何にでも魔法を使うモノじゃないと思う。それがホグワーツ生活1日目に私が感じたことだ。
その典型的な例が階段だ。ホグワーツには142もの階段があって、しかもそれ一つ一つに何かしらの特徴がある。広い壮大な階段や狭いガタガタの階段はまだ許せる。だが、金曜日にはいつも違う所へつながる階段や、真ん中の辺りで毎回1段消えてしまう階段というのは正直やめて欲しい。
だが、扉の方が階段よりたちが悪い。
丁寧にお願いしないと開かない扉や、正確に一定の場所をくすぐらないと開かない扉、扉に見えるけど実は固い壁のふりをしている扉などなど。
オマケに肖像画の人物もしょっちゅう訪問しあっている。おかげで場所の把握がしにくくて仕方がない。
いろんな場所に魔法をかけすぎているせいで、逆に不便に感じる。これも勉強の1つなのか?記憶力を養う為とか?
「ったく、また行き止まりか」
呪文学の授業の後、同室のよしみで一緒に行動しているミリセントとパンジー、あとダフネに断ってトイレに行ったのだが、私は認めたくないが迷子になっていた。
次の授業は興味のある『闇の魔術に対する防衛術』の初授業だったので、遅刻はしたくない。あのターバングルグル巻きの先生は少しくらいの遅刻は赦してくれそうだが、出来るなら最初の授業で遅刻という醜態をさらす真似をしたくない。
面倒だが誰かに尋ねるか。
出来れば城中に漂っているゴーストに尋ねるのが良策だと思うが、今見える範囲にゴーストはいなかった。
そういえば、この学校に入学して初めてゴースト…つまり幽霊の類をみたのだが、少し驚いたことがあった。奴らにも私たち同様に『死の線』が見える。
どんなものでも『直死の魔眼』は『死』という概念を視覚化させることができる。なので少しでも気を許してしまうと『人の死』が見えてしまうのだ。夜中にふと目が覚めて、水槽ですやすやと眠っているバーナードの身体に、禍々しい『死の線』がこびりついているのを見た時、昏睡状態の間、観測し続けていた『』というものがフラッシュバックするのだ。ざわざわっと背筋に冷たいモノが走り、ついその線を斬ってしまいたい、という気に襲われる。
でも、それを斬ってしまったらバーナードがどうなってしまうか知っている。
おそらく、あの線を斬ったら最後、もうバーナードは永遠に動かなくなるだろう。
だから一瞬でも気を抜けない。
もしかしたらゴーストなら気を抜かずに話せるかも…って思ったのだが……それは見当違いだったようだ。ゴーストにも両足に2つ、背中に1つ。それから中心よりはやや左の胸の辺りに1つ…『死の線』が存在していたのだった。
そんなことを考えながら、人気のない廊下の突き当たりに設置されている鏡の前でコソコソ何かしている2人組を見つけた。
背格好からして上級生だろう。2人とも赤毛ののっぽで、瓜二つの外見をしていた。
私は道を尋ねようと2人に近づいていく。すると2人も私に気が付いたみたいだ。
「こんなところで何してるの?」
「いきなり授業をさぼるつもり?」
2人が交互に尋ねてくる。
声までほとんど同じだ、じゃなくて、そのセリフはアンタらにも当てはまると思うぞ?
「実は道が分からなくて。『闇の魔術に対する防衛術』の教室はどこでしょうか?」
「へぇ~つまり迷子ってこと?」」
「制服も新品だしね。どこの寮?」
そういうことはどうでもいいから、早く教室を教えて欲しい。だが、ここで急かして意地悪されても嫌なので答えることにする。
「スリザリンです」
「「スリザリンだって!?」」
2人の声が見事にはもった。ジロジロと私を珍しいモノでも見る感じで見てくる。そんなに驚かれることなのか?
「驚いたな、スリザリン生なのに、まともな言葉づかいを使うなんて」
「名前聞いてもいい?」
「セレネ・ゴーントです。えっと、それよりも早く」
「セレネだって!?たしかリーの奴が言ってた『蛇連れている新入生』?」
「なるほどな。蛇を飼ってるからスリザリンなのかもな」
目の前の赤毛の双子は完全に自分ペースでしゃべり続けている。
少々イライラしてきた。というか、リーの知り合いだったのか。確か彼はグリフィンドールって言ってたから、この人たちもグリフィンドールか?
