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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:15b68140 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/14 13:28
ある男のガンダム戦記13

<暗い情熱の篝火>




宇宙要塞ソロモン。ジオン公国の宇宙における純軍事的な要所であり、地球連邦軍の宇宙反攻作戦『星一号作戦』の一環である『チェンバロ作戦』の攻略目標である。
その為の事前の準備(数個の独立艦隊による強行偵察)をレビル将軍は命令した。
が、4隻ずつ、合計12隻のサラミス改級で編成された第2独立戦隊、第3独立戦隊、第4独立戦隊は、数機のMSとは違う航宙機の大型版の様な、ジオン軍がMAと呼んでいる部隊の猛攻撃を受けて壊滅した。これは当初の予想ではありえない事態だ。一個艦隊相手にでも時間を稼げると思われていた3つの独立戦隊が瞬時に壊滅。
その部隊をジオン軍は第300独立部隊、通称「ニュータイプ部隊」と呼んでいた。

「シャリア大尉、クスコ中尉、マリオン中尉、レイラ中尉、セラ少尉、アイン少尉のMAエルメスか。これは凄い一方的な戦況だな」

ゲルググ高機動型という単純な兵器としてはガルバルディαに劣るものの、兵器としての質で勝るその機体を配備している白狼連隊を指揮して、彼ら彼女らニュータイプ部隊を護衛するシン・マツナガ少佐はコクピットの中でバイザーを開けて汗を拭きつつ一人呟く。
彼の言う戦局とは、連邦軍のサラミス級巡洋艦のMS運用可能母艦タイプ12隻と48機のジム改と両軍から呼ばれている連邦軍のMS隊を四方八方から撃破していく姿であり、その一方的な戦闘の流れだ。

「ただし戦闘長期化による原因不明の頭痛あり。
また各MSNシリーズ搭載のサイコミュ兵器によるオールレンジ攻撃時は意識を対象に集中する必要がある為、護衛機の存在が必要不可欠
これでは半ばモルモット扱いだな。しかしドズル閣下も彼ら彼女らを戦線に投入するだろう。このソロモンを放棄するなら尚更」

6機のMAエルメス。その搭載兵器『ビット』の動きは連邦軍を完全に翻弄していた。
戦闘開始寸前に艦隊司令部からニュータイプ部隊のみの迎撃を命じられた時は正気かと思ったが、これ程の実力ならば納得ができる。
そしてザビ家に近い、正確にはドズルの信頼が最も厚いのが自分だと言われている。実際、彼から国家の大戦略を聞かされることもある。愚痴と言う形で。
ギレンやサスロは互いに言い合えるから無いが、軍事の専門家としてザビ家で役割上孤立しがちなドズルはこういう事がある。信頼する部下にポロっと裏事情や秘密情報を教えてしまう。ルウム戦役直後のシャア・アズナブルとの面談もそうだった。

(ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプを部隊名に使ったニュータイプ部隊の名は伊達では無いのだな。
しかしこれ程の部隊が急造されるとはジオン本国で何があった? ドズル閣下はこういった胡散臭いモノを好まない筈だ。
事実、私にこう愚痴をこぼした。トップであるギレン総帥はニュータイプ部隊にある程度の足止めを期待している様だが、これで物量に勝る連邦に勝てるのか、と。
確かにその通りだ。私もこの戦果を自身の目で確認するまで6機のMAエルメスよりも36機のゲルググ量産型の方を配備するべきと具申していたのだから)

が、問題は解決した。ニュータイプ部隊は理論の段階だが使える事が判明した。連邦軍もこの時期に新型ジムと新型艦で編成された3つの独立戦隊(艦隊)を壊滅させられるとは思ってなかった筈だ。
その証拠に悲鳴のような救援要請がつい今しがたまで発信されていた。もっともミノフスキー粒子の海に溺れてどこにも届かなかったが。
逆に考えればそれだけの高濃度のミノフスキー粒子散布下での戦闘にて無線誘導兵器が復活したと言える。

