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No.33878の一覧
[0] 【完結】スリザリンの継承者【ハリポタ×(若干)型月】[寺町 朱穂](2014/02/28 20:08)
[1] [賢者の石編] 1話 深夜の来訪者[寺町 朱穂](2012/10/12 22:58)
[2] 2話 人付き合いは大事[寺町 朱穂](2012/07/08 11:12)
[3] 3話 異文化交流[寺町 朱穂](2012/07/08 11:19)
[4] 4話 9と4分の3番線とホグワーツ特急[寺町 朱穂](2012/07/08 11:24)
[6] 5話 組み分け[寺町 朱穂](2012/07/08 11:26)
[8] 6話 防衛術と魔法薬[寺町 朱穂](2012/07/12 17:37)
[9] 7話 飛行訓練[寺町 朱穂](2012/07/10 10:41)
[10] 8話 私の瞳の色は…?[寺町 朱穂](2012/07/12 17:53)
[11] 9話 ハローウィン[寺町 朱穂](2012/07/10 10:44)
[12] 10話 パーセルタング[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[13] 11話 人を呪わば穴2つ[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[17] 12話 2つの顔を持つ男[寺町 朱穂](2012/08/12 11:05)
[18] 13話 学期末パーティー[寺町 朱穂](2012/07/15 12:26)
[20] [秘密の部屋編]14話 本は心の栄養 [寺町 朱穂](2012/08/12 11:13)
[21] 15話 休み明け[寺町 朱穂](2012/07/15 12:31)
[22] 16話 吠えメールとナルシスト[寺町 朱穂](2012/08/05 16:10)
[23] 17話 継承者の敵よ、気をつけろ[寺町 朱穂](2012/08/07 18:41)
[24] 18話 メリットとデメリットと怪物[寺町 朱穂](2012/08/16 20:36)
[25] 19話 ポリジュース薬とクリスマス[寺町 朱穂](2012/08/16 20:35)
[26] 20話 バレンタインデー[寺町 朱穂](2012/08/16 20:47)
[28] 21話 珍しい名前[寺町 朱穂](2012/08/30 10:29)
[29] 22話 感謝と対面[寺町 朱穂](2012/08/30 10:26)
[30] 23話 一方的な[寺町 朱穂](2012/08/29 23:54)
[31] 【アズカバンの囚人編】24話 ミライ[寺町 朱穂](2012/08/29 23:55)
[32] 25話 ある夏の日に[寺町 朱穂](2012/08/29 23:57)
[33] 26話 休み明けの一時[寺町 朱穂](2012/09/24 09:47)
[34] 27話 吸魂鬼[寺町 朱穂](2012/09/24 09:49)
[35] 28話 魔法生物飼育学[寺町 朱穂](2012/09/20 10:33)
[36] 29話 まね妖怪[寺町 朱穂](2012/09/24 09:56)
[37] 30話 2度あることは3度ある[寺町 朱穂](2012/09/24 09:53)
[38] 31話 本当の幸せ?[寺町 朱穂](2012/09/24 09:59)
[39] 32話 蛇と獅子になりたかった蛇[寺町 朱穂](2012/09/20 10:57)
[40] 33話 6月のある日に[寺町 朱穂](2012/10/04 16:19)
[41] 32.5話 真夜中の散策[寺町 朱穂](2012/10/04 16:26)
[42] 【炎のゴブレット編】34話 遺産[寺町 朱穂](2012/09/24 10:08)
[43] 35話 土下座する魔女[寺町 朱穂](2012/11/17 09:06)
[44] 36話 魔法の目[寺町 朱穂](2012/10/04 16:35)
[45] 37話 SPEW[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[46] 38話 炎のゴブレット[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[48] 39話 イレギュラーの代表選手[寺町 朱穂](2012/10/12 15:39)
[49] 40話 鬼の形相[寺町 朱穂](2012/10/24 23:17)
[50] 41話 強みを生かせ![寺町 朱穂](2012/10/24 23:21)
[51] 42話 第一の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:23)
[52] 43話 予期せぬ課題[寺町 朱穂](2012/10/15 22:38)
[53] 44話 クリスマスの夜[寺町 朱穂](2012/10/18 20:00)
[54] 45話 卵の謎と特ダネ[寺町 朱穂](2012/10/15 23:01)
[55] 46話 第二の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:26)
[56] 47話 久々の休息[寺町 朱穂](2012/10/15 23:26)
[58] 48話 来訪者[寺町 朱穂](2012/10/24 23:31)
[59] 49話 第三の課題[寺町 朱穂](2012/10/15 23:30)
[60] 50話 骨肉…それと…[寺町 朱穂](2012/10/15 23:31)
[61] 51話 墓場での再会[寺町 朱穂](2012/10/24 23:35)
