クリスマスが終わり、学校に帰ってきて早数日。今日の『魔法生物飼育学』は前回までのつまらない、いや、物凄く安全過ぎる授業とは違っていた。ヒッポグリフの事件があって以来、安全すぎる授業をハグリットは行っていたのだ。だから、また今年も『レタス喰い虫』というレタスを好む自己防衛手段を全く持たない虫に餌をやるだけという授業かと思ったが、今回は違う。大きな焚火の中にサラマンダー、つまり火トカゲをたくさん集めた授業だった。
みんなで枯れ木や枯葉を集め、明々と焚火を燃やし続けた。炎好きの生物であるサラマンダ―は、白熱した薪が燃え崩れる中をチョロチョロと駆け回っている。パチパチっという音を立てながら燃え上がる焚火に、かじかんだ手をかざしながら、パンジー達と話し、薪が足りなくなってきたら集めに行くということを繰り返していた。
さて、残り時間が20分といったところだっただろうか?ふと探し求めていた動物の姿が視界に入ってきた。
「少し薪を探しに行ってくる」
と言って席を立つと、その動物の方へと歩く。その動物は、クマほどの大きさの犬。もじゃもじゃした真っ黒い毛をしていて、寒そうに身体を丸めている。私が近づいて来ることに気が付くと、僅かに毛を逆立てた。私は、警戒させないよう両手を上げながら犬に近づく。そして、犬の横にある岩に積もった雪を払い落とすと、その上に腰を下ろした。
「…率直に聞くけど。もしかして、アンタが『シリウス・ブラック』か?」
「……」
犬は何も答えない。ただ、うす灰色の眼を大きく見開いて、私を凝視している。
「…アルファルドという名の蛇がいる。ソイツが言うには、シリウス・ブラックが侵入した日、不審な人の気配を感じなかったみたいなんだ。言っておくが、アルファルドは並みの蛇ではない。学校を教師の誰よりも知り尽くした蛇だ。抜け道という抜け道を知り尽くしている。アルファルドは『抜け道を通った人はいなかった』と。つまり、裏を返せば、人以外が抜け道を通った可能性があるということだ」
犬は吠えることもせずに、ただ黙って聞いている。焚火を囲んでいる生徒たちの楽しそうな笑い声が、風に乗って耳に入ってきた。一応、寒さ対策に持ってきたホッカイロがあるが、その場しのぎにしかならない。ホッカイロを手袋を嵌めた両手でこすりながら、私は話を続けた。
「案の定、思った通り。アルファルドが言う特徴は『大きな黒い犬』。その犬が『隻眼の魔女』の後ろに隠されている『秘密の抜け道』から学校に侵入し、出て行ったそうだ。実際にアルファルドが回収した『隻眼の魔女』の後ろの抜け道に落ちていた黒毛からは、『獣の臭いがする』とバーナードっていう私のもう一匹の蛇も言っていたしな。普通の犬にそう言った知恵が働くとは思えない。
そうなると、思いつくのは『シリウス・ブラック』が犬に変身して城に入ってきたってことだ。それに…」
ここで言葉を区切って、誰も近くにいないことを確かめる。薪を拾い集めに行く生徒はいなく、どの生徒も体を丸めるようにして火に手をかざしているのが見える。今から言うことは、『シリウス・ブラック』以外には聞かれたくない事だった。
「シリウス・ブラックとルーピン先生は同期生で友達だ。去年、私が自分の先祖を調べる過程で、過去の監督生名簿を調べていた時に、ルーピン先生の名前が書かれてあったんだ。ルーピン先生の所属寮はグリフィンドール。さらに同期のグリフィンドール生にシリウス・ブラックもいる。同期の同寮の生徒とは仲良くなりやすいからな。おそらく、ルーピン先生とブラックは仲が良かったと考えられる。
