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No.33878の一覧
[0] 【完結】スリザリンの継承者【ハリポタ×(若干)型月】[寺町 朱穂](2014/02/28 20:08)
[1] [賢者の石編] 1話 深夜の来訪者[寺町 朱穂](2012/10/12 22:58)
[2] 2話 人付き合いは大事[寺町 朱穂](2012/07/08 11:12)
[3] 3話 異文化交流[寺町 朱穂](2012/07/08 11:19)
[4] 4話 9と4分の3番線とホグワーツ特急[寺町 朱穂](2012/07/08 11:24)
[6] 5話 組み分け[寺町 朱穂](2012/07/08 11:26)
[8] 6話 防衛術と魔法薬[寺町 朱穂](2012/07/12 17:37)
[9] 7話 飛行訓練[寺町 朱穂](2012/07/10 10:41)
[10] 8話 私の瞳の色は…?[寺町 朱穂](2012/07/12 17:53)
[11] 9話 ハローウィン[寺町 朱穂](2012/07/10 10:44)
[12] 10話 パーセルタング[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[13] 11話 人を呪わば穴2つ[寺町 朱穂](2012/07/10 10:48)
[17] 12話 2つの顔を持つ男[寺町 朱穂](2012/08/12 11:05)
[18] 13話 学期末パーティー[寺町 朱穂](2012/07/15 12:26)
[20] [秘密の部屋編]14話 本は心の栄養 [寺町 朱穂](2012/08/12 11:13)
[21] 15話 休み明け[寺町 朱穂](2012/07/15 12:31)
[22] 16話 吠えメールとナルシスト[寺町 朱穂](2012/08/05 16:10)
[23] 17話 継承者の敵よ、気をつけろ[寺町 朱穂](2012/08/07 18:41)
[24] 18話 メリットとデメリットと怪物[寺町 朱穂](2012/08/16 20:36)
[25] 19話 ポリジュース薬とクリスマス[寺町 朱穂](2012/08/16 20:35)
[26] 20話 バレンタインデー[寺町 朱穂](2012/08/16 20:47)
[28] 21話 珍しい名前[寺町 朱穂](2012/08/30 10:29)
[29] 22話 感謝と対面[寺町 朱穂](2012/08/30 10:26)
[30] 23話 一方的な[寺町 朱穂](2012/08/29 23:54)
[31] 【アズカバンの囚人編】24話 ミライ[寺町 朱穂](2012/08/29 23:55)
[32] 25話 ある夏の日に[寺町 朱穂](2012/08/29 23:57)
[33] 26話 休み明けの一時[寺町 朱穂](2012/09/24 09:47)
[34] 27話 吸魂鬼[寺町 朱穂](2012/09/24 09:49)
[35] 28話 魔法生物飼育学[寺町 朱穂](2012/09/20 10:33)
[36] 29話 まね妖怪[寺町 朱穂](2012/09/24 09:56)
[37] 30話 2度あることは3度ある[寺町 朱穂](2012/09/24 09:53)
[38] 31話 本当の幸せ?[寺町 朱穂](2012/09/24 09:59)
[39] 32話 蛇と獅子になりたかった蛇[寺町 朱穂](2012/09/20 10:57)
[40] 33話 6月のある日に[寺町 朱穂](2012/10/04 16:19)
[41] 32.5話 真夜中の散策[寺町 朱穂](2012/10/04 16:26)
[42] 【炎のゴブレット編】34話 遺産[寺町 朱穂](2012/09/24 10:08)
[43] 35話 土下座する魔女[寺町 朱穂](2012/11/17 09:06)
[44] 36話 魔法の目[寺町 朱穂](2012/10/04 16:35)
[45] 37話 SPEW[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[46] 38話 炎のゴブレット[寺町 朱穂](2012/10/12 15:15)
[48] 39話 イレギュラーの代表選手[寺町 朱穂](2012/10/12 15:39)
[49] 40話 鬼の形相[寺町 朱穂](2012/10/24 23:17)
[50] 41話 強みを生かせ![寺町 朱穂](2012/10/24 23:21)
[51] 42話 第一の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:23)
[52] 43話 予期せぬ課題[寺町 朱穂](2012/10/15 22:38)
[53] 44話 クリスマスの夜[寺町 朱穂](2012/10/18 20:00)
[54] 45話 卵の謎と特ダネ[寺町 朱穂](2012/10/15 23:01)
[55] 46話 第二の課題[寺町 朱穂](2012/10/24 23:26)
[56] 47話 久々の休息[寺町 朱穂](2012/10/15 23:26)
[58] 48話 来訪者[寺町 朱穂](2012/10/24 23:31)
[59] 49話 第三の課題[寺町 朱穂](2012/10/15 23:30)
[60] 50話 骨肉…それと…[寺町 朱穂](2012/10/15 23:31)