[62] 52話 終わりの夜に[寺町 朱穂](2012/10/15 23:34)
[63] 【不死鳥の騎士団編】53話 カルカロフ逃亡記[寺町 朱穂](2012/10/25 00:20)
[64] 54話 予期せぬ来訪者[寺町 朱穂](2012/11/10 18:49)
[65] 55話 『P』[寺町 朱穂](2012/11/10 19:04)
[66] 56話 ピンクの皮を着たガマガエル[寺町 朱穂](2012/11/10 19:06)
[67] 57話 叫びの屋敷[寺町 朱穂](2012/11/10 19:08)
[68] 58話 ミンビュラス・ミンブルトニア[寺町 朱穂](2012/11/10 19:12)
[69] 59話 ホッグズ・ヘッド[寺町 朱穂](2012/10/25 00:10)
[70] 番外編 君達がいない夏[寺町 朱穂](2012/11/11 09:35)
[71] 60話 再会[寺町 朱穂](2012/11/18 08:04)
[72] 61話 帰ってきた森番[寺町 朱穂](2012/11/11 09:45)
[73] 62話 価値観の相違[寺町 朱穂](2012/11/11 09:57)
[74] 63話 進路指導[寺町 朱穂](2012/11/18 08:12)
[75] 64話 誰よりも深く……[寺町 朱穂](2012/11/18 08:15)
[76] 65話 OWL試験[寺町 朱穂](2012/11/11 10:05)
[77] 66話 霧の都へ[寺町 朱穂](2012/11/18 08:20)
[78] 67話 神秘部の悪魔[寺町 朱穂](2012/11/18 08:26)
[79] 68話 敵討ちの幕開け[寺町 朱穂](2012/11/18 08:40)
[80] 69話 赤い世界[寺町 朱穂](2012/11/18 08:41)
[81] IF最終話 魔法少女プリズマ☆セレネ!?[寺町 朱穂](2012/11/11 10:59)
[82] 【謎のプリンス編】70話:夏のひと時[寺町 朱穂](2012/11/28 18:35)
[83] 71話 夕暮れ時の訪問者[寺町 朱穂](2012/11/18 08:45)
[84] 72話 夜の闇の横丁[寺町 朱穂](2012/12/03 02:06)
[85] 73話 エディンバラの昼下がり[寺町 朱穂](2012/11/28 18:30)
[86] 74話 フェリックス・フェリシス[寺町 朱穂](2012/11/28 18:49)
[87] 75話 スリザリンの印[寺町 朱穂](2012/12/02 18:51)
[88] 76話 『青』[寺町 朱穂](2012/12/15 16:42)
[89] 77話 …気持ち悪い…[寺町 朱穂](2012/12/16 01:58)
[90] 78話 名前[寺町 朱穂](2013/01/01 11:37)
[91] 78.5話 誓い[寺町 朱穂](2012/12/15 16:58)
[92] 79話 秘密の部屋[寺町 朱穂](2012/12/27 19:05)
[93] 80話 問いと解答[寺町 朱穂](2013/01/01 09:58)
[94] 81話 殺意を抱く者達[寺町 朱穂](2013/01/20 15:00)
[95] 番外編 お願い!アステリア相談室[寺町 朱穂](2013/01/06 16:56)
[96] 82話 どうして?[寺町 朱穂](2013/01/20 15:12)
[97] 83話 分からず屋[寺町 朱穂](2013/03/01 18:38)
[98] 84話 そして2人は夜の闇へ[寺町 朱穂](2013/03/01 19:06)
[99] 【死の秘宝編】85話 『死』を超える[寺町 朱穂](2013/03/01 19:25)
[100] 86話 プリベット通り4番地[寺町 朱穂](2013/04/12 09:32)
[101] 87話 午後のひととき[寺町 朱穂](2013/05/07 00:51)
[102] 88話 空港の攻防[寺町 朱穂](2013/05/22 18:22)
[103] 89話 一時の休息[寺町 朱穂](2013/06/01 22:38)
[104] 90話 それぞれの後悔[寺町 朱穂](2013/06/25 10:58)
[105] 91話 護る戦い[寺町 朱穂](2013/07/16 01:00)
[106] 92話 不死への手がかり[寺町 朱穂](2013/09/20 18:48)
[107] 93話 トテナム・コートの回想[寺町 朱穂](2014/01/09 12:02)
[108] 94話 アステリア・グリーングラス[寺町 朱穂](2014/01/09 12:11)
[109] 95話 19年後…[寺町 朱穂](2014/01/10 21:46)
[110] 96話 19年前の夜[寺町 朱穂](2014/01/10 21:48)
[111] 設定&秘話:『アステリア道場』[寺町 朱穂](2014/01/10 21:52)
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[33878] 84話 そして2人は夜の闇へ
Name: 寺町 朱穂◆20127422 ID:7dfad7d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/01 19:06
引き上げたダフネの瞳は、恐怖の色に支配されていた。……無理もない。自分の妹に殺されかけたのだから。それに、あんな信じがたい話を聴かされたのだ。私自身、大量の情報を処理しきれず、頭が混乱しそうだ。だから、冷静な表情を保っているのはスネイプ先生と、闇払いの女性…トンクスという名前らしい…には関心してしまう。ハリーも目を白黒させていたが、まだ辛うじて冷静さを失っていないところを見ると、私が知っているあの頃よりも成長したらしい。