そして、ブラックは、気が付いた可能性が高い。先生が『狼人間』だということに」
ピクリっと犬の耳が動いた。どうやら犬は私の話を、ちゃんと聞いてくれているみたいだ。
「ブラックがもし、ルーピン先生が友達だとして、先生が狼人間だということを知ったら、彼の辛さを少しでも減らそうと努力すると思う。少しでも側にいて、その辛さを減らしてあげたいと考えた可能性が高い。だが、最も辛い狼への変身の時、その時が最も危険な時だ。人間のままでは一緒にいられない」
もし、私の友達が…例えばミリセントやパンジー、ダフネたちがオオカミ人間だったら、私だって辛さを減らしてあげたいと思う。でも、人間のままでは無理。特効薬を作る知識も専門性もない。だったら…
「人間じゃなかったら、先生が狼に変身していたとしても一緒に行動できる。シリウス・ブラックを始めとする先生の友人達が、何かしらの動物に変身することで、一緒に行動しようとした。『勇敢な騎士道精神』を理念としたグリフィンドール生なら考えられなくもない」
足をブラブラさせた。子供っぽい行動かも知れないが、こうして時折、足を動かさないと感覚がなくなって足が使い物にならなくなってしまうかもしれない。手はホッカイロがあるので無事だが、足に貼るホッカイロは持っていない。
「もっとも、これはルーピン先生が『狼人間』ではなかったら、つながらない話なんだけどな。
先生が狼人間なのではないかと疑念を覚えたのは、最初の授業の時の先生の態度だ。パンジーと真似妖怪が対決した時に真似妖怪が変身したモノは『狼人間』。その時の先生の表情は、他の人の真似妖怪へと向ける表情と違っていた。
それだけだと、確信できない。これもまた確信的な話ではない上に私の想像も交じっているけど…」
チラリと犬の方を見ると、続きを促すように頷いた。その眼は真剣で、とても『普通の犬』には見えなかった。闘犬とも違う、意志を持った人間の目だ。
「ルーピン先生は最初に会ったときから、服はボロボロ。食事もろくにとっているようには見えなかった。つまり、ずっと失業状態にあったと考えるのが適切だろう。
なら、なんで就職できなかった?授業や人柄も申し分ない。それに、『吸魂鬼』を追い払えるくらいの『守護霊の呪文』が使える優秀な魔法使いだ。なのに、なぜ就職が出来なかったか。
となると、考えられるのは1つ。魔法界から忌避される病気を持っている。だから就職できなかった。
しかも、その病気にかかっているのは満月の前後だ。私のクラスは、たまたまなかったが、ちょうど今日みたいに満月が重なった日の『闇の魔術に対する防衛術』のクラスは、スネイプ先生が代理で受け持っているらしい。
満月の日に決まってかかる魔法界が忌避する病気。そうなると多少勉強をしていれば『ルーピン先生=狼人間』という図式が自然と浮かんでくる」
そこまで言い終わった時、ちょうど授業終了のチャイムが鳴り響いた。もうそろそろパンジー達のところに戻らないと不審に思われる。
「安心しろ。私はアンタが『シリウスかも知れない』ということは誰にも言わない。ただ、いくつかアンタがシリウスなら質問したいことがある。
今日は金曜日。昼過ぎから空いている。その時に3階の『嘆きのマートル』が住み着いている女子トイレまで来て欲しい。来なかったら、分かっているな?」
それだけ言うと、私はサクッサクッと雪を踏みしめながら城へ歩みを進める。吐く息が白い。ちょっと息をするだけで眼鏡がくもるので少しイライラした。
「マートル?マートルいるか?」
