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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:7b44a57a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/18 10:41
ある男のガンダム戦記14

<終戦へと続く航路>




ジオン軍掃討作戦。そう命名されたアウステルリッツ作戦の第5段階が発令された。
宇宙世紀0080.08.25.この日前後に起きた約一週間の大規模な地上戦、ハンブルグ会戦の結果、ジオン公国軍地球攻撃軍はその能動的な反撃能力を喪失。
攻め手である地球連邦軍も大損害を受けたが、ベルファスト基地に残してきた部隊3万名、急遽編施した本来は中部アフリカ内乱鎮圧用の部隊5万名、ジャブロー守備隊5万名(これはジャブロー守備隊の三分の一に達する)を派遣して再攻勢にでる。
が、ジオンのマ・クベ中将は用心深い知将型の将軍。前線部隊が大激戦を繰り広げている間に本来のオデッサ地域に大規模な防衛線を構築。
地球連邦軍は欧州各地域を解放していくものの各地の戦災復興に足を取られ、それと同時にオデッサ工業・鉱山・宇宙港地帯を守るジオン軍の鉄壁の防衛線の前に再び膠着状態を作った。
その一角で、ジオン軍の特殊部隊や地中海へ出ていたマッド・アングラー隊の一部が行動を開始。連邦軍の進軍ルートに壁となって存在する事で彼らを塞ぐ。
そんな中、一機のジムが東欧諸国へのメインルート上を歩きながら周囲を警戒する。
目の前には自分の所属していた筈の中隊のジム8機がビームサーベルやヒートサーベルで両断されている状況だ。

「た、隊・・・え、どこです?」

ミノフスキー粒子の下では無線はほとんど使えないのは分かっているがそれでも聞かずにはいられない。

(味方はどうしたのか? 生き残っていないのか?
昨日まで一緒に笑っていたじゃないか。こんな結末は認めたくない。きっと生きている。俺だけが生き残っている訳じゃない!!)

だが、現実は無常だった。言い換えるなら冷たいと言って良い。この通常型のジムに乗っていたパイロットの願いを無視した。
ジムのレーダーが左側面に動く物体を捉え、慌てて左側面にマシンガンを放つ。だが、何発も弾丸が着弾した場所には誰も、何も、いない。存在しなかった。

『惜しかったな!』

敵のパイロットの、それも30代くらいの壮年くらいの年のパイロットの声が聞こえた。
そして次に感じたのはビームの高熱と閃光。このジムはヨーロッパの市街地へ向かう一本のルートにその命と共に消えた。




ジオン軍第1軍と拠点防衛軍であるジオン第3軍はオクトパス作戦の締め括地としてオデッサ特別エリアとでも言うべき絶対防衛戦の内側に入る。
15万名、10万名と言う大軍だったが、オデッサ地域に戻れたのは第1軍7万名程。第3軍は6万名ほど、
損害は甚大であった。既に第1軍と第3軍は軍隊としての機能を失っている。一般的に全滅と言われる戦力の3割減少どころか半分に達する戦力を奪われているのだから。

「ローデン准将か、無事何よりだな」

ダブデ級の指揮官シートの前に立って、軍服を独自に着こなすケラーネ少将。彼の労いの言葉も虚しいモノだ。
ダグラス・ローデン准将の指揮する外人部隊は各サイドの独立義勇兵らが中心だ。
が、この独立義勇兵。義勇兵部隊と言えばとても耳触りが良いが実態はジオン軍が連邦軍に勝利した時に急遽編制された生け贄だ。
実際は旧連邦将兵ら(各サイドが送り出した生け贄)も多数存在しており、いつ裏切るか分からない危険な集団でもある。
また、それらを危険視しているのは最悪な事に各サイド、つまり彼らにとっての祖国でもある。仮に前線でジオンを裏切ろうものなら各サイドが危険にさらされる。
そう言った事から独立義勇兵部隊4万名は最後の一兵まで戦う事で有名だった。敵である連邦軍は裏切り者、味方のジオン軍からは危険分子扱いされて。

「こちらもマ・クベ中将の用意した絶対防衛戦にて再配置です。お蔭で何とか連邦軍の空爆を避けられる。
やはり航空戦力では地球連邦軍に一日の長がありますな。高高度絨毯爆撃などされては低空迎撃用のドップでは迎撃できない。
それで、ビッター少将の部隊とサハリン少将はどうなりましたか?」

まさか、捕捉されたか? そう思いつつも聞く。ここで情報の出し渋りをする訳には行かない。両者とも。

「ビッター少将の奴は戦傷の為、今はオデッサに戻った。ついでにマ・クベ中将が奴の戦力を戦略予備兵力として欲しいんだとさ。
言い難いがその判断は正しい。今は火消し役部隊が必要だ。地球連邦軍が投入した4隻の木馬たちと白い悪魔の様な組み合わせの部隊が必要だっていうのは分かる」

そうか。確かに遭遇戦が多い現状では接近戦用MSに特化したジオン軍の方に天秤は傾いている。
事実、グフタイプやドムタイプならまだ連邦軍を圧倒しているのだ。しかしながら、そんな部隊がいただろうか?
この撤退中に多くの部下を失った。祖国のコロニーに帰れない同胞が帰りたい、帰りたいと言いながら死んで行くのを見てきた。
それだけ戦場は過酷になりつつあり、連邦軍のMSは通常型ジムタイプと言えども決して侮れる存在では無い。
連邦軍のジムは、性能差だけ見ればザクⅡJ型や少数配備されているザクⅡF2型と互角に戦える性能を持っているのだ。
その改良型である陸戦用ジム、陸戦型ジム、更には白い奴の量産型である陸戦型ガンダムなどは極めて厄介である。

「そんな顔をしなくても問題な。ビッターの奴は残ったドワッジを41機とドム30機にイフリート22機を全部くれた。
これだけあればまだ時間を稼げる。それに、だ」

それに?

「それに、いざとなったら俺に秘策があるさ」

そう言ってユーリ・ケラーネ少将は笑った。その笑いはどこか乾いたものだったのが印象的だった。
そして私もコンティ君に頼んで部隊の再編を行う。確かに危険な部隊だが全員が祖国に帰りたいと言う思いを持っている。
その思いだけは叶えてやりたいと思えるのだ。だから私は私が出来る限りの事をしようと思っている。
ただ、ここでケラーネ少将が顔を歪めた。

「ギニアスの奴は何を考えているのかが分からん。まだ勢力圏内とはいえ既に補給路が分断されつつあるギリシアの地域で何か作っている。
そればかりだ。兵の事など考えてない。こちらからの撤退命令も黙殺している。本来ならば俺が乗り込んで引きずり出したいが、こっちも忙しいので無理だ」




突然だがここでジオン公国の軍備について言及しよう。ジオンの軍備整備の歴史=MS開発史はMS-05ザクⅠの成功を持ってその第一歩を踏み出す。
ザクⅠからザクⅡA型を経由して、スミス海の大勝利(連邦側では虐殺)にはザクⅡB型5機が実戦投入された。この機体をベースに開発されたのがC型であり、Cを元にF型、F2型に移行する。
ここで横道にそれるが、本来のジオン公国の開戦時期は宇宙世紀0079.01.03であった。そして軍備拡張を強力に進めるザビ家では主力MSをザクⅡF2型で統一させる。
が、ここでジオン軍宇宙軍に取っては福音となる事態が起きた。
ギレン・ザビが倒れるという事態が起きたのだ。宇宙世紀0079.01下旬、この時点でジオン軍はザクⅡC型の生産ラインを変更。
この決断は正しかった。統合整備計画などの影響もあり、ルウム戦役時点では350機を越したザクⅡZ型の生産・実戦配備に漕ぎ着ける。
ただし、この時期の生産されたザクⅡZ型(ザクⅡ改)は全てが第一線のジオン親衛隊艦隊のドロスとドロワに配備されたので他の部隊には一機も配備されなかった。
またルウム戦役に間に合った機体としてリック・ドムがある。これは欠陥機として配備が見送られたツィマッド社のヅダのデータを元に開発される。
統合整備計画と言う国策によって開戦時である宇宙世紀0079.08の配備数は100機前後と少なかった。(ザクシリーズは総計で600機に達した。尤もすべてが第一線で使えるF型やF2型の機体では無かったが)
が、それでも突破兵力としての機体として重宝され、その後のリック・ドムⅡに全生産設備は移行されるも、ソロモン要塞を中心に細々と生産を続けられる。
なお、開発された試作機であるヅダ5機は実験部隊の護衛に配備される事でルウム戦役に投入されている。




イーサン・ライヤーは少将に昇進した。その昇進理由は単純かつ皮肉である。引き抜かれ減少した南欧解放軍。既にアルプスは超えられないと思われていたが、それを覆して僅か5万名弱の戦力でイタリア半島に到達。ここでの解放作戦を順調に進めた。

「コジマ君、君の懸念していたジオンの新型MAとやらは存在しないね」

彼はビッグ・トレー03「ハンニバル」のCIC上で参謀長に正式に昇進し配属させたコジマ大佐に問う。
彼、コジマ大佐も半信半疑であったがジオン軍が対ジャブロー攻撃用の大型MA『アプサラス』計画というのを情報部が確認して報告していた。
ただその実態は荒唐無稽と言っても良い。
制宙権を態々確保しているジオンが南極条約を放棄して軌道爆撃を行って降下作戦を行うならともかく、わずか数機の護衛もいないMAで防空網が強固なジャブローを強襲するなど夢想家の夢ではないのか? 戦争は少数の新型兵器で覆るほど甘くは無い。

「アプサラス計画。これです。この情報部が把握している物でしたら、寧ろ前線基地の方が危険かと思われます。
航空機の搭載する大型メガ粒子砲を回避する手段を持つ前線基地は殆ど無く、十分な航空支援を受けられるとは言い難い。そう考えれば前線拠点は格好の標的でしょう。
それを考えればジオンの新型MAが南欧諸国のどこかにあるという情報を軽視している訳には行きません」

