居る逆方向から、一人の男がアスカ達に近づいて来た。男はネルフの身分証を提示しながら、口に人差し指を当て静かにと言うポーズを取る。

 護衛達は困惑の色を見せたが、事前の資料で男の顔を知っていたので男の指示通り言葉を発しなかった。そして男は死角からミサトの後ろに移動すると、そのままミサトに抱きついた。

「誰か探しているのかい?」

 慌てて男を振り払うミサトだが、男の顔を確認すると途端に顔を引き攣らせる。

「ななななんで、あんたがここに居るのヨッ!?」

 動揺するミサトだったが、男は溜息を吐き額に手を当てる。

「相変わらず資料を読まないんだな。俺がドイツでの案内役だって、事前に送っておいた資料に載ってただろ」

 男とミサトのやり取りに、護衛達は呆れた様な表情をしていた。アスカはそのやり取りが、涙が出そうなほど懐かしく感じていたが……。

「事前に送った資料で知っているとは思うけど、俺の名前は加持リョウジだ」

 未だ抗議を続けるミサトを無視して、加持はアスカ達に自己紹介を始めた。軽薄な口調に騙されそうになるが、加持は周りへの警戒を一瞬たりとも解いていない。他にも数人程護衛が付いている事が、今のアスカには分かった。おそらく加持の同僚達だろう。

 加持が案内役なのは偶然ではない。アスカが案内役兼護衛に、日本人を指定したからだ。ドイツ支部に勤める日本人で、護衛をこなせるのは加持だけである。他にもアスカと接触する護衛や研究員は、人格・思想共に留意するよう条件を付けた。

 実際に加持とドイツ側の護衛は、簡単なサインでやり取りをしているが、その表情を見る限り関係は良好の様だ。

 その事に内心ホッとしたアスカは、何気なく加持に近づき右手を差し出した。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」

「君が噂のセカンド・チルドレンだね。よろしくな」

 加持はアスカの右手を握り握手をする。しかし、その親しみにあふれた所作と物言いに反して、加持の目には品定めをするのうな気配がした。アスカはその事に、少なからずショックを受ける。

「ちょっとアスカ!! そんなのの手を握ったら、妊娠させられるわよ!!」

 ミサトのあんまりな言い様に、流石のアスカも顔が引き攣った。アスカの護衛達も素早く加持からアスカを引き離す。

「おいおい誤解だよ」

 必死に弁明しようとする加持だが、護衛達だけでなく周りの客まで避難の視線を加持に向けて居る。

「(ちょっと目立ち過ぎた。空港の警備員が来ると面倒だ)く 車を用意してあるんだ。ここで立ち話は他の人達の迷惑になるから……」

 この場での弁明は目立つだけと判断したのか、加持が慌てて移動を促す。ミサトも一矢報いて落ち着いたのか、目立ち過ぎた事に気付いた様だ。他の護衛達に指示を出し始めた。

 弐号機があるドイツ第三支部に向かう途中、加持が「観たい物はあるか?」と、観光の意思があるか聞いて来たが、以前住んでいたからと丁重に断った。その代わり“久しぶりに故郷の料理が食べたい”と、食事のお願いだけはしておく。そのお願いに加持は快く頷いていた。

 これから一週間滞在するホテルにチェックインすると、アスカはデータディスクを手に黄昏て居た。

「結局渡せなかったな」

 アスカはデータディスクを手で弄ぶ。先程会った時の加持の目が、如何しても忘れられないのだ。

(まだチャンスはあるし、急ぐ事も無いか……。実験が始まる明日からは、護衛の加持さんとは嫌でも顔を会わせるし……)

