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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:b7ea7015 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/22 10:42
ある男のガンダム戦記26

<流血を伴う一手>





宇宙世紀0096.02.14のネオ・ジオンの決起宣言。
その一時間前に行われたサイド1襲撃作戦は地球連邦市民の、特にアースノイド市民らにニューヤーク市攻撃の悪夢を思い出させる。

『所詮は水天の涙紛争を起こした連中と何ら変わらない、ネオ・ジオンと名前を変えた旧エゥーゴ勢力、アクシズ軍の連合軍。
それが最早過去の人物であるジオン・ジム・ダイクンの後継者を名乗っただけのテロリスト集団。それ以外の何だと言うのか?』

という論調の新聞が各コロニーサイド、月面都市群、地球各国、連邦構成州の各市民に広がるのは早かった。
が、ネオ・ジオン軍側から見ての奇襲攻撃によるサイド1の軍事力削減の成功は確かに純粋な軍事作戦として見れば大成功である。
彼らのMS隊は、それぞれエンドラ、ミンドラの所属していたドライセンとバウそれぞれ1機の損失で50機以上の敵機と30隻近い艦隊を無効、無力化したのだ。
だが、政治的に見れば最悪の愚策である。それは各新聞社やマス・メディア、インターネットの論調、ジャーナリズムの雑誌の考えを見れば簡単に分かっただろうに。

『テロリストの、MSを使った私兵集団の卑劣なる民間人殺戮もいとわない奇襲攻撃』

それがアースノイド、スペースノイド、ルナリアン、ジュピトリアンら連邦市民の、ジオン公国国民の反応。
世論も政界上層部もこれを支持した。
その圧倒的な世論を背景に、地球連邦軍は『あ一号作戦』を、ジオン公国軍は『第二次ブリティッシュ作戦』を発令し、アクシズ要塞制圧とそこにある多数の人体実験データ、設備の確保を目論む。
今後100年の人類繁栄と国益の為に。
当然ながらジオン公国や準加盟国、地球連邦構成国クラスの国家、つまり国家レベルの情報機関を自前に所有するならこの動き、地球圏の国際世論の硬化に気が付く筈だ。
が、生憎とネオ・ジオン軍は、あくまで巨大と言う但し書きが付くが、一武装勢力にすぎず両国の大軍が動き出す為にその準備を始めた事にまだ気が付いてなかった。
上層部を含めて。
その片方の雄にして一年戦争以来の大軍を動員する事にした地球連邦政府の一角では、男が自分あての固定電話が鳴り響いた事に気が付いた。

「仕事かな?」

地球連邦の首都であるニューヤーク市で男が呟いた。
以前と比べて減った筈だが、今回のネオ・ジオンの軍事行動でまたぞろ一日に処理する書類が一気に増加した。
当たり前だろう、彼の指揮下にある部隊は対ネオ・ジオン軍の為に編成された精鋭部隊であると言えるし、この日の為にわざわざ議会が予算増額を認めた。

「はい、こちらティターンズ長官室、リム・ケンブリッジ副長官です」

そう言って妻が受話器を取る。
『あ一号作戦』発令と同時に殺人的に増えると予想された書類の山。それを倒す為に、例外的に長官の人事権で一番仕事が出来て情報通の女性を副長官にした。
彼女の名前はリム・ケンブリッジ。アジア系の混血であり、半世紀以上共に時間を過ごしてきた女性であった。

「お時間です、閣下」

と、灰色の女性スーツに青いシャツを着た妻の言葉。
見た目はまだ50代のどこにでも居そうな女性。ただし、かなり若作り(この間、食事の席で口を滑らした長男は修羅場と地獄を見た)をしているが。
その女性、この人間が現在地球連邦情報網の過半数を担っているなど誰が信じようか?
まして明らかに凡人でありたいと願い続ける男が、事実上の地球連邦の指導者だったなどと信じられるものは存在するか?
答えは『是』である。
この二人の醸し出す雰囲気と、行ってきた実績は既に一般人や政治業者のモノでは無い。文字通りの『英雄』と英雄の右腕だった。

「閣下か・・・・・堅苦しい事を言う時は決まって厄介ごとな。ロナ君、アルギス君、マス女史、行きますよ・・・・・どうせ行きたくなくても行かなきゃならないのだから」

ウィリアムが名前を呼ぶのは現在、彼の部下、つまりはティターンズ関係者の中でも最も政治的に活躍していると言われている人物。
一人は私設秘書で、ティターンズが暴走しない様に連邦軍と共に適用される、人権保障法の一環、『連邦軍軍事活動制限法』と地球連邦創設以来の伝統法典である『統一刑法』の法律関係全般を受け持つセイラ・マス女史。
マス法律相談事務所の一員で、フランクリン・ビダン技術大尉の検察側からの求刑を減らした事で一躍有名になった。
その後、0092に娘が生まれて育児に専念していたが0096の時点で既に4歳に近く、安全かつしっかりとした施設で育てたいと言う事で、書類戦争で死にかけていたウィリアム・ケンブリッジの要請、と言うか嘆願に答えてティターンズ長官の私設秘書になる。(もちろん、ティターンズの入隊試験を抜擢方式でパスした)

「それでは準備をしてきます。リム艦長、行きましょう」

妻のリム・ケンブリッジ情報部部長(通称、ホワイトマン)と共に化粧の為に一旦バスルームに向かう。

(昔からの癖は抜けないのね、セイラ少尉。私の事を艦長と呼ぶなんて。アムロ君の事を笑えないわよ?)

その間に、自分の書類の決算を終わらせ、引出しの中に入れて鍵をかける。

ブッホ・コンツッェルの指導者階級の一人にして首席補佐官のマイッツァー・ロナ。
彼の親族は現在、ブレックス・フォーラーのフォーラ家の議席を奪い、連邦議会に3名もサイド6代表として連邦議員を輩出していた有力政治家の一族。その筆頭。
つまりはティターンズ派閥=ジャミトフ・ハイマン、ウィリアム・ケンブリッジ連合派の連邦議会の有力な一派である。
何よりもそのサルベージ技術と独自の軍事組織、連邦軍からの優秀な退役兵士とその訓練で賄われている『クロスボーン・バンガード』を指揮下に収めている。
これは民間軍事会社を嫌う地球連邦軍の中で数限りなく少ない例外として、アレキサンドリア級重巡洋艦9隻と、ゼタンの門の第18ドッグの使用許可、新型機RGM-89ジェガンタイプで搭載機が全て充足される程の厚遇ぶりだった。
だが、一方で問題点もある。
このマイッツァー・ロナは狂信的なウィリアム・ケンブリッジ支持者であり、例のインダストリー7では核兵器の使用許可を勝ち取り、ビスト財団を壊滅させていた。
その際に多数のビスト財団の人間を殺傷しているが、テロ行為に対処したとして全て闇に葬った実績を持つ。
この点から、パラヤ外務大臣ら等は『ロンド・ベル艦隊と地球連邦軍宇宙艦隊の第13艦隊はケンブリッジの私軍』、この民間軍事会社(傭兵部隊)は『クロスボーン・バンガードはウィリアムの私兵集団』と忌み嫌っている。
実際にはそんな事まで考えている余裕などないと言うのがティターンズ第二代目長官の本音ではあるのだが。

最後のフェアトン・ラーフ・アルギスは地球連邦軍に、と言うか、ティターンズのウィリアム・ケンブリッジに個人的に投降した感じが強いアクシズ軍(当時はまだこの名だった、現在のネオ・ジオン軍)の元ジオン公国軍中佐。
アルギス家というジオンのキシリア派の名家の跡取りだと言われているが、それが嘘であるのは公然の秘密。
とくにロナ首席補佐官は護衛MS隊隊長とロンド・ベル隊のMS隊隊長のレイヤー中佐、カムナ中佐には伝えてあるが皆は黙っている。
彼の本性はともかく、ラーフ・システムはいつの間にか本人の知らぬ間に形成された政財軍官閥族の『ケンブリッジ・ファミリー』だけでなく人類が目指すべき一つの集大成であったからだ。
少なくとも、『ダカールの日』を知っている地球連邦市民や同盟国のジオン公国国民、新しい可能性に賭ける準加盟国の中華の難民たちはそう信じている。
その技官責任者としてティターンズと宇宙開拓省、コロニー公社を行ったり来たりしている彼。
水天の涙に参加した上、アクシズ逃亡で敵前逃亡をした事も踏まえ、ジオン、連邦双方に白眼視されるがそれを跳ね除ける鋼の精神能力を持つ。
一時期はリム・ケンブリッジの要請でジン・ケンブリッジとマナ・ケンブリッジの家庭教師を半年ほどしていた経歴もある。

この三人に加えて軍事面での参謀役と木星連盟への外交折衝役として第13艦隊の副司令官、パプテマス・シロッコ准将がいる。
軍事面では彼に対抗できるのはロンド・ベル総司令官のブライト・ノア中将か宇宙艦隊司令長官になったエイパー・シナプス大将位であろう。
特にPMXシリーズの開発・設計の技術者としても成功している事を考えると、こちらも得難い。

ただし、セイラ・マスを除いた三人の男にはウィリアムの胃を痛める最大の要因がある。
それは単純明快だった。組織内部の人間関係である。なまじ全員が独立してもやっていける為、付いて行こうとする人間、つまり派閥形成が起きそうで起きてない。
これはウィリアム・ケンブリッジの存在と調整役を押し付けらたニュータイプの青年、ジュドー・アーシタの存在が大きい。
後は、土下座してまで三人の内部対立を回避させたジン・ケンブリッジだろう。伊達に妻を二人も娶ってはいなかったと言う事だとウィリアムは思ったらしい。

(問題は全員が互いに嫌いあっていると言うか・・・・実力は認めても性格は全く認めてない程仲が悪いと言う事だろうか・・・・仲が良いという気もするが言っても全員が否定するだろうな)

溜め息もつきたくなるものだ。
シロッコ准将がいないし、フェアント君がラーフ・システム開発の為の交渉で財務省や宇宙開拓省、地球連邦軍、コロニー公社に出向する事が多くなったから最近はあまり無いが初期のころは凄かった。

「ウィリアム、いえ、ケンブリッジ長官・・・・準備できましたか?」

と、妻が声をかける。
パスワードを打ち込んで電源を切り、インターネットの接続してある有線LANケーブルを物理的に引き抜く事でサイバーテロや電子情報の漏えいを防ぐべく動く。
それは全員が、特にミノフスキー粒子散布で従来の電子防御システムが使えなくなった事の弊害でもあった。
以前なら、一年戦争以前の中央集権的な制度を持った連邦軍や連邦政府ならこんなマン・パワーを活用した原始的な対策などしなくても良かった。
ボタン一つで対コンピューターウィルス対策のソフトを流し込めば後は任せて良かったのだが・・・・今は違う。
が、ミノフスキー粒子の為、強力な電波攪乱と防衛システムの遮断が発生すれば最悪ネットテロの温床となる。
そう考えての措置だ。特に上級閣僚、官僚、士官、そして経済界には徹底した対応が取られている。

「さてと、ネイビーのストライプ付きのスーツも着たし、ティターンズ長官と連邦政府閣僚のバッチも付けた。
紫のストライプのネクタイと白いシャツを着て、黒いオーダーメイドの皮靴と黒い高級ベルトもした。
さて、我が姫君、後は何が足りないかな?」

うーんという考える仕草をする。
そして言った。

「帽子とステッキね。例の奴がないとイギリス風紳士に見えないわよ。いくら似非紳士でも最後までやれば馬子にも衣装できっと素敵な旦那様に見えるわ」

そう言ってスーツと同じ生地で製造されたハンドメイドの帽子を投げてよこす。
ついでにステッキも。このステッキは一度押すと非常無線と緊急連絡用のシグナルを出す。
しかも高級木材を使った日本製品だ。贈答品であり、あの高級万年筆と同様、自分達の宝物だ。

(一本たしか30万テラすると言っていたな。ロンド・ベルのみんなからの初孫祝いと聞いたけど・・・・悪い事したな)

因みに彼と第14独立艦隊時代の、つまりはペガサス時代の戦友、更にはその後加わった第13独立戦隊の主要メンバー、あの日のニューヤーク市で酒盛りしたメンバーとは今でも最低半年に一度、交流を続けている。
しかも年々、彼らが見つけてくる後輩らが増えていた。
基本は軍人中心だが、閣僚、官僚、財界、政治家の卵、ジオン公国国民、学会、マス・メディア、コロニー公社、木星圏を問わずに、だ。

『ウィリアム・ケンブリッジは私兵集団を作り上げている』

というカイ・シデンのレポートも強ち間違いでは無いだろう。
そしてその結束力は思った以上に固く、次期指導者にジン・ケンブリッジを置き、そのサポート役にマナ・ケンブリッジを置くと言う陰謀めいた話が毎回の如く彼女ら、彼らの酒の席で出ている。
これはゴップ内閣官房長官が非常に懸念している事態である。
故に、ゴップ内閣官房長官はゴールドマン首相と共謀してティターンズの権限縮小を目論み、それをウィリアム・ケンブリッジ本人に実行させた。

『彼の派閥は巨大ですからな。特に前線部隊や実戦経験者に信者が多い。ケンブリッジ長官がその気になれば宇宙艦隊の半数が彼につくでしょう。
サイド7のグリプスも独立するし、ジオン公国の動向も気になる。
ああ、彼が個人的な部隊を率いて南米の大要塞ジャブローに引き込まれたら一年戦争以上の損害がでるでしょう。そのカリスマ性故に。
そうなる前に・・・・家の飼っている忠犬とはいえ、かわいい犬にも首輪と紐が必要ですね』

『ウィリアムがクーデターを起こす可能性は限りなく0に近い。彼は権力を求めた事など無い。あれが求めたのはたった一人の女だ。
それは私が、ジャミトフ・ハイマンが保証しよう。
あのかわいい後輩が望んだのはリム・ケンブリッジ退役准将ただ一人の心、現在の地球連邦情報局戦略情報室室長(FIA)と我が地球連邦北米州情報局戦略分析部部長を兼任する女性の為だった。
そして我が子らの為である。
逆に言えば、彼の家族の安全を保障さえすれば多少の危険性、多くの政治家や軍部が危惧している『ケンブリッジ・ファミリー』による地球連邦解体戦争とでもいうべき戦乱は回避できると言う事だ。
まあ、それはあのウィリアムの本当の危険性を、レビル将軍とキングダム首相を失脚させた彼の本性を知らない一部の政治屋どもが火遊びをするならば政府は全力で止める義務があると言う事だ。
今後100年の地球圏の未来を考えるならば、な。これが私の公式見解であり、公式発言だ』