そう。ジオンの技術力は侮れない。ジオンがMSとミノフスキー粒子を利用したとはいえ、そこまで至る過程は僅か20年ほどだった。
20年。たった20年でジオン公国は地球連邦と言う大国に互角以上で戦う術を身に着けたのだ。非加盟国が宇宙世紀元年以来、心から望みながら達成できなかった事を達成しているのだ。
実際、この南欧方面軍には殆ど出てこなかったが中欧に向かったレビル将軍の本隊は新型機ドムの改良型やイフリートと呼ばれる機体を中心としたジオン軍の大反攻を受けて全軍の7割に匹敵する兵力を失った。
損害比だけを見れば勝ったのはジオン軍なのだ。7割も損害を出した為、地球連邦軍アウステルリッツ作戦参加部隊は事実上瓦解しているのだ。
それでも最終的に、戦略目標の一つであるハンブルグを奪還したのは単にジオン公国に比較して、信じられない程の攻撃部隊と増援部隊を連邦軍が動員したから。
もっとも、それこそが戦争の本質だと言われてはそれまでなのだが、仮に同数なら負けていたのは間違いなく地球連邦軍であったろう。

「とにかく、南欧解放が失敗に終わってレビルに笑われるのは何としても避けたい。分かるね?」

南欧解放方面軍は3日後、ジオン兵が一人もいないローマを奪還。多数の偵察機を放った連邦軍は、ジオン軍が正式にアフリカ大陸へ脱出していったのを確認した。




地球連邦軍本部ジャブロー。その大将専用の職務室にゴーグルをかけたスキンヘッドの男が入室してきた。
その男を見た瞬間、紺のスーツを着ていた秘書官は一礼して部屋を去る。
残る人物は一人。かなり大きな連邦軍軍旗を横に掲げ、自分の机にて情報端末で文章を作っている将官のみ。
部屋にいるのは二人である。一人の名前はジーン・コリニー大将。
彼はこの日、宇宙世紀0080.09.08日、ベルファスト強襲の責任を取る形で降格(責任を取って自決したと公式に発表)されたエルラン中将に変わり作戦本部本部長に就任した。
その第一の人事が副官の交代である。
エルラン中将時代の副官であり、ジオン公国が放ったスパイであるジュダッグ中佐を更迭して目の前の男を自らの副官に添えた。

「閣下、バスク・オム大佐ただいま着任しました」

そう言って敬礼する。彼の名前はバスク・オム。
ルウム戦役で味方の誤射から直射日光の直撃を受けた為視力が著しく低下。その為にその味方を殺したと陰で噂される軍きっての切れ者である。
何より、この情勢下で退役できるにもかかわらず退役しなかった事実がこの男の特徴であろう。彼は自分の作戦指揮に絶大なる自信があるのだ。

「かけたまえ大佐。少し長くなる」

そう言ってリモコンを使てって遠隔操作でドアの鍵を閉める。これを受けてバスクも自分が持ってきた情報端末を起動させつつ、来客用ソファに腰かける。鞄をソファの隣に置いて。

「それで、話とは例の対ジオン特別政務官ですかな?」

何も言わずともバスクは切り出した。バスク・オムと言う男の特徴の一つに極めて政治的な軍人と言う評価がある。
何よりも軍内部、政府内部、地球連邦主要州政府内部、連邦議会と幅広い人事に情報通である事が、敗軍の将校と言う事実を押し潰して彼を35名しかいない軍事参事官という地位につけているのだ。
ジャミトフ・ハイマンが比較対象として近いだろう。そう言う意味ではジャミトフの代わりになりうる人物である。
更にコリニー提督に都合の良い事に地球至上主義者であった。オセアニア州出身であるが、考えは北米州寄りでもある。これもまた都合が良かった。

「そうだ。あの男の事だ。今何をしているのか知っているか?」

試す。ここでYESと言えるならジャミトフ・ハイマンの代わりになる。
最近は戦後復興庁であり、特務機関であるティターンズ設立の為に動いていて自分の手から若干離れだしたジャミトフ・ハイマン少将。奴代わりが必要だ。

「たしか、宇宙に行っていると聞きましたな」

傲岸不遜。だがそれが良い。こういう人物を求めていた。
まあ、基本は従順であるという大前提が必要であろうが、出世欲が強いこの人物、バスク・オム大佐は飴を用意する間は叛逆しないだろう。
それに政府上層部の一部と連邦議会議員、軍上層部の一部しか知らない情報を一介の大佐が知っていると言う事は合格に値する。

「そうだ、詳しくは教えられんがそのウィリアム・ケンブリッジを将来的には排除する」

バスク大佐はゴーグルを直す。机に置かれた軍帽を一旦なぞる。
その間にペットボトルに入れてある日本の緑茶をバスク・オムに渡す。それを感謝の言葉と共に啜る。そして言う。

「ほう、それは過激ですな。あの男は閣下らの派閥では使える人材では無かったのですか?」

その言葉には嘲りがあった。バスク・オムは実はウィリアム・ケンブリッジと一方的であるが面識があった。
あのルナツーでの尋問の時、モニター越しに彼の醜態を知っていた。彼が半泣き状態で必死に自分の無罪を主張する光景を。

(呆れ果てた奴だな。あれでも俺より役職が上だと言うのが信じられん)

自分は失った視力回復の為の手術とそれに伴う激痛に無言で耐え切ったのにあの醜態ぶり。それが印象に残っていた。
だから個人的に彼が失脚するのは嬉しい事だ。他とてそれが連邦全体の損失だと考える人間がいても・・・・彼にはやはり関係ない

「ああ、使える。だが、あまりにも切れすぎる鋏になった。鋏はある程度切れにくい方が安全だ。だが、奴はあのスペースノイドのザビ家さえも切り裂いた。
このままでは私の派閥も切り裂いて最終的には奴の為の派閥が出来るろう。それは避けたい。連邦の為にもな。
ウィリアム・ケンブリッジは危険な存在だ。
戦時下の今は良い。奴の考えに、戦争の早期終結に賛同する者がいてもそれは連邦全体の利益になる。だが戦後はどうだろうか?
奴は女の為に戦争を終わらせる。ならば逆も考えられる。女の為に戦争を引き起こす可能性がある。それにだ」

一旦途切れる。忌々しそうな声。これからがコリニー大将の本音だなとバスクは思った。

「それに?」

促す。

「それにやつは有色人種だ。それがまるで地球連邦の代表の様に振る舞う。連邦成立からこの方、地球連邦に有色人種出身の代表はおらん」

その言葉を聞いた同じ白人のバスク・オムは笑って続けた。

「なるほど、そしてこれからも、ですな」

そうだ。そう言って無言でお茶を飲むコリニー大将。




ジャミトフ・ハイマンはブライアン大統領に呼ばれた。
北米州州都にあるワシントンのホワイトハウスに入館する。ジャブローと決定的な対立を迎えた為、ジオン以上にジャブローへ警戒する北米州ら太平洋経済圏の諸国。
その為かジャブロー帰りの面々はしっかりと身体検査を受ける。
軍帽を右手に携える。鞄を秘書官に預けて大統領の執務室室内に入る。勿論、銃など持ち込めないのでSPやSSに渡している。

「お呼びとお聞きしました。オーガスタ研究所とオークランド研究所の件ですか?」

挨拶もそこそこに本題に切り込むジャミトフ。そうだろう、恐らく彼の予想は当たる。そして当たった。

「そうだ。ハイマン君、我らの旗頭となるべき黒いガンダムの開発は進んでいるのかね?」

RX-78-2ガンダムを元にした黒いガンダム(T=ティターンズ使用)と濃紺色で統一されたRGM-79Qジム・クゥエルの開発が終了した。
これには4隻のペガサス級が持ち込んだ豊富な実戦データとそれを実用化できる安定した北米州や極東州と言う技術先進国を地球連邦が持っていた事が挙げられる。
本来であれば、RGM-79Nジム・カスタムが先に開発される筈だったが量産性を考慮した事、戦後復興庁である「ティターンズ」の旗頭のMS隊を今の時点で結成する事で戦後を見据えるという面から開発が優先された。
特にジム・スナイパーⅡの戦闘データとガンダムアレックスの実戦データを大量にアメリカ合衆国CIAのアリス・ミラー大尉がレビル将軍との裏取引で持ち出した結果である。
ちなみ、この北米州とジャブローの裏取引の結果、第13独立戦隊はアウステルリッツ作戦に投入される事となった。
あと、アリス・ミラーの所属は地球連邦のCIAではない。彼女は北米州独自の組織であるアメリカ合衆国CIA所属。この時点でMI6やアメリカ合衆国CIAの方が地球連邦情報局よりも精度が高い。
そして冒頭の質問、ゲルググを凌駕する新型機の開発に力を入れていた地球連邦は遂に量産性、整備性、操縦性、武装、機動性、装甲と全てが揃った新型機を配備する事になる。
それがこの機体だ。ジム・クゥエルと呼ばれるジムの発展系。ジム改をも凌駕する機体と言う事、後5年は新規開発しなくても良いと言う事から北米州だけではなく、地球連邦軍全体にとって期待の星である。

「はい、RGM-79Nジム・カスタムならびRGM-79Qジム・クゥエルは生産軌道にのります。とくにジム・クゥエルの方を重点的に量産しますので、ティターンズ所属予定の第13艦隊には正式配備されるでしょう。
また、現在の第13独立戦隊の実戦データもジョン・コーウェン将軍の手によって十分なものが手に入っております。
これだけあれば戦後発足する我らティターンズの発言権は多くできるでしょう。そして、ティターンズは明確に連邦政府直轄組織に組み込む」

ティターンズ構想の大元は単純だ。ティターンズはあくまで重武装の警察部隊として存在する。ただし、その指揮権は首相にあり、内閣が管理する。
これは肥大化した地球連邦軍部に対するカウンタークーデター部隊を用意すると言う事だ。それだけレビル将軍の派閥が巨大になりすぎている。

「そうか、それは結構な事だ。それとなケンブリッジ君の事だ」

大統領は渡されたメモリーディスクで情報を集めながらジャミトフに話しかける。
ジャミトフが姿勢を正すのを見て、彼、エドワード・ブライアン大統領は深刻そうに言った。

「ウィリアム・ケンブリッジ。彼は優秀だし人間的にも好感度が高い人間だ。それは分かる。だが、それと政治の世界で生きていけるかどうかは別ものだよ。
今は多くの人間が彼に利用価値を見出している。認めたくないだろうが、君だって心のどこかでは彼を便利な駒だと思っている筈だ。
ああ、何言わない方が良い。言えば苦しくなる。それを認める事になるからね。たとえ否定してもそれはそれで肯定している事に他ならない。
と言う事はだ、君がどう思うかは別として、彼を切り捨てる日が来るかもしれないと言う事は覚悟しておくことだ。
私も切り捨てられたよ。多くの人々にね。そして切り捨ててきた。それが罪なのかもしれないが、な」