[61] 51話 墓場での再会[寺町 朱穂](2012/10/24 23:35)
[62] 52話 終わりの夜に[寺町 朱穂](2012/10/15 23:34)
[63] 【不死鳥の騎士団編】53話 カルカロフ逃亡記[寺町 朱穂](2012/10/25 00:20)
[64] 54話 予期せぬ来訪者[寺町 朱穂](2012/11/10 18:49)
[65] 55話 『P』[寺町 朱穂](2012/11/10 19:04)
[66] 56話 ピンクの皮を着たガマガエル[寺町 朱穂](2012/11/10 19:06)
[67] 57話 叫びの屋敷[寺町 朱穂](2012/11/10 19:08)
[68] 58話 ミンビュラス・ミンブルトニア[寺町 朱穂](2012/11/10 19:12)
[69] 59話 ホッグズ・ヘッド[寺町 朱穂](2012/10/25 00:10)
[70] 番外編 君達がいない夏[寺町 朱穂](2012/11/11 09:35)
[71] 60話 再会[寺町 朱穂](2012/11/18 08:04)
[72] 61話 帰ってきた森番[寺町 朱穂](2012/11/11 09:45)
[73] 62話 価値観の相違[寺町 朱穂](2012/11/11 09:57)
[74] 63話 進路指導[寺町 朱穂](2012/11/18 08:12)
[75] 64話 誰よりも深く……[寺町 朱穂](2012/11/18 08:15)
[76] 65話 OWL試験[寺町 朱穂](2012/11/11 10:05)
[77] 66話 霧の都へ[寺町 朱穂](2012/11/18 08:20)
[78] 67話 神秘部の悪魔[寺町 朱穂](2012/11/18 08:26)
[79] 68話 敵討ちの幕開け[寺町 朱穂](2012/11/18 08:40)
[80] 69話 赤い世界[寺町 朱穂](2012/11/18 08:41)
[81] IF最終話 魔法少女プリズマ☆セレネ!?[寺町 朱穂](2012/11/11 10:59)
[82] 【謎のプリンス編】70話:夏のひと時[寺町 朱穂](2012/11/28 18:35)
[83] 71話 夕暮れ時の訪問者[寺町 朱穂](2012/11/18 08:45)
[84] 72話 夜の闇の横丁[寺町 朱穂](2012/12/03 02:06)
[85] 73話 エディンバラの昼下がり[寺町 朱穂](2012/11/28 18:30)
[86] 74話 フェリックス・フェリシス[寺町 朱穂](2012/11/28 18:49)
[87] 75話 スリザリンの印[寺町 朱穂](2012/12/02 18:51)
[88] 76話 『青』[寺町 朱穂](2012/12/15 16:42)
[89] 77話 …気持ち悪い…[寺町 朱穂](2012/12/16 01:58)
[90] 78話 名前[寺町 朱穂](2013/01/01 11:37)
[91] 78.5話 誓い[寺町 朱穂](2012/12/15 16:58)
[92] 79話 秘密の部屋[寺町 朱穂](2012/12/27 19:05)
[93] 80話 問いと解答[寺町 朱穂](2013/01/01 09:58)
[94] 81話 殺意を抱く者達[寺町 朱穂](2013/01/20 15:00)
[95] 番外編 お願い!アステリア相談室[寺町 朱穂](2013/01/06 16:56)
[96] 82話 どうして?[寺町 朱穂](2013/01/20 15:12)
[97] 83話 分からず屋[寺町 朱穂](2013/03/01 18:38)
[98] 84話 そして2人は夜の闇へ[寺町 朱穂](2013/03/01 19:06)
[99] 【死の秘宝編】85話 『死』を超える[寺町 朱穂](2013/03/01 19:25)
[100] 86話 プリベット通り4番地[寺町 朱穂](2013/04/12 09:32)
[101] 87話 午後のひととき[寺町 朱穂](2013/05/07 00:51)
[102] 88話 空港の攻防[寺町 朱穂](2013/05/22 18:22)
[103] 89話 一時の休息[寺町 朱穂](2013/06/01 22:38)
[104] 90話 それぞれの後悔[寺町 朱穂](2013/06/25 10:58)
[105] 91話 護る戦い[寺町 朱穂](2013/07/16 01:00)
[106] 92話 不死への手がかり[寺町 朱穂](2013/09/20 18:48)
[107] 93話 トテナム・コートの回想[寺町 朱穂](2014/01/09 12:02)
[108] 94話 アステリア・グリーングラス[寺町 朱穂](2014/01/09 12:11)
[109] 95話 19年後…[寺町 朱穂](2014/01/10 21:46)
[110] 96話 19年前の夜[寺町 朱穂](2014/01/10 21:48)
[111] 設定&秘話:『アステリア道場』[寺町 朱穂](2014/01/10 21:52)
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[33878] 73話 エディンバラの昼下がり
Name: 寺町 朱穂◆ef52c802 ID:7dfad7d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/28 18:30

