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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:c3694234 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/24 16:55
ある男のガンダム戦記17

<星屑の狭間で>




宇宙世紀0122のある日、サイド4にて。
ロナ家のトップに就任した老人はコロニーの迎賓館で過去を思い出す。
あの懐かしくも忌々しく、忙しく、何もかも充実していた、そして変わる事など無い大切な思い出の日々を。

「お爺様?」

其処に赤い軍服を着たセシリー・フェアチャイルド、いや、ベラ・ロナが来る。
彼女は不思議なのだろう。あのマイッツァー・ロナが心ここにあらずと言うのが。それは珍しい事なのだ。

「ああ、ベラか。何かな?」

そう言いつつ今時珍しい、写真として現像されたアルバムの写真集を開いて過去を思い出す老人。
そこには剛腕で知られるロナ家の当主では無く、過去を思い馳せる一人の人間でしかない。

「その、お酒の方が進んでおりまして・・・・・お医者さまからお止めになるよう言われているのではないでしょうか?」

そうだ、既にカルフォルニアワインの高級ボトルが3本空になっている。摘みの干しブドウもサラミもチーズも皿ごとなくなっている。
それを聞いているのか聞いていたのかいないのかマイッツァー・ロナは牡蠣に手を出した。そのまま食べる。四本目の白ワインを注ぐとまた飲む。

「今日は特別な日なのだ・・・・・今日は、な」

不思議そうな顔をするベラに聞いた。
お前はウィリアム・ケンブリッジと言う男を知っているかと?

「え、ええ。ご存知ですわ。確か・・・・地球連邦の英雄にしてティターンズ創設者の一人。
ギレン・ザビの真の友、それと・・・・・あ、お爺様の上司だった人ですね」

その言葉に祖父は急に不機嫌となった。
何か悪い事を私は言ったのだろうか? 杖を突いて席を立つとそのまま背を向ける。慌ててドレル・ロナが間に入って取りなす。
漸く気を取り戻した彼は徐に孫たちに、いや、その場にいたブッホ・コンシェルのメンバー全員に聞こえるように、大きくは無いがしっかりとした口調で断言する。

「彼は、ウィリアム・ケンブリッジ閣下はそんな矮小な方では無い。単なる上司などではなくもっと大きな方だった。偉大な英雄だ。
100億の人民の権利、未来、人生、家族、更には地球に生息する数百億の生命体を救った。しかもその時は周囲には誰もいなかった。お前たちも知っていよう、ギレン=ウィリアム会談、通称グラナダ会談の経緯を。
あの時私たちの周りには敵しかいなかった。戦争継続派にとっては、或いはジオンにとっては暗殺の絶好の機会だった。
凡人に過ぎぬ私は怖かった。逃げ出したかった。いや、あの方の傍を離れたら逃げ出していただろう。
更には100億の未来という重圧。それ程の重圧があった。戦争継続か和平か。それはやった者にしか分からないであろう苦痛なのだ。
それなのにあの方はただただ前に前に進んでいった。
私は・・・・・あの方の後姿に真の貴族、高貴なる者の義務を果たす者の姿を見たのだ」

そうか、そしてそれが。

「今日は閣下の命日だ。だから今日くらいは医者にも大目に見てもらおう。そうですな、閣下」

もうお爺様は私たちを見てはいない。彼の視線の先には既に故人となっているウィリアム・ケンブリッジしかいなかった。

「私もようやく閣下と同じ立ち位置にいます。
最近の社会情勢を聞くたびに、見るたびにあの若い頃を思い出しますが、閣下が生きていたら今の連邦をどう思うでしょうか?」

ベラ・ロナやドレル・ロナ、ザビーネ・シャルなどの視線を受けながら彼は記憶を飛ばす。約40年昔の、あのジオン独立戦争が終わった直後の時代へと。自分が最も輝いていたと胸を張って言える時代へと。





戦争終結から3年。地球経済は急激な復興に傾いた。
その大要因はジオン公国の地球経済圏参入、では無く、16億人の市場を持つ中華、中東の非地球連邦諸国との正式な国交樹立である。
地球連邦準加盟国。このジオン公国の為に新たに創設された制度に中華を、イラン、シリアの三カ国を加盟させる。
そして民需で劣った各国経済界へ怒涛の如く太平洋経済圏の企業群が参加した。ウェリントン、マーセナス、ビスト、ヤシマなどである。無論、ジオニックなどのジオン系資本も参加している。
怒涛の如く進出する経済界は大規模な雇用を創設。その雇用が資金を市場に回し、更なる受注を生み出す。
一種のバブル経済が発生した。ただし従来のバブルとは異なったのは宇宙、欧州、中華という三つの需要が存在した点であろう。そしてバブル経済とは言っても破裂するのは20年は先だと言われるバブル経済。

一種の麻薬だった。だが、仕方がない

これなくば地球連邦は完全に崩壊していた、或いはアースノイドの生活基盤維持の為にスペースノイドの保護を後回しにする事態になっていた。

急成長する太平洋経済圏。これに牽引される中央、南アフリカ、南インドによる南インド洋経済圏。
宇宙再開発も開始され、戦争の動員解除による兵士たちの帰郷、そのカウンセリングの為の福祉企業系列の株価上昇と人材の流動。
この福祉系企業や学部の価値上昇はそれに付随する企業の価値上昇にもつながったのは言うまでもない。
一方で、宇宙世紀0060から続いた、つまりは戦前に偏った軍需は大きく削られた。MS隊も例外では無く、唯一の例外は首相直轄部隊の『ティターンズ』軍事部門のみである。
この大軍縮は宇宙艦隊も例外では無く、影響としてX、Y、Z、Ωの4任務部隊中、宇宙艦隊司令長官の直卒であるX任務部隊以外は艦隊新設の延期、再建中止が決定した。
が、20年以上の軍備拡大、つまり軍需に傾いていた企業は多く、急激な軍縮は彼らの反発や停滞、下手をすれば倒産、不況へと繋がる。それは避けるべきと言うのがマーセナス首相ら地球連邦政府の見解である。
これを受けて地球連邦議会は即座に追加経済対策として外惑星開発計画、火星移民計画、サイド7再開発、ヨーロッパ大復興計画(ブライアン・プラン)を公式に発表。
如何にも夢想家の夢であったが、戦争終結の熱狂と現実からの要望からこれらの案件は通り、地球連邦は北米州を主体に国家再建へと足を進める。

宇宙世紀0079の中頃から勃発した『ジオン独立戦争』と呼ばれた事実上の第三次世界大戦。或いは『一年戦争』と呼ばれた戦争。
この大戦争の当事者であり、地球連邦から正式な独立を勝ち取ったジオン公国は、ギレン・ザビ新公王を頂点に、軍事の総司令官にエギーユ・デラーズ中将、政府のトップである首相にマ・クベ元中将、総帥にサスロ・ザビを起用した新体制を発足。
ここでギレンはマーセナス首相にア・バオア・クー要塞を共同管理する事を提案。連邦に妥協する振りをしつつ、復興資金を得る。駐留軍の戦力比はジオン対連邦が1対5.
敢えて連邦軍に花を持たせる事でジオンが譲歩し、名よりも実を取るべく行動。
地球連邦宇宙軍の意向や面子をある程度は考えたマーセナス政権はそれに乗らざるをえなくなり、結果として大規模な軍隊駐留を行う。
また月面の支配権を完全に月面都市群に譲渡。
ジオン軍が撤兵する事でルナリアンである月市民の新月面駐留艦隊並び連邦軍への不信感を煽るべく動き出した。

そして、この物語の主人公であるウィリアム・ケンブリッジは新たなる渦潮に飲まれ様としていた。




「あの、本気ですか?」

ここは北米州のニューヤークにある地球連邦の連邦議会ビル。(北アフリカ州、州都でもある副首都のダカールはヨーロッパ復興の最前線として活用している。これはアフリカ三州とアラビア州への飴でもあった)
その一室で彼はあんぐりと口を開けた。
それを見るダグザ少佐。彼は至って真面目に続きを言う様に秘書官のマイッツァー・ブッホ書記官に言う。
ブッホ書記官らはまるで飼い主に褒められた犬の様に嬉しそうに私に厄介ごとを告げた。まずはダグザ少佐だった。
彼はティターンズとは異なり地球連邦海兵隊と北米州CIA特殊作戦群を組み込んだ特別部隊エコーズの指揮官になった。
といってもエコーズ自体は0083の3月末時点では5個小隊150名しかおらず、二個小隊が自分の守りに、残りはジャミトフ・ハイマン退役少将、つまりは戦後復興庁であるティターンズ長官の護衛についている。
まあそれは閑話休題なので置いておこう。

「はい、ケンブリッジ政務次官は内務省からティターンズに配属になります。ティターンズ副長官です。
大抜擢、いえ、当然の結果です。閣下の様な貴族精神あふれる者を登用するとは・・・・今のブライアン大統領やマーセナス首相らは見る目がありますね!」

フランスブランドのネイビーのスーツに白い仕立服のシャツ、同じくフランスブランドの靴、ネクタイをした若者。
一体全体何を勘違いしたのか実家を出て自分についてくる、と言って成長著しいブッホ社取締役を蹴った男は私に死刑執行文章を読み伝える。
まるで確定事項の様に。いや、彼らが言うありさまから見れば確定事項なのだろうか?
思わず自分に与えられた執務室の椅子からずれ落ちそうになった。
というか、持っていた30万テラの実用性と鑑賞性双方を両立した高級万年筆(第13独立戦隊からの戦争終結祝い)を机の上に落とす。
それを不思議そうに見る二人。そうだ、これは立派な昇進だ。48歳になる自分が地球連邦政府でもトップ20に入る権力者になる。
権力志向を持つ人間なら喜んでしかるべきだ。だが、自分には出来ない。今だって一杯一杯なんだから。

(ちょっと待て。まるで俺が承認する様な言い方だな? 誰もやるとは言ってないぞ!?)

