Side:ダドリ―・ダーズリー
あれは、何歳の時だっただろう?
よく覚えていないけど、なんか小さい頃だった気がする。少なくとも、ハリーの奴が魔法学校とやらに入学する前のことだ。
マージー伯母さんの家に遊びに行ったとき、いつものようにハリーを蹴り飛ばして遊んでいた。いまにも転びそうな勢いで逃げ回るハリーを見ているだけで面白かったし、蹴り飛ばした時の爽快感も極上だ。
ほら、もっと逃げろ。もっと逃げて逃げて逃げまくれ。
怯えるハリーを庭の隅まで追い詰め、逃げ場をなくす。ハリーは『この世の終わりだ』と言いだしそうな表情を浮かべ、俺を見上げる。
『ゲームオーバーだな、ハリー!』
俺は足を振り上げ、そして―――
『やめたほうがいい』
声が通る。
空間を遠くまで切り裂くような、透き通った声が。
俺は声がした方に、身体を向ける。すると、そこには1人の少女が立っていた。
年のころは、俺と同じくらいだと思う。だけど、俺が知っている女の子の誰よりも、大人っぽい雰囲気を漂わせていた。さらりとした黒い髪、陶器のように白い肌、そして全てを見透かされそうな黒い瞳。
どこか呆れ気味な表情を浮かべながら、ハリーに近づいていく。
二言三言、何か言葉を交わしているみたいだったけれども、俺の耳には入らなかった。俺は、振り上げたままの足を地面に降ろすと、少女に声をかけてみる。
『お前、誰?』
少女は俺を見上げると、嫌そうに眉をしかめた。だけど、耳心地の良い鈴のような声で、俺の問いに答えてくれた。
『私?私は―――』
そう、まだ俺の心から消えてくれない彼女の名前は―――
「……ダドリー?」
どこか心配そうな声で、ハッと我に返った。
つい、俺は思い出にふけってしまっていたみたいだ。途端に、恥ずかしさが込み上げてくる。今日は、絶対にシャキっとカッコいいところを見せようと思っていたのに……
「大丈夫か?」
「あ、あぁ……大丈夫」
なんとか俺が答えると、向かい合わせに座った彼女は、ホッと胸を落としたみたいだ。
「よかった。でも、無理するなよな」
そういうと、天使のような微笑みを俺に向ける。
せっかく気を確かに持とうと思ったのに、あの笑顔は酷過ぎる。顔はますます赤くなるばかりで、もう火が出そうだ。
……俺の前に座る彼女の名前は、セレネ・ゴーント。
マージー伯母さんの家の近所に住む少女で、俺の初恋の相手でもある。会った回数は指の数より少ないけれども、彼女の仕草一つ一つが魅力的で……想いは増すばかりだった。マージー伯母さんに頼んで、彼女と逢瀬する機会を設けようとしたが、ことごとく失敗。意識不明で病院に入院していたり(交通事故にあってしまったらしい)、学校の寮へ入ってしまったり(海外の学校なのだろうか?)、TVドラマの殺し屋みたいな眼をした父親と旅行に出かけてしまったり(アジアに行っていたらしい。中国だろうか?)……本当に、運がない。
だから、もう諦めていたんだ。
セレネとは、縁がなかったんだって。
でも、神は俺を見捨てなかった!
なんでも、数日前『近くに行く用事があるから、久しぶりに寄りたい』という電話がかかってきたのだ。
セレネが『来るかも』と言った日は平日だったけれども、創立記念日の俺には関係ない。パパは仕事で留守だし、ママも用事で先程出かけたばかり。
つまり……夢にまで見た、俺とセレネの2人っきりの時間を過ごしているのだ!