言い返せない。

「それにだ、ジョン・バウアーもヨーゼフ・エッシェンバッハも政治家だ。腹芸はお手の者だ・・・・・・君や君の叔父上の様にね」

ジャミトフは退出した。そして思った。自分も単に利用価値があるからこそウィリアム・ケンブリッジを重宝していたのではないか、と。
そしてあの異常なまでに早い根回しは、かつての様に彼を切り捨てる事が出来る便利な駒であるという事が理由では無かったのか、と。




オデッサまで撤退したジオン軍はアイヒマン大佐、ブーン少佐を主体とするオクトパス作戦を実行していた。
マ・クベ中将はオデッサ作戦の戦闘開始前の密約に則って、中央アジアやアフリカ、アラビア、インド洋に指揮下の部隊を逃がす。
彼らジオン軍は、地球連邦軍の追撃をかわす為に非加盟国に軍隊ごと亡命させる。
こうしてマ・クベはジオン国内で反ザビ家になりそうな不平分子をジオンの戦力として非加盟国に、つまり地球に残す事を決定した。
その一方でオデッサ地域に最終防衛ラインを結ぶ。
近代以降の戦いでは異例も異例の10日間に渡ったハンブルグ会戦の結果、ジオン軍は旧ユーゴスラビアと呼ばれる地域やオデッサ近郊、イスタンブール、黒海・カスピ海沿岸部に撤退し、陣地構築を開始した。
その防衛線の規模は、ハンブルグ会戦に勝利したとはいえ、その過程で大打撃を受けた地球連邦軍が正面からの攻撃を諦める程の規模である。

「マ・クベ中将は自分だけ脱出する気かと思ったが・・・・どうやらそうでは無いな」

そう言うのはジオン軍の新型機ギャンKに搭乗するノリス・パッカード大佐だ。彼の部隊は切り込み隊として連邦軍の後方に出現。何度も連邦軍の後方を遮断している。
この際、本来ではギャンと呼ばれる機体の改良型(流石にジオン軍もこれ以上の新規MS生産は諦めていた)のビームランサー(厄介払いで地球に送られた)をいつでも使える状態で待機する。
そして目の前を陸戦用ジムと呼ばれるグリーン系統の塗装がされた機体を見つける。

「ニムバス大尉! エリザ中尉、行くぞ!!」

僚機のイフリート改とイフリート・ナハトが密林を飛び出す。
瞬時の3つの青系統の塗装をされた機体が密林を駆け抜けて、両手に持ったヒートサーベルが3機のジムを両断した。
また別の戦線ではジオンのザク部隊が遅滞戦術を取っている。ザクマシンガンをばら撒いて距離を取る部隊。さらに埋伏して超長距離から620mmカノン砲の一斉射撃でバラバラに吹き飛ばすザメル隊。
前線部隊は双方ともまだ戦闘が終結したとは思ってない。この瞬間も別の場所では陸戦用ジムのハイパー・バズーカがザクⅡJ型を吹き飛ばしている。
一方で連邦軍上層部は北欧、南欧、西欧、中欧、欧州ロシアの解放が終了した為、それを理由にアウステルリッツ作戦の終了を決定しようとしていた。




地球連邦軍本部のMS開発局、V作戦担当部門では一人の大将が少将に会う為、現場へ尋ねてきた。敬礼する将兵や技官たち。
そのまま会議室に招き入れる。

「コーウェン君、君に聞きたい事があるのだがね」

件の大将閣下であるゴップは聞きたい事があった。それはジオンのMS開発についてである。

(そもそもジオン公国はコロニー国家であって国力に乏しい。
それなのにザクシリーズ、グフシリーズ、その派生形であるイフリート、ドムシリーズ、ゲルググシリーズ、水陸両用MSシリーズと多彩なラインナップがある。
これは明らかにジオン国内の国力を圧迫している筈だ。専門家に聞いて戦後の為にもMSに詳しくなっておかなければ、ね)

事実、ジオン公国は四回の地球降下作戦で限界を迎えた。
それは後方にいるゴップ大将だからこそ実感できる。ジオンの迎撃網は完全に遮断されている。

(まあ限界を迎えたのは連邦も同じか。ジオンの地球侵攻作戦による地中海経済圏と大西洋経済圏の崩壊はやはり痛かったな。それを抑えるのも限界に来た。
戦後を考えるならば一刻も早い戦争の終結が必要なっている。そうしなければサイド3のジオン公国に多額の賠償金を押し付ける事になる。
つまりナチス・ドイツの再来を招く。
ましてジオン公国はコロニー落としを脅しに仕掛けていた。もしもコロニーが落ちれば地球経済も人類も衰退するしかない)

そう思っていると既に勤務時間を過ぎていた。この為か南米の地ビールをコーウェン技術少将が出してきた。
冷えたグラスに注がれる金色液体に白い泡。口に含む。美味いな。

「それでゴップ大将閣下、何を?」

そう聞くコーウェンに自身の疑問を投げかけた。

「何故ジオン軍はあれ程多くのMSを作ったのか、何故我が軍のジムシリーズの様に共通規格を導入しないのか、その理由は一体なんだろうなぁ」

と。
そもそもジムシリーズは開発が遅れたガンダムより先にスミス海の虐殺で得た戦闘データを元に開発された機体だ。
これもケンブリッジが関与していたのだが、彼が提案した経済面から見たMS脅威論から連邦もその持てる国力の一部をMS開発につぎ込んでいた。
その集大成がガンダムタイプなら、廉価版がジムだ。これも情報通なら知っているがジオンに敗れたスミス海での戦闘が全ての契機なっている。
無論、流れとしてはガンタンク、ガンキャノン、ガンダム、ジムであり、実際にサイド7で先行量産型が先に開発されたのもガンダム一号機である。

「いやね、気にはなっていたのだ。ジオンは国力に乏しい。ジオン公国と地球連邦の国力比はかのギレン・ザビ氏の言うには30対1と劣勢の筈。
にもかかわらずあれだけ多彩な機体を生産、ああ量産じゃなくて生産しているが、その行為は国力を圧迫しているだろう。
そう考えたら不思議になってね。休憩がてら君の意見を聞きに来たという事だ」

そう言ってソファに腰かける。
コーウェンもなるほど、と思って自分の考えを述べる事にした。まず、壁のモニターに掲げられている情報端末とメモリーディスクを使って説明する。

「長くなりますがご了承を。まずは我が軍が敗れたルウム戦役です。この戦いまでのジオン軍の基本方針はザクシリーズを揃える事にあったと思えます。
この点で、戦況を決定したゲルググはあくまで少数量産の決戦兵器でありまして、あくまで量産型、主力機である汎用兵器はザクシリーズの改良型。これで我が連邦軍を撃破するのが目的でした。
しかし、その戦力構成、恐らくザビ家やジオン上層部の戦訓に衝撃を与えたものがあります。我が軍の言うルウム撤退戦です」

ルウム撤退戦。当時のペガサスとサラミスK型3隻で編成された第14独立艦隊(戦隊と言う名はレビル帰還後につけられていく)が、避難船団を襲っていたジオン軍と艦載機のザクⅡF型を一方的に撃破した戦いである。
この戦いで先行量産型であったジム・コマンドの性能が確認され、さらに4機のザクⅡを鹵獲した事で10年近く先行するジオンに追い抜く(追い付くでは無い事に注意)契機となった。
ちなみにこの戦いもウィリアム・ケンブリッジが関わっている事になる。
彼はケンブリッジMS経済脅威論という戦前に言った経済面からのMS脅威論の指摘も合わせて、連邦の影のMS開発の功労者と言える。まあ評価している人物はほとんどいないが。

「このルウム撤退戦でザクではジムに勝てないという考えをジオンの上層部に植え付けたのでしょう。それにジオンは元々地球侵攻を考えていた様です。
ところでゴップ大将、ザクやジムと言う系列のMSとはなんでしょうか?」

それはこの話の本質を突く質問。意外だが中々気骨がある将官だ。伊達に軍事参事官の役職を兼務してはいない。

「そうだね、古代で言う重装歩兵、現代で言う通常の歩兵かな?」

重装歩兵。鎧を着て槍を構えて、盾を持った兵士。勿論剣も装備している。MSとは歩兵であると同時にそう言う側面があるのだ。
そう考えるとドムタイプを量産したジオンの思惑も見えてくる。
彼らは地球連邦非加盟国から地球上での戦闘のノウハウを得ていた。それが曲がり曲がってジオンのMS開発に影響したのだ。

「ええ、恐らくそうでしょう。グフタイプは見ての通り剣士です。或いは騎馬を降りて戦う騎士。歩兵を一対一で切り殺すと考えればグフの開発コンセプトは見えます。
逆にドムは騎馬隊です。MSは言うまでもなく重量があり、宇宙と違い地球の重力下では確実にその機動性を削がれる。
地球視察を行ったギレン・ザビや非加盟国と交流しているジオンの技術陣がこれに気が付いていた。それがドムシリーズ誕生の秘密であると考えます。
つまり、グフは戦線の正面突破、ドムは側面からの襲撃という発想から生まれました。まずこれがジオンの地上戦闘用MSの多さの理由であると私は考えます」

そして一口。ビールの苦みが口の中を濯ぐ。

「そして本題ですが、ゲルググやそれを上回る機体の開発に、ジオン軍やジオン上層部が資源と資金を投入する理由は恐怖です。
我々がルウム戦役で受けたビーム兵器搭載の機体による奇襲にあたるのが、彼らにとってのゲルググショックである、ジムショック、例のルウム撤退戦です」

