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No.33928の一覧
[0] Einmal mehr ~もう一度~(新世紀エヴァンゲリオン・習作)チラ裏より[うにうに](2012/07/17 23:45)
[1] プロローグ アスカ[うにうに](2012/07/08 06:58)
[2] プロローグ シンジ[うにうに](2012/07/08 13:42)
[3] 第1話 もう一度出会いたい[うにうに](2012/07/08 14:55)
[4] 第2話 悲劇の選択[うにうに](2012/07/09 23:16)
[5] 第3話 迫る別れ[うにうに](2012/07/08 17:02)
[6] 第4話 再会の約束[うにうに](2012/07/09 23:35)
[7] 第5話 セカンド・チルドレン誕生[うにうに](2012/07/08 23:28)
[8] 第6話 ドイツへ[うにうに](2012/07/09 23:19)
[9] 第7話 一人じゃない[うにうに](2012/07/09 17:03)
[10] 第8話 電車を降りたら[うにうに](2012/07/09 18:26)
[11] 第9話 使徒襲来!?[うにうに](2012/10/26 16:51)
[12] 第10話 初心者兄妹の出会い[うにうに](2012/10/26 17:36)
[13] 第11話 初心者兄妹の始まり[うにうに](2014/03/12 20:30)
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[33928] 第10話 初心者兄妹の出会い
Name: うにうに◆b1370127 ID:71ba60e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/26 17:36
 使徒を殲滅し帰投したシンジが最初に行ったのは、ある意味先程の使徒戦よりもキツイ事だった。

(……久しぶりと言うのもあるけど、何度やっても慣れないや)

 心の中で愚痴りながら、肺の中に残ったLCLを口から吐き出す。肺を口より高い位置にしないといけない為、尻を上げ頭を低くするその姿はまるで土下座をしているようだ。神に懺悔しているようにも見える。

(血の臭いがキツイ)

 永い時間LCLに浸かっていた所為で鼻がバカになっているのだが、過去の経験から如何しても血の臭いを意識してしまう。

 LCLを全て吐き出して立ち上がったシンジは、エントリープラグから出ると大きく深呼吸をする。そのままにしているとLCLが乾いてしまうので、近くに居た作業員にシャワー室の場所を聞くと駆け込む。そしてシンジと入れ違いになる形で、ミサトとリツコがケージに飛び込んで来た。

「シンジ君は?」

「シャワー室です」

 ミサトの質問に、シンジにシャワー室の場所を教えた作業員が答える。それを聞いたリツコが、悔しげに舌打ちした。エヴァンゲリオンに関しては、リツコでさえも“分からない事の方が多い”と言わざるを得ない代物なのだ。シンジの口から飛び出した“エヴァに関連する知識”から、リツコもユイ生存の信憑性を認め始めていた。そしてシンジから“自分の知らない情報”を、引き出せるかもと期待してしまったのだ。そうでなくとも“先程の使徒をどうやって倒したのか?”等、聞きたい事は山ほどある。

「仕方が無いわね」

 リツコはそう呟くと、部下達に初号機のチェックを指示し始めた。はやる気持ちはあるが、シンジが居なくなる訳ではない。そう自分に言い聞かせ、今は出来る事をする事にしたようだ。

 一方でミサトは、預かっていたシンジの私物や着替えを持って来たのだが、シャワー室まで突入するのは如何かと思い躊躇する。普段のミサトならその位の事は気にしないのだが、シンジに持ってしまった苦手意識が原因だろう。

(どの道着替えを渡さなきゃ、シンジ君は出て来れないじゃない)

 そう思ったミサトだったが、結局近くに居た作業員(男性)に着替えだけ持って行くように頼み、シャワー室の前でシンジが出て来るのを待つ事にした。結果的にそうしたのは正解と言える。もしそのまま突入していたら、LCLで濡れた服と悪戦苦闘するシンジ(半裸)と遭遇し、その関係が更に気まずい事になっていたからだ。

 本来のミサトの立場なら、この程度の些事(着替えを届ける)にたずさわる必要はない。むしろ今頃戦闘の後始末に追われているはずである。苦手意識を持ってしまった相手に、進んで世話を焼くような性格でも無い。なのに何故ミサトはここに居るのだろうか?

