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No.33878の一覧
[0] 【完結】スリザリンの継承者【ハリポタ×(若干)型月】[寺町 朱穂](2014/02/28 20:08)
[1] [賢者の石編] 1話 深夜の来訪者[寺町 朱穂](2012/10/12 22:58)
[2] 2話 人付き合いは大事[寺町 朱穂](2012/07/08 11:12)
[3] 3話 異文化交流[寺町 朱穂](2012/07/08 11:19)
[4] 4話 9と4分の3番線とホグワーツ特急[寺町 朱穂](2012/07/08 11:24)
[6] 5話 組み分け[寺町 朱穂](2012/07/08 11:26)
[8] 6話 防衛術と魔法薬[寺町 朱穂](2012/07/12 17:37)
[9] 7話 飛行訓練[寺町 朱穂](2012/07/10 10:41)
[10] 8話 私の瞳の色は…?[寺町 朱穂](2012/07/12 17:53)
[11] 9話 ハローウィン[寺町 朱穂](2012/07/10 10:44)
[12] 10話 パーセルタング[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[13] 11話 人を呪わば穴2つ[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[17] 12話 2つの顔を持つ男[寺町 朱穂](2012/08/12 11:05)
[18] 13話 学期末パーティー[寺町 朱穂](2012/07/15 12:26)
[20] [秘密の部屋編]14話 本は心の栄養 [寺町 朱穂](2012/08/12 11:13)
[21] 15話 休み明け[寺町 朱穂](2012/07/15 12:31)
[22] 16話 吠えメールとナルシスト[寺町 朱穂](2012/08/05 16:10)
[23] 17話 継承者の敵よ、気をつけろ[寺町 朱穂](2012/08/07 18:41)
[24] 18話 メリットとデメリットと怪物[寺町 朱穂](2012/08/16 20:36)
[25] 19話 ポリジュース薬とクリスマス[寺町 朱穂](2012/08/16 20:35)
[26] 20話 バレンタインデー[寺町 朱穂](2012/08/16 20:47)
[28] 21話 珍しい名前[寺町 朱穂](2012/08/30 10:29)
[29] 22話 感謝と対面[寺町 朱穂](2012/08/30 10:26)
[30] 23話 一方的な[寺町 朱穂](2012/08/29 23:54)
[31] 【アズカバンの囚人編】24話 ミライ[寺町 朱穂](2012/08/29 23:55)
[32] 25話 ある夏の日に[寺町 朱穂](2012/08/29 23:57)
[33] 26話 休み明けの一時[寺町 朱穂](2012/09/24 09:47)
[34] 27話 吸魂鬼[寺町 朱穂](2012/09/24 09:49)
[35] 28話 魔法生物飼育学[寺町 朱穂](2012/09/20 10:33)
[36] 29話 まね妖怪[寺町 朱穂](2012/09/24 09:56)
[37] 30話 2度あることは3度ある[寺町 朱穂](2012/09/24 09:53)
[38] 31話 本当の幸せ?[寺町 朱穂](2012/09/24 09:59)
[39] 32話 蛇と獅子になりたかった蛇[寺町 朱穂](2012/09/20 10:57)
[40] 33話 6月のある日に[寺町 朱穂](2012/10/04 16:19)
[41] 32.5話 真夜中の散策[寺町 朱穂](2012/10/04 16:26)
[42] 【炎のゴブレット編】34話 遺産[寺町 朱穂](2012/09/24 10:08)
[43] 35話 土下座する魔女[寺町 朱穂](2012/11/17 09:06)
[44] 36話 魔法の目[寺町 朱穂](2012/10/04 16:35)
[45] 37話 SPEW[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[46] 38話 炎のゴブレット[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[48] 39話 イレギュラーの代表選手[寺町 朱穂](2012/10/12 15:39)
[49] 40話 鬼の形相[寺町 朱穂](2012/10/24 23:17)
[50] 41話 強みを生かせ![寺町 朱穂](2012/10/24 23:21)
[51] 42話 第一の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:23)
[52] 43話 予期せぬ課題[寺町 朱穂](2012/10/15 22:38)
[53] 44話 クリスマスの夜[寺町 朱穂](2012/10/18 20:00)
[54] 45話 卵の謎と特ダネ[寺町 朱穂](2012/10/15 23:01)
[55] 46話 第二の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:26)
[56] 47話 久々の休息[寺町 朱穂](2012/10/15 23:26)
[58] 48話 来訪者[寺町 朱穂](2012/10/24 23:31)
[59] 49話 第三の課題[寺町 朱穂](2012/10/15 23:30)
[60] 50話 骨肉…それと…[寺町 朱穂](2012/10/15 23:31)
[61] 51話 墓場での再会[寺町 朱穂](2012/10/24 23:35)