 そう思い直した所で、バスルームから音が漏れて来た。

「ん? ミサトが出て来るわね」

 アスカはデータディスクを隠すと、本を読んでるふりをする。

「アスカ~。出たわよ。次、入っちゃいなさい」

「は~い」

 アスカは本を閉じると、タオルや下着を用意し始める。ミサトは備え付けの冷蔵庫から、ビールを引っ張り出している所だ。

「夕食前にそんなの飲んでると太るわよ」

「気にしない。気にしな~い。本場に来たんだから、ちゃんと味わっておかないとね~」

「もう」

 そこに備え付けの電話が鳴った。

「はい」

 ビールを片手に持ったミサトが出たので、アスカはそのままバスルームに入る事にする。

「ぬぁんですって!!」

 それをミサトの叫び声で中断させられた。

「セカンド・チルドレンは、今ホテル入りしたがかりなのよ!! それにそう言う事は事前に……」

 ミサトが電話の相手に抗議を始める。

「……ッ!! 分かりました」

 ミサトは悔しそうに電話を切ると、アスカの方に向き直る。

「アスカ。いきなりだけど出頭命令よ。今すぐ実験を始めるってさ」

「何よそれ!!」

「明らかに嫌がらせね。やってくれるわ」

 ミサトは口惜しそうにしながらも、加持に連絡を入れる。

「すまない。口頭でスケジュールを言われた時点で、こうなる事は予想するべきだった」

「悪いのはあちらでしょう。あなたが謝る必要はないわ」

 迎えに来た加持は、直ぐに頭を下げて謝罪した。ポーズではなく本当にすまなそうにする加持に、ミサトも文句を言えない様だ。アスカの前で、加持をフォローしている。

 アスカの方も怒る気は無い、むしろ負い目があるのはアスカの方と言って良かった。ドイツ研究所側の嫌がらせである事は分かっていたし、日本人に恨みを持つ原因を作ったのは、他ならぬアスカとキョウコだからだ。

「気にしないで。あいつ等がどんな奴等かは、あたしも良く知ってるから」

「……すまない」

 アスカが怒っていない事をアピールすると、加持はもう一度すまなそうに頭を下げた。

 支部に到着すると、アスカ達の目の前で加持は槍玉に挙げられた。研究員のリーダーらしき白人の男に「この程度の仕事も出来ないのか?」とか「これだから日本人は」とか、好き放題言われている。加持の同僚を含む護衛達は、そんな研究員達に嫌悪感を露わにしていた。

 どうやら研究員に関しては、アスカの条件は無視された様だ。

「セカンド・チルドレンも、着替えもせずにボーっとしているんじゃない。」

 突然アスカに矛先が向いた。更衣室の場所も知らされてないし、プラグスーツも渡されていない現状で如何しろと言うのだろうか? 文句の一つも言ってやろうと思った時に、加持の同僚が「更衣室はこっちです」と、アスカの手を引いた。更に護衛の1人が「夕食を取れなかったからせめて」と、缶のコーンポタージュを買ってくれたのは、アスカにとって嬉しい事だった。

 日独の護衛が協力して、研究員バカ共が余計な事をしない様に見張ってくれたので、その後は特に不快な思いをせずに弐号機に乗り込む事が出来た。

 エントリープラグの中がLCLに満たされ、シンクロをスタートさせる。

(ママ。いるんでしょう? ママ)

 弐号機の中でアスカは呼びかける。

(アスカちゃん? 今度は本物よね?)

 返事は直ぐに帰って来た。確りと声を認識出来るのは、シンジに教えられた訓練の賜物だろう。

 しかしキョウコの第一声は、アスカに取って見過ごせない物だった。

(本物って如何言う事なのママ?)

 アスカが問いかけると、キョウコはわずかに間をおいて答え始めた。

(アスカちゃんに似た感じのと、アスカちゃんにそっくりながシンクロしようとして来たの。直ぐに偽物だと気付いて、シンクロしない様にしたんだけど、なんとなくシンクロしちゃうのよね)

 シンクロは深層心理が関係しているので、完全にコントロール出来る訳ではない。と言う事は、キョウコの母親としての本能に訴えかける物を持っていると言う事だろう。それよりも……

(似た感じの娘とそっくりな娘って事は、ママにシンクロ出来た人が2人も居るって事?)

 キョウコから肯定の意が伝わって来たアスカは、予想外の事態に頭が痛くなって来た。1人でもあり得ないのに2人だ。

(シンクロ率はどれくらい出てるの?)

(初回の気付かなかった時は、40%位出たと思う。気付いてからは一度も起動指数に達していないわ)

 その事実にアスカは、ガックリと項垂れた。

(それよりアスカちゃん)

(何?)

 アスカは不機嫌に聞き返してしまった。

(そんな邪険にしないで、ママとお話ししましょう。誰も相手にしてくれないから寂しいのよ)

(しょうが無いわね)

 アスカはそう答えつつも、久しぶりにキョウコと話が出来てうれしかった。






 アスカにとってシンクロ実験は、久しぶりに会った母親キョウコと話が出来る時間となった。ドイツで一番安らげる時は、前回同様に弐号機とシンクロしている時だと言うのは皮肉な話だった。


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