「『リベラコーパス‐身体自由』」


右手に握りしめた杖を軽く振ると、閃光が奔る。浮きあげる力がなくなったダフネの身体は、再び降下し始めた。…が、降下する前にスネイプ先生がダフネを受け止める。


「先生…それに…セレネ……ポッターまで……どう、して?」
「…大方、幸運薬の効果だろうな。…少し休んでろ」
「……うん……」


ダフネは糸が切れた人形のように、スネイプ先生の腕の中で崩れ落ちると、ゆっくり目を閉じた。口元にかかる髪が、僅かにだが揺れているので呼吸はしている。きっと、気絶しただけだ。心の中で、ホッと一息つく。


「脈も正常よ。だから、身体面に問題はないわね」


少し眉間にしわを寄せたトンクスは、ダフネの首に手を当て、脈が正常か確かめた。
…身体面に問題はない…
つまり、精神面はどうだかわからないということ。…大切な親友を、しかもこんな最悪な状態で残していくのは気がかりだ。だけど、私は……


「……せん…ぱい?」


か細い声が、静まり返った空間に響いた。声の主はダフネの妹―アステリア―。よほど驚いているのだろう。これ以上ないくらい目を丸くさせたアステリアは、先程までの面影はない。呆然と壁に寄りかかる姿は、ただの無力な少女にも見える。私は目を細めた。


「マクゴナガル先生が『北塔から箒で、トンクスの実家へ逃げなさい』って言われたんだ。……それは、『知らなかった』みたいだな」


私が告げると、アステリアは『まいった…』とでもいうかのように頭を押さえる。どうやら、私が最後に告げた一言で『私が聞いていた』ことを理解したらしい。寂しそうに顔を歪め、大きな瞳から涙が滲み始めていた。


