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No.33928の一覧
[0] Einmal mehr ~もう一度~(新世紀エヴァンゲリオン・習作)チラ裏より[うにうに](2012/07/17 23:45)
[1] プロローグ アスカ[うにうに](2012/07/08 06:58)
[2] プロローグ シンジ[うにうに](2012/07/08 13:42)
[3] 第1話 もう一度出会いたい[うにうに](2012/07/08 14:55)
[4] 第2話 悲劇の選択[うにうに](2012/07/09 23:16)
[5] 第3話 迫る別れ[うにうに](2012/07/08 17:02)
[6] 第4話 再会の約束[うにうに](2012/07/09 23:35)
[7] 第5話 セカンド・チルドレン誕生[うにうに](2012/07/08 23:28)
[8] 第6話 ドイツへ[うにうに](2012/07/09 23:19)
[9] 第7話 一人じゃない[うにうに](2012/07/09 17:03)
[10] 第8話 電車を降りたら[うにうに](2012/07/09 18:26)
[11] 第9話 使徒襲来!?[うにうに](2012/10/26 16:51)
[12] 第10話 初心者兄妹の出会い[うにうに](2012/10/26 17:36)
[13] 第11話 初心者兄妹の始まり[うにうに](2014/03/12 20:30)
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[33928] 第2話 悲劇の選択
Name: うにうに◆b1370127 ID:71ba60e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/09 23:16
 シンジと再会を果たしたアスカは、ひたすら上機嫌だった。半分からかいとは言え、“好きだよ。愛してる”と意中の人に言ってもらえたのだ。そしてその言葉が、嘘や冗談ではなく本気の言葉であると、アスカには何故か分かった。まあ、それが分かったからこそ、あの反応なのだが。

 託児所にキョウコが迎えに来た際、アスカの上機嫌ぶりに「如何したの?」と聞いても、アスカは「何でもな~い♪」と返していた。部屋に帰っても、枕を抱いて二へェ~と笑いながらベッドの上で左右に転がり続けるアスカに、キョウコが本気で病院に連れて行こうか迷ったのは仕方がないだろう。

 しかし、そんなアスカの幸せな時間も次の日には終わりを迎える事になる。

 喜び勇んでシンジの病室のドアを開くと、アスカは固まる羽目になった。

「……シンジ。如何したの?」

 アスカには、そう声を出すのが精いっぱいだった。

「入って、ドア閉めてよ」

「……あっ」

 シンジの様子は、昨日と変わらない笑顔に見えた。しかしアスカは、僅かな拒絶と否定の視線を敏感に感じ取っていた。何とかドアを閉める事は出来たが、それから先は如何すれば良いか分からずに固まってしまった。

「アスカ。如何したの?」

 シンジの優しい声音に隠れた冷たさが、アスカの胸に突き刺さる。アスカの頭は、何故シンジがこのような態度を取るか分からず混乱した。そんなアスカの様子に気付いたシンジは、内心で(失敗したな)と思いつつ続けた。

「アスカ。とても大事な話があるんだ」

 シンジがそう口にしたが、アスカは動く事が出来なかった。

「あたし。シンジに嫌われる様な事……」

「してないよ」

 シンジはアスカが言い終わる前に、優しくハッキリと否定した。

「ウソよ……だって……」

「してないって言ってるだろ」

 僅かに語気を強めるシンジに、アスカはそれ以上聞く事が出来なかった。

「こっちに来て椅子に座ってよ」

 アスカはシンジに逆らう事が出来ずに、大人しく椅子に座る。

「アスカのママをネルフ……ゲヒルンドイツ研究所から、安全に退職させる方法を考えよう」

 シンジの話は、アスカも考え計画している事だった。しかし、話の内容とシンジの態度は結び付かない。だからアスカはシンジを問いただしたい気持ちを抑え、今は話に集中する事にした。