これはゴップ、ジャミトフ両閣僚の公式な発言である。
カイ・シデンがもぎ取った、連邦政府内部でのウィリアム・ケンブリッジという男への信頼と不審の双方を象徴していると言えた。
危険視はするが、それ以上の事は出来ないし、下手に追い詰めるとクーデターを起こす。だが、その男に野心自体は全く存在しない。

『尻尾を踏まない限り、絶対に噛みつく事をしない、極めて優秀な忠義心を持った獅子』

それが連邦政府上層部や政財界の意見である。

「では行きますか」

準備が整った全員を引き連れて地下の特別列車に乗る事30分。
首相官邸に到着する。ボディーチェックを受ける。
ここで、エコーズの面々は地球連邦内務省管轄のSPの指揮下に入り、連邦軍として周辺警戒に当たる。
見ると、数機のアッシマーが編隊飛行をしているのが見えた。数は12機、一個中隊だ。

「それでは・・・・どうぞ」

書記官とSPが交互に全員のIDと顔写真をチェックし、そのまま分厚い地球連邦首相直属の地球連邦国家安全保障会議(FSC)の執務室の扉を開ける。
今日使われるのは旧世紀の国際連合ビル(現在は国務省ビル)の安全保障理事会会議室を3倍に大きくした部屋だ。
全員の足元に、冷蔵庫と中には2Lのお茶が三本、冷えたグラス、インスタントコーヒーが用意されており、高級イギリス産ミルクチョコレートやベルギー産生チョコレートもある。
そして、ここはバーミンガム級戦艦のスーパー・コンピューター5台に直結しており、徹底した対サイバー攻撃防御とミノフスキー粒子展開時にでも対応できるだけの対策がなされている。

(やれやれ、しかも非常階段が首相の後ろの古風な扉の直ぐ後ろにあるからな。護衛のSPらと共に地下の列車に乗り込める、か。
流石は人類史上最大の権力者の館。徹底した安全保障が施されている。まあ、あのジャブロー要塞程じゃないけど)

と、自分用の18インチ大型PCを作動させ、パスワードを打ち込み、カードリーダーに自分のIDカードと同じくパスワードを打ち込んで機動させた専用スマート・フォンを通す。
独特の音と共に、PCは起動している。それは後ろの席に座る、セイラ、フェアント、マイッツァー、リムの四人も一緒だった。
因みにラーフ・システムの質問の番が来るまではフェアント君は書記官扱いで、参謀役はロナ君が、法律問題はセイラ女史が、情報面でのサポートは妻のリムがする。

「全員が揃ったようなので、これより地球連邦安全保障会議を開催する。諸君、ネオ・ジオンを名乗っている馬鹿共が遂に動いた。
ネオ・ジオン軍を名乗った旧アクシズとエゥーゴ派の連合軍がサイド1への武力攻撃に出た。それは知っているな?」

ゴールドマンが戦傷で火傷をした右手を見せながら、青いスーツを着こなしつつ言う。ネクタイは赤色、だが、シャツは灰色。

(ああ、これはかなり怒っているな)

と、最近各閣僚の姿やネクタイ、シャツでだいたいの雰囲気を察する事が出来る様になったウィリアム・ケンブリッジは思った。
何気に凄い特技である。直感とはいえ、相手の考えを見通せるのだから。

「ネオ・ジオン軍は既にサイド1駐留艦隊を撃破しております。このまま手をこまねいてはサイド2、サイド4、サイド5も危険です。
あれらには正規艦隊が駐留していないのですから。
特にいつ用意したか分かりませんが、この8年ほどで準備した敵の新型機はジェガンと互角の性能を持つ可能性があり、後手に回るのは危険です。
国防大臣としても軍務経験者としてもそう思います。
それで・・・・私はやはり軍部とティターンズが共同して提案している計画を進めるべきと思いますが皆さんはどうお考えですか?」

そう言うのは知恵の輪を使っているオクサナー国防大臣。
同感なのか、九谷焼の青い湯呑でお茶を飲むジャミトフ・ハイマン国務大臣とアリシア・ロザリア・ロベルタ財務大臣。

「おや? ロベルタ財務大臣も賛成ですか?」

私の問いに年下ながら、最も経験豊富な閣僚は答える。

「ええ、彼らネオ・ジオンを名乗ったテロリスト集団であるアクシズを残しておけば地球連邦軍の正規艦隊を必要数以上維持する必要があります。それは財務的に愚策です。
ここは先行投資と思ってアクシズそのものを制圧しましょう。
特にアクシズ内部にあるであろう冷凍睡眠技術や火星圏と地球圏を結ぶ航路データに加えて、アクシズを居住可能な『惑星間航行船』として見た場合の利用価値は極めて高い。
ならばアクシズ要塞自体は今後の地球経済発展には欠かせません。この点は内閣官房長官のゴップ退役大将閣下や情報局にいるティターンズ副長官のリム・ケンブリッジ氏が詳しいかと思います」

その言葉にゴップ大将は持っていた杖を立て掛けると、PCを起動して全員に見える位置にある映写機を作動せる。
サイド1からサイド7、『グリプス要塞』、『ゼタンの門』、『ソロモン要塞』、月に地球、地球の絶対防衛戦である地球軌道艦隊(無人核兵器迎撃システム)、暗礁宙域が映される。
それを皆が確認したのを見て、自ら各テーブルに支給されている小型のレーザーポインターを使って指し示す。

「我々ゴールドマン政権は10月までにアクシズ、いや、彼らの名前を借りればネオ・ジオン軍を掃討する。連邦議会で首相選挙がありますからな。
水天の涙紛争時のダカール、第13次地球軌道会戦、つまりは8年前の危険性は避けるべきでしょう。
現在、軍がこの・・・・そう、この円の中で活動しており、見つけるのは容易いだろうと考えますな。
その後はゼタンの門と月に集結させて訓練中の地球連邦軍宇宙軍陸戦部隊を上陸させる。
当然ながら、ネオ・ジオン軍の艦隊戦力とMS戦力は、先の閣僚会議で確定している『あ一号作戦』の戦力で押し潰す。容赦はしない、そうだね、ケンブリッジ長官?」

俺に振るのか?

とは思ったが、その通りなので説明する。

「ロンド・ベルを初めとした七個艦隊がジオン公国の援軍と共に敵を掃討します。恐らく敵には例のノイエ・ジールの様なMA部隊が存在するでしょう。
ですから、こちらは最悪の場合、先制核攻撃を視野に入れた作戦を考慮しております。詳細は軍部のタチバナ大将らの対テロ委員会が後ほどお伝えしに参ります。
それと、その実戦における核兵器使用については首相閣下から既に許可を頂いており、ジオン公国のギレン・ザビ公王とも直接会談で決まっておりますのでご安心を。外交問題には発展しません。
後は・・・・・現場の指揮官に任せれば良いかと。
ティターンズ艦隊からもエコーズの半個師団6000名を派遣する用意が整っていますので、ネオ・ジオン艦隊の壊滅さえ成功し、MS隊を掃討すればアクシズ要塞占領は時間の問題です」

そう、あの戦力差で負ける筈が無い。
負ければ正直言って、全てが台無しになるし、いくら一年戦争時からの戦友にして身内のシナプス宇宙艦隊司令長官と言えども自分が弾劾する。
これだけの戦力を整えたのだ。
勝てなくてどうする? しかも相手は宣戦布告前にサイド1という人口密集地帯を襲撃したテロリスト軍団だ。

(容赦してたまるか!!)

これがウィリアム・ケンブリッジの偽りざる本音である。
だがここで、待ったをかける人物がいた。

「しかし、アクシズには民間人が最低でも5万人はいる、そうですね?」

そう言ったのはパラヤ外務大臣だ。
この言葉に一応は頷いたのがゴップ官房長官とバウアー内務大臣である。が、内心は一体何を言っているのだこいつは? であったが。

「そうだが・・・・まさか彼らを保護しろと?」

頷いた。これに閣僚の何人かが呻き声を上げる。
正直、危険を伴い、犠牲が出ることが確実な陸戦隊をアクシズ要塞に上陸させるのは冷凍睡眠などの地球連邦が欲する諸々のデータとアクシズ要塞本体が欲しいのであり、民間人保護は目的では無い。
確かに、ジオン公国の公式見解によるとあの終戦直前の0080、ジオン公国軍の一部がアクシズに向かった、『アクシズ逃亡』は確かに上官による強制だったかもしれない。その点は同情の余地がある。
がその後のジオン公国と地球連邦の恭順要請、降伏勧告を黙殺し、更には0089のケンブリッジ家暗殺や0087から0088の『水天の涙紛争』時の艦隊派遣などは明らかに彼らの失政であり責任。
とどめに0096には先制攻撃に出て1万人に近い連邦軍とジオン軍将兵を殺傷している。無論、宣戦布告はそれから1時間も後の事だった事が軍部の態度硬化に拍車をかけている。

(しかも行き場が無く、死に場所を求めているとしか思えない最後まで戦う事で有名なアクシズ兵、エゥーゴ支持派を保護する?
冗談では無いだろうに・・・・外務大臣は何を言う気だ?)

そう思ったのはケンブリッジだけでは無かった。
ジャミトフ先輩やロベルタ財務大臣、オオカワ・ナミコ宇宙開拓大臣に至っては露骨に警戒しているし、法務大臣のアイシェ・バラーミンなどは呆れ果てている。
当然だ。対ネオ・ジオン対策はとっくの昔(0091.09)に武力討伐を行う事で一致しており、その場にはパラヤ外務大臣も消極的ながら賛成していた。
この作戦の為、件の敵対勢力に悟られない様に、かつ、軍事予算で社会福祉や公共投資、宇宙開発や地球の緑化政策に影響を与えない様に5年近い歳月をかけた。
それを分かっていて。まあ、良い。とりあえず話だけは聞いてやろう。そう言う雰囲気が辺りに充満する。

「外務大臣、何かあるのかね?」

ゴールドマンが聞く。彼も本音ではさっさと武力討伐を行い、アクシズが地球に落ちる可能性を減らしたいのだ。
或いは月の大都市や自ら質量弾となって各スペースコロニーサイドを襲撃する危険性を『0』にしたい。
情報部の報告とジオン公国との交流から『パラオ要塞』が動けない以上、自力で動ける『アクシズ要塞』と機動戦力の『ネオ・ジオン艦隊』を掃討する事が今後の宇宙の安定の為にも最重要課題なのだ。
これは最低最悪を想定する国家元首として当然の事である。
地球連邦軍宇宙艦隊正規艦隊の二個艦隊規模に匹敵する(質はこの際問題外である。民間船にとって対抗不能なのは変わりない)と思われる武力集団(ネオ・ジオン上層部内部のスパイの情報から判断した)が通商破壊戦と言う名前の宇宙海賊行為を常態化されたら迷惑をとっくの昔に通り越して、最悪である。

「あります、ネオ・ジオンを犠牲なく無力化する方法です」

その言葉を聞いて飲んでいた湯飲みを置く、独特の黒と白の柄のスーツを着ているジャミトフ・ハイマン国務大臣。
彼もまたネオ・ジオン掃討作戦の為に各州と各コロニー、そして月面都市群を纏め上げた男だったが故に、前線勤務もした事のある男であるが故に分かった。

(いかんな、これは。碌でもない事を言うぞ・・・・・それも・・・・・恐らくはあいつへの対抗心で)

そう。あいつ、後輩であるウィリアム・ケンブリッジへの対抗心がありありと見えるパラヤ外務大臣。
彼もある意味不幸な人だ。ウィリアム・ケンブリッジと言う稀代の英雄と対等以上でありたいと思ってしまった、あると思った可哀想な、不運な人である。

「私はネオ・ジオンとの和平を提案します! その為にロンデ二オンコロニーでの会談を行わせて頂きたい!!」

溜め息や何を言っているのだこいつはという視線がでるも、それを無視する。いや気が付いてない。

「よりにもよって先制攻撃を受けたサイド1のロンデ二オンで?」

思わず言ってしまった。しくじったと思ったが遅かった。
幾らに鈍い自分でも彼が自分を嫌っているのは分かっている。
有色人種の自分がいつのまにか連邦政府でもNo3かNo4とでも言うべき地位にいるのが我慢ならないのだ。
特に連邦市民からの支持は絶大で、直接選挙方式を採用すれば恐らく地球連邦政府の首相に圧倒的多数の賛成票を持ってなれるから更に気に食わないのだ。
他にも何人かはそれを思っている。だが、口には出さない。出しても実績と人気で負けるのは分かっているから。

「だからこそです。こちらから歩み寄りを見せ、武装解除をさせる。そうして、アクシズの独立自治権を認めるのです。
そうなれば『あ一号作戦』を行う必要も、ギレン公王らスペースノイドのジオン公国に頭を下げる必要も無く、犠牲もこれ以上でない」

溜め息があちらこちらで出た。
アクシズ要塞の危険性、移動可能な隕石改造要塞の恐ろしさをこの人はどう思っている?
何の為に5thルナをグリプス宙域に持って来て、地球連邦軍の地球出身者に管理運営させている?
宇宙開拓省は何故、地球の各山脈や月面都市群に天体観測所を設けて、24時間365日3交代制で職員を選抜して勤務させている?
何の為に、定期的に宇宙ゴミを回収して、隕石察知の為の無人警戒索敵網を作る予算とその維持費を財務省は認めている?

(全ては地球やコロニー、月面都市に隕石落着や衝突を防ぐ為でしょうに!!)