「……私が知る先輩は、ここに来る前につかまってしまいましたから…」


どこか遠くを見るアステリア。ポタリ、ポタリと瞳から涙が冷たい床に零れ落ちる。アステリアは絶え間なく零れ落ちる涙を、袖で乱暴に拭いながら、言葉をつづけた。


「私は……私は…!!セレネ先輩に、生きてて欲しいだけなんです。どうしても、生きていて欲しいんです!」


そう、それはアステリアの『本音』。嘘偽りのない言葉だってことはわかる。
だけど……アステリアの言葉が、どこか苦々しく感じるのは、たぶん気のせいではない。事実、私と一緒にここまで来てくれたスネイプ先生やトンクス、そしてハリーも顔をしかめている。


「それなら、何故…こいつの義父を助けない」


スネイプ先生が、アステリアに杖を向ける。 そう、それは私も感じていたことだ。クイールを助ければ私が『ダンブルドア』や『ヴォルデモート』に対して敵対心を抱くこともなかったはずだ。もちろん、クイールを危険に巻き込まないように、可能な限り戦いから遠ざかろうと考えたと思う。もしかしたら、さっさとイギリスを捨て、クイールと共に海外へ逃亡していたかもしれない。…そんな可能性をアステリアは、思いつかなかったのだろうか?

アステリアは身体を震わせ、少し怯えたような表情を浮かべた。だけど、それは表情だけ。アステリアの目は、全然怯えていない。


「…無理なんです。何回繰り返しても、あの人を救うことが出来ないんです。むしろ、そのせいで……」


アステリアは歯を食いしばると、俯いた。…クイールを救う行動をしたせいで、私が死ぬのか。しかも、あの様子から察するに、相当無残な死に方をすることになるのだろう。だから、それを回避するため、アステリアはクイールを救わない道を選んだということか。
何か釈然としない。私を救うために動いてくれたのは嬉しいし、私だって死にたくない。…だけど……


「そろそろ時間よ。セレネ・ゴーント」


私が口を開く前に、トンクスが時計を向けた。校長室を出てから、すでに10分以上が経過している。天文台からチラリと見える魔法省の一行も、先程よりも校舎に近づいてきていた。もう、出ないと間に合わない。アステリアに聞きたいことは、手の指では足りないくらいあるが……それを聞く時間はなさそうだ。


『もう、この城に戻ってくることはないと思う。『縮小魔法』を解くことも…稀だろうな。…それでも、ついて来るか?』


マフラーのように首に巻きついたアルファルドに向かって、小さく呟く。アルファルドは依然として目を閉じたまま、グッと鎌首を持ち上げた。


『…構わないですよ。“スリザリンの継承者”に仕えることが、私の使命ですから。
それに、ホグワーツの外の世界って珍しくて楽しいですし、大きいと不便なことって多いんですよ』


アルファルドは、楽しそうに赤い舌をチロチロと出す。そんなアルファルドを優しく撫ですると、私はトンクスに向き直った。もう、覚悟なんてとっくに決めているんだ。


「分かりました」


雲間から、青白い月の光が注ぐ中、私はトンクスから箒を受け取る。…箒に乗るのなんて、1年生の時以来だ。果たして、うまく乗れるだろうか?自分らしくない不安が、徐々にこみあげてきた。


『大丈夫ですよ、主。主はヒッポグリフやセストラルに乗ったことがあるじゃないですか』


アルファルドが、私を励ましてくれる。…だが、箒とセストラルは全くの別物だ。ヒッポグリフやセストラルは生き物で、しっかり指示しないと飛んでくれない。その点だけを見ると、自分の思った方向へ素直に飛ぶ箒は便利に思える。だが、箒は自力で飛べない。常に己の魔力を高めなければ、1ミリも飛ぶことが出来ないのだ。私は苦笑を浮かべた。


『そうだな。なんとかなる…か』


囁くようにつぶやくと、私は箒に跨った。

これから、トンクスの実家に行く。そこで、数週間滞在。その間に舞弥や切嗣と連絡を取り、海外への逃亡計画を立てる。海外へ亡命してしまえば、もう大丈夫。ヴォルデモートの勢力もダンブルドア亡き不死鳥の騎士団の勢力も、海外では無力。唯一、恐れないといけない勢力は魔法省だ。イギリス魔法省が逃亡先の魔法省と連携し、私を捕まえようとするかもしれない。だけど、私が生きようとしているのはマグルの世界。よほどのことがない限り、捕まることはないだろう。