 その答えを一言で言えば“アスカという実績があるから”である。

 結果だけ言わせてもらえば、ミサトは気難しいセカンド・チルドレンに同居(監視・監督)を了承させ、ドイツ行きで不安定になっていた彼女の精神を安定させた……事になっている。実は前の世界でも(アスカの精神を安定させたと言う意味で)、ドイツで似た様な評価を受けていた。これはミサトの人徳と言って良かったが、前回と比べその評価は比べ物にならない位に高くなっている。その実績を評価したゲンドウが、サード・チルドレンの監視・監督も任せるのは、ある意味で当然の流れと言って良かった。(その所為で、ミサトの今の階級は三佐だったりする)

 そして監視・監督をするには、ある程度相手とのコミュニケーションを取り信頼を得るのも必要……と言う訳である。

 残念ながらミサトの実績は、アスカ側に一方的に面識があったから話がトントン拍子で進んだだけで、在りもしない実績を評価され難しい仕事を回されたミサトは実に不幸と言える。そのあおりを食らい、残業が増える日向の不幸はミサトの比ではないが……。

 そう言う訳でシャワー室の前でシンジを待って居たミサトだが、シンジはなかなか出てこなかった。あまりに遅いので心配になり、外から声をかけても反応が無い。そしてミサトが、シャワー室への突入を考え始めたろ頃にようやくシンジは出て来た。その恰好は、ネルフ付属の病院着だ。

「はい。シンジ君。預かっていた物を返すわね。時間がかかったみたいだけど……」

「すみません」

「あっ。攻めてる訳じゃあないのよ。心配になって何度か外から声をかけただけだから」

「すみません。気付きませんでした」

 ミサトは純粋に心配して言っているだけなのだが、シンジは謝るばかりである。

「何かあったの?」

 本格的に心配になったミサトが、もう一度聞くとシンジは言いにくそうに口を開いた。

「……血の臭いが、落ちない気がして」

「ッ!? ごめんなさい」

 辛そうにうつむき両手を見るシンジは、先のふてぶてしい印象とは打って変わって実に弱々しい物だった。シンジの落ち着きぶりから、彼がまだ“14歳の少年”である事を、ミサトは失念していたのだ。シンジの精神年齢を考えれば、ある意味仕方が無い事なのだが、ミサトの自己嫌悪は計り知れない。そうで無くともシンジに関わるのは、監視・監督をすると言う(ミサトにとっては)後ろめたい理由なのだ。

「ミサトさんが謝る事なんて無いですよ。それより、早く父に会って済ませてしまいたい事があるのですが……」

「それは大丈夫よ。指令は直ぐに会ってくれるそうよ。ついて来て」

「はい」

「……何処へ行くの」

 シンジは素直にミサトの後ろに続いたが、リツコに呼び止められてしまう。

「指令の所よ。シンジ君が早く済ませてしまいたい事があるんですって」

「なら、あたしも行くわ。ちょっと待ってて」

 リツコはそう言うと「……後はマニュアル通りにお願い。先にあたしから指令に報告しておくから、報告書の作成はお願いね」と指示を出す。そして部下と2~3何かを確認すると、ミサトとシンジの所に戻って来た。

「お待たせ。さぁ、行きましょう」

 笑顔で言うリツコの目は、確実にシンジをロックオンしていた。その目が身に覚えがあったモノだったので、シンジの顔が引きつるのも仕方が無いだろう。

(これは放っておくと、根掘り葉掘り聞かれる。……いや、問い詰められる)

