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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:b7ea7015 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/25 16:39
今回は外伝に近い作品です。各種映画のオマージュもありますがよろしくお願いします。

ある男のガンダム戦記22

<平穏と言われた日々>




宇宙世紀0088、『ダカールの日』と後世に語り継がれる演説は幕を閉じた。
演説の結果、ティターンズ第二代目のトップであるウィリアム・ケンブリッジは護衛達と共にニューヤーク市郊外にある、直通しているニューヤークセントラル駅から郊外のヘキサゴン駅まで時速280kmのシンカンセン「カガヤキ」で30分。
その特別官邸・官舎街『ヘキサゴン』にウィリアムらは入る。多数の護衛達に囲まれて。何重ものSP警備車両やティターンズのMS隊、警察のSWATが展開している様だ。

(まあ、あんな降下作戦が決行されればこの警備も当然か。シャア・アズナブルが核攻撃を行おうとしていた。
その事実が政府中枢を守るべく、ジャブロー基地並みの防衛網を建設していると言える。防空ミサイル大隊にアッシマー、それに海軍が開発したギャプラン改で編成された海軍空母艦載機飛行部隊。)

核攻撃前提の降下作戦と言う第13次地球軌道会戦の教訓を元に、地球連邦首相官邸と連邦各省庁は大規模な防空網形成を開始。
主要幹線道路各地にジム・クゥエル24機の第1大隊から第5大隊までの120機が配備され、郊外にはアッシマー72機の一個師団が軌道上からの奇襲に対応するべく即応体制のまま待機。
またMSとミノフスキー粒子登場以来日陰者であるが、それでも陸軍は威信をかけて特別防空連隊(ガンタンク改造の防空用レールガン部隊)5個連隊が各地に駐屯している。
無論、警察も軍も365日24時間の監視体制で防空網を敷く。
そしてティターンズ長官、つまりウィリアム・ケンブリッジの執務室は対核兵器シェルターでもある地下3階にある。地上6階、地下8階のヘキサゴン(首相官邸)の隣だ。
しかもこれらの地域を守る為に、地球連邦軍とは別に北米州軍1個師団1万2千名が常時完全兵装装備にて護衛。
止めに、トイレに行くまでSPが12名ついている。
しかもSP全員が相互に監視し合い、エコーズの部隊隊員はゴム式模擬弾のアサルトライフルで武装していると言うオマケつきだ。

(あの日から全部変わったな・・・・・というか、これって軟禁なんじゃないか?)

あの日の演説から護衛の第2海上艦隊と一緒にニューヤーク市まで大西洋を横断。
その後はニューヤーク市市民の、いや、二週間かかった事とニューヤーク市でもう一度会見をする事からマーセナス北米州大統領らを中心とした北米州、極東州など太平洋経済圏の実力者達に、各財界・政界の魑魅魍魎ども、更にはアイドルグループへのアイドル歓迎感覚の市民数百万人の中のパレードに迎撃された。

(ああ・・・・あの日は本当に穴が在ったら入りたかったよ。しかもダカールからの移動は航空機では無かった。効率重視の我が祖国アメリカらしくなく、だ。
自分が乗艦したのが、世界でも最新の正規原子力空母、バラク・F・オバマだった。まあ珍しいから良かったけどね。
あとでジャミトフ先輩にそれとなく聞いたら休暇扱いだったらしい。確かに艦長室に匹敵する王族や皇族、大統領クラスの迎賓室での船旅、大西洋横断は退屈はしなかったが・・・)

そう、彼は紛れも無い地球連邦の、救国の英雄だった。あの日のダカールの演説は反エゥーゴ勢力を一気に拡大させ勢い付ける。
彼らや一般市民に取って、ティターンズという実績と人望のある組織のトップが自らの危険も顧みずあの演説を行った事はとてつもない支援になる。

『エゥーゴの連中もアクシズの反乱部隊もテロリストだ!!』

『奴らに殺される前に、奴らを法廷に引きずり出せ!! そして絞首刑にするんだ!!!』

そういう声が地球上各地で、そして罪をなすりつけるために各コロニーサイド、月面都市群で発生する。
発生しなかったのは未だ思想面で地球連邦と相いれない中華地方のみであった。
実際、地球上の各地域では反エゥーゴ運動が活性化。政情安定が第一の統一ヨーロッパ州はこれを幸いに反ジオン運動を反エゥーゴ運動、反アクシズ運動にすり替えた。
アラビア州と南インド州は州民の意思統一に利用。宇宙に存在するジオン公国は地球連邦との同盟関係強化に全力を尽くす。サイド6も同様。
サイド7、グリプスに至っては難民受け入れと中華(共産党)からの自由を求めた人々や赴任と言う形を取る事で各地から人材を集め出した。
しかも反エゥーゴ勢力の急先鋒であるティターンズのグリプス鎮守府(宇宙におけるティターンズの本拠地)がある事を良い事に、地球連邦内での準加盟国から加盟国、更には州への格上げを狙う。
中央アフリカ州の連邦軍から離脱していた民族解放戦線ら反乱部隊はアクシズかエゥーゴであると認定され、テロリスト扱い。中央アジア州の過激宗派も同様。
これが切っ掛けにいくつかのエゥーゴ派連邦軍が身の危険を感じて連邦軍を離脱したが、それは地球と言う重力圏内部での事で大きな混乱は起きなかった。
歩いて逃げるには限度があるのだ。
唯一の懸念材料はロンメル師団と一年戦争中に呼ばれた2万名の部隊とマッド・アングラー隊が行方不明な事だが・・・・既に偵察衛星による衛生写真索敵網が再建されつつある連邦政府にとっては些細な事だと考えられていた。

「で、俺はいつになったらこの書類地獄から脱出できるのだろうか?」

愚痴る。
愚痴る。
そう、愚痴るしかない。
彼の先輩であるジャミトフ・ハイマンの突然の引退宣言で引き継ぎを行う事になったティターンズ業務は膨大をこして超大だった。
オーストラリア大陸西海岸、北部アフリカ州、さらに準加盟国となった中華のゴビ砂漠に北米州の荒野地帯の緑化。

(ええい、緑化に植林!? 何なんだこの書類は!! これは連邦政府の、内務省か国務省か、各州政府の仕事だろに!?)

また愚痴る。
それら緑化政策を筆頭に、サイド1からサイド7までの治安維持と地球=宇宙航路と地球=コロニー経済圏の再築。
ジオン公国への定期査察。無論、ジオン公国政府側の軍事査察委員会の受け入れも何故かティターンズの業務だ。
尤も、これは流石に連邦軍から文句が出る事確実なので、首都に帰ったウィリアムはニューヤーク市郊外のヘキサゴンに一番に駆け込み、ゴールドマン新地球連邦首相に訴えた。

『この仕事をティターンズの管轄に置けば第二、第三のエゥーゴを生み出します。どうか連邦軍の誇りを考慮してください』

その為、なんとか、連邦軍のブレックス中将(月面方面軍総司令官として昇進)とシナプス中将(第13次地球軌道会戦の勝利に貢献した事から昇進)に押し付けた。
それでも仕事量は増えるばかりで減る気配を見せない。

(おかしい! おかしい!! 絶対に間違ってる!!! なんで武装警察のティターンズが政治や経済にまで口を出して・・・・違う!!
なんで政治家や経済界の人間が政治とか経済とか大規模公共事業についての嘆願書や請願書を警察に持ってくるんだ!! 
ここは警察だぞ!!!
しかも一般市民とエゥーゴ支持者らからはラブレターに剃刀レターのオンパレードとか無いよ。泣きたい)

そう、彼の、ウィリアム・ケンブリッジの受難は始まったばかりである。
彼がニューヤーク市に帰港してから2週間、ずっとパパラッチに質問攻め。次の2週間は分刻みのスケジュールに追われてパーティー。ただし、腹黒紳士や似非淑女らとの楽しい会談だった。
とどめに、久方振りにあったゴップ退役大将から一言。

「ああ、ケンブリッジ君、私は来年から内閣官房長官になる。同僚としてよろしく頼むよ。期待しているからね」

と、とんでもないオマケが付いた事を知った。
だいたいクリスマスにSP2個大隊の護衛の下、ニューヤーク市のホテルでクリスマスパーティーを戦友らとした以外は一切この官庁街から出てない。
しかも嫌味な事に、両親も引っ越してきたし、息子、娘は専門の高等学校に入学したのでケンブリッジ家は誰一人としてこのニューヤーク市郊外、六芒街(首相官邸を中心とした政官一体の街の通称)から出てない事になる。

「俺が何をした!!!!」

叫ぶが誰も聞いてくれない。
そして叫ぶだけ叫んだ後に、仕事に戻る。
過労で倒れたブッホ君、いや、ロナ君の分もやらなければならないのだ。
と、ドアがノックされる。
完全武装のエコーズのメンバーがドアを開ける。そして机の強化防弾ガラス(対戦車ライフルの弾丸をも遮れる)越しに入ってきた人間を見る。
それは次期北米州大統領になるであろうジャミトフ・ハイマン退役少将、並び、ティターンズ初代長官だった。

「・・・・先輩・・・・また、仕事持ってきたんですか・・・・ほんとうに、もう勘弁してくださいよぉ・・・・冗談抜きに自分より若い筈のあのロナ君でさえ過労でいきなり倒れたんですよ?
幾ら得意分野でも自分だって限界があります・・・・・殺す気ですか?」

両手を上げて金属探知機でボディーチェックされている心優しい(?)先輩を見る。
彼が来るときは、大抵は厄介な事案を持ち込む事だと相場が決まっていた。特にあの演説をするように頼まれて以降は。

「ほう、察しが良いな。出来た後輩を持つと楽で良い・・・・ん、例のお茶をくれないか?
少し話をしたい。かけろ。」

笑いながらソファーに腰かける。現在この執務室はこれ一個が完全なマンションの一室である。
来賓者応対可能なソファーがある執務室に、妻と共同しているツインのベッドルームにマナとジンの勉強部屋がそれぞれ与えられ、夫婦別個の個人用の部屋が二つ、調理器具完備されたキッチン、バスルーム、独立したトイレット。
しかも重装備ノーマルスーツが家族分ある。止めに護身用のアサルトライフルが二挺、拳銃二丁、弾丸がそれぞれ300発ずつ。
しかも非常用バッテリーに高高度からの対地バンカーバスターにも耐えきれる構造で、5重の緊急通信設備がある。第二のジャブローと呼ばれるだけの事はあった。
でもかけろは無いでしょう? 一応主は俺なんですが。無視ですか、そうですか、分かりましたよ!!

「で、なんです?」

警護の兵士たちが敬礼して立ち去る。
この執務室に直結している非常口と非常用階段にも兵士が配備されており、しかも現在の地下3階から地上まで全ての踊り場にそれぞれ3名の武装SPがいる。
全員が対人鎮圧、対人護衛の訓練を受けたエキスパートである。その点は安心しろと言われている。
まあ、これは軟禁されている分、命の危険性は非常に少ないのだが。

「ゴップ退役大将、いや、次期内閣官房長官は知っているな?」

何を今さら。
一年戦争勃発前の、ムンゾ自治共和国へ向かう時以来の付き合いですよ。
そう言ったらジャミトフ先輩が笑った。
先輩が所望した熱い緑茶と煎餅にまんじゅうを出す。

「ならばウィリアム、彼が独自の情報網を持っている事は?」

真剣な目つき。どうやらこれからが本題らしいな。

「知りませんが・・・・想像はつきます。でなければ一年戦争はあのような形で終わる事は無かった。
恐らく・・・・あの軍閥のトップであったレビル将軍が望んだようなジオン軍撲滅とサイド3の強行占領で終わったでしょう
戦後の事など考えもせずに、でしょうけど。私は後悔していませんよ。レビル将軍の戦後プランを打ち砕いた事も、彼が結果的にソーラ・レイで宇宙に散った事も。
ええ、全く。自業自得でしょう。ルウム戦役での敗北に南極条約締結時の演説、そしてアウステルリッツ作戦での見積もりの甘さ。
一体全体彼は何千万人の軍人の家族を不幸にしたのですか? それも徴兵された者ばかりを」

そう、彼は、レビル将軍はもう過去の人物だ。彼の派閥も『水天の涙紛争』のソロモン要塞核攻撃とこれによるティアンム宇宙艦隊司令長官の失脚、軍法会議で旧レビル派閥は完全に消滅した。
思えば彼との確執は私的なものだったかもしれない。もしかしたら、あのレビル将軍はあり得たかもしれない自分の姿だったのかもしれない。
仮にルウム退却戦で妻を失っていたら、戦争を継続する様に主張したのは自分では無かったのか?
想像した、一つのあり得た可能性に一瞬だが身震いする。

