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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7b44a57a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/25 16:04
ある男のガンダム戦記15

<それぞれの決戦の地へ>




ジオン公国軍の新型機ガルバルディαが宇宙を駆ける。他にもゲルググ量産型が何十機も戦闘行動を取ってベテランパイトロットの駆る軌道を新兵の乗るリック・ドムⅡやザクⅡF2型に見せつける。
別のSフィールドでは艦隊を利用した大規模な演習が繰り返されている。それは対艦攻撃戦闘であり、防空戦闘であり、MS同士の白兵戦であった。
そんな中、数機のガルバルディαが演習を終えて、そのままグワジンに着艦する。
ソロモンから撤退したユーリ・ハスラー艦隊の艦載機部隊と元々Nフィールド防衛の為に展開していた部隊が合流した。

「壮観であるな」

それをみてカスペン大佐は呟いた。少年兵こそ導入してないモノの、ジオンは出来る限りの戦力をこの宙域に集結させている。
ア・バオア・クー要塞には多数の兵力が集結している。その総数は600機近くにも及んだ。もちろん、全てが新型機では無い。
寧ろザクⅡF2型などの方が多く、数の上での主力はザクタイプだ。ザクⅡF2型が戦力の主体となるのは仕方ない。
それでも突破兵力としてのペズン・ドワッジやリック・ドムⅡ、対MS戦の要であるゲルググタイプやガルバルディαなど多数の部隊が展開している。
更にだ、ジオン本国の増援としてア・バオア・クーに入城した第一艦隊、第三艦隊、第五艦隊、ジオン親衛隊艦隊は配置につくべく行動を開始。
最高司令官にルウム戦役の英雄であるドズル・ザビを置いて決戦を目論んでいた。




一方で、ジオン公国が決戦の準備を進めている頃、ジオン共和国或いはムンゾ自治共和国の主君であり、その遺児と自らの同志たちだけでも脱出させなければならないと感じた男がいた。
そう感じたのはジオン公国月面総督府の総督マハラジャ・カーン中将。
彼はジオン国内で俗に言われているオデッサ攻防戦、ヨーロッパ攻防戦が始まる2か月ほど前から総帥府に働きかける。
それはジオン軍の中でもダイクン派、キシリア派として嫌われていた部隊の幾つかを火星圏にある小惑星基地アクシズに送る事であった。
それはサスロ・ザビへの政治工作の成功によって功を奏す。
アクシズは重要拠点であるが、所詮は辺境の一軍事基地。
規模こそア・バオア・クーやソロモンに匹敵するがジオン本国と対等に戦えるほどの力は無い。まして地球連邦非加盟国からも遠く、ジオン本国がその気になれば直ぐに兵糧攻めに出来る。
サスロは更にこう考えた。アクシズにはいずれ誰かを送らなければならない。しかしあそこは遠隔地で人が行きたがらない。
ならばそこを流刑地扱いにして自ら行きたいと言うダイクン派やキシリア派を行かせてしまえば良い。
その後は本国=アクシズ間の補給船団を握ればダイクン派とキシリア派の手綱を握れる。そう考えたのだ。
また軍事の最高責任者であるドズル・ザビだが、当時は我関せずという姿勢を貫いた。彼らしいと言えばらしい。
ギレンもサスロと同様の考えだった。明確な旗印がいない以上、キシリア派だのダイクン派だの言っても所詮は烏合の衆に過ぎないのだと、と。
それがザビ家の考えだった。そこにマハラジャ・カーンは付け込んだ。そして老獪な政治家でもあるマハラジャ・カーン。
この件に関してはマハラジャ・カーンの方が上手だった。
彼は己の裁量下で多数の物資と共に船団を形成。
グワンバン級第二番艦グワンザンを旗艦としたアクシズ方面軍を設立すると月面方面軍から新型機アクトザク36機、ペズン・ドワッジ36機、ゲルググM72機という極めて有力で多数の部隊を送り出した。
それが宇宙世紀0080.06.04の事である。
そして時は移り変わり、宇宙世紀0080.09.06.まさにギレン・ザビが本国を離れて地球連邦の代表であるウィリアム・ケンブリッジと極秘会談していた時の事だ。




執務室でマハラジャ・カーンは呟く。

「アンリ・シュレッサー准将は助けられないか」、と。

選抜を終えて、第三次アクシズ派遣船団の派遣命令を下すべく準備するマハラジャ・カーンは更に自室で天を仰いだ。

マハラジャ・カーン中将。

『月面総督』。

彼の権限は大きいようで小さい。例えば本国方面軍、ルウム方面軍の救援要請には一番に答えなければならない。
しかしその一方で逆は無い。また、ア・バオア・クー方面に多くの戦力を取られている今、月面方面軍は戦力の弱体化はあっても強化は無いだろう。
我がジオン軍はア・バオア・クーを決戦の地に選んだと言う事だ。
そんな中、彼の放った密偵が報告。
ジオン親衛隊や総帥府ら行政機構の指揮下にある警察機構がアンリ・シュレッサーらジオン国内のダイクン派を取り締まると言う動きがみられる。
これを知ったアンリ准将は第一に自分の部下たち、ダイクン派のアクシズ行きを独断で行った。これでは事実上の敵前逃亡である。
だが、ギレン・ザビがウィリアム・ケンブリッジとの交渉の為不在と言うこの時期と、ドズルが戦力の移動を求めており、それにサスロが応えていたこの時期が彼らにとって幸運だった。
彼らの人員のみの輸送はそれほど大きな混乱もなく、ダイクン派数万名を食料や、水などと共にアクシズへ向かわせる。
そしてそれに遅まきながら感づいたジオン公国上層部、というよりサスロ・ザビはアンリ・シュレッサーを逮捕するべく動き出した。
本国に残った最後のダイクン派を逮捕すればその他のダイクン派の意この根を止める事が出来るだろうと信じて。
それは月面総督であるマハラジャ・カーンにとっても仕方ない動きに見えた。アンリ准将の動きはどう取り繕っても敵前逃亡である。
また、来るべき時が来たと言う事を悟らざるをえなかった。

「私もアクシズに行くしかないな。戦艦アサルムと数隻のザンジバル改級にブースターの取り付けを行い・・・・多数の補給船団の用意をする必要がある」

端的に言ってだが、ジオン公国軍上層部の独立戦争の戦争指導は上手くいった。
ギレンが地球視察で知った様に、地球連邦が一枚岩では無いと言う事実に付け込んだ地球侵攻作戦と現政権の政権基盤である統一ヨーロッパ州と他州、特に北米州との分断は成功。
そして7月から開始されていた地球連邦軍の最大級の地上反攻作戦は、ジオン軍に占領された地域の奪還に半分しか成功しなかった為、地球連邦軍は戦略的に敗北したと言える。
さらに、だ。ジオンはルウム戦役を初め宇宙空間では優勢を保ち続けていた。その結果が各コロニーサイドの占領である。
占領されたコロニーの軽工業はジオンの工業力に大きなプラスとなり、非加盟国との貿易は制宙権の奪取によって安定化。
これらはギレン・ザビらザビ家主導の独立戦争の戦略が上手くいった証である。

(が、逆に言えばこの大成功の結果、ジオン本国の国内の反ザビ家は息の根を止められた。
ザビ家の戦略が功をそうする程、連邦に対して戦略面で勝利する程に、我々ダイクン派の勢力は削られる。
それはジオン公国自体にとって良い事かもしれないが、少数派に転落した我らに取っては危険な事態だ)

そしてマハラジャ・カーンは一通の偽装パスポートを作成する。クワトロ・バジーナという地球連邦軍中尉の青年将校のパスポート。
これは月面総督府が尋問し、死なせてしまったが故にその証拠隠滅の為に製作された曰くつきのパスポートなのだが仕方ない。
彼を、あの赤い彗星をアクシズに脱出させるには早い方が安全である。それには各地のダイクン派との提携が必要だ。
何よりも、彼本人の意思確認が必要だったが、この状況下では否とは言えないだろう。

「会わなければならない。彼が、キャスバル様が、あの方がザビ家に殺される前に」




ゴップ大将はまたもや映画館で考えていた。アメリカ合衆国の作った宇宙世紀10年代のアメリカンヒーローを見ながら。
もちろん、周囲には誰もいない。時は宇宙世紀0080.09.01.
ウィリアム・ケンブリッジが対ジオン特別政務官としてジオンのザビ家、いや、ジオン公国と交渉に向かった日だ。

