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No.33928の一覧
[0] Einmal mehr ~もう一度~(新世紀エヴァンゲリオン・習作)チラ裏より[うにうに](2012/07/17 23:45)
[1] プロローグ アスカ[うにうに](2012/07/08 06:58)
[2] プロローグ シンジ[うにうに](2012/07/08 13:42)
[3] 第1話 もう一度出会いたい[うにうに](2012/07/08 14:55)
[4] 第2話 悲劇の選択[うにうに](2012/07/09 23:16)
[5] 第3話 迫る別れ[うにうに](2012/07/08 17:02)
[6] 第4話 再会の約束[うにうに](2012/07/09 23:35)
[7] 第5話 セカンド・チルドレン誕生[うにうに](2012/07/08 23:28)
[8] 第6話 ドイツへ[うにうに](2012/07/09 23:19)
[9] 第7話 一人じゃない[うにうに](2012/07/09 17:03)
[10] 第8話 電車を降りたら[うにうに](2012/07/09 18:26)
[11] 第9話 使徒襲来!?[うにうに](2012/10/26 16:51)
[12] 第10話 初心者兄妹の出会い[うにうに](2012/10/26 17:36)
[13] 第11話 初心者兄妹の始まり[うにうに](2014/03/12 20:30)
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[33928] 第9話 使徒襲来!?
Name: うにうに◆b1370127 ID:71ba60e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/26 16:51
 駅を出発したシンジは、前回の記憶を頼りにゲートに向かって歩いていた。ゲート内に在るモノレールに乗れば、セントラルドグマ手前まで一気に行けるからである。

「……まいったな」

 少し困った様にシンジは呟いた。それも仕方が無いだろう。ネルフ本部へ割り振られた予算が増えた事により、地上の地理が以前と違ってしまっているのだ。構造上の問題からゲートの場所が変わら無かったが、たどり着けるのか不安だろう。

 建物や施設が当てにならないので、山の地形から現在地を何度も確認する。ゲートに到着する前に12時30分を過ぎ、非常事態宣言が出てしまったのも痛い。その所為で、道を聞ける人が居なくなってしまったのだ。

(アスカからゲートの位置は変わって無いと聞いていたから油断した。こんな事なら、待ち合わせの駅で待った方が良かったかな?)

 そんな事を考え始めた所で、ようやく目的のゲートを見つける事が出来た。

「……良かった」

 シンジはそう呟くと、ゲート前に移動しセキュリティーカードをスリットに通す。ロックはあっさりと外れ、シンジは中に入る事が出来た。

 モノレール乗り場には、数人のネルフ職員が居た。

「次のモノレールでラストだぞ」

「何とか間に合った。乗り遅れたらシェルター行きだったな」

「ああ。夜勤+残業明けで、ベッドに入ってと思ったら非常招集だからな。下手したら乗り遅れてた」

「もしそうなったら、何のためにネルフに入ったか分からいぞ」

 表面上は笑っているが、目は笑っていなかった。これから人類の命運をかけた戦いが始まると、自覚しているからだろう。

「あ あの。すみません」

 シンジが話しかけると、職員達の目が不審者を見る物へと変わる。当然と言えば当然の反応だ。

「ここはネルフ関係者しか入れないはずだけど」

「僕は碇シンジって言います」

「……碇?」

「父に……。碇ゲンドウに呼ばれて来たんですけど、非常事態宣言が出て連絡がつかなくなってしまって。何とか自力でここまで来たんですが……」

 シンジはそう言いながら、ゲンドウから来た“来い”とだけ書かれた手紙と仮のセキュリティーカードを提示した。それを見た職員は、手紙の内容にドン引きしている。ちなみにミサトからの手紙は、集合場所と時間の関係上この場に居るのが不自然なので出せない。

「何とか父に連絡はとれませんか? 駄目なら、葛城ミサトさんと言う人でも良いです」

 シンジがそう言うと、(手紙を見なかった事にした)職員達は「碇ゲンドウって指令の事で間違いないよな?」とか「葛城ミサトと言えば、戦術作戦部の?」等と口にし困った様な仕草をした。当然だろう。今のシンジは怪しいと言えば怪しいが、子供であるし何より2人に連絡を取りたいと言ったのだ。親なら実子の声が分からないと言う事は無いだろうし、最悪監視カメラで顔は確認出来る。それに不当に忍び込んだなら、連絡と言う言葉は絶対に出て来ない。……つまり目の前の子供は指令の実子であり、仮とは言えセキュリティーカードは本物と言う事になる。