(そうだな、リム生き残った事が俺にとっての分岐点だったのだろう。そしてレビル将軍の全人生を否定されたルウム戦役の敗戦と捕虜と言う屈辱の体験。
これこそ、戦時中の名将にして戦後の戦犯と呼ばれているレビルと俺たちケンブリッジ家の違いなのかな? 
尤も・・・・最早どうでも良い過去の事だ。
ああ、最後のレビル派閥の一角だったジョン・コーウェン中将がティターンズ派閥のワイアット大将に頭を下げ、地球連邦軍南米・アフリカ・インド三方面軍軍司令官に就任する事で恭順の意を示した、か。
で、後任が無派閥にも拘らず昇進した、ハワイに本拠地を置く太平洋方面軍司令官はスタンリー・ホーキンス中将。
オセアニア州、フィジー共和国出身の彼は地球連邦海軍艦隊司令長官とも仲が良く、事実上太平洋経済圏は太平洋陣営で固めて安泰、か)

緑茶を啜るジャミトフ先輩。
ことりと音をする。妻の故郷の九谷焼の湯飲み茶わんを置いた。

「ゴップ大将がな、幾つかの証拠を持ってきた」

「? ・・・・・証拠、ですか? なんの?」

お前でもわからない事があるのか、そんな顔をする。

(心外ですね、先輩。人生なんてわからない事ばかりですよ。俺の人生は上手くいった試が一度しかない。
リムに結婚を申し込んだときとそれを受け入れられた時、この一点だけですよ。)

そもそも窓際官僚で良かった筈が今や次期首相に最も近い人物扱いだ。
テロリストの標的第一号でもある。これで人生設計が事前の計画通りだったら当時の自分を撃ち殺しに行きます。

「AE社会長の背信行為だ。これがその書類の原本。コピーは無い。気を付けろ、お茶をかけるな」

そう言ってA4ノート一冊に纏められたモノを見る。
裏帳簿によるエゥーゴへの資金の流れ、出会った人物、赤い彗星との接触、アクシズらしき存在への物資援助の船団。
海賊・山賊行為の被害者に見せかけた各地のジオン反乱軍への援助、準加盟国の反地球連邦政府軍閥やカラバ、エゥーゴ派への支援に、エゥーゴ派構成員の隠れ家の提供。
地球連邦軍反政府不平派閥の焚き付けに旧レビル軍閥の吸収と叛乱行為示唆。
流石に笑えない。一気に真剣な表情になる。

「・・・・・先輩、ゴップ退役大将はこれを一体どうやって手に入れたのですか?」

立派証拠だ。これだけあればあのAE社会長と言えども、必ず尻尾を捉えられる。捕える事が出来る。

「それは言えんし、聞けんな。次期官房長官には彼なりの思惑がある。彼も彼なりに地球圏の将来を憂うる人間だったという訳だ。
決して、一部のイエロージャーナリズムが悪しざまに言うジャブローのモグラと呼ばれる様な人間では無く、寧ろ、昼間の提灯だったのだろう。
ウィリアム、単刀直入に聞くがこれだけの証拠があればティターンズの実動部隊・・・・特にロンド・ベルを動かせるか?」

先輩は頼んだ。連邦政府中央警察では無くティターンズを使いたい。
何故だ? まさかAE社会長の実力行使による逃亡を脅威と感じているのか?

「不思議そうな顔をするな、お前の想像通りだよ。メラニー・ヒューカヴァイン会長、私の同期生はエゥーゴを支持した事を後悔している。
だがな、それで簡単に自首するならともかく、あの演説の後でAE社のCEOである地位の人物が自首など出来るか? 
自首する前に反エゥーゴ派の暴徒に殺されると思っているだろう。例え自首しても今までの生活は確実に捨て去る事になる。それが怖いと思っている筈だ。
奴は連邦軍の兵役時代に実弾訓練が怖くて除隊した男だ。
その後のAE社を地球圏トップクラスの企業に育てた創業者としての商才は見事なものだが小心者には変わらん。
危険を冒してまでダカールで演説を行い、暴動下のサイド3で単身ギレン・ザビに面会に行き、戦時中の終戦交渉であるグラナダ会談を単身で成功に導いた勇敢なお前と違って、な」

なんか嫌な一言をウィリアムは聞いた。聞こえたと思ったが精神力を総動員して無視する。
第三者目線から見て、こういう事をするから要らぬ誤解を招いて地下室に軟禁扱いで勤務すると言う状態に陥っているのだが・・・・当人にその自覚が無い。

「予想では中央警察だけでは追い払われるだろう。AE社とエゥーゴ艦隊の武力を使ってな。だからだ、ウィリアム、貴様の権限でロンド・ベルを動かせ
大艦隊で動けばそれだけ理由がいる。まして奴は鼻が利く。ならば逃がす前に少数精鋭で機動力のあるロンド・ベルを使い、ヒューカヴァインを捕縛しろ」

これは命令だ。
そう言ってジャミトフ先輩は締め括った。

(先輩・・・・俺が先輩の後輩だからって無茶苦茶言わないで下さいよ。また書類仕事が増えるのか・・・・
・・・・・あんな事を・・・・義務から逃れないとかカッコつけた言葉をシデン氏に言うのではなかった。
誰か代わって欲しい・・・・・切実に・・・・尤も・・・・そんな事は太陽が西から昇り東に沈むくらい無理だろうけど。)

それでも頷くウィリアム。直ぐに暗号通信をグリプスのシナプス中将に送る。
やはり生真面目さは変わらない。彼は彼だ。
それがウィリアム・ケンブリッジと言う男なのだ。

『発・地球連邦政府ティターンズ長官ウィリアム・ケンブリッジ
宛・ロンド・ベル艦隊司令官エイパー・シナプス中将。
宇宙世紀008801.06をもってグリプス01を出港。地球軌道にてシャトル203と合流。詳細はシャトル203責任者より伝えられたし』

即座に返信があった。

『命令受諾。各艦並び全MS隊を準戦闘態勢の状態にて合流する、以上』

流石だ。早い。しかもこちらの意図を正確に読み取った。シナプス提督らしい。
それはジャミトフ先輩も同感だったようでしきりに感心している。

「流石だな、それでだ、ウィリアム」

まだ何か?

「新しい任務だ、そのシャトルに家族と一緒に乗ってロンド・ベルと合流、サイド3を表敬訪問しろ。
ああ、何故と言う顔をするな。これはな、極東州やアジア州、統一ヨーロッパ州各地の王族、止めに最も古い血を持つエンペラーの要望でもあり、地球連邦政府も無視は出来んのだ。
それに・・・・お前の親友、ギレン・ザビ公王が会いたがっているそうだ。ゴップ退役大将の情報網では、な。
心配するな、仕事と書類は順次艦隊とエコーズに護送させて送る。仕事が止まる事は無い。少しは安心したか?」

・・・・・・取り敢えず先輩を部屋から追い出す事にした。

(はぁ、またサイド3・・・・ズム・シティか。妻になんて言おう)

この時の私はまだまだ甘かった。
サイド3訪問がただの訪問で終わる筈がないと言う事を。




宇宙世紀0089.01.10

月面都市フォン・ブラウンから脱出する艦隊に急追するロンド・ベル。
艦隊と言っても旧式サラミス2隻に非武装シャトル一隻。MSは一機もいなかった。
即座にギャプラン隊がケリをつける。撃沈されるサラミス二隻。そして拿捕されたシャトルからはメラニー・ヒューカヴァイン会長が捕縛。
そのまま地球連邦中央検察局が身柄を拘束、フォン・ブラウン市に護送する。

「うーん、思ったよりあっけないな」

後方の艦隊、第2艦隊のバーミンガム級戦艦であり旗艦ミカサの艦橋でノーマルスーツ越しに報告を聞く。
当初の予定を覆し、ジオン本国を表敬訪問すると言う名目で艦隊も動くことになった。

「仕方ありません、あの水天の涙最後の一滴でエゥーゴの稼働艦艇はほぼ無くなりました。
それを考えればむしろよくも二隻のサラミスを所有していたか、それを褒めるべきです」

副官扱いの妻、リムが答える。
確かに数少ない捕縛したエゥーゴやアクシズ、ジオン反乱軍らテロリストらの答えから、あのダカール上空攻防戦は彼らの全戦力を投入したと言っても良かった。
それが敗れ去ったのだ。
妻の言う事は正しい。そう思う事にした。
が、リムや自分が思うように現実はそう単純ではなく、エゥーゴ出資者でエゥーゴ幹部No2(つまりAE社のNo2でもある)、ウォン・リーがいない。
止めに押収したAE社の資産は公表されていた当初の7割。残りの3割が消えている。
AE社の不正会計3割だ。とんでもない金額になるのだが、それはまた別の話。

「月面に展開している第6艦隊、第7艦隊と合流、第2艦隊、第6艦隊、第7艦隊の150隻にロンド・ベルか。
戦争にでも行く気か?」

まあ、砲艦外交と言う言葉もある。
実際、準加盟国の増大によって=非加盟国の消滅で、地球連邦政府内部で急速に権限を縮小されている外務省は必死である。それも見ていて憐れになる位、涙を誘う。
この圧力を持ってジオンのマ・クベ首相らから何かしらの譲歩を引き摺り出せないか、そして自分達の復権を果たせないかと思案している。
尤も、今回のティターンズの仕事(AE社の捜査、会長捕縛)は既に終了したので、後は通常業務の筈だ。
が、その甘い見通しは即座に粉砕される。

「ウィリアム、ジャミトフ・ハイマン閣下からの追加命令よ、見る?
見たくないって顔してるわね・・・・そんな拗ねた顔しても無駄よ、見なさい」

妻がメモリーディスクを渡す。既にミノフスキー粒子濃度は戦闘濃度以下。受信は可能。

「・・・・・・」

そして読み終えた後、無言で握りつぶした。




宇宙世紀0089.01.19

月面の裏側最大の都市グラナダ市の最古のキリスト・カトリック教会にて。

「おめでとうございます!」

「お幸せに!!」

「おめでとう!!」

「末永くお幸せに」

「きれいですよ、セイラさん」

「アムロさん、素敵です!」

「流石白い悪魔!」

「セイラさん綺麗!!」

「私のアムロが~」

「それ褒め言葉?」

などなど。
ロンド・ベル隊は慶事に包まれた。アムロ・レイが凡そ10年の交際を経過してセイラ・マスと結婚するのだ。
その誓いの儀式が終わる。白いベールを取り、口づけするアムロ。
銀色のスーツが光る。純白のウェディング・ドレスに包まれたセイラが澄ました、それでいてとても幸せそうな笑顔で旧第13独立戦隊、現『ロンド・ベル』のメンバーに祝福されてヴァージン・ロードを歩んだ。
父親役はエイパー・シナプスが引き受ける。


「少尉、赤の他人である私なんかで良いのかね? 他にも候補はいるのではないか?」

「いいえ、提督。シナプス提督だからこそお願いします。私の正体を知っていても対応をこれまで通りとしてくれたシナプス提督だからです。
アムロも、レイ中佐もそれを拒絶しないと思います」


そう言って。
カムナらが、レイヤーらが、ヤザンらが、マットらが、一斉にクラッカーを鳴らす。
シャンパンを第四中隊(コウ・ウラキ、チャック・キースの正式任官で増強)の面子が、カミーユとジン・ケンブリッジ、マナ・ケンブリッジが、アムロとセイラにシャンパンをぶちまける。
濡れたセイラは胸元辺りが色気を出してそれが男性陣を喜ばし、アニタやノエル、エレンやマオなど女性陣からは冷たい視線を向けられる結果となる。
だが皆が笑っている。とても楽しそうに。とても愉快そうに。それが嬉しい。

「何はともあれ慶事だ。戦争はあったが・・・・これで少しは死んだ人も報われるな」

そう言ったのは白いスーツを着たカイ・シデン。
彼の脳裏には戦死したスレッガー中尉やハヤト・コバヤシ、ミハルがいる。彼らの、彼女の犠牲を無駄にしない事。
それがカイ・シデンの今の生きる道だった。
そんな彼は件の人物を見る。シナプス提督と話している一人の政府高官を。あの日から地球連邦最大級の英雄にして最大級の政治家と呼ばれるようになった人物へ。

「ここに居ましたか、ケンブリッジ長官」

呼ばれた男は持っていた杯の日本酒を飲む。池月とかいう極東州の酒でほんのり甘い。
それを差し出されて自分も一杯頂く。ついでに牛肉の叩きも失敬する。

「それで・・・・どうしました、シデンさん? 今日はインタビューは無しにしてほしいですね。何せ久しぶりの休暇ですから」

笑い。
それが彼の諧謔心を引き起こした。

「いえね、あの一年戦争でアムロとセイラさんと共にホワイトベース隊にいて戦い抜いた者としてこの光景を見ると複雑なんですよ。
この光景を見れずに、見る事無く戦場に散って死んだ者、見たくないと言って火星圏に行ってしまった少女を俺は見知っていますのでね」

