校長室を訪れたのは、初めてかもしれない。
華奢な足のテーブルの上では銀の小道具がクルクルと回り、ポッポっと不思議な煙を上げている。入学したばかりの私を『スリザリン寮』に入れた『組み分け帽子』は、奥の方の棚に安置されていた。窓から差し込む蜜色の光が、不思議な剣の入ったガラスケースを照らしている。剣の柄に嵌った深紅のルビーは夕日を浴びて、メラメラと燃え上がっているようだった。……ここは校長室と言うよりも、どこかの美術館みたいだ。
……一目で致死量と分かる血液を吐いたダンブルドアがいなければ……
私は興ざめたように、ダンブルドアの死体を見下ろした。まさか、ノットがいるとは思わなかったが、彼が犯人ではないらしい。
一気にやる気がそがれた気分だ。これだと、危険を冒してまでホグワーツに潜入していた意味がない。まさか、私ではない別の人に殺されるなんて……無様だ、ダンブルドア。
「いったい、だれが蜂蜜酒を送ったのでしょう…」
ハンカチを目に押し付けながら、マクゴナガル先生が呟く。
「マルフォイだ。マルフォイに違いない」
半口を開けたまま起き上がらないダンブルドアを見つめながら、ハリーが断言する。ハリーの発言を耳にしたマクゴナガル先生は、驚いたように目をパチパチさせた。明らかに当惑したようなロンが鼻をすする音が、静かな校長室に響き渡った。
「それはゆゆしき告発ですよ、ポッター」
衝撃を受けたように間を置いた後、マクゴナガル先生が言った。
「証拠がありますか?」
「いいえ」
ハリーは首を横に振ったが、どこか確信のある表情だった。
「マルフォイは何か企んでいます。夏休みに『マダム・マルキンの洋裁店』で左の腕をマルキンに見せるのを避けていました。同じときに『ボージン&バークス』で、ボージンに対して『腕に刻まれた何か』を見せていました。それを見たボージンが怖がっていたのを覚えています。
きっと、マルフォイは『死喰い人』なんです。『死喰い人』で、ダンブルドアを殺そうと企んでいたんだ!」
それを聞いたロンは、聞き飽きたとでもいいそうな表情を浮かべていた。ネビルもジニーも困惑したような表情を浮かべている。だが……ハリーの言い分には一理あると私は感じていた。ちらりと横目をノットの方を向けると、案の定…ノットはそこまで驚いていなかった。スネイプ先生も若干眉間にしわを寄せただけで、そこまで驚いていないような反応をしている。
「あのさ、ハリー。いくらなんでもマルフォイは16歳だぜ?『例のあの人』が、マルフォイなんかを入れると思うか?」
「何言ってんだよ、ロン!!
だけど、ボージンはマルフォイの腕を視た瞬間、驚いていただろ?きっと、あそこに『闇の印』が刻まれていたんだよ!」
「でも………ごめん。僕もロンの言うとおりだと思うよ、ハリー」
すまなそうに身体を縮めながら、ネビルもロンの言い分に同意する。ハリーはイラ立ちを隠せないみたいだ。舌打ちでもしたそうな表情を浮かべると、何か言おうと口を開こうとした。
「アツくなり過ぎだ、ハリー・ポッター」
つい、私は口をはさむ。ハリーは私に対して睨みつけるような視線を向けた。
「アツくなり過ぎ?どこが?」
「冷静になって考えないと、答えにはたどり着けないだろ。あぁ、確かにドラコが『死喰い人』の可能性は0じゃない。例えば…ルシウス・マルフォイの失敗で失墜したマルフォイ家の信頼を取り戻すため『死喰い人』に志願しなければならなかった、とか」
そう言いながら、ノットに視線を投げかける。私が言おうとしていることが通じたのだろう。ノットは眉間にしわを寄せたまま、首を縦に振りおろした。
「セレネの言うとおり、ドラコは『死喰い人』の可能性がある。左腕を見せたがらないしな。ただ……今回の犯人はドラコじゃない」
「マルフォイを、かばっているのか?」