「……如何する?」

「いや、如何すると言われても……」

 本来なら、この場でゲンドウかミサトに連絡をするのが筋なのだろうが、非常事態宣言の影響で連絡方法が本部に移動し内線電話をするしか無い。しかし、この非常時に子供を本部に連れて行くと言うのも憚れる。そして彼等が迷っている間に、モノレールが来てしまった。

「シンジ君。悪いのだけど、すぐに近くのシェルターに……」

 職員の一人が、シンジを近くのシェルターに行かせようとする。ある意味当然の判断なのだろうが、それを止めたのは意外にも同じ職員だった。

「いや、シンジ君は一緒にモノレールに乗ってくれ。これに乗ればお父さんの所へ行ける」

 少し離れた位置に居た年配の職員が、突然割り込んで来たのだ。

「い いえ、しかし……」

「早く乗らないと、乗り遅れてしまうよ」

 その言葉を受け、全員がモノレールに乗り込む。シンジにシェルターへ行くよう言っていた職員が、年配の職員に小声で話しかける。

「良いんですか?」

「……あの子は、3人目かもしれん」

 そう呟いた年配の職員の声には、苦々しい自責の念がにじみ出て居た。それを聞いた職員達は、下を向いて黙るしかない。

 弐号機とそのパイロットの件から、エヴァに取り込まれた者の子供がチルドレンになると言う噂は在った。そしてシンジの母親である碇ユイが、エヴァに取り込まれたと言う話を知っていれば、シンジが新しいチルドレンかもしれないと言う疑念を持つのは当然だろう。

 そしてこの状況は、シンジにとって都合が良かった。あのままシェルターに行かされそうな場合は、シンジの方からセントラルドグマに連れて行かざるを得ない状況を、作り出さなければならなかったからだ。今の状況を考えれば、余計な疑念を持たれるような行動は避けたい。

 モノレールは順調に進み、セントラルドグマの入り口に到着する。年配の職員がゲート備え付けの電話を取ると、番号をプッシュした。そして電話口で少し話すと、受話器をシンジの前に差し出す。

「もしもし」

 シンジが受話器を受け取り、声をかけると……

「もしもし。私はネルフ本部戦術作戦部作戦局第一課の葛城ミサトよ。碇シンジ君で間違いないわね?」

「はい」

 返事をしながら、シンジは近くにある監視カメラの方を見た。これで顔は確認出来ただろう。ついでに電話をかけてくれた職員に、軽く頭を下げておく。年配の職員は、気にするなとジェスチャーを返してくれた。

「待ち合わせ場所と時間が違うみたいだけど……」

「すみません。早く父に会って済ませてしまいたい事があったので、気持がはやってしまいました。ご迷惑でしたか?」

 シンジがそう言うと、ミサトも強くは言えなかった。今の状況を考えると、ミサトは待ち合わせ場所に間に合わなかったからだ。不審は不審だが、シンジの行動はありがたいと言っても良い位である。

「気にしなくても良いわ。それより、ごめんなさい。今ちょっと立て込んじゃってて。……手が空き次第迎えに行くから、ちょっちそこで待っててね」

「分かりました」

 シンジは電話を切ると、既に職員達は居なくなっていた。周りを確認すると、近くにベンチがあったので腰掛ける。そして目を閉じると手を胸に当てた。

(母さん。とうとう始まるよ)

 シンジがそう念じると、心臓以外の何かが返事をするようにトクンと鼓動する。いや、したように感じた。それはシンジの中に居る者の肯定のサインだ。アスカの中に居てシンジの中へと移ったモノの正体は、シンジの母である碇ユイの魂だった。

「ふぅ~」

 シンジは大きく息をくと、途中のコンビニで買ったおにぎりとお茶を取り出し食べ始める。シンジの頭の中には、これから上手くやれるかと言う不安でいっぱいだった。

(使徒との戦いも不安だけど、父さんと母さんの関係を一度清算しなきゃいけないからな。打ち合わせ通り上手く演技が出来れば良いけど。父さんとリツコさんの関係が無ければ、ここまでこじれる様な事は無かったのに……)