幸せな戦後など見たくない少女か、そう言う人物も居るのだろうな。
だが、カイ・シデンが思う程、ウィリアム・ケンブリッジもホワイトベース隊に入れ込んでいた訳ではない。
寧ろ、一番艦ペガサスのメンバーやアルビオン時代の方が記憶に残っている。当然だ。こちらには自分の妻っリム・ケンブリッジが艦長として乗っていたのだから。

「シデンさんはこれがあまり好ましくないと言いたいのですか?」

問いかけ。

「とんでもない。あそこでシャンパンシャワーとフラワーシャワーを浴びている二人は祝福されて然るべきです。
ですがね、俺は連邦の正義を無条件で信じない。せっかくの好機だったんで、それだけはあんたに伝えたくてこちらのテーブルにまで来ました」

と、ジン・ケンブリッジが低い声で、怒気を発しながら、

「父さんを悪く言うな、父さんの事を何も知らないくせに!」

と言う。
確かに自分はケンブリッジ第二代ティターンズ長官の素顔を知らない。これ以上は藪蛇になるだろう。

「そうですな、俺も酒が弱くなったようです。どうやら相当酔っている様だ・・・・忘れてくれると・・・・ありがたいです。それでは、失礼します」

そう言ってバカ騒ぎをしているアムロ達の下に戻ろうとした自分に後ろから声がかかる。

「シデンさん、俺は自分がどれだけ卑怯者かを一年戦争で思い知った。だから自分の正義に盲信する事だけは無い様にしたい。
ティターンズと言うこの地球連邦政府最大組織の権力者としても、だ。それでは不十分か?」

カイ・シデンは振り返らずに、しかし立ち止まって答える。

「不十分ですね。あの戦争で死んだ人間は死んだ数だけ思い残した事があった筈だ。でもね、矛盾しているけど、だからこそ、だ。
あの一年戦争で家族を亡くしかけた、水天の涙紛争では実際に銃撃され生死の境をさまよった。そして戦争の最前線にも居た戦争の現実を知るアンタには期待している。
正直言って、あんたがただの俗人だったら良かったのに・・・・そうじゃない。憎みたいけど憎み切れない、そんな厄介な相手がアンタ、ウィリアム・ケンブリッジ長官だ。
だから最期まで。アンタが現役を引退する最後まで俺はアンタを見続ける。そして・・・・いえ、それ以上はセイラさんにでも聞いて下さい。
これ以上はお互いに不快なだけでしょうから。それでは、馬鹿騒ぎに戻ります」

そういって手を挙げて去る白いスーツ姿の男。最後の言葉が残る。

(・・・・・ただの俗人だったらよかったのに、か。確かにな、その方が長官にとっては幸いだったのかも知れない)

この言葉に、カイ・シデンが残した言葉に一言も発しなかったエイパー・シナプス中将は思った。

(カイ・シデン、君はそう手厳しく言うが、この方は、あの臆病な勇気ある官僚であったケンブリッジ長官はそれを何度願っただろうね? 
だが時代がそれを許さなかった。時代が彼を英雄にするようにしたと言い換えても良い。
彼は平和な時代なら無名の一官僚で生涯を終えただろう。奥方も伝説の艦隊の、伝説の艦長などと呼ばれる事は無かった。或いはそちらの方が良かったのかもしれん。
だが現実は違った。そして否応なく現実に向かい合うしかないのだ。それが人生と言うモノだ。
そしてこれは、人生とはままならぬものと言う教訓は君にも当てはまる。ティターンズにマークされるジャーマリスト、カイ・シデン。君にも、な。
目標とした相手には蛇の様に相手に巻き付き窒息死させるかの如く絞め殺す事で有名な存在。
アムロ中佐やカイ君らの平穏な生活・・・・それを許さなかったのは・・・・・私達大人の世代の責任だ。
だから私は何も言えんよ。
君らには大人を、私たちの世代を罵倒する権利があるのだから。あの戦争を引き起こした原因を生み出したのは紛れも無く、我々の世代だったのだから)

シナプスの考えを余所に、ジンを宥める。
もう経済・歴史学科に進学する事が決まっているが自分の父親の事となると途端に視野が狭まるのだから困ったものだ。
そう思いながらウィリアムは息子の怒りを必死に和らげていた。無論、心の中ではカイ・シデンが言った事を反復しながら。
自分達の辿ってきた軌跡を思い起こしながら。





0089.01.25

月面都市グラナダでアムロ・レイとセイラ・マスの結婚式を見届けたロンド・ベル旗艦『ネェル・アーガマ』、サイド3ジオン公国首都『ズム・シティ』に入港。
無論、ギレン・ザビの非公式の要請でアムロ・レイとセイラ・マスは入国は厳禁。サイド5のテキサスコロニーを舞台にしたハネムーンを理由に彼らは別れた。
ティターンズ艦隊と地球連邦宇宙軍偵察艦隊二個艦隊の護衛の下に。
そして、件の主人公は。

「よく来たな!! 連邦の英雄!!! 歓迎するぞ!!!」

奇襲の大声にダグザ中佐とロナ君が思わず盾になった。
それはドッキングベイに一人の軍服を着た男が立っていたからだ。男の名前はドズル・ザビ上級大将。
リーアの和約で強制退役されたがエゥーゴの活性化とアクシズ、ジオン本国軍の一部が反乱を起こしたため、連邦との協議の結果彼を現役に復帰させた。
実際、連邦政府は既にジオン公国宇宙軍を脅威と見なしていなかった。
現在の地球連邦軍は以下の艦隊に分別される。
第1艦隊(ゼタンの門) 50隻
第2艦隊(ゼタンの門) 50隻
第3艦隊(欠番・軍事費抑制の為、再建中止)
第4艦隊(欠番・軍事費抑制の為、再建中止)
第5艦隊(欠番・軍事費抑制の為、再建中止)
第6艦隊(グラナダ市) 50隻
第7艦隊(グラナダ市) 50隻
第8艦隊(グラナダ市) 50隻
第9艦隊(グラナダ市) 50隻
第10艦隊(ソロモン)  50隻
第11艦隊(サイド6)  50隻
第12艦隊(ゼタンの門) 50隻
第13艦隊(グリプス・サイド7) 60隻
合計510隻、MS隊は3000機以上。

これら10個正規艦隊の艦隊艦載機は全てジムⅡ、ハイザック、ネモのいずれか。
それら全てが、ジオン公国最精鋭部隊であるジオン親衛隊の新型機ガルバルディβと互角であり、MS隊の数は数えるのも馬鹿馬鹿しい程に圧倒している。
各根拠地(地球連邦軍鎮守府守備隊と言う。代表的なモノに極東州の佐世保、ソウル、タイペイなどがある)駐留部隊もジム改かジム・スナイパーⅡ、ジム・クゥエル部隊。
ただし、第13艦隊は編成途上の為、実質の戦力外。故に合計450隻と30のパトロール艦隊120隻(一個偵察艦隊はサラミス改4隻で編成)がある。
第6艦隊から第9艦隊の200隻(月面方面軍)は対ジオン公国用の部隊である事は明白であり、現在ジムⅡからその改修機体であるジムⅢへと機種変更が行われている。

対してジオン公国は絶対国防圏であったソロモン要塞、ア・バオア・クー要塞(割譲済み)、月面都市をリーアの和約と水天の涙紛争による外交交渉の失敗で失っている。
これは仮に第二次ジオン独立戦争が発生した場合は、以前とは異なり絶対防衛戦を持たない為、ジオン本国が即座に戦火に晒される事を意味していた。
そうであるが故に未だ現役に縛り付けられているダルシア・バハロは必死の外交交渉を地球連邦政府相手に続けている。
この点は軍人出身の官僚型首相のマ・クベも同様だった。
さて、ではその地球連邦と相対する事になったジオン公国軍の軍備を見て見る。

第一艦隊 40隻
第二艦隊 30隻
第三艦隊 30隻
第四艦隊 30隻
第五艦隊 30隻
ジオン親衛隊 20隻

合計180隻。MS隊は旧式のザクⅠや欠陥試作機扱いのヅダを含めても800機前後。
そして切り札としてサイド2から奪ったコロニーを改造したコロニーレーザー砲、ソーラ・レイは地球連邦軍との共同管理下にある。
つまり、その気になれば今度こそ、ジオン本国は連邦軍によって制圧されると言う事だ。
この様な情勢下の中で反地球連邦運動が発生しなかったのは単に地球連邦軍とティターンズ、ロンド・ベルがその圧倒的な軍事力をエゥーゴ、アクシズ、ジオン反乱軍の三者に見せつけた結果に過ぎない。
そして表はともかく裏では武装警察以上の権限を持ちつつあるティターンズの影響力を、どうしても無視できないでいるマ・クベ首相とサスロ・ザビ総帥のメディア操作の賜物だった。

「はは、辛気臭い顔をしているな、どうした、海産物にでもあたったか?」

ドズル・ザビの能天気な声にうんざりする。
そうだ、ある意味で自分は当たったのだ。宝くじに。しかも最悪の。どちらかと言うとロシアンルーレットか。

「いえ、書類戦争に敗北しただけです。他意はありません」

そうとしか言えない。
実際に行われたあの書類の波をよくもまあ捌き切ったものだ。メラニー・ヒューカヴァイン会長逮捕とそれの検察当局への引き渡し。止めに証拠の提出。
現在、フォン・ブラウン市内の月面都市群高等裁判所にて裁判が開始されている。
そうだからこそ、三個艦隊の展開と、ティターンズ長官のジオン本国来訪は比較的話題に上って無い。
地球圏全土の、各地のジャーナリズムが報道しているのはAE社の背信行為とCEOであるメラニー・ヒューカヴァインの今後の進退とAE社への制裁の大きさだろう。
尤も、それはあくまで比較的である。
恐らく地球連邦国民やジオン公国国民の世論調査をすれば7割前後がこの事実(ティターンズ長官のジオン本国訪問と三個艦隊を使ったジオン公国への砲艦外交)を知り、関心があると答えるだろう。

「そうか・・・・確かに書類は強敵だ。例のガンダムよりも、な。とりあえず車に乗ってくれ。話したい事がある」

そう言って警護のSP、いや、ジオン親衛隊の兵士ら、ケンブリッジの家族、そしてダグザ中佐とロナ君を乗せる。
ネェル・アーガマは軍事機密の部分以外は一般公開するらしく、ジオン公国国民やジオンのスパイらが一斉に群がっている。
どうやらノエルお嬢さんらはその対応に追われるようだ。シナプス提督も大変だ。
と、目の前に到着した黒い色のリムジンに乗る。
何と車種は統一ヨーロッパ州のイギリス製王室御用達電気自動車だ。高級車である。絶対に自分では買えない。
一台当たり単価で2000万から3000万テラはする。
ティターンズ長官の月給が85万テラ(衣食住は無料提供)で、有名私立大学四年分(つまり入学から卒業まで。入学金やそのほかの事務費は除く)の学費が480万テラだと考えるととんでもない車だ。

(流石、地球連邦王室・皇室評議会の一員。金の使い方が凄いな)

と、窓が閉まる。車内が密閉された。狙撃を警戒してあるのか、窓ガラスは運転手のフロントガラス以外全て防弾使用と思われる特注のマジックミラーだ。
しかも運転席・助手席と来賓客用の席には同じマジックミラーの仕切りがあり、恐らくこれも防弾使用だろう。

「要人ですね、まるで」

要人。いつの間に自分はここまで来てしまったのだろうか?