コーウェン少将は続けた。国力に乏しいジオンは物量戦になれば確実に敗北すると知っている。ならば量より質で対抗するのは当然である。
が、その質でも圧倒されたらどうなるか?
二倍近いザクが半分のジムに敗れた。簡単に言えばそうなる。これがルウム撤退戦の結末だ。これを看過する事はジオン軍には出来なかった。
よってジオン軍はある意味でとても理性的な判断を下した。敗因を分析してそれに対処する。だが、目的は良かったが手段が不味かった。
連邦軍のジムを圧倒する機体を求める。そこまでは良い。ところが現場の混乱からか最新型機の開発でその状況の打開に動いてしまった。それが現在のジオン軍である。

「なるほどね。ゲルググを量産するのではなくより強力な機体でジムを圧倒する事を視野に入れた、か。その結果がMS乱立状態であり、戦略面での兵站線の崩壊か」

ジオンの後方部門は既に限界を迎えている。これはサイド3に侵入しているスパイたちの報告を複合的に分析して分かった事だ。
確かにジムやジム改に新型機を持ってして対抗する、という考えは正しかった。が、それは国力を持つ国家がやれる事。
地球最大の工業力を持つジャブロー地域と北米州、極東州らがある地球連邦ならともかく、一コロニー国家でしかないジオン公国には無理な話だったのだ。
この点はアメリカ合衆国とソビエト連邦に単独で対抗したナチス・ドイツに近い。もっともヒトラーと違ってギレンはこの戦争の早期終結の為に譲歩する構えなのだが。

「そうか、コーウェン君ありがとう。V作戦、これからも継続してくれたまえ」




時は遡り、ジオン本国の総帥府にて。
これはガルマ・ザビ生存の報告を聞いたギレン・ザビとデギン・ソド・ザビ公王の会話である。

「作戦なぞ良い!」

デギンは居並ぶ臣下達(セシリア・アイリーンら総帥付きの秘書官)の前であろうことかこの国最高指導者を叱りつけた。その声に三男のドズル・ザビが驚き縮み上がる。
その言葉に反応する長男のギレン・ザビ。右手に持っていた書類を震わせる。
いくらなんでも総帥府に駆け込んできて、とある重要な作戦の認可を願ったらいきなり書類ごと右手を公王杖で叩かれた。
幾ら冷静冷徹といえども限度がある。まして、この父親が何を怒っていのかが全く分からないとあれば尚更だ。

「父上、一体何事ですか? 私が何をしましたか? いったい公王陛下ともあろう方がそこまで冷静では無いのは何故ですかな?」

一緒に付いてきたドズルは心当たりがあるので必死に弁解しようとしたが先に動いたのはデギンだった。

「ガルマの件だ! お前は弟を見殺しにする気なのだな!? そうだろう!?」

思わず天を見上げた。最近は無気力と判断力の低下が著しいと思っていたがまさかこれ程とは思わなかった。
ギレンにとってここでガルマの件を蒸し返されるなど百害あって一利なし。興味津々に見学してくれる部下らの事を考えるとここで無碍に扱うのは不味い。
かといって馬鹿正直にザビ家内部の不和を周りに見せるのもジオン内部の分裂につながってしまう。八方塞がりだった。
ここでドズルが大声で周りに言う。

「お前ら全員部屋を出ろ!! これは兄貴たちの問題だ!!!」

こういう時権威と実力を持った軍人の発言は馬鹿に出来ない。その言葉に一斉に敬礼や一礼をして部屋を退室していくジオン公国の高官ら。
無言で感謝の念をドズルに送る。やがて部屋には軍服のドズル・ザビ、公王服で近くの椅子に腰かけたデギン公王、窓際に立っている総帥杖を持ったギレン・ザビの三人に絞られた。
漸く落ち着いたのか肩で息をするデギン。それを冷徹に見下ろすギレン。先程とは違い、威厳など無くおろおろと長兄と父親の間に視線を往ったり来たりさせる三男のドズル。

「父上、よもや捕虜交換なり軍事侵攻なりでガルマ奪還を行えと言うのではありますまいな?」

ギレンが聞くが、答えはYES。ギレンは一旦呼吸を整えると言い切った。少し、いやかなり呆れ返っている。

「父上、今は戦時下ですぞ? それをご理解いただきたい。連邦軍の将兵20万名の捕虜は人質としても価値があります。
ガルマは確かに我がザビ家の一員ですが、そうであるからこそ安易な捕虜交換の提案や類似する行為は危険です。
そもそも捕虜になっているジオン公国国民がどれほどいるかご存知ですか? 15万名です。それを差し置いて我がザビ家が国民を裏切るような行為は危険です。
それにですな、仮にドズルや私が連邦の捕虜になったとして同じことをガルマに命じましたか? 
恐らく、いえ、確実に父上はジオン公国の公王陛下としての公人としての責務を優先したに違いありません。
またガルマが個人的な武勇を競って連邦軍に捕縛されたのは父上の教育方針に問題があったのではないのですか?」

痛烈な父親批判。それはギレンの言葉が本質を突いていた事を指していた。

「父上、キシリアが死んでからずっとガルマを甘やかして育てましたな? ガルマが死にかけた事で甘やかしたツケが今まさに来たのです。それを知って頂きたい。
ガルマ一人の為に20万名もの人質である連邦軍捕虜を解放するなど政治的にも出来ず、軍事的に愚策であります。
また、ガルマ・ザビを助け、15万名のジオン公国国民を助けないと言う選択は我がザビ家に対する不信感を国民に植え付けますのでこれも愚策です。
さらにせっかくの交渉相手である北米州に攻撃するのは自殺行為。連邦内部の分裂誘っている現状で敵を一致団結させるおつもりか?」

そして痛烈な皮肉を放つ。それは言葉の刃となってデギンの心を貫く。

「あの9月2日のルナツーの様に。南極での交渉を台無しにした様に」




ジオン公国は連邦の白い悪魔に対抗するMSの開発に追われた。その回答としてジオニック社とツィマッド社は全く別の回答を軍に提出する。
ジオニック社はゲルググシリーズ。ビームライフルを装備し、量産性を高め、新型はビームマシンガンという新兵器を持たせる。
総合性能では劣るものの、それを補うために数を揃えるというのがコンセプトである。コンセプト自体は正しく、地球連邦軍のジムに近い。これを昇華したのがペズン計画のガルバルディαである。
この世界のガルバルディαはゲルググ改修型(M=マリーネ)との部品共通をはかり、約7割がゲルググMと共同でありながら天才ギニアス・サハリンの技能を持ってして、基本性能はゲルググを凌駕した。
ただし、ガルバルディαは兵器としての完成度が低いと言う弱点がある。ルウム戦役や是前哨戦である一週間戦争で実戦を経験したゲルググは現在数々の問題点を洗い出している為、整備性が高く稼働率が良好だ。操縦性能も良い。
方やペズン計画の機体全体に言えるのだが、ペズン計画機体は全て芸術機。職人の作った機体と言う側面が強い。
実際、ペズン計画の開発責任者であったギニアス・サハリン技術少将は芸術家肌の指揮官であり職人だった。現場をしなかったと言える。
現場も潤沢な資材と資金と安全が確保されていてマニュアル通りに故障すると言う事を信じている節がある。
故にその機体達はどうしても整備性、操縦性、稼働率でゲルググに劣っていた。
それは実際の現場では嫌われる原因となっており、またアクトザクとゲルググは互換性が殆ど無いので、補給という面でジオン本国と現場の更に温度差は酷かった。




「これで9つ!」

右手を突きだした。盾を貫通して、この新型機のビームサーベルが陸戦型ジムのコクピットに突き刺さる。
更にその横にいた陸戦型ジムが100mmマシンガンを構える寸前に左腕の小型シールドに隠されるように内蔵されていた3連装75mmハンドガンを放つ。
そのまま穴だらけになってしゃがみ込み爆発する陸戦型ジム。
ここに来るまで連邦軍の追撃で多くの部下を失った。だが、客観的に見てジオン軍はその2.5倍の損害を地球連邦軍に与えている。
この精強さこそ、サイド3人口の5億5千万で地球連邦の70億人に対抗した理由かもしれない。何もMSだけがジオンを優勢にした要因では無い。
ちなみに非加盟国の内、北部インド連盟は7億人、中華人民共和国12億人、イラン共和国3億人、シリア共和国1億人、朝鮮民主主義人民共和国5000万人となり各サイドは基本5億人、月は8億人、外惑星には10万名。
その圧倒的と言うには程遠いジオンの国力で、ジオン軍はギレン・ザビ曰く30倍の国力比を覆していた。

「は、怯えろ! 竦め!! そしてMSの性能を引き出せぬまま・・・・・死んで行け!!!」

シールドチャージをかける。陸戦型ジムは慌てて6連装ミサイルを放つがミノフスキー粒子下のミサイルなどこの新型機の機動性なら恐れるに足らない。
ビームランスを構える。そのまま一突き。機体が倒れる。これで9つめ、27機。撤退戦開始から戦車も含めると指揮下の部隊全体で40近い敵を葬った。
地球での遭遇戦は突発的な接近戦による戦いが多い。その時に役立つのは皮肉にも飛び道具よりも格闘戦用の武器。
これはノリス大佐が知る筈も無いのだが、連邦軍の陸上部隊は格闘用の尖端が鋭利なシールドこそ使えると言っている。

「ビーム兵器さえ携行可能なこの戦場で・・・・ニムバス隊はどうか?」

ミノフスキー粒子を掻い潜って、ゲラート・シュマイザー中佐の部隊に連絡する。彼の持つギャロップは平地では無類の機動性を持ち、整備拠点としても役に立つ。
宇宙に配下の部隊を脱出させたそうだが、それでも志願して残った数名が自分の配下に入った。ノリス・パッカード大佐の指揮下に。

『・・・大・・・・佐・・・・・ニムバ・・・・・ス隊・・・・・敵・・・・・撃破・・・・現在・・・・・撤退ポイン・・・・トに退・・・・避中』

ミノフスキー粒子に溺れそうだがそれさえ聞こえれば良い。何とか返事を送るとエリザ・ヘブン中尉のイフリート・ナハトに報告する。

「撤退だ。急ぐぞ」

こうしてYMS-15ギャンを地上で徹底的に改造した通称、ギャンクリーガー(MS-15K)は夜の帷が下りてきた東欧の大地に消える。




地球連邦軍はオデッサ解放こそ失敗したが、東欧諸国を除く欧州・ロシア地域の奪還には成功する。
多大な犠牲を払ってなお、マ・クベ中将のジオン地球攻撃軍は健在であるがそれでも勝利を収めたと言える。強弁できる。
その戦闘が終盤に差し掛かった頃、エルラン中将は超長距離通信を受けていた。将官用軍服を着たエルラン中将が部屋に入る。

「ここか?」

その言葉に護衛役だと言い張った憲兵6名は頷く。

(しかし妙であるな。何故案内役がいつものジュダッグ中佐では無く知らない憲兵なのだろうか?)

