翌朝、目を開けると見知らぬ白い天井が広がっていた。最初はどこにいるのか分からなかった。だが、ずらりと並べられたベッドの向こうから、湯気が立っている盆を持ってマダム・ポンフリーがこちらに向かってくるのを見た時、『医務室』にいるのだということを思い出した。昨日、吸魂鬼に襲われた時のすべてが終わりそうな気分に陥った感覚も。
病院独得の薄味の朝食を食べた後、晴れて退院した私は、1時間目の授業『数占い』の授業に向かう。
今年から新たに、選択科目が増えた。5つの科目の中から、やりたい科目を去年の間に選んでおく。私はスネイプ先生や他の人たちにアドバイスを貰いながら3つの科目『魔法生物飼育学』『古代ルーン文字学』『数占い』を受講することに決めたのだ。魔法使いの視点からマグル界を学ぶ『マグル学』も、受講したかったが、『数占い』と重なりがちだったので、断念することにした。ちなみに、これから向かう『数占い』を受講する生徒は少ないので、他の寮の授業と合同になるのだそうだ。
「あっ、セレネ!」
あと1つの角を曲がれば教室にたどり着くというところで声をかけられる。声をした方を見ると、後ろの階段から、ハーマイオニーが駆け下りてきた。いつも彼女と一緒にいるハリーやロンの姿はない。
「大丈夫?もう退院していいの?」
急いできたのだろう。はぁはぁっと息をたてて駆けてくるハーマイオニー。
「私はもう平気。…それより、ハーマイオニーの鞄の方は大丈夫?」
彼女の鞄は、パンクしそうなほど大きく重たい本がギュウギュウに詰められていた。今学期、彼女の鞄が限界を迎えなかったとしたら、それは奇跡としか言えないだろう。
「大丈夫よ。それより、セレネはどの科目を受講するの?」
「『数占い』『魔法生物飼育学』『古代ルーン文字学』だな。今から『数占い』に向かっているところだ」
「じゃあ、私と同じね!一緒に行かない?」
ハーマイオニーが満面の笑みを浮かべる。彼女の横に並んで、私は階段を上り始める。
「グリフィンドールから『数占い』と『古代ルーン文字』に進むのは私しかいないの」
「そうなのか?スリザリン生は大体この3科目を受講するんだ」
「グリフィンドール生は『占い学』と『魔法生物飼育学』の2科目を受講する人が多いの。私は全教科を受講しているけど。あっ、ここみたいね!」
教室の中に入ると、もうすでに大方の人が着席していた。私はハーマイオニーと別れ、スリザリン生の座っているテーブルに向かう。
「セレネ!!本当に大丈夫!?」
真っ先にダフネが私に気が付いて、話しかけてきた。
「見たわよ!吸魂鬼がセレネに襲い掛かるところ!」
「私達、心配してたんだから!!」
私が答える前に、同じく心配そうな顔をしたミリセントやパンジーも話しかけてくる。
「平気だ。奴らに近づかなければ問題ない」
「でも、セレネに比べてポッターは情けないな」
ドラコがニヤニヤ笑いながら言う。ハリーの何が情けないのかを問う前に、先生が入ってきたので、この話は強制終了になった。
『数占い』は計算や論理を用いて占いをしていく授業だ。簡単に表すなら、よくある姓名判断みたいな占いだった。ゴイルやクラッブみたいに考えることが苦手な生徒には、苦痛の時間だったかもしれない。
午後からは『魔法生物飼育学』の授業が始まる。昨日の雨はとっくに上がり、空は澄みきって…はいなかった。薄い雲が空全体に覆いかぶさっていて、薄鼠色に見える。しっとりとして柔らかに弾む草地。歩くたびにピシャリっと泥がローブに跳ね返る。新学期始まって間もないのに、もう汚れるとは思っていなかった。洗濯に出すのが面倒くさいと頭の片隅で考える。白いスニーカーも泥まみれで、汚らしくなってしまっていた。魔法生物飼育学が行われるのは先生である森番、ハグリットの小屋の前だ。まだ、一緒に合同実習をするグリフィンドール生の姿は見えない。