「理想を言わせてもらえば、ドイツ研究所の方からアスカのママを首にしてくれる事だけど……」

 そう言いながら、シンジはアスカに確認する様な視線を向ける。

「うん。難しいのは分かってる。……エヴァ弐号機の製造に加えて、マギクローン設置にママは外す事が出来ない人材だから」

 アスカの答えにシンジは頷く。

「LCLで得た情報にズレは無いか。その上で如何するかだけど……」

 そう呟いて思考の海に身を乗り出そうとするシンジを、アスカが「……手なら考えてあるわ」と言って引き戻した。

「ママが日本人とドイツ人のハーフなのは知ってるわね」

 シンジが頷く。

「ゲヒルンドイツ研究所には、半ネオナチの純血主義者や白人至上主義者が多いの。当然、外国人や有色人種……その混血は何かしら嫌な思いをしている。その中で最も嫌な思いをしているのが、あたしのママなの。特にプライドの高い研究者は、日本から呼ばれたママが気に入らなかったのね。まあ、その人達から見ればママは“自分達の実力不足の象徴”とも言えたから当然だけど。……そう言った不満を抑える為に、ドイツ研究所の所長が取った手段は、ママの研究や働きを正当に評価しない事だったわ。ママがエヴァ弐号機の製造とマギクローン設置の責任者でないのは、その所為なの。……まあ、そのおかげで日本に来れたのだけど」

 アスカが苦笑する。

「ドイツ研究所はママが居なくなると、エヴァ弐号機とマギクローンの計画が頓挫はしないまでも遅延は確実よ。露骨な事が出来ない分、陰険な嫌がらせは多かったみたい。ママは負けん気が強かったから、そう言う奴らを実力で黙らせたの」

(流石アスカのママだ。アスカそっくり)

「……今、あたしとママがそっくりだと思ったでしょう」

 アスカに睨まれて、シンジは「ごめん」と言いながら苦笑いをした。そこには、アスカが僅かに感じた拒否・否定・冷たさは無かった。

(良かった。いつものシンジだ)

「……まあ、良いわ。と・に・か・く、そんな状況で“所長が隠れてママの正当な評価をしてる”と、研究所に流すと如何なると思う? 捏造した証拠付きで」

 途端にシンジの眉間に皺がより難しい顔になる。

「それって、実行可能なの? すぐにばれない?」

「出来ない事なんて言わないわよ。LCLの海から得た知識のおかげで、今のあたしは“超”が付くほどの天才ハッカーなんだから。それくらいは、簡単に出来るわ」

(それが言いたかったんだな。……天才ハッカーって、響きも良いし。でも、今のアスカが言うと、犯罪者臭い気がするのは気のせいだろうか?)

「……って、なによ!!その疑惑の目は!!」

 調子を取り戻して来たアスカは、シンジの疑惑の目を一蹴した。

「カイゼル髭の変態セクハラ所長(キョウコ談)とドイツ人・白人所員を対立させるのが目的よ。……所長も白人だから、裏切り者扱いでしょうね。更に、怪文書・怪メールで対立を煽りまくるわ」

 得意げにそう言いながら、ボソッと「今ならママは日本に居るから安全だし」と言うのは如何だろう?

「……そうなれば所長は何らかの釈明をするわ。その釈明にママの解雇を約束する文書を混ぜるの。更に、ドイツ研究所の依頼に偽装した上で、あたし達の家を引き払い家具を含む全てを日本に送りつけさせるわ。解雇を言い渡すメールと共にね。……本当はメールじゃなく辞令を偽装したいけど、そこまでやると流石にバレる可能性が高いから出来ないわ」

 そこまでやれば、キョウコの存在はドイツ研究所にとって内部分裂の火種になるだろう。普通に考えれば、キョウコを無理に呼び戻そうとしないはずだし、キョウコもドイツに戻りたいとは思わないだろう。ドイツ研究所には、かなりの計画遅延が予想されるが……。

「……容赦無いな。でも、それでアスカのお母さんの接触実験を確実に阻止出来るかな? それにそれって、弐号機以降の実戦配備が遅れるって事じゃ……」

 と、シンジが不安要素を口にすると、アスカが更に続けた。

「ママも日本に居れば、無理に実力を誇示する理由は無いから大丈夫よ。弐号機の製造については、ドイツの方で意地でも完成させるわ。エヴァ製造の重要工程の素体培養ノウハウは、既に箱根研究所が完成させてるから間に合わないと言う事は無いはずよ。後は装甲……拘束具のデザインを如何するかの違いだけよ。製造遅延によりドイツ研究所の顔がつぶれても、大勢に影響が出るとは思えないわ。実際に前のエヴァの武装も、第3使徒襲来後に慌てて用意したみたいだし。本部とドイツ支部の不仲は今更だしね」