これだから宇宙艦隊の護衛でしか宇宙に行った事の無い人物は困る。
ウィリアムは、と言うよりもケンブリッジ家は何度も現場視察や各コロニー訪問を行っており、更にはノーマルスーツを着た宇宙遊泳実地訓練もした。
ルウム戦役では人類史上初めての宇宙戦争にも参加しており、その後のデブリの危険性も身を持って知っている。
何せ妻が『ペガサス級強襲揚陸艦』の一番艦、『ペガサス』の艦長だったし、サイド7でのジオン軍襲撃もウィリアム・ケンブリッジ自身が体験している。そこで空気が無くなって窒息死した人間も沢山見た。
故に、宇宙都市や宇宙船の危険性を恐らく、ここの会議場の誰よりも実体験で理解しているのがウィリアム・ケンブリッジだった。

「そこまで言うからには・・・・・何か伝手があるのか?」

ジャミトフ先輩が聞く。どことなく懐疑的だ。当たり前だ。
だが、パラヤ大臣は言った。

「伝手は作ります。その為に一度だけ外交交渉の機会を下さい」

と。




ポイント77

「こちら民間軍事会社ラック・セブン所属の第31偵察艦隊。現在問題なし」

葉巻をくわえながら安物のスーツを着た男が貴下艦隊2隻と共に暗礁宙域を捜索している。
ジオン公国も地球連邦軍も正面切っての戦いに負けるとは考えてないが、それでも移動要塞を拠点にした大規模ゲリラ戦法を仕掛けられると困ると言う事が一致。
地球連邦軍とジオン公国軍の共同連絡用軍事司令部が置かれる事になったサイド6『リボーコロニー』では両軍の参謀らが暗礁宙域捜索という格好の各個撃破につながるであろう戦いを傭兵部隊、民間軍事会社に任せる事にした。

『俺の可愛い部下を殺すより、金で雇われた戦争好きのゴロツキの一般人を殺す方がまだましだな。どっちにしろ、あいつらは犯罪者に代わりわねぇし』

とは、リボーコロニーに派遣されたジオン側の代表であるユーリ・ケラーネ中将の発言であった。
もちろん、この会社の従業員全てが連邦やジオンの法律に反している訳でもないし、全員が咎人でもない。
まして、この様な発言が両軍の上層部である事を知っている訳もない。だが、現実は無常であり非情であった。

「サイド6への定時報告完了・・・・静かな・・・・・?」

と、警戒中のジムⅡが咄嗟にシールドを構えた。
ビームの直撃。
しかも重MSの大型メガ粒子砲だったのか、シールド諸共にジムⅡは貫通させられた。結果、一機の直援機が落ちる。

「敵襲だ!!」

慌てて砲術員が銃座につく。
ミノフスキー粒子が急速に濃くなっていく。間違いない、デブリを利用してレーダー波をごまかし、その後に急襲をかける。
ネオ・ジオンの常套戦術だった。

「索敵員、何していた!?」

「す、すみません」

泣きながら言う元女兵士。
というか、旧エゥーゴの構成員。こういうエゥーゴ派だった人間もいる。全員が全員ネオ・ジオンに合流した訳では無い。
寧ろさまざまな生き方があった。その一つの例である。まあ気休めにもならないが。

「言い訳は後にしろ・・・・来るぞ!!」

その言葉が契機となったかのように、ドーベン・ウルフと後に判明するMS隊12機の連携攻撃が始まる。
大型メガ粒子砲とインコムによる攻撃で徹底的に撃墜されるジムⅡ部隊。
蟷螂の斧の様な反撃をするジムⅡ8機とザク・フリッパー2機。だが、機体性能差と技量差から一瞬で落とされる。
そして元々対艦攻撃を主体に開発されたドーベン・ウルフは瞬く間に僚艦であるサラミス改級巡洋艦を撃沈。
社長の乗るサラミスにも方向を向ける。

「いやだぁぁぁ!!! し、死にたくない!! お母さん!!!」

そう叫んだが最早遅い。
引き金を引いたパイロット、ラカン・ダカラン大佐はドーベン・ウルフを駆って敵艦を撃沈した。発射されたビームは艦橋から核融合炉を貫通。
その際に後部ミサイル発射口の弾薬庫が引火爆発し、轟沈。
生存者は皆無。危険はまだないと甘い考えをしていたからか、ノーマルスーツを着てなかったのが仇になり、全員が死亡した。
これで一つの民間軍事会社がこの世から文字通り消滅する。地球連邦政府の思惑通りに。連邦軍の作戦通りに。

「ふん、雑魚どもめ。ドーベン・ウルフ隊各機、損害を報告せよ。被弾機はいるか?」

だが、その事を知らないラカン・ダカランはこの圧勝に余裕を見せる。
ワイヤー通信で僚機に通信する。ミノフスキー粒子が濃いためのワイヤー通信だが、それでも12機すべてが健在だと分かった。
しかも無傷であり、敵のMS隊も壊滅させた。反撃も許さない一方的な撃破である。

「ハハハ。地球連邦軍、恐れるに足らず、だな」

そう嘯いて見せる余裕を持つ。
同時刻、マシュマー・セロ、キャラ・スーン両中佐の部隊も同じようなサラミス改級巡洋艦二隻とジムⅡかジム改で武装した部隊をほぼ一方的に撃破していた。
この事からネオ・ジオン軍は緒戦の勝利を飾ったと考えていた。
実際、サイド1奇襲作戦と数個の偵察艦隊撃破で40隻近い艦艇を沈めているのだ。こちらの損害はほぼ無傷で。
だから勝利したと言うのもあながち間違いでは無い。
尤も、それが本当の戦力上の大勝利だったかは疑問符が付くが、これに気が付いたものはネオ・ジオン内部では少なかった。




サイド6 リボーコロニー 第11艦隊駐留拠点。

ジオン公国と地球連邦軍双方の軍官僚が集ったこの場所で彼らは冷酷に星図を見る。
ミノフスキー粒子散布が確認されている地点と実際に交戦があった場所、各地を哨戒任務中の傭兵部隊の配置状況。
それらが数平方メートルするタッチパネル式の画像テーブルに映し出されており、司令部要員全員にはインスタントコーヒーとチョコが支給されていた。

「ここと、ここ・・・・あとはこの地点か」

そう言って、艦隊司令官であり、サイド6防衛隊の指揮官でもあるステファン・ヘボン中将は指揮棒を指す。
大型のタッチパネル式平面スクリーンに壊滅した3つの偵察艦隊と急襲した二隻のエンドラ級、サイド1襲撃時の例の新造艦、ムサカ級と呼ばれる重巡洋艦の航路情報、位置、航続距離を割り出すべくスーパー・コンピューターで検索中だった。

「ヘボン閣下、ケラーネ閣下、更に第25偵察艦隊が壊滅したとの報告です」

赤い×印がまた一カ所出来る。
既に8隻のサラミス改級巡洋艦を失った事になるが、それはそれで良い。

「そうか・・・・引き続き偵察部隊の報告を頼む。特に撃沈地点と時刻、その際の戦闘映像など些細な情報。
これら全てを纏めて報告せよ。それが勝利のカギとなる」

敬礼してさるジオンの連絡将校。
地球連邦側の将官であり、第11艦隊司令官のヘボン中将も奇襲の可能性を恐れてサイド6周辺に多数の無人偵察艇を派遣した。
これは一年戦争以前の小型対艦攻撃用ランチを改造したもので各サイドに配置されている。
有人タイプと無人タイプの二種類があり、あのサイド1奇襲作戦で一番にネオ・ジオン軍も攻撃を察知したのもこの偵察艇だった。

「それでだ、ケラーネ中将、どうかね、状況は?」

副官と参謀らを引き連れたヘボン中将が、緑色の軍服が基本のジオン軍内部では珍しく灰色のジオン軍中将の軍服を地球時代とは異なり、しっかりと着ているユーリ・ケラーネ中将に聞く。
もちろん、こちら側も、丸い遠近両用眼鏡をかけた連邦軍の将官、ステファン・ヘボンもクリーニングされた制服をしっかりと着こなしていた。
軍帽を被っている、副官らと連れて来た参謀らが忙しなく業務を続けている。

「え? ああ。ネオ・ジオン軍の状況は想定通りに進行中ですね。
当初の予定通り、幾つかの民間軍事会社所属艦艇が沈められましたが、そのお蔭でアクシズ要塞の大まかな位置とネオ・ジオン軍の活動限界範囲が分かりつつある」

その言葉にパネルが操作される。
撃沈された部隊という点を線で結び、円を作成する。その縁の中心地点に一年戦争、ジオン独立戦争以来の愛用の軍杖を当てて説明する。

「三つの民間軍事会社には悪い事をしました・・・・ですが好き好んで金貰って戦争をやりたがる連中だ。
多少は減っても今後の地球圏の未来の為になるでしょう。そして壊滅した・・・・・うん?」

そう言っていると今度は連邦軍中佐の階級を付けた男がパネルを操作して新たに4番目の印をつける。そうだな。これでさらに絞られる。

「なるほど、では当初の予定通り『あ一号作戦』は行われる訳だな?」

ここのデータは纏められてジオン本国とグリプスの地球連邦軍宇宙艦隊総司令部へと護送されて送られる。
こちらは12隻の艦隊による正規軍の護衛付きであり、民間軍事会社には頼って無い。
信頼がおけないからだ。そもそも軍人崩れの民間軍事会社の連中などはこの世に不要と言うのが正規の連邦軍将官らの考えである。
特に治安維持組織の武装警察ティターンズの初代と二代目両長官の考えは更に過激で法律による組織解体か指揮権の掌握も視野に入れている。
実際、民間軍事会社は極一部を除いて軍人崩れが多く、本来であれば銃殺刑や拘禁刑が当然な連中ばかりだった。
これが急激に増えたのはエゥーゴ派であった人間が食うに困ったからという情けない裏事情もある。
それを掃討したいと思ったジャミトフ・ハイマン国務大臣、オクサナー国防大臣とサスロ・ザビ総帥は裏の首脳会談で囮を兼ねた使い捨て部隊にする事に決定。
もちろん、彼らには多額の報酬を前払いで払う事にしているが、彼らが死ねばどうせ倒産するので回収できると判断していた。
何よりも正規軍の部隊を使うよりも安上がりであり、将兵に責任を持つ普通の士官らはそもそも傭兵部隊に対して良い思いが無いから心情面でも問題は少ない。
この為か、地球連邦とジオン公国は彼ら民間軍事会社の使い捨てに一切の躊躇が無かった。
無論、一部の軍が理想とする様な会社は別格扱いされているが、それはあくまで貴重な例外。
これは階級が上に行くほど当て嵌まる。

『命令を聞かない軍人崩れなど邪魔な存在、さっさと処分する事だ』

もちろん、ブッホ・コンツッェルの『クロスボーン・バンガード』というアレキサンドリア級重巡洋艦9隻で編成され、搭載MSもジェガンに統一された戦力として数えられる部隊もある。
この『クロスボーン・バンガード』はティターンズ首席補佐官のマイッツァー・ロナの影響で地球連邦軍に出向。
そのまま連邦軍の正規訓練を2年間受け、その後も独自の軍事訓練を受けた精鋭部隊で同数なら連邦軍のロンド・ベルにも負けないと言われている。
というか、扱いがロンド・ベル部隊の第三戦隊、第四戦隊、第五戦隊扱いで、今回の討伐作戦でも実はシナプス提督は強行偵察部隊として期待している。
他にはジオン公国が半分出資している『テミス』社などがある。
だが、他の連中=大多数はかつて軍紀違反を犯して軍を追放された犯罪者予備軍である事からさっさとネオ・ジオン相手に戦って戦死して消耗してくれないかと言うのが両軍の本音であった。

『民間軍事会社の犯罪は一般の犯罪よりもたちが悪い。ティターンズは彼らも取り締まるべし』

それはカイ・シデンの告発にある。
テロリスト、ゲリラ掃討の名目で罪なき一般人を遊び半分で殺している会社も多々ある。
だから、民間軍事会社も会社ごと消滅すれば問題ないし、そもそも前払いで、契約書も念入りに作成たから違約金なども発生しない。
付け加えるなら戦死者遺族年金手当や特別教育手当、就職支援手当も不要だ。何せ相手は特別国家公務員である軍人では無いのだから。

「ケラーネ閣下、ヘボン閣下。第28偵察艦隊が半壊しましたがデータを送信、受信しました。こちらになります」

「ほう、生き残ったか。悪運があるな・・・・面倒な事だ。で、場所は?」

「こちらです。表示・・・・しました」

さらに円が狭める。
この円のどこかにネオ・ジオン軍の本拠地であるアクシズ要塞があるだろう。
それに連中が長期戦を行うだけの物資が無い事は上層部に潜入させている名前も顔も分からないスパイから知っていた。
現在の内閣官房長官ゴップは伊達に地球連邦軍の大将にまで昇進し、地球連邦議会最大派閥と連邦軍人退役会会長というロビイスト(軍事系圧力団体)を維持してない。

「例のゴップ大将のスパイの言葉を借りればそう遠くない将来、連中の物資は底を突く。平時と違って戦時の物資消耗率はけた外れだ。
これは戦争を知る者の常識だしな。
ということは、だ。アクシズ要塞を見つけるのが先か、それともアクシズそのものが動き出すのが先かのチキンレースになるだろう」

そう結論付けるヘボン中将。無論、指揮下の第11艦隊は濃密な索敵網を形成しており、ジオン第三艦隊のケラーネ中将の部隊も即応体制を確保している。
サイド1と違い、仮にネオ・ジオン軍がこのサイド6を攻撃すれば少なくない損耗を与える事が出来るだろう。
特に先週のサイド1駐留艦隊の損害の大きさはネオ・ジオン軍のMSの性能差よりも一方的かつ電撃的な奇襲によるものだ。
ならば、その第一撃さえ凌げば援軍がゼタンの門とグリプス、月から来れるサイド6駐留軍の勝利となろう。
つまりだ、ヘボン中将はこう判断している。

『時間が最大の味方となる。ネオ・ジオンと違って』

と。
そう思いつつ、パネルからいったん目を離し、目を閉じて目を休める。

「なるほど・・・・さすが連邦軍ですな。俺たちジオン軍よりも情報戦に一日の長がお有りだ。見習わなとね」

心から賛辞を贈るユーリ・ケラーネ中将、ジオン公国軍宇宙艦隊第三艦隊司令官。
仮にこれがジオン公国だったら10以上の偵察艦隊を自ら組織し、各地に派遣する必要があるだろう。そして戦力を分配する事で各個撃破される事が予想されていた。
が、地球連邦という超大国はネオ・ジオン軍内部上層部に自前のスパイを送り込んでいるらしく、それに民間軍事会社の合法的な処理を行いたいと言うゴールドマン政権の考えも相まってか、連邦軍そのものは積極的な行動には出てはいない。
だが、その索敵網を狭めだしてはいる。
連邦軍の『あ一号作戦』参加部隊の血を一滴も流す事無くである。これはジオン公国には出来ないし、ネオ・ジオンなどには想像もつかないだろう。
諜報戦・謀略と軍事と経済活動の融合。それを運営するノウハウを持った官僚たちにそれを生み出せる人的資源の恐ろしさ。

(末恐ろしいな・・・・良く俺たちはあの独立戦争を勝てたものだぜ)

「ありがとう、ケラーネ中将。若い君らにはまだ不得意分野かも知れないが・・・・諜報戦にスパイ活動。これもまた戦争の一形態だ。
何も戦場で銃口を向けあい、銃弾を撃ちあい、MS隊をぶつけ合うだけが戦争では無い。戦争とは生き残り、最後に立っていた者の勝ちなのだ。
そして戦死した敗者には再挑戦する権利は無い。スポーツとは違ってな。
だからこそ、我ら連邦軍は市民を守る義務とその為の強固な軍紀が必要だ。それに反したエゥーゴ派がどうなったかは・・・・語るまでも無いがね」

それは地球連邦軍が、と言うよりもウィリアム・ケンブリッジがティターンズを掌握してから浸透してきた考え。
確かに連邦軍の軍紀を正す事や連邦軍軍法を維持する事は大切だし、第一に民間人を守る事、彼らの財産を守る事が地球連邦軍の存在意義であると常々言ってきた。
その成果もあってか、現在の連邦軍の士気と連邦軍の軍紀、意識は対立候補がいない状態としては異常なまでに高水準を保っている。
これはジオン公国も同様で、特に軍事ロマンチストのエギーユ・デラーズと、軍人の鑑とも言えるドズル・ザビがジオン公国軍軍総司令官を歴任しているからか非常に規律が良い事で有名だった。
ある意味で、自分らが生き残るために民間船団を襲うネオ・ジオン軍とは対極に位置する軍隊に成長していた。
これも戦後を見据えた政策の一つであると言える。というか、戦後を見据えるならばやらなければならない政策の一つだ。

「下手な軍部の腐敗や傲慢さは新しい火種になるからな。
それに我々にはジオン公国が外敵として、内部には武装警察にして第13艦隊とロンド・ベルを所有するティターンズの存在がある。
身勝手な軍隊の増長は我が身の破滅、地球連邦の統治体制の崩壊につながる・・・・それを分かっているとは・・・・やりますな、ケンブリッジ長官」

誰にも聞こえない様にヘボンは呟いた。

「ケラーネ閣下!!」

「ヘボン提督!!」

どうした?
なんだ?