平日の正午前なのに人通りの多いのは、残り日数は少ないとはいえ、まだ夏休みだからだろうか。汗を垂らしながら、どこか楽しげに行き交う人混みの中、私は誰の注意を引くこともなく歩いていた。顔を隠すためにキャップ帽を深くかぶり、魔法で背中まで伸ばした髪が風に遊ばせながら、足早に待ち合わせの場所へと向かう。


世界中に展開している大手ファーストフード店に入ると、合う約束をしていた人物の姿は見当たらなかった。店内の時計を見ると、まだ約束の時間より5分程早い。私は、1番安いハンバーガーのセットを注文し、窓から離れた位置の4人掛けの席に腰を下ろした。久しぶりに飲んだシェイクの甘い味が口の中に広がる。


「待ったかな?」


約束の人物『衛宮切嗣』と『久宇舞弥』は、待ち合わせ時間ちょうどに現れた。外国人、しかも東洋系である2人はイギリスでは目立つ。でも、この町ではそこまで目立たない。なにせここはイギリス北部の観光地『エディンバラ』。ロンドンの次に人気のある観光地として知られているから、東洋系の人をみかけてもおかしくはない。本当は勝手を知ったロンドンで待ち合わせをしたかったが、切嗣曰く『念には念を』ということらしい。
私は、向かい合うように席に座った2人に対し、黙って首を横に振る。


「それで、約束の物は?」


そういうと、舞弥が手にしていた鞄の口を小さく開けた。…中には先学期に私が頼んでおいたモノが入っている。あの時は、こんな形で受け取ることになるなんて思わなかった。私は鞄を舞弥から、そっと受け取る。予想以上に鞄は重く、落としそうになってしまった。


「確かに受け取った」
「あぁ……それにしても、君に関する記事を読んだよ。失敗したみたいだね」


煙草に火をつけながら私に話しかける切嗣。彼の表情から、何を考えているのか読み取れない。とりあえず、私は苦笑を浮かべた。


「感情的になり過ぎた。次は失敗しない」
「じゃあ、まだ『破れぬ誓い』は続いているみたいだね」


夏だというのに日焼けをしていない私の白い左腕を、切嗣は横目で見た。私は目を細め、その腕をそっと擦る。


「…あぁ」

ヴォルデモートと結んだ『破れぬ誓い』。そのせいで、私はダンブルドアを殺さない限りヴォルデモートに危害を加えられないというデメリットを課せられている。もちろん、それは向こうも同じことだが。


「生活は大丈夫なのですか?」
「大丈夫といえば大丈夫だし、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃない。こんなこともあろうかと、マグルの金と魔法界の金を少しだけ、去年の夏休暇中にとある公園の一角に埋めておいた。それで何とかするしかない」


ポテトをつまみながら答える。パフェを無表情で食べていた舞弥は、顔を少ししかめた。切嗣は煙草をふかしたまま、目の前に置かれたチキンナゲットに手を出していない。


「野宿かい?」


私は首を横に振る。


「切嗣さんも会ったことがある元教師の家。他にアテが無かった」


アルファルドの力を借りアズカバンから脱獄した私は、ルーピン先生の家に滞在させてもらっていた。自宅は絶対に魔法省が監視の目を光らせているだろうし、冬に舞弥さんと滞在した小屋の近くにはセドリック・ディゴリーの家族が住んでいるので止めた方がいい。自分が魔法使いだと分かる前の友人、フィーナやラルフそして、近所のマージョリーさんの家に行くことも考えたが、過去の交流関係を調べられていたらバレてしまうし、なにより、今の状態を説明するのが大変だ。