「ねぇ、蛇の餌はどうしてるの?」
「蛇(バーナード)は生きたネズミしか食べません。なのでアクベンス、私のフクロウを使って生きたネズミを捕獲してきてもらっています。ですが、それではもちろん足りないので、父にネズミの詰まった大箱を定期的に送ってもらうつもりです」
「ネズミか。ロンのスキャバースとか食べるかな?」
「セレネって言ったか?
もし、餌不足に困ったら俺たちの弟がネズミ飼ってるからそれやるよ」
「ありがとうございます。
えっと、それで、教室を教えて欲しいんですけど」
控えめにそう言うと、ようやく2人はそのことを思い出したようだ。
「『闇の魔術に対する防衛術』の教室なら、反対側の塔さ」
「反対側……って嘘だろ?」
軽く20分はかかるじゃないか。下手したら30分かかるかもしれない。私は礼を言い、走り出そうとすると、2人は待ったをかけた。
「だが特別に短縮ルートを教えて進ぜよう」
「おっと!ただとはいわないぜ。簡単なことだ。俺たちがこの辺りをうろついていたってことを口外しないと誓えるなら教えよう」
「特にフィルチに教えるな」
「マクゴナガルやスネイプもうるさそうだな」
さぁどうする?っという感じで2人が私を見てくる。なんだかんだ言ってられない。もし、嘘だとしたら先生に言いつければいいことだ。私は無言でうなずくと、2人はにやりと笑った。
「そこのタペストリーがあるだろ?あそこの裏に秘密の通路がある」
「そこを通ったらまっすぐ進む。すると牧場の絵がかかってるからそこにいる牛の腹をくすぐるのさ」
「そうしたら絵が扉に早変わり!」
「奥に進んで右に曲がると後は階段を上るだけ」
「あっという間にご到着」
「ありがとうございます!!!」
私は一礼すると、一目散にタペストリーをめくる。
すると本当に古い扉が現れたのだ。私は迷わずその扉を開けて、急な階段を駆け下りた。
「…何かあったの?」
ダフネが心配そうに聞いてきた。そりゃあ驚くだろう。時間ギリギリに汗だくで教室に駆け込んできたのだからな。
「お腹でも壊していたの?」
「いや、道に迷った」
「確かに複雑だからね…私達も道に迷ってさっきついたばかりなの」
「まったく、パンジー、あんたが右に行こうなんて言わなければこうならなかったのよ!」
「なによ、ミリセント!?あんただって扉を間違えたじゃない!!」
パンジーとミリセントが口喧嘩をし始めた。オドオドと止めようとしようかどうしようか悩むダフネ。
「放って置きな、ダフネ。いつか収まるよ」
「え、で、でも」
「まぁ、ミリセントは手が早いからな。口喧嘩以上の喧嘩になったら止めればいいよ」
そう言ったとき、丁度ターバングルグル巻きの先生、クィレルが入ってきた。
だからパンジーとミリセントは席に着いた。
で、肝心な授業なのだが、正直肩すかしだった。『防衛術』の授業だから『妨害の呪文』みたいなものを習うのだと思っていたのに、全くない。
それに、教室はにんにく臭さが漂っていた。ドラコが露骨に眉をしかめ鼻を塞いだ状態で、教室内のニンニク臭さの理由を質問したところ、ルーマニアで出会った吸血鬼を寄せ付けないただそうだ。先生はいつまた襲われるか分からないのでびくびくしているらしい。
ちなみに、彼の特徴ともいえるターバンは、厄介なゾンビをやっつけた時にアフリカの王子様がお礼にくれたものだということだった。だが、どうも嘘くさい。
だって、セオドール・ノットが『どうやってゾンビを倒したのか』と聞くと、急に顔を真っ赤にさせて話をそらし、防衛術とは全く関係のない天気の話をし始めたのだ。
あのターバンには絶対に何か秘密がある。しかも、あのターバンからは、変な臭いがプンプン漂っているのだ。
ターバンの中にも吸血鬼避けのニンニクを詰め込んでいる可能性が臭いの最有力候補だが、この臭いはニンニク臭いではない。
もっと別の、生臭い臭いだ。もしターバンの用途が禿隠しなら、臭いなんてしないはずだ。いずれにしろ、教室内にいる間くらいは芳香剤を使って欲しい。
ここはホグワーツだ。『今世紀もっとも偉大な魔法使い』と称されているらしいダンブルドアが校長なのだから、やすやすと吸血鬼なんて入って来るはずがないのだから。
まぁ、クィレルの臭い問題は後でじっくり考えればいい。
この後の授業は『変身術』。そして明日は、ようやく楽しみにしていた『魔法薬学』の授業だ。グリフィンドールと合同だというからハーマイオニーやネビルと会える。所属寮が違うので、組み分けの儀式の日以来、会う機会がなかったのだ。