「…そういえば、『数占い』が始まる前、ドラコは何を言おうとしていたんだ?」
話しかけてみると、ドラコは面白そうに口元を歪めた。
「汽車の中で吸魂鬼にやられてアイツも気絶したからさ。しかも、ロングボトムの話だと、セレネの方がポッターより吸魂鬼の近くにいたのに、ポッターの方が先に気絶したみたいじゃないか。セレネと違って、アイツは『例のアノ人』と何度も対峙して精神力が鍛えられているのかと思っていたのに、所詮はセレネより子供だったって事さ」
「たしかにそう見えるな。だが、ハリーが気絶したのは彼の精神力の問題ではなくて…」
ここで言葉を区切ってしまった。『ハリーが気絶した原因は彼の過去の経験に原因があるのだと思う』と言おうとしたが、ハリーの精神力が育っていないのは事実かも知れないのだ。記憶のみが成長していて、精神が追い付いていないのかもしれない。そのことを、ダンブルドアは気が付いているのだろうか。私に気が付いたということは、恐らく気が付いているはず。なのに何故、精神面の強化を考えないのだろう。それとも、もう何かしらの手を打っているのだろうか。
「まぁ、たしかに、ドラコの言うとおりかもしれないが、言い方に気を付けた方がいい。ハリー・ポッターだって好き好んで気絶したわけではないのだから」
そう言うと、私はダフネ達の方へ足を向けた。
しばらくすると、ハリー達グリフィンドール生が来る。それと同時に、ハグリットが『待ってました!』と言わんばかりに小屋から出て来た。いつもと同じ厚手木綿のオーバーを着こみ、足元にボアハウンド犬―たしかファングという犬―を従えていた。早く授業を始めたくて、うずうずしているのだろう。
「さぁ、急げ!早く来いや!今日はみんなにいいもんがあるぞ!」
声がとってもはずんでいる。『面白い』とハグリットが感じている授業を始めるのだろう。生徒の立ち入りが禁じられている『禁じられた森』のふちに沿ってどんどん歩き、5分後に放牧場のような所にたどり着いた。だが、そこには生物の気配がなかった。
「みんな、この柵の周りに集まれ!そーだ、ちゃんと見えるようにしろよ。さーて、イッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった―」
「どうやって?」
どこか意地悪そうな笑みを浮かべながら、ドラコが質問する。すると、何を質問されているのか分からないという顔をするハグリット。
「どうやって、教科書を開けばいいんです?」
ドラコの教科書は、紐でグルグル巻きに縛ってあった。他の生徒たちもベルトで縛っていたり、大きなクリップで挟んでいる人もいた。その対応に、無理もないかもしれない。私は苦笑いを浮かべた。
夏休みにこの教科書『怪物的な怪物の本』を買ってきたクイールが苦笑をしていたのを思い出す。スマートな緑の表紙に鮮やかな金色の飾り文字で表題『怪物的な怪物の本』と書いてあった。ここまでは少ししゃれた教科書だろう。
問題はここからだ。
この本はその名の通り『怪物』を思わせる行動をする。紐などで行動を封じておかないと、蟹の様にガサガサと横ばいに動き出すのだ。さらに、この本はバクリと、凄い勢いで噛みついてくる。だから最初、この本を開くことが出来なかった。だが、クイールは『本なのだから読めないと意味がない…だから読める方法がきっとあるはずだ』と言い、一度はクリップで挟んで動きを封じた本を、特に危険なものが置いていない空部屋に放ったのだ。