ヘボンとケラーネが聞く。
ミノフスキー粒子はサイド1周辺こそ戦闘濃度で溺れそうだが他の地点では数機の偵察・通信衛星を経由する事でレーザー通信以外でも相互通信が可能である。
それを踏まえればアクシズ要塞やネオ・ジオン軍艦隊は脅威では無い。
仮に彼らがソロモン要塞やサイド6という重要拠点にして数が互角な連邦軍、ジオン軍を攻撃するとしよう。
それは最悪の一手である。

「更に二つの部隊が音信途絶。たたし、位置がこことここです。
双方が近距離であった事と、最後に妙な通信文、アクシズという単語が入っております」

詳細を見せる。
確かに、予想されている円の中でも中心地帯に近い。

「そうか・・・・・グリプスとズム・シティに秘匿通話の暗号電文をうて。ワシ・ワシ・ワシ、だ。
それでだ、ケラーネ中将、仮にサイド6かソロモン、月面都市群への攻撃があったら期間はどう思う?」

試す様な口調。いや、実際に試している。
あの地球・重力戦線で辣腕をふるったジオン軍の名将の一人がどこまで宇宙戦闘に対応できるのか、戦略的な価値観を持っているのかを。

「中将も人が悪いですな。月面都市らへの攻撃は・・・・それは悪手だ。もしもここかソロモンかグラナダを攻撃したらそこでこの戦争は終わり。
政府のお偉いさんが必死になって用意している『第二次ブリティッシュ作戦』もヘボン中将らの連邦軍の総力戦になる『あ一号作戦』も全て不要になるさ」

それはそれで困る。
官僚主義の弊害からかあれだけの準備をしておいて、いざ現実の事態になったら何もありません、では来年の予算獲得に失敗するだろう。
ただでさえ、次期首相はあの財務大臣かティターンズ第二代長官のどちらかかと言われているのだ。予算削減は覚悟の上だが、それでも譲れない一線はある。
自分達地球連邦政府の軍隊だって自分達が先ず第一に食わなければならない官僚組織なのだから。

「ほう、興味深いな。ケラーネ中将、その理由は? 何故一度の攻撃でネオ・ジオンは壊滅するのかね?
しかも攻撃の主導権を握るのは彼らではないか。本来であれば防御側の我々の方が不利だと思うのだが?」

分かっていて聞くのか?

「簡単だ。消耗戦だよ。仮にこのサイド6に攻撃してきてもだ、ここはサイド1とは違い、連邦正規艦隊の第11艦隊50隻と俺の艦隊であるジオン軍第三艦隊30隻の80隻に、コロニー駐留艦隊30隻の合計110隻が展開している。
まあリーアの和約を無視するクソッタレなスペースノイドの風上にも置けない連中だからコロニーの安全を考えて領域外、つまり外洋で決戦となるだろう。
そして言いたくないがMSの質、戦力差で負ける。だが、相手も無傷ですまない。そして撤退のタイミングを見極める事に失敗するな」

手でメモリーディスクを差し込み、副官が用意した星図を図面に表わしてタッチパネルを動かして図上演習を打ち込む。
今度は壁のサブパネルに各コロニーサイドの星図と月、ゼタンの門、ソロモン要塞、ペタン要塞らが映し出される。

「で、損害艦を捨てられないネオ・ジオン軍は撤退速度が遅くなる。或いは推進剤の残量から後退速度と経路を逆算される。
あとはペタンに集結している15個の偵察艦隊を送り狼として送りつけてやれば良い。こいつらの目的は敵艦隊の撃破じゃなくてアクシズ要塞の位置の確認。
俺たちと違って、ネオ・ジオン軍は帰るところは一つしか無く、艦隊も一セット、多くて二セットしかない。
それがサイド6攻防戦で半壊すれば再編には最低でも半年、そう、半月では無く半年はかかる、そうだろ?」

これはアクシズ軍とまだ呼ばれていた頃にティターンズに亡命したフェアント元中佐、現ティターンズのラーフ・システム計画技術担当官のデータと一年戦争以前のアクシズ要塞の整備能力を考慮した結果である。
AE社やビスト財団の資金の一部(当然だがネオ・ジオンが流石に全てを手に入れるほど地球連邦内閣府金融庁や地球連邦中央警察、地球連邦情報局は甘くは無かった)では艦艇とMS開発、生産は出来ても維持は出来ない。
軍事組織とは大規模になればなるほど、それの維持がどれほど困難になるのかは後方勤務経験者には常識だ。尤も、その後方勤務経験者がどれだけネオ・ジオンにいるのか不明だが。
誰もが望む、金や物が無限に湧き出る魔法の壺が現実に存在するわけでは無いのだから。

「そうか・・・・だが、ゴップ官房長官とドズル上級大将らが伝えた、例のキマイラ部隊が隠し持っていたという財宝がネオ・ジオンにはあるのではないか?」

それはゴップ内閣官房長官がオクサナー国防大臣を経由してジオン公国のノイエン・ビッター中将の許可の下、公表したMS設計製造プラント用大型HLV式宇宙船の存在。
だが、地球連邦軍はそれほど重要視してない。仮に彼らがそれで強力なMSを生産しても5倍の物量で押し潰してしまえば良い。
まして、ゼク・アインもジェガンもジェスタも非常に高性能だし、ジムⅢとて決して非力では無い。数さえそろえば例のネオ・ジオンの新型量産機とて撃破可能だ。

「ああ、あれね。あんまし関係ないと思うがねェ。だいたい今の地球圏はジオニックと連邦技研の二つが今のMS技術界の双璧だろ?
ヘボン中将も交戦記録を見たが例の・・・・ギラ・ドーガだったか、あれはジェガンやゼク・アインとあくまで同程度の機体。
かつてのジムとガルバルディα並みの性能差はない。ならばあとは数の問題。ジムⅢやこちらも第三艦隊に配備されているマラサイでも十分に対抗できる」

事実である。
サイド1駐留軍は奇襲攻撃を受けたと言う事と第二世代機の初期タイプとMS黎明期の機体しか個別(ここが一番重要)にしか投入する事が出来なかった事実がネオ・ジオン軍の初戦の勝利を飾った。

「逆に言えばだ、消耗戦を嫌っている連中が戦力比で勝るとはいえ二の矢が放てなくなる様な投機的な作戦をするとは思えない。そうだな?」

そうだ、連中にとって国力と言う言葉も無く、人的資源も10万人前後いるかどうかで補給も回復も困難な状況下で、超大国相手に消耗戦に陥る可能性がある作戦を実行するのは危険すぎる賭けだ。
というか、馬鹿だ。愚か者だ。と、部下らが更に報告する。

「第29偵察艦隊、敵影確認するも交戦せずに無事退却」

「第20偵察艦隊、敵艦隊と交戦中、至急援軍を・・・・通信途絶・・・・全滅の模様」

さらに印を示す。が、やはりどちらの将官らも参謀らも副官らでさえ冷徹だ。
民間軍事会社は好き好んで戦争をやりたがる人間の集まりだ、と言う偏見に満ちた考えが正規軍には根強く存在しており、故に彼らの犠牲はあまり考慮されてない。
言ってしまえばネオ・ジオン軍と扱いはほとんど変わらない。
とりあえず味方なだけまだましという理由で最低限の補給をするだけ。
無論、何度も言うように政治家や軍上層部と繋がった例外部隊は存在するが、逆にそう言う部隊は正規軍と匹敵する戦力や技能、規律を持つので歓迎される事が多い。
寧ろ、国家が裏にいる可能性が高いと言える。

「そうか、引き続き定時報告とアクシズ要塞の偵察を続けるように言え。その為に高い金を出しているのだからな」

知将型のヘボン中将でさえこの反応。
別の佐官に至ってはかつての嫌いだった同期の成功を妬み、その元同期生が戦死した事を内心で喜ぶ。
全く手におえない反感が育っている。が、誰も問題にしない。
そもそも民間軍事会社は婦女暴行や強姦殺人、強盗略奪などの凶悪犯罪に走る事が多い、多すぎる。しかもそれを隠蔽する。ゲリラ掃討だなんだと言って。
故に滅びろと思っている連中は後を絶たない。これは旧世紀、いや、人類が傭兵という最古の職業を生み出してから続く業であった。

(だいたいネオ・ジオンも連中とやっている事は変わらんからな)

「さて、さっきの話の続きだがサイド1は奇襲と質の差でやられた。残りのサイド2とサイド4にはエゥーゴ派残党支持者がまだいるから攻撃しないと考えられる。
ルウム、つまりサイド5は第一次、第二次ルウム戦役の影響で自らのコロニー宙域が戦場になる事を避けるために局外中立を宣言した。一番に。
まあ、これは連邦スペースコロニー保護法とコロニー自治権法に認められたものだから問題ないし、それを無視した攻撃をしたら連中の、ネオ・ジオンのあるかどうか怪しい最後の大義名分さえも完全に失われる」

ケラーネは説明を続ける。それを聞く連邦軍とジオン軍の参謀ら。
その通りだ。眼鏡を取って眼鏡ふきで一旦汚れを落とす。

「ならば狙いはソロモン要塞だろうかと聞かれるとこれも答えは違う。
こっちは要塞砲にハイザックとジムⅡだけでも150機以上の要塞守備隊。強固な岩盤に加えて、あんた方地球連邦軍の正規艦隊一個艦隊が駐留している。
これと正面切っての正規戦闘で戦えばネオ・ジオン軍はサイド6攻略よりも甚大な損害を受けるのは目に見えている。
これは簡単な足し算引き算だから中学生でも分かるだろう。
幾ら落ちぶれたとはいえ赤い彗星ほどの男がそれをわからんとは思えん。もしもソロモンを攻撃するなら・・・・それはそれで好機だがな」

そう言って用意された中米州産のコーヒーにミルクを入れ、砂糖を入れて飲む。
傍らの私物の梅干で口を整える。
思わず悪食だなと思ったステファン・ヘボン中将。
ユーリ・ケラーネ中将はそれを知ってか知らずか話を進める。

「月面の可能性は?」

その言葉はあくまで確認。ヘボン中将も最もあり得ないと思っている。

「あそこには4個艦隊がいる。月面都市群駐留部隊も含めればMS隊は総数で700機前後だ。それに加えてジオン本国から挟撃される危険性も極めて高い。
しかも月は地球の6分の1とはいえ重力圏があり、離脱するには大量の推進剤が必要になる。
そしてジオン本国に近い以上、『第二次ブリティッシュ作戦』の為に待機中『デラーズ・フリート』らの格好の餌食になる、そうだろう? あんたも知っていて聞いたな?」

無論だ。そこまで無能では無い。
そう無言で語る。

「ゼタンの門とグリプスは自殺する様なモノだろうね、
そちらの『あ一号作戦』で集結する艦隊の内、既に五個艦隊が戦闘準備と実戦形式の訓練をしている。
いつでもネオ・ジオン軍と戦闘・・・・いや、掃討できるように。あれを見せられて初めてザビ家と現公王陛下の偉大さを理解したぜ。
まったく、ジーク・ギレンと言うデラーズ大将の言葉に入隊して初めて賛同したよ」

そう、あれだけの物量を用意できる連邦政府への独立戦争を決心し、大軍を揃える連邦軍相手に良くも互角に戦える環境を整えた。
宇宙ではソーラ・レイと言う切り札を用意し、ルウム戦役ではMSとミノフスキー粒子の散布で地球連邦軍宇宙艦隊を二度も壊滅に追い込んだ。

(うちの公王陛下の先見の明は確かだったと言う訳だな)

その後、水天の涙で地球連邦軍は正規二個艦隊を失ったが、それでもなお宇宙艦隊を増税なく再建するのは流石だ。
その超大国相手に独立戦争を仕掛けた決断、独立の為に政治工作を戦前から行い当時の首都並び地球連邦軍本部ジャブローと唯一残った地球連邦を支えられる経済圏『太平洋経済圏』を掌握している北米州を分断したその政治手腕に、絶妙のタイミングでの和平工作と戦後のかじ取り。
どれもギレン・ザビとウィリアム・ケンブリッジ、その『非凡な才能の野心家』と『偉大なる凡人の平和への願い』が生んだ事を考えるとしても、やはり我が祖国のギレン公王は大したものだ。そう結論付ける。

「地球軌道には数千発の核兵器とソーラ・システムに加えてソーラ・レイ、いや、あんたらの言葉ではコロニー・レーザー砲か、が護衛している。
仮に地球への落下機動を取ればネオ・ジオン軍は艦隊とアクシズ要塞ごと戦略兵器の雨嵐で焼き払われる。そうなれば・・・・・単なる馬鹿だ」