そう、この国に未練は……ない。ダンブルドアがいなく、ヴォルデモートが襲ってくる可能性のあるならば、早々に全てを捨て、躊躇うことなく逃げるのが一番だ。


「セレネ」


スネイプ先生が、つかつかと近づいてきた。そして、いつも先生が羽織っているマントの内側から、小さな何かを取り出す。


「これは、クイールが10代の頃、日本旅行の土産にとくれたモノだ。『セブルスに幸せが来るように』だとか言っていた。…恐らく、幸せを呼ぶものなのだろう。これをやるから、幸せになれ…セレネ」


掌に置かれた、少々色あせた朱色の平たい袋を見た私は頷いた。なるほど、確かに幸せを呼ぶ『お守り』だ。ただ……桃色の糸で真ん中に刺繍された文字は『地主神社』。私の記憶が確かなら、『恋愛成就』で有名な神社だ。確かに『結婚』という名の幸せは呼ぶかもしれないが……スネイプ先生が私に伝えようとしている意味と、少し違う気がする。というか、クイールはいったい何故、スネイプ先生に恋愛成就守りを渡したのだろうか?


「ありがとうございます」


そっと頭を下げる。先生の好意を無駄にするわけにはいかない。恋愛成就…はないと思うが、大事にしているだけで他の加護が訪れるかもしれない。それに何よりも、クイールの形見なのだ。アズカバンに送り込まれ、形見のナイフまで奪われ、家にも帰れない私にとって、唯一の…形見。

お守りの紐を伸ばし、ギュッと手首に結び付ける。これで、空を飛んでいる時にポケットから落ちるという事態を避けられるだろう。


「セレネ、その……また次の機会に渡すものがあるんだ」


ハリーが戸惑いがちに、私に声をかけてくる。
先程まで敵対していたし、アステリアの口からあんな話を聴かされたばかりなのだ。ぎこちないのは分かる。私自身、ハリーとどう接すればよいのか、わからない。まだ敵という感じもあるし、すでに味方という感じでもある。


「渡すもの?」
「ある人から、預かっているんだ。今は持っていないけど、今度会った時に渡すよ」


…今度会う時か。


私とハリーは、ここ数種間のうちに会うことが決まっている。理由は簡単。ホグワーツから逃げるため、ハリーの中に存在する『ヴォルデモート』を殺す時間がなかったからだ。ハリーの魂と密接に絡み合ってしまっているため、いくら『眼』を使ったとしても完全に切断するには時間と極度の集中力が必要とされる作業。だから、海外へ逃げる前に、ハリーと会わなければならない。

それは、とても面倒なこと。万が一にも手を誤ってしまったら、不死鳥の騎士団と完全に敵対してしまう。だから、ハリーとは『何もなかった』ということにし海外に逃亡したい。だけれども…何故だろう。


「生きろよ、ハリー・ポッター」


気がつくと、微笑を浮かべながら言葉を発している私がいた。


「せ、セレネ先輩!」


私が桟に足をかけた時、アステリアが私の名を呼んだ。
思わず振り返りそうになったが、あえて振り返らなかった。今にも言いたいことが氾濫しそうで、抑えるのが一苦労なのだ。振り返ってしまったら、アステリアの顔を見てしまったら、もう飛べない。この場所から逃げられず、魔法省に拘束されてしまう。そんな予感がした。


「先輩!」


アステリアが再度、私を呼ぶ声が聞こえてくる。だけど、私は振り返らない。先に夜空に浮くトンクスを、ただただ見据えていた。


「大丈夫、私は生きる」


自分に言い聞かせるように囁くと、桟を蹴り、暗い夜空へと跳び出した。ふわり、と髪が浮き上がる。マクゴナガル先生に貸してもらったマントが、風に吹かれ宙をひらめく。


「こっちよ、セレネ」


上空を旋回していたトンクスは手招きをすると、さらに北へ飛び始めた。私はトンクスの後に続くよう、箒を動かした。すっと背筋を屈め、速度を上げる。虚空へ虚空へと進む私は、そっとホグワーツを振り返ってみた。次第に慣れ親しんだホグワーツが遠ざかっていく。真冬に潜った湖が針葉樹に隠れ、威容を誇った学び舎も視えなくなり……