そう思っていると特大の画面にゴップ大将が映し出された。彼は微妙な表情を、そう、何とも言えない微妙な表情をしてエルラン中将を見る。
その顔は憐憫とも取れる。嫌な予感がしてきた。テッキリ、ジオン海中艦隊のベルファスト基地襲撃の責任追及をされるのかと思ったがどうやら違う様だ。
と、憲兵隊司令官も画面に出てくる。更に軍事参事官のタチバナ中将とジャミトフ・ハイマン少将がそれぞれヨコハマ基地、キャルフォルニア基地からの海底ケーブルを使った通信で現れる。
四人の将官。それは解任だけでなく現行犯逮捕も可能な特別軍事法廷が開催可能な人数に当たる。冷や汗が出て来た。
それを見たゴップ大将が周囲を代表して発言する。

「エルラン君、君は中々優秀だったね。ジオンと情報を売買して多額の資産を築く。大した商才だよ。個人的には君は軍人よりも商売人の方が良かったと思う。
それだけの商才があれば戦後復興や新たな起業に役立っただろう。人生を間違えたねぇ。とてもとても悲しい、そう思うよ」

そう言って目頭を押さえるゴップ大将。これで確定した。ばれたのだ。いや、ばれていたのか?

「そうですか・・・・・いつから知っていましたか?」

静かに問う。それしかできないし、この場でこれ以上見苦しい真似は出来ない。
自分は確かに裏切り者だがそれでも地球連邦軍の作戦本部本部長まで昇進したのだ。中将の階級を得たのだ。それを考えてみれば逃げたくない。
いや、逃げてはならない。自分にだって、卑怯者や裏切り者にだってそれなりの意地はあるのだから。

「ふむ、少しは地球連邦軍の将官としての意地があるのかね? 何故裏切ったのか言い訳するのかと思ったが。
怪しいと感じたのはレビル君を救出した手腕だ。君はまるでジオンの中枢にコネがあるかのような言動をしていた。
もっとも君自身は気が付いていなかったが、ね。私だって最初は単なる違和感だったよ。中々やるな、そんな感情だった。
それが疑惑に変わったのはレビル君と君との距離が急速に縮まっていく過程だった。まるで全てを知っている様な君の作戦立案。
レビル君も同じことを感じた筈だ。しかし、それが甘美な、麻薬の様な感じを感じさせたのだろう。だから黙認した。
ああ、いつだったか、そう言う質問だったね? それはベルファスト基地襲撃時の明らかな攻撃回避だ。その後にジュダッグ中佐を呼び出して尋問した。
明らかに変だね。あれだけ叩かれて、更にMS隊の至近距離への接近まで許していた。にも拘わらず、連邦軍司令部は無傷で健在。これで確定した。何かあったな、と」

ああ、やはりあの攻撃でマ・クベは自分を切り捨てていたのだ。エルラン中将はそう感じた。そしてそれは正しい。
マ・クベとエルランの秘密協定では、アウステルリッツ作戦中、ベルファスト基地は攻撃しないという内容であった。
そう言う理由があったから防衛隊は警戒を緩めていた。だが、この作戦開始時に、マ・クベ中将は既にエルラン中将を見限っていた。
レビル将軍がベルファスト基地からブリュッセル基地に前進した事を伝え無かった事、ジオン本国から十分と思える増援を手に入れた事、アウステルリッツ作戦の詳細を伝えてしまった事がエルランから身を守る術を奪う。

「ははは、どうやらこれでは銃殺刑は免れませんな」

そう言って懐から拳銃を引き抜く。
慌てて止めようとする憲兵ら。だが、それを制止したのがゴップ大将だ。
彼は既にジュダッグ中佐を確保している。この上でエルラン中将に生きている必要性を認めない。
冷酷な言い方だが、ゴップ大将も地球連邦軍の制服組トップとして最後の温情を下さなければならないのだ。
そう、これはどちらかと言うと温情。仮にジュダッグ中佐を逃がしていればこの場で確保する様に命じただろう。

「何か遺言はあるかね?」

そうですね、と、エルラン中将は笑った。

「ルウムで戦死した息子たち、孫たちの墓には手を出さないで下さい。これは私個人の裏切りでエルラン家の裏切りではありません。
ええ、虫の良い注文だとは思っていますが、よろしくお願いします。
それとマ・クベとの連絡はジオンのスパイであるジュダッグが知っています。精々、足をすくわれない様に気を付ける事ですな。私の様に」

そう言って米神に銃口浮きつけた。そして引き金を引く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・血が飛び散った。




宇宙世紀0080.09.06。地球連邦軍はようやく戦線を再構築。ジオンの拠点、オデッサを攻略戦としてその前哨戦として、イベリア半島解放軍によるジブラルタル要塞攻略作戦を決行。
一方でジオン最右翼のロンメル大佐は占領下にある北部アフリカ州、親ジオンシンパが多い中部アフリカ州、特別選抜州のパレスチナ(ジオン占領下のイスラエル領。ゲリラ戦が多発していて極度に治安が悪化している)、シリア地域、イラン地域に撤退する。
その総数は5万名を数え、更に北インドの海洋都市に向かってマッド・アングラー隊が後退。
ジオン軍地球攻撃軍は明らかに南極条約を無視した行動開始した。だが、彼らこれを亡命行為として正当化していた。




ジオン公国総帥ギレン・ザビは目の前の男を見据える。宇宙世紀0080.09.04の事だ。
この日、この場所で会えたことがうれしい。
こう言っては仕方ない上に失笑を買う程、可笑しいかも知れないが、まるで長く会ってなかった親友にあった気分だ。

(妙だな。私に友などいなかったが。まさかここに至って敵に友を見出すとは)

そう思いつつもワイングラスを口に運ぶ。赤ワインを少しだけ飲む。ここで酔っぱらうなど愚かを通り越して罪悪だ。
それが分かる人こそ政治家の素質がある。最近は政治家の素質も低下しているので少ないのだが。

「さてと、まずはどうするかね? ウィリアム。君も冗談が上手くなったな。
あのレビル将軍の銃殺刑などという冗談を言い合っている場合ではあるまい?」

下手に出るギレンに、ウィリアムは簡潔に言った。

「そうですね、ギレン総帥の仰る通りです。
ではギレン総帥にお聞きしますが、ジオン公国はどのような条件でならこの戦争の終結に合意できますか?」

手ごわい。嘗ての交渉ではここまで露骨に聞いてこなかった。それは権限が無い事と覚悟が無い事の両方があった。
何故自分がやらなければならいのか、そう言う思いがあった以上、ウィリアム・ケンブリッジは強く出る事は無かった。しかし今回は違った。
非常に強い意志を持ってこの場に来た。並大抵の覚悟では無い。ジオンの勢力圏をたった一人(正確には二人)で渡り切った手腕と勇気はドズルやデラーズでも認めるだろう。
いつ暗殺されてもおかしくは無い。いや、戦争継続派にとっては暗殺の格好の対象であった上、戦争終戦派もそれを知っていた。
誰かがその気なれば死んでいた筈だ。事実、キシリアは何者かに移動中に暗殺された。因みにキシリア・ザビ暗殺は既に国家の極秘事項になっており、誰も手を付けない。
そして、ギレンも決してウィリアム・ケンブリッジの覚悟に流された訳では無い。無論、感情の介入する余地はあったがそれ以上に冷徹な計算が存在した。

「そうだな、まずは我がジオン公国の独立自治権の保証。それの公文化だ。第二の独立戦争を起こす事になってはいかんからな。
それが最優先だ。次に安全保障と地球経済圏への参入による経済制裁の解除。この三点は譲れない」

ギレンの言葉にウィリアムはなずく。頷くが以前と異なり言葉に言葉で返さない。言葉に言葉で返せばそれは確約となるのだ。
だから、まだ秘密にしておく、或いは検討するという意思表示としてウィリアムは黙ったままワインを飲んだ。少し、咽が熱い。

「それとザビ家の存続。ああ、軍縮には応じるが、それは連邦軍の正規宇宙艦隊が減っている条件で。だ。
一方的な軍縮は認められん。どうだ?」

よろしい、そろそろギレン氏に反撃する時か。そんな意志が視線に宿る。
ふ、楽しませてくれるな。そう思うギレン。これ程熱い思いがまさか自分の胸に宿るとはいったい何年振りか?
この男はかつて自分を熱狂させたジオン・ズム・ダイクンとは別の方向を持った熱狂さを持っている。

「親書はお読みになられたと思います。それの返答をお聞きしたいのですが?」

ギレンは親書を改めて読み直す。
内容はどれも似た様なものだが、議員の連名による親書はより具体的な内容であった。
主な内容とは以下の様に。

1ジオン公国の独立ならび自治権付与を認めるが、非加盟国に対するジオンが持っている外交権の身は連邦政府の協議の下に置く。

2ジオン軍の軍縮。艦艇50隻、MS400機、MSはザクシリーズ250機、ドムシリーズ100機、その他50機のみ

3ザビ家の戦犯問題。デギン・ソド・ザビは地球連邦ニューヤーク市にて幽閉。ガルマ・ザビはキャルフォルニア基地にて幽閉。ドズル・ザビは強制退役。

4戦時賠償金の支払いにかわる、1年間のサイド3保障占領。

5全占領地域(月面都市群、地球各地)からの撤退、ア・バオア・クー要塞、ソロモン要塞の割譲。

6双方の捕虜交換。

7戦後復興による両国の協調・共同開発。非加盟国との貿易中止。

ハッキリ言って無茶苦茶である。これが通る位なら戦争など起きなかっただろう。それに南極で迫った条約に比べれば明らかにジオン国内を挑発している。
こんな意見がジオン国内の表面に出るだけで戦争を継続するという意見が台頭するのは目に見えている。それを承知の上で出してきたな。