通い慣れ始めた『故障中』と書かれている女子トイレに入ると、中に住み着いているゴーストを呼ぶ。
すると眼鏡をかけた少女のゴーストが、一番奥のトイレから現れる。私を見ると、不機嫌だった顔が少しうれしそうな顔になった。
「あら、セレネ。今日はどうしたの?」
先程まで泣いていたのだろうか?声が酷くかすれていた。
「どうしたんだ?何か嫌なことでも思い出したのか?」
「…そうなの。実はオリーブが『私の存在自体が時代遅れだ』って言われたことを思い出しちゃって…そこまで時代遅れに見える!?」
「見えない」
「そうよね!!セレネって本当に優しいわ」
別に優しくなんてない。ただ、このまま機嫌が悪い状態で追い出すと、関係が悪化し、ここに入り浸っていることを誰かにつけ口されたら嫌だという理由だ。決してマートルを可哀そうに思ったから口に出した言葉ではない。
「実はマートル。ちょっとここで用があるんだ。悪いけど別のところに行っててくれないか?」
「ええ、いいわよ」
そう言うと、すぅーっとどこかへ消えていくマートル。私は、しばらくトイレの洗面台に寄りかかるようにして立っていた。数分経っただろうか。気が付くと、入口のところに先程の大きな黒い犬が座っていた。
普通の犬は言われただけで、ここまで来ない。となると、私の読み通り『シリウス・ブラック』だという可能性が高まったというわけだ。私は口元に笑みを浮かべる。
「…来たな」
「お前が来いと言ったからだ」
犬がしゃべりだす。ハッキリ言って、正体が人間だと分かっていたとしても心臓に悪い。
「つまりアンタが『シリウス・ブラック』だということを認めるんだな?」
「あぁ、認めよう。だが、1つ。君が私に質問する前に答えてもらおうか。君は何者だ?」
シリウスがまっすぐ私を探るような目で睨んでくる。
「君は先程の会話の中で『蛇に聞いた』と言っていた。つまり、蛇と会話できるということか?」
やはり聞かれると思った。魔法界でも珍しい『蛇語』について漏らすことで、私にさらなる興味を持つように仕向けたのだ。向こうは私の正体が気になるはずだ。きっと約束通りにこのトイレに来ると考えたのだった。
「私はセレネ・ゴーント。スリザリン寮の3年生だ」
「やはりスリザリンか。ということは、ヴォルデモートの手先か!!」
ガルルルルっと低い声で唸り始めるシリウス。その反応は予想外のモノだったので、私は内心、首をかしげてしまった。
「おい、聞き間違いじゃないよな?アンタは今…」
「なんだ?怖気づいたのか?そうだ。私は『ヴォルデモート』って言ったんだ。嬢ちゃんはご主人様の名前にビビってんのか?アンタの大ボスだろ?」
「何言ってんだ?」
平然と言い返す。まさか、私…いや、魔法界はとんでもない思い違いをしているのではないのだろうか?
「私の親はとっくに死んで、育ての親は血の繋がりの無いマグル。あんな亡霊男の部下のわけがない。さてと、質問が一つ増えたな。
シリウス・ブラック…アンタは本当にヴォルデモートの手先『死喰い人』なのか?」
私は真っ直ぐに犬『シリウス・ブラック』の灰色の眼を睨むようにして見つめる。シリウスも私を睨むようにして見つめてくる。ぶつかり合った視線はバチバチと激しい火花を散らしているような気がした。
「もう一度、問おう。アンタは本当にヴォルデモートの部下『死喰い人』なのか?」
「私の方こそもう一度だけ問おうか。お前の大ボスはヴォルデモートなんだろ?」
相手を疑う姿勢を私もシリウスも一歩も崩さない。無言の火花が散る。このままではラチが開かないと思い、先に折れたのは私の方だった。