(ジオンは戦後、宇宙で唯一の重工業国家として存続する気か。それもよかろう。既に連邦の工業力は開戦前に比べて2割は減った。
統一ヨーロッパ州が占領下に置かれ、その後は戦火にあった。さらに中央アジア州と中部アフリカ州が内乱状態に突入。
アラビア州はスエズ運河を連邦とジオンの双方から奪い返す為に大軍を編成して失敗。その後遺症に悩んでいる。
また地球連邦直轄領土と特別選抜州であるイスラエルはジオンの占領下。これでは財界の皆さんは顔面蒼白だな。それに比例して軍部の力は巨大化する一方か)

パワードスーツを着た主人公が敵をやっつける。これがMSの原型になったのではないかと思うと面白い。
その隠された特殊兵器が敵の戦車を吹き飛ばす。まあ、その後の展開は如何にも正義は我のみなりというのであまり好かないのだが。

(戦後が見えて来たな。ジオンを存続させて宇宙での再建に利用する。その一方で軍縮を行う。軍縮の対象はレビル君の派閥にあたる宇宙艦隊かな?
地上軍は戦争開始前の予想以上に疲弊した。と言う事は、だ。次期政権は軍縮を旗印にこれの再建は行われないと考えた方が良い。
その為のジオンとの和平でもある。ジオン公国との和平が地上軍の戦力削減に繋がるか。いや、非加盟国問題がある以上そうはならんかな?)

非加盟国はこの戦争で唯一の勝ち組となった。正確には棚から牡丹餅的な状況なので勝ち組になれたと言って良かった。
ジオンが地球侵攻を行い、統一ヨーロッパ州を攻略してしまった以上、ジオン軍にとって地球での補給線の一つとして非加盟国との交流は重大な要件であった。
そしてマ・クベ中将はその案件をクリアした。それも連邦政府や連邦軍が度肝を抜かれるやり方を持って。
自ら少数の兵力だけでシリアとイランを訪問する事で彼らの信頼を勝ち取り、更には敗戦時には多数のジオン軍将兵の受け入れを認めさせた。
もちろん、両国はジオン残党軍を使って地球連邦政府に対してゲリラ戦を仕掛ける、或いは経済的な圧力をかける目論見がある。
故に互いに互いを利用する関係だったが、地球に捨てられたと言っても良いダイクン派、キシリア派にとってこれは大きい支援になった。

(戦後の関係を考えれば非加盟国とジオン公国の関係は冷却する。しかし、非加盟国はジオンの技術を亡命の受け入れと言う方法で手に入れる。
厄介だな。ジオン公国としては何食わぬ顔をして彼らの事を政治亡命者ですと言えばよい。
しかし、我が地球連邦としては戦後の・・・・・ああ、なるほど、だから『ティターンズ』計画なのか。
地球連邦軍の軍内部の特殊部隊。最前線で各地のジオン残党軍として存在させられる敵、ジオン残党軍を鎮圧する治安回復部隊)

戦後復興庁であり、軍内部にも一部指揮権の独占権を持つ事となったティターンズ構想は既に地球連邦上層部では常識の事となっている。
ブライアン大統領らの根回しによって太平洋経済圏の各州と、中米州、南アフリカ州、南インド州、アラビア州が北米州についたこと、更にそれらの議員らが賛成票を投じた為、地球連邦議会は宇宙世紀0080.09.05、昼、戦後復興庁である特別治安回復組織『ティターンズ』の設立を正式に決定。
これを受けて、『ティターンズ』計画の中心的な人物であるジャミトフ・ハイマン少将を委員長とした準備委員会も同時に発足した。
地球連邦は遂に戦後に向けて動き出したと言って良かった。ジオン公国との戦争の如何に問わず、肥大化した軍部の権力を削減する。
その為に劇薬にもなりかねない、太平洋経済圏の、いや、北米州独自の軍事力と言って良い『ティターンズ』の設立を承諾した。
無論、『ティターンズ』は首相直轄となるが連邦議会の多数派工作に既に成功し、副首都であるダカールからニューヤークへ首都を移転させた北米州にとって地球連邦の首相と言うのが如何程の価値を持つのかは神のみぞ知る。




ジオンの地球攻撃軍は有力な部隊を宇宙に打ち上げた。
といっても、数はそれほどではないが、政治将校としても有能なシャア・アズナブル大佐はララァ・スン少尉と共にザンジバルⅢ(ランバ・ラル中佐の乗艦であった)で宇宙にでる。
仮面を取ったシャアは今しがたまで肌を重ねていた為、少し汗ばんだララァと共に自室にて寛いでいた。
艦の経路はサイド6を目指す。そこには三隻の木馬がいる。勿論、勝てるとは思ってない。本来の目的はララァ・スン少尉のエルメスとジオングと呼ばれる新型のMAなのかMSなのか分からない機体を受領する事だ。
その為のテストを受ける必要がある。よって、彼らはサイド6を目指した。そして9月13日、彼らはアムロ・レイと言う少年兵と出会った。

『アムロ、アムロ・レイ君、と言うのか』

『は、はい』

『見ての通りジオンの将校だがいくら敵でもありがとうの一言くらい欲しいものだな』

『す、すみません。こんな時どんな反応して良いのか分からなくて』

『うん? はははは。確かにそうだ』

『あ、あの、もしかして・・・・・赤い彗星ですか?』

『そうだ。戦場で出会った事があるのかな?』

『・・・・・・・・』

『正直だな。よし、ララァ。行くぞ』

『シャア・アズナブル大佐殿』

『?』

『ありがとうございました。その、こんな言葉は変だと思いますがお元気で』

『そう言われると確かに変な気分だな。君もな、アムロ・レイ君』

そうしてシャアは大規模な艦隊と合流する。
だが、その前にララァの導きとでも言うのか、彼はとあるホテルのレストランで一人の女性士官と出会った。
名前をセイラ・マス。いや、本名をアルティシア・ソム・ダイクン。彼、シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンの実の妹だった。
つまり、シャア・アズナブルとセイラ・マスは個人的に接触したのだ。9月15日の前日に出会っているなど偶然と言うには可笑しいだろう。

(まるで映画のワンシーンだ。そんな事があるのだろうか?)

ウィリアム・ケンブリッジはそう思った。
だが、セイラ・マス少尉はそれを偶然と言っていた。信じるべきかどうか。そもそも本当にシャア・アズナブルと出会ったのだろうか?
確かに彼のザンジバル級はこのサイドに入港しているが。それを知らされた私、ウィリアム・ケンブリッジは疑うべきかどうか、迷った。そして呟く。

「本当に君がアルティシア・ソム・ダイクンで、その兄キャスバル・レム・ダイクンがジオン軍のシャア・アズナブルこと赤い彗星だと?
なんか・・・・・すごく言い難いのだが、出来すぎている気がする。キツネに馬鹿にされた気分とはこの事を指すのだろうか?」

と。確かにそうだ。本当に偶然ならこれがシロッコ中佐の言っていたニュータイプならではの感受性と言う事になる。
だが、偶然では無かったら? これがジオンへのスパイ行為だったらどうするのか? しかし彼女目は澄んでいる。嘘とは思いたくない。

(誰かを騙すのも騙されるのももうたくさんだな。仕方いない・・・・疑っても霧が無いんだ・・・・・ここは彼女を信じよう。
かつての若い頃からあの尋問の日まで地球連邦政府を信じたように。彼女を、アルティシア・ソム・ダイクンを信じてみよう。
それに、腹の探り合いなどもうウンザリだ。一緒に戦った戦友を疑うようでは、俺は本当に大切なモノをなくしてしまう。それだけは嫌だ)

そう思って彼は衝撃で立ち竦んでいるブライト・ノア少佐に腰かける様に言う。何とか敬礼して腰かけるブライト。
セイラ・マスもまた、用意されたパイプ椅子に腰かける。自分は予備のソファから座った状態で、指揮官席にはエイパー・シナプス准将が座っている。
その上で、私は彼女に聞かなければならない。もしもこの問いにある方向性を持って、つまりはアルティシア・ソム・ダイクンとして生きると言う事を言うならば自分は決断を下さなければならくなる。
今だって、本国のブライアン大統領からは『善処せよ』という有り難いお言葉を頂いただけである。
しかも連邦議会議長閣下からは『キングダム首相には黙っている事』というお墨付きだ。これは反首相勢力が団結した証拠だろうな。