「いや、まるでではない。ケンブリッジ殿、貴殿は要人だよ、言葉通りの、な」

そう言いつつも、ドズル・ザビが備え付けの黒いクーラーボックスから冷えたオレンジジュースを出してリムとジンに渡す。
あの暗殺事件の件があるのか、若干引いていた二人だがドズルの好意に甘えて大人しくジュースの缶を貰う。そして開ける
一方で、自分達には一年戦争の戦火の影響で値段が高騰しているドイツ産のビールを渡す。自分が渡された栓抜きを使い、瓶を栓抜きで開けてリムと自分のグラスにドイツ産黒ビールを注ぐ。泡が立つ。美味そうだ。
節酒しているから余計にそう見える。これはいけない。シナプス提督を見習わないと。

「とりあえず、乾杯しないか? 兄貴のいるジオン公国公王府到着まで30分はある。ビール一杯くらい飲みきる時間はあるさ」

頷く妻。仕方ない、ビールを初め酒類は糖尿病の危険性があるから控えていたが・・・・これも外交儀礼の一種だ。
飲もう。無言で頷くと、ビールを掲げる。ドズルも右手に持ったビールグラスを、妻のリムも同じ仕草で、更にはリムとジンも。

「「「「「乾杯」」」」」

カン。
ガラスがぶつかる音がした。
そのまま一気飲みするドズル。流石軍人。妻のリムも一気に飲み干した。自分は口に含んだだけなのだが。

「・・・・・・ウィリアム・ケンブリッジ長官」

飲みきったドズルが途端に頭を下げる。
何だ、何なんだ一体?
思わず、首をひねる自分達。だがドズルは静かに言った。

「お前たち・・・・いや、貴方方のお蔭でミネバは助かった。
特にケンブリッジ長官、貴方が我が身を盾にしなければ死んでいたのはミネバだっただろう。
心から礼を、そして謝罪を述べさせてもらいたい。すまなかった。そして・・・・ありがとう」

どう反応していいのか。妻のリムはやれやれという感じで、左手で軽く桃の缶ジュースを開けて飲みだす。
ジンとマナはにやにやと笑っている。本当にあれから数か月が経過した。咽喉元過ぎれば何とやら、だ。

「当然の事・・・・と言えばおこがましいですが、それでもただ無我夢中でした。もう一度やれるか分かりませんが、ドズル上級大将、貴方の謝罪と感謝は受け入れます。
ですから、どうかこの件はこれで終わりにしてください。私もいつまでも暗殺者に撃たれた記憶なんて思い出したくないですから」

その言葉に顔を上げる。

「・・・・・ケ、ケンブリッジ長官・・・・・長官殿は俺たち家族を許してくれますか?」

猛将ドズルの哀願。恐らく誰も見る事は無い稀有なシーンだ。
特にザビ家でも絶対に見せない姿だろう。
まして部下たちが見る事など例え戦死間際であってもあり得ない。恐らくこの一点をジャーナリズムが嗅ぎ付けた瞬間、自分の伝記に新たなる1ページが加わる。

『ジオン最大の猛将をひれ伏せさせた地球連邦の政治家』

と。
後世の歴史家たちは俺を一体何と評価するのやら。

「許すも何もお互い人の親。それにテロリストに襲われたのは貴方のせいでは無い。だから・・・・これでおしまいにしましょう」

その言葉にドズル・ザビは男泣きした。
ありがとう、ありがとう。
そう言って。そのドズルを右斜め前に座ったリムが宥める。

『ドズル閣下、どうか落ち着いて下さい。涙を拭いて下さい。閣下はその状況で兄君らとお会いするのですか
それでは奥方やご息女に笑われますよ』と。

かなりの毒舌である。まあ、現場にいて一番取り乱したのだから当然かもしれないが。
それでもここぞとばかりに、ドズル・ザビに言葉で反撃するのはリムも准将にまで昇進した連邦軍の軍人だからか?

(あれ、そう言えば先ほど嫌な一言を目の前の2mを超す上級大将閣下から聞いたぞ。このジオン救国の英雄はさっき一体何と言った?)

思い出す。ドズル・ザビの言葉を。この車がどこに向かっているのかを。
目標はジオン公国公王府。そしてそこの主はギレン・ザビ公王陛下。確か記憶ではそうなっている。嫌な事に。

(た、確か・・・・公王府に向かっていると言ったな? と言う事はあと15分もしないうちに公王府に到着して・・・・しかもあのギレン氏と会うのか?
絶対に何かある!! くそ、これを見越して艦隊をサイド3、ジオン本国領域外に展開しているのか?
しかもいつの間にか後方の外交団は先に行っている。本当の外交は彼らがやる以上・・・・自分はまたもやギレン氏に何か言われ・・・・ああ、胃が痛くなってきた)

一方で、ジオン公国公王府では。

「いよいよか、歓待の準備は怠って無いだろうな?」

妻でもあり、依然として第一秘書にいるのセシリアに聞くギレン公王。
報告は彼を満足させるものだった。養殖されたとはいえ、コロニー32の魚介類をふんだんに使ったコロニーでは滅多にお目にかかれない食事だ。
しかも地元ジオン本国が極東州のウィスキー会社との合同開発で開発した蒸留酒もある。無論、ジオン独立戦争のどさくさに紛れて手に入れた欧州産の各種ビール類もだ。

「閣下のご指摘通り、準備は万端であります。ご采配を」

結婚して8年は経つがそれでも閣下と呼ぶセシリア・アイリーン・ザビ。この点は面白い、の一言だった。

「ふ、ウィリアムか。久しぶりに会うが・・・・奴のダカールにおける演説は見事だったな、そうは思わないか、グレミーよ」

傍らに立っていた息子に声をかける。
しかも護衛兼教育係のシーマ・ガラハウ准将も一緒だ。またマ・クベ首相がアデナウアー・パラヤ外務大臣と交渉しているので代わりにダルシア・バハロ公国議会議長とエギーユ・デラーズジオン公国軍総司令官もいた。

「は、的確な論法に事実に基づいた弾劾裁判によるエゥーゴ派閥の支持者弾圧。これは参考にすべきかと」

30点だな。

「?」

父親の顔を見て自分が何かを見落としているのかを確認する。

「あの、何か抜けていましたか?」

その言葉にまだグレミーが17歳の子供である事を思い出す。

(なるほど・・・・才覚はあるとはいえグレミーはまだまだ経験不足だ。当然と言えば当然だな。確かに同世代に比べれば遥かに優秀だが、それ以上では無い。
これではジャブローのモグラだったパラヤはともかくジョン・バウアーやヨーゼフ・エッシェッンバッハやジャミトフ・ハイマンの掌で弄ばれる。
まして今日来るのはあの『ウィリアム・ケンブリッジ』だ。ダカールで見事敵対勢力全てを合法的に葬り去った男。
やはりウィリアムを歓待するのは自分でなければならんか)

そう思うギレン。

「加えて奴は己自身を囮にする事で地球圏全体の、親地球連邦派閥のスペースノイドと我がジオン公国、ルナリアン、地球各地の支持を取り付けた。
これは今後の地球連邦統治に置いて大きなアドバンテージになる。
しかもだ、騒乱の責任をキャスバル・レム・ダイクンに押し付けた事で我がジオン公国とザビ家に対して無言の圧力と貸しを作った。
他にはあの演説自体でウィリアム・ケンブリッジは地球連邦を導ける政治家であり、地球連邦は実力と人望と倫理感さえあれば有色人種でも差別せず閣僚にする事を改めて知らしめた。
これは準加盟国やスペースノイド、有色人種主体の国家にとってティターンズ、いや、ウィリアム・ケンブリッジ個人への支持の一因となるだろう。連邦内部の支援、それの輪の拡大にも繋がるかな?
止めに地球連邦内部の団結。テロの標的の集約による他の閣僚、官僚、軍人、財界要人の安全確保。
まあここまで考えていたかは分からぬが、私が思うに最低でもこれだけはあの演説の裏の顔がある。
もちろん、地球連邦全体の反エゥーゴ、反アクシズを目的とした団結、国民の持つ国内問題への視線を逸らす事も重要なファクターだ」

と、儀仗兵の一人がラッパを成すのが聞こえた。
同時に軍楽隊が一斉にジオン国歌『ジーク・ジオン』と地球連邦統一国歌『我らの故郷、その名は地球』を鳴らす。

「来たな、グレミー、マリーダと共に行け。シーマ、貴様はガトーと共に護衛だ。何事も無いとは思うが10年以上前のキシリア爆殺事件もある。
警戒を怠るな。ザビ家に反抗する者は居ない、とは言い難い。未だにシャア・アズナブルを現体制反抗、ザビ家圧制への抵抗の象徴とみなす愚か者が少数ではいるが存在するのだ」

そこをシーマ・ガラハウが引き継ぐ。

「過信しすぎは自らの足元をすくわれる、ですか?」

無言で頷くギレン。

「父上・・・・いや、先代公王陛下も言っていたよ、私は過信が過ぎるとな」

ククククとギレン・ザビ独特の笑い声が休憩室に木霊する。
過信が過ぎるぞ。それはジオン独立戦争中の第二次地球降下作戦の際に忠告された言葉。流石は老いたりとはいえ、実の父である。良く長男を見ていた。

(・・・・確かにあの頃の自分は過信がしすぎた。私は自分を過大評価していた節があった。それは認めるしかない。
それを変えたのが今まさに来訪した第二代ティターンズ長官であるウィリアム・ケンブリッジなのだから人生とは面白いものだ)

と、グレミーとマリーダの二人に向かって話す。

「これは貴様らの祖父の言葉だ。将来の大政治家を目指すなら・・・・腹芸を身につけろ。そして逃げ道を作ってやれ。特にグレミー、お前はな。敗者に対して寛容になれるのは勝者の特権でもある」




公王府でのパーティーが終わり、政治的な駆け引きが行われている頃、ある実験が行われようとしていた。
それはサイコミュテスト。尤も、対象となるのはマリーダ・クルス・ザビ、ミネバ・ラオ・ザビ、グレミー・トト・ザビ、マナ・ケンブリッジ、ジン・ケンブリッジの五人。
決して無茶は出来ないし、傷物にしようものなら担当者の首が物理的に飛ぶ。
それを踏まえた上でジオン国営カジノのVIP専用席に5人が座る。
やるのはポーカー。

「チェック、10万」

「チェック、20万」

「サレンダー」

「・・・・チェック、30万」

「・・・・・・サレンダー」

グレミーが、マリーダが、ジンが、ミネバが、マナが駆け引きを行う。腕にはサイコミュの小型化した計測器を取り付けて。
特に著しい反応を見せたのはマナ・ケンブリッジ、次にマリーダ・クルス・ザビ(ここでは偽名のエルピー・プル)だった。
マナは明らかに相手の思考を読み切っている節が多々ある。一方でジンは完全に計算で割り出している。
特に最初のブラックジャックではディーラーを担当したモニク・キャディラック親衛隊少佐は辟易した。
ジン・ケンブリッジはその回転速度は明らかに常人の計算速度を越している。だが一方で相手の思考を読む=サイコミュの計測は一切感じられず、この点から彼はニュータイプ各学会、学派が主張するオールドタイプであると分かった。
そこにミネバ・ラオ・ザビ、マリーダ・クルス・ザビの教育係であるアイナ・サハリン令嬢がノンアルコールカクテルであるシンデレラを。
グレミーには従卒のエルヴィン・キャディラック親衛隊特務少尉が、ジンとマナの兄妹にはジオン公国連邦大使館駐在武官のシロー・アマダ少佐とマイッツァー・ロナがジンジャーエールとトマトジュースを割ったオリジナルカクテルを提供する。
勝負が続く。

「グレミー兄さん、勝負しよう?」

ギレンの長女マリーダが挑発する。赤では無く、青のプレートを三枚、3000万テラを想定して賭けに出る。
一方で、熟考するグレミー。

(罠か?)

が、それを見破ったのか、或いは余程の自信があるのか、マナ・ケンブリッジがこれに乗る。

「いいわね、プル、その勝気な性格好きよ。5000万テラ。モニカさん、良いカードをよろしくね」

そう言ってコインの束と赤いプレート8枚を出す。因みに赤は500万テラ、青は1000万テラと言う設定である。
その際の反応や脳波(部屋中に設置したサイコミュ受信機器。エルメス二機分の予算をこのホテルに投入している)を計測するフラナガン機関とムラサメ研究所の面々。
明らかにフラナガン博士は気分が高揚している。そうだ、これはニュータイプと呼ばれる前兆だ。

(間違いない。この二人は他の三人、ミネバ様とグレミー様とジン殿の考え、手札を読み切っている!!
彼女が例の回収したファンネルを使えるようになれば一体どれだけの戦果をもたらせるのだ!?
ああ、彼女らが連邦政府やギレン公王陛下の血縁でなければ如何なる手段を持ってしても・・・・いや、やめよう。
こんな考えを持っているとギレン陛下に知られたら研究費用の削減どころか反逆罪で死刑もありえ・・・・ま、まさか!?)

視線の奥底に見えたのはマナ・ケンブリッジが自分を睨み付ける姿と面白そうに笑うエルピー・プルという名札を掲げて見せたマリーダ・クルス・ザビ。
思考を読み取った!? そんな事が!? しかもギレン・ザビ公王とウィリアム・ケンブリッジ長官が会話を中断して自分達を見ている。
サラトガ・クーラーを飲んでいた二人の視線が怖い。

「博士、何か良からぬ事を考えていたのかな?」

ギレン公王の言葉に冷や汗が出る。そして必死に弁解しようとして、

「グレミーお兄様、コールです」

ミネバ・ラオ・ザビがその場を収めた。ドズルがとんと背中を叩いたのに気が付いたのはリム・ケンブリッジだけだった。
ここにはサスロ・ザビを除くサイド3、ジオン本国にいるザビ家全員が集結しており、しかもティターンズの最高司令官がいるのだ。
お蔭でホテルは貸切、ジオン親衛隊と特別に入国を許可されたエコーズ一個中隊が護衛している。

「・・・・・ジン、貴公はどうする気だ?」

同世代のジン・ケンブリッジにグレミーが問う。

「・・・・オール」

その言葉に全員の視線が、親たちも含めて、注がれる。
残りの1億8千万テラを出してきた。この際にサイコミュは一切合財反応していなかった。つまり、これは純粋な計算。先読みでも心読みでも無い。

「「「「!?」」」」

参加者5人中、ジン・ケンブリッジを除く全員が絶句する。
1億8千万。それに対抗するなら全員が全てのチップを賭ける必要がある。だが、賭ける勇気が無ければ先に3000万と5000万を賭けた女二人は一方的に失う。

「どうやら・・・・乗せられたようだな」

グレミーが覚悟を決めた。

「こちらもだ、オール。親衛隊の少佐、頼んだぞ」

唇をかむ。どうするか促される三人。

「ぐ」

(しくじった!)

