ポットの中で十分蒸らした紅茶を、慎重に事前に暖めておいたカップに注ぎ終える。
湯気と共にダージリンの強い香りが、キッチンに漂い始めた。
「…よし」
数か月ぶりにいれた紅茶の出来栄えを確認すると、ソファーの上で書類とにらめっこしているクイールの所まで運んだ。普段浮かべている穏やかな表情の面影はなく、洗練された空気を纏った『仕事モード』に入っている。私は、わざと音を立てながらカップを並べた。
「まったく、お茶いれたから休憩にしなよ」
「あ、あぁ、ありがとう」
音を立てて置かれたカップをつかむクイール。書類に目を落としたまま、紅茶を啜っている。
「じゃあ、これから先生が来るまでさっき取り込んだ洗濯物を畳んでおくから」
「ありがとう……って、待て待て!!セレネは夕方には帰るんだろ?僕が、後でやっておくから休んでいなさい」
「葬式後の日曜日なのに、仕事をやっている人に言われたくない」
数日前に、クイールの遠い親戚…確かエーデルフェルト家の当主が、ここ数日で体調を崩し急死したのだ。遠い親戚なので葬儀には出席してもしなくても支障はなさそうだが、クイール曰く『あの家には顔を出した方がいい』ということで葬儀に参加することになった。
そこで、金曜の午前中の授業が終わってから今日の夕方まで特別に許可を取り、こうして帰宅している。
私1人のためにホグワーツ特急を動かすわけにいはいかないので、4時にスネイプ先生が迎えに来てくれることになっていた。
「いや、本当に僕がやっておくから!セレネが1人で洗濯物を畳んでいるのに僕だけお茶をしているわけにはいかないし。そうだ!セレネのことだから『お代り』の分がポットに残っているだろ?クッキーもあることだから一緒にお茶にしないかい?」
慌てて書類を端に寄せるクイールは、立ち上がり新しいカップを取り出し私の前に置く。私はため息をつくと、ポットをつかんだ。
「まったく……アンタには逆らえないな、父さん」
自分のカップにもダージリンを注ぐと、クッキーをつまんだ。口の中に甘い味が広がっていく。
それと同時に、ここ数週間はりつめていた緊張の糸がほぐれた気がした。
「最近学校で何かあったんじゃないか?帰って来た時、顔色が悪かったからずっと気になってたんだ」
「…最近妙な噂が流れているんだ」
本当に心配そうな目で私を見てくるクイール。どうせ、ホグワーツに足を踏み入れることのないマグルのクイールに言っても何も問題ないだろうっと思い口を開いた。
「ハロウィーンの日に、魔法使い出身なのに魔法を使えない、魔法族の言葉だと『スクイブ』と呼ばれている管理人の猫『ミセス・ノリス』が石になったんだ。
猫が石になっていたところの壁には『秘密の部屋が開かれた、継承者の敵よ気をつけろ』と書いてあった状態で」
「『秘密の部屋』?」
クイールが興味深そうに目をキラキラさせて聞き返した。私はコクリとうなずく。
「創設者の1人、サラザール・スリザリンって人が学校を去る時に作った秘密の部屋。
どこにあるのか分からないけが、うやらそこの中にはスリザリンの末裔にしか操れない怪物がいるんだと。
それで、どうやらその部屋が本当に開かれて、スリザリンの残した怪物が猫を石にしたんだって噂が広がっている。
どうやら、スリザリンって人はマグル出身者や魔法使いなのに魔法を使うことができない人を嫌っていたみたいらしい。なんでも、その人たちを『魔法使いの敵』とみなしていたとか。だから、マグル出身の子たちはみんなビクビクして過ごしてる」
カップの中の濃茶色の紅茶が、どことなく暗い私の顔を映していた。
「なるほどね。それで、その怪物を、セレネが操っているんじゃないかって疑われているのか?」
「そう…って、なんでわかったんだ?」
思わずカップを落としそうになった。一言もそんなことを言っていないのに、なぜわかったのだろうか?するとクイールは優しそうに微笑んだ。
「顔に書いてあるからね。それに、猫が襲われたからってセレネだったら顔色が悪くなるほど怖がらないよ」
「…さすが父親だな。その通り。私がスリザリンの継承者なんじゃないかって疑われているんだ」
文献によると、スリザリンも私と同じように蛇と話せる。
でも、この事実を知っているスリザリン生達は、私が疑われない様に黙っていてくれている。…だが、大半のスリザリン生は私が『スリザリンの末裔』だと考えているらしく、『グリフィンドールのフレッド・ウィーズリーを殺して欲しい』だの『ハッフルパフのセドリックを殺して欲しい』だの頼んでくる人たちがいて、うっとおしい。
ダフネ達もそうだと考えていたらしく、『違う』っと言い聞かせることは、ここには書きあらわせないくらい大変だった。
「まったく……『秘密の部屋』何てあるわけないのに……」
「何でそうだと言い切れるんだい?」
「だって、そんなのがあったらとっくに見つかっているはずだ。何世紀も昔の人だぞ?しかも、史実ではなく伝説だ伝説。『ホグワーツの歴史』って本にも『伝説』っと書いてあったしな」
「…そうとは限らないぞ」