「セイラさん、で、良いいかな?」

先ずは呼び名を確認したい。こちらから一方的に決める事も出来るがそれは礼儀に反するだろう。
何しろ彼女はこの戦争をセイラ・マスとして生きてきたのだ。セイラ・マスとしてガンダムを操縦して戦ってきている。
それを考えれば、セイラ・マスをアルティシア・ソム・ダイクンとして呼ぶのは人間としてはいけないと思う。まして彼女は被害者だ。戦争の。

「ええ、できればセイラ・マスでお願いします、ウィリアム・ケンブリッジ特別政務官」

そう言って掌を女性らしく組む。その仕草は確かに様になっている。
彼女があのジオン・ズム・ダイクンの遺児というのも納得できそうだ。

「そうか。私もウィリアムで良いよ。あまり堅苦しいのは嫌いなんだ。本当は・・・・本当は、いや、何でもない。
さて、一つ重大な事を聞いておかなければならないのだが良いかな?」

どうぞ。
セイラは無言で彼を促した。

「君はセイラ・マスとして生きるのか、アルティシア・ソム・ダイクンとして存在するのか。一体どちらを選ぶんだい?
誠に言い難いが戦後の事を考えると君の選択次第では身柄を拘束する必要も出てくる」

その言葉にブライト少佐がショックを受ける。一方でシナプス准将はこうなる事を予期していたのか自身の愛用の拳銃をホルスターから引き抜く。
ここではセイラ・マス、或いはアルティシア・ソム・ダイクンよりも、彼ウィリアム・ケンブリッジ特別政務官の方が重要なのだ。
いきなり掴みかかられて殺されかけて、若しくは殺されては洒落にならないし、冗談にも、面白くもなんともない。
が、次に出てて来たのは男達全員が考えもしなかった言葉だった。

「特別政務官・・・・・あなた、本当に優しいのですね」

と、セイラが言った。虚を突かれるウィリアム。そう言われるとは思ってなかった。きっと蛇蝎の如く嫌われると思っていたのだが。
そう言えば優しいと思われるのはいつ以来だろう? あの日から、裏切られた事を知った日からずっと前しか向いてこなかった。
でも。それは間違っていたのか? 周囲に目を向ければジャミトフ先輩やダグザ少佐の様に自分を理解してくれる人々がいる。
シナプス准将やタチバナ中将の様に頼りになる人物も居ればブライト少佐の様に自分を慕ってくれる人々がいる。

(初めてサイド3を訪れた時に比べてなんともまあ、荷物が重くなったな。それが生き方と言うモノなのだろうか?
良い生き方であれ、と、神様に祈ることぐらい許されるだろう。きっと、こんな俺でも家族と友達と一緒に戦後を迎える事を祈ることぐらい許される)

そう思うとしっかりとセイラの目を見る。セイラ・マスと言う第三者では無く、セイラと言う人間を見る。

「ありがとう、お嬢さん。そう言ってくれる人とは長い間出会ってなかった気がするな。
それで先程の質問に答えてもらえるかな? 
私としても、君が最悪の選択を選ぶ場合は君を拘束してワシントンなりキャリフォリニア基地なりに送らなければならない。
仮に、ジオン・ズム・ダイクンの娘としてサイド3に帰還、サイド3の政権奪還を目指すならば、それはもう許されない事だ。
正直に言おう。今のザビ家の統治は決してダイクン時代に劣ってはいない。寧ろ優れている点がある。
ダイクン時代のジオン共和国、いや、当時はムンゾ自治共和国か、では独立戦争なぞ起こせなかった。それが今や1年以上の長きに渡って戦争を継続している。
これは驚くべき進化だ。進歩じゃない。国家としての進化だと私は思う。
だが、アルティシア・ソム・ダイクンとして認めたくないだろうがその進化をもたらしたのはジオン・ズム・ダイクンではない。
デギン・ソド・ザビを頂点頂く、ギレン・ザビを中心としたジオン公国首脳部が作り上げた進化なんだ。それを忘れないでほしい」

セイラは少しだけ姿勢を動かし、パイプ椅子に腰かけ直した。一体この説明に何を感じたのだろうか?
ジオン公国が国家として優れている。ジオン・ズム・ダイクンは指導者、或いは開拓者として優れていたかも知れないが、国家の運営責任者としては片腕であったザビ家一党に遥かに及ばなかった。
ウィリアム・ケンブリッジはそう言ったのだ。そしてそれは事実と言って良い。非加盟国が宇宙世紀元年以来成し遂げられなかった地球連邦政府との対等の対話、南極での交渉を実現化するのにジオン公国が、いや、ザビ家が使った時間は20年弱。
そう考えればこの考察は正しい。そうだからこそ、地球連邦内部の終戦・講和締結派はザビ家を対等な政治プレーヤーに選んだ。

「そこまでハッキリ言って下さるのは・・・・・個人的な好意からですか?
それとも私を利用してワシントンやジャブローで特別政務官ご自身の政治的な得点を稼ぐ為ですか?」

その発言も中々度胸がいる。これは相手が独裁者であれば銃殺刑もあるだろう。というよりも普通の高級官僚相手でも自殺行為に近い。
だが、ここは民主主義国家であり人権を擁護する地球連邦の一部。そこでそんな事を言っても挑発にはなっても刑罰にはならない。

(セイラ少尉は一体どう思っているのだ? 私を試そうとそう思っているのか? それとも自身の生き方につかれたのだろうか?
そう言えば、彼女が地球へ亡命したのはまだ5歳にもなって無い筈だ。そう考えると彼女のこの達観した考え方も分かる気がする。
しかし、分かるからと言ってはぐらかされる訳にもいかない。ここはしっかりと彼女の、セイラ少尉の本心、それが無理でも言質を取らないと)

無言の視線。交わる視線と言葉。
先に口を開いたのは、或いは開かざるを得なかったのはセイラ・マスの方だった。
彼女が如何に大人びているとはいえ、彼女が見つめたのはかのギレン・ザビと互角に交渉したウィリアム・ケンブリッジ。
更にセイラはある意味で自分以上の大人と会ってない。特にホワイトベースに来てからはなおの事である。精々スレッガー・ロウ中尉かブライト・ノア少佐だ。
他の面々は年下か、同い年、もしくは面識が薄く、更に自分がジオンの遺児であると言う事から必要以上に他の連邦軍将校との接触を避けてきた。
また、セイラ・マスがスレッガー中尉から姫と呼ばれるように、その物腰から自然と敬意を集めてきた。この点は兄のシャア・アズナブルと同じである。
そしてそうであるからこそ、今回もそれが通用すると思っていた節がある。
が、地球連邦高官、地球連邦議会議員、ジオン公国首脳部、木星船団副船団長と正直言って碌でもない連中に目をつけられているウィリアム・ケンブリッジだ。
この手の腹芸はお手の物になってしまった。遺憾ながら。

「私はセイラ・マスです。それ以上にもそれ以下にもなりたくありません。そして地球連邦が私の身分を保証してくれるならその一市民として暮らしたい」

それは本音。セイラはもうアルティシア・ソム・ダイクンに戻りたくは無かった。あの政争と暗殺に怯える暮らしはもう嫌だった。
義父と兄では無い、本当のシャア・アズナブル、そしてそのシャア・アズナブルの両親は自分たちが殺してしまったようなものだ。
一週間戦争中に出発したシャトルは暴走した一部のジオン軍のMS隊により破壊された。アズナブル夫妻もそのシャトルと運命を共にした。

(そうね。考えると兄さんと私。父さん達ダイクンの血筋は死神の血筋なのかもしれない。
これは昨日、ここで夜を共に過ごしたアムロから聞いた話けど、アムロのお父さんはこのサイド6の病院で、酸素欠乏症にかかった意識不明の重体。
ランバ・ラルも私が殺してしまったようなもの。もしもあの時アルティシアと名乗らず彼に殺されていれば彼は生き残れた。
そして、赤い彗星のシャア。いえ、兄さん。キャスバル兄さん。兄さんの為にホワイトベースはパオロ艦長を初め多くの人を失った)