「ふむ、戦争の継続、これが狙いか? 本気でこの提案を我がジオンが飲む、と?」

一杯の汚水が樽一杯のワインを駄目にする。一つの過激な意見が和平へと向かう全体の意思を全て粉砕する。
そういう事だ。そして連邦の親書の最大の狙いはギレン・ザビに連邦はまだ戦えると言う事を印象付ける情報操作。
無論、本音はそこではない。むしろ最後の項目である両国、ジオン公国と地球連邦による宇宙再開発問題が最大の焦点になるだろう。
加えて、ジオン製の最先端工業背品やMSを輸入している非加盟国を本当の敵として考える北米州ら太平洋経済圏にとってはそちらの方が重要だ。

「もちろん。これがそのまま通るとは思っておりません。
これは我が地球連邦からのジオン公国に対するあくまで軽い外交的な礼儀です。問題解決の為には双方の歩み寄りが必要不可欠ですからね。
まず、一番に合意できるのはこれ、捕虜交換ですか?」

捕虜交換は両陣営に取ってメリットしかない。自分達、祖国上層部は捕虜になった人間を見捨てないという姿勢を見せるのだ。
そうした上で温情を見せる。こうする事で捕虜交換に携わるもろもろの問題を解決する。それに今ウィリアムは良い事を言った。
『外交』という言葉を使ったのだ。これはジオン公国を事実上認める用意があるという裏の意思表示になる。

「そうだな。捕虜は互いに交換する事で合意できよう。場所はフォン・ブラウンかサイド6だな。
それでだ、軍縮の件だがやはり一方的には飲めんよ。我がジオンは負けて無条件降伏をしたのではない。それは分かっているのだな、ウィリアム?」

軍備縮小は最大級の内政干渉だ。ある意味でジオンを国家として認める無言の証明書だがそれを理解してくれるならばそもそも戦争にはならなかった。
と言う事は、これもそう簡単には通る筈がない。いや、絶対に今のままでは通り筈がない。それは交渉相手である地球連邦政府も分かっているだろう。
まして地球連邦軍もジオン公国軍もまだ宇宙戦力は健在なのだから。

「そもそも聞こうか。この交渉をキングダム首相は知っているのか?」

ギレンが続けて口を開く。いつの間にかクーラーボックスの氷は全て溶けて水になっていた。水滴がワインボトルから滴り落ちる。
さあ、いよいよ正念場だ。ギレン・ザビは自分の持っている情報源を敢えて見せてきた。あの連邦議会議長の親書には首相のサインは無い。
あるのは閣僚たちのサインと連邦議員の大半のサインだ。それでは彼の言う通り戦争を終結させることは出来ないだろう。
地球連邦の文民統制は崩さりつつあるが、それでも行政機構と立法機構、更に司法機構は独立しているのが建前だ。が、逆に言えば内閣不信任案を可決する事も可能で、戦局次第では引責辞任もあり得る。

「いいえ、知りません」

ここでウィリアム・ケンブリッジは嘘をつかない。嘘をつく必要があるならつくが今現在はつく必要はない。ついても何もメリットが無い。
そして現在のところ、地球連邦政府の一部は和平を結ぶ気はあるが、その権限は無いと言う事をギレン・ザビに伝える。

「ギレン総帥、貴方の予想通りでしょう。我が地球連邦政府と連邦議会の大半は終戦に向けて努力しております。その結果が私ですね。
しかしながら、我が地球連邦内部は大きく分けて戦争継続派であるレビル将軍の派閥、いえ、軍閥と終戦を目指す派閥が存在します。
レビル将軍はジオン本国の占領とその為のマンパワーであるジオン宇宙軍の壊滅を望んでいますが、戦後復興を考える私達連邦議会多数派や各王室、皇室は戦後の復興の為に余力確保の点から、言い方は悪いのですがほどほどの点でのこの戦争の終結を望みます。
ギレン総帥が信用できないのは無理もありませんが、それでもこの提案を叩き台に新たなる提案をしてくだされば戦争終結、ジオン独立の達成が出来るでしょう」

ここでウィリアムは笑った。まるで自分の笑い方、かつて物事が上手くいったルウム戦役の自分の様に笑ったのだ。
そして私は、ギレン・ザビは気が付いた。彼は確かに『戦争終結』、『ジオン独立の達成』と言った。それは酔った勢いでもなく、単なる失言でもない。
ウィリアムの目線を見れば、彼が本気で発言している事が分かり、その発言内容も嘘ではないし誇張でもないだろう。

(なるほど、戦争を終わらせてその後の復興にジオンの力を使う気か。理に適しているな。
我々の独立戦争は地球連邦の五大諸州と言われていた統一ヨーロッパ州を戦場にして、彼らの富の源泉である地中海経済圏と大西洋経済圏を崩壊させてしまった。
それの復興を考えるとジオン相手にいたずらに戦費を浪費するのは得策では無い。人材も可能な限り無傷で残したいはずだ。
人が死ねばそれだけ経済基盤は脆弱化する。戦傷者が多ければそれだけで地球圏全体の復興の妨げになるだろう。
また、ジオン本国は地球に単独で対抗できた。曲がりなりにも、な。
それをアピールする事でジオン公国の利便性を強調し、政治的に従属させつつ新たなる経済圏を確立させる。
それは連邦の旧宇宙利権とは異なり、対等の利権として扱う気なのだ。そうする事でジオン全体のガス抜きも考えている)

実質の独立達成と同盟国化。南極条約交渉時にジオンが求めた事を連邦は飲むと言っている。これは大きいな。ギレン・ザビでさえそう思えるほどの大きな餌。
食らい付いてくるか、そう構えているウィリアム・ケンブリッジ。そしてギレンは食いついてきた。

「なるほど。ジオン本国の国力と人口に価値を見出したのか?」

その言葉に我が友が言う。

「価値は作る物です。そうでしょう? ジオンが然るべき然るべき方法で終戦を望むならば、ギレン総帥が望んだジオンの独立達成とザビ家全体の安泰化を保障します。
ザビ家を王室として地球連邦王室・皇室評議会評議員に任命します。勿論、貴方を公王陛下として敬いましょう。
デギン・ソド・ザビ公王は引退し、地球に幽閉。ガルマ・ザビ氏も同様ですかな? 彼は地球連邦軍兵舎襲撃事件の主犯ですのでその点を連邦のマスコミに蒸し返されると困りますから。
ドズル・ザビ氏、サスロ・ザビ氏の内ですが、片方は現役に残しても良いでしょう。後継者はお任せします。ミネバ・ラオ・ザビ公女でも誰でも構いません。
ただし、ドズル氏とサスロ氏は互いに有能すぎるので現役として残せるのはどちらか片方だけです。
・・・・・・その上で先ほども申し上げたとおりに、ジオン公国第二代公王陛下にはギレン・ザビ総帥が就任する」

魅力的な提案である。ジオンの内政の全権をギレンに渡し、それを地球連邦が保証する代わりに、ザビ家の主要メンバーを戦犯と言う形こそ取らないが、ある程度は責任を取らせる。
その為の形式を達成する為に連邦政府はジオン公国の条件付き降伏を求めてきた。
これに逆らえば地球連邦は連邦軍の全力を挙げて行動し、ジオン公国はこの世から抹殺され、サイド3にはムンゾ自治共和国を再興させるだろう。
だが、先ほどの一方的な軍縮や保障占領など認める訳には行かない。それは連邦政府も分かっている。だからこそ言ってきた。

(これ以上戦い続けるなら保障占領や軍備解体、それを覚悟しろ、という事か)

ワインを飲みきる。続けて日本産の高級搾り立てリンゴジュースを飲む。

「ギレン総帥は名誉を取られるか、実をとられるか、どちらですか?」

ウィリアムの問い。

「宇宙での決戦での後、地球連邦政府に一度膝を折って下り、サイド3に誕生したジオン公国の存続を認めさせるか。
或いはこのままこの戦争を何年でも継続して最終的にレビル将軍が望む様なサイド3占領で終わらせるか。どうします?」




宇宙世紀0080.09.05の明け方。地球連邦軍は宇宙反攻作戦『チェンバロ』作戦と『星一号』作戦を発動せんとしていた。
地球連邦はハンブルグ奪還成功と、それに続く解放作戦が上手くいっている。よってアウステルリッツ作戦は成功したと公式会見にて発表した。
ヨーロッパ解放作戦(オデッサ奪還作戦では無くなった)は最終段階に入り、ジオンを封じ込めると共に、彼らの希望の星であるジオン本国=地球間のルートを遮断する事でジオン地球攻撃軍の降伏を迫る。
宇宙に対する大規模な反攻作戦を展開してジオン公国に降伏を迫る、これが地球連邦軍の最終目標である、そう軍のスポークスマンは発表した。

「これで地球での戦いも終わりか」

ペガサス艦橋でヘンケン・ベッケナー中佐はその発表を聞いて思った。
彼の指揮していたペガサス自体は赤い彗星の指揮しているマッド・アングラー隊の襲撃を受けて大損害を被った。メイン・エンジンが完全に潰された結果、飛行は当然として、浮上さえ出来ない。
現在は必死に修復作業を行っているが、それでも宇宙反攻作戦に間に合うはずがない。そして戦死した奴らの供養もしなければならない。

(アダム・スティングレイ中尉はあの新型機にやられた)

それは撤退中だったジオン軍の反撃である。
気を緩めていたとは思えない。アダム准尉(戦死に付き二階級特進)の陸戦型ガンダムのセンサーに現れた敵の新型機。恐らくガンダムに勝つために製造されたのだろう。
一機だけだったが、彼とジャックのガンダム二機相手に互角に戦闘を展開して、最後はアダムの乗っていた陸戦型ガンダムのコクピットをビームランサーで上部から貫いた。もちろん、彼がビームの高熱に耐えきれるような筈も無く、戦死した。
その後、他の部隊も合流してこの新型を仕留めようとしたが、生憎の雨と運の悪い事に大型爆撃機の絨毯爆撃の前に見失った。