 キョウコと語り尽くした悪夢再びである。そしてシンジも何時ボロが出るか分からない状況で、色々と聞かれたくなかった。だからあらかじめ釘を刺しておこうと思うのも仕方が無いだろう。

「シンジ君にちょっと聞きた……」

「エヴァに関する事は、僕では良く分からないので母に直接聞いてください」

 そう突き放すと、リツコの表情が何とも言えない複雑な物になる。恋敵であり嫌いな人間でもあるが、一科学者としては尊敬しているからだろう。

「会えるの?」

「父の真意次第ですね。場合によっては、母さんもここに来てネルフに協力する事になると思いますから」

 シンジがそう言うと、リツコは下を向いて黙ってしまった。(これならもう問い詰められる事もないだろう)と判断したシンジは、ミサトに移動を促した。



 ミサト、リツコ、シンジの順に並び、ゲンドウが待つ指令室へ向かって歩いている。時々ミサトが振り向き、シンジがちゃんと付いて来ているか確認しているが、その表情は暗いとしか言いようが無かった。

(リツコ。お願いだから何か喋ってよ~)

 ミサトがリツコと一緒にケージに来たのは、シンジと2人では間が持たないと判断したからだ。そして上手く行けば、リツコを交えた会話から“シンジと信頼関係を作る取っ掛かりがつかめるかも”と言う、淡い期待もあった。だがリツコはミサトの期待を裏切り、下を向いて黙りこんでしまう。機械音しか聞こえないこの状況は、ミサトにとって苦行以外の何物でもなかった。

 移動していれば、いつかは目的地に到着する物である。幾つかの角を曲がると、ようやく指令室のドアが見えて来た。

(やっと着いた~)

 目的の場所に到着したが、ミサトは泣きたい気分になっていた。自分の職務上、シンジと仲良くなるのは必須と言える。その取っ掛かりが全く見えないのだから、当然と言えば当然である。そんな考えを振り払い、インターフォンを取る。

「指令。サード・チルドレンを連れて来ました」

「入れ」

 返事が来ると同時に、プシュッと音を立ててドアがスライドする。

「シンジ君。お父さんが中で待っているわ」

「はい。失礼します」

 返事をすると、シンジは指令室へ入る。指令室には、指を組み口元を隠すいつものスタイルで座るゲンドウが居た。薄暗くサングラスもかけているので、その表情を読み取る事は困難を極める。それに加え、ネルフと言う巨大組織のトップと言うだけあって、かなりの威圧感を放っていた。大抵の人間は、この場に居るだけで及び腰になり、まともに交渉等出来ないだろう。

 この光景を、冬月がゲンドウの斜め後ろで(大人げない)等と思っている。続いて入室して来たミサトとリツコも、同じ感想を抱いただろう。そこに親子として、関係を修復しようと言う意思は一片もない。しかし組織として見ると、否定しきれない部分もあるのだ。

 ゲンドウは未だ方針を変更しておらず、シンジを息子としてではなく部下……コマとして扱う心算でいる。そこはダメと言わざるを得ないが、公私の分別を付けるのは当たり前だろう。そして先のシンジの態度から、扱いやすいとはとても言えない。上司が部下に舐められていては、組織が立ち行かなくなってしまうからだ。