ゴト。シナプス司令官が先を促す為に敢えて、銃からマガジンを取り出して机の上に置く。安全の為に、更に銃に残っていた一発も取りだす。
それは彼女を無言で頷かせる効果があった。

「では、セイラ少尉。貴女はこれからも連邦軍のパイロットとして戦う、そしてアルティシア・ソム・ダイクンとは名乗り出る事は無いと、そう仰るのですね?」

その言葉にセイラ・マスは頷いた。




地球連邦軍のソロモン攻略作戦はあっけない程簡単に成功する。
ソロモン要塞には第二級線どころか第三級線の戦力しか存在せず、地球連邦軍が本格的な攻撃に転じた時点で艦隊は脱出を開始。
ソロモン要塞も放棄された。それを猛追するレビル指揮下の第3、第4、第5、第6の四個艦隊。残りの第7と第8、第9はソロモン制圧を主任務とする。
その作戦は功をそうする。各艦隊は想定外の損害の低さで宇宙要塞ソロモンを奪取した。これは栄光の道への第一歩、勝利への第一歩だと多くの将官が感じた。
そして、レビル将軍の旗艦『アナンケⅡ』が護衛艦36隻のサラミスKに守られてソロモンの主要宇宙港に集結した時、それは起きた。

「光?」

その言葉がレビル将軍の最後の言葉となる。

『ゲルドルバ作戦』

地球連邦軍に敢えてソロモン要塞を明け渡し、その後に直径6kmのコロニーレーザー砲、つまりソーラ・レイで連邦軍を吹き飛ばす。消滅させる作戦。
この作戦の為にサイド2から数基のコロニーを回収したのだ。そして数か月かけて準備した。第二のルウム戦役を生み出す為に。
混乱する地球連邦軍にソロモンから撤退したように見せかけたニュータイプ部隊が同数の追撃部隊に対して急襲を仕掛ける。
圧倒的な数を誇る筈の地球連邦軍はソーラ・レイの攻撃で大混乱に陥る、その結果、追撃部隊は横の連帯も盾の連携も出来ずに少数のビット搭載機、MAエルメスの交戦力によって数を確実に減らしていた。
それでもだ、何とか部隊を再編して大軍で押しつ潰そうとしたがそれを確認したシン・マツナガ少佐は即座に撤退命令を下す。
彼らに取ってこれはあくまで戦果の確認であり威力偵察でしかない。その戦いで貴重なエルメスやゲルググ高機動型を失う訳には行かないのだ。
連邦軍の追撃する数個偵察艦隊を逆に壊滅させて凱旋するジオンのニュータイプ部隊。

「ジオン宇宙軍は依然として健在なり!」

ソロモン要塞への攻撃を完遂したシン・マツナガのこの言葉こそ彼らの誇りを見せて瞬間であった。




宇宙要塞ア・バオア・クーでは作戦の大詰めが行われていた。

「ギレン兄貴のソーラ・レイによって地球連邦軍の三分の一は消えた。だが、それでも敵の総数はこちらと互角かそれ以上ある。
艦隊総数では明らかに連邦軍が上だ。ルウム戦役とは違い敵にもMS隊が存在しおり、その性能差が殆ど無い場、艦隊戦では勝ち目はない」

ドズル・ザビ中将は会議冒頭でこのように述べた。連邦軍は9個艦隊540隻と補給艦隊200隻を動員していた。
ジオン軍はどれ程努力しても200隻前後にしか艦隊を集結させられない。更に間の悪い事に、サイド2に地球連邦軍第1艦隊と第2艦隊の二個艦隊が迫っている。

「が、ここでこのア・バオア・クー要塞と月面都市グラナダの位置が重要になる。見ろ」

そう言って居並ぶ将官、将校の前に地球連邦軍の予想進路を出す。当初の地球連邦軍はあくまで堅牢な要塞であるア・バオア・クーを落とす事無く、そのままジオン本国へ進軍すると思われていた。
だが、それもソーラ・レイ、つまりコロニーレーザーの存在で大きく変わった。下手にジオン本国を突こうとするとこれに、ア・バオア・クー駐留部隊とソーラ・レイに撃たれる可能性が出て来た。
ジオン本国は攻撃できない。しかもジオン本国を狙って地球連邦軍が進撃すれば、ジオン宇宙艦隊は左右から挟み撃ちに、若しくは後方から急襲を仕掛ける事が出来る。
そう考えればジオン艦隊が健在なままのア・バオア・クーを放置する事は出来なくなった。尤も、従来の戦力であればそのまま艦隊を無視する事は出来ただろう。
或いは一部の予備兵力を張り付けてジオンの攻撃を吸収する盾の役割をもたらしたかも知れない。だが、最早それは出来ない。

「現状で戦力を分散すれば各個撃破される。そして一度ソロモンなりルナツーなりに戻ればそのまま修理が完了したソーラ・レイに撃たれる。
と言う事はだ、連中は必ずここに来る。ここを落として多数の捕虜を得て、人間の盾を手に入れない限り連邦艦隊に安住の地は無いからな。
ソロモンを放棄していた事が奴らに安堵をもたらしたが、今からはそれが奴らを必死にさせる。心せよ」





地球連邦は和平交渉に向けて一人の青年とコンタクトを取る。彼の名前はガルマ・ザビ大佐。ザビ家の末子。
ブライアン大統領は彼に椅子に座るように勧めた。ガルマは安物の地球連邦が支給したスーツを着ながらも椅子に座る。
ワシントンの執務室には州政府の代表であるブライアン大統領や州議員らの姿があった。誰もがスーツ姿、つまり文官である事にある種の感動を覚える。ジオン本国では決してみられない光景だからだ。

「この間はすまない事をしました。お許しください」

そう言って娘の非礼と同僚の非礼をわびるヨーゼフ・エッシェンバッハ議員。娘を近づけたのはあくまでザビ家に牽制球を投げる目的があった。
それがあんな事態、ウィリアム・ケンブリッジが飛び掛かるとは彼にも思いもよらなかった。しかも公衆の眼前で。

(あの男は自分の立場を忘れてガルマ・ザビに飛び掛かった。それはいかん。
ウィリアム・ケンブリッジは私のライバルであるが、それと同時に例の『ティターンズ』計画の主要人物でもある。
その人物が理性を捨ててザビ家に喧嘩を売った、それが北米州の意見となれば最悪ジオンの北米侵攻を招く。
何としても彼が作ったマイナスイメージを払拭したいモノだ。いや、払拭しなければならないだろう)

そう思っているとガルマは陳勝に謝罪した。
少し自己弁護が入っていたが自己弁護しない人間などいないのだからそれは仕方ないだろう。
要約すると以下の様になる。

『自分は多くの連邦兵士を殺害した。ザビ家の一員であるにもかかわらず軽挙妄動に走り、最終的には戦争の引き金を引いた。
結果として何百万人も殺して、何億の人間の家や生活、家族を奪い去った。謝罪して済む事ではないが本当に申し訳ない事をした。
自分だけが戦争を終わらせられるとは思わないが、それでも終戦への道筋を作りたい。その為に力を貸して欲しい』

と。これに対して歴戦の政治家であるブライアン大統領は簡潔に聞く。

「具体的にどうしろと仰るのですか?」

微笑みながら聞く彼も役者だろう。自分達から頼むのではなく、ザビ家の人間にそれをやらせる。
ザビ家が屈伏したという印象操作を行いつつ、ジャブローを牽制する。更には自分達太平洋経済圏の利益である戦争終結と言う利潤を追求する。
この三つを両立するという意味では彼はやはり政治家であった。さらにエッシェンバッハが問う。