「そして、あの機体はまだ生きている、か」

ライラ隊を蹴散らして、アダムを殺した新型機。騎士の様な機体だった。設計思想もまず間違いなくグフやイフリートの後継機。それが今も東欧の各地に出没してゲリラ戦を仕掛けている。

(ジャックは仇討を決意しているが・・・・・無理だな。あいつの腕ではやられるのがオチだ。うん? 何を考えている。
俺たちには関係ない事だ。第13独立戦隊には、な)

第13独立戦隊はその活躍を表彰され、少佐以下は全員の一階級特進を決定した。中佐以上は現状維持である。これは派閥争いが関係していた。
本来であれば指揮官のエイパー・シナプスは少将に昇進してもおかしくない程の戦果を挙げている。彼らは二度にわたってジオン公国の猛攻を防ぎ切ったのだ。
だが、シナプスは反レビル派閥である北米州寄りだと思われている。
まして、この部隊の事実上の副司令官であるリム・ケンブリッジ大佐は反レビル派、反キングダム派の急先鋒であるウィリアム・ケンブリッジ(言い方は悪いがレビル将軍にばれた)だ。
彼らを昇進させる事は軍内部で新たな勢力の台頭に直結するか、反レビル派に有力な手駒を与える事になる。それは避けたい。
そう思っているレビル大将の下に伝令が来た。その伝令はレビル将軍に敬礼した後、沈痛な表情で一通の報告書を読み上げる・

「レビル将軍、エルラン中将が自殺しました。心労が祟ったとの事です」

そう伝えてきた副官を下がらせると持っていたキューバ産(キューバは第二次キューバ革命での親米政権が樹立。同時に共産主義キューバは崩壊してしまった。今では中米州で一番の先進国地域である)の葉巻を吸う。そして思いっきり灰皿に擦り付けた。
ギュギュと音がする。

(エルランが死んだ? ぐっ! 何が自然死なものか。どうせベルファスト基地襲撃の責任を追及されて殺されたのだ)

実際はスパイ行為の漏洩と、息子、孫ら全員をルウム戦役にて失わせた地球連邦への復讐の失敗による絶望故だったのだが、そこまでは知らない。
分かっているのはエルランと言う得難い盟友を失った事だけだ。更に悪い事は続いた。
次の作戦本部本部長はジーン・コリニー大将が兼任する。
彼はもともと地球・宇宙方面軍司令官と言うNo3だったが、レビル将軍が南極条約以後地球連邦軍総司令官に就任した為、その地位を追われていた。
そう考えれば彼がどう動くかは予想がつく。というよりも、予想がつかない方がある意味で可笑しい。変だ。

(ゴップ大将はコリニー大将と手を組んだな! これで私を追い落として対ジオンの勝利の果実をもぎ取る気か!? 
そうはいかんぞ。ジオンに勝利するという義務を負っているのは私だ。君らでは無いのだ。ルウムで散った全ての将兵の為にも、オデッサに向かい武運拙く死んだ全将兵の為にも私は勝たねばならん)

そして。

(そしてウィリアム君の裏切りに鉄槌を下すのだ。本来正しいのは独裁を打倒する民主主義の軍隊だ。それが負けるのはあり得ない
我々は戦い、勝利する。その為には星一号を早める必要がある)

そう決断したレビルは直ぐに前線をイーサン・ライヤー少将に任せると機上の人となる。目的地は地球連邦軍本部ジャブロー。
自らの旗艦であるバーミンガム級戦艦である『アナンケⅡ』とその護衛のサラミスK型36隻と共に宇宙に上がる。
一方で北米州でも第12艦隊が新設された。この艦隊は全てがサラミス改級50隻とマゼラン改10隻で編成された地球連邦軍宇宙軍最良の艦隊と言われている。
搭載機も宇宙戦闘と補給、整備性を考慮して全てがジム・コマンド宇宙戦使用に統一された。また、第1艦隊と第2艦隊の戦力増強の為に20隻のサラミス改も第12艦隊と同様にパナマ宇宙港から打ち上げられる。
こうして、宇宙世紀0080.09.07には地球連邦軍は正規宇宙艦隊12個艦隊分、720隻とそれを支える補給艦隊240隻、15の独立戦隊(ただし、第2、第3、第4は8月上旬に壊滅)を配備した。
この光景を忌々しそうに捉えていた人物らがいる。地球連邦議会の議員らである。彼らはここまで軍部が肥大化する事を良しとしてはいない。
唯でさえ、対ジオンを名目に宇宙世紀の60年代から連邦軍の権威と権力は増強の一途を辿っていたのに、これでは軍部独裁を招くだろう。
それだけは避けたい。それが連邦議会の本音だった。いや、アヴァロン・キングダムもそう思っている。思っていた。もう何もかも遅いが。

「ケンブリッジ、役に立つのか?」

ある議員会館の一室で。議員らが懇談している。
内容は先に宇宙に打ち上げたウィリアム・ケンブリッジという有色人種の対ジオン特別政務官。彼に丸投げしたという感じが強いが決してそうでは無い。
事実、ギレン・ザビは知っていたが同時期にサイド6リーアでは地球連邦の諜報部とジオン諜報部が意見交換と言う名目で交渉を開始していた。
同時交渉は互いに、「言った、言わない」と言う水掛け論になりやすいので嫌われているが、この場合はパイプを何個も作る必要がある。
その為にはガルマ・ザビさえも利用する。味方である筈のウィリアム・ケンブリッジも使用する。それが政治と言うモノだ。

「使える。あの男は役に立つ。それに失敗しても彼個人の失態として処理すれば良い。
連邦首相の権限は軍によって奪われつつあるが、一人の失敗を押し潰す事くらいは可能だ」

議員会館の宿舎にいるのは6名。内4名は女性。

「分かりました。各州は彼に期待しているが失敗しても自らの州の利益を守る為に派遣したのですね? なかなかえげつない事ですわ」

まるで他人事のように言う女。この女性議員は一番初めにウィリアム・ケンブリッジの派遣に賛成した上、他の議員に根回しをしたのだが、この冷徹さ。
やはり政治家は基本的に冷徹でなければならないのか? そう思わせる。

「何も彼一人に全てを押し付ける気はない。彼はまだメッセンジャーだ。それは分かって貰えると思う。
我が連邦は軍部の台頭を許す訳には行かん。連邦はあくまで民主主義国家として存続すべきなのだ。それが私たち政治家の義務だ」

その言葉に一斉に頷く残りの5人。

「それではハイマン副議長、議会内部の調整はお任せします。私は内務大臣らを掌握します」




宇宙世紀0080.09.07。霧雨が降っていたと言われている。
地球連邦軍のヨハン・イブラヒム・レビル将軍がオデッサ攻略作戦の継続をジーン・コリニー大将に一任して自ら宇宙に上がる。そして宇宙での反攻作戦『星一号作戦』とその第一段階である『チェンバロ作戦』を発動された。
方や、ギレン・ザビとウィリアム・ケンブリッジの会談は当初の予定を大きく超えて、5日目に入った。

「つまりだ、今までの話を結論付けると我がジオンと連邦は一度戦う必要がある、と言う事かな?」

ギレンはウィリアムの発言を待つ。
既に持ってきたリンゴジュースは飲みきったので、代わりにサイド3の農家が作った野菜ジュースをお供に交渉している。
この野菜ジュースにも無論意味はある。コロニー国家としてジオンは自活できると言うメッセージを込めているのだ。

「ジオンが望むのならば」

そう言うウィリアムの目は笑ってない。口調こそ笑っているが、な。そうギレンは思った。
全く、大した役者だ。このジオンの独裁者ギレン・ザビ相手に一歩も引かない、初めて対等に戦う男が出現した。

(今もそうだ。和平を唱えながら宇宙での決戦を否定しない。この男は自分をどう思っているかは分からない点があると父上やサスロは言っていた。
だが、今のこの男は間違いなく連邦の民70億を背負った、いや、全人類を背負った代表者だ。ククク、この重圧・・・・・圧倒的じゃないか)

そう思いつつもギレンも引かない。
地球連邦が提案してきたジオン公国軍の一方的な軍縮要求並び軍備制限は、戦争に負けてない以上、今の時点では出来ないと断言した。

「分かりました。それではソロモン要塞、ア・バオア・クー要塞、グラナダ市を奪還してからその点は話し合いましょう。
それで、どの様な形になるにせよ、2日前に議論したサイド3ジオン公国を除いたその他のサイドの扱いですが」

来たな。ジオンが宇宙を統治するか、それとも地球連邦が宇宙の利権を復活させるかで揉めた一件。これもまた重要だ。
月面都市群は元々から自治領としてある程度の自治権を獲得しており、それに安住していたから次、つまり戦後も戦前同様で問題は無い。

「さて、ジオンとしては無条件の解放は認められないな。かといって皆殺しにするのも気が引ける。
連邦としては何か良い案があるのかな? ジオン国民と連邦市民、サイド住人を納得させるだけの統治方法があると?」

各コロニーサイドはスペースノイドであり同胞だが、この戦争で各サイドが自らの血を一滴も流すことなく(流石にそこまで強くは言い切れないが)、自らの自治権確立を成功させては、ジオン公国国民が道化だ。
為政者としてその様な事態は心情的にも政治的にも経済的にも軍事的にも認めることは出来ない。
そんな事態になればジオン公国は不安定化するだろうし、その不安定化に別の勢力が付け込むのは目に見えている。

(特に我がジオンが地球連邦と関係を改善すれば、いままで交流していた非連邦加盟国との情勢悪化は避けられない。
もっとも、非加盟国には亡命させた旧ダイクン派と旧キシリア派の部隊を擦り減らしてもらえばそれで良いからな。
ウィリアムの方はその事に・・・・・気が付いているな。おそらく次に来るのは)

ウィリアムの発言。

「ではサイドについては地球連邦の内政上の優先権、宗主権を認めた上で、ジオン公国との共同統治、もしくは経済的な保護国化という形を取りましょう。
各サイドがこのまま独立してはジオン国内の犠牲者が納得しないでしょうし、敗戦国が自分達よりも優遇されるなどとは。
それで先日報告にあったジオン軍地上軍のシリア、イラン、北インドへの大規模な亡命事件ですが・・・・・どう対処してくれるおつもりですか?」