 得意げに語るアスカに対して、シンジは落ち着いてアスカの意見を検討していた。

 シンジはLCLから弐号機の接触実験の真相を取得していた。キョウコは弐号機の接触実験を危険と断じ、実験自体の凍結・中止を申請していた。それを疎ましく思ったドイツ研究所上層部が、アスカを人質に取りキョウコを無理やり接触実験の実験体にしたのだ。結果的に、その反発心とキョウコの強い精神力が災いし“肉体は無事だったがココロが引き裂かれ、その大部分が取りこまれる”と言う、中途半端な事態を招く。だからキョウコとアスカに関しては、日本に来れば問題無いはずである。

(この話はアスカに黙っていた方が良いか。……暴走されても困るし。それより問題は、アスカのママの代わりに誰が人柱になるか?だな。こちらに関しては、諦めるしかないか……)

 零号機・初号機と弐号機以降は、素体の素が第2使徒リリスか第1使徒アダムかの違いがあるが、培養方法に違いは無い。また、弐号機の完成を諦めると言う選択肢は、ドイツ研究所……ゼーレにとって絶対にありえない話だ。ならばアスカが言う様に、多少遅れても絶対に完成させるだろう。影響が出るとすれば拘束具だが、時期を考えれば弐号機の拘束具のデザインにキョウコは関与していないだろう。弐号機の完成が遅れれば、参号機以降の拘束具にデータをフィードバックが出来なくなり、機体性能を劣化させる事が出来るかもしれない。特に量産型の性能ダウンは、最後の戦いを楽にしてくれるだろう。

(……それに、ドイツ研究所上層部に同情の余地は無い)

 結論が出たシンジは、口を開いた。

「ついでにドイツ研究所の所長には、全部終わった後にスキャンダルで退場してもらおう。そうすれば余計な捜査は避けられるはずだから」

 シンジはそう言いながら、アスカに目で“出来る?”と聞くと、アスカは戸惑う事無く頷いた。

「うん。これでアスカのお母さんの事は問題ないね」

 そう言いながらシンジは、アスカの方を見た。その目は真剣そのものだ。その目を見たアスカは、今までの話が前座にすぎない事を悟った。

「これでアスカは、日本でエヴァと関わらずに生きていけると思う。後の事は全て僕に任せてくれれば良いから」

「……えっ!?」

 実際にこの計画が成功すれば、キョウコはドイツ研究所を辞す事になっても、箱根研究所……後のネルフ本部に引き留められ勤める可能性が高い。そうなればアスカは箱根……後の第3東京市に住む事になり、使徒襲来時に第3新東京市立第壱中学校でシンジと再会する事になるだろう。

「……それって、あたしにだけ逃げろってこと?」

 シンジは「そうなるね」と、戸惑いも無く頷いた。

「あんたに全て押し付けて、あたしだけ逃げろって言うの?」

 再び頷くシンジ。

「……どうして……どうして、そう言う事言うの?」

「アスカは十分頑張ったじゃないか。……もうこれ以上傷つく事は無いよ。……いや、傷ついて欲しくない」

 シンジの言葉は、強い意志と決意に満ちていた。

「だから……」

「止めて!! 聞きたくない!!」

「アスカに15歳の誕生日を迎えさせてみせるから……」

「イヤ!! イヤ!! イヤ!! イヤ!! キキタクナイ!!」

「アスカはエヴァに……僕に関わらずに生きて欲しい」

 それはシンジの拒絶の言葉だった。ついにアスカは、病室を飛び出す。その頬には大粒の涙が流れていた。

 今アスカの前に立ちはだかっているのは、必死に見ない様にして居た事。……再びエヴァに乗るには“自らの母親を生贄にしなければならない”と言う、どうしようもない現実だった。そして当然、シンジがアスカを突き放したのにも理由ある。シンジは今後、依り代候補として生きて行かなければならない。そして依り代は、心が壊れている必要があるのだ。もしアスカとの関係が明るみに出れば、シンジの心を壊す道具としてアスカが使われる。シンジにとって、それは絶対に許容出来ない事だった。