「こちらシン・マツナガ少佐。全機の無事を確認。帰還する」

撤退の赤い信号弾が宇宙に輝いた。




ジオン公国のニュータイプ研究の切っ掛けはジオン・ズム・ダイクンの思想を探す学術家グループに端を発する。
ニュータイプとは何か、これを単なる机上の学問から実用的な学問へと推進したのはフラナガン博士を中心としたグループであり、サイコミュと呼ばれる無線誘導機器(後にオールレンジ兵器と呼ばれる)の開発が主目的である。
意外な事にこれ(ニュータイプ論)に最初に興味を示したのはギレン・ザビ総帥であった。実際、この事を知ったサスロ・ザビは兄が過労の余りに新興宗教団体に嵌ったのではないかと不安の余り、ギレン・ザビへ直訴した位だ。
そう思われる程、ムンゾ自治共和国からジオン公国まで政権の中枢にいるあの冷徹な合理主義者、それがどちらかと言えば精神論的なモノに興味を示した衝撃は大きかった。

「ニュータイプ研究を開始せよ。予算はある程度は付けよう。フラナガン博士、場所と資材と予算に人材は確保するからこのサイコミュを実用化して見せろ」

そう言って開発計画にGOを出した。ではこの理由はなんであったのだろうか? それはキシリア・ザビの存在である。
彼女が残した(正確には残してしまったというべきだろう)キシリア日誌と呼ばれる極秘文章、ザビ家の長女によるクーデター計画の見取り図とでも言うべき案に、ギレンは警戒した。
そしてその一部に書いてあったサイコミュに興味を抱く。

「ニュータイプ、か」

総帥服を着たギレンはキシリア日誌を読み切ると自室でそう独語したという。
奇しくもこのニュータイプ論とサイコミュは、ジオンの国運を賭けたミノフスキー博士によるミノフシキー学、ミノフスキー粒子によるMSの登場と重なった。
これは歴史の必然だったのだろう。そう考えたい。
ギレンはキシリア・ザビの考えたニュータイプ進化論と言うべき考えには一切の興味を抱かない。当然だ。それは彼の様な人物にとっては弱者が縋る妄想である。こういう点ではウィリアム・ケンブリッジと同じ感性の持ち主だった。
彼が興味を抱いた対象はミノフスキー粒子散布下での無線誘導可能な兵器であるサイコミュの開発。一方的に誘導兵器を復活させられる可能性である。
その点を考慮してサイコミュニケーター、これの開発に着手した。こちらの方が余程重要な問題である、そう言い切った。

(ニュータイプそのものはダイクン学派の連中にやらせればよい。それよりも無線誘導兵器の復活こそ急務!)

時に宇宙世紀0076の夏であった。それから3年あまり。ジオンは数百の実験と戦争時の実戦データを反映させてMSNと呼ばれるシリーズの開発に成功。
ミノフスキー粒子散布下での誘導兵器復活につなげる兆しだけを見せた。
もっとも、そのサイコミュを使えるのはあくまで一部の人間であり、一般人が使えないと言う弱点が存在するので全軍への配備は行われてない。
そう考えればこの兵器はあくまで理論上の存在であろう。兵器とは誰でも扱えて一定の成果を上げられる事が前提条件なのだから。
加えて。ジオン公国の総帥たるギレン・ザビは、サイコミュを扱えるその人物をあくまで突然変異であるとしか見てない。この点もウィリアム・ケンブリッジのニュータイプ少数派論に良く似ている。本質的にあの二人は似た者同士なのだ。
無論、それを表に出す事は無い、それが為政者だ。無いのだが、ギレンらジオン公国の上層部は本心から彼ら彼女らをニュータイプであるとも思ってない。考えてもいない。