そこで初めて、本当にホグワーツから離れるのだと実感した。


「…寂しい?」


敷地から外に出たので、北から南へと進路を変更したトンクスが、気遣うような声を出す。私は前を向くと、首を横に振った。








死んで花実が咲くものか。ここまで生き残れたこの命、そう簡単に投げ捨ててよいモノではないのだ。

何があっても、生き残って見せる。

そんな決意を胸に、私はトンクスと一緒に飛び続けた。まだ見ぬ、トンクスの実家を目指して……




















Side:ハリー・ポッター


飛んでいった2人のシルエット。雲の合間に消えていくのを見届けた僕は、アステリアと向き合った。アステリアの顔からは、表情というモノがスッカリ消えている。ゾッとするくらい白い顔で、表情といえる表情を浮かべていない。それは、正真正銘の『無表情』。ここまで感情を排斥した表情なんて、みたことがない。


「ハリー・ポッター」


アステリアが呟く。きゃんきゃんと、はしゃぎまわる子犬のような声とは程遠い……氷のような冷たい声だ。僕は思わず、一歩後ずさりしそうになる。だけど、なんとか堪え、その場に踏みとどまると、アステリアを見据える。そんな僕を見るアステリアの眼は、どこまでも、どこまでも凍えるように冷たいモノだ。ゆっくりとアステリアは、口を開く。


「貴方がキッカケで……幾度となく、先輩は死にました」


僕は思わず、杖を握る力を強めていた。どす黒い殺気が、アステリアの小さな身体から滲み出している。ゆっくりと床に転がっている短剣を拾い、傷がついていないかどうか確かめていた。 まずい――このままじゃ、殺される―― なんとなくだけど、そんな感覚が身体を駆け巡った。しかし―――


「ですが、貴方を殺しません」
「えっ?」


呆気にとられ、僕は変な声を出してしまった。アステリアは、短剣をローブの内側にしまい込みながら、話を続けた。


「殺されたいのであれば、殺しても構いませんよ。だけど……このタイミングで殺しても、最良の結果に繋がりそうにありませんから」


感謝しなさい…とでも、言いたそうな顔をしたアステリアは、僕たちに背を向ける。依然として殺気は放たれていた。だけど、少なくとも僕たちの命を奪うつもりはないみたいだ。
その背中は、どこか淋しげで、人を拒絶するようで、見ていて辛くなってきた。


「…あっ」


僕は今、たったいま思いついたことを言おうと口を開きかけた。だけど、こんなことを言って何になるんだろうか?僕は首を横に振ると、開きかけた口を閉ざす。


「何か、言いたいことでも?」


アステリアは、僕が何か言おうとしていたことに気がついたらしい。背を向けたまま、淡々と尋ねてきた。正直に、思ったことを言っていいのだろうか?僕が今から言おうとしていることは、確実にアステリアを傷つけてしまう。


「何も用がないなら、話しかけないでください」


突き放すように告げたアステリアは、一段、また一段と階段を下り始めた。…ここで言わなければ、もういう機会なんて訪れない。ダンブルドアが死んだ以上、学校は閉鎖されるということは容易に想像がつく。だあら、もう…アステリア・グリーングラスと言葉を交わす機会なんてない。僕は深呼吸をすると、去りゆくアステリアの背中に言葉を投げかけた。


「アステリア・グリーングラス。君は…違う道に逃げ込んでいるだけ、なんじゃないか?」
「……」


ピタリ…と、アステリアの動きが止まる。まるで、機械のように。


「逃げてる?」
「うん。…人が死んだら、もう戻ってこない」


いますぐに校長室に戻れば、ダンブルドアが笑いかけてくれる気がする。だけど、逝ってしまった彼らは、僕たちの世界に戻ってこないのだ。ダンブルドア亡き今、誰がヴォルデモートと戦っていくのだろうか?この学校は、誰がまとめていくのだろうか?…僕たちはどうすればいいのだろうか?…その答えは、分かりきっている。