「如何してこうなっちゃったのかな」

 一人病室に残されたシンジは、ベッドに体を放り出すように横になると呟いた。

「ケチの付け始めは、この世界に一緒に来たはずの母さんが居なくなってから……か」

 この再現された世界に来た時に、シンジのココロとキオクをこの世界のシンジと融合させたのは、赤い世界で再会したユイである。そしてその後ユイは、シンジの体の中で休眠状態になり、シンジが覚醒したらこの世界の自分の中に移動し、取り込まれた初号機の中でこの世界の自分と融合する。その後、魂を二つに割き(元々二つ分の魂だから可能な芸当)サルベージの成功を演出しながら帰還する予定だった。後は適当な理由を付けて、シンジをファースト・チルドレンとして登録し使徒を全て迎撃する。ユイはゲンドウ・冬月に協力をさせ、ゼーレの考えるサード・インパクトを防ぐ。

 これが、シンジとユイが書いたシナリオだった。最初にシンジは、綾波の存在を消し去るこのシナリオに難色を示した。しかし母親ユイが、自信たっぷりに「今度は私がレイを生むわ」と言い切ったので、最後にはシンジもこのシナリオに賛成したのだ。

 しかしそのシナリオも、覚醒したシンジの体内にユイの魂が居なかった事で頓挫する。

 そして何も出来ない内に、この世界のユイはエヴァへと取り込まれてしまった。

「変える為に、この世界を作ったのに……何も変えられてない」

 シンジにとって、この事実は毒以外の何物でもなかった。



 託児所にアスカを迎えに来たキョウコは、アスカの様子に愕然とした。朝はあれほど幸せそうだったアスカが、十時間足らずで廃人の様な有様なのだ。問い詰めても、朝までと同様に「何でもない」と繰り返すばかりで、託児所の所員を問い詰めても原因は分からずじまいだった。

 部屋に帰って来るとアスカは、早々に着替えてベッドの上でタオルケットを被り亀になってしまった。

「ほら!! アスカちゃんが前から欲しがっていた……」「イラナイ」

「アスカちゃんの大好きなハンバー……」「ショクヨクナイ」

「アスカちゃん。箱根って、温泉が……」「ネムイ(ボソッ)」

 …………

 ……

 キョウコはそんなアスカと会話しようと試みたが、取り付く島も無いとはこの事だ。全て一言で切って捨てられてしまった。困り果てたキョウコは、作戦を練るために寝室から一時撤退する事にした。寝室から出て大きくため息を吐くと、そのままキョウコは頭を抱えてしまった。頭の中では(如何しよう?)と言う思いが錯綜し、終いには日本に来た事を後悔し始めた。

 と、その時。寝室の中から、アスカの嗚咽が漏れて来た。その声の中に、「シンジ」という原因らしき少年の名前があった。その名前は、ドイツに居た時からアスカが時々口から漏らす名前だった。

(シンジ? 託児所にそんな名前の子いたかしら? ……いえ、ユイさんの息子の名前が確か)

 とにかく、その“シンジ”と言う人物の正体を突き止めなければならないと判断したキョウコは、該当する人物をパソコンで調べ始めた。

 先ず最初に調べたのが、同じ託児所に預けられた子供だ。しかしその中に、該当する子供は存在しなかった。いや、正確には一人該当者が存在したが、その子供は一月近く前から入院していて欠席していた。

(……この子じゃないか。あれ? この子)

 入院している子は、キョウコの親友であるユイの子供だったのだ。ちょっと調べてみると、託児所の近くの病院に入院しているようだ。

(どの道アスカとは面識がないはず。……この子は関係無いか)

 この場はそう結論付けると、調査範囲を所員や出入り業者……果ては、近隣に住む住人にまで広げた。しかし、該当者らしき人物は、ユイの子供のシンジ以外に居なかった。

(ユイさんの子供だとしても、アスカちゃんとの接点が無いのよね)

 そう考えながら、キョウコはパソコンの前で「う~ん」と唸り声を上げた。その時キョウコの目に付いたのは、アスカに買ってあげだPDAだった。アスカはPDAを肌身離さず持ち歩き、お風呂の時以外は絶対に放そうとしなかった。それが無雑作に居間に放り出してあったのだ。

(アスカちゃんには、それほどショックな事があったと言う事か)

 そう思い、キョウコは何気なくアスカのPDAを起動した。アスカの年なら“親に見られて困る様なデータは無いだろう”と思っての気軽な行動だった。

(あら? アスカちゃん、結構使いこなしてるのね。フリーソフトとか、結構ダウンロードしてるわ。大丈夫とは思うけど、残り容量はどうなっているのかしら?)