そうだ。漸く妻を退役させて家族仲良くゆっくりと子育てをしながら生きていけると思ったのにこれだ。
ちょっと待ってとも言いたくなる。自分は、本当は英雄になんてなりたくは無い。勘違いしている。みんな間違っている
だから一縷の望みをかけて彼らに問うのだ。縋るように。もっとも声が全く擦れてないのでそれも誤解は解けず、謙遜だと受け止めれられるのだから人生ままならぬ。

「だ、だが、他にも適任はいるだろう?」

が、ウィリアムの心からの叫びは二人の心底不思議そうな声にかき消される。
二人は一旦呼吸をと問えるのと言い切った。

「はぁ・・・・しかし小官が考えるに次官以上の宇宙通、地球通などいませんが?」

「閣下を差し置いてティターンズのトップに立てる人間など現在の連邦政府にはいません!!」

立っているダグザ少佐は冷静に、秘書用の机に座っていたブッホ君に至っては思いっきり自分のデスクを叩いた。ついでに椅子も倒す。ガタンと言う音がした。
ああ、床に傷が・・・・つかない。この部屋はサイド2からの絨毯が敷き詰められているので暖かく傷がつかない様になっている。
これは贅沢と言うよりコロニー=地球間の経済圏活発の為である。尤もそう取るスペースノイドは少なく、多くのスペースノイドが単なる搾取だと思っている。
或いは内務省政務次官と言う立場を利用した地球連邦高官の贅沢か。が、格式は大切なのだ。何事にも儀礼は必要不可欠。
それと意味もなく贅沢している訳では無い。予算は消費しないと困るのだ。それが的確である限りは。

(コーヒーが零れなかったのだけは良かったね。せっかくのネイビーストライプスーツにかかったら台無しだ。)

そう思いつつ、妻の実家から送られた日本茶を飲む。
最近は健康志向だ。もう一度『史上最大の作戦』をやらされたくない。息子のジンは戦争の悲惨さを知っている癖にそう言う映画が好きだと言う。困ったものだ。
下手に士官学校など行かれては目も当てらあれない。もっとも当人は政治家も官僚も嫌で旅行会社に勤めたいらしい。良く分からん。

「そ、そうか」

頷く二人に、ウィリアム・ケンブリッジは0060年代のムンゾ共和国時代から続く悪夢が覚めてない事を自分は知った。
しかも、である。悪夢はまだまだ続く。いっその事本当の悪夢ならどれだけ良かっただろう。起きれば消える悪夢とは違い、起きている以上はより悪化する悪夢など最悪だ!

「あ、ケンブリッジ閣下」

そういうマイッツァー・ブッホ。近々、この大戦で没落した欧州の名家『ロナ』の家名を購入するそうだ。
庶民には良く分からないがそれが良いのだろうか?
名前を変えるのは結婚式だけだと思うのは自分が庶民的すぎるのだろうか?先祖伝来の名を捨てるのはやはり抵抗がある。
そう言う意味では妻のリムはよくキムラの姓を捨ててくれた。夫婦別姓が珍しくないこの時代に有り難い事だ。
で、話をブッホ君に戻す。彼は完全に背筋を伸ばし、右手に紙媒体のファイルを持って報告する。思わず制止する。

「ブッホ君、その閣下は止せ。私はまだ政務次官だ。せめて政務次官と呼んでくれ」

「いえ、閣下は閣下です。他にも伝えたい事があります。よろしいですか?」

まあ良いか。決して閣下が間違っている訳でもない。これが『殿下』とか『陛下』とかだったら全力で止めるが・・・・仕方ない。
もう一度手元のお茶を飲む。自分は久々に恰好を変えてみた。トレードマークの黒のストライプのアルマーニ製スーツで無く、初めて作った、サイド3建設完了時から続く老舗のディーラーに頼んだダブルボタンの黒いストライプが入った仕立服に青いシャツに紺のネクタイ、紅茶の代わりに日本の緑茶。しかも濃い緑茶。

(ああお茶が美味だ。現実逃避も持って来いであるな)

とにかく話は聞かなくてはならない。
それが自分にとってあまり望ましくなくても仕方がない。自分だけで、人間は一人だけでは生きてはいけないのだから。
何ともままならぬ人生に乾杯、いや、完敗だ、畜生め。

「で、何かな?」

そう言いつつまたもお茶を口に含む自分。きっと碌でもないのだろうな。
今年10月に正式発足するティターンズ設立の為に仕事に追われる自分。最近平均睡眠時間は4時間だ。家にも1週間に一日しか帰れない。レイヤー大尉やカムナ大尉、ヒィーリ大尉ら他の面子も同様。
まあ戦時中の死との隣り合わせからは解放されたから良いのだが。それに妻が安全な専業主婦をしてくれているのもありがたい。

ジオン独立戦争と呼ばれた戦いの終戦から2年目の宇宙世紀0083、4月1日。
今日は4月1日なんだ、カトリックでもある自分も嘘をついてよい日だ。きっと嘘だろう。というか神様、嘘にして下さい。お願いします!
ウィリアム・ケンブリッジが厄介ごとを持ち込まんとする人々から逃げたいという思いを無視して現実は進む。

「何度も言いますが、閣下はティターンズ副長官に就任します。無論、自分が最大限のサポートを、政財界のサポートをさせてもらいます。
加えまして、これに関して政治問題に関してのみですが、ヨーロッパ復興、対ジオン問題の全権を委任されるとの事です。
軍事と政治の実権、ヨーロッパを除く地球全土、対連邦議会政策、軍部対策、ジオン公国以外の宇宙問題はジャミトフ・ハイマン退役少将が責任を持って行います。
それと・・・・ジオン亡命軍への対応やジオン本国訪問の為など、諸問題解決の為に巡察部隊としてロンド・ベルと呼ばれる旧第13独立戦隊旗艦アルビオンとホワイト・ベースの指揮権を部隊ごと渡すとの事です」

思わずルウム撤退戦を思い出す。顔が真っ青になったのはご愛嬌だろう。
しかし気が付かない。この時ほど自分が有色人種であまり顔色が変わらないという面を呪った事は無かった。
これで二人の目の前でぶっ倒れるでもすれば良かったが、幸か不幸かウィリアム・ケンブリッジと言う男は生憎それが出来るほど無関心にも無責任もなれなかった。まあ凡人だったのだ。

「あ、ああ。分かった」

それだけが精一杯だった。




ジオン公国公王府。ギレン・ザビが公王になってからジオンの政務の実権は総帥府から公王府に移った。最近は政庁合併もジオン公国議会の議題にあがっている。
問題に挙げているのはダルシア議長。
少しでもザビ家の権威を、と言うよりギレン独裁体制を崩したいのだろうが今のところギレンの基本方針にも適しているので放置している。
効率最優先のギレン・ザビはその意見を、政庁統合、官僚統制を是としているので恐らく、総帥府が公王府に吸収される形で落ち着くだろう。
因みに首相からジオン公国議会議長へと栄転と言う名の左遷をされたダルシア・バハロはこの事案に加えて対地球連邦対策に翻弄されている。

「連邦に我がジオンのよさを認めてもらわなければ最悪第二の独立戦争が起きる。それだけは避けなければならない」

そう言っている。白髪が増えている気がするが国家の指導者などそんなモノだ。
また、未だ軍事独裁国家としての意味合いが強いジオン公国では、ジオン親衛隊を初めとした軍部を自己の心酔者らで固めたギレンの独裁体制は盤石だった。少なくとも上層部や表向きは。
そんなギレンの最近の悩みは家族。セシリア・アイリーンを事実婚で妻としたギレンだが実子の教育はセシリアと共同で行っている。
一応はトト家の養子と女子戦災孤児の引き取りという政治パフォーマンスがあるが、知る者が知ればそれが単なる言い訳、真相隠しであるのは明らか。
単に息子と娘に甘い父親だ。そう言う意味では丸くなったと言っても良いだろう。ギレン・ザビもいつまでも抜身のナイフのような状態ではいられなくなったと言う事である。

「それでだ、さっきからも聞いているが兄貴、今度のミネバの幼稚園の件なんだが・・・・」

が、やはり弟の、ジオン軍の最大の英雄、ドズル・ザビの今日12回目(10分に一回のペース)の姪の進路相談にうんざりする。
公王服を着たギレンと、北米州の量産品のジーンズにTシャツと言う明らかにプライベートのドズル。いくら退役しているとはいえここまでだらけているといい加減にしろと言いたくなる。

「・・・・それで?」

正直に言って父親デギン・ソド・ザビが最後の最後で大馬鹿野郎だった為、つまり南極での交渉をぶち壊した事をジオン市民が追及している以上、それの対応を練らなければならない。
いつまでも相手をしている暇はない。が、それを許してくれないのが目の前の男だった。
無碍に返すのも申し訳ないと思って仏心を出したがそれを理由に居座ってくれている。最悪だ。

「あ、ああ。幼稚園の旅行で地球をみせたいのだがな。家族旅行で行くと何かと迷惑がかかるのは流石に分かる。
が、それでもだ。ミネバの情操教育の為にも地球を見せておきたい。俺も見たい。
それに可能であれば北米州のキャルフォルニア基地にいる親父やガルマにも挨拶したい。もう1年は会ってないしな。
それでギレン兄貴の許可が欲しくて・・・・サスロ兄貴は大反対だったんだが・・・・・その、やはりギレン兄貴も駄目か?」

(寧ろ自分がガルマや父上に会いたいのが理由ではないのか?)