 シンジの不安(と言うか愚痴?)が伝わったのだろう。シンジの中に居るユイが、励ます様に鼓動を打った。

(分かってるよ。母さん。……父さんと母さんがやり直すのかは分からないけど、一度けじめをつけなきゃならないのは分かってる)

 ユイに語りかけると言うよりは、自分に言い聞かせる様な雰囲気だった。



 シンジが食事を終えて20分と少し経った頃に、ようやくミサトが迎えに来た。

「シンジ君。お待たせ。私が……」

 そこでミサトの口は止まってしまった。

(この子は、アスカと……)

 シンジと目が合った瞬間に、アスカと初めて会った時の光景がフラッシュバックした。アスカもそうだったが、シンジも複雑な感情を隠しきる事が出来なかったのだ。

「あっ 葛城さん。ですよね? 直接会うのは初めてですね。碇シンジです」

「え ええ。そうね。私が葛城ミサトよ。ミサトで良いわ」

 何とかそう口にしたミサトだったが、動揺は完全に治まってはいなかった。事前に資料を見た限り、性格は全然違うはずなのに……何処か加持を連想させる少年だった。加持はミサトにとって、ある意味最も苦手な人物とも言える。接し辛いと思うのは仕方が無いだろう。そこに最も頭が上がらない人物アスカにまで似てるとなれば、動揺の一つもして当たり前だ。いっそ天敵認定してしまいたい位である。

「父とはもう会えるのですか?」

「ええ。案内するわ」

 今回のミサトは迷う事無く、ボート乗り場に到着する事が出来た。アスカの護衛として何度も本部に顔を出していたのが原因だろう。むしろ今回ミサトが苦心しているのは、シンジとの会話の方だった。ゲンドウからの“来い”とだけ書かれた手紙から、父親の事について少し話し気まずさは多少マシになったが、それ以上の話題が無く会話が途切れてしまった。

 一方でシンジの方も、ミサトとコミュニケーションを取るのは避ける様にしていた。アスカからミサトが加持と上手く行っていると、連絡を貰っていたからだ。また同居する事になれば、加持とミサトの交友を邪魔する事になってしまう。それはアスカも同意見で、お互いミサトの家には住まないと事前に約束をしていた。シンジの本音を言わせてもらえば、馬に蹴られて死にたくないと言う奴だ。……最もアスカの本音は別の所にあるは言うまでも無いが。

 そうこうしている内に、ミサトが運転するボートが初号機の格納庫に到着した。そこには部下に指示を飛ばすリツコが居た。

「あら? ミサト。早かったわね」

 少し驚いた様な表情をしているリツコだったが、シンジはそれ所では無かった。エヴァンゲリオン初号機が目の前に在ったからだ。シンジにとっては辛い戦いを共にした相棒であり、最も強い絆の象徴であり、戦いに引きずり込んだ元凶であり、ある意味母その物でもある。複雑な感情を抱くと言う意味では、ミサトのそれを上回ると言って良い。言葉が出ないのも仕方が無いだろう。

「あら? どうやら驚かせてしまった様ね」

 リツコの声には、何処か残念そうな感情が見て取れる。前回の様にいきなり明りを点けて、インパクトを持たせたかったのだろう。そして複雑な感情から黙り込んでしまったシンジの反応を、驚きのあまり絶句していると勘違いした様だ。……だがミサトは、それを見逃してはいなかった。