「出来る事と出来ない事があります。また、この戦争をザビ家である貴方が終わらせると言う事はそれだけの覚悟を求められる事です。それが出来ますか?」

ガルマ・ザビはその言葉に頷き言う。

「私はガルマ・ザビだ。ザビ家の男だ。無駄死には出来ない。必ず兄たちを説得する!」




宇宙要塞ア・バオア・クーに集結したジオン軍。
第一艦隊、第三艦隊、ジオン親衛隊第一戦隊、第二戦隊、ルウム方面の第五艦隊の3分の2である。
要塞守備隊司令官にはトワニング准将が着任。敵の主力部隊とぶつかる予定のNフィールドの防衛隊、前線部隊にはカスペン大佐が、敵の陽動部隊が来ると思われるSフィールドにはフォン・ヘルシング大佐が。
Eフィールドには要塞予備兵ならび機動兵力としてノルド・ランゲル少将が、Wフィールドにはニュータイプ部隊と白狼連隊のシン・マツナガ中佐(8月上旬の独立戦隊殲滅の功で昇進)が担当する。
方や、ジオン本国にはシーマ・ガラハウ大佐指揮下のジオン親衛隊艦隊の第三戦隊が駐留。月面都市グラナダにはマハラジャ・カーン中将が守備隊を指揮する。
地球連邦軍がソロモンで使ったソーラ兵器を使えない事は彼らの情報、通信を傍受した事でハッキリしている。と言う事は、単純なる決戦になる。
作戦会議の場でドズルはこの戦いにジオン公国の全てがかかっていると言って鼓舞した。更に自分はここで戦死するか勝利するまで離れる事は無い。そう言いきった。

「敵はソロモンを出発する準備が整っている。数はおよそ400隻。我がジオン軍の2倍弱。更にだ、これが動いた」

そう言って彼はスクリーンのサイド2方面、サイド5方面を指揮杖で指す。そこにはルナツーを出港した第1艦隊、第2艦隊、第12艦隊の合計180隻に補給艦60隻という240隻の大艦隊が両サイド解放の為に動き出した事を指さしている。
ルウム解放はア・バオア・クー戦後と思われていた地球連邦軍であったが、それ以上に政治が彼らに戦果を求めた。
宇宙艦隊の主力とレビル将軍と言うカリスマを失った地球連邦軍は何としてもこの戦いに勝利しなければならなくなった。
その為に派閥抗争をいったん棚上げにして動き出した。
既にサイド2守備隊は無条件降伏するか撤退しており、残りはサイド5のカーティス大佐指揮下の僅か15隻のムサイ級後期生産型と一隻のティベ級重巡洋艦である。
これで勝てる方がどうかしているが、サイド5の陸戦部隊を回収しなければならない。その為には正面から衝突する。悲鳴のような通信文と共に。




「ジークフリート、ワルキューレ轟沈!! 連絡途絶!!」

指揮シートでカーティス大佐は己の判断の甘さを呪った。
敵は同数。いくら木馬が三隻居ても問題は無いと思っていた。時間くらい稼げるとも。それはあまりにも甘い予想となって彼らを襲う。
カーティス艦隊は一瞬にして艦隊上空から襲撃をかけた連邦の白い悪魔の影響で二隻のムサイを戦闘開始から僅か1分で喪失。
迎撃に出たリック・ドムⅡらも連邦軍のジム・スナイパーⅡのみで編成された木馬のMS隊に阻まれて前に出られない。
特にアルビオンと言う旗艦は宇宙空間の戦闘経験があるのか、我がジオン軍、それ以上に動きが良い。
余程よい指揮官に、良い将兵に恵まれた部隊なのだ。このままでは敗れ去る。その可能性が高い。

この第二次ルウム戦役の特徴であるのが双方の指揮官が非常に理性的な事にあった。彼らはこのまま戦ってコロニーそれ自体を崩壊させる事を望まなかった。

そこでウォルター・カーティスは戦闘開始から30分後に降伏を申し込む。
この時点で残存戦力は10隻を切り、何より攻撃の要であるリック・ドムⅡが全滅していた事もあるが、それでも血みどろの戦いを最後まで続ける傾向のあるジオン軍と連邦軍では異例の展開である。
もちろん降伏論に反対な部下たちは多かった。全滅するまで戦うべき、或いは撤退すべき、コロニーを盾に使うべきなど多彩かつ過激な意見が出た。
だが、カーティスはそれを全て黙殺する。若しくは反論する。

「我々はコロニーの独立の為に戦ってきた。それがいくら他国とはいえ同胞であるスペースノイドを盾に使うとは恥ずべき行為である。
更に主力部隊をア・バオア・クーに引き抜かれた今、部下を無駄に殺させることは出来ない。我々はルウムの残った最後の部隊だ。
我々がいなくなればルウム首都バンチに居る5000名の戦友はどうなる? 怒り狂ったルウム市民の中に放り込めというのか?」

そう言って。が、カーティスは別の対策を立てた。ルウムからの陸戦部隊の降伏ならび捕虜の輸送をアルビオンのエイパー・シナプス少将(レビル将軍の死によって急遽昇進)に頼んだ。これは嫌な一手だ。
彼はそれが守られないなら最後の一兵までルウムで戦うと宣言した。その宣言を真に受けた訳では無いが、無視も出来ない。
しかし、アルビオンの部隊は強力である。第13独立戦隊は連邦軍でも最強クラスの部隊の一つなのだ。
これをそれ以上の犠牲を無く、ア・バオア・クー戦に投入させまいとするカーティス大佐は腐ってもジオンの将校であった。
そして、シナプスは上官である第1艦隊のクランシー中将の命令で、サラブレッド、ホワイトベースに第14独立艦隊時代からの指揮下にあった3隻のサラミスK級を与えて先遣隊としてア・バオア・クー要塞に派遣する事を協議の上、決定した。
劣勢でありながらも木馬を一隻戦線から脱落させたのはカーティス大佐の勝利と言っても良かった。




「ソロモンを出る」

レビル将軍がアナンケⅡと共にこのソロモン宙域に散ってから1時間後、艦隊の再編をブレックス少将に任せた宇宙艦隊司令長官であるティアンムはワッケイン少将を初めとする将校に即座に今後の方針を伝えた。
ソロモン要塞に籠もっていれば例のソーラ・レイと言うコロニーレーザー砲の第二撃を受ける可能性が高い。いや、ギレン・ザビなら躊躇なく要塞ごと焼き払うだろう。
そうなってしまえばせっかくの数の利点を失う。更に、だ。今の地球連邦艦隊を失えば戦争そのものを終わらせる事になる。
戦後に来るのは軍縮であり、真っ先に粛軍の対象となるのは戦争を煽ったと陰で言われている自分達レビル将軍派閥だ。
いや、連邦の軍人としてそうなるのも覚悟の上だが、それ以上に地球連邦軍の一部としてジオン公国と雌雄を決したという気持ちがある。
また、総兵力では地球連邦軍がまだ優位なのだ。戦力の絶対数こそ足りないものの、総対数で見れば地球連邦軍の方が2倍はある。

「ソロモンに居ても敵の第二照射を受ける可能性が高いだけでもはやメリットは無い。またジオン本国を突くのも危険だ。
ここはジオンの最終防衛戦であるア・バオア・クー要塞を陥落させて、それを持ってジオン軍に圧力をかける。何か質問は?」

そこでワッケイン少将が聞く。

「ルナツーの残存艦隊はどうしますか?」

と。
まあ、答えは決まっている。今から出撃させても間に合う筈も無い。ならば、命令する事は単純である。
まだ敵の戦力が存在し、尚且つ政治的な得点を稼げる地域への侵攻。

「ルナツーの第1艦隊、第2艦隊、第12艦隊はサイド2、サイド5に侵攻し、同地域を解放せよ。さらに第11艦隊はルナツー守備として残留。
残存艦隊の再編は後5時間だ。その後3時間の休養を取った後に、全艦を持ってア・バオア・クー攻略に向かう。
また、この戦いはア・バオア・クー要塞内部での白兵戦と敵艦隊との艦隊戦の二つが同時並行するだろう。そうである以上、全軍には今まで以上に勇戦を期待する!」




ジオン公国のサイド3、首都バンチ、ズム・シティ。
ここの電子ネットワーク上である取引がされていた。情報の売買と言う取引が。

「そうか、ドズル・ザビは主力を率いてア・バオア・クー要塞に向かったか。そしてギレン・ザビとサスロ・ザビはデギン公王と共にサイド3に残る」

その言葉に何事かを考える准将。
准将の名前はアンリ・シュレッサー准将。通称、最後のダイクン派と呼ばれている男である。それは嫌味。
本来の主君であるジオン・ズム・ダイクンを守る事が出来ず、ダイクンの遺児たちの地球亡命を阻止できなかった事が彼を追い詰めた。
さらに情報提供者は爆弾を投げつける。