「・・・・これがジンお兄様の狙い・・・・」

一方外野席の大人たちは。
既に談笑していた。彼らには結果が分からない。だからこそ面白い。それに数名の写真家らがこれらを写真に取り、後に現像して来週にでも世界に配信する。
ティターンズ=地球連邦とザビ家=ジオン公国の蜜月の象徴として。故に既に目的は果たされていた。

「誰が勝つと思う?」

ギレンがチーズを飲み込んで隣に座っているウィリアムに聞く。

「陛下、勝負は最後まで分かりませんが・・・・私の予想ではミネバ様ですね」

「ほう?」

意外だな、そう表情で伝える。その間にも地中海産のシーフードドリアを口に運び、サクラという日本酒と桃のリキュールを使ったカクテルを含むギレン公王。
隣ではドズルがハラハラした表情で勝負の行方を見やり、妻とゼナ・ザビ、セシリア・I・ザビの三人が政治的な談笑をしている。
抜け目ないのはギレン・ザビも正妻であるセシリアだ。彼女はギレン氏の伴侶らしく地球連邦の情報を盗むべく言葉を巧みに操る。

「ミネバ様は運が良い、それが理由です」

「なるほど」

と、カードが開かれる。
親衛隊とエコーズの面々でさえ、見入る。まして参加者の5人は興味津々だ。母親組もギレン氏もドズル上級大将も、自分も見る。

「マリーダ様、クイーンの3カード」

おお、どこからか歓声が出る。
更にグレミーが開示する手札がざわめきを大きくさせた。

「・・・・グレミー様、キングの3カード」

何!?
キングで3カード!!
では決まりか?
明らかに落胆し、舌打ちをするマリーダ。性格は勝気だ。誰に似たのだとギレンは思う。一方でグレミーは勝利を確信した。
それが顔に出ている。まだまだ青い。

「・・・・マナ様、Jの3カード」

落胆の声。だが確かに強気に出るのは最適だった。
まさかクイーンとキングがザビ家の兄妹にあるとは思ってなかったのだろう。余程の強運があったのか。
そして、グレミーはそれを見越して敢えて心の扉を閉じていた。
そう考えれば辻褄が合う。相手を騙したのだ。父親が教えた腹芸をこの場で応用してやったといえる。

「ジン様・・・!? ハートの4、スペードの5、ハートの6、クラブの7、ダイヤの8!!
ス、ストレートです」

にやり、ジンが笑った。傍らのノンアルコールカクテルを一気飲みした。
勝利宣言のつもりか?
だが、最後の最後に勝利の女神がほほ笑んだのは別人だった。

「では最後です・・・・ミネバ様・・・・ハートのA、ハートの2、ハートの3、ハートの7・・・・・ハ、ハートの10・・・・ハートの10!?
フラッシュ! こ、この勝負、フラッシュを出したミ、ミネバ様の勝利となります!!」

「はは、悪いなギレン兄貴! ミネバ、お前の勝ちだ!!!」

モニカの宣言と共に、ドズルの歓声が部屋中に響いた。
そしてサイコミュの貴重なデータも手に入れる事が出来た。そう言う意味でティターンズもジオンも連邦もこのゲームの意義はあった。
政治的にも軍事的にも。

その頃、半舷上陸が許可されたネェル・アーガマの乗組員。
ジオン本国なので流石にティターンズの制服を着る訳にはいかないが、私服なら良い事、それに第13次地球軌道会戦での戦友という意識もあるから比較的穏やかな雰囲気の下でカミーユはズム・シティを散歩していた。
そして、数名のチンピラに囲まれていた女性を助けた。世代は一緒。どこかで見た顔だとカミーユは思う。

「カミーユ、カミーユ・ビダンっていうの?」

その女は問うてきた。応える。

「そうだよ。女みたいな名前だけど・・・・自分の名前だからね。君は?」

そう言うと一瞬だけ陰りが見えた。

「フォウ、フォウ・ムラサメ。フォウっていう意味・・・・分かる?」

首を振る。
そっか、そうだよね。知らなくていいよ。

「そうだ、今暇なんでしょ? デートしない?」

「で、デート!?」

「あれ、彼女がいる? それとも誰か友達と待ち合わせ?」

「い、いや、彼女はいないし、幼馴染はグリプスだし・・・・って、そうだ、バニング少佐とウラキ中尉、キース中尉と話が・・・・」

いつの間にか腕を組むフォウに挙動不審となるカミーユ。
ラベンダーの香りがする。それが女性としての、異性としての相手としてカミーユにフォルを意識させる。

「あ、そう、ちょっと待っていてね」

そう言って紫と黒色の軍用スマート・フォンを出す。小さくティターンズのエンブレムがある事にカミーユは気が付いた。
ネェル・アーガマでは見なかった。と言う事は連邦政府が派遣したと噂されている外交団か先遣隊の一員だったのだろうか? そう思う。

「ええ、そう、やっぱり嘘ですか。ちょっと・・・・え、代われ? 分かりました。カミーユ!」

そう言って携帯端末を渡す。

「バニング少佐からよ、はい」

「?」

とにかく出る。

『おお、カミーユか。お前も手が早い男だな。上陸早々ムラサメ研究所の女性職員を口説くとは。
ブライト艦長にはこちらから言っておくから精々楽しめ。
心配するな、明日の15時までに帰還すれば文句は言わん。羽を伸ばして来い・・・・あとな、女遊びをしても良いがケジメだけはしっかりしろよ』

何の事やらさっぱりわかりません。そう言い返そうとして・・・・通信は切れた。

「さ、ズム・シティのセントラル駅商店街に行きましょう、カミーユ・ビダン!!」

それを監視する二人の女性。一人は明らかに軟弱だが、もう一人は軍人の様に見える。
ビルの一室で小声で話をする。二人とも双眼鏡を片付けた。

『それで、あの彼女が?』

『そうだ、フォウ・ムラサメ。我がムラサメ研究所の最高作品』

『それを危険にさらしてまでティターンズのカミーユ・ビダン中尉と接触させる理由とはなんだ?』

『・・・・ギニアス・サハリンの台頭で我が研究所内部の勢力図が一変しつつある。オールドタイプの誰もが扱えるインコムの開発がその契機だ。
ジオンの、スペースノイドの分際である癖に、あ奴が来てくれたお蔭でこちらの強化人間使用前提の大型MA・MS開発計画は政府によって凍結された。
予算不足に実績不足、ついでに不透明過ぎる。そう言われたわ。それを覆すには強化人間の量産化が必要と私たちは判断した』

『量産・・・・それとカミーユ・ビダン中尉とフォウ・ムラサメ少尉の接触が何か理由があるの?』

『分からない? ニュータイプであるアムロ・レイ中佐と互角に戦える少年ニュータイプが年頃の女の子誘惑に乗る。
そして不幸な事故で子供が出来る。強化人間とニュータイプの子供。実に貴重なサンプルになるでしょ?』

『だから私たちに接触したの? どうせこれは直属の上司しかしらない極秘プロジェクト。
今や事実上の所長であるギニアス・サハリンの誇りを傷つけるから私達アクシズに接触した、そう言う訳ね?』 

『タウ・リン、あの男とウォン・リーの伝手は大したものよ。こうして私がジオン本国でムラサメ研究所の最高傑作を自由にする権限を一時的とはいえ、手に入れられるのだから』

『まあ、上手くいけば計画には参加しましょう。それに・・・・・』

『それに?』

『いえ、何でもない。さあ、ばれる前に帰るとしますか』




地球連邦政府首相官邸。ヘキサゴン地上二階の首相執務室。
北米州大統領のマーセナス、副大統領のジャミトフ、更に内閣官房長官のゴップら閣僚と第一等官僚らが集結した。エゥーゴ派から見れば格好のテロの標的である。
しかし、彼らには既にエゥーゴの活動は視野に入って無い。入っているのは巨大化しすぎているティターンズの権限縮小と対ジオン国防戦略に、準加盟国の中でも一番厄介な中華地域の分断であった。

「さて、アクシズと内通している馬鹿な連中はあぶり出せたのか?」

最後に入室したゴールドマン首相が聞く。
頷くのはゴップだ。

「ええ、彼ら・・・・自称世界の中心の民族の一部過激派が内通している事がその民族の良識派から報告されました。
証拠と証人もあります。その気になれば軍を動かして北京と南京を同時に占領できるでしょう。制宙権を確保しているので衛星軌道からの軌道爆撃も可能です。
間引きには彼らも・・・・賛成するでしょうな。それに彼らは保身が高い。身の安全さえ保障すれば勝手に空中分解するかと」

ふむ。

「ああ、アクシズの行方は分かりません。連中が暗礁宙域に逃げ込んだのだけは間違いないですが。
艦隊の分派は各個撃破の可能性を招きます。それにアクシズ艦隊は先の会戦で捕捉撃滅しました。アクシズの機動戦力は無きに等しいでしょう」

釣られてジャミトフが発言する。

「第13艦隊とロンド・ベルには新型機を配備します。他の部隊は現状維持です。新型機は現在グリプス工廠で開発中のRGM-89ジェガンに切り替えます。
後は・・・・・軍縮の影響ですから、手を付ける気はありません」

ティターンズ艦隊のみの精鋭化。それはティターンズの権力増大につながるのではないか、そう懸念する声もある。
特にサイド2とサイド4はエゥーゴ支持者が依然として3割弱を占める為、ティターンズの権限増大を極端に嫌う。
逆にサイド6とグリプスことサイド7はティターンズ寄りであり、自分達の志願兵も多くが参加しているとあって前向きだ。
また、北米州大統領として事実上の地球連邦政府No2であるローナン・マーセナスはニューヤーク市攻撃の影響からこのティターンズの権限拡大を黙認したい。
一方でゴップ官房長官はティターンズが軍閥化する傾向にある事を察知。
新たなる火種にならない様、特にキングダム政権下の旧レビル派閥の様な事態を招かない様にする為に。

「ティターンズの権限は縮小されるべきですね。
既に地球緑化政策が内務省と国務省の管轄下に移行した以上、司法権は連邦司法裁判所に、軍事力は一個艦隊まで減少させるべきだ。
ロンド・ベル以外のティターンズ戦力移動は首相の承認を必要とする事を明記した方が良い」

それはウィリアムを信じてないからか?
ジャミトフの無言の威圧を飄々とかわすゴップ。彼は言う。

「ケンブリッジ君を信じて無い訳では無い。問題はその次だ。仮に第三代ティターンズ長官が非理性的な人物であったら?
或いは反スペースノイド、つまりバスク・オム中佐の様な人物ならばどうするかね?
選挙で選ばれないティターンズの長官が軍事力でクーデターを引き起こす。エゥーゴのアースノイド版だ。
それは避けるべきだ。いいや、この際ハッキリ言おう。ティターンズは従来の武装警察の権限のみに集約するべきだ。
他の権限、特に対ジオン権限や地球緑化政策の為の資金運営権などは放棄すべきだ」

その言葉にゴールドマンは頷いた。
彼はオセアニア州出身であるため、マーセナスやジャミトフ・ハイマン前ティターンズ長官の様に北米州の世論をそれほど気にする必要はない。
ならばここは政財界に強力な根を張るゴップ退役大将、現内閣官房長官の意見を聞き入れるべきだ。

「そうだな、ジャミトフ副大統領は何か異論、反論はあるか?」

冷静になって考える。

(既に地球復興計画は順調で、火星の地球化計画まで青写真を引ける状況まで来た。地球に隕石が落着した訳でもないし、コロニーが落ちた土地も無い。
ならば後輩の身の安全確保の為にも少しは仕事を減らしても良いだろう。
それにオセアニア州出身のゴールドマン首相だ。彼が自身の政治基盤であり政治母体のオーストラリア緑化計画を中断するとは思えない。
仮に中断すればオセアニア州は大不況に陥る。そして彼も地球尊重主義者だ。ならばティターンズの権限縮小を認めても良いか)

そう咄嗟に判断する。
既にティターンズは一年戦争の戦災復興組織としての役目を終えた。これからは地球連邦の中のエリート組織にして非常事態対応部隊として存続すれば良い。
それに第13艦隊は最初からティターンズ候補生の乗る連邦宇宙軍の正規艦隊扱いだ。何も変わらん。

「いえ、それでしたら早い方が良いかと。ギレン・ザビらに連邦の武威を見せつつ、ティターンズ権限縮小に走る。
それが重要かと存じます。ただし、現在のティターンズが強大な軍事力と影響力を持っている以上、事は慎重に運ぶべきです。
決して、一朝一夜で権限剥奪などを行ってはなりません・・・・そうですな、宇宙世紀100年、終戦20周年を目途に組織縮小を行いましょう。
それが先のティターンズ長官としての意見です。下手な連邦政府によるティターンズへの威圧はグリプスやサイド6、地球各地で騒乱の火種を生むでしょう」