「ロボットに見えるでしょうけど、これは厳密に言うとロボットでは無いわ。人の造り出した究極の汎用決戦兵器!!」

 初号機を見ながら説明を始めたリツコは、そこでシンジに向き直り言葉を続ける。

「人造人間エヴァンゲリオン」

 そこでいったん切り、再び初号機の方に向き直ると「我々人類最後の切り札。これはその初号機よ……」と付け足した。

「あの……貴方は?」

 シンジがそう口にすると、リツコの眉がピクリと反応した。どうやらリツコは、シンジの反応が最初の一瞬以外薄いのが不満の様だ。

「あら? 自己紹介がまだだったわね。あたしは技術一課E計画担当博士 赤木リツコよ」

 リツコの自己紹介にシンジは、「碇シンジです」と簡素な返事を返しただけだった。そして更に説明を続けようとするリツコをさえぎって、シンジは自分の要求を口にする。

「僕に関係の無い話はもう良いです。それよりも父に会って、早く済ませてしまいたい事があるのですが……」

 リツコの眉間に皺が寄った。どうやら相当ご立腹の様だ。

「あのね。シンジ君……」

 リツコがシンジの立場を口にしようとした時、ケージが揺れた。

「地震!?」

「いえ、国連軍がNN地雷を使ったんだわ」

 驚いたシンジに、ミサトが律義に状況を教える。シンジが本当に驚いた理由は、思ったより揺れた事だったのは秘密である。

 揺れが治まると、リツコは計器類に破損や異常が無いかチェックする様に部下に指示し始めた。ミサトとシンジは、やる事が無く立ち尽くすしか無い。

「ミサトさん。ここに居ると邪魔になりますから、別の場所へ移動しましょう」

「あぁ。えっと。シンジ君のお父さんとの待ち合わせ場所が、ココだったりして……」

 気まずく立ち尽くす羽目になるミサトとシンジ。何とか話題を探すミサトだったが……

「何故僕はここに案内されたのですか? こんな機密だらけの場所に……いくら指令の息子とは言え、気軽に見せて良い物では無いでしょう?」

 先にシンジが、核心に迫る事を聞いてしまった。しかしこれは、ミサトの口から言うべき事ではない。

「えっと。それはシンジ君のお父さんが来て説明してくれるから……」

 この時のミサトは、そう言ってお茶を濁すのが精一杯だった。

「分かりました」

 ミサトとシンジは隅っこに移動して、黙って待つ事しか出来なかった。



 5分弱。ゲンドウが到着するまで、ミサトとシンジが待った時間だ。最もミサトとシンジは、1時間は待たされた気分である。これ程居心地の悪い時間は、なかなか経験出来ないだろう。

「久しぶりだな」

 ゲンドウが現れたのはケージの上方の窓で、高低差は10メートル近くあった。しかも姿はガラス越しで、声もスピーカー越しである。前回はそれ所じゃ無かったが、冷静に見るとゲンドウの対応は息子に対する物じゃない。その事にシンジ(+ユイ)が、反感を持つのは当然と言って良かった。

「シンジ。私が今から言う事を良く聞け」

 淡々と語るゲンドウに、シンジの反感は大きくなる一方だ。それにゲンドウは気付いていない。

「このエヴァンゲリオンには、お前が乗るのだ。そして“使徒”と闘うのだ」

 ミサトは予想出来て居たのか、今回は口を挟まなかった。リツコが横から使徒についての説明を始めたが、シンジは適当に聞き流しゲンドウを睨みつる。ここに来てシンジの反応が、予想を大きく外れて居る事にゲンドウとリツコはようやく気付いた。

「シンジ?」

 ゲンドウが訝しげにシンジに声をかける。

「そろそろふざけるのは止めてくれないかな」

「ふざけてなどいない。お前がこれに乗って戦うのだ」

 声は平静を保っていたが、ゲンドウは内心かなり焦っていた。

「母さんの事があったのに、僕がこれに乗れると本気で思ってるの?」

「!? シンジ。まさか覚えて……」

「覚えてるに決まってるだろう。あの後毎日の様に、母さんが苦しみながら溶けて行く姿を夢に見たよ」

 ゲンドウは絶句するしかない。それが本当なら、シンジはエヴァとシンクロ出来ないからだ。心理的な事がシンクロ率に影響する以上、シンジはエヴァをこれ以上無いと言う位に拒絶するだろう。そしてミサトは(エヴァを見た時の表情はそれが原因か)と、納得もしていた。勘違いだが……。