……ハリーという邪魔者もいるけど、アイツは自分の部屋から出てこないからノーカウントとしておこう。
でも、せっかく2人っきりだというのに、俺は何も話せなかった。がらにもなく、緊張してしまっているみたいだ。あれを話そう、これを話そうって考えているんだけれども、考えるばかりで口に出せない。
「ダドリー。これ、アンタのために持ってきたんだ」
セレネが取り出したのは、不思議な色をした飴玉だった。桃色にも見えるし、白にも見える。光の角度で、色が変わっているのかもしれない。
「これ、どこで買ったんだ?」
「……作ったんだ。アンタのために」
恥ずかしいのだろうか?
セレネは顔を赤らめると、少し俯いてしまった。ドキンっと心臓が跳ね上がる。
手作りの飴玉……といえば、嫌な思い出が頭を横切る。あの赤毛の双子がつくった飴玉を食べたせいで、危うく死ぬところだった。あぁ、思い出したくもない……自分の舌で窒息しかけたなんて。
だから、あれ以降……飴は市販のモノ以外食べていない。
『手作りの飴玉』を、こうして見ているだけで、なんだかトラウマが蘇ってきそうだ。なんだか、食べてもないのに吐きたい。
いや、だけどセレネが作ってくれた飴玉だぞ?あのセレネが『俺』のために作ってくれた飴玉だぞ?食べずに破棄するなんて、もったいなさ過ぎる。
どうしたらいいのだろうか?俺は、悶々と悩みこんでしまう。
「……だめか?」
声に気付き、ハッと顔をあげるとセレネと目があった。セレネは上目づかいで、俺を見上げてきている。黒々とした瞳を、不安そうに潤ませながら。
「いや、食べる!とっても美味しそうだ!!」
俺は迷わず飴玉に手を伸ばす。
あの赤毛の双子と、セレネは違う。セレネは俺と同じ『まとも』な人間だ。そう、セレネは『魔法』なんかとは縁もゆかりもない人なのだから、なにを不安がる必要があるのだろうか。
俺は、馬鹿か!?
飴玉を口の中に放り込む。
脳をも溶かすような甘さが、口の中に広がる。今までに食べたことがないような甘さに、とろんっと眠くなってしまいそうだ。
「旨いか?」
「うん……甘くて、とっても」
『美味しいよ』と続けようとしたけれども、言葉を続けることが出来なかった。
なぜだろうか?急に視界が暗くなり始めたんだ。まるで、劇の幕が閉じるかのように視界が端から暗くなり始める。
「ぅ!」
ぐらり、と身体が前のめりになった。ふかふかのカーペットが急速に近づいてくる。
何が起こったのだろうか?急に眠くなるなんて…急に、身体が重くなるだなんて……
ガツン、という強い衝撃が顔面に奔ったのと同時に、俺の意識は黒く染まった。
Side:セレネ
『本当に効いたみたいですね』
ボストンバックの口から、アルファルドが顔を出した。私は何も答えずに、そっとダドリ-・ダーズリーの横に座り込む。脈があるかどうか確かめるため、手首に手を伸ばしかけた……が、その瞬間にダドリ-は、地響きと間違えるような鼾をかき始めた。私は手首を引っ込めると、ゆっくり立ち上がる。
『ポッターの従兄弟ですか…同じ一族なのに、全然似ていませんね』
『それを言うなら、私とヴォルデモートも似ていないだろ』
足元から絡みつくように上ってくるアルファルドに返事をすると、白目をむいて床に転げ落ちた豚…ダドリー・ダーズリーを見下ろした。
「何を食べさせたの?」
火の気がない暖炉の横に、ハリーが現れた。薄汚れた布を手にしているところを見ると、手筈通り……透明マントで隠れていたらしい。
「トンクスに頼んで仕入れてもらった『気絶キャンディ』だ。フレッドとジョージ兄弟が作った品らしい」