この言葉には重みがある。
先代のティターンズ長官として伊達に組織を率いてはいなかった。

「ではティターンズは10年後の宇宙世紀0099の12月31日を目途に権限縮小を行っていく旨を、ジオン本国にいるケンブリッジ長官に発表させる。
何か異論は・・・・・無い様だな、それでは解散とする」




宇宙世紀0089.01.28

地球連邦政府政庁、ティターンズ長官ウィリアム・ケンブリッジが声明を発表。

『ティターンズは従来の戦災復興任務を終了し、宇宙世紀100年1月1日を目途に権限縮小と行う。が、ティターンズ軍事部門は連邦軍緊急展開部隊として、治安部門は特殊警察部隊として存続する。
更に対アクシズ、対エゥーゴ対策の政策責任者であり、緊急時のサイド6、サイド7における民政権の掌握を可能とする。
また、連邦議会にはこれまで通り、連邦政府閣僚の一員として議会に出席し、連邦政府内閣府での発言権も確保する』

玉虫色の発言であるが、下手にティターンズ構成員を刺激するとそれだけで反乱が発生しかねない。と考えている。
特に太平洋経済圏構成州以外の議員らは。エゥーゴ派閥が地球連邦宇宙軍と旧レビル派閥の行動の結果であった事を彼らは忘れてはいなかったのだ。




宇宙世紀0089.03.01.
予想以上の長期滞在は終わりを告げようとしていた。一週間後には迎えの第1艦隊と第2艦隊が到着する。
マ・クベ首相らは必死の外交交渉により地球連邦から妥協案を出させた。それはコロニー駐留軍の削減である。具体的には艦隊を半数にする事だ。
それでも第五艦隊は解体する必要がある。あのダカールの演説でエゥーゴ派は勢いを失ったし、ジオン本国の反地球連邦運動も取り敢えずの平穏を見せている。
が、あのサイド1、サイド2、サイド4、サイド5に合計80隻の艦艇を配備し補給する余力など無い。
故に、配備艦艇総数を40隻、それぞれのサイドに10隻として、他は全て連邦軍に押し付けた。そうしなければジオン経済は回らないのだ。
それに厄介な事にグリプス宙域が強化・開発されるにつれ、ジオン公国の相対的な地位が落ちている。
無論、現在はコロニー再開発特需で爆発的な好景気であるが、それがひと段落すれば自らの手で育て上げた各工業コロニーサイドが敵になりうる。
マ・クベは愛刀として送られた三日月刀を見ながら思った。

(悪辣だな、ウィリアム・ケンブリッジ。我々が拒否できないタイミングで一方的に軍事力拡大を行わせて経済的な疲弊を狙う。
しかも他の経済政策は潜在的な宇宙の敵国を自らの手で生み出させる方法を取らす。特にサイド7の開発は厄介だ。
あれが軌道に乗ればやがて単独でジオン本国やジャブロー地域と対等に戦えるようになるだろう。そしてサイド7の統治権はティターンズが確保する。
文字通り、獅子身中の虫。厄介なのはこの虫が地球連邦政府にとって無害である点だろうな。なにせティターンズはあくまで地球連邦政府の官庁の一つ。
首相直轄の精鋭部隊だ。しかも良識派しか入れないという不文律がある。これは明文化されてない故に更に厄介な鎖となってティターンズを縛る)

所謂、高貴なる義務であった。

「ところでギレン陛下は視察に向かわれるのだな?」

地球視察。二度目の視察と育った二人の孫を父親デギン・ソド・ザビに見せる視察。更には天皇を中心とした皇室・王室の最高評議会に出席する。
その為、ジオン親衛隊艦隊と地球連邦軍第1艦隊、第2艦隊の二個艦隊が護衛する。無論、ケンブリッジはロンド・ベル隊が守る。
秘書となったジェーン・コンティ補佐官は答える。
彼女はギレン派に紛れこんでいたダイクン派だったが、ア・バオア・クー戦直前でのアンリ・シュレッサー准将、マハラジャ・カーン中将の裏切り行為に愛想が尽きた。
それからは地球通のマ・クベの首席補佐官として活躍している。もう8年になる。

「はい。スケジュール通りに行けば総旗艦グワンバンに座上した公王陛下が出港されるのは来週の8日水曜日12時丁度。艦隊との合流はそれから15分後です」

結構。

「それと、面白い情報が」

この女は最後に突拍子もない事を伝えるから貴重な情報源となる。
故に手元に置いている。あの中近東で反逆者である赤い彗星への接触を大目に見たのもこの機転の良さゆえに。

「ほう、なんだ?」

それは私事だったが思わずマ・クベが唖然とした事だった。

「グレミー様が告白してふられました。ええ、それは盛大に」

ジオン公国次期公王候補の一人グレミー・トト・ザビを振った女がいる。それは流石のマ・クベも分からなかった。

「誰だ、その無謀な馬鹿は?」

「・・・・・・マナ・ケンブリッジです」

事の次第は簡単だった。あの後もカジノでポーカーは続き、ビリヤードやテニス、カードゲームなどで友好を深めあったザビ家とケンブリッジ家。
地球連邦の名家と王族の交流は連日連夜、地球圏全土に報道されて話題を呼ぶ。その結果、何でも出来ると過信したグレミーはマナを呼び付けた。

『私と付き合え』

その上から目線にマナ・ケンブリッジはこう答えたと言う。
兄のジン・ケンブリッジ曰く、

『え? いやよ。私、ナルシストでファザコンって男は友達以上にはしたくないから』

と。
それを聞いてドズルは笑い、相談を受けたサスロは頭を抱え、ギレンはこうグレミーを諭した。

『欲しいならば力尽くで奪ってみるのだな、それにお前はまだあの少女を捕まえるだけの魅力が無かったと言う事だ』

母親のセシリアと伯母のゼナは笑うだけで相手にせず、相手が他国民と言う事から不敬罪も適用できない(仮に適用しようとしてもギレンが止めるのは間違いないが)。
そして妹のエルピー・プルで学校に通っていたマリーダはその話をマナ本人から聞いて大爆笑。
そのマリーダからマリーダの学友らに噂は広まり、地球の学校に在籍しているミネバの友人、バナージや祖父デギン、叔父ガルマ夫妻にまで情報が広がった。

尤も、これが開戦原因にならないだけ地球圏は平和と言えた。




宇宙世紀0089.03.05

「私はここに現所長を告発する」

ムラサメ研究所のジオン派遣団団長ギニアス・サハリン少将はこの日、ムラサメ博士を告発した。
彼女らの開発チームが無断で新型の大型可変MSとそれを操縦するパイロット、いや、人工ニュータイプとでも言うべき強化人間開発を行っていた。
そしてそれはギニアス・サハリンの推し進める新型MA『クイン・マンサ』開発と予算を奪い合う結果となる。
そして政敵を陥れる事に躊躇する性格では無いギニアスは実力行使に出た。
ゼロ・ムラサメを籠絡して、彼をマスコミに売る。そして情報を買いれたカイ・シデンは即座に地球圏全土に流した。

『ティターンズ、非人道的な組織を擁護するか?』

『ティターンズも黙認!? ムラサメ研究所の強化薬と手術に洗脳による強化人間量産化計画。まさに悪魔の所業!!』

『ジオン公国のフラナガン機関にも捜査のメスが入るか? 連邦中央警察が動く』

という見出しをアングラ出版に乗せた。
娯楽に飢えていた一般市民はこれに踊らされるように、いや、言葉は悪いが踊らされ、結果、彼らは己の手でムラサメ研究所初代所長のリナ・ムラサメを処断する。
ギニアスは何かと自分に反抗的で非協力的なムラサメ所長を吊し上げる事でムラサメ研究所と極東州地球連邦工廠の技術陣を掌握。
これを持って、自身の構想する超大型MA、NZ-000クイン・マンサ開発を進める。
尤も、このMAを扱えるパイロットがいないと言う理由と連邦財務省官僚らの以前よりも厳しい監査のせいで開発が一気に遅れだしたのは自業自得だが。

「とにかく、あんたには助けてもらった恩がある。いつか恩は代えさせてもらう。だが、一回は一回だ。それ以上は助けない」

そう言って執務室を出て行くゼロ・ムラサメ。
そう言えば消えた研究所職員や開発者の中にはフォウ・ムラサメのデータを持ち逃げした者もいたな。
そう思いつつ、アールグレイの紅茶を飲む。地球に来て、というかこの日本列島に来て本当に良かった。彼らは私の同志だ。
クイン・マンサの構想を理解し、ガンダムMk5の設計も担当し、ゼクシリーズの開発にまで協力してくれたのだから。

「ゼロ・ムラサメ、か。そして四番目の強化人間フォウ。
あんな玩具に頼るとは・・・・ふん、醜い。醜いものだ。そう、この研究所の研究成果は私だけのモノだ。
誰にも邪魔はさせない。誰にも、誰にもだ」

その目は見る者が見ればこういうだろう。狂信の輝きを宿していた、と。
しかしながら嘗てサスロ・ザビが言った様に善意から出た失敗よりも悪意から出た成功の方が社会一般としては良い。
故に、誰もこれを疑問視しなかった。
そして査察の為に宇宙からネェル・アーガマが下りてくる。
ムラサメ研究所を査察する検察と警察を警護する為に。尤も半分はブち切れた第二代長官への点数稼ぎを下っ端が望んだからだが。
故にこのロンド・ベル艦隊の予算の無駄使いは後で財務省からティターンズにこっぴどく怒られる原因となる。
そして件の当事者の一人は当局に拘禁、取り調べを受ける事となった。

「フォウ・・・・君は・・・・・彼らに・・・・・利用・・・・されていたのか?」

ビジネスホテルの一室で監視・保護処分を受けたフォウ・ムラサメ。
面会者は肌を重ねたカミーユ・ビダン中尉。

「・・・・・・軽蔑する? 売女だって」

「・・・・・・・」

軽蔑するよね。そう言って悲しそうに制服の第一ボタンを外す。そこにはくっきりと何かの手術跡があった。
他にも医者の卵で研修学生として参加したファ・ユイリンの言葉では血圧が異常に高く、逆に体温が35度前後と低い。これは異常。

「私があのサイド3でカミーユに会ったのだって本当は逃げ出した上からの命令。
そして、カミーユっていう男から赤ん坊の種を貰い、そのまま出産する事。それが記憶を返して・・・・」

そこでカミーユが遮る。

「それが記憶を返してもらえる条件だったのか・・・・なんで!」

不思議そうな顔をするフォウと激昂するカミーユ。

「何で俺に本当の事を言ってくれなかった!? 言ってくれたらブライトさんやアムロさんに頼んでフォウを解放した!!
どうして見ず知らずの男に肌を許しておきながら、最後まで信用してくれなかった!?」

フォウは唖然として、次に怒りを込めて言う。

「見ず知らずの男と寝ろと言われた女の気持ちがあんたにわかる!? だいたいね、フォウ、フォウ、フォウと気安く呼ぶな!!
あんたのカミーユ・ビダンって名前と違って私は自分のこの名前が嫌いなんだ。その理由も知ら居ないくせに・・・・知った風な口をき」

「知っている」

「きく・・・・え?」

そう言ってカミーユはテーブルの椅子に腰かけた。
中級ビジネスホテルの部屋にはカミーユとフォウしかいない。そしてカミーユは語った。

「フォウ・ムラサメ。四番目の被検体にして最高の強化人間。No4.だからフォウ。知っている。
俺も・・・・自分の名前が嫌いだ。俺の親父の事、お袋の事を知っているか?」

忌々しそうにカミーユの顔を見るフォウに対して彼は語った。
父親はガンダムMk2強奪犯と肉体関係を持っていた事が明るみに出て、それによる逮捕を恐れ、家族を捨ててエゥーゴに合流。
母親はその日のうちに、いや、夫の失踪を知ってから30分後にはグリーン・ノアの電子市役所で離婚届を一方的に提出。しかも息子に会うよりも先に弁護士を雇った。
そのままビダン一家が揃う事はなかった。

「それで、私に同情しろって言うの? 記憶が無い私に、戦災孤児の私に同情しろと? はん、御笑い種ね。そう言うのは例の幼馴染にたのんだら!?」

怒りをぶつけるフォウにカミーユは苦笑いして答えた。

「俺もそう思う。何でこんな事言ったのか分からないけど・・・・また会いに来るよ」

時間が来た。面会終了。これ以降は録音と検察の人と一緒になる。

「ふん、勝手にして」

「ああ、勝手にする。何せ・・・・こう言ったら女の人って怒るかも知れないけど、俺にとっては初めての女性だったんだ。
俺は初めて女の人のぬくもりを知った。変な言い方だけど懐かしい感じがしたんだ。他人じゃない、そんな感じがしてね。
言い訳かも知れない、同情かも知れない。身勝手かも知れない。だけど、フォウを一人にだけは出来ない。だからまた会いに来るよ、俺の意思で」