スネイプ先生は、私の名付け親だということで魔法省に目をつけられていそうだし、ダンブルドアとヴォルデモートともつながっている。…そう考えると、ルーピン先生の所に行くしかなかった。もっとも……ルーピン先生の所にもダンブルドアの味方が尋ねてくる可能性が高い。だが、スネイプ先生の所よりかは少ないだろう。


ルーピン先生は、私を家に置いてくれた。先生は騎士団の仕事で家を留守にすることが多いみたいだが、運よく非番の日に先生の家のドアを叩くことが出来て、本当によかった。
ちなみに、アルファルドには『縮小呪文』をかけ、普通の蛇サイズになってもらっている。今はルーピン先生の家で留守番だ。こんな街中で蛇を連れて歩いたら、注目されてしまう。


「目立たないよう服も購入してくれたし、魔法で髪を伸ばしてくれた」
「でも、いつまでもそこにいるわけにはいかないでしょう。…これからの予定は決まっているのですか?」


2つ目のパフェを食べ終わり、3つ目のパフェを無表情で食べ始める舞弥さんが話しかけてきた。…あんなに冷たいものを食べて、腹を壊さないのだろうか、と思いながら私は口を開く。


「大まかな構想だけど一応は、な」


そういうと、私はハンバーガーの最後の一口を口に押し込む。そんな私を見ながら切嗣は、煙草を灰皿に押し付けて消すと、テーブルに肘をついた。


「どういった構想かな?」
「…あるものを探す」
「それは、なんだい?」
「…」


分霊箱のことを話していいだろうか?これ以上、切嗣達を巻き込んでいいのだろうか?一瞬迷ったが、話すことにする。もうすでに、ルーピン先生には話してしまったことなのだ。同じ協力者である切嗣達に話しても、何ら問題はない。むしろ、世界中を見てきた切嗣達のことだ。なにか手がかりになりそうな情報を、持っているかもしれない。


「ヴォルデモートの分割した魂が封じられているモノ。どこにあるのか、いくつあるのか分からないけど。それを全て壊してようやく……ヴォルデモート本体を殺すことが出来る」


私の言葉を聞いた2人は、黙って何かを考え込んでいるみたいだ。そして、切嗣はポツリと言葉を漏らした


「…分霊箱か。だが、『今の』君は壊せないはずだ」


そのことを分かっているのか?と問いかけるような視線を私に向ける。私はコクリと頷いた。そんなことは、分かっている。

分霊箱に入っている『ヴォルデモート』も『ヴォルデモート』。『破れぬ誓い』がある限り、私は分霊箱を壊すことが出来ない。たとえ『眼』があっても。でも…


「アルファルドはバジリスクだ。あれの牙なら、壊せる」
「…そうだね、その手があったか」


なるほどね、と納得したような表情を浮かべる切嗣。以前、分霊箱についての記述があった本には、壊し方が記されていた。強力な魔法特性を持った物でしか破壊出来ないらしく、壊す方法は数個しか記載されていなかった。その中に、制御が大の魔法使いでも困難とされる『悪霊の火』の隣に、『バジリスクの毒』と書かれていたのだ。……バジリスクがいてくれて、本当に助かった。

舞弥はパフェを追加注文すると、淡々と私に言葉を投げかけた。


「いくつ壊したんですか?」
「2つ。でも奴のことだから、他にも作っているはず。…いくつか分からないけど」
「では、残り4つですね」
「…そうですね。…………えっ!?」


私は、甘ったるいオレンジジュースを飲む手を止めた。


「どうして数がわかるんですか?」
「魔法界で強力だと言われている数は『7』だからさ」


再び煙草に火をつけながら、切嗣が返答する。…あの墓地で、わざわざ『礼儀を守った古流』の決闘をしようとしていたヴォルデモートのことだ。ああ見えて、実は形式だのなんだのにこだわっている。だから、迷信の類を信じ、『7つ』に魂を分割した可能性が高いことは否定できない。でも…


「なら、『5』になるはずだ。『7-2=5』だから」


まさか、計算を間違えたとは考えられない。何か意図して『4』と言っているはずだ。もしかして、すでに切嗣達は1つ破壊している、ということだろうか?