とも思うギレン公王。
宇宙世紀0082、12月24日。戦火に晒されなかった為、ジオン公国への悪感情を持たない地球連邦太平洋経済圏所属の各州は一つのクリスマス・プレゼントを披露した。
それがジオン公国ザビ家第四男ガルマ・ザビと北米州出身かつ地球連邦議会議長ヨーゼフ・エッシェンバッハの一人娘イセリナ・エッシェンバッハとの婚約。

『政略結婚』。

まさにこの四文字。が、これこそ融和の象徴として戦火に晒されなかった地域は歓迎した。
地球連邦市民も実際に戦火を免れた地域はこれを歓迎。
戦争終結の象徴、同盟関係強化の記念碑としてそれを歓呼の嵐で迎えた。或いは当惑と達観や諦観で。反ジオン抗議運動も欧州を除きそれ程では無い。
『咽喉元過ぎれば熱さ忘れる』まさのその言葉通りの反応である。
もっとも連邦政界や連邦政府はジオンとのパイプを確保したいという思いが強かったので丁度良かったと言う思いが強い。
この様な情勢の中、宇宙世紀0082は過ぎ去り、0083の4月を迎えた。
0081と0082は双方が戦後処理に追われた為か何事も無く過ぎ去った。
その他世間を騒がせたことと言えばサハリン家の令嬢が執事兼軍人のノリス・パッカード准将を父親代わりにヴァージンロードを歩いて地球連邦のティターンズ候補の士官と結婚した位か。
あれは大々的なニュースになった。それだけ連邦とジオンの融和に貢献したのだろう。何せ戦場での劇的な出会い、再会、命がけの軍使に、兄への説得だ。実際に件の大尉(シロー・アマダとか言ったか)は暴走した妻アイナ・サハリンの兄ギニアス・サハリンに右肩を撃たれている。

まあ、ザビ家は『地球連邦王室・皇室評議会』の一員に認められたから地球訪問は融和政策として間違っては無い。
が、それでも数年前までは大戦争を繰り広げ、それ以前は双方が冷戦状態に入っていた相手だ。テロの可能性は高い。それを指摘する。この親バカに。

「ドズル、お前は民間人だがザビ家の人間でルウム戦役とア・バオア・クー攻防戦でジオンを勝利に導いた英雄だ。下手に地球に降りればテロに会う可能性もあるぞ?
・・・・・キシリアの様に、な。それでも地球へ行くのか? しかもだ、まだ3歳にしかならないミネバを連れて?」

キシリア暗殺。キシリア日誌の確保。それはザビ家の暗部。それを指摘されて黙るドズルだが、が、父親としての情が勝った。
今を逃せば地球に降りるのはさらに困難になるだろう。それにガルマや父デギンに成長したミネバを見せてやりたい。
そう言った。そしてドズル・ザビはとんでもない事を付け加えた。それを聞いてなぜか納得して承認するギレン・ザビ公王。それは以下の言葉だった。

「ああ、頼む、兄貴。サスロ兄貴を説得してくれ。それにいざとなればあのケンブリッジを頼れば良いさ」

ドズル・ザビの人のよさで、ティターンズの副長官として対ジオンを担当する事になったウィリアム・ケンブリッジは同じ日にザビ家の厄介ごとまで背負う。
もしもこれを知ったらこう言っただろう。『いい加減にしろ、このバカ野郎』とでも。




地球連邦の一角の士官学校の授業風景。天気は生憎の雨。それでも地下街で地下鉄や学生寮、学生街行きの地下鉄と結ばれているこの学校にはあまり関係が無いだろうが。

「であるからして、マグネット・コーティングは・・・・・ち、時間だな。次は186ページから215ページまでだ。予習しておくこと」

そう言って北米州にあるティターンズらが出資した、つまり地球連邦北米州の公立学校モントレアル、通称エコール士官学校に通っている今年18歳になる青少年。アムロ・レイ中尉だ。
一年戦争とも呼ばれるジオン独立戦争で実戦を経験し、撃墜数が100機を超すトップエース故にMS戦の実技だが、エコールはおろか、地球連邦軍北米州軍の1位。
が、拳銃など基本的なモノは中の上。それでも中尉として所属し、全員が見習士官、つまり准尉扱いのエコールの中で異色を放っていた。

「ん? 電話?」

授業後、戦争の影響が無い今、無線通信は繋がる。
スマート・フォンと呼ばれる携帯端末を起動するアムロ。アムロを呼び出したのは3年間ずっと恋人のセイラ・マスからだった。

「セイラさん?」

今でも敬語。これは一生変わらない気がする。この間再会したカイ・シデン氏からは冗談半分に一生尻にひかれると言われた。
そうかもしれない。いやそうじゃない、と、思いたい。きっともっと大人になってセイラさんに相応しい男になれば口調も変わる筈だ。
とにかく話を聞く。

「今日の午後7時30分に? ええ、大丈夫です。あ、分かりました。迎えが来るのですね。
え、ブライトさんが結婚? 誰と? ミライさんと? で、お父さんのヤシマさんが僕たちに会いたい?
何故? ああなるほど・・・・それを知る為? 分かりました・・・・うーん、大丈夫ですね。それでじゃあ。あ、好きですよ、金髪さん」

因みに電話の向こうでは地球連邦司法試験の為、北米州エコール大学(エコールに併設された)の法学部受験に向けて頑張っているセイラ・マスが最後の「好きですよ、金髪さん」という言葉にクスッと笑ったのはアムロには気付かせなかった。
この言葉は二人だけの時、主に夜、生まれたままの姿でいるときにベッドの中で聞かせる言葉なのだから。




そんなやり取りをアムロとセイラがしている時、ウィリアム・ケンブリッジは妻と子供を連れてワシントンから高速便でエコール地区、或いはモントレアル市に到着する。
久しぶりの飛行機にはしゃぐ息子と娘の相手にぐったりしながら。最近年かと思うのだがどうだろうか?
そして車を運転するリムの傍ら、助手席で呟く。

「エコール。宇宙世紀に建設された軍事都市であるモントレアル市に併設された軍官民政四つの合同特別学区。
今度ここにミネバ・ラオ・ザビとドズル・ザビ、ゼナ・ザビが来るのか。なあリム、ギレン氏は俺の胃袋に何か恨みでもあるのかな?」

「さあ? でも気に入って貰っているのは間違いないでしょうね」

憂鬱だ。ほんと、独裁者に、しかも国内情勢的に見て半分は敵国である独裁者に気に入ってもらうというのは憂鬱以外の何物でもない。
そう思いつつ、4月2日の18時。自分ことウィリアム・ケンブリッジは妻、リム・ケンブリッジと息子のジン、娘のマナと共にエコールを視察する。
周囲は60名にも及ぶ動きやすいナポリの仕立スーツを着こなしたダグザ少佐指揮下のSP二個小隊60名、更にブッホ君が警戒している。
彼曰く、『いざとなったら自分が弾除けになります! 安心してください!!』との事だ。いや、そんな事態は来てほしくないし、そもそもSP達が突破された時点で安心しろなどとは不可能。
止めに自分の為に若い彼を死なせたくない。そう言ったら彼は言った。

『閣下は私たちの理想です』

と言い切った。何故、私『たち』と言うのかがちょっと、いや、かなり気がかりだがとにかくそれは置いておく。何故だか知らないが、突っ込んだら更に紛らわしい事態になりそうだと思った。
尚、このエコール視察はヤシマ会長とその娘さんがブライト君と結婚する事に端を発した。

(うーん、自分としては奥さんの故郷である極東州の日本でやるべきと思うが。あそこの方が神秘的で良いだろうに)

とにかく、前大戦の英雄であるブライト・ノアやアムロ・レイの恋愛話は既に政界上層部でも議論されている。
しかもヤシマ・カンパニーは宇宙開発に必要な大企業。無碍には扱えない。そんな会長が自分に会いたいと言う。
それを知ったジャミトフ先輩は電光石火の荒業で自分の有給休暇を消費させた。
何故出張扱いじゃないのかと問い詰めたいが先輩に問い詰めても無駄だろう。彼、こういう事態に慣れまくっているのだから。

『取り敢えずは粗相のないようにな、ウィリアム』

そう言って送り出した。最近お気に入りの黒スーツと黒いコートを着て。
因みにティターンズは政府の省庁である事から最高幹部が現役の軍人である事は危険視され、ジャミトフ・ハイマンは少将で退役している。