そう言ってカミーユ・ビダン中尉は一度部屋を去る。
思わず枕を投げつける。閉まった扉に。

「何よ、何が一人に出来ない、よ。何なのよ一体。そんな事言ってくれる人なんて誰もいなかった・・・・誰も・・・・あれ?
私・・・・・泣いているの? どうして? 悲しいの? 私が欲しいのは・・・・記憶だけの筈なのに・・・・それとは関係ないのに・・・・どうして?」

強化人間にされた悲劇の女性、フォウ・ムラサメの涙がシーツを濡らす。
一方でティターンズは三名の強化人間の遺体を回収。彼らの分析データを元にサイコ・フレームと呼ばれる新素材の開発に向かう事になる。
場所は極東州日本列島のホッカイドウ・クシロ研究所。そして地球連邦軍本部のあるキャルフォルニア基地。
これらのサイコ・フレーム搭載新型ガンダム開発計画『ユニコーン計画』と『ニュー・計画』の二つが連動する事になるのだが、それはまだ先の話。




宇宙世紀0089.03.22.
サイド3のジオン公国では国葬が行われていた。
妊娠していたゼナ・ザビが流産し、そのショックで18日に息を引き取った。

「お母さんにお別れを言いなさい」

ドズルが優しくミネバを促す。頷くミネバ。
そして、8歳の少女は生まれてこなかった妹と母親を亡くした。そしてある噂がズム・シティの酒場から流れ出す。それはザビ家にとって最悪の噂だった。

『ゼナ・ザビは謀殺された。首謀者はグレミー・トト・ザビ。自分が次期公王になる為に邪魔な男子を生む可能性を排除したのだ』

と。
それ知ったサスロ派は即座に動く。この事件はダイクン派のテロ行為だと公式に発表。
真相は闇の中。20年近く前のキシリア・ザビ暗殺事件の様に真実は闇に葬られ、ギレン公王がこれを追認した為、これに触れる事はジオン政界、ジオン報道界では禁忌となる。
尤も、こういう暗殺劇、突然死、不審死など世界史を紐解けばいくらでもあるので連邦政府や連邦系統のマスコミは数日間の報道をしただけで忘れ去った。
彼らにはもっと大きな餌が放り投げられたのだから。そう、ケンブリッジ長官暗殺未遂事件である。
それはこの約三週間後に起きるのであった。




「ジーク・ジオン!!」

拡声器で拡大されたジオン軍の士気高揚の叫び声と共にSPの乗った極東州製品の電気自動車が爆発した。
ニューヤーク市へと向かうティターンズの車両に攻撃が加わる。反撃するSP達。突撃銃の空薬莢が、銃弾が交差する。
対弾性能を極端に高めたティターンズと護衛の車両はその攻撃してきた一台を撃破した。
が、更に迎えの対向車線からはタンク・ローリーが明らかにワザと横転。自分達の進路をふさぐ。時限爆弾を作動、横転、ハイオクが気化充満し、爆発。
護衛の電気自動車一台が巻き添えを喰らい、残った5台は一斉に停車。護衛が降車して展開する。
と、その時、高速道路の反対側から発砲光が見えた気がした。

「な!?」

ダン。窓ガラスに白い雪化粧が出来た。これが狙撃痕だと言うのは宇宙艦隊勤務が長かった自分でもわかった。
慌てて外に出ようとしたマナをジンが止める。
指揮車両が吹き飛んでいるのが見えた。さっきのタンク・ローリーのハイオクとC-4軍用爆弾の爆発に巻き込まれたか。
そう冷静にリム・ケンブリッジは判断する。どうやらこれは私たちを狙ったテロの様だ。マイクを取る。

「二人とも出ちゃだめ!! 中の方がまだ安全だわ!!
レオン、レイチェル、対人レーダーを作動させろ。各分隊、各個に反撃。全兵装使用自由!!」

エコーズの兵士とSPが地球連邦軍の正式アサルトライフルで応戦する。
バラバラバラと弾幕がはられ、更に空薬莢が道路上に落ちる。向こう側はAK-47やH&Kサブマシンガンの劣化コピーで撃ちかえす。
どうやらジオン反乱軍かアクシズの地球派遣軍、若しくはエゥーゴ派の様だ。
と、救援要請に反応した部隊があった。護衛のウサギさんだ。

「退役准将閣下、こちらはマーフィー小隊。現在現場に急行中。尚周囲にMSなし。現場まであと5分!」

しかし、リムは思う。

(遅い!! 相手は自爆テロも辞さない覚悟できている!! 5分もあればジンとマナのいるこの車両に辿り着かれる!!)

少なくとも連中は自爆覚悟だ。
事実発砲した連中の何人かは散弾爆発で周囲に撒き散らしてSPを殺傷している。
仕方ない。勝てるかどうか、いや、生き残れるかどうか分からないがやるしかない。
形勢は互角だが、いつ何時天秤が敵に傾くか分からないのだから。

「リム、女になりなさい。母親の意地を見せるのよ、いいわね」

独り言を言う。それを聞こえた4人が驚く。

「「!!!」」

まさか、と言う顔をレオンとレイチェルがする。
止めてと言う顔を子供らがする。

(ウィリアムは・・・・・夫はいない。ならば娘と息子を守るのは自分の役目。そして絶対に二人を殺させない。
何があっても・・・・・どんな事をしても。必ず守る。必ず!)

そう考えて、後部座席に備え付けのアサルトライフルを手に取る。一瞬でヘルメットをかぶった。ホルダーを付ける。この間、僅か30秒ほど。
アサルトライフルの初弾を銃身に装填し、防弾チョッキを着る。もう50代後半だが日々の訓練のお蔭でまだ新兵の真似ごと位はできそうだ。
30発入りマガジンを5つ確保し、連邦軍の正規拳銃では無く、帰国時のお土産にイタリアで買った骨董品のベレッタ拳銃を用意。
そして、引き金に指を被せ、安全バー外す準備をする。
銃声が近づいてくる。どうやら、敵は右側面を突破した様だ。

「か、艦長!? 一体何をしているのです!? レイチェル、俺が迎撃に行くから艦長から銃を取り上げろ」

そう言ってティターンズ専用リムジンから指揮を取っていたレオンが妻のレイチェルに代われと言う。だが出来ない。

「何を言っているの? 子供を守る仕事は親の最大の仕事よ。私の邪魔をしないで」

そう言ってアサルトライフルの銃口を向けた。
思わずひく四人。既に運転手は死んでいた。助手席の護衛も、だ。護衛費用をケチった財部省の官僚のツケを命で支払うとは。
可哀想な事をした。このケジメは必ず付けさせる。財務省にも、テロリスト共にも、ね。

「マナ、ジン、絶対に車から出ちゃ駄目よ? あとね、お母さんに何かあっても復讐とか考えないで。それと、絶対に外を見ない事、いいわね。
お父さんとお祖父ちゃん、お婆ちゃんのいう事を良く聞く事、それと・・・・兄妹仲良くね」

そしてタイミングを見計らう。銃声がやまない。だが、数は減っていた。
と、銃声がこちらに聞こえる。ふと対戦車ライフルを構えようとしているジオンの軍服の様な服を着た女兵士が視界に入る。
態々軍服を着るとは正規の軍事作戦のつもりか? ふざけるな。そう叫びたいのを堪え、車から飛び出る態勢に入る。
ドアを僅かに開ける。

「艦長!」

「准将!」

「お母さん!!」

「行かないで!!」

その声を無視する。

「愛してる」

そう言って、リムはドアを開け、飛び出た。

(あそこ!!)

銃の引き金を引く。銃弾が飛び交う戦場で新たなる発砲音が響いた。そして空薬莢が宙を舞う。ジオンの女兵近づく。

「!?」

「死ね!!」

冷徹に女の胸を撃ち抜いた。隣にいた男がソフィと叫んだが、そいつも撃つ。
糸の切れた操り人形の様に倒れた女。赤い小さな湖が出来る。
肩を負傷していたが、それでもソフィと叫んで自分の子供たちの乗っている車に拳銃を撃ち続ける私服の男を続けて撃ち殺す。完全に息の根を止めた。
更にその陰で倒れていたまだ息のあるエコーズ隊員を物陰に引き摺る。

「無事!?」

無言で返す。彼も拳銃を引き抜き、威嚇射撃をする。援護になる。
後は時間を稼ぐだけ。

(もう二人! しつこいわね!! 護衛のMS隊はまだなの!?)

どこに隠してあったのか、対戦車ライフルに取り付こうとする人間に銃撃を加える。
他の者もレオン・フューリー警視の命令で展開。
一斉射撃で敵を駆逐しだした。
と、一台の民間の改造ジープが12.7mm機関砲を乱射しながら突進してくる。護衛の車両の一車が身を挺して庇おうとしたが穴だらけになった。
一瞬だが、血が飛び散ったのが見えた。フロントガラスとバックガラスが赤いバケツのペンキをぶちまけた有様になった。
マナとジンはちゃんと目をつむっているだろうか?

「ごめんなさい」

謝る。
そして直ぐに物陰から飛び出る。撃たれたって、ボロ雑巾の様になっても構うか。
灰色のスーツをほこりにまみれさせながら、立射するリム。

「私の子供らに近づくんじゃない!! この下衆野郎!!!」

唯ひたすら撃ち続ける。弾倉を代えて、弾丸を補充する。更に撃つ。
撃って撃って、撃ちまくる。最後のマガジンに交換する。それも半分ほど撃った。
と、どうやらフロントガラスを打ち破ったらしい。運転手が死んだ。更に跳弾で機関砲を使っていた私服の男も死んだ。

止め!

そう心で叫んでタイヤを撃ち抜く。
パンクし、そのまま横転する改造ジープ。

一人が車から無言で這い出てきたが、こちらも無言で、ライフルを使いこのジオン軍の服装を着た男の頭を撃ち抜く。
ふと、ジオンの軍服を着た男の認識票はレンチェフと書いてあるように見えた。
周囲を警戒する。外れたタイヤが転がり、倒れる。
負傷者の呻き声と怒鳴り声が聞こえた。
と、漸く4機のアッシマーと12機のジム・クゥエルが来た。州警察のヘリからもSWAT部隊が展開しだす。

「・・・・・遅いわよ、まったく」

柄にもなく50代でアメリカン・映画の女主人公を熱演したリム・ケンブリッジ。
それを見た、或は知った知人たちは全員が思った。出来過ぎだろう、それ。とは、その場にいた全員の感想でもある。

(お母さんを怒らすのだけは絶対にしない)

と、心にトラウマを作ったジンと、

(カッコいい!!)

と、またもや勘違いするマナ。そして一番の貧乏くじはこの二人だろう。

「ねぇ、レオン。この事態を長官になんて説明する?」

レイチェルが聞く。レオンは憂鬱そうに言った。

「・・・・・知るか、俺に聞くな」




一方で、ニューヤーク市の慰霊会場のホテルで一人の少年が捕まった。
彼はウェイターの格好をしていた。だが、見破られた。
それは単純だった。

「君、ちょっと来たまえ」

ダグザ中佐が三人のSPをつれてその少年を囲む。
気になったのは彼の手の持ち方だ。運んでいたフランス料理の皿を本来3本指で持つが、彼は規定にしたがって三本で持っていた。
ところが今回は警備の都合上、絶対に五本で持つように内密に伝えてあった。それは一人一人個別面談で内密に伝え承諾を得た筈なのに、この少年はそれを知らないのか、三本のままウィリアム・ケンブリッジに近づこうとしていた。

「えと、なんです?」

怪しい。ダグザ中佐は咄嗟に拳銃のホルスターに手を伸ばす。
いつでも撃てるような姿勢で詰問する。

「それを開けろ」

「ついでに両手をゆっくり上にあげる事だな」

と、銀のトレイを投げつける。それを見たダグザは即座に彼を取り押さえる。
トレイには二発の弾丸が発射可能な木製の拳銃があった。恐らく旧世紀の名作映画をモチーフにしたのだ。
あの映画は面白かったが、今はそれどころでは無い。これは紛れも無い凶器であり、慰霊祭の会場に持ち込むべき物では断じてなかった。

「貴様! これは何だ!! 答えろ!!!」

そう言う男達。
ダグザ中佐が非常事態のコールを鳴らす。
途端に配置についていた北米州のSP達が拳銃を引き抜く。宇宙に行く必要が無いのでオセアニア州の名銃、グロック17だった。
レーザーポイントの発する緑のレーザー光線が会場全体を照らし出し、護衛達が会場の招待客を退避させる。