「以前、その分霊箱らしきモノを見たことがあってね。実は1つ、壊している」


服のポケットを探る切嗣。何か小さな欠片を、取り出した。カップの底みたいな欠片だ。というか…


「アナグマと…H?……『ヘルガ・ハッフルパフ』のカップ?」
「その通りですよ」


追加注文したパフェを、ふたたび口に運びつつ舞弥が答える。私は眉間にしわを寄せてしまった。ハッフルパフのカップと言えば、魔法界において歴史的な価値がある。しかるべき場所に売ったら、1000ガリオンなんて、ちっぽけな金に見えるくらい大金が手に入るはずだ。なのに、なぜ壊した?分霊箱だと知っていたから?

私の胸に渦巻く疑問が伝わったらしく、舞弥は食べる手を止めた。そして、トントンと軽くテーブルをたたく。


「このくらいの高さのテーブルから、落としてしまったのです。当然、割れると思いましたが全くの無傷。不審に思ったので色々と試してみましたが、全くの無傷。これは変だと気がつき、ある方法で壊したんです」
「ある方法…?」


言葉がぼかされる。尋ねられたくないのかとも思ったが、分霊箱を壊す方法は、出来るだけ多く知っておいた方がいい。私は詳しく尋ねようと思い、口を開きかけたが…その時だ。



「そういえば、いつものナイフを、まだ持っているかい?」


切嗣は、唐突に呟いた。どうやら、話題を逸らしたいようだ。私は視線を斜め下に向けると、ゆっくり口を開いた。


「…ない」


アズカバンから脱獄する際、私の私物は残っていないか隅から隅まで探した。だが、保管されていたのは杖だけ。他の私物は、ひとつ残らず残されていなかった。生き残っていた看守に問いただしてみたところ、『闇の魔術』の痕跡がないか調べるため、魔法省に保管されているみたいだ。ただ、『闇の魔術』の痕跡がなかった場合…速やかに処分されるらしい。

切嗣は、黙って何かを考えている。そして、ふぅっと息を静かに吐き出すと、服の内ポケットから何かを取り出した。それは、品の良さそうなナイフだった。窓から差し込む陽光を受け、銀の刃がキラリと光る。それを横目で見た舞弥は、食べる手を止めて息をのんでいる。切嗣は、ナイフを私に差し出してきた。


「…これをあげるよ」
「ありがとうございま…す?」


ナイフを受け取った私は、眉間にしわを寄せてしまった。普段、持ちなれていたナイフと重さが全く違う。明らかに軽い。まるで、『玩具』のように軽いのだ。だが、玩具にしては出来が良すぎる。小さいころ遊んだママゴトのナイフとは違い、細部まできめ細かに作られているのだ。もしかしたら、前まで使っていたナイフよりも高級品かもしれない。もち心地が良く、見た目も素材も一級品みたいだ。


「イリヤ…僕の娘が使っていた玩具のナイフだよ。…とはいっても、人を傷つけられないってところ以外は、本物のナイフと同じだけどね」


切嗣は、優しげな笑みを浮かべた。私は納得する。切嗣の妻の実家『アインツベルン』は、言葉では表せないくらいの財力があるらしい。だから、玩具一つとっても特注品なのだろう。


「本当にいいんですか?」


私が確認すると、切嗣はゆっくりと頷いた。それを見た私は、頭を軽く下げるとナイフを鞄の中にしまった。



ドォォン、とエディンバラ上の砲台から、弾が発射される音が聞こえてきた。たしか午後1時に発射されると聞いている。ここに入ったのは12時くらい。もうそんなに時間がたってしまったのかと、少し驚いてしまう。


「さてと、そろそろ時間かな。帰りの飛行機があるから、今日はこれで」


煙草を灰皿に押し付けると、切嗣は席を立った。続いて舞弥と私も立ち上がる。外に出ると日差しのまぶしさに、たまらず帽子を深くかぶりなおした。


「じゃあ、次は君が誕生日を迎えたときでイイかな?」


私は声を出さずに頷いたのを確認すると、2人は観光客の群れの中に入り込み、次の瞬間にはどこにいるか分からない。私は2人が去った方向に背を向けると、帰路に就くのだった。




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11月28日:大幅改定




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