『ニュータイプとサイコミュを扱える人間はあくまで別物である。便宜上そう呼ぶだけである』

これは愛人のセシリア・アイリーンも弟のサスロ・ザビやドズル・ザビも知っていた。ちなみにザビ家で知らないのはデギン公王とガルマである。
戦争序盤で司令官職を求めて、本国の参謀本部比べて情報が乏しくなる前線部隊に、自ら向かったガルマ・ザビはともかく。
デギン公王がこのニュータイプ部隊の事を知らないのは余計な事をして南極での交渉をぶち壊してくれた前科から、つまり、ギレンやサスロの警戒感から来ているのである意味自業自得だ。
そして、宇宙世紀0080.08.03。

『撤収作業終了しました』

確認する。敵味方の負傷兵や漂流者の改修も終わったようだ。宇宙空間や海上で漂流者は敵味方の区別なく回収するのが習わし。
もちろん南極条約で義務化されているがそれ以前に船に乗る物全員の義務だ。そして言いたくないが既にノーマルスーツの平均空気残量時間も5分前に切れている。

「よし、ジムの新型も回収した事だし撤退する。全ザンジバル級、回頭」

ザンジバル改級4隻で編成された白狼連隊は一度ソロモン要塞に帰還する。
この戦いで、ソロモン宙域でその一端を白狼と呼ばれるジオン十字勲章所持のエースパイロットにして名指揮官は確認した。サイコミュを搭載したMAもの実力を。




宇宙世紀0080.08.19日。ワシントンDCの一角で。ウィリアム・ケンブリッジは囚人服を着て面会室に居た。手錠はされてないし一時的な処置である。が、この切っ掛けと言うか原因は言うまでもなくガルマ・ザビに殴り掛かった事にある。
寧ろ。よく謹慎拘禁処分で済んでいると言える。これがジオン公国なら銃殺刑もあり得ただろう。実際ザビ家に反抗して生き残ったのが奇跡的だと言うのがジオン公国だ。それくらいの事をやったのだ。
それは分かっていた。だが、それでも許せなかった。

(関係ない筈がない。お前が昔何をやったか、その所為で一体どれだけの人間が迷惑をこうむり結果としてどれだけの人間が死んだのか思い出せ!!
あの武装解除事件で連邦側にも犠牲者は出た。その後のジオンと連邦の交渉を暗礁にのし上げさせた。結果、両国は戦争に突入したのだ!!)

そう怒りの炎を、ある意味では八つ当たり以外の何物でもない感情を燃やしたウィリアム・ケンブリッジ政務次官である。
開戦に至るまでの持論はまあ極論ではあったが。他にも軍拡のもたらした経済的な側面など理由は多々ある。
決してガルマ・ザビ『だけ』の責任では無い。が、ガルマ・ザビにも責任の一端があるのは自明の理でもある。
そんな彼の面会相手は休暇を取ってわざわざ会いに来たジャミトフ・ハイマン少将。

「久しぶりかな、ウィリアム。差し入れは無いが子供たちは全員無事だ。お父さんとお母さんは仕事で外国へ行っていると私が直接言ってきた。
君らの両親たちにも詳細を説明して納得してもらった。その点は安心してほしい」

ジャミトフ先輩は後輩であるウィリアム・ケンブリッジの体調と心情を心配して会いに来たのだ。全く頭が下がるとはこの事である。
当然ながら彼は将官であり、北米州方面軍副司令官並び軍事参事官(連邦軍統合幕僚本部の主要メンバーの事。全員で35名しかいない。他にはブレックス・フォーラ少将やジョン・コーウェン少将などがいる。トップはゴップ大将)として重圧を加えられている彼にとっても貴重な休暇なのに。
そして思い出される。殴るかかった、彼の胸元を掴みあげたあの日を。

『ふざけるなよ、お前は自分が誰だか理解しているのか!?』

『お前が殺した人間の前でその腑抜けた姿を見せられるのか!? お前のバカンスの為にジオンの兵士達は死んだのか!?
俺の妻は・・・・・リムはお前の個人的な名誉欲や虚栄心の為に死にかけているのか!? ふざけるんじゃない!!』