ハリーが疑惑の目でノットを見る。ノットは『まさか』と言うように手を挙げた。
「ダンブルドアが、蜂蜜酒を飲む前に言ってたんだよ。『君と同じ目的の少女からの贈り物』だって。つまり、送り主は少女」
校長室内にどよめきが走る。マクゴナガル先生がノットの言葉の真偽を確かめるように、肖像画に視線を走らせた。だが、ノットの発言を否定する肖像画はいない。
「えっと、じゃあ……ダンブルドアは『自分に敵意を抱いている少女』から送られてきた飲み物を飲んだの?」
ジニーが当惑した顔で言う。マクゴナガル先生は、神妙な表情を浮かべていた。
「ダンブルドアは人を信じることが出来たお方です。滅多なことがないかぎり人を疑うことをしなかった。だから、疑わずに飲んでしまったのでしょう」
「……先生が言ったことが、嘘か本当か分からないけどな」
ノットはマクゴナガル先生を一瞥しながら、ローブの中から手帳を取り出す。そして、机の上に置いてあった高級そうな羽ペンで、手帳に何かを書き込み始めた。
「セレネ・ゴーントを助けようと考えている少女は、俺の思いつく限りこの5人だ」
私達はその手帳を覗き込む。几帳面な字で書かれていた名前は、どれも見覚えのある名前ばかりだった。
ダフネ・グリーングラス、アステリア・グリーングラスの姉妹。ミリセント・ブルストロードとパンジー・パーキンソン。そして、最後にハーマイオニー・グレンジャーと記されている。確かに、この5人は私が仲良くしていた女子生徒だし、他に特別仲良くしていた少女はいない。
つまり、犯人はこの5人のうちの誰かだと考えるのが妥当だろう。
「「グリーングラス姉妹だ!」」
手帳を覗き込んだハリーとロン・ウィーズリーが、ほぼ同時に叫んだ。私は思わず眉間にしわを寄せて、聞き返してしまった。
「グリーングラス姉妹?あのなぁ…アステリアは無鉄砲だけど、こんなバカげたことをしないし、姉のダフネはなおさらだ。ダフネには人を殺すなんてできない」
2つにきゅっと結わいた麦わら色の髪が特徴的な少女と、同じ髪色に赤いリボンが良く映える少女の姿を思い浮かべる。後者のアステリアは私のことを慕ってくれていたが、ここまでのことをするとは思えないし、まだ13歳だ。前者のダフネだったらなおさらするわけがない。
ダフネはスリザリン生にしては珍しくマグル生まれに対して、偏見をあまり持っていない。争いごとを好まず、人を傷つけたがらない。もし、川の激流にのまれたのであれば、私だったら逆らって泳ぎながら岸を目指すだろう。でも、ダフネは身体を丸めるように手足をぎゅっと縮めて、流れに逆らわずに流されていくような……そんな気がする。
だから、ダフネはダンブルドアを殺せない。
「ダフネ・グリーングラスは、魔法薬の成績が一気に上がったじゃないか。きっと、危険な毒薬を作り出すために、魔法薬の知識を深めていたんだよ!」
「それに妹の方だってマルフォイと行動をしていたし。一緒に『ボージン&バークス』に行ってたよな」
「キングス・クロス駅では、僕のことを殴りかかりそうな勢いで突進してきたかと思えば、ダンブルドアの悪口を言っていたし」
「そうだよ!それに僕のことを『ダンブルドアの、掌で踊るピエロです』って言ってたよね!?」
ハリーとロンが、我先にと言わんばかりに言葉を続ける。私は目を丸くしてしまった。ダフネの成績が上がったことは『よくあること』ですませられるが、アステリアの方はそうはいかない。アステリアの行動を聞く限り、ダンブルドアへの『殺意』をかんじてしまうのだ。
まさか、本当にアステリアがこんなことをしたのだろうか?たしかにアステリアは、私のことを『異常』と思えるくらい慕ってくれていた。ダンブルドアを殺害する動機は、アステリアにある。だけど、ダンブルドアに毒を盛るなんて出来るだろうか?