「もうすぐね、緊張する?」

クスクスと笑いながら隣のリムが聞いてくる。
もう間もなくホテル・ロイヤル・エコールだ。第一級のホテルである。伝統こそないが格式は高い。
間違っても公務以外では泊まれないホテルだろう。そう言う意味では今回は感謝だな。税金泥棒かもしれないが・・・・まあ、ボーナスと思うか。

「リム、当たり前の事を聞くなよ。ヤシマといえば現在地球圏五指に入る企業だぞ? そのCEOだ。
緊張もするさ。それにこれでコロニー開発計画が失敗すれば地球緑化計画も欧州復興も遠のく。
ああ、するね、緊張の一つや二つする」

と、ウインカーを出してホテルの駐車場に入る。
電気自動車だからホテルの充電機で充電を頼む。そうしていると妻がからかってきた。

「私に告白した時よりも?」

いくら子供らが疲れて寝ているとはいえ。まあ答えるか。

「いや、あれに比べれば天と地ほど差がある。そうか、緊張をほぐしてくれたのか・・・・ありがとう」

「どういたしまして」

そう言って妻のリムはまた微笑んだ。

(これの為にジオンの勢力圏に単身乗り込んだ。嫌な政治の世界にもドップリと浸かった。それでもその甲斐はあった。
この笑顔の為なら死んでも良い、そう思って生きてきたが間違いじゃなかったな)

そして自分はヤシマ会長と会う。
連邦財界でもトップクラスの大物と地球連邦の戦後復興庁として巨大な利権を持つティターンズのNo2が会うのだ。それが政治的・経済的な話になるのは例によって当然だろう。
因みにガチガチに固まっているブライト君とミライ君の相手は子供らがしている。
妻のリムはエコール市街地にいるセイラさんとアムロ君を迎えに、乗ってきた極東州製の普通車で迎えに行っている。
幾ら高給取りの自分と、退役准将扱いで年金が出ているとはいえ、無駄使いは厳禁だ。
息子と娘の進学もあるのだから。尤もジャミトフ・ハイマンやローナン・マーセナスやビスト財団にザビ家は自分を取り込みたいらしく特待生優遇制度を進めてきている。




ヤシマ会長がフランス料理に手を付けながら言う。彼と私の両方から見えるスクリーンにはプロジェクターを使ってエコール地区の宣伝が行われている。
これだけ見るとここが軍事都市とは思えない。が、ここは軍の士官学校とAE社などの軍需工場がある軍事都市でもある。
しかし、それを忘れるほどきれいな風景だ。まあ編集が上手いと言うのもあるのだろうが。

「良い所ですね。ケンブリッジ副長官。軍事都市と言うからもっとオドオドしたモノを想像していましたよ」

優しげな男、日本の黒いスーツを着た男だ。だが油断しない。彼もまた歴戦の男。
決して優しいだけで巨大な利権である軍需産業からの全面撤退やサイド7再開発への一番乗りを成功させられる筈も無いのだから。
それを相手は気が付いている。その上で温和な表情で自分に声をかけているのだ。大人だな。好き嫌いで戦争に行った自分と大違いだ。

「そうですね、20世紀のオキナワのアメリカ兵暴行事件などがありますから、MSや戦闘機などの軍事飛行は厳禁、そして軍用の士官学校と民間の小中高大の4つは電車で1時間離れています。車だと1時間30分ですかね。
まあ、ここは戦前に創られた学園都市としてのイメージを強くして欲しいです。それで、サイド7の件のお話では無いのですか?」

徐に切り出す。嫌な事はさっさと終わらせて置くに限るからだ。
それにこの肉のステーキは美味い。これをしっかり味わいたいモノだ。

「副長官、ではこれをご覧ください。現時点で提示できる我が社の見積もりです」

そう言ってA4サイズの携帯タブレットを見せた。そこには自分達ティターンズの見積もりよりも2割安い。若干驚く。直ぐに詳細を読む。
その理由は分かった。彼らは、ジオン公国の資本を利用する事と『中華』『イラン』『シリア』の三つの軽工業力を利用するのだ。
北部インド連合と北朝鮮以外の地球連邦非加盟国が準加盟国参入と言う、事実上、地球連邦に編入された為に出来る荒業。
宇宙艦隊の再建も地上軍の再編も後回しにして必死に復興を続けている甲斐がある。漸く報われている気がする。

「なるほど、これは大きい。ところでヤシマ会長、この浮く分の予算はティターンズが使うと思っておいでですね?」

自分の言葉に頷くヤシマ会長。少し溜め息が出た。
まるでティターンズが地球経済圏の独占を望んでいるかの様な仕草だ。それは勘違いだろう。とにかくその誤解を解いておかないと大変だ。
地球圏の掌握を望んだのはブライアン大統領やマーセナス首相、つまり北米州であってティターンズでは無い。
それを伝える。ティターンズが地球圏全土の掌握を狙っている、そんな誤解は早めに解かないと大変な事になるだろうから。

(あとでジャミトフ先輩に伝えないとな。このままティターンズ独裁という印象が持たれたらせっかく鎮火している地球圏に新しい火種が出来る)

思わず思った。



ああ・・・・・ほんと、引退したい。



その頃、男たちが利権争いを繰り広げていた時に妻であるリムは息子の様な年齢のアムロ・レイを迎えにエコール士官学校に車を付ける。
イタリア製のスポーツサングラスを外し、スマート・フォンの案内ナビを切る。そして音楽を聴く。アメリカ映画のBGM集だ。
と、そこでベージュのスラックスに青色の襟シャツに黒の腕時計、黒いシューズ、黒ベルトという姿でアムロ中尉が現れる。

「ケンブリッジ准将閣下、お出迎えありがとうございます」

エコールの裏門の喫茶店で合流したアムロ君は私にそう言って敬礼した。
まあ、まだ恋人のセイラさんは来てない。それに明日から3連休だ。羽を伸ばしたいのだろうが軍の学校に通っているだけの事はある。

「もう准将ではないのよ? 中尉さん」

笑いかける。この辺りは大人の対応だ。それに嘘では無い。土下座してまで退役する事を頼みこんだ夫に免じて自分も退役した。
そのまま雑談を続ける。それが興味を引いたようで何人かの学生が覗き込むが、相手があのアムロ・レイだと知ると退却していく。
流石にセイラ・マスの様な才色兼備な大人の恋人相手に15歳の自分達小娘では勝てないと思っている様だ。

(全く情けないわね。ウィリアムは私を落とす為にハワイまで来たのに)

少なくともこの時点で地球圏は平和だった。




火星圏。アクシズ要塞。

「マハラジャ・カーン提督は亡くなられた」

その言葉に周囲が重くなる。無理矢理火星のアクシズ要塞に連れて来られ、その後サスロ・ザビが好機と判断し、最終決戦直前でアクシズに逃げ出した裏切り者共全員に火星圏勤務を命令した。
事実上の国外追放である。まあ、有効な討伐手段を持たず距離の防壁が存在する以上仕方ないと言えば仕方ないのだが。
しかしその結果、合法的にジオン本土に帰る術を無くしたアクシズ。
その心の支え、或いは憎悪の対象が死んだことで内部分裂を迎えつつあった。それは自滅と言う最悪の事態に繋がる。
そこでアクシズ上層部はある鬼札を使う。
混乱するアクシズ内部。それを纏める為にアクシズ上層部はハマーン・カーンという少女に目を付ける。
大人たちは卑劣にも少女に対して迫った。卑怯以外の何物でもない。現実逃避以外の何物でもない。

『私たちをこんな辺境へと導いた君の父親の責任を取れ』

端的に言ってしまえばそうである。
その為の協力は最大限する。更には属国と化したジオン本国を奪還するべく独自の軍事力を編成すべきである。
こういった声がアクシズ全土に広がるのは早かった。まるで枯れ木が燃え落ちるように。大洪水が田圃を押し流す様に。

「・・・・・分かりました。お受けします。ジオンの為に。そして・・・・・キャスバル様の為に」

か細い声でハマーン・カーンはその問いに答えたと言う。もっともキャスバル云々は誰にも相手にされなかった。
まさかこんな所に死んだと思われていたキャスバル・レム・ダイクンがいるとは思いもしなかったのだから。

(自分も父親から打ち明けられるまでは気が付きもしなかった。だが、憧れの人がいる。その隣には別の人間がいるが関係ない。
奪い取れば良いのだ。ナタリーにもララァさんにもシャア大佐は渡さない)

少々独善的な面はあるがこの時のハマーンはまだ単なる恋する乙女であった。
ところで話は変わるがこの時、地球から木星へ向かうジュピリトス級2隻で編成された船団が存在する。その船団はジオン公国の要請を受けてアクシズを経由し、物資を下ろす。
その代表団がアクシズ側の代表団と会談する。




「自分はパプテマス・シロッコと申します、この度のマハラジャ・カーン総督の件、心よりお悔み申し上げる」

第17次木星船団船団長として大佐に昇進したパプテマス・シロッコ。ティターンズでもジオンでも連邦でも無く独特の軍服を着用して大佐の階級を持つ赤い将校と対陣する。
相手の名前はシャア・アズナブル。ジオンきってのエースパイロットである赤い彗星。
火星圏に落ちぶれたものだと陰で笑われているが、それでもアクシズでは現在最高階級の一人。事実上のアクシズの指導者である。
もう一人はトワニング准将だが、彼はお飾り。もう一度言う。事実上のアクシズを牛耳る男だ。

「いえ、それを聞けばハマーン様も喜ばれるでしょう」

何故だか知らないが、木星船団は定期的な大規模な補給を行い、この定期的な補給でアクシズは秩序を保っている。
彼の機嫌を、つまり木星船団の機嫌を取る為に、アクシズで最高級のホテルに最高級のワインでもてなす。
が、シロッコが本当に興味があるのはワインでは無く、目の前のジオン軍大佐の軍服を着たサングラスをかけた金髪の将校。
噂によると例のジオン・ズム・ダイクンの遺児、キャスバル・レム・ダイクンだとか。その男が妙な事を口走った。聞き間違えか?