 しかしシンジは、そんなもの関係ないと言わんばかりに前に出て、ミサトから返してもらったカバンから封筒を取り出す。

「母さんから預かって来た、離婚届と親権放棄同意書です」

 シンジがデスクの上に封筒を置くと、ゲンドウは組んだ指をほどき封筒を取ると中身を取り出す。そして中身の書類を確認すると。

「……ユイの字だ」

 ゲンドウがそう口から洩らすと、冬月が思わずと言った体で書類を後ろから覗き込む。

「拇印の他にも母さんが書類を作ったので、そこらじゅうに母さんの指紋が付いているはずですよ」

 シンジが皮肉をこめて言うと、ゲンドウの眉間に皺が寄った。

「シンジ。ユイは……」

「母さんはエヴァの外に出ています。あなたが本当に無実と言うなら、母さんと会う機会もあるでしょう」

 シンジがそう言うと、ゲンドウは書類を置き額に手を当て溜息を吐く。そして手をデスクの上に置くと……。

「私は無実だ。疑うにしても、離婚届は確認が取れてからで良いだろう」

 ゲンドウは“今はシンジの言葉を信じた事にして話をする”と、決めた様だ。ぶっきら棒にそう言い放つが、シンジは首を横に振る。

「何故だ? 私がユイを誰かに渡すなどありえない」

 ゲンドウの語気が若干強まった。だが次のシンジの言葉で、黙らされる事になる。

「離婚届はそれとは別件です。一応、母さんからの伝言ですが……『私とやり直すにしても、新しい恋人と生きて行くにしても、ちゃんとケジメは付けましょう』だそうです」

 ゲンドウが絶句して固まる。周りの反応も似た様な物だ。それを無視してシンジは続ける。

「母さんは相手の事を知っているみたいですが、僕も詳しい話は聞けませんでした。……怖かったので」

 この話題が出た時のユイを思い出し、背筋が寒くなったが、それを振り切る様にシンジは続ける。

「たとえ貴方が無実だとしても、ケジメを付けると言う意味で僕もこの離婚に賛成です。そしてエヴァに乗る条件として提示したので、この約束が履行されなければ、エヴァに乗る交渉は今後一切受け付けません。例え人類を救う為であったとしても、約束を破る人とは交渉の余地はありませんから」

 シンジはそこまで言うと、最後に「まあ、これはそれ以前の問題ですが」と、止めに付け加えた。

 ここまで言われたら、ゲンドウに反論の余地は無い。

「……分かった」

 ゲンドウが同意すると、シンジは小さく頷いた。

「それから、今後もエヴァに乗るとしたら、僕もこの町に住む事になんですよね」

「ああ」

「なら、この場で住む場所の要望……と言うか、条件を言わせてもらいます」

「言ってみろ」

 ゲンドウが促すと、シンジは頷き条件を言い始めた。

「当然身の危険が付きまとうので、セキュリティーが高い物件である事です。それから貴方達が本当に無実なら、母さんもここに来て一緒に住む事になります。そして一緒に住むのは、母さん一人だけじゃないんですよ」

「ど 如何言う事だ?」「如何言う事な んだね」

 ゲンドウだけでなく冬月も、我慢出来ずに口を開いた。

「それはあなた達には関係ないでしょう。人数は最大で8人まで想定しておいてください」

 この8人と言うのは、シンジ、ユイ、レイ、アスカ、アスナ、マリ、キョウコ、サクヤの8人だ。……この中でサクヤだけが、如何なるか分からない。彼女は最近体調を崩し、入院しているからだ。おそらくもう永くは無いだろう。むしろここまで持ったのが驚異的と言える。アスカがアメリカ行きを嫌がった本当の理由は、彼女だったりする。海上での使徒戦を控えている以上、弐号機の受け取りの為にアスカの出向は当然と受け入れていたのだが、体調がおもわしくないサクヤが心配だったのだ。シンジへのメールには書かれていなかったが、その端々にサクヤを心配する様な所が見られた。

 それは置いておくとして、この言葉を信じるならゲンドウは要望通りの部屋を用意するしかない。その程度の条件等ネルフにとって無いに等しいし、この条件を無視してシンジを一人部屋に放り込めば、ユイがゲンドウを有罪無罪を判定する時に悪影響が出かねない。ゲンドウが“どうせ調べられれば、証拠などいくらでも出て来る。ならば条件通りの部屋を用意するのは無駄だ”と、判断したと取られかねないからだ。