そう言ってガルマ・ザビを罵倒した。周りの景色など忘れて。自分の立場をしっかりと投げ捨てて。あったのは感情のみ。激情のみ。
内容は後で述べるが、それはそれは正に心の底からの罵倒であった。彼が誰であったのか、自分が誰を相手にしているかなど簡単に忘れ去った。
その事からもう10日程、ワシントン特別空港の現地時刻で8月5日の14時前後だった事を考えると謹慎の日程もあと僅か。
漸く出れる、という安堵感よりも第13独立戦隊の面々がどうなったのか知りたかった。当たり前の事だが独房ではそんな情報が入る筈も無い。それが辛い。

「さて、少しは反省したのか?」

ジャミトフ先輩が鋭く聞く。というより出来の悪い後輩である自分を叱りつけている。怒って当然だ。先輩とは大学時代から長い付き合いになるから。
確かにあの行動は大人気なかった。地球連邦の高級官僚である自分が怒りに任せてやって良い事では無かった。
しかし、それでもガルマ・ザビに言いたかった。

『ガルマ・ザビよ、お前の立場を知れ、お前の為に死んだ人間がいる事を思い出せ、お前の今の立場を考えろ』

と。
まるで自分の為に死んで当然と言う態度が、こちらとの裏取引を破って以来、私が一方的に嫌っているレビル将軍の『ジオンに兵なし』という演説と被ったのだ。
彼もルウム戦役の敗北の責任を取る事無く戦場に舞い戻った。
本来であれば戦死か軍法会議か、強制退役による予備役編入の可能性が高かったのに、である。それだけの大敗北をしておきながら何食わない顔で地球連邦軍総司令官というのは良く考えると納得がいかないだろう。

「・・・・・・はい」

だがジャミトフ先輩には口答えできない。彼は自分がずっと世話になってきた身内だから。その分甘い対応になる。お互いに。
そう言う。それしか言えない。この間、面会に来たダグザ少佐は言ってくれた。

「先日の政務次官の取った態度は官僚としては最悪でしょう。しかし、連邦市民としては当然の感情と思います。
これは個人的な事ですが私も閣下の刑が軽くなるように擁護しました。
ジャミトフ・ハイマン少将、ジョン・バウアー議員、ヨーゼフ・エッシェンバッハ議員も次官を守ってくれています。暫くの辛抱です。
それに連邦軍上層部のゴップ大将がこの件で動いてくれているとの噂もありますから。決して自棄を起こさないで下さい。必ず釈放されます」

この言葉を聞いた時は本当に頭が下がる思いだった。
あの日の自分は自分の事しか考えてなかった。リムと子供たちのことしか考えなかった。それが情けない。それが悔しい。泣きたいほどに情けない。
私の為に力を尽くしてくれる人々がこれ程いた。それに気が付けなかった。リムと子供らの事しか頭になかったのが悔やまれる。後悔する。

(私の為に戦地で妻を守ってくれる人々も何百人といる。何でもっと視野を広げなかったんだ?
それを分って無いのではガルマ・ザビと同じではないか? いや、何も変わらないだろう。ガルマ・ザビの独善さと俺の身勝手さは同じ重さだ。同じモノだ)

あの時、ワシントン特別国際空港。
私はきっとガルマ・ザビに、己であるウィリアム・ケンブリッジの姿を見たのだ。己の事しか顧みない、最悪な人物である己自身を。
だからあれ程の怒りがわいた。だからガルマ・ザビと言う自分から見て20歳は年下の若者に理不尽な怒りをぶつけたのだと思う。

(私の鑑みがあの時のガルマ・ザビ。そうだ、それを自覚しなければ)

いや、ガルマ・ザビの事などもうどうでも良い。ようは自分がガルマ・ザビの様にならない様に自覚しなければならないと言う事。
次に自分を忘れた、或いは身勝手な行為をすれば恐らく神は私を裁く。それを忘れてはならない。

(そうだな。あのガルマ・ザビと俺は何が違う? 一緒だ。同じだ。全く変わらない。俺は俺の事しか考えてない卑怯者だ。
第9次地球周回軌道会戦で戦死した将兵の事を数値としか見ないガルマ。リム以外の事を単なる文字でしか見れなかった俺。
何も変わらない。何も違わない。全て同じである。まったく度し難い。本当に・・・・心から度し難いのがこの俺か・・・・・自嘲したくなるな)