しかし、ハリー達の意見に大人は賛同しなかった。スネイプ先生は首を横に振ったのだ。
「ミス・グリーングラスの可能性は低い」
「どうしてですか!?……先生」
ハリーが苦虫を潰したような表情で、スネイプ先生の発言に喰らいつく。先生は落ち着き払った表情で、答えてくれた。
「逃亡中のセレネ・ゴーントとやり取りする可能性のある生徒『ドラコ・マルフォイ』『ザビニ・ブレーズ』『セオドール・ノット』『グリーングラス姉妹』『ミリセント・ブルストロード』『パンジー・パーキンソン』の郵便物は、魔法省がチェックする決まりになっている。アステリア・グリーングラスが、ダンブルドアと文通をしていた形跡はない」
私は驚いてしまった。まさか、私が迷惑をかけていたなんて…。だが、気がつかれないようにやっていたのだろう。自分の郵便物が視られていたなんて知らなかったノットは、呆然とした表情を浮かべていた。
「…すまん。私のせいで…」
「いや、別にかまわない。……で、スネイプ先生が言う通りなら、パンジーとミリセント、それからダフネも除外…か…」
と言いながら、ノットは手帳に書いた名前に横線を引いていく。残った名前はただ一つ…
「ハーマイオニーがそんなことするわけないだろ!!」
手帳に残された名前を視た途端、ロン・ウィーズリーが叫んだ。顔だけではなく、耳まで赤く染めるくらい、激怒している。
「その、アステリアって子が、直接ダンブルドアに渡したのかもしれないじゃないか!」
「いや、それはないのぅ」
ロンの問いに答えたのは、赤い鼻をした肖像画だった。旧式のパイプを咥えながら、ロンを見下ろしている。
「ダンブルドアは、今学期になってから、ほぼ毎日どこかへ出張していた。たまに帰ってきた日には、校長室にこもって書類整理だ。アステリアなる小娘が蜂蜜酒を渡すなら、この校長室に来なければならない。今学期に入ってから校長室に来た女子生徒はいなかった」
同意を求めるように、赤い鼻の肖像画は他の肖像画の方を向く。他の肖像画たちは首を縦に振り、同意を示した。
「そういえば、どうして私の捕縛にハーマイオニーが来なかったんだ?」
まだ、ダンブルドア死亡のショックが抜けきらないネビルに尋ねる。ネビルは青ざめた表情のまま、教えてくれた。
「今、ハーマイオニーとロンの仲が物凄く悪いんだ。だから、ハーマイオニーは一緒にいなかったんだよ」
「へぇ……」
また、あの二人は喧嘩したのか。確か、私が3年生の時にも、喧嘩して2人が絶縁状態になったことがあった気がする。あの頃のハーマイオニーは、ひどく精神的に不安定だった。『逆転時計』を一日に何回も使い、大量の宿題に追われ、友達からは非難の視線を浴びせられ、本当に辛そうだった。助けてあげたかったが、私はスリザリン生。下手に助け舟を出したら、余計にグリフィンドール生のハーマイオニーを苦しませてしまう。だから、何もできなかった。
今も、頼れる人がいない状態で、追い詰められているのだとしたら……
「…ミス・グレンジャーの可能性が高いですね」
血の気が失せた顔のマクゴナガル先生は、震えながら呟く。
「そんな!」
「ミス・グレンジャーを重要参考人として、呼んできてください」
マクゴナガル先生は、スネイプ先生に命令する。スネイプ先生は一礼をすると、黒いマントを翻して去っていった。それを見届けたマクゴナガル先生は、壁に寄りかかるように立つと、深呼吸を繰り返す。
「あ、あの……僕、思ったんだけど」
ネビルが躊躇いがちに口を開く。この部屋にいるすべての視線がネビルに集まった。ネビルは恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染め、そして…
「だ、ダンブルドア先生の肖像画に犯人の名前を聞くのが、一番早いんじゃ…ないかな?」
「…肖像画?」
気がつくと、マクゴナガル先生の後ろにはダンブルドアの肖像画が現れていた。金で縁取られた肖像画のダンブルドアは、疲れたように眠り込んでいる。