「ハマーン様?」

そう聞き返す。

「ええ、ハマーン・カーン様です。この度、亡きマハラジャ・カーン総督に代わりまして、アクシズ方面軍方面具司令官とモウサ市長、つまりアクシズ総督に就任します。
慣例上、彼女は尊称として『様』を語尾に付けますが・・・・これは貴殿らも守って頂きたい」

一本取られたな。まあ良い。致命傷では無い。
そう判断するシロッコ。

「そうですか、それで物資の件ですがこちらが資料なります。確認いただければサインをお願いします」

渡された紙媒体の書類、ジオン本国から送られた物資の目録に目をやるシャア。
更にその目録の裏には1割ほど増加させた木星船団独自の援助物資が入っていた。
これはシロッコの独断である。彼の感が告げている。このアクシズは新たなる潮流を引き起こすと。
それがどんな形であるにせよ、恩を売って置いて損は無い。なに、いざとなれば切り捨てれば良いだけだ。
一方、赤い彗星は目録を読んでいるふりをしてこう考える。

(ハマーン・カーンに同情票が集まり、彼女を傀儡化した。これでこのアクシズ内部の邪魔者は居ない。
折をみて自ら地球圏に戻りサイド3にいるザビ家に復讐する。そうだな、その為には目の前の胡散臭い男の力も借りるか。
ほう、エゥーゴ、か。指導者は不明。だが反地球連邦運動として各地のコロニーサイドや月面都市市民の悪感情が地球圏を覆っている。
なるほどな。私の目的達成の為には反地球連邦運動とアクシズを連動しなければならない。
故にやはりこのパプテマス・シロッコと言うパイプは重要だ。
この辺境も辺境のアクシズでは水や食料、嗜好品を握った人物が政権を握る。それは事実にして真実。
人はパンのみに生きるに非ず、しかしパン無しでは生きられない。それにだ、ローマ帝国はパンとサーカスを提供できなくて滅んだ。
つまり逆に言えばパンとサーカスを提供する限り人民を操るのは容易い。それは認めたくない事だがギレン・ザビが証明した・・・・・今は耐える時か)

全て読み終えた振りをしてサインする。
それを受け取るシロッコ。この時両者の思惑は一致した。

「これからもよろしくお願いします、赤い彗星殿。そしてハマーン様には良しなに」

そう言って右手を差し出す。

「ほう? それは木星船団とアクシズとの同盟の申し出、そう受け取ってよろしいか?」

シャアが切り込む。まさかここまで露骨に聞いてくるとは思わなかった。だが、シロッコも役者。
そうでなければ20代で大佐などにはなれない。即座に反撃する。話題を逸らすべく行動する。

「さて、どうでしょうな? それよりも・・・・・シャア大佐はウィリアム・ケンブリッジという人物をご存知か?」

話題を変える。変えた方が良いというのは双方の判断だった。
シャアもそれに乗る。さも何事も無かったかのように。冷えた白ワインをシロッコのワイングラスに注ぐ。

「ええ、人並みには。確か・・・・・アースノイドきっての宇宙通でギレン・ザビ総帥、失礼、公王陛下の最も信頼するアースノイドだとか」

会った事は無いがギレン・ザビと共謀して戦争を終わらせた忌々しい男だ、言外にそうにじませる。
実はシャア・アズナブルはウィリアム・ケンブリッジと戦場で面識があるのだがそれを知る筈も無い。
一方でワインを飲むシロッコの目は真剣だった。それは初対面のシャアでさえ分かった。そしてシロッコは声のトーンを落として赤い彗星に忠告する。そう、忠告した。

「ならば話は早い。彼はジオン・ズム・ダイクンを単なる歴史上の独立運動家の一人としか捉えてないでしょう。貴殿とは異なり、ですがね。
そしてニュータイプ思想も単なる道具、或いは妄想と断言する。言い切りますが彼は連邦の忠犬だ。忠実なる番犬だ。しかも極めて有能でありましょうな。
何せ戦争終結の道筋を築いたのは彼だと言って良い。それにキシリア・ザビ暗殺時のギレン・ザビとの単独会見は映画になるほどの人気だ。連邦市民を操る気になれば簡単に操れる。
しかもティターンズの副長官。軍事的にも政治的にも影響力を保有する連邦有数の実力者であります。オールドタイプですが決して侮ってはなりませんぞ?
心した方が良い。ニュータイプである者にとって彼とギレン・ザビは最大の脅威となる。
オールドタイプの代表として。否、旧体制の象徴として。シャア大佐、貴殿が決起するなら一言私に声をかけて貰いたいものだ。
無論、ハマーン・カーン『殿』にも協力する。これは私個人の誓約だが・・・・・血判でもしようか?」

苦笑いするシャアはサングラスを取り外した。そして自分の分のワインを口に含む。
冷たい液体が咽喉を潤す。

「さて、それこそどうでしょうかな。まあ良いでしょう。シロッコ大佐、期待以上の返事は頂けた。これからもよろしく頼みます。
そしてウィリアム・ケンブリッジとギレン・ザビ。心しましょう。
その男が、連邦のたかが一官僚がどうでるか、何ができるのか見せてもらいましょうか」

舐めきっている。そうか、この男は敗戦を経験してない。知識としては知っていても体験してない以上彼らアクシズ組は現在の地球連邦政府を侮っている。
その侮りは危うい。これは言質を取られなくて幸いだな。やはり手を組む相手は慎重に選ばなければならないか。

(ふむ・・・・今の地球連邦勢力は北米州を中心に纏まっているから決して侮って良い相手では無いのだがな。
南北アメリカ大陸で冷戦を続け、軍内部で派閥抗争に明け暮れた一年戦争時とは違う。
それにウィリアム・ケンブリッジは恒星だ。自身の周りに多くの惑星や衛星を従える強力な存在。彼の周りには多くの人間が集まるだろう。
それを分って無い様だな。まあ良い・・・・・アクシズ・・・・今は誼を通じるだけで良い。後日何かと役立つ事もあるだろう)

「ではシャア大佐、御馳走になりました。ありがとうございます」

そう言って彼をジュピトリス01のドッキング扉まで見送る。最後にシロッコはこう言って
去った。

「それではごきげんよう、キャスバル・レム・ダイクン殿」

と。




宇宙世紀0083.5.05である。地球連邦軍本部が南米州のジャブロー基地から北米州キャルフォルニア基地に移転すると言う大ニュースが駆け巡った。
キャルフォルニア基地への連邦軍本部の移転。更にベルファストにあった連邦海軍総司令部も太平洋のハワイ基地への移転を同時に発表。
ブライアン大統領とマーセナス首相は連邦の権限を一カ所に集中するべく策動。地方分権国家であった連邦の中央集権化を、正確にはアメリカ合衆国の復権を開始する。
戦後復興庁としてのティターンズ本部と地球連邦議会、連邦首相官邸がニューヤーク市にある事を考えると明らかに挑発行為である。

「はぁ・・・・また厄介ごとを」

それをジャミトフ先輩の執務室で聞いた私は黄昏れる。それはそうだ。これは明らかに懲罰人事。この事態に南米に左遷されたコリニー大将が黙っている筈がない。
そもそも50年代に南米に軍本部を移したのだって北米一極集中を嫌ったからだ。それがまた元に戻る。が、思いの外、周辺諸州の反発は低い。これは意外だった。
まあ、少し考えると何となく分かるだろうが。

「ブッホ君、何故だと思う?」

最近はダグザ少佐と一緒に行動する彼に問う。後輩を育てるのは楽しくて良いものだ。
殺して殺される戦争よりもはるかに健全だ。そう心底思う。

「そうですね、やはり太平洋経済圏の経済活動による地球連邦再建、その恩恵の授与と軍部の発言権縮小を連邦政界が求めた事が大きいかと。
こう言っては失礼ですが、南米の大要塞であるジャブローで連邦軍本隊がクーデターなどされたら鎮圧が大変です。
反クーデター派の地球連邦軍の全軍を上げて奪還する必要があるでしょうし、そのクーデター時点で軍部は分裂、考えたくもないですが内戦です。
それを避けたいと言う地球連邦政府の意向がある事、更に戦中の主戦派で主流派の主だった方々は宇宙勤務の為、キャルフォルニア基地への移転、これを寧ろ歓迎されていることですか。
彼らに取ってジャブローという安全な地下要塞に立て籠もるモグラに命令され続けるのはフラストレーションが堪るでしょうから。そのガス抜きもあるのでは?」

そう言って一口水を飲むブッホ君。そう言えばロナ家の名前を来年にでも買うらしい。
羽振りが良い事だ。ただ成り上がりと呼ばれるのは覚悟する様に先輩として忠告しておいた。
自分も成り上がりの有色人種と言われたのだ。一年戦争前夜までは。そう言えばブッホ君は、思想的に右翼に偏っている面があり、自己陶酔の面もある。