[62] 52話 終わりの夜に[寺町 朱穂](2012/10/15 23:34)
[63] 【不死鳥の騎士団編】53話 カルカロフ逃亡記[寺町 朱穂](2012/10/25 00:20)
[64] 54話 予期せぬ来訪者[寺町 朱穂](2012/11/10 18:49)
[65] 55話 『P』[寺町 朱穂](2012/11/10 19:04)
[66] 56話 ピンクの皮を着たガマガエル[寺町 朱穂](2012/11/10 19:06)
[67] 57話 叫びの屋敷[寺町 朱穂](2012/11/10 19:08)
[68] 58話 ミンビュラス・ミンブルトニア[寺町 朱穂](2012/11/10 19:12)
[69] 59話 ホッグズ・ヘッド[寺町 朱穂](2012/10/25 00:10)
[70] 番外編 君達がいない夏[寺町 朱穂](2012/11/11 09:35)
[71] 60話 再会[寺町 朱穂](2012/11/18 08:04)
[72] 61話 帰ってきた森番[寺町 朱穂](2012/11/11 09:45)
[73] 62話 価値観の相違[寺町 朱穂](2012/11/11 09:57)
[74] 63話 進路指導[寺町 朱穂](2012/11/18 08:12)
[75] 64話 誰よりも深く……[寺町 朱穂](2012/11/18 08:15)
[76] 65話 OWL試験[寺町 朱穂](2012/11/11 10:05)
[77] 66話 霧の都へ[寺町 朱穂](2012/11/18 08:20)
[78] 67話 神秘部の悪魔[寺町 朱穂](2012/11/18 08:26)
[79] 68話 敵討ちの幕開け[寺町 朱穂](2012/11/18 08:40)
[80] 69話 赤い世界[寺町 朱穂](2012/11/18 08:41)
[81] IF最終話 魔法少女プリズマ☆セレネ!?[寺町 朱穂](2012/11/11 10:59)
[82] 【謎のプリンス編】70話:夏のひと時[寺町 朱穂](2012/11/28 18:35)
[83] 71話 夕暮れ時の訪問者[寺町 朱穂](2012/11/18 08:45)
[84] 72話 夜の闇の横丁[寺町 朱穂](2012/12/03 02:06)
[85] 73話 エディンバラの昼下がり[寺町 朱穂](2012/11/28 18:30)
[86] 74話 フェリックス・フェリシス[寺町 朱穂](2012/11/28 18:49)
[87] 75話 スリザリンの印[寺町 朱穂](2012/12/02 18:51)
[88] 76話 『青』[寺町 朱穂](2012/12/15 16:42)
[89] 77話 …気持ち悪い…[寺町 朱穂](2012/12/16 01:58)
[90] 78話 名前[寺町 朱穂](2013/01/01 11:37)
[91] 78.5話 誓い[寺町 朱穂](2012/12/15 16:58)
[92] 79話 秘密の部屋[寺町 朱穂](2012/12/27 19:05)
[93] 80話 問いと解答[寺町 朱穂](2013/01/01 09:58)
[94] 81話 殺意を抱く者達[寺町 朱穂](2013/01/20 15:00)
[95] 番外編 お願い!アステリア相談室[寺町 朱穂](2013/01/06 16:56)
[96] 82話 どうして?[寺町 朱穂](2013/01/20 15:12)
[97] 83話 分からず屋[寺町 朱穂](2013/03/01 18:38)
[98] 84話 そして2人は夜の闇へ[寺町 朱穂](2013/03/01 19:06)
[99] 【死の秘宝編】85話 『死』を超える[寺町 朱穂](2013/03/01 19:25)
[100] 86話 プリベット通り4番地[寺町 朱穂](2013/04/12 09:32)
[101] 87話 午後のひととき[寺町 朱穂](2013/05/07 00:51)
[102] 88話 空港の攻防[寺町 朱穂](2013/05/22 18:22)
[103] 89話 一時の休息[寺町 朱穂](2013/06/01 22:38)
[104] 90話 それぞれの後悔[寺町 朱穂](2013/06/25 10:58)
[105] 91話 護る戦い[寺町 朱穂](2013/07/16 01:00)
[106] 92話 不死への手がかり[寺町 朱穂](2013/09/20 18:48)
[107] 93話 トテナム・コートの回想[寺町 朱穂](2014/01/09 12:02)
[108] 94話 アステリア・グリーングラス[寺町 朱穂](2014/01/09 12:11)
[109] 95話 19年後…[寺町 朱穂](2014/01/10 21:46)
[110] 96話 19年前の夜[寺町 朱穂](2014/01/10 21:48)
[111] 設定&秘話:『アステリア道場』[寺町 朱穂](2014/01/10 21:52)
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[33878] 82話 どうして?
Name: 寺町 朱穂◆20127422 ID:7dfad7d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/20 15:12
校長室を訪れたのは、初めてかもしれない。
華奢な足のテーブルの上では銀の小道具がクルクルと回り、ポッポっと不思議な煙を上げている。入学したばかりの私を『スリザリン寮』に入れた『組み分け帽子』は、奥の方の棚に安置されていた。窓から差し込む蜜色の光が、不思議な剣の入ったガラスケースを照らしている。剣の柄に嵌った深紅のルビーは夕日を浴びて、メラメラと燃え上がっているようだった。……ここは校長室と言うよりも、どこかの美術館みたいだ。