 ユイのエヴァ脱出が真実味を帯びてきた以上、ここはポーズでも条件を飲まなければならない。

「分かった。なるべく早く用意さる」

 チルドレンの住居には、色々と条件が必要になって来る。セキュリティー面も重要になって来るが、護衛のしやすさや、場合によっては狙撃も注意しなければならない。その条件が満たされた物件は、現状で手配できる部屋は2~3人住むのでやっとの物ばかりだ。8人もの大人数となると、これから用意しなければならなくなる。流石に“直ぐに”とは言えないだろう。シンジもそれは承知しているので頷いた。

「それほど急がなくても大丈夫ですが、時間がかかる様なら仮部屋は2LDK以上の物をお願いします」

 一人暮らしをするなら1LDKもあれば十分だ。それなのにシンジが2LDKをお願いしたと言う事は、近い内に8人の中の1人が第三東京市に来てシンジと一緒に住むと言う事だ。それに気付いたゲンドウが、誰が来るのか気になるのは当然だろう。そして思考が“もしユイなら……”と行きつくのは当然の流れと言える。

「僕のですよ」

 しかしその思考をシンジは打ち砕いた。

「い いもう と ……だと」

 ここで言う妹とは、綾波レイの事だったりする。

「流石に放っておけないので、一緒に住むのは問題無いですよね」

「……ああ」

「許可は貰えますよね?」

「ああ」

 呆然としているゲンドウに、念を押し言質を取っておく。

「シンジ君。妹とは如何言う事かね?」

 ここで冬月が割っては居て来たので、ミスリードを誘発する様な事を言っておく。

「妹なのだから、妹としか言いようが無いのですが。それにそれが何を意味するのか、指令なら分かるのではないですか?」

 こう言われて普通に考えると、如何言う事を想像するだろう? 当然“シンジの妹=ユイの次の子供”と考えるだろう。そしてユイは、エヴァ脱出直後に監禁されている。そしてゲンドウ自身が、リツコを取り込むために何をしたのか……。

「ま まさか……」「……バカな」

 ゲンドウが思わず立ち上がるが、それ以上は何も出来ずに止まってしまった。そこにあるのは……混乱、焦燥、絶望と言ったたぐいの物だ。それは表情や手の振るえからも感じ取る事が出きる。冬月も察する事は出来たのだろう。ゲンドウ程ではないが、似た様な反応をしている。

 シンジの言葉の真偽を疑っている段階ならば、ここまでの反応を見せる事は無い。既に信憑性の高さは認めて……いや、半ば真実だと確信していたと言っても良いだろう。シンジを陰から操っている者が居るとしたら、その情報量と組織力から考えてゼーレ以外の可能性は皆無だ。にも拘らずシンジが取った行動は、ゲンドウとゼーレを敵対させるような節がある。ゼーレが資金を出し、ゲンドウがサード・インパクトの為の技術力を提供する。この協力関係は未だ続いているが、継続を望んでいるのはゼーレの方だ。協力関係の解消は、確かにゲンドウにとっても痛手だが他の資金提供者を探せば済むのだから。

 シンジはチラッとリツコの顔を確認したが、その表情は複雑な心境がありありと浮かびあがっていた。一方ミサトの方は、リツコと似たような表情をしているが、こちらは嫌悪感の方が強く出ている。

 これでこの場で話すべき事は終わりだ。そう考えたシンジは、退出する事にした。

「……では、僕はこれで失礼します」

 シンジがそう言って指令室を出て行くと、慌ててミサトが後を追う。指令室に残された者達は、痛い沈黙に支配された。

 それを最初に破ったのは、ゲンドウだった。

「この書類の指紋を調べてくれ」

 封筒をリツコの方へ差し出す。

「分かりました」

 ゲンドウはあり得ないと思いつつも、この書類や封筒に付着している指紋が、ユイの物と一致しない事を願わずにはいられなかった。



 シンジが来た道を逆にたどる事で、出入り口を目指していた。地上と同様に以前と道が変わっていて、迷ってしまうと判断したからだ。

(本当にあれで良かったのかな?)