そう思った。臆病者だとは知っていたが、それ以上に卑怯者だった。自分の事ばかり考えている小学生にも劣るクソ餓鬼だ。そう感じる。そう思える。そう考える。
良く考えて見れば、自分にもガルマ・ザビを批判する気持ちなど持ってはいけないのだ。

(ガルマ・ザビが特権を利用して前線に来たのと俺が特権を利用してリムを戦場から引き離す行為は同じものだ。どちらも特権に胡坐をかいた行為でしかない)

そうだ、自分はあの日連邦政府と裏取引をしたのだ。それを思い出させる。
地球連邦政府との裏取引。あの時、俺は妻リム・ケンブリッジの安全を地球連邦政府キングダム内閣府から『買った』。
文字通り、我が身を犠牲にしてリム・ケンブリッジの安全を『購入』したのだ。それが正しい道を信じて。それこそ誰にも強制されてない自分の選択で。
そして冷酷にもキングダム首相は裏取引を放棄して私たちはうち捨てられた。
過去に交わした約定などまるで無かったかのように、いや事実としてその様な事態は無かった事になった。その結果がリムの前線勤務だ。
確かに裏切られた。だが、その前に自分はシナプス司令官らを裏切っていた。そんな自分にガルマ・ザビのバカンスを非難する資格があったのか?

(独善もここに極まる。おこがましい。なんて卑怯なんだ。なんて屑だ。クソッタレなんだ。俺は卑怯者だったのに今の今まで気が付かないとは。
ガルマ・ザビはさしずめジオンの俺か?
ああそうだな、ジオンのウィリアム・ケンブリッジがあのガルマ・ザビなんだ。それを自覚しないと俺はまた同じ失敗をする)

そう思っているとジャミトフ先輩が声をかける。
彼にも迷惑をかけた。かけ過ぎたと言って良いだろう。彼には世話になりぱなしだ。

「・・・・・そうか、まあこの間も言ったがお前の気持ちは分からなくはない。
ウィリアム、お前の感情は正しいだろうな。戦場に、それも最前線に大切な人間を送れと言われて嬉しがる者はおらん。
私も実戦経験はあるが、それとて海上艦隊の巡洋艦の乗組員だ。それでも怖かったが・・・・ああ、言い忘れていた。私の妻はその時の戦闘で逝ったよ。
情けない事に私はそれを知ったのは艦が港に戻ってからの事だった。そして妻は一番死にたくなかったと言っていた重油まみれの海で重油に囲まれて死んだ。
妻はな、南国のパラオ共和国、北米州の出身でもかなり東方の出身だったのだ。周囲がエメラルド・ブルーやコバルト・ブルーの旧太平洋諸国の出身。
それが故郷とは考えもつかない程汚された海で死んだ。
とてつもなく悔しかった。悲しかった。だから私は地球至上主義者と言われてもこの地球を再生したいと思うようになった。亡き妻の供養の為に」

こんな場で申し訳ないが私は驚いた。

(初耳だ。ジャミトフ先輩があれだけ地球環境に固執した理由は其処にあったのか)

彼もまた家族の為に己の生き方を決めた人間だった。
だが、こちらの方が共感を持てる。
明らかに私事で戦争を継続したとしか思えない南極条約時のレビル将軍の態度よりも余程真っ当な理由に私は感じるのだ。きっとそれは正しいのだろう。いや、正しいと信じたい。

「さて、減給1年に2週間の独房生活、謹慎処分がお前に与えられた罰だったが、情勢が変わりつつある」

ジャミトフ先輩からなんとも嫌な不吉な言葉を聞いた。情勢が変わりつつある? いったいどういう事だ? 
まさかオデッサ攻略の『アウステルリッツ』作戦が不味いのか? あれだけの大戦力を投入して劣勢に陥っていると言うのかあのバカ軍人は!?