「母さんを……自分の妻をモルモットにした狂人が、偉そうな事を言わないでほしいね」

 シンジの蔑みの視線がゲンドウに突き刺さる。

「ち 違う!? 私はユイの事を……」

「芝居はもう良いって言ってるだろう!!」

 それ以上言わせない方が良いだろう。誰の為とは言わないが。そしてシンジは、更なる爆弾を落とす。

「やっとの思いでエヴァから出て来た母さんに、お前は何をした!!」

「し シンジ? おまえは何を……」

 呆然とそう口にするゲンドウだが、シンジはそれ以上言わせない。

「母さんは目覚めたら、お前や僕が隣に居てくれると信じてたんだぞ!!」

 もはや周りに居る誰もが、シンジの言葉について行けなくなっていた。

「それなのに目覚めた場所は、日本ですらなかった!! お前がゼーレとか言う奴等に、母さんを売り渡したんだろう!!」

 叫んで乱れた息を整えているシンジに、ミサトが話しかけた。ゲンドウとリツコは思考が完全に停止していて、その余裕が全く無かったからだ。

「シンジ君“も”碇ユイ博士と会ったの?」

「はい。“も”って言う事は、ミサトさんも母さんに会ったんですね。何処でですか?」

 ミサトが確認すると、シンジは戸惑う事無く頷いた。そしてミサトを共犯者に仕立て上げようとする。

「ドイツで……」

「あぁ。アスカを助ける為に協力してくれたネルフ職員って、ミサトさんの事だったんですか」

 ミサトが余計な事を言う前に、シンジはその発言を潰した。ここまで来たら、アスナやマリの事をゲンドウに隠す意味も無いのでを平気で付けて居る。そしてシンジが“アスナとマリの事を知っている”と気付いたミサトは、シンジと自称碇ユイが無関係でない事を確信した。

「……ええ。直接は会えなかったけどね(これはいよいよ“碇ユイ”本人である可能性が出て来たわ)」

 ミサトが補足した事により、“ユイがエヴァから脱出している”と言う証人としては成立しなくなった。もともとちゃんと確認すれば、アスカを通して名前だけ聞いたとバレてしまうから意味は無いのだが、この場を混乱させ迷いや疑念を抱かせるには十分に効果がある。当然戯言として片付けられない様に、ダメ押しとなるモノをシンジは用意している。

「まあ、どの道初号機こいつの中に、母さんの魂が入っていないのなら……」

 シンジがそこで言葉を止めると、ゲンドウやリツコを含むネルフ職員全員の顔色が変わった。もしも今言った事が事実なら、シンジは適格者チルドレンとしての資格を失っている事になる。そうでなくとも、シンジはエヴァを拒絶しシンクロが出来ないのだ。汎用コアを準備するのも、誰かをコアにインストールするのも間に合わない。第3使徒サキエルはもう目の前に居るのだから。

 今ゲンドウに出来る事と言えば、重傷を負っているファースト・チルドレンのレイを出撃させる事くらいだろう。

「冬月。レイをこっちによこせ」

「使えるのかね?」

「他に手段は無い」

 ゲンドウの口調に力は無かった。シンジが言った事の真偽は気になるが、今が絶望的な状況である事に変わりないからだ。

 ゲンドウの指示を聞いたリツコは「初号機のシステムをレイに書き換えて。起動させるわよ!!」と指示を飛ばし始めるが、こちらの声にも力は無い。

「今のレイでは……」

 ミサトが辛そうに呟くが、誰一人としてそれに応える者は居なかった。やがて研究員に支えられながら、綾波レイがケージに入って来る。前回と比べて出撃が無かった分怪我は軽い様だが、痛々しい姿に変わりは無かった。

「その子を“使徒”とか言う奴と戦わせるの? 怪我してるじゃないか」

「まだ居たのか!! 邪魔だ!! 帰れ!!」

 シンジがそう言うと、ゲンドウが怒りにまかせ怒鳴り散らした。

 それを無視して……

「何故母さんがエヴァから出てこれたのか?」

 と、シンジが大きな声で言うと、ゲンドウが再び怒鳴ろうと大きく息を吸った。

「魂が無いエヴァは魂を求める。だからエヴァは、最初にシンクロした人間を取り込んでしまうんだ。初号機は母さんが、弐号機はキョウコさんが犠牲になった」

 続くシンジの言葉に、ゲンドウが黙りリツコの指示が止まった。

「でも何事も例外はある。初号機の中には、その元となったモノの魂の一部があった。母さんはその一部と接触し、それを一つの魂へと育て上げた。より自身に近い魂を得たエヴァは、母さんの魂に執着しなくなり外に出る事が出来た」