ダドリ―程度のマグルを眠らせるなんて容易なこと。上着の下に隠された杖を一振りすれば、いいだけなのだ。それをしないのは、このあたりでむやみに魔法を使うことが出来ないから。
下手に近くで魔法を使うと、『17歳未満の者の周囲での魔法行為を嗅ぎ出す呪文』に引っかかり、ややこしいことになる気がする。ダンブルドアが死んだ今、ハリー・ポッターは『反ヴォルデモート運動』の象徴だ。『なにかあったのかもしれない!』と闇払いあたりが慌てて駆けつけてくる可能性が高い。そうなったら最後、話が物凄くこじれてしまう。
……『不死鳥の騎士団』の保護を受けているとはいえ、魔法省側の保護を受けているわけではない。……まだ、私の手配書は解除されていないのだ。
「さてと、ハリー・ポッター。アンタと私が11歳の時に再会した店の名前は?」
不自然なくらい磨き上げられたキッチンに腰をおろしながら、ハリーに問う。
ハリーは不思議そうに顔を歪ませながら
「『イーロップのフクロウ百貨店』。でも、なんでそんなことを今さら?」
と答えた。私は口元に笑みを浮かべると、口を開いた。
「万が一、アンタが偽物ってこともあるからな。……ま、ありえないけど。
私にも、何か質問した方がいいんじゃないか?」
呆れ口調で言うと、ハリーの顔に納得の色が広がった。それと同時に、考え込むように腕を組む。…恐らく、私に何を質問するか悩んでいるのだろう。
「そうだね……う~ん……えっと……じゃあ、『秘密の部屋』でセレネが最初に使った武器は?」
「『キャリコM950A』…短機関銃だ」
「正解!……それにしても、短機関銃なんて良く手に入れられたね」
関心したように、ハリーは呟いた。ハリーは透明マントを畳みながら、気絶したダドリーをまたぐ。
「でも、どうしてわざわざ『ダーズリー家にたまたま遊びに来た女子学生』なんていう設定にしたんだ?素直に、『僕を訪ねてきた』ってすればよかったのに」
「すべては、変に警戒されないためだ。
……知ってるか?遠くから見ると、プリペッド通り上空に魔法使いが2名旋回している。恐らく、お前に対する見張りだ」
テーブルの上のビスケットをつまみながら、ここに来る途中に見た魔法使いを思い出す。
ほとんど雲と同じ位置を旋回していた2つの点。あの位置から魔法でも使って、プリベッド通りを監視しているのだろう。
「セレネ、バレてない?」
さぁーっと顔色を青ざめたハリーは、声を潜めて聞いてきた。私は、いつも通り淡々と言葉を返す。
「バレるか。帽子もかぶったし、全身何処からどう見てもマグルの女子学生だろ」
魔法族の血を引いてはいるけれども、私はマグルの世界で11年以上暮らしてきたのだ。他の魔法使いのように、とんちんかんな服の組み合わせをしてしまうなんて間違いは起こすわけがない。
ハリーも納得がいったのか、うんうんと頷いていた。
「そうだ。これ、セレネに渡そうと思っていたんだ」
ハリーは、黒い眼鏡ケースを取り出した。
開けてみると、中に入っていたのは新品の眼鏡だった。私は眉間にしわを寄せる。
「ありがとう。だが、私の視力は」
「セレネに渡してくれって言われたんだ」
『両目とも1.5だぞ?』という言葉をつづける前に、ハリーが言葉を発した。私は、少しだけ目を細めた。
「誰に?…ダンブルドアか?」
「えっと……『青崎青子』って女性。『マジックガンナー』や『ミスブルー』とも呼ばれているみたいだよ。
なんか、この眼鏡が無くてセレネが困っているから渡してほしいって言ってた」
…知らない女性だ。
全く聞き覚えのない名前。だけれども、『眼鏡』が無くて困っていた事を知っていた。……それは、私の眼鏡が『魔眼殺し』だと知っていたということなのだろうか?それとも、ただ単純に私の視力が低いと思っていた?