いつになく真剣な顔をしたクイール。いつもの穏やかな顔ではなく、先程の様に仕事モードの時の厳しい顔をしていた。
「セレネは先学期、ケルベロスを見たんだろ?」
「…あまり思い出したくないけど見た」
「あれも伝説上の生物だと言われてきた。それに、トロイ遺跡も伝説だ!っと言われてきたけど実在しただろ?シュリーマンが見つけたじゃないか。
もしかしたら、本当にあるのかもしれないぞ?もちろん、継承者が誰だかは分からないけど」
「そういうものか?」
「そういうものさ」
クイールは私を落ち着かせるようにニッコリ笑った。
同じニッコリ笑いだが、ロックハートのニッコリ笑いとは大違いだ。あっちは偽物の笑顔っぽくて見ていてイラッとするが、クイールの笑顔は何故か落ち着く。
私は久しぶりに笑顔を浮かべた気がした。ずっと表情を変えていなかったせいか、顔がこわばって中々うまく笑えなかったが……
スネイプ先生は約束通りの夕方4時に迎えに来てくれた。
『付添姿くらまし』という瞬間移動のような魔法で一気にホグワーツのふもとにある村、ホグズミートまで移動する。なんとなくジェットコースターに乗った時以上に吐き気がする移動方法だった。
本当はホグワーツまで『姿くらまし』が出来たらよかったのだが、校内では出来ない様な術がかかっているらしい。ホグズミート村から歩いて城に戻った。
その途中でスネイプ先生が教えてくれたのだが、昨日行われたクィディッチの試合でスリザリンはグリフィンドールに負けたらしい。
さらに、マグル出身の1年生でグリフィンドール生、コリン・クリービーという男の子が、石になっているところを発見されたそうだ。
私はその日に学校にいなかったということもあり、『セレネ=継承者説』は少し収まるとも思えた……
が、
『元々怪物に“クリスビーを襲え!”と命令しておいたに違いない』という噂が流れていた。
本当に誰が起こしている事件なのだろうか?どうせ、石になった猫(ミセス・ノリス)とクリスビーは、スプラウト先生が育てている『マンドレイク』という植物で作る解毒薬で、マンドレイクが成熟するまで待たなければならないというデメリットがあるが、しっかり元通りに戻れるそうなので、問題はないと思う。
それよりも、私にまで迷惑をかけないでほしい。
ちなみに怪物、ミセス・ノリスとコリン・クリスビーを石にさせた怪物の正体はなんとなくだが判明できた。
おそらく『バジリスク』だ。もちろん、南米にいる水の上を走るバジリスクではなく、神話上のバジリスクのことだ。
きっかけは今年起こった異変の1つが、夜な夜な聞こえる私と蛇(バーナード)にしか聞こえない妙な声だ。
私とバーナードに共通していることはただ1つ、『蛇語』しかない。この時点で、声の主は『蛇』か『蛇語を解する人間』の二択に絞られる。
その上でバーナードが畏れて口にしない名前、つまり、『蛇にとっての闇の帝王』の声ということが少し考えればわかる…その上で物的証拠…
ミセス・ノリスの足元には水が広がっていたこと……コリン・クリスビーが襲われたときカメラを構えていたこと………被害者はみんな石になったこと……『蛇の王様…バジリスク』が有力な怪物候補として考えられる。
バジリスクの眼はすべてを焼き殺し、間接的に見ると相手を石にするのだという。クリスビーはカメラごしに…ミセス・ノリスは水に映ったバジリスクを見たに違いない。
だが、1つだけ思い当たらないことがある。バジリスクがどうやって移動をしているかがわからない。
夜に声を聴くときも、ハロウィーンのときも、バジリスクの姿は見えなかった。アレはそう簡単に隠れることが出来ない。
蛇の王ということから分かるように、バジリスクは大蛇なのだ。そんな大蛇が誰にも気が付かれずに動き回れる方法が、いまだに分からない。
いったいどうやって……
「セレネ、どうしたの?」
ダフネがポンポンっと私の肩を叩いてくれたので、意識が一気に現実に戻ってきた。
私はなんとか笑みを返す。
「ごめん。ちょっと考え事」
「そう?セレネって最近ますます顔色が悪くなってるから心配で……」
「顔色が悪いと言ったら、グリフィンドールの…ほら、あそこにいる赤毛の女の子。あの子も相当悪いわよね」
ミリセントが少し先に立っている赤毛の女の子を指差した。彼女は私以上に顔色が青い。病気にかかっているように見えた。
「ミリセント。人を指差すのは失礼だと思うぞ?」
「どうせ向こうは気が付いてないから平気よ。この人混みだもの」
ミリセントがぶっきらぼうに答える。私は彼女から視線を外すと、あたりを見わたした。
私は今、ダフネ達と一緒に大広間で行われる『決闘クラブ』に来ていた。最近、物騒なことが多いので決闘の練習が役に立つかもしれないと思い、ダフネ達と一緒に来たのだ。
食事用の長いテーブルは全て取り払われ、一方の壁に沿って金色の舞台が設置してあった。何千ものロウソクが上を漂い、舞台を照らしている。
それにしても、本当にすごい数の人が集まっていた。もしかしたら、全校生徒がいるのではないだろうか?