しばらく2人で、この本の動き方を観察していると、1つの法則が見えた。いつもこの本は、背表紙を上にしてカシャカシャと動くのだ。背表紙を下に向けて動くことはない。さらに、この本はまるで『意志のある生物』のように動き回る。
私とクイールは『…もしかしたら、コレが暴れまわっているのは、怯えて自己防衛をしているのではないのか』という結論に達した。そこで、悪戦苦闘しながら暴れまわる教科書を捕まえて、『安心しろ』という風に背表紙を撫でると、急に手の中でおとなしくなった。
でも、大人しくさせるに至るまでの過程が大変だった――――と少し遠い目をしながら、クリップを外す。途端に『待ってました!』という勢いで襲い掛かろうとする本の背表紙を、夏休みの時のように撫でて落ち着かせてから、教科書を開く。
「セレネ、どうやったの?噛みつかなかった!?」
ダフネが驚いた声を上げるので、皆の視線が私に注目した。
「ただ、本としてではなく、普通の動物に接するみたいに背表紙を撫でればいいんだよ」
「お前さんの言うとおりだ。撫ぜりゃー良かったんだ!」
ハーマイオニーの教科書で実践してみるハグリット。本を縛り付けていたセロハンテープをビリっとはがし、本が噛みつく前に背表紙でひと撫ですると、おとなしくなる教科書。
「まぁええ。今から魔法生物を連れてくる。待っとれよ」
ハグリットが大股で森へと入り、姿が見えなくなった。授業が始まる前に、魔法生物をここに連れてきておけば、時間の無駄が減るのに。そう思ったのは、私だけではないと思う。
そういえば、去年までの先生が退職して、今年からハグリットが授業をすることになったらしい。きっとハグリットは授業になれていないのだろう。
「オォォォォォォォ!!」
グリフィンドールの女の子が急に甲高い声を出したので、耳に響く。まったく、どこからそんな声が出るのだろうと少し疑問に思いながら、彼女の視線の先を辿る。すると、そこには馬と鷲を合わせたような生物が十数頭ハグリットに連れられこっちに向かってきていた。
頭は鷲で身体は馬。鷲の羽がグリフィンみたいに胴体についていて、手足は蹄ではなく鉤爪がついていた。
「ヒッポグリフだ!美しかろう、え?」
ハグリットの言うとおり、目を奪われる生き物だった。毛並みは、夏休みに見た野良犬とは比べものにならないくらい滑らかだ。きっと、ハグリットが愛情をこめて育てているのだろう。
「まんず、イッチ番先にヒッポグリフについて知らなければなんねぇことは、こいつらは誇り高い。すぐ怒るぞ、ヒッポグリフは。絶対、侮辱してはなんねぇ。そんなことしてみろ、それがお前さん達の最後の仕業になるかもしんねぇぞ。必ず、ヒッポグリフの方が先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう、な?
コイツの側まで歩いていく。そんでもってお辞儀をする。そんで、待つんだ。コイツがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなかったら、すばやく離れろ。コイツの鉤爪は痛いからな。
よーし、…誰が一番乗りだ?」
おいおい待て待て。今の口頭の説明だけで、どれだけの生徒が理解できていると思っているんだ?
しかもドラコと、その子分どもはヒソヒソ話していたから、ろくに話を聞いてない可能性が高いぞ?