……一目で致死量と分かる血液を吐いたダンブルドアがいなければ……


私は興ざめたように、ダンブルドアの死体を見下ろした。まさか、ノットがいるとは思わなかったが、彼が犯人ではないらしい。
一気にやる気がそがれた気分だ。これだと、危険を冒してまでホグワーツに潜入していた意味がない。まさか、私ではない別の人に殺されるなんて……無様だ、ダンブルドア。


「いったい、だれが蜂蜜酒を送ったのでしょう…」


ハンカチを目に押し付けながら、マクゴナガル先生が呟く。


「マルフォイだ。マルフォイに違いない」


半口を開けたまま起き上がらないダンブルドアを見つめながら、ハリーが断言する。ハリーの発言を耳にしたマクゴナガル先生は、驚いたように目をパチパチさせた。明らかに当惑したようなロンが鼻をすする音が、静かな校長室に響き渡った。


「それはゆゆしき告発ですよ、ポッター」


衝撃を受けたように間を置いた後、マクゴナガル先生が言った。


「証拠がありますか?」
「いいえ」


ハリーは首を横に振ったが、どこか確信のある表情だった。


「マルフォイは何か企んでいます。夏休みに『マダム・マルキンの洋裁店』で左の腕をマルキンに見せるのを避けていました。同じときに『ボージン&バークス』で、ボージンに対して『腕に刻まれた何か』を見せていました。それを見たボージンが怖がっていたのを覚えています。
きっと、マルフォイは『死喰い人』なんです。『死喰い人』で、ダンブルドアを殺そうと企んでいたんだ!」


それを聞いたロンは、聞き飽きたとでもいいそうな表情を浮かべていた。ネビルもジニーも困惑したような表情を浮かべている。だが……ハリーの言い分には一理あると私は感じていた。ちらりと横目をノットの方を向けると、案の定…ノットはそこまで驚いていなかった。スネイプ先生も若干眉間にしわを寄せただけで、そこまで驚いていないような反応をしている。


「あのさ、ハリー。いくらなんでもマルフォイは16歳だぜ?『例のあの人』が、マルフォイなんかを入れると思うか?」
「何言ってんだよ、ロン!!
だけど、ボージンはマルフォイの腕を視た瞬間、驚いていただろ?きっと、あそこに『闇の印』が刻まれていたんだよ!」
「でも………ごめん。僕もロンの言うとおりだと思うよ、ハリー」


すまなそうに身体を縮めながら、ネビルもロンの言い分に同意する。ハリーはイラ立ちを隠せないみたいだ。舌打ちでもしたそうな表情を浮かべると、何か言おうと口を開こうとした。