 歩きながらそんな事を考えてしまう。今のところ上手く行っているのだが、それが返ってシンジを思い悩ませる結果となっていた。本来ならそこに良心を挟む余地は無いのだが、シンジの性格ではそれも仕方が無いのだろう。そんなシンジを、ユイがトクンっと鼓動を打ち内側から慰める。

「シンジ君。待って」

 そこにミサトが追いついて来た。ネルフ本部は現代のTV局同様に、対テロ対策でわざと複雑な造りをしている。慣れない人間が歩けば、迷って当たり前なのだ。そんな所を、子供シンジ一人で歩かせる訳には行かない。

「何ですか?」

「ここは複雑な造りをしているし、まだ正式にネルフに所属していないシンジ君を一人で歩かせる訳には行かないの」

「そうですか」

「そうなのよん」

 冗談っぽく軽く答えたミサトだったが、内心では“如何しよう?”と言う言葉でいっぱいだった。先程の様な気不味い雰囲気を避けるために、必死に話題を探すが都合良く出て来るはずもない。そんなミサトを救ったのは意外にもシンジだった。

「そう言えば、出撃前に会った怪我した女の子。あの子がファースト・チルドレンなんですよね」

「あ え ええ。その通りよ。綾波レイと言って、シンジ君と同い年ね」

「同じエヴァを動かせる者として、差し支えなければ彼女と会って話をしたいのですが」

「あら? シンジ君はレイが気になるの? レイは綺麗だからねぇ。シンジ君も男の子ね」

「そんなんじゃないですよ」

 苦笑いしながらシンジが答える。最初は驚いたミサトだったが、話し始めるといつもの調子を取り戻し始めた。

「まあ、本来ならリツコの簡単な診断を受けてもらいたいのだけど……。今はリツコも手が放せないでしょうし、その前にレイと会ってしまうのも良いかもしれないわね」

「診断ですか?」

「念の為と言う奴よ。それとその診断結果によって、プラグ内の環境を微調整するって聞いたわ。少しでもパイロットの負担を減らす為にね。まあ、最適な調整をするには、何度も検査と調整を繰り返さなきゃいけないんだけどね」

 ミサトの口からスラスラと説明が出て来る。前回のミサトからは考えられない事だが、これもアスカの教育の賜物と言えるだろう。

「リツコさんも忙しいみたいですし、そんな時間あるのですか?」

「今レイが居る所はネルフ付属の病院なのよ。シンジ君の診断もそこでやるから、リツコの準備が出来るまでにちょちょいとね。準備が出来次第、連絡するように言っておけば問題ないわ」

 そう言うとミサトは、携帯を取り出しリツコに連絡を入れてから歩き始めた。



 シンジとミサトはレイの病室の前に来ていた。ミサトはシンジが“14歳の少年”である事を再認識した上に、レイの話題を取っ掛かりにする事が出来たので、何時もの調子を取り戻していた。

「ここがレイの病室よん。可愛いからって、手を出しちゃダメよ」

「出しませんよ」

 何時もの調子に戻ったミサトに巻き込まれ、シンジは前回の様なやり取りをするようになっていた。シンジは必要以上に仲良くならないようにと心がけていたが、ミサトが発するからかう様な言葉が、その警戒をすり抜けて来るので途中でバカらしくなってしまったのだ。この辺はミサトの人徳と言えるだろう。

「レイ。入るわよ」

 シンジはミサトに続き病室に入って行く。

(眠っているのかな?)