「私の名前はセレネ・ゴーント。ヴォルデモートの義母兄弟の娘。つまり『最後のスリザリンの継承者』だ。だから『蛇語』は使えるし、『秘密の部屋』も開くことが出来る。だが、勘違いするな。
私はこの力を誰かを傷つけるために使うつもりはない。もっとも、自己防衛には使うかもしれないが。
それから、私は亡霊男(ヴォルデモート)と馴れ合うつもりは毛頭ない。私は死ぬことが怖いが、奴みたいに死を永遠に避け続けたいとも思わない」
シリウスは黙って聞いていた。その眼には当惑の色が浮かんでいた。私は、小さくため息をつく。
「どうやら、私は勘違いをしていたみたいだ。さっさと目的を果たして来い。私は何も言わん」
「勘違い…だと?」
「私はお前が『死喰い人』だと思っていた。だが、違うことに気が付いた。だから質問する意味も、何をしようとしていたかを問いただす意味も、なくなったって事だ」
私はカツンカツンと足音を立てながらトイレから出ようとした。だが、それを呼び止めるようにシリウスが吼える。
「どこで気が付いた?俺が『死喰い人』じゃないってことに」
一人称が『私』から『俺』に変わるシリウス。私は足を止めると、シリウスに背を向けたまま口を開いた。
「それはアンタが『ヴォルデモート』って堂々と言っていたからな。普通の魔法使いや死喰い人なら『ヴォルデモート』って呼ばないだろ?まぁ、最初からアンタは無実かもなと、どこかで感じていたがな」
「…なるほどな。それで、なんで俺が無実だと思った?」
シリウスの視線が背中に刺さる。私はマートルが戻る雰囲気が全くないことを再度確かめると、口を開いた。
「簡単だ。…12年前の事件自体が妙なんだ」
「妙だと?」
少し眉を上げるシリウス。私は淡々と思ったことを話し始めた。
「そうだ。12年前、シリウス・ブラックは、友人のピーターという人物ごとマグル13人も殺したんだ。だが、この日の記事をよく考えてみると、おかしい箇所がある。
まずは新聞に掲載されていた現場の写真なのだが、道の真ん中に深くえぐれたクレータ。その底の方で下水管に亀裂が入っている。理由は『シリウス・ブラックが“爆発呪文”で吹き飛ばしたから』だ」
シリウスにくるりと背を向け、周囲の気配を確認する。マートルの気配もなければ、他の学生がいる気配もなかった。私は話し続ける。
「だが、本当に『爆発呪文』を使ったのだとすれば、ピーターの死体がもう少し残っていないとおかしい。巻き込まれた他のマグルの死体は、最低限の原形が分かる程度は残されているのに、ピーターの残骸は、血だらけのローブと一本の指だけだった。ローブと指が残るのであれば、他の肉片も残っているはずだ。頭も体も全て吹っ飛ぶほどの威力なのにもかかわらず、なんでローブまで粉々にならなかったのか理解に苦しむ。
クレータが出来るくらいの『消失呪文』を放ったとも考えられるが、それなら何故…巻き込まれたマグル達は消失しなかったのかという問題が湧いてくる。ほら、おかしいだろ?」
私は後ろを振り向かないまま、ここまで話すと一旦話を区切る。背中にはシリウスの視線が、先程よりも強く突き刺さっている感じがした。
「考えられるのは、シリウスではなくピーターが呪文を放ち、死を偽造し逃げたということだ。
もし、ピーターもシリウスやルーピンと同期の…同じグリフィンドール生だったとしたなら、シリウスと一緒に『動物もどき』を習得し、何かしらの動物に『変身』出来るのかもしれない。ピーターが何に変身するのか分からないが、それが小動物だとしたら?