「アツくなり過ぎだ、ハリー・ポッター」


つい、私は口をはさむ。ハリーは私に対して睨みつけるような視線を向けた。


「アツくなり過ぎ?どこが?」
「冷静になって考えないと、答えにはたどり着けないだろ。あぁ、確かにドラコが『死喰い人』の可能性は0じゃない。例えば…ルシウス・マルフォイの失敗で失墜したマルフォイ家の信頼を取り戻すため『死喰い人』に志願しなければならなかった、とか」


そう言いながら、ノットに視線を投げかける。私が言おうとしていることが通じたのだろう。ノットは眉間にしわを寄せたまま、首を縦に振りおろした。


「セレネの言うとおり、ドラコは『死喰い人』の可能性がある。左腕を見せたがらないしな。ただ……今回の犯人はドラコじゃない」
「マルフォイを、かばっているのか?」


ハリーが疑惑の目でノットを見る。ノットは『まさか』と言うように手を挙げた。


「ダンブルドアが、蜂蜜酒を飲む前に言ってたんだよ。『君と同じ目的の少女からの贈り物』だって。つまり、送り主は少女」


校長室内にどよめきが走る。マクゴナガル先生がノットの言葉の真偽を確かめるように、肖像画に視線を走らせた。だが、ノットの発言を否定する肖像画はいない。


「えっと、じゃあ……ダンブルドアは『自分に敵意を抱いている少女』から送られてきた飲み物を飲んだの?」


ジニーが当惑した顔で言う。マクゴナガル先生は、神妙な表情を浮かべていた。


「ダンブルドアは人を信じることが出来たお方です。滅多なことがないかぎり人を疑うことをしなかった。だから、疑わずに飲んでしまったのでしょう」
「……先生が言ったことが、嘘か本当か分からないけどな」


ノットはマクゴナガル先生を一瞥しながら、ローブの中から手帳を取り出す。そして、机の上に置いてあった高級そうな羽ペンで、手帳に何かを書き込み始めた。


「セレネ・ゴーントを助けようと考えている少女は、俺の思いつく限りこの5人だ」


私達はその手帳を覗き込む。几帳面な字で書かれていた名前は、どれも見覚えのある名前ばかりだった。
ダフネ・グリーングラス、アステリア・グリーングラスの姉妹。ミリセント・ブルストロードとパンジー・パーキンソン。そして、最後にハーマイオニー・グレンジャーと記されている。確かに、この5人は私が仲良くしていた女子生徒だし、他に特別仲良くしていた少女はいない。
つまり、犯人はこの5人のうちの誰かだと考えるのが妥当だろう。


「「グリーングラス姉妹だ!」」


手帳を覗き込んだハリーとロン・ウィーズリーが、ほぼ同時に叫んだ。私は思わず眉間にしわを寄せて、聞き返してしまった。


「グリーングラス姉妹?あのなぁ…アステリアは無鉄砲だけど、こんなバカげたことをしないし、姉のダフネはなおさらだ。ダフネには人を殺すなんてできない」


2つにきゅっと結わいた麦わら色の髪が特徴的な少女と、同じ髪色に赤いリボンが良く映える少女の姿を思い浮かべる。後者のアステリアは私のことを慕ってくれていたが、ここまでのことをするとは思えないし、まだ13歳だ。前者のダフネだったらなおさらするわけがない。
ダフネはスリザリン生にしては珍しくマグル生まれに対して、偏見をあまり持っていない。争いごとを好まず、人を傷つけたがらない。もし、川の激流にのまれたのであれば、私だったら逆らって泳ぎながら岸を目指すだろう。でも、ダフネは身体を丸めるように手足をぎゅっと縮めて、流れに逆らわずに流されていくような……そんな気がする。


だから、ダフネはダンブルドアを殺せない。


「ダフネ・グリーングラスは、魔法薬の成績が一気に上がったじゃないか。きっと、危険な毒薬を作り出すために、魔法薬の知識を深めていたんだよ!」
「それに妹の方だってマルフォイと行動をしていたし。一緒に『ボージン&バークス』に行ってたよな」
「キングス・クロス駅では、僕のことを殴りかかりそうな勢いで突進してきたかと思えば、ダンブルドアの悪口を言っていたし」
「そうだよ!それに僕のことを『ダンブルドアの、掌で踊るピエロです』って言ってたよね!?」


ハリーとロンが、我先にと言わんばかりに言葉を続ける。私は目を丸くしてしまった。ダフネの成績が上がったことは『よくあること』ですませられるが、アステリアの方はそうはいかない。アステリアの行動を聞く限り、ダンブルドアへの『殺意』をかんじてしまうのだ。
まさか、本当にアステリアがこんなことをしたのだろうか?たしかにアステリアは、私のことを『異常』と思えるくらい慕ってくれていた。ダンブルドアを殺害する動機は、アステリアにある。だけど、ダンブルドアに毒を盛るなんて出来るだろうか?