授業終わりのチャイムが鳴り響くと同時に、私は他のスリザリン生と一緒に臭いから逃げるようにして教室を出たのだった。
「セレネ、大丈夫?」
ダフネが心配そうにのぞきこんできた。私は、眉間にしわを寄せる。
「大丈夫って、私はいつも通りだけど?」
「なんていうか、日に日に表情が怖くなっていってるんだもん。どこか具合でも悪いの?」
本気で心配してくれるダフネ。私は少しだけ笑った。
「大丈夫だって。自己管理は自分でできる」
「そう?でも、少しでも具合悪くなったら言ってね?」
ダフネはまだ少し心配そうに顔を歪めていたが、再びパンを丁寧にちぎって食べ始めた。
私の友達というか、いつも行動しているメンバーの中でもダフネが1番大人しく優しい。
ハッキリ言って『スリザリン生』という感じではない。彼女自身、『私がスリザリンに入れたのは”血”のお蔭だよ』と公言している。
それにしても、そんなにキツイ顔をしていたのだろうか?
私はそっと自分の顔に触れてみる。確かに触っただけでも少し強張っている感触がした。
原因はなんとなくだが分かっていた。城中に魔法が充ちすぎているのがいけないのだ。
私の眼は何度も言うようだが『死の線』というモノが映る。それは魔法に関しても言えることだった。
例えば目の前に何の変哲もない壁がある。
普通の人なら『ただの壁』という認識で終わってしまうが、私の眼ではそうもいかない。その『ただの壁』にまがまがしくも清麗な線、『死の線』が見える。
さらに、それがホグワーツの場合だと、『壁』の『線』だけでなく、その上から『魔法』の『線』が覆いかぶさって見えるのだ。
つまり今まで過ごしてきた『魔法なし』の世界のほぼ2倍の量の『線』が漂っている。相当気を強くしていないと、気がおかしくなってしまいそうだった。
だから朝、目を開けてから夜眠りにつくまで気が休まる時がない。
授業は今のところ全部とはいっても淡々とした調子で講義が行われる『魔法史』と、『闇の魔術に対する防衛術』以外は興味深くおもしろいのだが、それ以外の時はつい家が恋しくなってしまう。
いや、家というよりマグルの世界という方が正しいのか
「あっ、母様から手紙が来た!!」
ミリセントがどこか嬉しそうにフクロウが膝の上に落とした手紙を開ける声を聴いて、現実に引き戻された。
いつも朝食の時間になると、何百羽というフクロウが突然大広間になだれ込んできて、テーブルの上を旋回し、飼い主を見つけると手紙や小包をその膝に落としていくのだった。
さすがに1週間もしたら驚かなくなってきたが、不衛生だと感じるのは私だけなのだろうか?
まだ料理が下げられていなくて、食べている人もいるのにフクロウが大量にやってくるのだ。
羽が料理にまざるとか考えないのだろうか?実際に私の目の前でまだ朝食中のパンジーの前に盛ってあるオートミールの中に、フクロウの茶色い羽が浮いていた。パンジーはしかめっ面をすると、別のオートミールを口にする。
さすがに羽が入ったのを食べる気はしないみたいだ。
「ん?アレってアクベンス!」
アクベンスが少しフラフラとしながら木箱を運んできた。
たぶん、クイールに頼んでおいたアレだろう。アクベンスは『やっとたどり着いた…』っという顔をすると、私のコップから無断でくちばしを突っ込むと水を飲み始めた。普段だったら怒るところだが、たしかに今回の荷物は重いと思うので許すことにする。
「なんだい?やけに大きな荷物じゃないか?」
ドラコが興味深そうに見てきた。だが、ここで中身を開ける気はしないので口頭で答えることにする。
「ネズミだよ。バーナードの1週間分の餌」
「もう一度言ってくれないかい?」
「生きたネズミだって。私のペットのバーナードは蛇だから生きた小動物を食べるからね。
本当はミリセントの猫みたいに放し飼いに出来たら楽なんだけど、蛇を放し飼いにするのは不味いと思って」
なんとなく微妙な顔になったドラコ。私は席を立つと、中でゴソゴソ動いているネズミが入った箱を抱え一旦寮に戻ることにした。
「ネビルか?」
バーナードの餌となる運命が決定されているネズミたちを部屋に置いて、次の魔法薬学の授業が行われる『地下牢』へと向かう途中に、知った丸顔を見かけたので声をかける。
「セレネ?びっくりした、どうしたの?」
「どうしたのって、ほら、次ってグリフィンドールと合同授業だろ?