校長室に飾られる肖像画は、校長が死ぬと現れる仕組みになっていたらしい。…と言うことは、ダンブルドアは本当に死んだということだ。毒殺とは、スタンダードな方法だけど、まさか本当に殺されていたとは、いまだに信じられない。
こんなことになるんだったら、さっさと海外へ亡命していればよかった。
マクゴナガル先生とハリーが、肖像画のダンブルドアを起こそうとしている光景が目に入る。私はその光景を、どこか冷めた目で見つめていた。
SIDE:ダフネ・グリーングラス
何度も立ち止りそうになりながらも、私は走った。なんとしてでも、今晩中に北棟の天文台まで行かなければならない。さっき飲んだ『幸運薬(フェリックス・フェリシス)』が、私に告げていたからだ。あの魔法薬学の最初の授業で貰った黄金色の薬は、一滴口に含んだだけで、無限大な可能性が広がるような、高揚感を身体に染み込ませてくれた。これから、私が目的を達成するために、何をすればよいのかという道案内を、フェリックス・フェリシスがしてくれている。
だから、私は北棟の天文台を目指しているのだった。
不思議なことに道中、誰にも会わなかった。ゴーストともすれ違わなかったし、神出鬼没なミセス・ノリスや管理人のフィルチにも見つからなかった。北棟に通じるドアは、なぜか開いていたし……
今のホグワーツで一番幸運な人物は、私なのだ。そう感じでいた。だからといって、私が計画していたことが『本当に』出来るとは限らないけれど……
天文台には、まだ誰もいなかった。
東の空はすでに藍色に染まり、西の空は蜜色に染まっていた。太陽はすっかり黒ずんだ山際に隠れ、空には無数の飴玉みたいな星々が瞬き始めている。冬の凍てつく寒さが風に乗り、私の頬を突き刺した。分厚いコートや手編みのマフラー、そして手袋で防寒はしてあるけど、天文台は震えるくらい寒い。氷のような城壁に寄りかかり、私は人が来るのを待った。
あの娘に、話を聴かなければならない。私が推測した通りなら、今頃ダンブルドアが死んでしまっているのだ。セレネは確かに助けたいし、人殺しなんてさせたくないけど、だからと言って代わりに誰かを殺すのなんて…間違っている。彼女の計画に気がついた私は、何度も何度も止めようとした。でも、こんな話……人がいるところで話せない。誰かに聞かれたくない。だけど、あの娘は、いつも誰かと一緒にいる。2人だけで話す機会なんて、いくら待っても訪れない。
だから私は、『フェリックス・フェリシス』を飲んだのだ。
「あれ、お姉さま。そこで何してるの?」
現れたのはアステリアだった。
不思議そうに眉を寄せながら、寒さでぶるぶる震えている。私はスッと立ち上がると、アステリアに向き合った。
「アステリア。……私は、貴女に聞きたいことがあるの」
私は言葉を選びながら、アステリアに話しかけた。アステリアは『よく分からない』というような表情を浮かべている。どこか子供っぽさが残る彼女の様子だけ見ると、私のよく知っているアステリアだ。だけど……違う。私はゴクリとつばを飲み込むと、口を開いた。
「聞いたよ、『あの人』を殺そうとしているんでしょ?」
「その通りですよ!だって、あの人達…セレネ先輩をあんな目に合わせたんですから!!」
アステリアはプクッと頬を膨らませる。まるで、目の前のお菓子を取られた子供みたい。私はクスッと笑みをこぼす。
「な、なんで笑うんですか!?」
「だって、まじめにやって勝てるわけないわよ。殺したらね、その分だけの憎しみが生まれるの。それが分からないアステリアは、まだまだ子供だなって」
「うぅ…子供じゃありません!お姉さまこそ…お姉さまこそ、なんでわからないんですか!?お姉さまは、セレネ先輩の豹変を見抜けなかったくせに!!」
グサリとアステリアの言葉が、私の胸に突き刺さる。でも、不思議なことに痛みは感じなかった。私は、痛みに麻痺しているのかもしれない。悲しげな微笑みを浮かべながら、私はアステリアをしっかりと見据えた。
「…そうね、私が見抜けなかったことを、アステリアは見抜いていたのよね。『第二の課題』のときだって私より先に、セレネが溺れかかっていることに気がついていたし」