しかし、ハリー達の意見に大人は賛同しなかった。スネイプ先生は首を横に振ったのだ。


「ミス・グリーングラスの可能性は低い」
「どうしてですか!?……先生」


ハリーが苦虫を潰したような表情で、スネイプ先生の発言に喰らいつく。先生は落ち着き払った表情で、答えてくれた。


「逃亡中のセレネ・ゴーントとやり取りする可能性のある生徒『ドラコ・マルフォイ』『ザビニ・ブレーズ』『セオドール・ノット』『グリーングラス姉妹』『ミリセント・ブルストロード』『パンジー・パーキンソン』の郵便物は、魔法省がチェックする決まりになっている。アステリア・グリーングラスが、ダンブルドアと文通をしていた形跡はない」


私は驚いてしまった。まさか、私が迷惑をかけていたなんて…。だが、気がつかれないようにやっていたのだろう。自分の郵便物が視られていたなんて知らなかったノットは、呆然とした表情を浮かべていた。


「…すまん。私のせいで…」
「いや、別にかまわない。……で、スネイプ先生が言う通りなら、パンジーとミリセント、それからダフネも除外…か…」


と言いながら、ノットは手帳に書いた名前に横線を引いていく。残った名前はただ一つ…


「ハーマイオニーがそんなことするわけないだろ!!」


手帳に残された名前を視た途端、ロン・ウィーズリーが叫んだ。顔だけではなく、耳まで赤く染めるくらい、激怒している。


「その、アステリアって子が、直接ダンブルドアに渡したのかもしれないじゃないか!」
「いや、それはないのぅ」


ロンの問いに答えたのは、赤い鼻をした肖像画だった。旧式のパイプを咥えながら、ロンを見下ろしている。


「ダンブルドアは、今学期になってから、ほぼ毎日どこかへ出張していた。たまに帰ってきた日には、校長室にこもって書類整理だ。アステリアなる小娘が蜂蜜酒を渡すなら、この校長室に来なければならない。今学期に入ってから校長室に来た女子生徒はいなかった」


同意を求めるように、赤い鼻の肖像画は他の肖像画の方を向く。他の肖像画たちは首を縦に振り、同意を示した。


「そういえば、どうして私の捕縛にハーマイオニーが来なかったんだ?」


まだ、ダンブルドア死亡のショックが抜けきらないネビルに尋ねる。ネビルは青ざめた表情のまま、教えてくれた。


「今、ハーマイオニーとロンの仲が物凄く悪いんだ。だから、ハーマイオニーは一緒にいなかったんだよ」
「へぇ……」


また、あの二人は喧嘩したのか。確か、私が3年生の時にも、喧嘩して2人が絶縁状態になったことがあった気がする。あの頃のハーマイオニーは、ひどく精神的に不安定だった。『逆転時計』を一日に何回も使い、大量の宿題に追われ、友達からは非難の視線を浴びせられ、本当に辛そうだった。助けてあげたかったが、私はスリザリン生。下手に助け舟を出したら、余計にグリフィンドール生のハーマイオニーを苦しませてしまう。だから、何もできなかった。

今も、頼れる人がいない状態で、追い詰められているのだとしたら……


「…ミス・グレンジャーの可能性が高いですね」


血の気が失せた顔のマクゴナガル先生は、震えながら呟く。


「そんな!」
「ミス・グレンジャーを重要参考人として、呼んできてください」


マクゴナガル先生は、スネイプ先生に命令する。スネイプ先生は一礼をすると、黒いマントを翻して去っていった。それを見届けたマクゴナガル先生は、壁に寄りかかるように立つと、深呼吸を繰り返す。


「あ、あの……僕、思ったんだけど」


ネビルが躊躇いがちに口を開く。この部屋にいるすべての視線がネビルに集まった。ネビルは恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染め、そして…