少し先にはドラコやその子分達、それにノットやザビニもいる。さらに奥にはハーマイオニー達の姿もあった。
「パンジーも来ればよかったのにね」
「仕方ない、魔法薬の授業中に失敗して怪我を負って保健室にいるんだからな…」
ダフネの独り言のような問いかけに答えた時だった。金色の舞台に一人の男がさっそうと登場した。
ギルデロイ・ロックハートだ。
深紫色のローブを着た彼の後ろには、いつもの漆黒のローブを翻してスネイプ先生が現れた。嫌な予感が胸の中に広がっていく。
「静粛に!みなさん、集まっていますか!?結構結構!では…」
ロックハートが、いつもの笑顔で話し始めた。
なんというか、珍しい組み合わせだ。スネイプ先生は相当機嫌が悪いのだろう。上唇がめくれあがっている。今のスネイプ先生ならバジリスクではないけど、目だけで誰かを殺せそうだ。
よく、ロックハートは笑顔で『演説』をしてられるな、と少し感心してしまった。おそらく、周りを見ていないのだろう。ロックハートは女性を魅了する笑顔を浮かべながら、言葉を紡いでいく。
「ご覧のように二人で作法に従って杖を構えています。それから3つ数えて最初の術をかけます、大丈夫ですよ、お互い殺すつもりはありません」
長々とした演説が終わったようなので、ロックハートの説明に耳を傾けた。お互い殺すつもりはない、とロックハートは言うが、スネイプ先生はロックハートのことを殺しそうな勢いで睨んでいる。
もっとも、本当に殺したら牢獄行きになってしまうので、殺しはしないと思うが。
「1―2-3」
「エクスペリアームズ―武器よ去れ!」
『3』とカウントした直後に、スネイプ先生が振り返り杖から目のくらむような紅色の閃光を繰り出す。
ロックハートの杖は吹き飛び、ロックハートは派手な音とともに壁に打ち付けられた。ミリセントやダフネ、それから他の女子生徒たちが驚いて手で口を覆っている。
私は床に情けなく大の字に転がったロックハートを見て、思わず呆れてため息をつきそうになった。少し先にいるドラコやその子分は、堪えることなく笑っている。髪が乱れたままふらふらと立ち上がるロックハート。それでも笑顔を忘れない心がけが凄いと思う。
「さぁ皆さん、今のが『武装解除の術』です。ごらんのとおり…私は杖を失ったわけです―――あぁ、ミス・ブラウン、ありがとう。スネイプ先生が生徒に今の術を見せたのは素晴らしい考えです。
しかし、今先生がやろうとしたことはあまりにも見え透いていましたね。それを止めようとしたら、いとも簡単に出来たでしょうが……」
ここで言葉を止めるロックハート。さすがに、スネイプ先生の殺気を感じたらしい。少し離れている私がいる場所まで伝わってくる濃厚すぎる殺気だから、これに気が付かない人はいないだろう。
「模範演技はこれで十分ですね!さあ、2人1組になって練習です!」
ロックハートがパンパンっと手を叩いた。
ここで問題が起きた。
いつもは4人なのだが私達はパンジーがいないので、今は3人なのだ。誰か一人が分かれなければならない。
「なら、私が別の人とやるよ」
「え、いいの、セレネ?」
「別にかまわない。じゃあ、また後で」
そう言って少し彼女達から離れ、他に1人の人を探す。だが、だいたいみんな友達と来ているので1人の人はなかなか見つからなかった。
「あんた、1人?」
聞き覚えのない声をかけられ振り返るとそこには、1人の少年が立っていた。ネクタイの色から察するに『レイブンクロー』に所属する生徒だろう。背は高くもなく低くもないが、顔立ちは整っている。ミリセント曰く『イケメン』の分類に属する少年かもしれない。口端に笑みを浮かべて私に手を差し伸べてきていた。
「俺はレイブンクローの6年生『シルバー・ウィルクス』。1人なら俺と組まない?あぶれちゃってさぁ」
「…別にかまわない。私はセレネ・ゴーント。スリザリンの2年生だ」
そう言うと、目を丸くさせるシルバー。何かおかしなことを言っただろうか?それとも『継承者』という噂がついにレイブンクローに届いたのだろうか?