「その事実に目を背けて…逃げてばかりじゃ、いけないんだ。その……死んだ人の気持ちを背負って、その人の分まで生きる。そうすれば僕たちの心の中で、ずっと生き続けているってことになるんじゃないか?」


ダンブルドアの意志を継いだ『不死鳥の騎士団』や僕たちが、ヴォルデモートと戦い続ける。ホグワーツは、ダンブルドアの意志を継いだ副校長のマクゴナガルが動かしていく。ムーディが戦死してから、キングズリーやトンクスは『油断大敵!』と、よく口にするようになった。


「それに、今のアステリアは辛そうだよ。このままだと、アステリア…君自身が壊れそうだ。もう、やめた方がいい」


アステリアは動かない。天文台を横切る風が、彼女の髪を揺らしている。


「いったい、何度繰り返したんだ?そして、あと何度繰り返すつもりなんだ?あと、どれくらい君は自分自身を殺し続け、クイールさんを見殺しにして、他の何もかもを犠牲にしていくつもりなんだ?」
「……」


相変わらず、アステリアは何も答えない。ただ、何も言わず…僕に背を向け続ける。そんな彼女の背中に、僕は言葉を投げかけ続けた。


「僕は…」
「19度目ですよ」


唐突に、アステリアは口を開いた。


「この世界で、19度目です。えぇ、確かに辛かったです。私の選択ミスで、先輩が吸魂鬼のせいで廃人にさせられたり、東洋の坊主に身体をのっとられたり、ハゲ帝王に強姦されたり、ダンブルドアの手下に暗殺されたり、同僚男子に無理心中させられたり……酷かったですね」


アステリアは、まだ振り返らない。ただ、氷を連想させるくらい冷たかった声が、まさに絶対零度と言い表したらいいくらい、冷ややかなものに変化していた。


「私は諦めませんよ。セレネ先輩が、無事に生き残れるまで何度も繰り返します」
「何度も?それは君の首を絞めるだけだよ。人を殺してまで、目的を達成しようとするなんて、ヴォルデモートと一緒だ。もう、やめた方が…」


「そろそろ自分が『操り人形』だと自覚したらどうです!?」


振り返ったアステリアは、鬼のような形相だった。吊り上った眼は憎悪でギラギラと光り、深いしわが刻まれている。背後に炎まで見えた気がした。そんなアステリアの気迫に押され、倒れそうになる。だけど僕は耐え、なんとかその場に踏みとどまる。そして、燃え盛る憎悪を隠していないアステリアの瞳を、じっと見つめた。


「確かに、僕はダンブルドアの描いた道を…進んできただけかもしれない」


脳裏に浮かぶのは、何回もセレネの口から言い放たれた言葉。僕は『道化』かもしれない、『操り人形』かもしれない。でも……でも……


「だけど!!僕は自分の意志で、この道を選んだんだ。きっと、ダンブルドアが用意しなくても、僕はこの道を選んだ。それに、後悔はない!」

アステリアの青白い顔のしわには、嫌悪と憎しみが刻み込まれていた。距離が離れている僕にまで、彼女の歯ぎしりが聞こえてくる。気のせいか、アステリアの髪の毛が逆立っているような感じがした。


「…この操り人形風情に、私の気持ちなんて分かってたまるか!!」


ローブの内側から短剣を引き抜いたアステリアは、地面を蹴る。慌てて僕は、杖を向けた。だけど、アステリアの方が一歩上手だった。短剣を握りしめていない方の手で、蝿でも払うかのような仕草をする。すると、すぽんっと杖が抜けてしまったのだ。