 シンジはベッドに横になっているレイを見てそう思ったが、レイの目は直ぐに開きミサトの方へ動いた。

「辛いでしょうからそのままで良いわ。今日は私達の仲間になってくれる子を紹介しに来たの」

「そう」

 ミサトの説明に簡素な言葉を返すレイだったが、ここでシンジがミサトに突っ込みを入れる。

「……ミサトさん。“予定”と言う言葉は抜けています」

「細かい事は良いじゃない」

 何時までもそんなやり取りをしていると時間が無くなってしまうので、シンジはミサトの前に出て自分の顔が見やすい様にベッドの上に上体を傾ける。

「始めまして。と言うのは、出撃前にも会っているからちょっと変かな? サード・チルドレンになる“予定”の碇シンジです」

「知ってるわ。指令の息子でしょう」

 レイの赤い瞳が、シンジを真っ直ぐに見つめる。前回のシンジは、そこに感情を見出す事は出来なかった。しかし今のシンジは違う。その視線の中に、嫉妬等の暗い感情があるのに気付き微笑んでしまった。

(綾波。やっぱり君は人形なんかじゃないよ)

「何を笑っているの?」

「いや、何となく……ね」

「そう」

 シンジは、つい笑みをこぼしてしまった事を反省する。

「とりあえず交渉の方が上手く行けば、僕も同じチルドレンとして登録されるから。その時はよろしくね。綾波レイさん」

 シンジが今言うべき事を言い終わりレイの反応を待ったが、レイはただシンジを見つめ返すだけでこれと言った反応を見せなかった。

(分かってはいたけど、これは手ごわいな)

 シンジが浮かべていた笑みが、苦笑いへと変化してしまったのは仕方が無いだろう。そしてシンジは“今はこれ以上踏み込むべきでない”と判断し、上体を起こすとミサトの方へ向き直った。

「とりあえず挨拶も済みましたし、今日これぐらいにしておきます」

「そうね。レイも疲れているでしょうしこれ位にしておきましょう」

 ミサトが同意すると、シンジは病室から出て行く。そして病室から出る際に……。

「それじゃあ、綾波。また明日」

 と、レイに声をかけた。返事はやはり帰って来なかった。廊下に出ると、ミサトがやけにニヤニヤしている。彼女の事をよく知る人間なら、考えている事等一目瞭然だろう。まあ、この場にアスカが居れば(ミサト、シンジ共に)制裁確定だが……。

「シンちゃんはレイ見たいのが好みなんだ~」

 からかう様にミサトが口にしたが、これに関してはシンジにも非はあるだろう。シンジとレイの関係を知らずに、先程のやり取りを見ていればそう思うのも無理は無い。

「それはありませんよ。一応彼女いますし……」

「まぁ。シンちゃん二股!!

 アスカが聞いたら大惨事になる様な事を、気軽に口にしないでもらいたい物である。ミサトとシンジが殴られるのは当然として、一緒に住んでいる頃なら最低一週間は財布没収の上にビール禁止だろう。シンジはこの場にアスカがいない事を、心から感謝したい気分だった。

 ……ちなみにシンジも、一応を付けた所為で2~3発追加で殴られるのは間違い無いだろう。

 結局その日は、リツコに診断が終わりホテルに送ってもらうまで、ミサトにからかわれ続けるはめになった。ミサトよ……お前はどこぞのおばちゃんか?

(疲れた。……これでアスカの事がばれたらどうなるんだろう)

 予想される暗い未来に、泣きたい気分でホテルのベッドに沈むシンジの姿があった。






 次の日の早朝。リツコは指令室に報告に来ていた。その場にはゲンドウだけでなく冬月もいる。

「指紋の検査結果が出ました」

 そう口にしたリツコに対して、ゲンドウは何も口に出来なかった。

「……結果は如何だったのかね」

 そんなゲンドウに代わり、冬月が先を促すように口を開く。

「検出された指紋は、碇ユイの物と一致しました。また、封筒や書類の指紋の数・付き方・分布状況から、マギは碇ユイが作業した確率が非常に高いと回答しています」

「なんて事だ」

 ゲンドウのすぐ後ろで、冬月が片手で額をあてた。

「……そうか」

 ゲンドウは冬月に少し遅れて、そう呟くと頭を抱えてしまった。


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