と言う事はだ、赤い彗星率いるネオ・ジオン軍の選択肢は恐らくひとつ。

「では狙いはやはり・・・・・」

黙って頷いたケラーネは指揮杖を持って一つのサイドを叩き、拡大投影する。

「ああ、連中の、赤い彗星のシャアも言っていたろ? ジオン本国を解放すると。
だから狙いは分かった・・・・・ここだ、恐らくネオ・ジオン軍はこのサイド3、ジオン公国本国のズム・シティを狙っている」




「くそぉぉぉぉ」

二機のジムⅡが必死で逃げる。母艦は沈んだ。
サイコミュ兵器を持っていたのか、四方八方からのオールレンジ攻撃で社長諸共、提供されたサラミス改が撃沈され、仲間はばらばら。
それを冷酷に狩っていく敵機。敵機同士のレーザー交信ではヤクト・ドーガとかいう機体名称だ。緑と赤色の混合色で一度見たら忘れられない機体色だった。

「た、隊長!」

と、後ろから悲鳴が聞こえた。360度モニターが最後の僚機の撃墜を告げる。
終わった。こんな事なら普段の3割ましの大金と兵器の無償供給に騙されて連邦軍に雇われるのではなった。

「俺たちは捨石だったんだ・・・・・ま、待ってくれ!! 降伏する!! 南極条約に従ってとりあつかってくれ!!」

そう言ってコクピットを開けて、迫りくる敵の新型機に見えるように両手を上げる。

『よかろう、こちらはネオ・ジオン軍のヤハギ・フランジバック少佐。貴官の投降を・・・・・おいエリシア!!』

最後まで言えなかった。
ヤクト・ドーガがビームサーベルを起動させ、ジムⅡの右手で投降する為にでていた民間軍事会社の一員を焼き殺す。
思わず目を背ける重装備型ギラ・ドーガのヤハギ。

「・・・・・殺す事は無かった筈、そう言いたいのですか?」

ああ、そうだ。
そう言おうとして、強化人間になったかつての教え子は言った。思考を読み取ったかの如く。

「ヤハギ教官・・・・いえ、ヤハギ連隊長。
他のマシュマ―中佐やキャラ中佐、ラカン大佐だけでなく、ギラ・ドーガやギラ・ズールを与えられてないドライセン部隊のオウギュスト・ギダン中佐にさえ後れを取っているのはその愚かな性格ゆえ。
そして・・・・・同じ亡命者のフォルマ・ガードナー教官が既に大佐の地位にいる事も考慮してください、貴方とは違って、ね」

そう言ってヤクト・ドーガを母艦のムサカ13番艦へと向ける。
だが思う。

「だからと言って無抵抗の人間を殺して良い理由にはならないだろう・・・・エリシア」

その通信を拾ったのか、エリシアは面白そうに言った。

「無抵抗の人間を強制的に眠らせてしまう事は許されて、無抵抗の人間を本人の許可なくニュータイプ強化手術を行う事も許されて、それでいて戦争中に投降してくる相手を殺してはいけないのですか?
御笑い種ですね・・・・・それに・・・・ヤハギ隊長・・・・私はね」

「?」

通信で向こうが嘲笑したのが何故かわかった。

「私はアスナさんを殺して解放されればそれで良い。その為ならコロニーに毒ガスだって散布しますよ」

機体が遠ざかる。
出迎えのムサカが見えてきた。

(くそったれ!!誰がエリシアをこんな風に育てた!!)

通信を切ると毒を吐く。だが彼女は『A-』の強化人間。サイコ・フレームの絶対数が足りないネオ・ジオン軍では旧式サイコミュが主流。
しかも連邦軍の一部が採用する様にエースパイロットやトップガンが蓄積した戦闘データを小型取り付け式OSに蓄積させ、それをサポートユニットに使うなどと言う発想も、予算も無かった。
いわば貧乏人の僻みだと言える。故に徹底した強化手術をするしかなかった。亡命したムラサメ研究所の所長らの指導の下に。

「俺は一体どこで間違った? 
エゥーゴに参加したアスナを守るために俺がティターンズを抜けて・・・・ムラサメ研究所に赴任したフォルマに生徒らを預けた事がいけなかったのか!?」

ヤハギの慟哭を余所に、母艦に着艦する二機。
その二機は歓呼の声で迎えらえた。
事実、同時刻にオーギュスト中佐の部隊がアクシズ要塞を視認しかけた二つの偵察艦隊を撃破しているのだ。
それも一方的に。その報告に地球連邦軍など恐れるに足らないと言う楽観論が出だしている。

(バカな連中だ。たかが、偵察艦隊数個など僅か3日間で再建できる連邦軍の恐ろしさを知らないからそんな事が言える。
だいたい、あの艦隊は妙だ。機体と艦艇こそ連邦の製品だが、その乗組員やパイロットなどは明らかに戦闘訓練慣れしてない。
『ニュー・ディサイズ計画』で艦隊の精鋭化を行っている地球連邦宇宙軍正規艦隊やティターンズ所属の部隊では無い気がする・・・・それを報告しないといけないな)

というのが戦ったヤハギの感想。

(第一、一人も捕虜を取らないと言う事は相手の内情も分からないと言う事だ。なんでそれが分からん!!
戦争で敵の目的を分からないなど、自殺行為以外の何だと言うのだ!! 
くそ、あの時に俺がさっさとあのパイロットを確保しておけば良かった!!)

だが、そんなヤハギとの思いとは裏腹に、連邦軍の放った傭兵部隊は自らの命と引き換えにアクシズ要塞の位置を確認しようとしていた。
とにかくコクピットから出た。そこに一人の女性がドリンクを持ってくる。

「隊長、お疲れ様です」

そう言うのはアクシズに逃亡し、それからずっとアクシズで生活してきたネオ・ジオンの女整備士。
学徒動員でたまたま月面のマハラジャ・カーンの指揮下に入ったために17歳でジオン本国の家族と切り離され15年。
もう男も知っている歳だが、それでも家族に会いたい一心でこの決起に参加した。ハマーン・カーンやシャア・アズナブルを信じている。

(・・・・・・違うな、この子は信じたい・・・・自分を騙して信じる振りをしているだけだ・・・・・あの男の演説など本当は信じてない)

それが分かる。
そのままコクピットを降りるヤハギ。ワイヤーガンで移動するべく、腰からワイヤーガンを取り出す。

「隊長のギラ・ドーガ重装備型、整備に回します」

「ああ、頼む。俺はパイロットルームで着替えてくるから何かあれば艦内通信で呼び出してくれ」

敬礼して去る女性整備士。

(・・・・・可哀想な事だ。あの年齢でここにいると言う事はマハラジャ・カーンのアクシズ逃亡に巻き込まれた学徒動員の学生だった筈だ。
なんで希望しない人間まであの男は巻き込んだ!? エリシアの件もそうだ!! あの子はそんな子ではなかったのに!!)

俺のような中年なら死んでも悔いはない。自分は志願してジオン独立戦争に参加した。
水天の涙紛争でエゥーゴに参加したのも自分の決断で誰にも強制はされてない。
だが彼女は嫌々徴兵され、上官の命令で訳も分からずに火星圏のアクシズ要塞に連れて行かされ、しかもその上、実の家族と15年も会って無い。

(お偉いさんらはジオン本国解放、打倒地球連邦政府なんて簡単に言うがそれがどれほど困難な事かあの独立戦争や水天の涙で理解してないのか?
あの第13次地球軌道会時だって参加したアクシズ艦隊やエゥーゴ艦隊、ジオン本国の同志らは8割が殲滅されたんだぞ。
単なる地球連邦軍の一方面軍相手に、それも途中からは一方的に。その場にあんたもいた筈だろ、シャア大佐!!)

が、一介の少佐の意見など聞く耳持たず。
ジオン公国以上の宮廷と化しているネオ・ジオンではハマーン・カーン摂政派とシャア・アズナブル総帥派の二者が共同で独裁政治を敷いていた。
この点で既に地球連邦政府やジオン公国の現体制を非難するだけの資格があるとは思えない。それがヤハギの意見だった。




地球連邦政府ではシャア・アズナブルの奇襲攻撃を大々的に宣伝。
連中はコロニーに住む人間の解放を掲げながら同胞のスペースノイドを騙まし討ちする卑怯者だと発表する。
既に攻撃から1週間が経過した為、連邦放送やABC、BBC、NHKなど有力放送局が反ネオ・ジオンを煽る。
例えば現地からのレポートとしてサイド1での襲撃時に発生した、撃沈され破砕しているチベ級重巡洋艦のデブリ事故による児童を乗せたシャトルとの衝突事故で250名が死亡した事件を毎夜報道。
この死亡事件をセンセーショナルに書き立てた。
しかも生き残りの連邦軍への独占インタビューとして連邦国営放送はこう述べた。

『如何に彼らが我が身を犠牲に奮闘したか、如何にネオ・ジオンを名乗るテロリスト集団が卑劣にもリーアの和約を無視したコロニー本体への攻撃を敢行したか』

確かにジオン公国と地球連邦が結んだ講和条約『リーアの和約』はジオン公国と地球連邦政府の間『だけ』に結ばれた終戦協定だ。
が、ウィリアム・ケンブリッジが例の『ダカールの日』の演説と記者会見でそれを拡大し、法学的に拡大解釈され、全ての武装組織(軍、民間軍事会社など)は月面都市群、コロニー絶対安全領域内部、地球降下軌道での戦闘行為は中止される事になる。
死んだバスク・オム中佐の罪状に、新たに『サイド7宙域におけるガンダムMk2の実弾演習』という項目が追加された事は連邦軍内部の増長を抑える効果があった。
准将にまで昇進した、既に死人の存在とはいえ、連邦政府は『リーアの和約』を拡大解釈しても守るという姿勢を示している。
尤も、ある意味卑怯であったが。死人を利用したというカイ・シデンのレポートが主要新聞社に掲載、今も物議をかもしだしている。

サイド7宙域のグリーン・ノア宙域は完全な密閉型コロニーに防弾用特殊増加装甲が装備され、ルナツーほどではないがそれでも数個艦隊の艦砲射撃に耐えきれるグリプス1からグリプス12までの要塞コロニー群を建設。
戦闘ポッド『ボール』と呼ばれた一年戦争時の置き土産を改装した多数の無人迎撃衛星に、太陽光発電システムが周辺を回る。
その気になれば、グリーン・ノア傍らの艦隊駐留拠点と防衛力強化の名目でウィリアム・ケンブリッジが移動させた『5thルナ』採掘資源衛星兼軍事要塞を破砕できる高出力強化レーザー砲を配備。
しかも『リーアの和約』がある以上、ここを襲撃する事はジオン公国には不可能。スペースノイドの反応も未知数だ。
それをよい事に、宇宙開発の名目で軍事要塞化と宇宙のジャブロー基地建設を行ったウィリアム・ケンブリッジの手腕は国防族系統の議員と宇宙経済利権を持つ議員グループから大きな支持を集める。

『ケンブリッジの政策こそ、一年戦争序盤の失態を繰り返さない唯一の道』

そう言う議員は多い。まあ、分かっていているのだ。それが人気取りに繋がると言う事が。
尤も、一部の良識派や実力派はこの政策が外宇宙探索や木星、火星開拓に大きな力を発揮した事を見抜き、その先見性に驚くか恐怖を感じ、彼を取り組むべく策動した。
それを見抜いたのがカーウェイ家であり、この数年間でメイの実家は大きく復権した。
ただし、カーウェイ家の当主の娘、ジン・ケンブリッジ妻のメイ・カーウェイ・ケンブリッジはこう言った。

『あたしはもう二度とサイド3に公務以外で帰る気はない。
娘のメアリーをお父さんとお母さん達には私が死んでも抱かせない・・・・あの人たちにそんな資格なんかない。そんな権利なんてない!!』

とジンとユウキに言う程、心に深い傷を負ったが。
それを関係ないと言い切れるのが或いは名家と呼ばれる一家なのかもしれない。
そしてそこまで冷徹になれない以上、ウィリアムの時代も、恐らくはジンとマナの時代のケンブリッジ家も、実力と資産と血統はあるが、野心は無い従順な名家となるのだろう。
この点は父親であるウィリアム・ケンブリッジの信望者、マイッツァー・ロナとは正反対だった。
彼の個人的な主義主張、『コスモ貴族主義』に基づくコスモ・バビロン大学のサイド4での新設などは危険思想になるのではないかと地球連邦文部科学省が警戒している程である。
そして、今。

「来たな、先輩」

嫌な予感はしていた。今日の午後3時までに書類戦争に勝利しろというありがたい命令を首相から受けた。
だから何かある、そしてそう言う時の厄介ごとは大抵あの人が、ダカールの演説以来何かと自分に仕事を押し付けるあの人が持ってくる。
そう、今もボディーチェックをエコーズの隊員から受けた黒いコートに独自のスーツを着た禿鷹の眼光を持つ男が入室する。

「全員退席。羨ましいけど、控室で休憩だ」

その言葉に、ホワイト・ディンゴ出身の戦友で護衛役でもあるレオン、マイク、レイチェル、恐らくは一番の信望者ロナ、新参者のフェアント、最愛の女性リム・ケンブリッジ、義理の娘のユウキ、この間、経済担当でOSCという会計会社社長の息子ジン・ケンブリッジとマス家の主任弁護士セイラ・マスとその一番弟子扱いの娘のマナ・ケンブリッジが退席する。
残ったのはこの度、エコーズが師団規模に拡大された事を受けて、地球連邦軍特殊部隊では片手で足りる将官になったダグザ准将がいるだけだ。
もちろん、日々の鍛錬は欠かしてないからその気になれば老人とも言えるジャミトフ先輩や自分など簡単に捻じ伏せられる。

(そう言えば執務室が手狭だと嘆願書を出したら・・・・いつの間にかここは地下会議室をぶち抜き、完全な執務用大型オフィスになっている。
しかも家庭用、家族用の部屋は別に用意されている豪華さ。これで贅沢じゃない、対テロ対策だと言っても誰も信じないのでないだろうか?
というか、おれは軟禁されているのと変わらない気がする・・・・今度セイラ女史に人権侵害問題で訴えてもらおうかな)

しかもマゼラン級戦艦に採用されていたスーパー・コンピューターを部屋専門に持ってくる程だ。
隣の休憩室に至ってはビリヤード台一つ、オンライン電子ダーツ台二つ、三つの大手飲料会社の自動販売機にカードゲーム専用机、麻雀専用卓。
喫煙室に、食糧庫、大量の電子コミックと8つの高性能ハードディスク内蔵PCがある。勿論、プライベートスクリーンで映画も見られる。
仮眠用のベッドもあるし、ソファーや畳部屋、カラオケルームもある。
ジャミトフらが少しは罪滅ぼしのつもりで使われてない会議室三つをぶち抜いて作っただけの事はあった。