(縋る様な視線を向ける自分はきっと滑稽なんだろう。
だが、今だけはそれでも先輩に縋る。今は誰かに縋るしかない、そしてそれは、縋るのは今この時だけだ。ここから出たら・・・・・必ず)

ここからでたら、特別刑務所から解放されて自由になったらあの計画に、「ティターンズ」計画に乗ろう。積極的に協力させてもらう。或いは利用させてもらうと言って良いかも知れない。
地球環境改善も結構、戦後復興に名を借りた戦後の地球連邦統治権の奪取にも協力しよう。
だから今は縋らせてくれ。そう思っていると別の男入ってくる。看守だ。しかし、拳銃を構えた、いやスタンガンを構えた看守と言うのも珍しいな。

「そうか。まあこの間に比べて元気そうでなにより、という言い方は不味いかも知れないが・・・・・それでも元気そうで良かった。
さて本題に入る。まずはお前に面会があるのだ。ウィリアム、お前に会いたいと言っている人物がいる。
不本意な人物だろうとは思うがこれも仕事の一環として会ってやってくれ。というか、会え。これはブライアン北米州大統領閣下からの命令になる。
私が休暇を利用して此処に来たのはその人物の監視の役目もあるのだ・・・・・衛兵、彼を入れろ」

扉が開いた。それに私は驚く。そこには安物の紺のスーツを着た20歳前後の若者が青いネクタイをして立っていた。
そして深々と頭を下げる。本当に深々と、礼儀良く、かつてのお坊ちゃん的な傲慢さは欠片も見せなかった。その点は評価しよう。もっともほんの少しだけだが。

「ガルマ・ザビです。お会いするのはこれで二度目になりますが、ウィリアム・ケンブリッジ政務次官殿とお話をしたく思いました。
その為にジャミトフ・ハイマン少将に無理を言ってここに来させてもらいました。よろしくお願いします」




アウステルリッツ作戦で発生したドイツ北部の戦線は完全に混沌と化していた。ボンを奪還、ベルリンを解放するべく地球連邦軍はついにエルベ川河川沿いの沿岸都市ハンブルグを射程に捕える。
が、ここで撤退し続けたジオン軍もまた決死の反撃に転じる。主力部隊はドムとドム・トローペン、ドワッジを基幹戦力とした第2軍。
ノイエン・ビッター少将指揮下の第2軍はこの為に編成された部隊であり、この打撃部隊による戦略機動による側面反攻作戦を決行してきた。
またジオン軍は海上艦隊を持たないが(黒海沿岸地域で奪った艦艇は戦闘に活用できるほど熟練した乗組員がいない)、シャア・アズナブル大佐指揮下のマット・アングラー隊の通商破壊作戦にて、大西洋で損害を受け、ドーバー海峡に一定の戦力を拘束された連邦海軍はこの時点で無視して良い。
0080.07.31の時点では連邦軍は予備兵力である海兵隊と陸軍5万名によるエルベ川を迂回した強襲上陸作戦が出来なかった。
そして、ハンブルグにはユーリ・ケラーネ少将のジオン軍第1軍と地球攻撃軍のダグラス・ローデン准将の拠点防衛軍(通称は第3軍)が展開。
エルベ川の河川輸送能力や補給線分断の危険性を考えるとこれを無視するわけにはいかない地球連邦軍。故に連邦軍はここハンブルグ前面にてジオン軍を撃破する作戦を取る。
狙いは単純で、『大軍に確たる用兵は必要なし』の言葉を実践。
大規模な空爆と砲撃の後、ハンブルグ郊外に布陣しているジオン軍20万を粉砕する。この為、北部方面軍と中央方面軍の二つ、総数65万を動員した。
更に720機のMSで健在な643機の内、360機を一挙に、第一波としてこの戦線に投入。航空機も1000機を凌駕し、戦車隊も600両になる。
後に『ハンブルグ会戦』、或いは『エルベ川攻防戦』と言われる戦いが始まる。
部隊の集結、南欧解放軍やイベリア半島解放軍からの部隊間の戦略移動などによる時間の浪費からか、会戦が正式に始まったとされるのは宇宙世紀0080.08.14の午前1時30分。
無論、エイパー・シナプス准将指揮下の第13独立戦隊もこの大規模戦闘に投入されるのは当然の事であった。必然と言い換えても良い。
彼ら第13独立戦隊は連邦の最精鋭部隊であり、戦場の便利屋であり、火消し屋なのだから。今動かなくてどうするのかという事だ。
この4隻のペガサス級は他にも前線基地としての機能も持つ。
よって投入されて当然であり、戦隊を構成する全乗組員もそれを受け入れていた。もっとも半分以上は嫌々であるが。当たり前だ。誰だって死にたくない。