「ゴーント?今、ゴーントって言ったッスか?」
「そうだが、それより早く決闘をした方がイイのでは?」
「それは分かってるけどさ、もしかして君、『カドマス・ペベレル』の子孫!?」
「カド…なんだって?」
思わず聞き返す。脳内を隅々までさがしたが、聞き覚えのない単語だ。私は眉間に皺を寄せてシルバーを見上げた。
「『カドマス・ペベレル』。まぁ、伝説上の人物ってところッスかね。
伝説では、ペベレル三兄弟の次男で、『蘇りの石』を『死』から貰ったと伝えられてるみたいだ。ちょいっと都合でペベレルの三兄弟について調べた時に、一番最初にたどり着いた子孫がゴーントの子孫なんだが、家系図はモーフィン・ゴーントで途切れてたんだ。まさか生き残りがいたとはな」
「……」
シルバーが嬉々として話してくれたが、あまり内容を理解できなかった。『死』から何を貰った?蘇りの石?名前から考えると、死者が蘇るとかそういう効果がある石か?そんな石があるわけない。もしかして、賢者の石のことだろうか?
そのことを尋ねようと口を開きかけた時…
「ストーーップ!!やめなさい!!」
ロックハートの叫び声が大広間に木霊する。どうやら、他の組で問題があったようだ。ロックハートが叫んだ方を見ると、なぜか緑色の煙が漂っている。
はーはーと荒い息をしている生徒がほとんどだった。血を流している少年もいる。なぜかダフネと組んでいたはずのミリセントが、ハーマイオニーの首を絞めていた。ちなみに、後で知ったことなのだが、ダフネはレイブンクローの少年と組んでいたらしい。
「誰か見本を、そうだな。じゃあ、ハリーとマルフォイ、どうだい?」
指名されたハリーとドラコが舞台の上に上がる。
「あの有名なポッターと、マルフォイ家の次代頭首の対決ッスか。見ものだな」
シルバーは少し興奮した口調で話す。そして、ふと気づいたように私の方を見下ろした。
「そういえば、ハリー・ポッターが『継承者』だという噂あるの知ってるか?」
「…そうなのか?」
まさか、ハリーの方でもその類の噂が広まっていたとは考えもしなかった。きっと、闇の帝王を倒したから、帝王以上の闇の魔術が使えるにちがいない、とかそういう感じのモノだろう。
「シルバー先輩は、ハリーが『継承者』だと考えるんですか?」
そう問うと、シルバーは面倒くさそうに頭を掻く。
「さぁな。もしそうだとしても、『ヴォルデモート』を負かした奴を『継承者』と言いたくないな」
私はシルバーが言ったことに、驚いてしまった。
大抵の魔法族は、『ヴォルデモート』と口にするのを恐れ、配下の魔法使いでも『闇の帝王』と恐れ敬っている。私自身も、心の中では『ハゲ』やら『ヴォルデモート』と呼んでいるが、人の前では『あの人』や『帝王』と呼んでいる。だから、いままで『ヴォルデモート』と呼んでいる人を見たことがなかった。
そんな私の驚きとはよそに、平然と話し続けるシルバー。
「俺は純血だから襲われる心配は無い。今回も傍観者に徹しますかってところっスかね。首突っ込んでも、どうせ『スリザリンの怪物』を制御できる自信ないし」
「魔法省大臣のファッジでも制御できるンだから、アンタでも出来ると思うよ」
シルバーが頭の後ろで手を組んだ直後、第三者の声が聞こえてきた。
何処か夢見心地な声でシルバーの背後に立っていたのは、駅でぶつかってしまった銀髪の少女だった。あの時の様に雑誌を大事に抱えている。
「えっと、たしか1年のルーナ・ラグブット…だっけ?」
シルバーが言うと、ルーナはコクンと頷いた。そして私の方を向くと、ボンヤリとした表情のまま口を開く。
「アンタ、キングズ・クロスで会った」
「久しぶりだな、ルーナというのか。…私はセレネ・ゴーント。スリザリンの2年生だ。
ところで、どうして『スリザリンの怪物』を『魔法省大臣』が制御していると思うんだ?」