「だ、ダンブルドア先生の肖像画に犯人の名前を聞くのが、一番早いんじゃ…ないかな?」
「…肖像画?」


気がつくと、マクゴナガル先生の後ろにはダンブルドアの肖像画が現れていた。金で縁取られた肖像画のダンブルドアは、疲れたように眠り込んでいる。

校長室に飾られる肖像画は、校長が死ぬと現れる仕組みになっていたらしい。…と言うことは、ダンブルドアは本当に死んだということだ。毒殺とは、スタンダードな方法だけど、まさか本当に殺されていたとは、いまだに信じられない。


こんなことになるんだったら、さっさと海外へ亡命していればよかった。
マクゴナガル先生とハリーが、肖像画のダンブルドアを起こそうとしている光景が目に入る。私はその光景を、どこか冷めた目で見つめていた。
















SIDE:ダフネ・グリーングラス


何度も立ち止りそうになりながらも、私は走った。なんとしてでも、今晩中に北棟の天文台まで行かなければならない。さっき飲んだ『幸運薬(フェリックス・フェリシス)』が、私に告げていたからだ。あの魔法薬学の最初の授業で貰った黄金色の薬は、一滴口に含んだだけで、無限大な可能性が広がるような、高揚感を身体に染み込ませてくれた。これから、私が目的を達成するために、何をすればよいのかという道案内を、フェリックス・フェリシスがしてくれている。


だから、私は北棟の天文台を目指しているのだった。


不思議なことに道中、誰にも会わなかった。ゴーストともすれ違わなかったし、神出鬼没なミセス・ノリスや管理人のフィルチにも見つからなかった。北棟に通じるドアは、なぜか開いていたし……

今のホグワーツで一番幸運な人物は、私なのだ。そう感じでいた。だからといって、私が計画していたことが『本当に』出来るとは限らないけれど……


天文台には、まだ誰もいなかった。


東の空はすでに藍色に染まり、西の空は蜜色に染まっていた。太陽はすっかり黒ずんだ山際に隠れ、空には無数の飴玉みたいな星々が瞬き始めている。冬の凍てつく寒さが風に乗り、私の頬を突き刺した。分厚いコートや手編みのマフラー、そして手袋で防寒はしてあるけど、天文台は震えるくらい寒い。氷のような城壁に寄りかかり、私は人が来るのを待った。

あの娘に、話を聴かなければならない。私が推測した通りなら、今頃ダンブルドアが死んでしまっているのだ。セレネは確かに助けたいし、人殺しなんてさせたくないけど、だからと言って代わりに誰かを殺すのなんて…間違っている。彼女の計画に気がついた私は、何度も何度も止めようとした。でも、こんな話……人がいるところで話せない。誰かに聞かれたくない。だけど、あの娘は、いつも誰かと一緒にいる。2人だけで話す機会なんて、いくら待っても訪れない。

だから私は、『フェリックス・フェリシス』を飲んだのだ。






「あれ、お姉さま。そこで何してるの?」


現れたのはアステリアだった。
不思議そうに眉を寄せながら、寒さでぶるぶる震えている。私はスッと立ち上がると、アステリアに向き合った。


「アステリア。……私は、貴女に聞きたいことがあるの」


私は言葉を選びながら、アステリアに話しかけた。アステリアは『よく分からない』というような表情を浮かべている。どこか子供っぽさが残る彼女の様子だけ見ると、私のよく知っているアステリアだ。だけど……違う。私はゴクリとつばを飲み込むと、口を開いた。


「聞いたよ、『あの人』を殺そうとしているんでしょ?」
「その通りですよ!だって、あの人達…セレネ先輩をあんな目に合わせたんですから!!」


アステリアはプクッと頬を膨らませる。まるで、目の前のお菓子を取られた子供みたい。私はクスッと笑みをこぼす。


「な、なんで笑うんですか!?」
「だって、まじめにやって勝てるわけないわよ。殺したらね、その分だけの憎しみが生まれるの。それが分からないアステリアは、まだまだ子供だなって」
「うぅ…子供じゃありません!お姉さまこそ…お姉さまこそ、なんでわからないんですか!?お姉さまは、セレネ先輩の豹変を見抜けなかったくせに!!」


グサリとアステリアの言葉が、私の胸に突き刺さる。でも、不思議なことに痛みは感じなかった。私は、痛みに麻痺しているのかもしれない。悲しげな微笑みを浮かべながら、私はアステリアをしっかりと見据えた。