まずは、話を聞いていなかったであろうドラコ達を注意して、先生(ハグリット)が見本を見せてから生徒が実践する方が、良いと思う。
私の周りの生徒が、一気に後ずさりしている。ヒッポグリフ達は繋がれているのが窮屈なのだろう。猛々しい首を振りたて、たくましい羽をばたつかせている。近づくだけで、アレの鋭い鉤爪に引っかかれそうだ。
「誰もおらんのか?」
ハグリットがすがるような目をした。先生がそんな目をしてはいけないだろ。まぁ、新任なら仕方ない。まだ、右も左も分からない状態なのだ。緊張しているに決まっている。私は、真っ直ぐ手を上げて一歩前に出た。誰もやりたがるそぶりを見せていなかったし、もうオタオタするハグリットを見てられなかった。
「あぁ、確かお前さんは…蛇を飼っとるスリザリン生だったな」
「はい、セレネ・ゴーントです。あの時は、バーナードが世話になりました」
ハグリットに向かって一礼をすると、放牧場に入る。
「よーし、そんじゃ…バックビークとやってみよう」
ハグリットは鎖を一本ほどき、灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、首輪を外した。クラス全員の視線が背中に突き刺さり、少し緊張で体がこわばる感じがした。
「目をそらすなよ。なるべく瞬きするな。ヒッポグリフは眼をしょぼしょぼさせる奴を信用せんからな」
静かに言うハグリット。つまり、馬を相手にするように考えればいいということか。昔、クイールに連れて行ってもらった牧場での乗馬体験を思い出す。馬に乗るときは、馬になめられないようにするため気を強く持たないといけないのだそうだ。私は瞬きをしないで、バックビークの前に立った。バックビークは、オレンジ色の眼で威嚇するかのように私を睨んでいる。私がお辞儀をすると、バックビークは鱗に覆われた前足を折り、どう見てもお辞儀だと思われる格好をした。
つまり、成功だ。
「やったぞ、セレネ!よーし、触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」
まるで、自分のことのように喜ぶハグリット。私は言われたとおりに、手を伸ばし、何度か堅い嘴をなでると、バックビークはそれを楽しむかのように、とろりと目を閉じた。
ヒッポグリフって、少し可愛い…かもしれない。
クラス全員が背後で拍手する音が聞こえた気がした。拍手されて嬉しいが、動物は、そういう大きな音に敏感なのでやめた方がいいと思う。突然の物音は、敵襲と勘違いする場合があるって図鑑で読んだことがあるような気がした。案の定、バックビークの気持ちよさそうにトロン…としていた眼に、微かに不快の色が混じり始めた気がする。ハグリットが口を開いた。
「よーし、そんじゃ、セレネ。こいつはお前さんを背中に乗せてくれると思うぞ」
…おい、今何て言ったんだ?拍手に対しての注意ではなく、私をバックビークの背中に乗せるって?私が質問する前に、私の足がヒョイっと地面から離れた。なんと、ハグリットが私をつかんでバックビークの上に乗せたのだ。一気に視界が高くなった。
ヒッポグリフには羽がある。私が乗っているバックビークも例外ではない。『よし、次は飛んでもいいぞ!!セレネ、お前さんは本当にラッキーな奴だ!』とハグリットが満面の笑みを浮かべて言う姿が、鮮明に脳裏に浮かぶ。万が一、その予想が現実になった時には、大人しく腹をくくればいい話だ。だが、飛ばずにすんだとしても、問題がある。
目の前は一面の羽で覆われている。どこにも捕まるところはない。この辺りを、引き馬をやるみたいに歩くだけだとしても、捕まるところがないと落ちる可能性がある。私は慎重に言葉を選ぶと、口を開いた。
「ハグリット先生?どこにつかまれば…」
「そーれいけ!!」
私の声なんて、彼の耳には聞こえなかったのだろう。そもそも、聞く気がなかったのかもしれない。ハグリットが、バックビークの尻をパシンっと叩く。すると前触れもなく4メートルほどもあるバックビークの翼が私の左右で開き、羽ばたいたのだ。なんとか飛翔する前に、かろうじてバックビークの首の周りにしがみつく。内股をギュッとしめてバックビークにしがみつき落ちないように心がけた。しがみつく体力がない人だったら、確実に墜落死していると思う。