先程から疑問に思っていたことを、ぶつけてみる。するとルーナは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「だって、スリザリンの怪物が『アンガビューラ・スラッシュキルター』ってことを知ってるもン」
「「…なにそれ?」」
私とシルバーの声が見事に被る。そんな生物聞いたことがない。そういえば、この間の『ラックスパート』という生物も結局どこにも載っていなかった。もしかしたら、この子はからかうのが趣味なのだろうか?そう考えたが、本気でそれらを信じている目をしている。
そんな私の気持ちに気が付かないまま、目を輝かせて話を続けるルーナ。
「魔法省大臣のファッジがこっそり用いている生物だよ。人を一叫びで石にする能力を持っているンだ。
たぶん、学校中に張り巡らされているパイプを通って移動しているから誰も気が付かないンだよ」
「いや、それは無いっすよ」
シルバーが否定する。完全に信じてないような眼でルーナを見下ろすシルバー。本気で信じているルーナには悪いが、私もそう思う。まさか、魔法省大臣がそんな動物を飼っているとは思えない。
「よく分からないが…ん、ちょっと待て。そのアンなんとかは、どこを通って移動していると言ったか?」
「パイプだよ。壁の中に埋まっているでしょ?」
「なるほど、それでか!」
ルーナは納得してくれる人がいて嬉しいのかニコニコしている。
だが、ルーナの話に納得したのではない。バジリスクの移動手段が分かったのだ。おそらく、学校中に張り巡らされているパイプを移動しているのだ。だから姿が見えない。残る謎は『秘密の部屋』がどこにあるか、だ。
パイプが直接つながっている場所が怪しい。となると……トイレか?いや、でもさすがに『高貴』で知られるスリザリンが、トイレに隠し部屋を作ったとは考えにくい。
いったいどこに…
「帰ンなくていいの、終わったよ?それともまた、ラックスパートがとんでいた?」
ルーナが話しかけてきた。見てみるといつの間にかハリーVSドラコは終わっていた。どうやら、また考え事に夢中で辺りが見えていなかったようだ。向こうからダフネ達が近づいてくるのが見える。
私はシルバー・ルーナと別れるとダフネ達の方へ戻った。ダフネ達は近づいてくる私を見ると、興味津々の表情を浮かべながら、近づいてきた。
「ねぇ、さっきの何てポッターは言ってたの?」
ダフネが開口一番にそれを聞いてきた。私は頭をかいた。
「ハリーとここ数日口きいてないけど…」
「ちがうわ、さっきの決闘のときよ!ポッターがマルフォイの出した『蛇』に何か言ってたの!」
「…悪い。さっきの決闘見てない。ハリーが何をしてたかもう一度言ってくれないか?」
私が眉間にしわを寄せて聞き返す。
「ポッターが蛇と話してたの!」
ダフネの眼は嘘をついている目には見えなかった。隣にいるミリセントの眼も、ダフネが言ったことは本当だといっている。
「うそ、だろ?」
この学校にまさかもう1人、蛇語を操る人がいるとは思わなかった。もしかして『スリザリンの継承者』はハリーなのではないだろうか?だが、ミセス・ノリスを石にさせたり、クリスビーを石にさせたりしてハリーにどんなメリットがあるのだろう?
だいたい、『スリザリンの継承者』はマグル生まれを追い出したいのだ。それなのに、ハリーはマグル出身のハーマイオニーと仲がいい。
この時点で矛盾が生じている。
でも、もしかしたら私の盲点となっているところにハリーのメリットがあるのかもしれない。いずれにしろ、疑っておいた方がいいだろう。
「あれ、セレネどこに行くの?」
談話室に戻る通路の前を素通りする私を変な目で見てくるミリセント。
「ちょっと図書館に行ってくる。大丈夫、すぐ戻るって」
調べないといけないことがある。私は急ぎ足で図書館に向かったのであった。
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今回1人、新たにオリキャラを出しました。
モブで終わらせないように頑張りたいと思います。