(答案だけなら完璧だな。これなら将来のティターンズを背負って立つ事も可能だろう。
うん、さっさと退役したいけど無理ですね。分かります。それにさらっとモグラとか言ってるぞ。ヤバいな、それ)

と、その時、ジャミトフ先輩がブレックス少将を連れて来た。恐らくキャルフォルニア基地への移転問題があったからだろう。
宇宙艦隊司令長官ティアンム大将の懐刀であるブレックス・フォーラー少将。二人は同期なのだが片方は今や地球連邦の一大省庁の一つティターンズの長官(退役したが軍部にも多大な影響力を残している)、もう片方は任務部隊司令官(あくまで地方方面軍司令官)で格差は歴然としている。
他人事ながら考える。ジャミトフ・ハイマンとブレックス・フォーラー、この二人は袂を保つ事が出来るのか、と。

「やあウィリアム君。ヨーロッパの復旧状況はどうかね?」

そう思っているとダグザ少佐に返礼したブレックス少将が聞いてくる。
地球再建の為に軍備再建を延長して尚且つ戦前同様の税率で、比較的無傷だった各サイドのスペースノイドから税金を回収して歳出に回しているマーセナス政権下の地球連邦政府。
必要な事なのだが、中立国として体制を保ちつつあるサイド6のリーアや、リーアの和約による同盟国化の為、地球復興の義援金以外(義援金と言っても事実上の税金なのだが名称が変われば人々は納得するモノだ)を送らないサイド3ジオン公国。
彼らと自分達の差別感が反地球連邦運動を起こしている。『同じスペースノイドなのに』、という差別感だ。
この差別感は宇宙に居を持つ者として無視できないのだろう。だいたいだ、誰だって関心がある事象だ。自分たちの税金がどう使われているか、と言う事は。
だから答える。ついさっきまで書類と睨み合っていた事を。

「おおむね、40%ですね。中欧は25%、西欧は70%、北欧とロシア地区は90%、東欧は40%、オデッサ地区は計算中です。
ハンブルグ会戦はやはり大きかったです。物的・人的被害双方で。それにアフリカや中近東のジオン亡命軍の扱いも困っています。
各州の現地連邦軍は面子があるのか我らティターンズの展開を認めていません。その為要らぬ混乱が各地で起きています」

そうか。

そう言ってブレックス少将はまたジャミトフ先輩と話し込んでいく。
自分らはもう関係ないと思って、先輩に一言挨拶して去る事にした。部屋を出る。ついてくるのはブッホ君だけになった。
そう言えば通路には珍しく誰もいない土曜日の夜10時だからしょうがないか。
ここでブッホ君が深刻そうな声で話しかける。

「閣下」

だから閣下は止せと言うのに。せめて副長官と言って欲しい。
因みにダグザ少佐は副長官と呼ぶ。

「何かな?」

「あれで良かったのですか? 彼は邪魔ではないでしょうか?」

言外にジャミトフ先輩の力を借りてブレックス少将を引き摺り下ろせと言っている。全くブッホ君は過激だ。まあ若者だから仕方ない面もあるが。

「何が?」

敢えて惚けてみせる。こういった腹芸もお手のものになってしまった。本当に人生とは分からないモノだ。そう言えば、昔の小説にそんなのがあったな。
確かいやいや軍人になって、戦場で意に反して活躍して、そして息子が来る前に死んでしまう主人公。怖い話だ。まるでジオン独立戦争中の自分じゃないか?
いつのまにかサイド7のグリーン・ノアに幽閉されて戦闘に巻き込まれて窒息死しかける。思い出したくもない。

「閣下はあの方のニュータイプ思想を危険視・・・・いえ、出過ぎた真似でした。すみません、どうかお許しください。
ですが、閣下。閣下がお望みならばブッホ社の力を使えます。その事だけはお忘れないで下さい」

ブッホ君の実家はこの2年間のデブリ回収作業とヤシマ・カンパニー、ジオニックの下請けとして急成長している。
その勢いは月面に本社を置くAE社を追い抜き、サイド6でNo5以内の会社になった程だ。まあ、ブッホ家はもともと宇宙開発で財を成していた一族。
それが戦災復興特需に上手く乗れたのだ。そういう事だ。こういう事は良くある。20世紀の敗戦国、大日本帝国の朝鮮戦争特需などがその良い例だ。
後、次の連邦議会中間選挙にもブッホ家の一族の者が立候補するらしい。
また、ブッホ君がティターンズ中枢(私やジャミトフ先輩ら)とコネがある事からその勢いは日の出の勢いという。

「君は過激すぎるのが玉に傷だね・・・・・・大丈夫、そうなる事は無いさ。覚えておくんだブッホ君。戦争は外交の最終形態に過ぎない。
そして外交は政治に、政治は経済に、経済は人の暮らしに、人の暮らしは人の心に従属する。故に人の心さえ暴走させなければ何らかの形であれ武力に頼る事は無い。
これは私の持論だ。納得も理解もしなくても良いが、心の片隅にでも覚えて置いてもらえると私としてもうれしいな」




ア・バオア・クー要塞勤務のジオン公国兵士たちは大いなる不満を持っている。
勝ったはずのア・バオア・クー戦。なのに連邦軍が我が物顔で駐留している。
些細な揉め事など日常茶判事。しかも連邦軍の最高責任者であるバスク・オム大佐は明らかに無関心。いや、連邦寄りの裁定を下す事が多く、それが更なるジオン側の不満につながる。
第一である、何故、ソロモンやア・バオア・クーを割譲し、月面から撤退しなければならないのかというのは第一線を戦った将兵に多い。
特に全般的に優勢だった上、最後のア・バオア・クー戦に参加しなかったジオン本国守備隊、月面方面軍や学徒動員兵らに多かった。
また駐留兵士は地球連邦兵士が多く、ジオン軍は国力の面からMS隊を提供するだけでなく、忍従する様上官から命令されている。
それを良い事に数の暴力や言葉の暴力をふるう連邦兵士。わざとやっているではないかとさえ思えてくる程だ。
これでは開戦前と何も変わらない。しかもガルマ・ザビ大佐は捕虜になった事を恥じる事無く地球連邦の議長の娘と婚約。
ギレン・ザビらの思惑をよそに、統制下を外れたジオン軍の一部には根強い反地球連邦感情と現ザビ家への反感は大きくなりつつあった。そんな情勢下の一室。
男と女が睦み合っていた。それも終わり汗だくの女が男に声をかける。

「マレット隊長・・・・それで話ってなんですか?」

女の、リリアの言葉。下着も何も付けてない裸の男女の密談。
男女の情事の跡が生々しい重力ブロック。そこで男は、マレットは告げる。

「お前は今のジオンをどう思う?」

マレットに髪を撫でられながらリリア・フローベール中尉はマレット・サンギーヌ少佐の言葉を考える。
が、盲信と言って良い愛を捧げる彼女の言葉は決まっていた。

「・・・・・マレット隊長が嫌いだと思うなら・・・・・・嫌いです」

そう、マレットが嫌いな者は彼女も憎悪する。なぜそうなのかは本人にももう分からないだろう。
それが純潔を捧げた相手なら尚更なのかもしれない。そうでは無いのかも知れない。だが、それはどうでも良い事だ。

「そうか。他の二人も・・・・・そしてグラナダ特戦隊やインビジブル・ナイツの連中も俺についてくると思うか?」

まるで意味が分からないが、同僚であるあの二人もどちらかと言うとマレットについていくだろう。それに一緒に来ないなら自分が女の武器を使って籠絡するか排除する。
またインビジブル・ナイツはダイクン派として冷遇されているし、現在のギレン・ザビ独裁と同盟国化と言う名前の地球連邦への隷属化を嫌っていた筈だ。勝算はある。
それに隊長の命令についてこない特戦隊隊員など必要ない。
だから私は断言する。愛しい我が主に対して。私だけのマレット様。リリアは約束します。

「来ます、必ず」




キャルフォルニア基地。第2演習場でMS隊が演習している。
一機は黒いRX-78ガンダム、残り二機はジム・クゥエルという新型だ。因みに装甲以外は操縦性、機動性、整備性、センサー類などジム・クゥエルの方が上である。
それでもモンシア中尉はガンダムに拘った。あのヨーロッパ反攻作戦で見た鬼神の如き強さに憧れた。
そして右側にいたコウ・ウラキ少尉のジムに怒鳴る。いつの間にかペイントまみれで片膝をついている。
無論、その間もガンダムを動かす事は止めない。でなければ自分が落とされる。そしたら世にも恐ろしい罰ゲームが待っている。

「ウラキィー!! 何度言ったら分かるんだ!? バニング隊長にはけしかけるな、最後に回せって言ったじゃねぇか!!!」

ペイント弾をシールドで受け止めるガンダム。相対する機体はジム・クゥエルが三機。嘗ての不死身の第四小隊の自分を除くメンバーだ。
これでは腕立て伏せ1,000回だ。もう日も暮れ出しているのにそれは嫌だ! と思っていると警報が鳴る。
正面モニター全体にジム・クゥエルの姿が重なる。

「のわぁぁぁぁ!!!! 不味いぃぃぃぃ!!」

「おいモンシア!! よそ見するとはいい度胸だな!!」

サウス・バニング少佐の機がシールドチャージをかける。とっさの事でガンダムの防御が間に合わない。
揺れるコクピット。新しいノーマルスーツのお蔭で何とかGには耐えたがこれだけシェイクされると機体の方が先にガタがくる。

(因みにバニング少佐以下第四小隊全員とキースとウラキはティターンズの所属だ。っておれは何をどうでも良い事は・・・・そうだ!!)