ハグリットは先生には向いていない、と頭の片隅で考える。ダンブルドアは、それを見抜けなかったのだろうか。いや、あのダンブルドアのことだ。見抜いているに決まっている。他に本当に適任者がいなかったのだろうか。
それ以外は素晴らしかった。
1年生の時の飛行訓練は、あまり飛ぶことが出来なかった。1時間ほど授業時間が無くなってしまったせいもあるかもしれない。あの後、2,3回あった『飛行訓練』の授業では、城の3階くらいの高さまでしか、フーチ先生は飛ばせてくれなかった。だから、こうして城を空の上から眺めたことは初めてだ。飛行機に乗ったことはあるが、生憎と窓側の席に座ったことがなかったので、そもそも空の上からモノを見る体験自体が初めてといってもいいかもしれない。
だが、落ちないように態勢を整えるまでに時間がかかりすぎたようだ。空の旅を堪能しようとした頃、時間が来たのかバックビークは高度を落とし始めた。
地上がグングンと迫ってくる。ドサッっと着地する衝撃が腹から全身に伝わってきた。なんとか堪えた時には、バックビークは動きを止めていた。
「よーく出来た、セレネ!!」
大声を出すハグリット。クラス全員が歓声を上げるのが見える。ここでも注意しない。
私はバックビークをひと撫ですると、ダフネ達のところに戻った。途中、ハリーとすれ違った。どうやら次はハリーがバックビークとやるらしい。
「凄いな、セレネ!」
「怖くなかった?」
「というか、よく生きて帰ってこれたね」
ダフネ、ミリセント、パンジーが口々に言う。私自身も、よく生きて帰ってきたと思う。
「まぁ、しっかり言われたことを守れば何とかなったって感じかな」
放牧場をもう一回振り返ってみた。あちらこちらで、まぁ…こわごわという感じだが、生徒がヒッポグリフにお辞儀をしていた。
「私達も、出来るかな?」
ダフネが、おどおどと口を開いた。
「出来ると思うよ。意外と温和だったし」
先程のバックビークはハリーが撫でているので、空いている栗毛のヒッポグリフで試す。パンジーが、恐る恐るという感じでお辞儀をしているのを少し離れたところから見ていた。
「簡単じゃないか」
ドラコの声が聞こえたので、声がした方向に顔を向けてみる。すると、ハリーが終わった後のバックビークの相手をドラコがしていた。嘴を得意げに撫でている。
「ポッターにできるんだ、簡単に違いないと思ったよ。お前、全然危険なんかじゃないな。そうだろう?醜いデカブツの野獣君」
それは言い過ぎだろう、と思った瞬間の出来事だった。バックビークの爪が光った、と思ったときには、ドラコの悲鳴が放牧場全域に響き渡る。ドラコをバックビークが襲ったのだ。
「死んじゃう!!」
彼のローブはみるみる血に染まり、草の上で身を丸めていた。ハグリットは、興奮するバックビークに首輪をつけようと格闘している。
「ドラコ!」
私が走り出す前に、パンジーが猛スピードで私の横を駆け抜けた。パンジーがお辞儀を途中でやめたので、パンジーの相手をしていたヒッポグリフがイラッとした目をしている。私はそのヒッポグリフにお辞儀をしっかりして、彼の気を落ち着かせようと嘴を撫でた。ヒッポグリフは少し機嫌を直したのか、徐々に眼から不機嫌な色が消えて、先程のバックビーク同様、トロンとした目になってきた。
「…ドラコは?」
ひと段落が付いたので、近くにいたザビニに、その後の展開を聞く。本当はもっと近くにいたダフネに話しかけようかとも思ったが、彼女は恐怖で顔面蒼白になり口がきけそうになかったのだ。
「あぁ。ハグリットに抱えられて医務室に行った」
「それなら平気だな…ドラコは」
ドラコの腕は、校医のマダム・ポンフリーが治すだろう。問題はその後だ。ヒッポグリフに襲われた原因がドラコにあるからとはいえ、これは授業。監督者の責任になってしまう。教師というのはそういった責任を背負って生きて行かないといけないのだ。
人が信号を無視して飛び出してひかれてしまっても、有罪になるのは車を運転していた運転手となるように、もっとしっかり注意していなかった監督者であるハグリットがいけないということになってしまう。
私は、授業終了のチャイムが鳴り終えるまで、ヒッポグリフの嘴を撫でていた。