 そう思い使用状況をみると、容量はギリギリだった。

(あれ? 何処にこれだけの容量を使っているのかしら?)

 そう思って調べても、該当するような大容量のデータは発見出来なかった。それどころか、実際の使用容量が確認出来る使用量の倍を超えていたのだ。いよいよ心配になったキョウコは、自分のノートパソコンとPDAを連結して詳しく調べ始めた。

(!!隠しフォルダ!? ……しかもパスワードが設定してある)

 本格的に心配になったキョウコは、隠しフォルダの中身を見ようとするが強力なプロテクトが掛けられていて、東方の三賢者の一角であるキョウコでさえ中身を盗み見る事が出来なかった。

(どうなってるのよ!?……いや、ちょっと待ってよ)

 ふと引っかかる物があったキョウコは、パスワードに“Shinji”と打ち込んでみた。するとプロテクトが解除され、キョウコのノートパソコンに隠しフォルダの中身が表示された。

「アスカちゃん意外と単純ね♪ ……って、なっ 何よこれ!?」

 隠しフォルダから飛び出してきたデータは、“ママのドイツ研究所退職計画”・“ママ退職によるエヴァ弐号機開発遅延予想”・“ダミーGPS情報ソフト”等々、目を疑う様なタイトルが多数出て来たのだ。ためしに中身を開いてみると、ゲヒルンの機密情報が満載である。

「う ウソでしょ」

 そう思いながら隠しフォルダの中身を見ていくと、件のシンジが碇シンジである事を示す資料が出て来た。託児所から碇シンジの病室までの、人に見つからないルートをシュミレートするソフトだ。

(これで、アスカが言って居た“シンジ”は“碇シンジ”に間違いないか……)

 キョウコはアスカを問い詰めたい衝動を抑えて、アスカの隠しフォルダのデータを自分のノートパソコンにコピーすると、PDAとノートパソコンの電源を落とした。

(おそらく、あの状態のアスカを問い詰めても無駄ね。犯罪の臭いもするし、アスカがシンジ君をかばい碌な話を聞けない可能性が高いか……。有無を言わせずに、シンジ君と同時に話を聞くのが一番か……)

 キョウコはそう結論付けると、早速シンジに会いに行く計画を立て始めた。



 キョウコがシンジに会いに行くチャンスは、意外にも早くやって来た。泣き疲れて眠ってしまったアスカが、高熱を出してしまったのだ。キョウコはアスカの体調を口実に、ゲヒルンに午前休を電話で連絡しアスカを連れてシンジが入院している病院へ向かった。

「ママ。あたし大丈夫だから、病院へ行かなくても良いよ。お仕事行っても大丈夫だよ」

 アスカはしきりにそう訴えるが、いつも弱っている時は必要以上にキョウコにべったりのアスカである。更に言えば、病院もそれほど苦手と言う訳ではない。注射や薬など嫌な事もあるが、それを我慢すれば大好きなママが褒めてくれるからだ。

 病院で治療(注射)を受け薬を貰うと、キョウコはアスカをおぶったままシンジの病室へ向かった。

「何でそっちへ行くの?」

 キョウコが向かって居る場所に気付いたのか、アスカが不安そうな声を上げる。

「ママ。早く帰ろう。お仕事もあるし。……ねぇ。ママ」

 キョウコがシンジの病室がある階でエレベーターを降りると、明らかにアスカの顔がこわばった。

(何でママが、シンジの事を知ってるの? ……そうか!! PDAの中身を見られたんだ!!)