 この場に居る全員が、シンジの次の言葉を待つ。

「母さんが育てた魂は、母さんの魂の情報を多分に写し取っている。ある意味その魂と僕は、兄弟と言えるだろうね」

 そこまで言うと、リツコは何が言いたいか理解した様だ。

「つまりシンジ君もエヴァを動かせる」

 シンジが言った事が全て本当なら動かせるだろう。嘘だったとしても、ユイの魂が初号機の中にあれば動かせる。前者ならば、ある意味ゲンドウの目的は達せられている事になるし、自分から言い出したと言う事はシンクロ出来ないと言う事も無いだろう。ならば重症のレイより、訓練を受けて居ないシンジの方が幾分マシだ。後者ならば当初の予定通り計画が進むだけだ。シンジに余計な事を教えた者を、徹底的に調べなければならないが……

「シンジ!! 乗れ!!」

 ゲンドウが高圧的に言い放ったが、シンジは冷ややかな視線をゲンドウに向けるだけだった。嫌な沈黙に包まれながら時間だけが過ぎて行く。

 …………

 ……

 先に沈黙を破ったのは、シンジの方だった。一度眼をつぶると、大きな溜息を吐く。

「条件が三つあります」

「……言ってみろ」

「一つ。危険な任務に当たるのだから、相応の報酬を頂きます。受け渡しや金額は、そちらの規定通りで良いです」

 ゲンドウは黙って頷く。

「二つ。僕はあなたと親子である事が耐えられません。親権の放棄に同意してください」

 渋い顔をしたが、今度もゲンドウは頷いた。

「三つ。母さんとの離婚に同意してください」

「ふざけるな!!」

 三つ目には、流石のゲンドウも同意出来なかった。感情的になり怒鳴ってしまう。組織のトップとして、あってはならない姿だ。

「母さんから離婚届は預かって来ています。母さんが記入すべき所は、全て記入し拇印を押してあります。親権放棄の同意書も母さんが作ってくれました。こちらも必要事項の記入と、拇印もしくは捺印をお願いします」

 事務的に言い切るシンジ。しかしゲンドウは、拇印の所で反応した。拇印……つまり指紋を確認出来るのだ。サインから筆跡鑑定も出来るだろう。

 ちなみにサインは、シンジとユイと入れ替わり書いた本物である。拇印もATフィールドの応用で、指をユイ化して押した本物だ。(その気になれば、完全には無理だが全身をユイ化出来る)これがシンジとユイが用意したダメ押しだ。

「僕がエヴァに乗るのは今回限りです。次回以降にも乗って欲しいなら交渉は受け付けますが、今回の条件が履行されないなら……」

 シンジの目は、二度と乗らないと語っていた。約束を履行しなければ、交渉のテーブルに着く事さえ出来ないだろう。冷静さを取り戻したゲンドウは、それを敏感に感じ取った。そして今は何が最善か考えると、必然的にシンジを乗せるしかない。シンジが出した条件を如何するかは、後で決めて対応すれば良いだろう。いざとなれば約束を反故にすれば良いし、次の使徒が来る頃にはレイの怪我もある程度回復しているだろう。

「分かった。条件を呑もう」

 ゲンドウはそれだけ言うと、スピーカーのスイッチを切った。

「シンジ君。エヴァに乗る為の説明をするわ」

 リツコがシンジに話しかけるが、シンジは首を横に振った。

「母さんからレクチャーは受けて居ます。ヘッドセットだけください。あっ、着替える時間があるならプラグスーツも……」

 次々とシンジの口から飛び出すエヴァ関連用語に、リツコは顔が引き攣るのを必死に我慢した。

「プラグスーツはまだ未調整なの。今回はヘッドセットだけで出て」

「分かりました。財布や貴重品はお預けしますので、着替えだけは用意しておいてください」

 シンジはそう返事をすると、インターフェース・ヘッドセットと財布や貴重品・機械類(PDA内の情報は、知られて困る様な物は入っていない。アスカとやり取りしたメールも、見られても問題無い様に気を付けている)を交換し、そのまま初号機の方へ歩き出す。その姿にリツコとミサトは、シンジが本当にエヴァに乗るのが初めてなのか分からなくなってしまった。