一緒に行かないか?」
「うん、別にかまわないけど、その、大丈夫?」
不安そうに尋ねてくるネビル。ネビルにまで心配されるくらい顔色が悪いのか?
「セレネってスリザリンでしょ?グリフィンドールの僕と一緒にいたら色々と言われるんじゃ…」
「あぁ、そんなことか。大丈夫だ。色々と言われたら3倍にしてやり返せばいいだけの話だから」
「いや!!やり返すのは不味いと思うよ!?」
ネビルが慌てて言う。
やっぱりこいつはいい奴だ。何故グリフィンドールなのだろうか?この優しさが勇敢さにつながっているってことなのかもしれない。
それから少ししゃべっている間に、目的地にたどり着いた。
地下牢は薄暗く肌寒かった。壁にはズラリと並んだガラス瓶。その中にはアルコール漬けの動物がぷかぷかと浮いている。これはスネイプ先生の趣味で集めたコレクションなのだろうか?
スネイプ先生はまだ来ていない。寮で分かれ座っているみたいだったので、ネビルと別れパンジーの隣に座る。パンジーは軽蔑の視線を私に向けてきた。
「あら、セレネ?アンタってロングボトムと仲良かったの?」
「そうだけど?」
「アイツ、グリフィンドールの落ちこぼれよ?」
「それがどうしたんだ?」
私は大鍋をドンっと机に置くと肩肘をついた。パンジーが何か言いたそうに口を開いたとき、スネイプ先生がマントを翻して登場した。
まずは出席を取るスネイプ先生。
淡々と出席を取る先生だったが、ハリーの名前まできてちょっと止まった。
「あぁ、さよう、ハリー・ポッター。
我らが新しい……スターだね」
猫なで声でそう告げる先生。となりのドラコとその取り巻きのクラッブやゴイルがクスクスと冷やかすように笑った。
そういえば、入学初日に『ハリーは魔法界の英雄だ』と苦々しくドラコが言っていたような気がする。
ハリーの方を見ると、少し嫌そうな顔をしていた。
出席を取り終えた先生は、私達を見わたした。
「このクラスでは、魔法役調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
授業の説明をし始めた先生。
いつもの私なら、『魔法なのに科学って……』とツッコミを入れるかもしれないが、その時の私はそんなことを微塵も考えてなかった。
先生の口から語られる言葉にひきつけられてしまっていた。
最初は肩肘をついていたのに、いつのまにか手は膝の上に置いている私がいた。
「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。
そこで、これでも魔法かと思う諸君多いかもしれん。沸々とわく大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中を杯めぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。
諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。
ただし、我輩がこれまで教えてきたウスノロたちより諸君がまだマシであればの話だが」
部屋はシーンと静まり返っていた。先生が完全に薄暗くて肌寒いこの地下牢を支配していた。
「ポッター!」
先生の鋭い声が響き渡る。
突然のことなので、ハリーが一瞬ビクゥっと身体を震わせたのが見えた。
「アスフォルデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたモノを加えると何になるか?」
…たしか、眠り薬。『生ける屍の水薬』と呼ばれる強力な眠り薬だったような気がする。
教科書の最初の『魔法薬学を始めるにあたって』と書かれたページに例として挙げられていた薬だ。
ハリーは分からないらしい。
「分かりません」
「チッ、チッ、チ。有名なだけではどうにもならんらしい。
ポッター、もう1つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、どこを探すかね?」
ハリーの隣に座っているハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く伸ばしている。が、スネイプ先生の黒く冷静な双眸は真っ直ぐハリーだけを見ている。いや、冷静というより、憎悪の色が少し混じっている気がするが、気のせいだろうか?