「キースは! キースはどうした!?」

思わず叫んだ。律儀にそれを返したのはアデル少尉だった

『ベイト中尉が今隣でぼこぼこにしてますよ』 

俺・・・・・終わったな。明日起きれるかなぁ。せっかくの休日なのに。




バニング少佐らが演習をしていたこの日、宇宙世紀0083.05.22。
地球連邦首都にある新地球連邦首相官邸。六芒星の建物(通称、ヘキサゴン)の首相専用執務室でマーセナス首相は久方ぶりに軍部が提出してきた案件に許可のサインをする。
一つは『戦術機動専用機ならび戦略核兵器搭載型ガンダム開発計画、通称7、ゼフィランサス、サイサリス開発計画』。
一つは『RX-78-NT-1後継機開発計画、通称ガンダムMk2開発計画』。
一つは『対スペースコロニー攻撃型ガンダム開発計画、通称テンドロビア計画』。
最後の一つは『連邦・ジオン共同MS開発計画』
責任者はゴドウィン・ダレル少将。

特に最初の段階の第一弾と最後の第四弾はジオン軍との共同開発を行う。いや正確にはマ・クベ首相経由で地球連邦側に提案されたのだ。
核兵器を保有するジオン公国に相対する地球連邦は質の向上によって軍の維持をはかる。
方やジオンは連邦のMS技術奪取を目論み行わる。これは新時代の軍拡の引き金になるのだろうか?
それはまだ誰にも分からない。



そして月日は流れた。各地で突発的な紛争こそあるが、地球圏全土は表向きは平穏である。



宇宙世紀0086.02.12のエコール地区。
既に学校を卒業し、ティターンズのロンド・ベル隊の大尉としてガンダムアレックスに乗る白い悪魔ことアムロ・レイは最初のメールに我が目を疑い、実際に会って驚いた。

「よく、来れたものだ」

其処にいたのはカツ・コバヤシ。嘗てホワイト・ベースで共に戦った仲間であり・・・・戦後行方不明になってしまったフラウ・ボゥと共に去って行った少年だ。
いまや、アムロ・レイはロンド・ベルの一員としてブライト・ノア中佐やエイパー・シナプス少将の指揮下の下、エゥーゴ派の連邦兵(連邦軍の軍紀に基づけば完全な反乱行為でありアムロもその多さにショックを受けた)やジオン亡命軍(こちらは未だに燻るジオン完全独立と言う夢想家の集い。厄介極まりないと言うのがアムロの意見)の鎮圧に手を焼かされている。
が、ロンド・ベルの挙げた戦果も大きく、その為かアムロ・レイやブライト・ノアらの家族、恋人はティターンズと警察の厳重な保護下にある。
自爆テロなどされては申し訳ないですまないからである。もっとも監視していると言う面も否めないが。
そんな中、厳重な情報統制を掻い潜って、会いに来れたカツ・コバヤシ(何故かコバヤシ姓を名乗っていた)。
感嘆に値する。ティターンズの軍服に胸元に白いスカーフを付けたアムロと濃い青色のスーツとズボン、白いシャツに身を包んだセイラは取り敢えずカツと共にタクシーを降りる。

「アムロさん、セイラさん、お久しぶりです。お元気にしてましたか?」

他愛の無い言葉だが、言葉こそ穏やかだが目が笑ってない。
取り敢えず、カツを連れてセイラと共にエコール大学のカフェテラスに連れて行く。
ちなみにエコール大学文学部にあるこのカフェ、『コスモ・バビロン』はブッホ社出資であり、アルコール類も提供する事で話題を呼んでいる。
まあ、学生が飲酒する事を認めるかどうかで学校と市が揉めたらしいが、学長が飲酒運転者は問答無用で退学処分にすることで決着がついた。
ちなみに士官学校の方のエコールでは、逆にほろ酔い状態でMS戦をする訓練がある。敵がパーティをしている時に襲撃してきたという状況だ。あれは吐く。
と、カツが店員を呼ぶ。彼の服装はどこにでも居そうな地球圏の学生のスタイルだった。だが何か違和感がある。何故だろうか、不自然なのだ。その行動の一つ一つが。

「カシスオレンジで」

カツがウェイターに飲み物を頼む。
自分はアイリッシュ・コーヒーを、隣に座るセイラは普通のアールグレイの紅茶を頼む。セイラの車でセイラの宿舎に帰る予定なのだ。そのまま夜も共に過ごす予定だ。
その為か、彼女はアルコール類は飲めない。
他愛の無い話が続く。が、そこでフラウ・ボゥの話が出て来た。彼女はどこにいるのか、と。

「フラウ姉さんは今火星圏にいます。あそこはジオンと連邦が共同で養っていますからね。結構割が良いんです。衣食住付き。
キッカとレツも一緒にMSの宇宙資源採掘作業をしていますよ。ええ、連邦とジオンの温情のお蔭です。
有り難い事ですね。どうもありがとうございます。アムロさんの同僚のティターンズの皆さんにもそう伝えてください」

一区切り。

「感謝している、と」

その言葉は刺々しい。まるで親の仇を話す様な口調だ。思わず周囲を見る。
が、他の学生らはそれぞれの会話に夢中で気が付いてない。そんなカツの思想の裏に見えたのは反地球連邦政府運動、つまりエゥーゴ。
ここは北米州、いわばティターンズの御膝元。そして今週はウィリアム・ケンブリッジ副長官とドズル・ザビとミネバ・ラオ・ザビの非公式の歓談が行われる。
これはミライ・ノア経由でカイ・シデンからアムロ・レイとセイラ・マスに伝わった極秘情報だ。もっとも月のアングラ出版がザビ家地球訪問の事を大々的に報じた為、知る人は知っているが。

「カツ・・・・声を抑えろ。それではまるで脅しみたいだ」

が、アムロの忠告をカツは鼻で笑う。

「アムロさん、本気で言ってるんですか? そんなに・・・・・そんなに今の連邦政府が大切ですか?
ちょっと軽蔑しちゃうな。それがあの白い悪魔のなれのはてなんて」

カツが挑発してきた。あまりの言い方に怒りを通り越して唖然とする。

「カツ、お前は一体何を?」

オウム返しをするアムロ。
それにイラつくカツ。嘗て憧れた英雄が今や体制の犬。それは理想に燃える若者にとって我慢ならないらしい。

「だから、そんなにジャミトフ・ハイマン・・・・いいえ、ウィリアム・ケンブリッジの庇護が受けたいのかって聞いたんですよ。
ウィリアム・ケンブリッジっていうオールドタイプの与える餌はそんなに美味しいんですか?
ああ、そうか、アムロさんもセイラさんもその餌が美味しいから犬みたいに飼われているんですよね?
それ以外の何かに聞こえたらなら僕が悪いんだろうな。あやまりますよ。不本意ですが。」

「カツ!」

思わずセイラが叫ぶ。何事かと数名がこちらを見るが痴話喧嘩だと思ったのか直ぐに視線を逸らした。
自分から修羅場に入りたがるのは余程の大物か馬鹿と相場が決まっているからな。場違いにもアムロとセイラはそう思った。
それに関係なくカツは続ける。

「ところでアムロさん、セイラさん、来年の今日って何の日か知ってますか?」

意味が分からない言葉。

「?」

二人が訝しげな視線を向ける。
そして笑った。

「知らなきゃいけないですよ・・・・・・来年の今日はね、歴史が変わる日なんです。あのキャスバル様が地球圏に戻られる日なんです」

「!?」

セイラが絶句する。一気に頭の中が真っ白になった。一方でアムロは考えた。何故カツがキャスバル・レム・ダイクンの名を出したのかを。
キャスバル。聞き間違いでは無ければ隣座る恋人の兄。そして自分の宿敵。
サイド6で出会ったジオンの将校にして、自分達と何度も戦った憎むべき敵。それがなぜカツの言葉に繋がる?
疑問が、疑惑が、疑念が駆け巡る中でカツは更に言った。

「ニュータイプの世が来るんです。オールドタイプは皆がニュータイプに進化する。その為に力を貸してください。
アムロさんの力とセイラさんのカリスマが必要なんです!!」

それは受け入れられない。
ケンブリッジさんの言い方を借りれば自分の様な、或いはニュータイプ部隊として戦場に投入されたニュータイプなどは政治家たちが自分たちにとって便利な道具として定義しただけだ。
そんな言葉に惑わされるな。自分をしっかり持て。
そう言おうとした時、カツはカシスオレンジを一気飲みした。そして更に告げる。

「そして・・・・・やがてはアムロさんを縛っている飼い主も死ぬ」

アムロは頭が痛くなった。不愉快極まる。カツの言うアムロの飼い主とはウィリアム・ケンブリッジの事だろう。が、あの人は自分の恩人の一人。
ニュータイプ思想に囚われかけていた自分を解放した上にセイラさんと対等に渡り合えるだけの男にしてくれた人物。
チャンスをくれた恩人でもある。それをここまで悪く言われるとは。流石に温厚なアムロ・レイも怒った。