 指令室に移動したミサトが、シンジに指示を出して行く。

「本来なら簡単な動作チェックや練習をしたかったんだけど、敵が目前に迫っている以上そんな余裕はないわ。こちらの武装はプログレッシブナイフしか無いから、戦闘は必然的に接近戦になるわ。距離を取ると目から出る光線で狙い撃ちにされるから、絶対に離れない様にして」

 動作確認や練習もしていないのに、いきなり格闘戦をしろと言うのがどれだけ無茶な話かミサトも理解している。理解していてもそう命令するしかない自分に、絶望的な気分になる。しかしそれを顔に出さずに、少しでも勝率を上げようと思考をめぐらせる。

 LCLの注水が終わり、シンクロもスタートしている。リツコとマヤが、シンジが叩きだしたシンクロ率に目を白黒させているが、今のミサトにはそれを気にする余裕は無い。

「上の街の被害を抑えたいから、射出場所は敵が街に入る前にその後を取るわ。出撃と同時に戦闘開始だから注意して」

「はい」

 シンジは返事をすると、再びエヴァのシンクロに集中する。

(シンジ。お待たせ)

(母さん。上手く行ったの?)

(ええ。この世界の私と融合して、分身をエヴァの中に残して来たわ。計画通りよ。シンジの方はどう?)

(うん。確認した。シンクロ率はいくらでも調節可能だよ。アスカと前に話した通り、60%位で安定させるつもり。あと初号機は、アンチATフィールドも使えるみたいだ。これが有れば、使徒の死体回収を阻止できるよ)

 使徒の死体(サンプル)を回収させると、4号機が完成するのを早めてしまう。結果的に3号機は日本に運ばれ、シンジのクラスメイトが犠牲になるだろう。それに4号機は“S2機関の搭載実験機”でもあるので、量産機の製造を遅らせ性能を落とせるかもしれない。

「シンジ君。行くわよ」

「はい」

 ユイと対話している内に、どうやら発進の準備が整った様だ。

「発進!!」

 ミサトの号令と共に、シンジの体に強いGが掛かる。そして初号機は、以前と違い山間の射出口に初号機が射出される。しかし、目の前に第3使徒サキエルが待ち構えてる居る事実は変わらなかった。

最終安全装置解除!! エヴァンゲリオン初号機リフト・オフ!!(クゥ。こちらの動きを察知していたか。待ち伏せされたわネ……)」

 ミサトの顔に冷や汗が伝う。

「シンジ君。先ずは……」

「行きます」

「えっ。ちょっ 待ちなさいっ!!」

 ミサトが止めるのも聞かず、シンジはサキエルに向かってエヴァを走らせる。そして、左手を前に突き出し右拳を振りかぶった。そんな初号機に向けて、本能的に危機を感じ取ったのか、サキエルはATフィールドを展開させる。

 初号機の左手とサキエルのATフィールドがぶつかり、初号機の足は止まってしまった。

「「絶対領域ATフィールド!!」」

 ミサトとリツコの悲鳴が重なった。

「やはり使徒も持っていたんだわ!! フィールドをはってるか……」

 リツコの言葉は、そこで止められる事になる。初号機が振り抜いた右手が、敵のATフィールドを貫通し赤い光球コアを殴り飛ばす。しかしサキエルは、吹き飛ぶ事無く赤い液体となって消えてしまった。

「えっ!?」

 その声は誰の物だったのだろう? あまりにもあっけない幕切れに、指令室に居る人間は誰一人として自分達の勝利を認識出来なかった。

「使徒殲滅しました。帰投の指示をください」

 シンジの通信により一部の職員に勝ったと言う認識が生まれるが、大半の職員達は未だ呆然としたままだった。

「パターン青は?」

「っ 消滅しています」

 ミサトが確認すると、その声に正気を取り戻した青葉が答える。

「ガイドを出すから、それにしたがって。マヤちゃん。お願い」

「分かりました」

「……はっ はい」

 シンジが即座に了承し、遅れて再起動したマヤが返事をする。第3使徒サキエル戦は、あまりにもあっけなく終ってしまった。





 悠然と帰投する初号機を、ゲンドウと冬月は呆然と見つめていた。

「如何するのだ?」

 初号機に乗ったシンジの力を見てしまっては、今更シンジを戦力から外すと言う選択肢は取れない。と言うか、周りがそれを許さないだろう。

「も 問題な い」

 ゲンドウにはそう呻くことしか出来なかった。


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