それにしても、隣に座っているスリザリン馬鹿3人組が身をよじって笑っていてうざかった。
ベゾアール石は確か『解毒薬を始めるにあたって』のページに書いてあったと思う。
『山羊の胃から取り出す”ベゾアール石”の様にどんな毒にも効く解毒剤もあるが、簡単に手に入れられるものではないので、解毒薬の作り方を覚えた方がいい』と書いてあった。
だが、こんなところ覚えている人が何人いるだろう?
私はクイールと一緒に、『スネイプ先生の教える魔法薬学ってどんな科目だろうか?』と気になって何度も何度も読み直したから覚えている。が、例えば『学校でしっかり学べばいい』と思っていた『薬草学』で同じような質問をされたら、今のハリーの様に言葉に詰まる自信がある。たぶん、『生ける屍の水薬』や『ベゾアール石のありか』をドラコ達は答えられないと思う。自分も答えられないのに笑うのは間違っている。
恐らく、スネイプ先生が言いたいことは
『いくら有名であろうと答えられないことがある、ただの普通の11歳の少年に過ぎない。
だから彼を崇めるようなことはしないで、対等な立場として付き合いなさい』
ということを教えたかったのだろう。
……それにしては、憎悪の視線が感じられたが……
だが、この1週間の間にスネイプ先生に憎悪を持たれるような行動をハリーがするとはあまり考えられない。気のせいだろうか?
「セレネ、一緒にやらないかい?」
ドラコが話しかけてきた。
どうやら、いつの間にか話が終わって2人一組で薬を作ることになったみたいだ。私は断る理由もなかったので誘いを受けた。それにしても、意外とドラコは慣れた手で作業を進める。
「ちょっと意外だな。ドラコってふんぞり返って偉そうにしているけど実はなんにも出来ない坊ちゃんかと思ってた」
「失礼だな。僕は純血の一族、マルフォイ家の長男なんだ。教養としてこれくらい出来ていて当然さ」
怒ったようにしゃべるドラコだったが、褒められたのが嬉しかったのだろう。顔が少し赤くなっていた。
「僕の父上は在学中、2番目に得意だった科目が『魔法薬学』でね。
少し予習の手伝いをしてもらったのさ」
しゃべりながら干イラクサを計るドラコ。私は適当に相槌を打ちながらヘビの牙を砕く。
気をよくしたのか結構ペラペラとしゃべり続けるドラコ。
しかも、先生が他の生徒に質問したり、こちらに背を向けている隙に、近くにいる私にしか聞こえないような小さな声でしゃべるのだ。その上、作業の手も止まらずに順調に進めている。少し感心してしまった。
さて、どうやら、私達の所が一番進行速度が速く、うまく出来ていたらしい。
先生がスリザリンに得点を1点くれた後、皆に集まるようにと声をかけた。
その時、事件が起きた。
地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音が広がった。
思わず手で鼻をふさぎあたりを見わたすと、発生源はネビルと黄土色の髪をした少年の鍋らしいことが判明した。
なぜか鍋の原型がなくなっていて、こぼれた薬が近くの生徒たちの靴に穴を空けていた。災難だったのはネビルだ。薬を直接浴びてしまったらしく、腕や足のそこらじゅうに真っ赤なおできが容赦なく吹き出し、痛くてうめき声をあげていた。
「馬鹿者!」
スネイプ先生が怒鳴り、魔法の杖を一振りすると、こぼれた薬が跡形もなく消えて行った。
「大方、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな。
医務室に連れて行きなさい」
苦々しげにスネイプ先生は黄土色の髪の子に言いつけた。
それから突然、彼らの隣で作業をしていたハリーと赤毛の子に矛先を向けた。
「君、ポッター、針を入れてはいけないと何故言わなかった?
彼が間違えれば、自分の方がよく見えると考えたな?
グリフィンドールもう1点減点」
ハリーは言い返そうとしていたが、赤毛の子に大鍋の陰で、先生に見えない様に、ハリーを小突いてから何かささやいている。善意に考えれば、先生はたぶん『自分のことだけをやるのではなく、常に他の人にも気を配れ』ということを言いたかったのかもしれない。
だが、ハリーに対する視線から考えると『ただ単に諌めたいだけ』にも見える。
この1週間で、ハリーはスネイプ先生の恨みをかうようなことをしたのだろうか?
赤毛の男の子に慰められているハリーを横目に見ながら、他のスリザリン生と一緒に地下牢を出たのだった。