「・・・・・」

と、騒ぎを聞きつけたのか、一人の金髪の女性が歩いてきた。
傍らには中佐の階級を付けた、恐らく連邦軍でも最も有名な佐官を傍らに。

「まさか・・・カツ? カツ・コバヤシなの?」

「カツ!! お前は一体何をしているんだ!!! あの日以来失踪していたと思ったら今日はここで何をしているんだ!?」

セイラとアムロの言葉に、その少年は笑って言った。

「何、ですか? 決まっています。何を当たり前なこと聞くんですか、この裏切り者!
キャスバル様の仇討ちですよ、当然でしょ? あんたの、アムロ・レイの飼い主を殺しに来たんです! 
だいたいね、アムロさんは何とも思わないんですか!?
オールドタイプのウィリアム・ケンブリッジとかいう中年が地球圏全体を支配しようとしている。
そしてニュータイプによる理想郷を築こうとしたキャスバル様の理想を穢した!
アムロさん、セイラさん、貴方たち程の人が何で気が付かないんですか!?
彼はね、ウィリアム・ケンブリッジはジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプの新世界を弾圧する、旧世紀のヒトラーの再来、独裁者ギレン・ザビと同じ穴のムジナだってなんで分からないんだ!!」

その言葉にアムロが動いた。一切の躊躇ない鳩尾が炸裂する。
胃の中の物を逆流させる。胃液が高級なアラビアン絨毯を汚したが誰も気にしない。そして強制的に立たせるSP達。

「連れて行け。両手を縛り、そこのテーブルクロスを使って猿轡をしろ。いいか、絶対に殺すな。背後関係を洗いざらい吐かせた上で法廷でしっかりと処断する
それが地球連邦とケンブリッジ長官の理念であり正義だからな、貴様の様なテロ行為を行う者とは違うのだ。どうした、連れて行け」

そう言ってダグザ中佐がSPらにカツ・コバヤシを引き渡した。
それでも尚、ティターンズとケンブリッジ長官の罵詈雑言を言い続けるカツ。それを聞いて、その言葉にうんざりするウィリアム。
と、アムロが再び動こうとして、止められた。止めたのはマイッツァー・ロナ。ティターンズ首席補佐官である。彼が二人に一礼して言う。

「アムロ中佐、セイラ女史、少し失礼する」

その言葉と同時に、マイッツァー・ロナは思いっきりカツ・コバヤシの顔面を殴りつける。
両手を拘束されているので、倒れる事も出来ずにいるカツの鼻から鼻血が流れる。そして顎を掴みあげた。

「貴様の様な俗物がいるから地球圏が腐る。貴族の、高貴なる者の義務の何たるかを知らない貴様の様な近視眼が、今の地球連邦を、地球圏を汚すのだ。
それを知れ、この恥知らずのテロリストが。SP、連れて行け。念のために服は剥ぎ取ってな。爆弾を抱えているかもしれない」

そう言って。
カツ・コバヤシ、ウィリアム・ケンブリッジらティターンズ並び地球連邦政府要人暗殺未遂事件の実行犯として逮捕。
一か月にわたる裁判の後に、懲役60年が言い渡され、北米州のネバダ砂漠にある対エゥーゴ支持者収容所にいれられた。

「すみません、ウィリアムさん。後味の悪い事件を起こして」

「私からも謝ります。夫の知り合いが・・・・・ホワイトベースの戦友が失礼をしました」

アムロとセイラが頭を下げる。念のため、慰霊祭はお開きとなり、北米州州警察と地球連邦警察が参加者を護衛、ボディーチェックしながら引き払った。

(嫌な事件だった。そう言えばリムたちは遅いな・・・・一体どこで道草を食っているんだ?)

呑気にお茶を飲むウィリアムに高速道路の銃撃戦の報告が入ったのはそれから20分後の事であった。

そのまま大規模な警護隊と共にヘキサゴンの地下執務室に強制避難させられるケンブリッジ一家。

同時多発ケンブリッジ家暗殺事件はこうして幕を閉じる。
この一件でティターンズ長官一家の護衛強化をジョン・バウアー議員が連邦議会に提案。
地球連邦軍の特殊部隊エコーズが再編される事となった。が、それは割愛する。




宇宙世紀0089.11月26日

ジオン公国を訪問したクラックス・ドゥガチは地球連邦の首都ニューヤーク市に訪問する。
彼を迎え入れたのはジャミトフ・ハイマンとウィリアム・ケンブリッジだった。
仲介役はパプテマス・シロッコ准将。規模が拡大し、三つにまで増設された木星船団の第1船団船団長である。

「遠方からのご来訪、御足労をおかけします」

ウィリアムがドゥガチに謝罪する。
地球圏のごたごた(ジオン独立戦争、非加盟国統合戦争、水天の涙紛争、反ティターンズテロ、反地球連邦運動など)で木星圏への十分な支援体制が整っていなかった事に謝罪する。
これには流石のドゥガチも驚いた。今までの外務大臣や内務大臣は木星の事など在って無きが如くで、何度も送った支援要請も無しの飛礫。
ところが、先ほど提示されたのは簡易ジュピトリス級と言うべき惑星間大型輸送艦20隻の無償譲渡が記されていた。これは驚くべき変化であり、歓迎すべき事象だった。
少なくとも20隻のジュピトリス級の輸送力は現在の木星圏の総人口12万8251名の衣食住と娯楽を完全に満たせる。

「一体何を望んでいるのです?」

思わず本音で話す。
ジャミトフ・ハイマンが引き継ぐ。

「木星圏の開拓と火星航路の安定化、火星の地球化ですね。特にヘリウム3の輸入と火星コロニー群の開発が現在の地球連邦のヴィジョンになります。
宇宙世紀150年代には火星に50万人を、木星に200万人を居住させたいと考えております。
特に火星はコロニーでは無く、火星自身に都市を築く予定です」

なるほど、その為のティターンズの造船所、既にジャブロー工廠に匹敵するグリプス工業地域の利用か。
まあ悪い話では無い。それに大量の水と食料に衣服を送ると言うのはありがたい。

「我々は木星圏を軽んじすぎていた。故に、地球連邦市民はここで痛みを分かち合ってもらいます。
現在、ゴールドマン首相が提案したG計画が採択されました。これで0093には火星・木星開拓用特別予算とその為の艦隊、船団が編成されます」

ドゥガチは用意された地球産のリンゴ酒を飲む。
このホテルには各種最高級食材が取り揃えられており、更に娯楽用品も事欠かない。
しかも娯楽に飢えている木星圏の為に北米州や極東州は映画やアニメ、漫画などのカルチャーを大量に無償で提供すると言ってきた。
驚くべき変化だ。一体何が彼らの心境をここまで変えたのか?

「火星開拓、木星圏の安定化。その為のジオン公国ですか? それをする為にあの一年戦争を引き分けで終わらせた、そうですか?」

ジャミトフに問う。いや違う、実質交渉を纏め上げたウィリアム・ケンブリッジに聞く。
自分の視線に気が付いたのか、ケンブリッジ長官が言う。

「そうです、あの時点では明確な未来への希望を見せる必要はありませんでした。しかし、それでは二流の政治家だと思います。
一流の政治家とは二手、三手先を読んで行動し、一つの決断で複数の効力を出させるモノだと思います。
そして・・・・まあ、自慢では無いですがダカールであれだけの啖呵を切った以上はやります。
それに・・・・ドゥガチ総統、貴方も地球連邦の市民ですから。私と同じ立場です。ギレン・ザビ公王もそう言っていませんでしたか?」

この人たらしが。ドゥガチはそう思った。

(なるほど、急激な政策変更はこの男の野心故か? だがシロッコが言う様な危うさは感じられんな。
しかし猫には鈴をつける必要がある。気ままな猫だ。自分達にとって都合が悪くなれば排除する事も考慮しなければならん。
それが指導者と言うモノだ。が、今は彼らの好意に甘えよう。何せ物資が足りないのは常識以前の事なのだからな)

沈黙するクラックス・ドゥガチ木星連盟代表にウィリアム・ケンブリッジ長官は更に言う。

「信じろ、とは言えません。ですが、信じて欲しいとは言えます。地球と木星は隣人では無い。
火星も月もコロニーもジオン公国も準加盟国も隣人では無い。理想論かも知れないですが、地球連邦とこれらの存在は一心同体の運命共同体。
古代のローマ帝国五賢帝帝政時代の属州と本国に近いと思ってください。
約束します。私が存命の間は決して木星や火星、ジオンや準加盟国を見捨てる事はしません。
隣人では無く家族の一員として扱うと誓います。勿論、地球連邦の一員として木星連盟が存続してくれることが条件ですが」

ふん、理想論だな。木星の厳しい環境を知らないアースノイドの貴様だ。口先だけなら何とでも言える。
このドゥガチの想いを汲み取ったのか、ジャミトフが三通の書類を提出した。

「これを渡します。どうぞ、いざという時にお使いください」

それは地球連邦首相のサインが入った白紙の書類と、地球連邦王室・皇室評議会の最高評議会の全員採択の議決の判が押された書類。
それに連邦議会での特別法案提出権ならび法案拒否権を付託された議員出席権利書だった。
ジオン公国が望んでも絶対に手に入らないもの。それを出してきた。

「!?」

「ティターンズのケンブリッジ長官が根回しをして用意した書類です。これだけあれば最悪を防ぐ事は可能でしょう、違いますか?
地球連邦政府が木星圏を見捨てない、或は見捨てるのならばこれらを使って阻止する事も可能になるかと思いますが?」

ええい、これは完全にしてやられた! だが、何故か心地よい。この二人は絶妙の連係プレーで自分達を陥れた。しかも良い方向に。
確かにこの三通を持っていると言う事は強力な連邦政府への圧力になる。簡単には抜けないが抜けば何もかも切り裂ける伝家の宝刀だ。
地球連邦政府もこれは無視できない。そして地球連邦の国威と信義を守る為にはこれを守るしかない。木星圏をこれから本格的に支援すると言う約束を。

「ははははは、ウィリアム・ケンブリッジ長官、貴方も大した役者だな。猫をかぶっていたのは貴方の方だったか。伊達にティターンズを纏め上げてはいないと言う事だな?
最初から我らを嵌める為のレールを用意していたとは。よろしい、よろしいでしょう、木星連盟は貴方を支援する。ケンブリッジ長官個人を支援しよう。
貴方が裏切らない限りは、だがね。
恐らく次期首相はジャミトフ・ハイマン殿だが、その次は貴方だろう。その際には木星連盟と木星船団群のヘリウム3を中心とした物資、資源援助を行おう。
そして・・・・シロッコ准将を貴殿に預けよう。我々木星圏からの友好の証だ。ティターンズの一員として存分に使ってくれ」

上機嫌なまま会談は進む。木星圏開拓、火星地球化計画の達成の為に。




宇宙世紀0089はこうして過ぎ去る。
一方で、カミーユ・ビダン中尉はティターンズに吸収されたAE社のMS開発チームの一員に抜擢。
一時、ロンド・ベルを離れORX-005ギャプランの後継機である「可変量産型MS」の開発計画「Z計画」の一員を任される事になる。
これら『ユニコーン』『ニュー(N)・計画』『Z計画』三者が合同して、ロンド・ベル並び第13艦隊増強計画『ニュー・ディサイズ』が開始された。

そして深淵の彼方に消えたアクシズでは依然として各地の反ティターンズ派閥の支援を受けて、新型機『AMS-119ギラ・ドーガ』、『AMS-129ギラ・ズール』、強化人間専用のMS隊に独自のルートで手に入れた地球連邦軍のガンダムMk5を元にした機体やキュベレイの後継機開発を開始する。

ジオン公国はマラサイの量産化、配備と親衛隊使用の地球連邦との共同開発機体開発計画、ジオン公国軍のMS開発計画の一種である「MS-X」プロジェクト『RMS―141』ゼク・アインの開発を開始する。
そしてマリーダ・クルス・ザビはフラナガン機関によりニュータイプ適性を確認され、ザビ家の象徴として開発途上のクイン・マンサの専属パイロットになる事が内定した。

そして、戦力が壊滅したヌーベル・エゥーゴ、各コロニーサイドのエゥーゴ派は地下に潜り、アクシズは暗礁宙域に逃亡。ティターンズがエリート部隊としてわが世の春を謳歌する宇宙世紀0089はこうして幕を閉じつつあった。


『流れた血の犠牲と釣り合いのとれなかった不細工な平和』


誰かがそう述べた水天の涙紛争は幕を閉じ、新たなる戦乱か、地球連邦政府がダカールの日から築き上げた平穏はいつまで続くのか、それは分からない。
分かるのはそのカギを握るのは深淵と消えたアクシズとシャア・アズナブル、そしてエゥーゴの頭目になったタウ・リン。
ウィリアム・ケンブリッジに影響されたパプテマス・シロッコ。

そして・・・・地球連邦の代表と言えるウィリアム・ケンブリッジだった。




地球圏は束の間か、はたまた悠久の平穏を取り戻していく。




そして、新たなる可能性が芽を出す。
理想郷と名付けられたコロニーである少年たちは出会う。


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