くるくるっと宙を舞う杖が、視界の端に見えた時、僕は負けを悟った。



あぁ、終わった。
僕には、防衛手段が……もうない。あの疾走する少女と立ち向かう術は、ない。




アステリアが一直線に、向かってくる。僕は避けることも、逃げることもできなかった。足が地面に縫い付けられたかのように、動けないのだ。もしかしたら、これもアステリアの能力なのかもしれないし、僕が恐怖で動けないのかもしれない。とにかく、これで僕の命が終わってしまう。



いやだ!死にたくない。こんな所で、こんな場所で。
なにか、何か手があるはずだ。そう思い必死に考える。だけれども、何も思いつかない。

これは、本当に……死んでしまう……

そう感じた刹那、僕の目の前に飛び込んできたのは鋭利に研ぎあげられた切っ先、ではなかった。


「えっ…?」
「なっ!?」


僕の前に翻るのは、黒いマント。
それは、僕の苦手とする人物が纏っていたマントだ。魔法薬学の時間の度に、作り途中の魔法薬を投げつけてやりたいと思った人物のマントだ。そして……ダンブルドアの信頼を得た元・死喰い人のマント……


僕をかばい、短剣で刺されたのは…セブルス・スネイプだった。


徐々に漂うのは、血の臭い。僕はそっと身体をずらし、スネイプの表情を視ようとする。だけど、顔は影になり視えなかった。だけど……アステリアが突いた短剣が、スネイプの胸を貫いているのは視える。僕は息をのんだ。何も言えない。


…どうしえて、スネイプは僕を助けたのだろう?

僕の父親を、殺したいくらい憎んでいたはずなのに。僕の母親を『穢れた血』って呼んでいたはずなのに……なんで?


僕が呆気にとられている間に、スネイプは動いていた。いまだに短剣を握るアステリアの腕を、両手でがっちりと握り締める。そして、血で染まる唇を開いた。


「この子には…手を出すな」
「っ!?」


スネイプの表情は、相変わらず見ることが出来ない。ただ、アステリアからはスネイプの表情が視えていたのだろう。あれほど怒りで歪んでいたアステリアの表情から、色が消えていく。彼女の表情は、さぁっと青を通り越して白くそまっていき、憎悪の炎を燃やしていた瞳には、驚愕の色がちらり、ちらりと見え始めていた。


「貴方、貴方は……何を!」


アステリアの声が震えている。きっと、彼女にとってもスネイプのこの行動は、計算外だったのかもしれない。


「そうだな。……では、我輩と一緒に、地獄へ落ちてもらおうか」


魔法薬学の授業をしている時みたいな、どこか人を馬鹿にしたような口調でスネイプは呟く。そして、アステリアの腕を握りしめたまま天文台の桟へ近づいていく。


「な、何するんですか!…やめっ、止めててください!離してください!!」


アステリアは必死に力を籠め、スネイプの拘束から逃れようとする。しかし、スネイプはビクともしない。


「ま、待ってください!!」


僕は叫ぶ。
桟に近づくスネイプが何を考えているのか、いくら僕でも分かる。スネイプ先生が今からやろうとしている方法で、確実にアステリアを行動不能にできる。だけど、他にも方法があるのではないかって思わずにはいられないのだ。慌ててスネイプに駆け寄ろうと一歩前に出る、が……


「来るな!」


空気をビリッと振動させるくらい大きなスネイプの声が、空間を貫く。僕は、その場に立ち尽くしてしまった。逃れようと暴れていたアステリアでさえ、動きを止めてしまった。


この一瞬が、勝敗を分けることになった。


アステリアの身体を寄せ、スネイプは桟を飛び越える。

桟の向こうに消える瞬間のアステリアの表情は視えなかった。だけど、スネイプは、僕の瞳を見て……静かな微笑を浮かべていた。どこか救われたような、それでいて淋しげな微笑を……




唖然とした僕が見つめる中、2人の男女が、夜の闇へと吸い込まれていった。





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『謎のプリンス編』、これにて完結です。
次話から、最終章『死の秘宝編』に入ります。

ついに、正真正銘ラストスパート。
これからも、寺町朱穂をよろしくお願いします!!

※3月1日…一部訂正




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