「カツ。お前は酔っている。今日の事は忘れてやるから今すぐ帰れ・・・・セイラさん、行こう」

そう言って3000テラを机の上に置き、席を立つセイラとアムロ。二人はそのまま大学を去る。カツ・コバヤシを置いて。
この日、彼を詰問、尋問しなかったことをアムロ・レイ大尉は後悔する事になるのだがそれはまだ当分先の事であった。




宇宙世紀0087.02.12、去年と同様に地球視察中のドズル・ザビのザビ家分家。
彼は軍人であり、ルウム戦役でもア・バオア・クー攻防戦でも正々堂々戦った故に、直接戦火を交えなかった太平洋経済圏の連邦軍からの信頼が厚い。
その為かザビ家としては例外的にテロの危険性は無いとして連邦政府は定期的な地球訪問を認めた。
当然だが、ギレン・ザビ公王やサスロ・ザビ総帥、ブライアン大統領、マーセナス首相らには独自の思想があり思惑がある。
それは置いておこう。
そんな中、地球にて稽古ごとのヴァイオリンの演奏をホテルのスィートルームでするミネバ・ラオ・ザビ。
観客はウィリアム・ケンブリッジとドズル・ザビ。奥方二人は地下二階にあるフランス料理店でケンブリッジ家の子供と会食中だ。今日は休日なのでダグザ少佐は非番で、ドズルもウィリアムも知らない人間が警護についている。
なお、マイッツァー・ブッホはどうしても外せない予定、祖父の死という突発的な出来事の為にサイド6へ一時帰還している。本人は断腸の思いだと言っていた。
ダグザ少佐は最後まで抵抗したが軍令とあれば仕方ない。それに敬愛するウィリアム・ケンブリッジが家族を大切にしろと久しぶりに『命令』したのだから従った。
何かあれば必ず駆けつけますから、と、過保護な言葉を残して。

(何がそこまで私の株を押し上げたのか不明だ。私なんかに価値は無いのになぁ)

彼の、ウィリアム・ケンブリッジの自己評価もここまで低いと逆に罪悪であろう。
そして私服が無いとも言われるドズル・ザビは兄であるサスロと同じ黒いゼニアスーツに薄い紫のシャツを着ていた。
なお、私ことウィリアム・ケンブリッジの方はいつも通りの格好だ。

「お見事でした、ミネバさん」

あくまで『さん』だ。『様』ではない。自分はティターンズの副長官なのだ。しかももうすぐ4年目に突入する。事実上の君主国の独裁者に弱みを見せてはならない。
尤もそんな政治的な意図など関係なく、ドズル・ザビも娘の成長に笑顔である。とてもうれしそうだ。

「そ、そうか。そう言ってもらおうと嬉しい。ギレン伯父様はウィリアム殿の事を買っておる。
そなたに称賛されてわらわもうれしい。その・・・・・・ええと、その・・・・・褒めてつかわ・・・・」

そこで私は彼女の手を握って言った。
彼女が精一杯なのはわかる。だがそれは大人の仕事だ。それをこんな幼子がする必要はない。そう思った。
だから父親であるドズル・ザビの前で自分はミネバ・ザビと同じ視線まで目線を下げる。そして言う。

「そこはね、難しい言葉を使わなくても良いんだ。一言こう言いなさい」

一呼吸。

「ありがとう、と」

その姿を見てドズル・ザビが涙を拭く為にバスルームに駆け込む。やはりこの男は好い奴だ。そして稀代の人たらしだ。
出来れば敵にはしたくない。彼は、ドズルはそう思った。見かけによらず優しい男だから当然の反応だ。
そしてその時だった。

「あ、ありが・・・・・ウィリアム様!!」

ドアが開いた。一人の連邦軍将校の姿をした女が入ってくる。ミネバの表情が恐怖に強張った。それに気が付いたウィリアムは後ろを振り向く。
連邦軍佐官の階級つけた女はサイレンサー付きの拳銃を構えていた。その目は狂信に満ちている。そして倒れ伏しているSP。大理石の廊下は血で染まっていた。
ミネバという7歳の女の子が恐怖し失禁する程の狂気を放っていた。連邦軍の過激派だろうか?
ウィリアムはとっさにミネバを庇う。このタイミングでドズルがバスルームの扉を開け、呆け、そして我に返って女に突撃する。

「貴様ぁぁぁ!!! ミネバはやらせんぞぉぉぉ!!!」

と。

が、遅かった。

「死ね、独裁者の手先と差別主義者どもめ!!」

銃口から火を噴くのを何故か自分は見えた。そしてそれが必ず自分に当たる事も。



(ああ、死ぬのだな)



銃声が響き、空薬莢が床に落ちる。




同日。
一方で、エゥーゴ運動に対して融和政策を持って対応するマーセナス首相。次期首相を決める選挙が近い為コロニー側も穏やかな情勢を保ちたい。
が、これを許さない勢力が蠢動した。まずはジオン公国の亡命軍と過激派。彼らはこの日の為に年単位でアクシズとエゥーゴの二大勢力とコンタクトを取っていた。
ガンダム試作2号機サイサリスに戦略核弾頭が搭載されたその日、トリントン基地で警報が鳴り響く。海中からの長距離ミサイル攻撃である。

「敵だと!? どこだ!!」

地下司令部にいる開発責任者のゴドウィン少将の言葉に反応する連邦軍。だが、ぬるい。それにジオン軍が動かない。インジビル・ナイツとグラナダ特戦隊は精鋭部隊だと聞いたのだが。
思わず罵り声が司令部に満ちる。

「同胞相手に戦い辛いのは分かるが・・・・それにしては遅すぎるぞ、あのジオニスト共が!」

さらに多弾頭ミサイルが着弾する。阿鼻叫喚の地獄が出来る。
ヨーロッパやアフリカ、中近東と異なり戦争に晒されなかったオーストラリア大陸のトリントン基地は完全に油断しきっていた。
そしてジオン軍は北部インド連合に亡命したマッド・アングラー隊を派遣。南極大陸を迂回させる方法で戦略機動を行う。
オペレーターが自分にMS隊が出る事を伝える。ジオンの派遣してきた部隊だ。しかも新型のRMS-108マラサイが発進する。

(ようやく10機の新型機マラサイが出撃するか・・・・これで・・・・いや、おかしい、9機しかいない。どういう事だ?)

と、その時悲鳴が聞こえた。

『ガンダム試作二号機がマレット・サンギーヌ少佐に奪われました!』

『マ、マラサイが基地を攻撃してきます!! 裏切りです!!! 畜生!!! ジオンの奴ら裏切りやがった!!!』

何だと!?

そう基地司令官が狼狽した瞬間、ミノフスキー粒子と迷彩によってトリントン基地高度8000メートルに展開していたガウ攻撃空母からザク・スナイパーが司令部を狙撃する。
高熱が基地のシェルターを貫通し、ビームが切断する。基地司令官とゴドウィン少将は即死。いや、自分が死んだことさえ理解してないだろう。
方や、新型のマラサイとサイサリスは迎撃に出たジム改15機を全て撃破。マッド・アングラー隊の派遣した部隊と合流してあるだけの新兵器と物資を強奪。その中には更に3発の戦術核弾頭があった。
それを高度8000mで確認したザク・スナイパーのパイロットエリク・ブランケ少佐は呟いた。

「タチアナ、こちらは上手くいった。そちらも上手くいかせてくれ。我らの水天の涙作戦完遂の為に。
俺たちが望む国、誇り高き国、連邦に従属しない真のジオン、その建国の為に。そして独立戦争で散って行った同志たちに栄光の為に」




ジオン亡命軍ならび強硬派によるガンダム強奪の2月前。
サイド7 1バンチ 『グリーン・ノア』にて。
バスク・オムは手に取って資料を見る。情報通である彼には、このプロフィールにある女の正体に感づいていた。
だが利用する。俺を閑職に追いやった連中を見返す為に。なによりあの有色人種の下種野郎を殺す為に。

(死ぬが良い、ウィリアム・ケンブリッジ。俺を舐めるなよ? 必ず殺してやるからな。
その為なら何でもしてやろう。無論、俺の掌の上でだが。ハハハハハハ)



辞令 宇宙世紀0087 01.07

『シェリー・アリスン中尉、エマ・シーン中尉、ガンダムMk2のテストパイロットとする』



そして赤い巨大戦艦が航行する。名を『グワダン』。アクシズがジオン本国に通達せず建造した艦艇である。よってジオン軍も連邦軍も関与しない新造戦艦だ。
カタパルトから数機のMSが発進した。更に後部発着場からは超大型のMAが出撃する。
赤いノーマルスーツを着たクワトロ・バシーナと言う偽名を使ったシャア・アズナブルは愛機である赤い色のリック・ディアスの中で呟いた。

「さて見せてもらおうか、新しいガンダムの性能とやらを」

そして赤い彗星が戦場に舞い戻る。伝説との因縁の血、サイド7。
かつての連邦の英雄の始まりの大地でもまた、再び流血の幕は開けた。

同時多発的に発生したガンダム強奪事件。
それは後に多くの名前で語られる戦いの始まりであった。


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