「そうか」
眼鏡はかけなかった。
アオコという女性が好意的に眼鏡をくれたのかもしれないが、悪意のある魔法がかけられているかもしれない。例えば、眼鏡をかけた瞬間に爆発するとか。
……素性を調べてから、かけることにしよう。
「さてと、始めるぞ。早くしないと、そこの豚が起きる」
私は、ボストンバックに入れておいたナイフを取り出した。床に転がっているダドリ-・ダーズリーの巨体をまたぎ、ゆっくりとハリーの方へ歩みを進める。近づいてくる私を見たハリーは、やはり緊張しているようだ。ごくり、と唾を飲み込む。
「セレネ」
「私は、アンタを殺すことが出来ない。『破れぬ誓い』をトンクスと結んでいるからな」
ロンドン郊外にあるトンクスのアパートで、最初に結んだ『破れぬ誓い』を思い出す。
《ハリー・ポッターを殺さない》……そんな必死な形相で結ばなくてもいいではないかと、引きそうになってしまった。私は、ハリーを殺す気なんてない。私が殺したいほど憎んでいた相手は、もう死んでしまったのだから。
「じゃあ……殺るぞ」
目をつぶり、すぅっと…ゆっくり息を吐き出す。『ハリーの中のヴォルデモートだけを殺す』という難易度が高めな技で緊張してもおかしくはない。だが、不思議と緊張はしない。むしろ、すがすがしい気分だ。
再び目を開ける。そして、ハリーの内側に蠢くモノの死を直視する。あぁ、よく視れば視るほど吐き気がしたくなる。
今まで見た何よりも醜悪。人間的な欲望の塊でもあり、怪物的な欲望の塊のようにもみえる。
「ありがとう、セレネ」
ハリーは呟く。どことなく、少し震え気味の声で。
「礼をされる意味が分からないな」
ナイフの切っ先が、ハリーの胸に触れる。貫くのはハリーの肉体だ。けれど、それは在ることもできない粗雑なモノを殺すだけのこと。何故だかわからないけれども、ハリー自身は決して傷などつかないと、私は確信していた。
そうして、私は力を込めた。ハリーの中に潜む誰かさんの魂は、これから何が起きるのか気が付いたのだろう。魂は明らかに焦りはじめ、私を落ち着かせるようなことを喚き始めた。
だが、そんな魂の戯言なんて聞こえない。私は『視える』だけなのだ。
「じゃあな、トム・リドル」
ナイフは滑らかに、ハリー・ポッターの胸を突き刺した。
銀の刃が引き抜かれる。
血は出なかった。もちろん、刃にも血なんか付着していない。私はぶんっとナイフを振るう。刀身についた汚れた霊でも払うかのように。
『本当に、アイツを殺せたんですか?』
髪の毛の下から顔を出したアルファルドが、不安そうに私を見上げてくる。その頭を撫でながら、私は答えた。
『大丈夫、殺せたさ』
撫でる手を止めずに、ちらりとハリーの方へ視線を向ける。
血は出ていないとはいえ、刺されたという事実には変わりない。強烈な痛みに耐えきれず、ハリーは崩れ落ちるように倒れ込む。
私はナイフを鞄にしまいながら、彼に近づいた。
「気分はどうだ、ハリー・ポッター?」
足元に転がるハリーを見下ろす。ハリーは弱弱しい笑みを浮かべ、でも瞳には強い光を保ったまま口を開いた。
「大丈夫、悪くない」
呼吸は荒いし、汗は滝のように流れている。明らかな強がりだけれども、結果は上々。保護された際に結んだ『破れぬ誓い』の制約にも触れていないし、これで私の役割は終わった。口元に笑みを浮かべると、机の上に置いておいた帽子を手に取った。
「そうか。ならいい」
帽子を目深にかぶり、ボストンバックを背負う。開けっ放しのボストンバックの口に、アルファルドが滑り込んだ。何の変哲もないボストンバックに見えるが、『検知不可能拡大呪文』で、日本で有名な某猫型ロボットのポケットのような空間が広がっているのだ。だから、アルファルドも文句を言わずに入ってくれる。
……もっとも、最初に『入れ』と言った時には、ずいぶんと渋っていたが……