煙にまくか。それしかないな。

「さて、現地軍の独走と聞いている。それ以外の何物でもない。その件については善処しよう、それで良いかな?」

ウィリアムもそれ以上深くは突っ込んでこなかった。
彼もこの議題を論議する事の虚しさを知っていたのだ。ジオンは戦後の地位向上の為に、ザビ家から見た不満、不平分子を地球に放置する。
それを理由に地球連邦との同盟関係を強化する。そのつもりなのだろう。ならばそれに乗る事だ。
地球連邦軍の一方的な軍縮を行う必要がある今、ジオン軍が地上に残る事は意味がある。悪い意味で。
そしてそれを追究したくとも既に亡命された以上、ジオン=非加盟国間の交渉であり、地球連邦は建前上、介入できない。

「分かりました。その件はそういう事にしておきましょう。
そして、戦犯疑惑があるレビル将軍ですが、彼の扱いは至って単純かと思われますが、どう思いますか?」

その言葉も予想通り。全く、ここまで地球連邦とジオンの代表者が阿吽の呼吸で進む外交交渉も「素晴らしい」の一言だ。

「そうだな、勝てば官軍、負ければ賊軍になろうな。このまま宇宙反攻作戦を成功させてジオン本土に到達すれば戦争終結の英雄。
途中で失敗すれば100万名の将兵と統一ヨーロッパ州をはじめ10億人近い市民の生活を破壊した愚かな軍事至上主義者。そうなるだろう」

そしてギレンは徐にある一枚の写真を取り出した。

「ところでウィリアム、私からもプレゼントがある。この女性を知らないかな?」

映っているのは連邦軍の士官候補生の制服を着た金髪の女性士官。短めに整えた金髪と理性的な目が特徴的だ。これは彼流の冗談なのかと思う。
だが、ギレン・ザビの目は笑ってなかった。ギレンは決して冗談では無い。

「いいえ、心当たりはありませんが・・・・・どなたです?」

知らないか。まあ無理もない。これを知ったのはアンリ・シュレッサーの不穏な動きを議長にして副総帥である弟のサスロ・ザビがキャッチしたからだ。
サスロからそれとなく警告されたからザビ家がこの事を把握したとは向こう側も気が付いてない。

(ふむ、確かにウィリアムにはあまり関係ない相手だからな。この娘と関係が深いのはあのキャスバル坊やか。それと死んだキシリアだったか。
だが、となるとアンリ准将やダグラス准将、マハラジャ総督らが復権運動をしたあの赤い彗星は・・・・・まさか・・・・・・キャスバル・レム・ダイクンか?)

ギレンの思惑通りにウィリアムは鋭く聞いていくれた。

「もう一度お聞きしますがギレン総帥、誰です、この女性兵士は?」

何か記憶に引っ掛かりを覚える表情を浮かべる彼にギレンは言う。

「彼女はセイラ・マスと名乗っている。だが実名は違う。RX-78-2ガンダムのパイロットらしいな・・・・・・このアルティシア・ソム・ダイクンは」

その言葉に一瞬だが二人の視線が激突し、周囲が凍る。

「アルティシア・・・・あのアルティシア・ソム・ダイクンですか?」

努めて冷静に言うウィリアム。
応えるギレン・ザビ。

「そうだ。あのジオン・ズム・ダイクンの娘、アルティシア・ソム・ダイクン本人だ。これは間違いないだろう。
我がジオンの国立病院がスーパーコンピューターを使って歯型や骨格を一致させて出した結論になる。さてウィリアム・ケンブリッジ。君は彼女をどう扱う?」

私の問いに答えられるのか? 少し面白そうにウィリアムの顔を見る。彼は俗にいう考える人のポーズで必死に思考を纏めている様だ。
最後の最後で爆弾を持ってきたギレン・ザビ。これに対応するウィリアム・ケンブリッジ。

「なるほど、ジオン公国を認めるならばジオン共和国の遺児は地球連邦との共同管理下に置くか戦場で始末しろと仰るのですね?」

無言で頷くギレン。これは互いに相手を出し抜きつつも相手を信頼する為の儀式だ。

「彼女がセイラ・マスと言う地球連邦市民として生きるなら保護します。また軍人として生きると言うならばそのままです。
しかし、彼女がアルティシア・ソム・ダイクンとして生きるならば、彼女に監視を付けるなりガルマ・ザビ氏の様に軟禁するなり考えなければなりませんな」




交渉内容はある程度決まった。

1戦争終了の如何を問わず、サイド3の独立自治権は認める。

2地球連邦軍、ジオン公国軍は互いに軍縮並び安全保障条約を結ぶ

3ジオン公国は宇宙復興プロジェクト並び宇宙再開発プロジェクトに参加する事(新経済圏の確立)

4南極条約以後の戦争犯罪人の処断は両政府合同の調査機関が行う事。捕虜交換を行う事。

5NBC兵器使用の厳禁。コロニー落とし、質量弾による地球、月都市、コロニーへの攻撃の禁止。

6全占領地域からの撤退。地球連邦非加盟国との貿易の見直し。

ほかにもあるが、この6点が主要な内容となる。
宇宙世紀0080.09.08にある程度の終戦への合意が出来た両陣営だったが、それでも最後は戦争という特殊環境下で目的を達するに足る方法を取らざるをえない。
それは双方の自軍戦力を持ってしての宇宙での決戦である。




宇宙世紀0080.09.10。地球で修理中のペガサスを除いた第13独立戦隊は陽動部隊としてサイド6に入港。勿論その前に、かつて第14独立艦隊を結成していた6隻のサラミスK級と合流して9隻の艦艇になっていた。軌道上で敵の偵察艦隊を1つ、僅か5分弱で壊滅させている。
一方で私はセイラ・マスに会うべく月から出発する船でサイド6に向かう。
船は2日かけてサイド6のコロニーに入港した。
宇宙世紀も80年9月15日になっていた。気が付くと開戦から既に一年以上が経過している。手続きを終えてアルビオンに合流するケンブリッジ。
敬礼で迎えられる。そのまま、彼はシナプス司令官にだけこの秘密を伝える。

「セイラ・マス少尉に会いたいのですが・・・・会えますか? シナプス司令官」

いきなりの事に面食らう。この人物は愛妻家で有名だったがそれがどうしたのだろうか?
そう思うシナプス司令官に小声で告げた。

「司令官、この艦隊にジオン・ズム・ダイクンの遺児が乗っているのです。それが彼女、アルティシア・ソム・ダイクンだ。今は偽名でセイラ・マスと名乗っている筈です」

衝撃だった。それは下手をしたら戦争を左右する巨大な爆弾になる。そんな重要人物がこの艦隊にいたとは。
そして彼は更に言ってきた。自分はこのまま地球のワシントンに戻る。
特別機である『スカイ・ワン』で帰還する際、彼女が地球連邦に対して不穏な事を考えているなら拘束する必要がある。

「それは・・・・・政治的な話ですな?」

辛うじてだが言うシナプス司令官。いつの間にか小声になっている。ここには二人しかいないのに。

「そうです、恐らく連邦議会議長閣下や下手をするとブライアン大統領らもこの話に関係してくる話です」

そう思う。そう言って話を終える。




「ブライト、何か?」

それから2時間後、カイ・シデン兵長の護送と共にセイラ・マスはブライト・ノア少佐、ミライ・ヤシマ中尉と共にエイパー・シナプス司令官の居る執務室に呼ばれた。

「さあ、良く分からない。とにかく、ウィリアムさん、あ、ケンブリッジ特別政務官が君に会いたいと言う事だ。
詳しくは彼に聞いてみてくれ」

そうして全員が退室する。
いや、ブライト・ノア少佐だけは部屋に残るように言われた。護衛と言うより取り抑え役だろう。何かあった時の。
緊張するブライト・ノアとどこか泰然としていて飄々としたセイラ・マス。それを見て確証はないが確信するウィリアム・ケンブリッジ。

(この気品の高さ。間違いないな。ギレン氏の言った通り彼女は・・・・・あのジオン・ズム・ダイクンの子供か)

腰かける様に言う。二人は腰かける。一体何事なのか、それを聞きたいブライト少佐は懸命に堪えた。
溜め息をつくウィリアム。頭痛を抑える仕草をするシナプス准将。これは何事なのだろうか。

「いくつか聞きたい事があります、セイラ・マス少尉」

一呼吸置いた。そして聞く。

「少尉。セイラ・マスと言うのは偽名であり、あなたの本名はかのジオン・ズム・ダイクンの娘であるアルティシア・ソム・ダイクンで良いでしょうか?」




宇宙世紀0080.09.15、ウィリアム・ケンブリッジがアルティシア・ソム・ダイクンと思われる人間に会った時。
まさにその時、レビル将軍直卒の第3艦隊から第9艦隊の7個艦隊はソーラ・システムと呼ばれていた極秘兵器でソロモンを攻撃。
こうして、地球連邦軍は難攻不落と謳われたジオン公国軍の宇宙要塞ソロモンを僅か6時間で陥落させた。

そして。その情報は撤退していくユーリ・ハスラー指揮下の残存艦隊が必死で本国に送っていた。もっとも、ハスラー提督はこの時点で重傷を負い、後に死亡している。
光学望遠鏡で連邦軍の7個艦隊の位置を確認する。ソロモンに入港していく連邦軍の艦隊。
8時間後、これを確認したギレン・ザビはズム・シティで全軍を鼓舞する。




『ジオン本国のギレンである。これより作戦を発動する。ゲルドルバ作戦発動。ソーラ・レイ、スタンバイ!』

『これは、愚劣なる地球連邦軍に対する裁きの鉄槌である!! 神の放ったメギドの火に必ずや彼らは屈するであろう!!』




一方で、サイド5もまた戦火に包まれようとしていた。第9次地球周回軌道会戦以来動かなかった第1艦隊と第2艦隊、新設された第12艦隊がジオン軍のサイド5駐留軍を襲撃したのだ。
後に第二次ルウム戦役と呼ばれる戦いの始まりである。

地球のオデッサが未だに健在な為、政治的な得点を稼ぎたい地球連邦軍は宇宙でも多方面攻勢にでる。これが吉凶いずれとなるかは誰も分からない。


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