「ヤダ イキタクナイ カエロウ」

 原因に思い当たったアスカは、必死に引き返すようにキョウコに訴えるが、その願いは受け入れられる事無くシンジの病室の前に着いてしまった。

「カエロウ カエロウ ネェ……ママ。カエロウ」

 アスカは高熱で弱った体に鞭を打って訴えるが、キョウコはその願いを無視してシンジの病室に入室した。

「……誰ですか?」

 最初は知らない人間が入って来た事に、シンジは警戒をした。しかし直ぐにアスカが居る事に気付き、怪訝な顔を浮かべる。

「私は、惣流・キョウコ・ツェッペリン。分かっていると思うけど、アスカの母親よ」

 シンジは再びアスカに視線を向けると、すぐにキョウコに視線を戻した。

「碇シンジです。母がお世話になってます。……それと、アスカは大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。ただの風邪だから。治療もしっかりしたから、一晩休めば元気になるわ」

 シンジは「そうですか」と、ホッとした表情をし、キョウコに向かい合う。だがその目は、チラチラと心配そうにアスカを見ていた。一方のアスカは、シンジと視線を合わせない様にうつむいて黙りこんでしまった。

(……失恋ではないのかしら? ぱっと見、シンジ君もアスカにベタ惚れに見えるけど)

 とりあえずアスカを椅子に下ろして、キョウコは自分のノートパソコンを取り出しアスカの隠しフォルダのデータを表示してシンジの前に突き出した。

「これはどういう事か説明してくれる?」

「!!!?」

 ノートパソコンに表示されたデータを見たシンジは、思わず顔を引き攣らせアスカの方を見る。その視線を受けてアスカは、うつむいて縮こまった体を更に縮こまらせた。

(何をやって居るんだ僕は、アスカを責めても意味が無いじゃないか)

 シンジは自責の念を額を軽く叩く事で打ち払い、再びキョウコに視線を向ける。そしてシンジをまっすぐ見るキョウコの視線に(誤魔化しは通用しないし、正直に言う事で誠意を見せてべきだな。……だけど、信じてくれるかどうかは賭けになるか。それとアスカの事だな)と、頭の中で考えてから口を開いた。

「長い話になります。アスカが辛そうなので、僕のベッドに寝かせましょう」

 シンジは手早くベッドを明け、アスカを横にし自分のタオルケットをかけると、そのまま自分の椅子を部屋の隅に取りに行った。テキパキとしたその動きに、キョウコは手伝う機を逃しに立ちつくしてしまった。椅子を取って来ると、シンジはアスカの顔を覗き込む。

「アスカ。これから如何するかは、キョウコさんを含め三人で話し合って決めようね」

 アスカが小さく「うん」と返事をした。

「僕も昨日は配慮が足りなかったよ。本当に、ごめん」

「うん。気にしないで。シンジがあたしを思って言ってくれた事は分かってるから」

 シンジの一言で、アスカの顔に笑顔が戻った。

「ありがとう。……飲み物はリンゴジュースしか無いのですが、二人ともそれで良いですか?」

「うん」「あ はい」

 シンジはコップとペットボトルに入ったリンゴジュースを用意し始めた。ちなみにキョウコは、シンジのタオルケットに包まった自身の愛娘の表情は、全力で見なかった事にした。3歳児がする表情じゃ無かったし。と言うか、タオルケットに顔を埋めてにおいを嗅ぎ二へ二へ笑うのは止めて欲しい。

 そうこうして居る内に飲み物も用意され、長い時間話す準備がすっかり整った。

「とても信じられないような話なのですが……」

 ………………

 …………

 ……

 シンジは、己が知る全てをキョウコに伝えた。更にキョウコの質問に答えていると、かなりの時間が経ってしまった。一区切りした所で、キョウコが時間を確認すると、午後の出勤時間ギリギリになっていた。

「悪いんだけど。この続きは私の仕事が終わってからにしましょう。……アスカちゃんは、薬が効いて来たのか寝ちゃったわね」

「アスカはここで寝かせておきましょう。食事の方も、僕の方で用意しますので」

 シンジの正体を聞いたキョウコは、その申し出に甘える事にした。傍から見ると一般常識のかけらもない会話である。






 アスカが目覚めてからは、昨日の態度の負い目もあり逆らえず、シンジはアスカの可愛い我儘(はい、あ~ん等)に困らされることになる。仕事を終えたキョウコが見たのは、(羞恥心で)疲れてグッタリしているシンジと、物凄く上機嫌なアスカの姿だった。


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