ピーターが辺りを吹き飛ばした後、小動物に変身し、下水道辺りに潜り込んでしまえば逃走完了。そして、シリウスは無実なのにもかかわらず、アズカバンに収監されてしまう。例え無実だということを主張したとしても、主張するためにはピーターが『動物もどき』だということを明かさなければならない。
となると自分が『ルーピン先生のために“動物もどき”を覚え、夜な夜な歩き回っていた』だということも明らかになってしまい、アズカバンに収監されてしまう。『動物もどき』は魔法省の認可を得ないと習得できない技だからだ。
どっちにしろ収監されるなら、無実の罪を認めて収監された方がいいと思ったのではないか?無実を主張すると、友人のルーピン先生まで巻き込むことになる。もし、無実でも罪を認めれば、少なくとも先生を巻き込む必要はないと考えたんだろうな」
私が口を閉じると、あたりがシンっと静まり返った。開けっ放しの窓から、冷たい風に乗って、外で雪合戦をする子供の声が入り込んできた。
「見事だな。スリザリン生には思えん」
初めてシリウスの口調の中に、賞賛の色が混じった。だが、まだ嫌悪の色が抜けきっていない。よほど、スリザリンが嫌いなのかもしれない。
まったく、なんでグリフィンドール生はスリザリンに対して嫌悪感を持っているんだろうか。といっても、パッと思いつく例はロン・ウィーズリーしかいないのだが。
「君が今、推測したことを事実と言っていいだろう。私は無実だ。君はきっと『スリザリンの末裔』でなければ『グリフィンドール』に入っていただろう」
「馬鹿な事を言わないでくれ」
思わず強めの口調で言うと、振り返って思いっきりシリウスを睨みつけている私がいた。考える前に言葉が口から飛び出ていく。
「私はグリフィンドール生の素質は持っていない。『騎士道精神』なんてこれっぽっちも持ち合わせていない。
私がアンタの正体を誰にも明かしていないのは、私の質問に答えてもらいたかったからだけだ。もし、誰かに話してしまったら、質問する前にアンタは話せない状態になってそうだからな。それに反撃されたとしても、杖を持っていないアンタなら倒せる自信がある」
袖の上から、隠しているナイフに触る。あの犬状態で襲いかかられたとしても、眼鏡を外しナイフを構えるのに時間はかからない。襲ってきたら、あっという間に犬の肉片へと下してアルファルドの餌にすればいい。
「つまり、俺を誰にも言わないのは、お前自身の目的のためってことか」
シリウス・ブラックは鼻でフフンと笑う。
「そういうことだ。分かったなら、さっさと目的をすませてしまえ。そしてホグワーツからさっさと離れろ。『吸魂鬼』が鬱陶しい」
一応、クリスマス休暇から帰ってきた初日に、『守護霊の呪文』は習得できた。マグルの友人のフィーナやラルフ、魔法界の友人のダフネやパンジー達と話している日常を思い浮かべながら呪文を唱えると、杖先から銀色の生き物が現れた事を思い出す。私の守護霊、銀色の目を閉じた見慣れた巨蛇『バジリスク』は部屋をグルリと一周すると霞になって消えて行った。…だが、本当に『吸魂鬼』がいるところで試したのではないので、実戦の場で使用できるか不明。対抗策を手に入れたとはいえ、吸魂鬼は好きになれそうにない。むしろ嫌いだ。
だから、さっさと吸魂鬼はホグワーツから消えて欲しい。そのためには、シリウスが、さっさと『目的』をすませて、どこかへ消えてもらわないといけない。
「なぜだ?俺が目的を達成することを待たなくても、さっさと俺を先生にでも魔法省にでも差し出せば、俺は捕まり、吸魂鬼は――」
「なんだ?誰かにアンタの正体を伝えていいのか?」
そう言うとシリウスは黙り込んだ。私は少し微笑むと、再度シリウスに背を向けた。
「安心しろ、誰にも言わない。アンタの復讐相手はピーターなんだろ?ならグリフィンドールにいる生徒に被害を加えることはしないはずだ。なら、私には関係ないことだ。さっさとピーターに復讐して、城を去ってもらうことが、一番円満に済ませる方法だろ?
野良犬に変身して走り回るアンタを捕まえるのは、少し骨が必要そうだ」
私はシリウスを振り返ることはもうしなかった。シリウスが後ろで何か言った気がしたが、無視をしてトイレを出た。
それにしても…まさか、本当に私の考えが当たるとは思ってもいなかったことに、少し自分で驚いていた。友達のためとはいえ、規則を無視し、変身術でも最高度とされる『動物もどき』を成功させるほどの知恵を持っているなんて。ある意味、シリウスはスリザリンでもやっていけるのではないか?
そんなことを考えながら歩いていると、開けっ放しの窓から肌を刺すような冷気が入り込んできた。
コートもマフラーも着ていなかったので、身体が震えて、歯が噛みあわずにカチカチと音を立ててしまった。私は身体を猫のように丸め込む体勢をとると、足早に暖炉の火が煌々と燃えている談話室へと足を速めたのであった。