「でも先輩、自分が使った事は一度たりともないのですが・・・・・全く持って福利厚生になって無いと思うのは俺だけですかね!?」

と、一度で良いから目の前で自分に日本産の緑茶を入れさせるお方に申し立てしたいものだ。
尤も聞いてくれたら最後、次は何を言われるか分からない為、絶対に言わない。

「さて、失礼するぞ」

ジャミトフ・ハイマン国務大臣が語りだす。
熱い緑茶を片手に煎餅を頬張り。

「何をです?」

そう、縮小中とはいえ、このティターンズと言う組織は絶賛される地球圏でも有数の権限と実力と実戦部隊を保有する省庁。
下手をしなくても地球連邦軍が保有する宇宙艦隊最強であり、新型機は文字通りの最新鋭であり尚且つ最精鋭機体の可変MS『Zプラス』と地球連邦最高峰の量産型機『ジェガン』だ。
ジオン公国攻略作戦も単独で可能(実現性や攻略後の慰撫工作などの戦後統治は無視した上で)な戦力がある。
その上、有色人種でありながら地球連邦首相に最も近い人物の一人。
『ダカールに日』で地球圏はおろか、全人類生存圏にその名と顔を知られた人物。

「忙しそうで何よりだ。老人を扱き使う輩が政府内部には多くてな。失脚したアヴァロン・キングダムの偉大さが良く分かったよ。
皮肉では無く、よくもまぁ70代で地球連邦の首相などと言う激務をこなす気になったものだ。その点だけは評価できるな」

もしかしてこの先輩はここを休憩室か何かと勘違いしてないか?
確かにソファーは最高級の職人芸のモノを使っているし、アラビア州からティターンズへの治安回復とジオン反乱軍掃討の贈り物として、ドバイやアブダビの族長らが送ったウィリアム・ケンブリッジ宛の赤と青のオベリスク模様のペルシャ絨毯も敷いてある。
尤も、流石にそれは不味かったので『寄付』、彼らの言葉では『喜捨』という形にして各省庁の大臣室に送る様に必死で頼み込んだ。
これが向こう側には無言で自分たちのメッセージ、『白人が過半数を占める地球連邦中央政府へのパイプ役になって欲しい』という要請を適確に受け止めてくれたと勘違いされ、更に評価があった。
結果、このパイプを一要因としてアラビア州はオイル・マネーを利用して地球連邦の新経済圏の一つであるインド洋経済圏を確立した。
特にMSの採掘技術と18mのザクやジムがその大きさ故に作業の邪魔になるなら、作業施設自体をMSサイズに合わせれば良いという逆の発想をカムナ・タチバナ少佐(当時は大尉)の案が通り、巨大工業プラントとモビル・ワーカーの大量配備で工業化と緑化と言う二大事業を開始している。
また、幾つかの氷塊隕石を回収したティターンズはそれを元手に大量の水を供給。幾分か放射能汚染されていたが、そもそも水は放射線を遮断する機能を持つのであまり問題とはならなかった。

「先輩、ここを休憩室代わりに使うのは構いませんが・・・・・俺の有給365日分あるんですけど。
有給使っていいですか? 全部。それが駄目なら買い取ってくださいよ。連邦官僚裁量法に則って。
でないと行政不服審査手続きか異議申し立て、平等原則違反で訴えますよ」

無視する。
いや、もっと性質が悪かった。

「その時は地球連邦政府の戦時特例で必ず潰す。そしてお前は孫ともどもここに軟禁だ。絶対に逃がさん。一緒に死んでもらうからな」

ちょっと待て!!
何を言っているんだこの老人は? とにかく、自分が好きな海洋生物(戦争の影響で地中海は壊滅的打撃を受けたが大西洋、インド洋、太平洋はそれ程でもなかった)のマンタの映像を視界にいれながら思う。

「あの・・・・・・・・・まだ何かやれと?」

この戦争が、ネオ・ジオンを名乗るアクシズ軍とエゥーゴ派閥の連合軍討伐は確定した。
ジオン公国からは230隻以上、地球連邦軍とティターンズからは750隻近くが派遣される。あのルウム戦役を上回る大軍だ。
しかも不良民間軍事会社に不要になった兵器を押し付けて、それをネオ・ジオン軍との戦闘で彼ら諸共消えてもらう。
この事を知った時、ウィリアム・ケンブリッジは確信した。
自分は地獄に落ちるだろう、と。
まあ、使える民間軍事会社、例を挙げるならばブッホ・コンツッェルの『クロスボーン・バンガード』やジオン公国の半分は非正規戦用部隊であるキマイラ隊所属だったジャコビアス・ノード退役少佐(ただし、これも表向きで、現実にはジオン親衛隊中佐のIDを持っている)の『テミス』などは最初から除外。
寧ろ積極的に情報を流し、共犯者にしていた。これはその選ばれた数社も連邦政界や軍部、ジオン宮廷に借りを作れるとして積極的に加担している。

(胸糞悪い)

それを妻から知らされた、というか、妻が立案した事を本人の口から知らされた時の正直な感想。
妻もどこかで死んでも一緒に居たいと言う思いから自分から罪を作ってそれを背負う節がある。
そんな事はしなくても良いと思うが、考えてみれば0089ではテロリストは自ら射殺し、一年戦争をペガサス級強襲揚陸艦『ペガサス』艦長として活躍、『アルビオン』も指揮した。
アウステルリッツ作戦では二度にわたってジオン軍の反撃部隊の主力を足止めし、撃破する勲功を上げたが、それは逆に言えば自分と同様何百人、何千人と殺したのと同じ事。
だから彼女は、リム・ケンブリッジは言うのだ。

『一緒に地獄に落ちてあげる、私の愛しい人』

と。
さて、お茶のお代わりを所望する大胆不敵な先輩にポッドからお湯を注ぎ、緑茶を渡す。

「なあ、ウィリアム。お前、次の首相選挙に立候補しないか?」

時が凍りついた瞬間だった。

「連邦首相に? 私が? もう60代前半の自分が、ですか? 御冗談きついですよ」

そう言って煙に巻こうとするが禿鷹の異名を取るジャミトフ・ハイマン先輩の目は本気だ。
この間のパーティで知ったのだが、極東州には本気と書いて『マジ』と読む時代があったらしい。それ位に目の色が違う。

「そもそも・・・・・・・・・・・・そう言う面倒・・・・・・・・いや、厄介・・・・失礼・・・・大任は閣下らの仕事では?」

思わず責任を押し付けたい為に言うが、返答は無常。

「実は宇宙開拓省がな、つまりお前の古巣がラーフ・システム開発に非常に乗り気だ。無論、内務省と経済産業省、それにラーフ・システムが巨大なアンチ・ソーラ・システムの代わりになると判断した国防大臣のオクサナーも同様だ。
反対している閣僚は外務大臣と厚生労働大臣、文部化科学大臣の三人だけ。しかも厚生労働大臣はお前の健康状態を心配しての事だ」

こっちの話など全く聞く耳持たずだ。
一方的に話している。なんか前にもあった気がするが・・・・・思い出したくない。

(・・・・・・表向きはそう言っている)。

その内心は言葉にしない。そして続ける。

「現に、一年戦争も引き分けに終わった、レビル派閥の跳梁もあったが70代後半のキングダム首相は連邦政府史上初の総力戦を指揮できた。
北米州との暗闘などは色々あったが、な。
それでもだ。そして・・・・・今の人類の医療技術をもってすれば80代の現役政治家も当たり前に存在する」

が、ちょっと待ってほしい。思わず右手を挙げて先輩の言葉を止める。

「先輩、そんな80過ぎのご老体の政治家なんていうのは若手の改革を潰すほとんど老害ばかりでしょうに。
既得特権保持を目論む人と先輩らの望む次期100年の人類の道しるべを築き上げる人物像とを一緒にしないで欲しいです」

自分もお茶を飲む。
咽喉を潤す。
仕方ない、というか、この流れはあの0088の『ダカールの日』の契機になった時と良く似ているな。
しかも後ろのダグザ准将はかなり嬉しそうだ。そんなに自分が首相になるかもしれない未来が嬉しいのだろうか?

「お前は老害にはなれんよ。戦場の怖さを知り、妻を失う恐怖を知り、守るべき息子と娘、そして将来を保障しなければならない孫がいる。
止めに実際に銃で撃たれる事の痛み、殺気を向けられる事の恐怖、そしてそれでも幼子を庇うだけの勇気を持った人間。
しかもさっさと辞任したいが持ち前の正義感と責任感で辞任も出来ないのが私の後輩、ウィリアム・ケンブリッジだ。
決して老害にはなれんな。これでも人を見る目はある。お前も同様だ。
例のニュータイプの青年、ジュドー・アーシタ中尉を後継者として育てているのも、あの男に接触しているのも次世代を見越しての事」

違うか?
最後の「違うか?」は言葉に敢えてしない。だが、分かる。そしてこの人の目が確かだったから自分はこんな不釣り合いな地位にいる。
勘違いされて、勘違いされて、それでも何とか足掻いた結果がこの地位だとしたら・・・・それはやはり当然の結末なのかもしれない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先輩はこの小市民の臆病者で無能な激情家に、本気で、地球連邦の首相になれ? と?
地球と言う数百億の生命体を含んだ人類120億の人生と未来に責任を持てる素質がある、本気でそう考えているのですか?」

頷く先輩。
離し続ける。

「軍人出身のオクサナーか私が首相になるのも良いが・・・・この間、内閣官房長官と首相、国防大臣と財務大臣、私の5人で話し合った。
次の一世紀の為には有色人種にもスペースノイドにもルナリアンにも、ジュピトリアンにも希望を持たせる必要がある。
技術面、政策面ではお前の提唱した『ラーフ・システム』による火星の地球化計画、各地の砂漠の緑化に、宇宙経済やスペースコロニーの補強と準加盟国の経済協力体制の強化、各コロニーサイドの地球連邦構成州への格上げが必要になるだろうし、それで十分だろう」

ならば!
そう思って体を動かした。

「席を立つな! まだ話は終わって無い!! ウィリアム、最後まで話を聞け!!!
・・・・・ウィリアム、お前が不本意なのは分かるが・・・・いいか良く聞け・・・・・聞くんだ・・・・・・頼む。
ここからが本題だ」

一呼吸置くジャミトフ・ハイマン。
それをみてお茶を飲む自分。
ダグザ准将はいつの間にか席を外していた。

「先の政策は・・・・恐らく地球連邦初期の宇宙移民に匹敵する大偉業となるだろう。ならば、その大胆な今後100年の未来を決める政策を誰が担う? 
一体誰ならば、どんな人物ならば人類の生存圏に住む人間全てに対して、地球連邦全加盟国は無論の事、ジオン公国、非加盟国、準加盟国、木星連盟を含んだ者達を納得、或は理解させられる?
かつての地球連邦政府はそれを強力な軍事力と経済力に宇宙開拓と言う大規模な経済利権、そして宇宙世紀元年のラプラス事件を理由とした大弾圧で乗り切った。
だが、この手はもう使えない。そうだな? 
そうだ、同じ手段で乗り切る事はできない。地球上しか生活範囲が無かった人類の時代・・・・あの時とは何もかも違うのだ!!」

それは・・・・

気が付いたらお茶が冷めていた。
一気に飲み干すと、自分でもう一杯注ぐ。先輩の九谷焼の湯飲み茶わん(何故かこの執務室に常備されてしまった)にも注ぐ。

「言い方は悪いが、今の世界にとって最適な生け贄、相対的多数の人間が納得する、理解する、称賛する、支持するのは・・・・ウィリアム・ケンブリッジ、お前なのだ」

静かだった。それでいて強い意志が、本当に70に近い人間とは思えない強い意志がこもった発言だった。

「お前なのでは無い・・・・・お前だけなのだ・・・・お前・・・・・だけなんだよ・・・・ケンブリッジ君」

遠い遠い昔、初めて会った時の呼び方で呼ぶ。
卑怯だ。リムもジンもマナも先輩もみんな卑怯だ!
でもそれに耐えなければならない。それを乗り越えなければならない。何よりも言い方は悪いが自分自身の孫たちの未来の為に。

「だから・・・・・だから私にもう一度あの場所に立ってほしい、と?」

先輩は無言で首を縦に振る。
一旦席を立った。茶色の高級クローゼットを開ける。
汗がシャツの首回りにしみこむ、第一ボタンをはずし、スーツの上着をハンガーにかけてネクタイを丸めてネクタイケースに片付ける。

「先輩・・・・私は政治家じゃありません。
ただの凡人で、小市民で、俗物で、俗人で、政治学も大学で学んだ程度の家族と我が身が可愛い単なる俗物です。冷徹な判断なんて下せない。
しかも当然の事ながら政治運動なんてした事が無い・・・・そんな私が・・・・地球連邦の首相に立候補しても間接民主政治の地球連邦議会では票など集まりませんよ・・・・違いますか?」

最後の足掻きだ。
本当に最後の足掻きだ。悪足掻きだ。

「票か。それは心配ない。ゴップ官房長官と私とロベルタ大臣と首相、北米州と極東州の代表らが裏で手を組んでいるのはお前を除いた連邦政界と財界の常識だ。
・・・・・・ウィリアム、お前が小市民主義の身内に甘い男で政治が大嫌いなのは知っているがこれくらい常識としてそれくらい知って置け」

なんたる不条理。いつの間にかこんな目に合っているとは。
そう思ってしまう自分は情けないでしょうか?