「シャア・アズナブルがキャスバル・レム・ダイクンである事がザビ家上層部に悟られました。ザビ家は赤い彗星を排除する気です」

その言葉に一気に脳が覚醒する。
現在、赤い彗星はサイド5経由でア・バオア・クーに移動中である。そう考えればこれは彼らの謀略では無いのか?
最初からキャスバル様を殺す為にサイド5に集めた。そして、今まさに殺さんとしている。地球連邦軍の白い悪魔にぶつける事で。

「決起するしかない」

そう、決起だ。アルティシア・ソム・ダイクンが地球連邦軍に居る以上、彼女は旗頭になれない。なってはいけない。
既にガンダムアレックスを扱うアムロ・レイと呼ばれる連邦の白い悪魔程ではないが。アルティシア様の両手もジオン公国国民の血で真っ赤に染まっている。
そう考えれば、彼女、アルティシア様のみを旗頭にすれば遺族が黙っていないだろう。
特に地球侵攻に送られてオデッサを巡るヨーロッパ中部の激戦を生き残った、戦死した将兵らにとってはどう考えても裏切り者になる。
これを踏まえた上で、ザビ家上層部はシャア・アズナブルとしてキャスバル様を切り捨てるつもりだ。

「・・・・・タチ中尉、君の残したデータは役に立ったぞ。安らかに眠れ。そしてジンバ・ラルよ。我が同志よ。
必ずこのザビ家独裁体制を崩して見せる。そして真のスペースノイド独立国家の誕生を祝おう。無論、俺はその新国家にはいないがな」




サイド6の宇宙港。

「お会いにならないので?」

そう聞くのは2時間後に出撃する第13独立戦隊の指揮官であるエイパー・シナプス准将(この時点ではまだレビル将軍は生きていた)。
会うと言うのは決まっている。妻のリムだ。リム・ケンブリッジ大佐。自分が愛した最愛の女性。
本当は会いたい。会って抱きしめたい。だが、それは今は出来ない。彼女は義務を果たす為にここに来た。軍人としての義務を果たす為に。
そしてその覚悟を無駄には出来ない。
自分も義務を果たす為に来た、地球連邦の官僚として、和平を、ジオン公国との和平を行う為に。

「会えば別れがつらくなります」

そう言って目を伏せる。

(苦渋の決断か。妻がいる者、夫が軍人な者、子息を軍に取られた者などいろいろな立場がある。
そのすべての者が通り道。それを彼も通るのか。嘗ての自分が父と母の背中を見送った様に。ならば何も言うまい)

第13独立戦隊はこうして出港。目標をルウムに定めて出撃する。




宇宙世紀0080.09.25.ソーラ・レイによるソロモン要塞狙撃と言う事件から約3日後。地球連邦軍の前衛部隊は遂にア・バオア・クー要塞を射程に捕えた。

『全艦、対要塞ミサイルによる攻撃を開始せよ!』 

ワッケイン少将を先陣としたティアンム指揮下の5個艦隊凡そ400隻は一気にア・バオア・クーの堅陣を突破するべく行動する。
ミサイルのシャワーがア・バオア・クー要塞に降り注ぐが、ジオン軍も負けてはいない。ジッコ突撃艇とガトル戦闘艇の二つで対ミサイル迎撃戦を開始。
ジオン本土では二級線どころか、兵器として扱われてないがこの国家非常事態にはそのような贅沢は言ってはいられなかった。
ドズル・ザビは大量のミサイル迎撃網を彼ら旧世代の兵器に任せる。そして、無線誘導式でありミノフスキー粒子の散布下ではただのロケット弾と言い換えても良いミサイルでは彼らの防衛網を効果的に突破する事が出来ない。
それでも数千発に及んだミサイルは一部がジオン軍の迎撃網を突破。要塞の固定砲台にまで影響を及ぼす。
衝撃が要塞全土に伝わるが、それでも一時的なものである。ドズル・ザビ以下、ジオン公国首脳部はこれを序曲と考えていた。
実際に本当の攻撃はこれからである。

「敵マゼラン級が接近。数・・・・凡そ50隻前後!?」

オペレーターが悲鳴を上げるが、それを抑える。
Nフィールドには連邦の大艦隊が隊列を組んで接近してくるのがスクリーンに映し出される。
流石にルウムを経験してないア・バオア・クー守備隊にこの規模の敵に驚くなと言うのが無茶が過ぎるのだろうか?しかしなれてもらわなければ。

「うろたえるな。大蛇を使う。Nフィールドのカスペン大佐ならび、603部隊に連絡せよ。ヨルムンガンドの超長距離射撃でルウムでの悪夢を思い出させてやれ!
更にMS隊に伝達。ガルバルディα、ゲルググ、アクトザク隊は対MS戦闘スタンバイ。ペズン・ドワッジ、リック・ドムⅡ隊はまだ出すな。
こいつらは全て対艦部隊として温存する。デラーズ、コンスコンの艦隊は敵の側面を突く。そうすればア・バオア・クー守備隊と呼応して敵を挟み撃ちできるぞ!」

その激励に反応したのか、各地のジオン軍が活発化していく。MS隊も一気に展開しだした。一方で連邦軍も負けては無い。
連邦軍はこの戦いに負ければ再建した宇宙艦隊をまた失う。特に大西洋経済圏と地中海経済圏を損失した地球連邦にとって次の宇宙艦隊再建などあり得ない。
ここで勝ってもらうか、最低でも引き分けに持ち込まないと許せない。いくら一心同体であり一蓮托生のキングダム首相とてそれくらいの損得勘定はある。
つまり、だ。レビル将軍を敵のコロニーレーザー砲とでも言うべき存在により失った地球連邦軍は何としても勝たなければならなくなった。
と言う事はだ、ドズル・ザビ指揮下のジオン軍は守りきれば勝利となる。これは大きい。地形上の優位さがあるア・バオア・クー要塞を守り抜けば勝てるのだから。

「ヨルムンガンド撃ちます!」

大蛇のプラズマ砲が二発連続で放たれる。しかし、これある事を予期していた連邦艦隊は即座に円形の散開陣形を取って各艦の距離を取る。
この動き方は明らかにジオン軍のヨルムンガンドに対応する為の動きだった。内心で舌打ちするドズル。

(やはり簡単には勝たせてくれんか。敵機の上陸は避けられないかもしれん)

戦況は攻める連邦軍、守るジオン軍と言う形をとりつつも、MS隊の白兵戦を中心として動き出そうとしていた。




ア・バオア・クーに向かう10隻のムサイ後期生産型(S型)と一隻のザンジバル級。シャア・アズナブル大佐の部隊である。
サイド5攻防戦を無視して、新型MAエルメスと足が付いたジオング、所謂、パーフェクト・ジオングという異名を何故か持っている機体と共にア・バオア・クーに急ぐ。
周囲には最上級の階級の持ち主と言う事と、有力な艦隊と言う事で周辺の偵察艦隊やサイド5からの脱出組(カーティス大佐が苦心して脱出させた部隊)が合流。
やがてその戦力は25隻にまで膨れ上がった。その規模は第13独立戦隊が攻撃を行わない程であった。

「大佐、まもなく地球連邦軍の後方12000kmになります。敵のレーダー圏に入ります。ご指示を」

マリガン大尉が聞く。ドレン大尉のキャメルパトロール艦隊も合流した今、この艦隊はリック・ドムⅡとゲルググ量産型、ザクⅡF2という多様な機種で構成されているがこのまま何もしないのは性に合わない。

「よし、ジオングを出す。各艦隊に攻撃態勢を。ドレンの艦隊を後背に配置しておけ。木馬部隊との挟撃を避けるのだ」

かくして、赤い彗星は戦場に舞い戻らんとしていた。




ズム・シティではサスロ・ザビが決断を下した。

「ギレン兄、やるぞ。武装警察部隊で一気に首都防衛大隊を襲撃する。罪状は総帥暗殺未遂、国家反逆罪、クーデター示唆罪だ」

グレート・デギンとジオン親衛隊艦隊第三戦隊、シーマ艦隊が首都防衛に残っている。ダークコロニー査察を名目にザビ家は全員がズム・シティを離れた。
それはアンリ・シュレッサーを誘い出す為の罠。正確には国内に残ったダイクン派とキシリア派の双方を粛清する為。
ア・バオア・クー要塞でまさに地球連邦軍の攻撃が始まったその時、ジオン国内でも地球連邦政府との和睦達成の為の大掃除(ザビ家から見た)が行われる。