「…そうね、私が見抜けなかったことを、アステリアは見抜いていたのよね。『第二の課題』のときだって私より先に、セレネが溺れかかっていることに気がついていたし」
「そうですよ!まったく…スネイプ先生があんなに足が速いとは覚えていませんでした。もう少し速く走れば、私がセレネ先輩を救出していたのに…」


悔しそうな表情を浮かべたアステリアは、口をとがらせソッポを向いた。私は楽しそうに笑うと、言葉をつづける。


「ふふふ…確かにアステリアの言うとおりかも。知らなかったに、決まってるよね。スネイプ先生が走った姿を見たのは、第二の課題が、初めてだし。私…スネイプ先生は運動音痴っぽいなぁって思ってたよ」
「そうですよ、まったく。あの先生は見かけによらず運動できるってことを、忘れていたなんて」


私とアステリアの笑い声が、天文台に響き渡る。楽しげな笑声が、冬の夜空に反響し…そして、だんだんと小さくなっていく。


「アステリア……貴女は何を知ってるの?」
「えっ?」


アステリアはキョトンと顔を傾ける。私と同じ麦わら色の髪によく映える赤いリボンが、凍てつく風になびいていた。


「前から思ってたの、変だなって。そう…たとえば……どうしてアステリアは、セレネの『苗字』を知っていたの?」


ずっと前から感じていた違和感を、私はようやく口にする。アステリアはポカンと口を開けたまま、動かない。


「どうしたの、お姉さま?セレネ先輩の苗字を知っていたら、何か変なの?」
「変なのよ。だって私……家族の前では一度も『ゴーント』という苗字を口にしていないんだもの」


不注意で『蛇語を話すことが出来る子』とアステリアに漏らしてしまったけど、それ以外の情報は漏らしていない。セレネ自身、アステリアと初めて会った際には『セレネ』と名乗っていた。だから、アステリアがセレネの苗字を知っているわけがないのだ。


「他にもあるわ。私の知るアステリアは、確かに子供っぽい無邪気さがあったけど……貴方のそれは、どこか無理しているように見えるの。まるで、『アステリア・グリーングラス』を演じているみたい」


アステリアは目を大きく見開いたまま、何も答えない。私は堰が切れたように、言葉を紡ぎ続けた。


「ドラコが言ってた…『ボージンと対応したときのアステリアは、自分の知るアステリアと別人だった』。他にも、私がグリーングラス家次期頭首なのに、ドラコは『アステリアが次期頭首だとボージンが言っていた』と教えてくれた。
それに、この間の火遊び事件の後…私、フリットウィック先生に呼び出されて聞かれたわ。
『あり得ないと思うが“悪霊の火”をアステリア嬢は使えるのかい』って。『3年生が“悪霊の火”を使えるわけがない。それに、現場に“花火の燃えカス”が落ちていたから、火遊びとして片づけたが…それにしては、あの城壁の焼け方は異常だ』…そう聞かれたの」


グリーングラス家では、ホグワーツ入学前から家庭教師を雇って勉強を重ねていた。確かに魔法の腕は私よりアステリアの方が遥かに上だったけど、五十歩百歩。アステリアには何故か私とは違う家庭教師がついていたけど、でも……『悪霊の火』なんて禁忌に該当する魔法を教わるわけがない。私だって、『悪霊の火』を知ったのは、最近。それも、教科書のコラムページに存在がわずかに記されていただけで、詳しい理論なんて習っていないのだ。とても……たった13歳の魔女見習いが出来る魔法ではない。


「貴女は、本当にアステリア・グリーングラスなの?本当に私の妹なの?」


言葉にしてはいけない。でも、心のどこかでずっと思い続けてきたことを、ようやく口にする。


「馬鹿げているよね、実の妹にこんなことを言うなんて。出来れば、違うって否定して欲しいの。この考えには、ありえない点が多いから。……違うって言ってくれるなら、私は謝るよ」


アステリアは私の大切な妹だから、こんなこと思いたくない。きっと、私の推理違いだったんだ。そう思いたいけど、その一方で、そんな甘い考えにすがる私を許さない自分がいる。
アステリアは何も答えない。驚いた表情を変えずに、私を見つめている。私と同じセピア色の瞳を見開いて。




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すみません!もう少し『謎のプリンス編』は続きます!

1月20日…一部訂正



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