『全く、自分の価値をここまで理解してないのも・・・・困ったものだ』。

そう、ジャミトフ先輩は目で言った。

「仮にもこの地球連邦政府最大級の省庁にして、軍内部にも支持者が多いエリートの象徴であるティターンズの第二代目長官なのだから自分の価値を客観的に知れ。
そうだろう・・・・今お前が心に過ぎったように、お前の家族の為にも、お前を信じる者達、期待する者達、賭ける者達、お前と共に歩むと決めた者達の為にも、だ」

痛い所を突いてきた。
そう感じる。そうだ、あの第13独立戦隊の面々から始まった自分の派閥。
考えない様にしていた『ケンブリッジ・ファミリー』と呼ばれている自分の派閥。
これを維持する、トップとして、ファミリーのドンとして生きるしかない。

「・・・・話を戻すぞ。既に首相、官房長官、私、財務大臣、国防大臣、それに法務大臣と北米州、極東州らの所属議員や同盟派閥が味方に付く。
だからお前が立候補した時点で全て出来レースになる・・・・そんな嫌そうな顔をする、だがお前とて分かっていよう?
お前はもう私の学生時代からの後輩だった学生ウィリアム・ケンブリッジでは無い。
地球連邦の名家、連邦政府から最高の栄誉を受けた男、ケンブリッジ家初代当主にして地球連邦エリート官庁の長であるティターンズの二代目長官だ」

まるで息子と同じ言い方だ。
それが嫌でもあの日の息子らとの会話を思い出す。

『もうカナダのあの小さな家には戻れない』

そうだ、その通りだ。それを確認させられたばかりではないか。息子に、そして先輩に。
それが現実。逃げる事も目を背けることも許されない決断の積み重ね。

(誰が言ったのだろか? 過去は変えられないが未来は変えられると・・・・・・だが違った・・・・実際に変えられる未来などタカが知れている。
自分の未来はもしかしたらあのサイド3の暴動、キシリア・ザビ暗殺時の暴動に単身でザビ家に乗り込んだときに決まったのかも知れない)

そう言えばあれから・・・・

「あれから30年余り。気がつけば・・・・・そんなにか」

無言でお茶を飲む先輩に言う。
ジャミトフ・ハイマンも思う所はあるのだろうか、黙って聞く。

「遥か彼方に来たものです。
あの無愛想で女の為だけに地球連邦第一等官僚選抜試験を合格した男と揶揄された人間が、査問会にかけられたり窓際に追いやられたり、戦場で死にかけた男が今や地球連邦首相候補。
先輩・・・・・・ここで自分が『YES』と言えば、『ラーフ・システム』を初めとした太陽系惑星開発計画は承認されて実行される、そう考えてよろしいですか?」

確認するウィリアム。
それが、恐らく自分の人生最後の仕事。そして歴史に名を残す最大の仕事。
歴史に名など残さなくても良い。
だが孫娘のメアリーと二人目の妊娠が発覚したメイ・カーウェイ・ケンブリッジ、一人目の男の孫、ツルギ・ナカサト・ケンブリッジを出産したユウキ・ナカサト・ケンブリッジらの未来の為にもやる必要がある。

「ツルギ、メアリー、そしてもう一人の孫の為にも・・・・行くしかないのか」

断ればそれを理由に誰が何をしてくるか分からない。
ジンがせっかく築き上げた資産家としてのケンブリッジ家も、マス法律相談所顧問弁護士見習いとしてティターンズに出向しているマナにも申し訳がない。
何より命がけで子供たちを守ってきた、そして共に過ごしてきた彼女に、妻にして伴侶のリム・ケンブリッジに対して申し訳が立たないのだ。

「・・・・・・・・地球連邦市民としての義務ではなく、一人の父親としての最後の務め、そう言う形で務めさせてもらいます」

ただし、とウィリアム・ケンブリッジは続けた。

「木星連盟との約束、ジオン公国との盟約、各スペースコロニー群の尊重、地球各地の取り扱いは全て私の主張した通り、出来得る限り平等ににやります。
地球本土、いえ、北米州優先政策は行わない、それだけを認めてくれますか?」

最後の確認。
それに頷いた。どうやらゴップ内閣官房長官も、ゴールドマン首相も、財務大臣と国防大臣も聞いている様だ。
出なければ、入室時から付けているあの耳のイヤホンが説明つかない。
ウィリアム・ケンブリッジはその事だけは確認したかった。
単なる神輿だけで終わる気はないし、神輿だけならば担がれる気も無い。

「・・・・・・今確認した、お前の提案を基本は飲む。
勿論、多少の誤差修正はするが、基本的には火星植民地化計画、ラーフ・システム計画と木星連盟への大規模援助、地球各地の緑化政策を主体とする。
またグリプス並びサイド7の拡張工事、ジオン公国との同盟関係強化、対準加盟国問題専門委員会の立ち上げ、軍縮と外惑星・内惑星開拓公社の設立も行う。
そう言えば、コロニー公社の見直しと査察団としてのティターンズに調査権限付与も与えられるそうだな。軍部への対カウンター部隊としての存続も許可する。
不満は何かあるか、そうゴップ官房長官が聞いているが・・・・どうだ?」

不満は無い。不平はあっても。
ならば良しとしよう、だから答えた。

「問題はありません。それで結構です・・・・・そう言えば昔言ったんですよ、リムに」

「?」

少し天井を見上げて独り言の様に言った。

「お前に相応しい男になる。なれと言うなら大統領にでも首相にでもなる、だから一緒に来い、と。
まさか本当に地球連邦の首相になるとは思いもしませんでしたよ・・・・あのハワイの夜には。ただただ夢中で追いかけた女を振りむかせるだけで必死だったのに」

・・・・・・・・・言霊ってあるのですね。

・・・・・・・・・そうだな、言葉は力になるとは本当の様だ。

いつの間にかジャミトフ先輩が来て、お茶を飲みだしてから50分も経過した。
宇宙世紀0096.02.15の午後7時ごろ。
この時の密談で後の地球連邦、いや、全人類圏の未来が定まったと宇宙世紀150年代のある青年は語った。

「そうだ、お前を支持するであろう全員が聞きたい事がある」

椅子に座っているジャミトフ先輩は聞いてきた。

「?」

疑問に思う。聞きたい事は山の様にあるし、不平不満も山の様にあるが、聞かれる事などあるだろうかと思うウィリアム。
簡単な事だ、そう前置きしてジャミトフ先輩は言う。

「お前の掲げる人類の新たなる未来へ向けた計画を何と名付ける?」

ふと、思った。何にするか、何が良い名前か?
思い立つ。それは一瞬だが、ある意味で最もふさわしい言葉だとも思えた。
少なくとも全人類が納得できそうな、反感を抱く事の無い言葉だとは言えよう。

「シヴィラゼーション」

『文明』

人類4000年の歴史。

それを意味する言葉。

母なる大地に生まれ、偉大なる海を渡り、遠大なる空を飛び、悠久の宇宙に進出した人類の新しい第一歩に相応しい言葉だと思う。

「シヴィラゼーション?」

オウム返しするジャミトフ先輩に自分は言った。
彼もその言葉の壮大さに飲み込まれた様だ。

「シヴィラゼーション計画、『文明』計画です。
人類の新しいステージを築き上げる為の第一歩、新文明樹立の為の計画がそれです」

遠大な計画。100年、いや、下手したら1000年単位の遠大で壮大な計画。
確実に自分はこの計画の、成功か失敗かいずれにせよ結末を見る事は無い。

(・・・・俺はこれの結末を知る事は無い。
だが、文明発展と言う全人類共通の目的と火星と木星の厳しい環境と言うべき共通の敵を相手に一致団結するならばこの計画は成功するのではないか?
少なくとも・・・・・人類に可能性を見せる事は出来ると信じて・・・・)

伊達にロンド・ベルの為にクラップ級とアーガマ級、そしてラー・カイラム級を与え、ドゥガチ総統と仲良くし、簡易ジュピトリス級惑星間大型輸送艦を渡した訳では無い。
フェアント技官をティターンズで重宝しているのも、シロッコ准将を自分に与えられた鈴と知りながら使っているのも、ロナ君の危険思想を矯正しつつも彼に上に立つ人間の苦労を教えているのもこれが狙い。
そしてニュータイプ以上に人誑しなジュドー・アーシタを育てているし、ある男に次を渡すべく自分なりに裏で動いているのだ。

「そうか・・・・シヴィラゼーション計画か・・・・良い名前だな。お前の願う未来にぴったりだ」

そう言ってお茶を口に含む先輩。
その後は昔の、もう遥か彼方の過去になった学生時代の話をしていた。

「そうですね、懐かしい。あの頃は無我夢中でした」

今は違うのか?
意地の悪い質問をする先輩に肩を竦めて見せる。気が付けば電子ポッドのお湯は完全に空になっていた。

「今も無我夢中です。誰かさんが・・・・・・とてつもない大仕事を押し付けてくれるので・・・・・・ずっと」

少しばかり皮肉を言っても良いだろう。
それだけの事はやって来たつもりだし、やるつもりだ。

「ああ、謝って済むとはもう思えんが・・・・・悪かった。本当にすまなかったな・・・・・ウィリアム・ケンブリッジ」

謝罪の言葉を聞けるとは今日一番の収穫だった。
そう思うウィリアム。
だが、そう思っても良いだろう。何せ、私は地球連邦の頂点に立つハメになったのだから。

「それにしても・・・・・」

ん?

疑問符を顔に出す先輩。

「議会政治の、間接民主制の形骸化がここまで進んでいるとは思いませんでした。先輩はこれでよろしいのですか?
小市民出身の潔癖症な面がある私はとてもではないが認めたくない事実です。
派閥争いで100億の国民を指導する次期地球連邦の首相が決まるなど・・・・国民への冒涜では無いのですか?」

これは先程の談合によって自分を首相職に据えると言う事への反感。疑問。反発。

(・・・・確かに言いたい事はあるが・・・・・だが、それでも私は行くしかない。それは今決めた。だが、だからと言って放置しても良い問題では無いだろう)

顔をも見た事の無い120億人よりもリムと共に歩んだ道、マナとジンという血を分けた何物にも代えられない宝物。
そしてジンが抱かせてくれたあの小さなメアリーとツルギという二人の孫の異母姉弟の未来の方が大切だと思ってしまったから。
ジンとマナの将来が120億人の未来と重なってしまったから。

「先輩・・・・・まあ決まった事を覆す気はありません。ちゃんと決めた以上は死ぬまで責任を持ってやりますので安心してください。
ですが、談合で首相が決まるのは民主政治の終わりでは無いですか? そこのところはどう思います?」

とにかく、この一点だけは聞いておこう。
聞いたところで即座に、まあ四半世紀程度は目立った変化はないだろうが・・・・それでも聞いておきたい。
ハイマン家当主となった、ハイマン一族の軍人政治家一族のトップに。今の地球連邦政府の有様と言うモノを。

「そうだな・・・・私もお前も認めたくないだろうが・・・・間接選挙における首相選挙と言うのは本来そういうモノだ。
統一ヨーロッパ州の地球連邦加盟国スイスで行われている様な住民の直接投票、つまり直接民主政治や各州構成国の地方自治体が行っている住民投票以外は・・・・どうしても出来レースになりやすいし、そちらの方が安定する。
そして、これは第二次世界大戦後の大半の民主共和制を掲げる国家にとって至上命題であり、多くの国家が解決できなかった問題だ。
それ以上お前が気に悩む事は無い。そして、これは忠告だが・・・・・ウィリアム」

一旦言葉を閉じる。
そしてもう一度口を開く。

「圧倒的多数の票を得て首相になったとしても決して自分の力を過信するな。民主共和政治も専制政治も政治の一形態に過ぎない。だから優劣は無い。
そしてお前が属する絶対民主共和制を掲げる地球連邦とは数こそ正義の論理が働く政治体制の典型例だ。それは認めるしかないのだぞ。
故に、地球連邦議会内部でお前が議員の絶対多数を敵に回せば『シヴィラゼーション計画』も頓挫する。お前の夢と最後の仕事は出来なくなる。
それを忘れるな。お前の政治基盤は強い分、一度の衝撃で、強烈な一点集中のレーザーで砕かれる様なもろくも崩れ去る岩の様なものだと覚えて置け、良いな、絶対に忘れるなよ」

これはジャミトフ・ハイマン個人からウィリアム・ケンブリッジという後輩への人生の先輩としての教えだった。
魑魅魍魎がはびこる地球連邦政界で生き残ってきたハイマン家当主の、新たなる名家ケンブリッジへの善意から来た教え。
そしてそれを無碍にすることは無い、無駄にすることは無いと言うのはこの数十年の付き合いでジャミトフは確信している、
これがジャミトフ・ハイマンなりの後輩への気遣いであった。




ところで序盤を圧倒していたネオ・ジオン軍。が、流石のネオ・ジオン側首脳部も警戒しだした。
何をか?
地球連邦軍の各地の艦隊が脆い、脆すぎる事にである。
アクシズ要塞の要塞指令室。シャア・アズナブル、ハマーン・カーン、タウ・リンの三人らが中心なり策を練る。

「なあ赤い彗星・・・・・今まで沈めた敵の撃沈位置を確認したか?」

タウ・リンの問いに、作戦参謀の一人が無言でマウスを動かして円を作る。
そこに印をつけて敵艦隊をどれだけ撃破したか、撃沈したか、どの位置で哨戒任務をしていたかを表示した。

「おい、そこの女。円の数を増やせ。一個当たり二グループだ」

そう言われた少尉の階級を持った女性士官がカーソルを動かす。
そして驚いた。撃沈した艦艇を円で結ぶと、地球連邦軍は確実にアクシズをその中心宙域に捉えつつある。
いや、実際は捉えているかもしれない。何せ、半円の中心にはこのアクシズ要塞がある事になるだから。
暗礁宙域故の利点を活用したゲリラ戦を仕掛ける為に待機していたネオ・ジオン軍本隊。だから動かなかったが、ここはもう例の作戦を決行すべきだろう。

「おい、赤い彗星。こいつは動かないと完全に敵に主導権を奪われるぞ」

このまま大量破壊兵器が使える宙域に留まっていては地球連邦軍の保有する
数千発の核ミサイルの飽和攻撃を受ける可能性もある。それも一方的に。
或いはギレン・ザビ公王とレイニー・ゴールドマン首相の双方が許可を出せばアクシズ要塞に対してコロニー・レーザー砲を、あの『ソーラ・レイ』を使う可能性も極めて高いだろう。
彼らに取ってネオ・ジオンは敵でありテロリストなのだ。国家では無いから遠慮はしないし南極条約やリーアの和約、連邦統一法や連邦憲章、ジオン公国憲法の適応も無い。

「シャア総帥・・・・やはり」

作戦参謀役のナナイ・ミゲル中佐が掠れた声で言う。
その甘えを幾分か含んだ声の主、ナナイ・ミゲルに絶対零度の視線を向けるハマーン・カーン大佐。それを面白そうに見るタウ・リン特別補佐官。
タウ・リンは知っていた。この二人双方と肉体関係をシャアが結んでいる事を。
だが、シャアはハマーンとナナイの視線、仕草、タウ・リンの好奇の目線、それに気が付かない振りをして命令を下した。