「だが、サスロよ。彼らも国を憂いている同志だ。降伏する者は丁重に扱う事だな」

ギレンが書類を見ながら言う。これはあくまでポーズとして発言しただけだ。心の奥底ではギレンは反乱部隊に情け容赦などするなと言っている。
その証拠にギレンは第三戦隊のMS隊をズム・シティに送るつもりだ。首都防衛の為とはいえ、所詮は傷痍軍人で編成されたザクⅡ改の部隊。
健常者であり、実戦経験も豊富なシーマ艦隊のゲルググM部隊やペズン・ドワッジで構成されたジオン親衛隊総帥府防衛隊が相手では数刻として持つ事無く壊滅するだろう。
そう受け取っていた。実際にアンリ・シュレッサーは赤い彗星シャア・アズナブルがジオン国内で生き残れるなら動く気は無かった。
だが、ザビ家が故意にリークした情報でその可能性が無くなった。ザビ家はダイクン派の利用価値は認めた。
ダイクン派が、そのダイクン派からザビ家に、正確にはギレン・サスロ派に乗り換えるなら問題とはしない。
しかし、ダイクン派のそれ自体の復権は認めておらず、これはキシリア派も同様だが、これに反対する存在やダイクン派の旗頭になる存在は許さなかった。
つまり赤い彗星ことキャスバル・レム・ダイクンのジオン本国帰還を認めないと言う事だ。

「分かっている。国内向けのパフォーマンスが必要と言う事くらい。それでギレン兄貴、いつ始まる?」

普段通りにゼニアのスーツに身を固めたサスロは実兄のギレンに聞く。ズム・シティをそう長く開けておくわけにはいかない。
そう考えると彼らが暴発するなら早い方が良いのだ。そう思っていた。そして、それは達成された。
宇宙世紀0080.09.25.この日はジオンにとって二重の意味で苦難の日々になる。ザビ家の体制に反発するダイクン派とキシリア派が国内の主要拠点があるズム・シティで一斉に蜂起した。『暁の蜂起』と呼ばれる事件の発生である。
かたや、ア・バオア・クー要塞にもまるで連動するかのように地球連邦軍がその姿を現し、総攻撃を開始した。

「ギレン閣下、閣下の予定通り、アンリ・シュレッサーは宇宙港を中心に部隊を展開。こちらの第三戦隊と交戦状態に入りました」

セシリア・アイリーンが報告する。
流石に総帥府を空にする訳には行かないので彼女は総帥府にいる。護衛のガルバルディαを6機ほど付けて。

「それと既に敵の戦力が判明、グフ・カスタム2機、ザクⅡ改が14機です。こちらはペズン・ドワッジが36機、アクトザク36機、ゲルググM72機なので直ぐに鎮圧できるでしょう」

そう言うセシリアの報告にギレンは何か引っかかりを覚えた。アンリ・シュレッサーは決して無能では無い。
それが明らかに勝てない勝負に出た。それの意味する事はなんだろうか? 或いはこれは壮大な陽動作戦ではないか?
本来の目的は別にあるのではないだろうか?

「閣下!」

そう思っていると鎮圧部隊の司令官であるシーマ・ガラハウ大佐から緊急通信が入ってきた。余談だが彼女は良い買い物だった。
清濁併せ持つ、有能で交渉も可能な存在。実際、月における総帥府の出先機関として役に立っている。アナハイム社と物資融通の交渉などでなくてはならない。
彼女の存在を知った時、ギレンはそれほど感心した訳ではないが、今では重宝している存在だ。実に使い勝手が良く、そしてこちらが裏切らない限り向こうも裏切らないと言うのが良い。

「どうした?」

サスロが聞き直す。何かあったのか? ジオン国内の部隊はそれほど多くは無い。それに気象兵器としてコロニー自体を利用すると言う案は既に敗れている。
戦闘開始から15分で決起部隊の実戦部隊は既に半数が撃破されている。やはりザクⅡ改とアクトザクやペズン・ドワッジ、ゲルググMでは性能差があり過ぎた。
にもかかわらず、スクリーン越しのシーマ・ガラハウ大佐は焦っている。政治家として嫌な予感がする。

「グラナダ市の潜入させていた者より緊急入電です。マハラジャ・カーンがグワジン級戦艦を中心とした部隊とルウムからア・バオア・クーに向かっていたシャア・アズナブル大佐の部隊を率いてアクシズに逃亡。
敵前逃亡です! 連中、月面からあらん限りの物資を引き抜いてこの重要な戦況で逃げ出しました!!」




宇宙世紀0080.09.25。ア・バオア・クーNフィールドでは遂に両軍が激突。ミノフスキー粒子と超長距離ビーム対策のビーム攪乱幕によって両軍の艦砲射撃や長距離ビーム砲は膠着状態。
必然的にMS隊による揚陸作戦支援とそれを迎撃するジオン軍と言う形を取る。この歩兵部隊の揚陸部隊を乗せた揚陸艦隊が上陸した時、ジオンは撤退を考慮せざるをえなくなるだろう。
一方で、ジオン軍もMSをいくら落としても勝利では無い。敵の艦隊旗艦であるバーミンガム級のマゼランⅡを沈めるか、歩兵部隊を乗せた強襲揚陸部隊に大打撃を与えなければならないのだ。
そしてその為に両軍は行動する。

「撃って撃って撃ちまくれ!」

一機のドムが激励する。周囲は新兵の乗るザクⅡF2型が12機迎撃を行う。ザクマシンガンと俗に言われている120mmマシンガンが接近するボールやジム通常型を迎撃する。
一機のジムが火箭に絡み取られて爆散する。宇宙空間では飛来するデブリも危険な武器になる。
それを巧みに回避するジムが居た。緑色のカラーリングであり、ジム・コマンドと言われる機体だ。
一瞬だけ姿勢制御をかける。そのままスコープ越しに隊長機と思わしきドムを狙撃、撃墜した。
その事にパニックを起こす新兵たち。当然だろう。学徒動員でこそないが彼らは本来の戦闘訓練の半分で戦場に出て来たのだ。
優勢に見えるジオン公国だが決して優勢では無い。寧ろ、後方で多数の予備役を動員して大軍を再編した地球連邦軍の方がそう言う意味では圧倒している。
ジオン公国には艦隊はワンセットしかないが、連邦軍には何セットも存在するのだ。それがこの差を、圧倒的な物量の差を生み出す。
更にジム・スナイパー・カスタムの同型機が数機現れて、新兵の乗るザクを狙撃していく。混乱して何も出来なくなる。
この時、死を覚悟した一人の少年兵と言っても良いパイロットは目の前に一機のゲルググが自分を救う瞬間を見た。

「落ちろ!!」

その叫び声と共にビームナギナタを片刃だけ展開したゲルググ縦一文字にジム・スナイパー・カスタムを両断する。
そのまま一度距離を取りつつも、ビームライフルを使って右にいた敵機を撃ち落とす。その瞬時の猛攻に動揺する連邦軍に更に突っ込む。
無謀のように見えるが、相手はスナイパーライフルで武装しているので接近戦は好機である。実際にライフルの射程が長すぎて懐に入られた三機目は突きでコクピットとパイロットを焼かれて行動不能に陥った。

「そ、ソロモンの悪夢・・・・・ソロモンの悪夢か!?」

残ったジム・スナイパー・カスタムが攻撃するが、この攻撃を、耐ビーム装甲を施されたシールドで受け止めてソロモンの悪夢はその異名通りの展開を行う。
更にビームライフルで一機落とす。そして、止めとばかりに残りの一気にシールドチャージをかけて正面から体当たり。
その衝撃でバランスを崩したジム・スナイパー・カスタムを横一文字にビームナギナタで切り伏せる。そして爆発。
正に戦闘の芸術である。