「そうですよ!まったく…スネイプ先生があんなに足が速いとは覚えていませんでした。もう少し速く走れば、私がセレネ先輩を救出していたのに…」
悔しそうな表情を浮かべたアステリアは、口をとがらせソッポを向いた。私は楽しそうに笑うと、言葉をつづける。
「ふふふ…確かにアステリアの言うとおりかも。知らなかったに、決まってるよね。スネイプ先生が走った姿を見たのは、第二の課題が、初めてだし。私…スネイプ先生は運動音痴っぽいなぁって思ってたよ」
「そうですよ、まったく。あの先生は見かけによらず運動できるってことを、忘れていたなんて」
私とアステリアの笑い声が、天文台に響き渡る。楽しげな笑声が、冬の夜空に反響し…そして、だんだんと小さくなっていく。
「アステリア……貴女は何を知ってるの?」
「えっ?」
アステリアはキョトンと顔を傾ける。私と同じ麦わら色の髪によく映える赤いリボンが、凍てつく風になびいていた。
「前から思ってたの、変だなって。そう…たとえば……どうしてアステリアは、セレネの『苗字』を知っていたの?」
ずっと前から感じていた違和感を、私はようやく口にする。アステリアはポカンと口を開けたまま、動かない。
「どうしたの、お姉さま?セレネ先輩の苗字を知っていたら、何か変なの?」
「変なのよ。だって私……家族の前では一度も『ゴーント』という苗字を口にしていないんだもの」
不注意で『蛇語を話すことが出来る子』とアステリアに漏らしてしまったけど、それ以外の情報は漏らしていない。セレネ自身、アステリアと初めて会った際には『セレネ』と名乗っていた。だから、アステリアがセレネの苗字を知っているわけがないのだ。
「他にもあるわ。私の知るアステリアは、確かに子供っぽい無邪気さがあったけど……貴方のそれは、どこか無理しているように見えるの。まるで、『アステリア・グリーングラス』を演じているみたい」
アステリアは目を大きく見開いたまま、何も答えない。私は堰が切れたように、言葉を紡ぎ続けた。
「ドラコが言ってた…『ボージンと対応したときのアステリアは、自分の知るアステリアと別人だった』。他にも、私がグリーングラス家次期頭首なのに、ドラコは『アステリアが次期頭首だとボージンが言っていた』と教えてくれた。
それに、この間の火遊び事件の後…私、フリットウィック先生に呼び出されて聞かれたわ。
『あり得ないと思うが“悪霊の火”をアステリア嬢は使えるのかい』って。『3年生が“悪霊の火”を使えるわけがない。それに、現場に“花火の燃えカス”が落ちていたから、火遊びとして片づけたが…それにしては、あの城壁の焼け方は異常だ』…そう聞かれたの」
グリーングラス家では、ホグワーツ入学前から家庭教師を雇って勉強を重ねていた。確かに魔法の腕は私よりアステリアの方が遥かに上だったけど、五十歩百歩。アステリアには何故か私とは違う家庭教師がついていたけど、でも……『悪霊の火』なんて禁忌に該当する魔法を教わるわけがない。私だって、『悪霊の火』を知ったのは、最近。それも、教科書のコラムページに存在がわずかに記されていただけで、詳しい理論なんて習っていないのだ。とても……たった13歳の魔女見習いが出来る魔法ではない。
「貴女は、本当にアステリア・グリーングラスなの?本当に私の妹なの?」
言葉にしてはいけない。でも、心のどこかでずっと思い続けてきたことを、ようやく口にする。
「馬鹿げているよね、実の妹にこんなことを言うなんて。出来れば、違うって否定して欲しいの。この考えには、ありえない点が多いから。……違うって言ってくれるなら、私は謝るよ」
アステリアは私の大切な妹だから、こんなこと思いたくない。きっと、私の推理違いだったんだ。そう思いたいけど、その一方で、そんな甘い考えにすがる私を許さない自分がいる。
アステリアは何も答えない。驚いた表情を変えずに、私を見つめている。私と同じセピア色の瞳を見開いて。
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すみません!もう少し『謎のプリンス編』は続きます!
1月20日…一部訂正