「よし、当初の予定通り、ペズン要塞攻撃作戦を開始する。
他の哨戒艦隊を撃破しつつペズンを攻撃、その後は例の計画通りに動くぞ」

こうして、ネオ・ジオン軍も動き出す。




0092.06.03

時は若干遡り、一隻の宇宙船が強奪された・・・・と言われている。
それはMSN-06Sシナンジュと後に呼ばれるプロトタイプの『RX-0』とそのデータだった。
手引きしたのはアナハイム・エレクトロニクス社の常務の一人であり、ビスト財団の最後の一員であるマーサ・ビスト・カーバイン。
彼女は月に潜伏していたヌーベル・エゥーゴの指導者、タウ・リンに接触。同機体の輸送情報を売却。自らの安全を購入した・・・・この時点では。
その後、遭難事故に見せかけてこれをネオ・ジオンに譲渡、ハマーン・カーンが後に乗る事になる白色と桃色を基準色として、黒い線を入れたシナンジュが配備される。

それから約3年半、逃亡を続けたマーサ・ビスト・カーバインは指定されたパラオ要塞に向かう途中で、一機のMSとそれに率いられたMS隊に出会った。
あの男が指定した合流ポイント直前で。

「・・・・・・青色のシナンジュに青いギラ・ズールの親衛隊使用機体の群だと? こんな話は聞いてないぞ?」

光が走った。何だろうと思って専用豪華シャトル(旧式マゼラン級戦艦を改造した戦闘可能な豪華客船)の専用室のモニターを拡大投影する。
そこには数機のMS隊を引き連れた青色と紫のラインを入れたMSN-06Sシナンジュが現れる。そしてビームガトリングンガンの銃口が向けられていた。

「迎えにしては・・・・・まさか!?」

マーサが急いでノーマルスーツを着用しようとした時にはもう遅かった。
護衛のサラミスK型三隻が、敵の、いいや、自分達の会社、アナハイムが作ったAMS-129ギラ・ズール親衛隊使用機の高出力ビームライフルとビームマシンガンで沈められる。

「は、話が違う!! 裏切ったわね!! これだから男って!!!」

そう言って、脱出艇に逃げ込むマーサ。
奇襲を受けた事もあって、僅か5分足らずで撃沈された5隻のサラミスとマゼラン。投降する、3隻のサラミスK型。
青いシナンジュはビームガトリングからビームライフルに武装を切り替えると、脱出艇を鹵獲。
ミノフスキー粒子濃度は限界値以上であり、しかもご丁寧な事にタウ・リン子飼いのヌーベル・エゥーゴ並びネオ・ジオン総帥親衛隊使用の特別仕様のギラ・ズールはレーザー光線拡散用チャフをばら撒いた。
これでは緊急通信用のレーザー通信も出来ない。そして脱出艇には信号弾しかない。武装などなかった。
そして、脱出艇に乗っているのはマーサと操縦士に護衛が二名だけ。武器は四丁の拳銃のみ。推進剤も無く、何処にも行けないのは少し冷静になればわかるが、それが分からない。

(に、逃げなきゃ!!)

と、敵の、シナンジュのハッチが開く。

(何をする気・・・・え? あれは・・・・レーザーガン!?)

個人携帯用レーザーガンは宇宙世紀初期や宇宙開拓黎明期に使われていた兵器である。
だが、電動式ガス圧吸収型無反動拳銃、電動式ガス圧吸収型無反動自動小銃の開発、普及によってその配備は無くなった、或は権威の象徴と化した技術だ。
例えばジオン十字勲章と共に授与されたり、ギレン・ザビなどザビ家やそれに連なる者が儀礼的に装備していたりする様に。
実際、拳銃は15万、自動小銃は大量生産効果の問題もあって8万テラ程度で購入可能だがレーザーガンは最低でも50万テラはする。
しかも旧世紀の日露戦争の旅順攻防戦や第一次世界大戦以来から続く火力、物量優先主義、つまりは弾幕を張る事が出来ない事から一点狙撃にしか向かない。
また冷却剤の関係から、拳銃サイズにも出来ず、殆どが嘗てのドラグーン、竜騎兵と呼ばれた騎乗鉄砲隊のカービンライフルサイズになる。
つまり兵器としては失格であるという事だ。その銃をあえてこちらに向けるタウ・リンらしき男。

(な、何をする気!?)

そんな儀礼的な銃だが威力だけは高い。
まして、あの銃はリボルバー式の充電方式を使ったビームガンではないのか?

『久しいな。元気そうで何よりだ。生きてるかい? 生きていて聞こえるか、おばさん?』

声だ。タウ・リンの、散々私たちが支援してやった男の声だ。間違えるはずなどなかった。
そして最後には私を助けると約束した男の声だ。だが、現実はどうだ?
奴は、タウ・リンは自分達が連邦軍の目を欺いて掻き集めた補給物資を運んできたコロンブス級を鹵獲、そして自分自身は私の護衛艦と乗艦を沈めた。
しかもどうやったのか、ハマーン・カーン以外のカラーリングをしたシナンジュを扱っている!!

『ああ、ちょっと邪魔がいるな・・・・さよなら』

そう言って光が走った。
ビーム兵器。間違いない。第一次世界大戦時代の小銃サイズで恐らく数発しか撃てないだろうが間違いなく個人携行型ビームガンだ。レーザーガンじゃなかった!!
閃光が何回か走る。その度に、その都度、自分の傍らにいた人間が死ぬ。
脱出艇、小型隕石の衝突に耐えられるランチの強化ガラスもビームの高熱には耐え切れなかった。
護衛役が慌てて銃を向けるが、その最後の一人も死ぬ。

『これで・・・・全員だな』

紫を基準としたアクシズのオリジナルパイロット用ノーマルスーツを着たタウ・リンが脱出艇のハッチを開ける。
恐怖で咽喉がカラカラに乾いているマーサ。だが唾さえでない。
ワイヤーガンを三つ使い、マーサを拘束するタウ・リン。

『お前さん、まさかあれだけの事をして楽に死ねるとは思ってないよな?』

何の事だ?
そう言おうとした時、タウ・リンは両手両足を完全に固定させると、自分のノーマルスーツのヘルメットとスーツの二重設置ベルトに手をかける。

『やめ!!』

と、男から交信が入る。それは憎悪の声を含んでいた。

『やめないぜ・・・・・これは・・・・・戦争を食い物にする様なお前に対する、戦災孤児の復讐なんだからな』

待って!! 金ならいくらでも払うから!!

そう叫ぼうとしたが遅かった。
私の重ノーマルスーツのエアーの供給ボタンを、持ってきたビームガンで破壊した。
窒息死。

(いやだ、こんな死に方は嫌だ!! 誰か助けて!!!)

必死に口を開いて空気を吸おうとするが全て無駄。
因果応報。自分達が起こした『水天の涙紛争』で一体何人死んだ、そうウィリアム・ケンブリッジなら言うだろう。
だが謎なのはその首謀者の一人であり、資金援助を受けたタウ・リンが何故か憎悪の瞳を向けている事だった。

『あばよ・・・・・・って・・・・・死んだか』

確認する。空気は無い。完全に真空だ。女は完全に死んだ。
そして最後に彼は青いシナンジュに戻るとビームライフルでランチを破壊する。

・・・・・・・この時点でアナハイム・エレクトロニクス社は事実上解体。

実権を握っていたAE社の最大与党ビスト財団の一族は拘禁されるか死ぬかした。それはラプラスの箱の存在を知る者が居なくなった事を意味していた。




『御搭乗の皆様、サイド7、グリーン・ノア3行きのシャトル575便の搭乗手続きを開始します。乗船を希望する方はお早めに搭乗ゲートまでお越しください。
繰り返します、サイド7、グリーン・ノア3行きのシャトル575便の搭乗手続きを開始します。乗船を希望する方はお早めに搭乗ゲートまでお荷物を持ってお越しください』

アジア州、オセアニア州、極東州の共同出資で一年戦争後に造られた地球最大級のトラック宇宙港。
そこから宇宙に上がろうとする家族らがいた。

「リディ・マーセナス中尉、だったね。お父さんのローナン・マーセナス氏にはお世話になっているよ」

そう言うのはクリーム色のスーツにパナマ帽と灰色のドットのネクタイをした男、アデナウワー・パラヤ外務大臣だった。
傍らにいるのは父親の後を継ぐのが嫌だと言ってパイロットになったリディ・マーセナス中尉。
この都度正式に発令された『あ一号作戦』の際に、ロンド・ベル艦隊所属の予備機リ・ガズィのパイロットとして総旗艦ベクトラ配属が決まった。
というか、強引に決めた。
父親の権限を無断で使って。だが、それを知った連邦軍上層部の軍官僚の保身から握りつぶされ、今回はアデナウワー・パラヤの護衛役としてもう一度、ロンド・ベル艦隊に行く。
ちなみにパラヤ大臣だがあれだけ内閣府の会議で何とかすると言いながら、まだ交渉の切っ掛けすら掴めていないのが現状である。
故にパラヤ外務大臣のプライドはもう後が無い。
その時に一つの天啓と思える事態が起きた。ネオ・ジオンを裏から支援しているジオン公国政務官モナハン・バハロがパイプ役になると言ってきたのだ。
それに乗ったアデナウワー・パラヤ大臣は。
彼は一方的に政敵扱いしているウィリアム・ケンブリッジと彼の派閥が主導する『あ一号作戦』と彼の盟友、ギレン・ザビの命じた『第二次ブリティッシュ作戦』の発動前に交渉でネオ・ジオンを武装解除させたかった。彼を出し抜くために。

「ありがとうございます」

敬礼するリディ。その後社交辞令を見て無理矢理連れて来られた感のあるクェス・パラヤは思う。思ってしまう。

(この二人はさっきから上辺ばかり。汚い人。少しはウィリアム・ケンブリッジ小父さんを見習えば良いのに)

彼女は知っていた。
絶対に安全、つまり地球軌道に嫌っている筈のウィリアムさんの派閥、第1艦隊が演習に来るタイミングと同時期の打ち上げシャトルの便をを調べ上げ、政府閣僚特権で割り込み、ミライ・ノアという女性らからチケットを二枚奪った。
まあ、一枚はハサウェイ・ノアという自分より少し年が上の男の子が乗る事になったのはラッキーだったけど。

『なんでこの時期に宇宙に上がるの? 
もう軍隊が・・・・・ウィリアムさんがティターンズとロンド・ベルを動かしてるんでしょ?パパの仕事はもうない筈でしょ?』

『それは違う。あの男とジャミトフとオクサナー、そしてゴップと言う好戦的な野蛮人が軍事作戦を強行するのを止めるのは大切で立派な仕事だ。
そもそも、ケンブリッジの・・・・・いや、何でもない。
それに地球連邦政府はジオン・ズム・ダイクンの息子が生きているとは思ってなかったんだ・・・・だからこれは外交の失態ではなく無能な情報部の失敗なんだ』

『パパ、それって単なる言い訳でしょ? 
私知っているのよ、ウィリアムさんが必死で宇宙と地球各地を調べてたの。
アングラ出版やシデン・レポートを読めば分かる事だけど、怠慢だったのはパパの方じゃないの?』

『それは・・・・・お前が気にする事では無い』

『そうやって私の事を無視するから・・・・だからみんなにウィリアムさんに劣っているって・・・・!!』

『クェス!!』

『ぶ・・・・ぶった!!』

『黙りなさい!! そこの君、私は荷物を取りに行くから、娘をホテルのこの部屋に送り届けてくれ。これはチップだ。
食事はルームサービスで・・・・それ以外は絶対に何があっても娘を部屋から出すな。ホテルの支配人には外務大臣がそうしてくれと直接頼んだ、そう伝えろ。
あと、支払いは連邦政府外務省会計監査課に回してくれ』

そしてその溝を埋められぬまま現在に至る。まあ、娘の方にも責任はあるだろう。
何せ、彼の、父親アデナウワー・パラヤ最大のコンプレックスを掘り当てたのだから。傷口に塩を塗る行為でもあったのだから。

「クェス、発進だよ、シートベルトを付けて」

ハサウェイ・ノアが言う。
リディ・マーセナス中尉も軍服姿で反対側の椅子に座っている。
そしてシャトルはカタパルトに乗せて宇宙に向けて発進した。




宇宙世紀0096.02.19

ハサウェイ・ノアとリディ・マーセナス中尉とクェス・パラヤが乗船するシャトルが発進した頃、各民間軍事会社の拠点としてジオン公国から貸し出されたペズン要塞から一隻の船もまた出港する。
それはザンジバル改級機動巡洋艦であり、『テミス』という民間軍事会社が所有する艦だった。

「社長・・・・いえ、中佐、最大加速をかけます」

その言葉に民間軍事会社『テミス』の社長と言う肩書を持つ、本当はジオン親衛隊中佐のジャコビアス・ノードは艦橋の司令官室で報告を聞く。

「よし、一応ダミーを出しておけよ。あの戦闘しか出来ない能無しのバカどもにこちらの真の目的地が悟られる事は無いと思うが・・・・一応な。
ジョニーとユーマ、それにガラハウ中将との合流ポイントまで移動する。ネオ・ジオンが攻撃して来た時以外・・・・目的地までの航法を任せる」

「了解しました」

言うまでも無く艦を運営する全員がジオン軍の正規軍の軍人である。
そして、この副官もまたかつてのジオン独立戦争の激闘を潜り抜けたキマイラ隊の生き残り。

「さてと、全く厄介な任務だったな。
わざわざ金塊と銀塊をわたすんだから・・・・メッキとも知らずに。これだから不良兵士の兵士崩れは度し難い。
誇りも義務感も規律も何もない・・・・・あるのは下種な欲望だけか。まったく死んで当然だな・・・・いいや、違う、死ぬべきだ。世界の平和の為にも、だ」

何か言いました?

いいや。何も。

そう言ってザンジバル改級機動巡洋艦は宇宙に消えた。




三日後、宇宙世紀0096.02.22である。
多数の哨戒に出かけた艦隊が消息を絶ち、これは何かの罠ではないかと感じた幾つかの民間軍事会社の社長クラスが特別回線で雇い主に呼びかける事を決定した。
が、遅かった。既に彼らは任務を果たしていた。そして・・・・見捨てられていた。

・・・・・・・・当初の予定に従って。




「こちらマシュマー・セロの先遣隊。ペズン要塞を確認これより攻撃に入る。
各員に告ぐ、悪に悪の報いが、罪には罪の報いがくだされるのだ!! 全軍攻撃開始!!!」

ネオ・ジオン軍との戦いは新たなる局面に入る。


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