「そこのザク部隊、無事か?」

これがソロモンの悪夢、連邦軍を震え上がらせている祖国の英雄の声。場違いながらも感動する。
それが高揚感からか安堵感からかは分からないけど。

「無事ならば一旦補給と補修に戻るべきだ。各機ともデブリの破片でボロボロだぞ」

そう言って新兵らを下がらせる。ドムを見ると完全に中央が融解していてパイロットのゲイツ大尉は戦死していた。




「敵はNフィールドに主戦線を張る気だな。カスペン大佐の部隊は健在か?」

ドズル中将はア・バオア・クーの指揮所でそう叫ぶ。その叫びにオペレーター達が一斉に動いてそれを確認する。
数としては既に50機近いジムタイプと交戦しているが、性能差が出ているのか全般的に勇戦しているのはジオン軍だ。

「健在、戦力の8割を維持しています」

力強くかえってくる言葉。その言葉に頷く。戦闘はまだまだこれからだ。始まったばかりなのだ。

「各部隊、突破を許すな! 第2連隊はSフィールドへ、第5連隊はNフィールドの増援に回せ。
第8連隊、第9連隊はア・バオア・クー内部で待機せよ。それと艦隊はまだ来んのか!?」

本来の作戦では敵の艦隊をア・バオア・クーに引き付けて、それを後ろから撃つと言うのが作戦だった。
が、ティアンムも名将と言われている人物。その作戦を即座に見破ると、マゼラン級の過半数をア・バオア・クー攻撃に費やし、それが無駄に終わりつつあると感じると即座に艦隊を後方4000kmで再集結させた。
そしてジオン艦隊の襲来を待っている。

「く、レビルの主力部隊がいなくなったにしては良くやるな」

ドズルの懸念通り、連邦軍はその主力部隊をソーラ・レイで焼かれながらも未だ勢いを保っていた。




「これで終わりだぁ!!」

アナベル・ガトー少佐の言葉と共に、黄色のジムが撃破された。ガルバルディのαのコクピットに表示されているデータではジム・ライトアーマーとあった。
自らの乗機を操るその動きはまさに敵にとって悪夢だろう。デブリを掻い潜り、今もまた連邦軍のサラミス級巡洋艦に肉薄、この艦橋にビームを撃ち込むのだ。
そしてそのまま離脱する。轟沈する敵の巡洋艦。その同様に付け込む形で更に撃墜スコアを伸ばすソロモンの悪夢。

(これがソロモンの悪夢。圧倒的じゃないか)

シグ・ウェドナーは想い人の事を思った。これだけの力が自分に備わっていれば彼女を戦場に送り出す事は無かったのではないか、と。
出撃前に見たのは同僚のアイン・レヴィ少尉がセレイン・イクスペリ少尉に告白していた場面。

(俺には勇気が無くて・・・・アインとセラの結果を知る事は無く、自分は戦場に出たが。
実際のところセラはどちらを取るのだろうか? いや、愚問だな。俺は同じ土俵にすら立って無いのだから)

接近してくるジムにビームライフルを向ける。そのまま撃とうとして、その機体を別の方角、ガトー少佐がいる方角からの援護で撃破される。
エースパイロットと言うのはこういう時でも周囲に気を配れる人間を言うのだろう。もしも生き残ったら俺もアインとセラに正直な気持ちをぶつけてみるか。
そう思えるくらい、戦況はジオン軍優勢であった。

『敵艦隊補足セリ。全艦、攻撃態勢ニ移行セヨ』

その報告を聞いたデラーズ指揮下のジオン親衛隊艦隊第一戦隊とコンスコン少将指揮下の第三艦隊と第五艦隊は砲撃戦を開始すべく回頭。
一方で地球連邦軍のティアンム中将もドロス、ドロワに対抗するべくマゼラン級戦艦の数を揃えて迎撃に転じる。
またア・バオア・クーにはワッケイン少将を指揮官とする上陸作戦を展開する様に厳命した。
双方のMS隊がア・バオア・クーを巡って乱舞する戦況で、遂に両軍の大規模な艦隊戦が勃発する。出撃するアクトザク。ガルバルディαに親衛隊のゲルググ量産型。同じく発進するジム・スナイパー・カスタム、ジム・ライトアーマー、ジム改。
ア・バオア・クーの戦いは新たなる局面を迎えようとしていた。




戦闘開始から4時間。各地の独立戦隊や警備艦隊、パトロール艦隊を糾合した第13独立戦隊は第10独立戦隊の指揮下の下、ア・バオア・クーの目前に来た。
アルビオンとペガサスを欠いたものの、地球連邦最強のホワイトベース部隊がSフィールドに向かう。

「敵の妨害が一切なかったな・・・・・妙な話だ」

ブライト少佐は艦橋でそう思う。本来であればア・バオア・クー前に展開していた敵艦隊と交戦するか撤退するかどちらかを選ばなければならない筈だった。
それが無かった。こちらが接近すると敵艦隊は必要以上に逃げ、そのままグラナダ市の方に退却していく。

(罠だったか? 
しかし、ヘボン少将の考えでは敵の撤退は明らかに罠の度合いを超えている。それに今から転進しても間に合わない)

実際、第10独立戦隊司令官のヘボン少将の言う通り、敵はもうすでに推進剤の都合から一度大規模な補給を受けないとこの混成艦隊を攻撃する事は出来ない。
そして、その事は敵艦隊司令官である赤い彗星が一番分かっている筈だ。なのに動かない。
これは何かあるな。
これが特別任務部であるルウムからの援軍部隊の共通認識であった。しかし、罠と分かっていても行かなければならない。
戦局はジオンが優勢である以上、ここで40隻近い艦艇と130機のMS隊を保有する特別遊撃軍(ルウムより分派された艦隊。第1艦隊、第2艦隊、第12艦隊の各分艦隊と数個の独立戦隊で構成されている)が必要だろう。
ジオン軍が主戦線としているNフィールドとは違う方向からの襲撃は必ず戦局に影響する。そう思わなければやってられない。

「全機、これが最後の戦いだ。ア・バオア・クー要塞に取りつくんだ!! 発進!!!」

連邦軍は新たなる艦隊を投入。一方で、ジオン軍はこの艦隊に最精鋭部隊をぶつける事にした。白狼連隊とニュータイプ部隊である。




宇宙世紀0080.09.24。ニューヤークに本部を移した地球連邦議会は連邦首相であるアヴァロン・キングダムを招集した。
そこでキングダム首相は実に滑稽な光景を見せられる。多くの議員が平和再興の名目で自分を吊し上げる事に熱中しているのだ。
全く、泣けてくる光景だ。自分は確かに老害だっただろう。だが、それのみを論ずるとは。ところで見渡したが嘗て自分が犠牲のヒツジに選んだウィリアム・ケンブリッジの姿が無い。

(これも嫌味だろうか? それとも彼ら流のジョーク? 或いは温情か?)

何年も何十年も地球連邦政界を泳いできた自分だ。もう何が言いたいのか良く分かる。
地球連邦と言う巨大組織は、自分を切り捨てる事にしたのだ。地球連邦政府の戦争責任は戦死したレビル将軍と継戦を訴えてきた自分にあるとして。

「議長、議案の提出を許可願いたい」

日付が変わる正にその時、パラヤ議員は連邦議会議長に議案提出を求めた。それは恐らく自分に対する不信任案。

「どうぞ」

ありがとうございます。そう言って一礼するパラヤ議員。彼は得意とは言い難い弁舌で自分達、地球連邦政府終戦派議員連合が如何に終戦を望んでいるかを得々と言った。
だいたい30分くらいその演説につぎ込み、あくびがでる。さっさと本題に入れと同じ志を持つ者からも突っつかれる。
そして本題に入る。

「我々は現アヴァロン・キングダム内閣に対して内閣不信任案を提出します」

それは慣例上、全ての議題に優先されて論議される議題。
そのまま議題は1時間の休会を入れて、論議される事になった。いよいよ歴史が動き出したのだ。
戦争の継続か、終戦か。ジオンの独立承認か、それとも旧体制への回帰か。



(お詫び。今回は執筆が遅れた上に分量も少なくて申し訳ありません。リアルが忙しいという言い訳です。
それでも読んでもらってありがとうございました。またよろしくお願いします)


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