「さよならだ、ハリー・ポッター」
ハリーに背を向け、歩き出す。
「ありがとう、セレネ」
囁くように、ハリーの呟く声が耳に入る。
私は何も答えずに、ドアを開けた。
無言で廊下へ通じるドアを開け、無言で玄関を開ける。ギィッと音を立てながら玄関を開け、磨き上げられた敷居を跨いだとき、ようやく私は口を開いた。
「私は、礼を言われるようなことをしたか………ハリー」
私はハリーを助けたのではない。
ハリーの中のヴォルデモートを殺したのだ。あのヴォルデモートを倒さないと、本体のヴォルデモートも死なない。本体が死ななければ、いくら海外へ亡命したからとはいえ、命を狙われる危険性がある。だから、手を貸した。……それだけの話。
『これで、魔法界ともお別れですね』
バックの中から、アルファルドが呟く声が聞こえてきた。
アルファルドの言うとおりだ。もう、これで魔法界に用なんてない。
あとは、切嗣さんが用意してくれた偽造パスポートを使い、日本へ亡命するのだ。飛行機の手配も既に終わっている。明日の夕方には、空の上を飛んでいることだろう。それまでは、どこか地方都市でのんびりイギリスでの最後の時を過ごすことにしよう。
『……行きたいところはあるか?学校以外で』
口を動かさず、囁き返す。もちろん、周りに人がいないことを確認したうえで。
『主の行きたいところであれば、どこでも』
どこか楽しむような口調で、アルファルドは答える。私も口元に笑みを浮かべた。いつにない解放感。だけど、私がいるのは敵陣(イギリス)。ここから出ないと、本当に緊張を解くことが出来ない。
気を引き締めなければ……とを考えながら、少し先の角を見つめる。この角を曲がれば、『17歳未満の者の周囲での魔法行為を嗅ぎ出す呪文』の範囲から逃れられるし、上空の死喰い人らしき奴らの監視下からも出ることが出来る。
『どこに行くか、決めましたか?』
『……』
アルファルドの問いには答えない。
私は黙って角を曲がり、そして――――
「……アンタは……」
角を曲がったそこに立っていた人物に、驚いてしまった。
楽しそうにキラキラと輝く黒い瞳、鮮やかなピンク色をした短い髪。マグルの服装に身を包んだ女性は、にこやかな笑顔で片手をあげて
「よっ、セレネ!」
と話しかけてきた。私は杖をいつでも握れる状態にしながら、ニンファドーラ・トンクスを軽く睨む。
「私は言われたことをやり遂げました。あとどう行動しても、『誓い』に触れない限りは私の自由だったはずですよね?」
……ハリーと接触する機会が巡ってくるまでの数か月間、目の前にいる女性の元で暮らしたのだ。敵を騙すなんて出来ない、感情がストレートに出てしまう裏表ない人だと分かった。本当に少しだけだけど、信頼していた。
裏切られたのだろうか?それとも……
「貴女の守護霊はなんでしょうか?」
以前取り決めていた言葉を尋ねる。……これで、目の前の相手が本当に『ニンファドーラ・トンクス』かどうか分かるはずだ。
「私の守護霊は『狼』で、貴方の守護霊は『バジリスク』のアルファルドよね?」
トンクスの答えは、正解だった。
つまり、私の眼の前にいる女性は『ニンファドーラ・トンクス』本人だということになる。そのトンクスが今更私に、何の用があるのだろうか?
トンクスの口元に浮かぶニンマリとした微笑が、これから起こる面倒事を告げているような気がしてならない。
「用なら手短に済ませてください」
ため息をつきたくなるのを堪えると、腰に手を当てて尋ねてみる。
トンクスはバンッと両手を合わせた。そして、どこか申し訳なさそうな、だけど嬉しそうな表情を浮かべると、こんな言葉を紡いだのだった。
「ごめんね、セレネ。実は……貴女に会わせたい人がいるの」
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4月12日:一部訂正