時と場所はまたもやワシントンの特別刑務所にある面会室に移る。宇宙世紀0080.08.16の午後10時。本来なら消燈の時刻だ。
それが護衛の衛兵と看守が見守り、弁護士が一人いる中で、軟禁された地球連邦の高級官僚と捕虜になった敵国の王子と言う訳のわからない対談がまた始まる。傍らには眠たそうなジャミトフ先輩がいる。
きっと徹夜続きなのだ。申し訳ない事である。

「政務次官。あの時・・・・何故・・・・私を叱ったのですか?」

ガルマ・ザビは心底不思議そうに聞く。当たり前か。敵である自分を叱っても不利な点はあるが利点などない。まして公衆の目前。
皆が見ていた。言い訳など出来ない。その結果がこの囚人服であり、子供らとのしばしの別れであり、25%カット、ボーナス支給せずと言う減給処分である。身から出た錆だ。が、それは良い。認めよう。
認めないと先に進めないのだ。だが、だからこそ、それがどうしたのかと聞きたい。そんな疑問を聞くためにここに来たのか? お前は他にもやる事があるだろうと視線で訴える。

「私は・・・・・叱られた事など無かった」

言い訳か? 恨み言か? 地球に降りてまともに喋ったと思えばこれだ。全く大した教育をしていたのだな、デギン・ソド・ザビ公王陛下は。
長男ギレン氏と次男サスロ氏、三男ドズル氏はあれ程有能なのに最後の四男はこの様かい。
全くもって良い気なもの。他人事ながら、この四男に対してザビ家は絶対に教育を間違えたと私は思った。それは間違いないね。
そう思っていた。イライラする。まるで鏡だ。考えた通りに来る。
自分を映す鏡。

(ガルマ・ザビと言う男の向こう側にウィリアム・ケンブリッジ内務省政務次官にして地球連邦の若き英雄という特権に胡坐をかいていた男(自分)を見ている気分だ。
不愉快極まる。だがこの鏡を割る事も出来ない。
それに割った所で必ず鏡は私を映すだろうから意味が無い。どんなに砕かれた鑑であろうとも必ず景色を写し出すのだから。畜生が!)

毒舌が出てしまう。

「それで? 私に謝罪しろと? 或いはもう一度罵倒してほしいとでも言うのですか?
ガルマ・ザビ大佐、貴方に謝罪するならあの場でしましたよ。いえ、行動にさえ起こさなかった。それともこれはブライアン大統領やキングダム首相からの命令ですか?
ジャミトフ先輩、もしそうなら命令してください。そうして下さるなら彼の靴でも舐めましょう。それがキングダム内閣と言う現在の連邦の体制でしょ?」

我ながら毒舌だ。
だが、あの裏切りに尋問と人権侵害を受けてもまだ笑っていられるほど大人では無い。このままだと子供らも生贄にされる。そう思える。

「それは・・・・・そうでは無いんだ。違う。ケンブリッジ先生、私はそんなつもりで会いに来た訳では無いのです。
ただ知りたい、いや、これも傲慢だな。私は教えて欲しいのだ。私はジョン・バウアー議員と共に連邦市民の主催するパーティに出席して辛い目にあった。
何人かのご婦人は露骨に私を避けたし、目が笑ってない事くらいは分かった。あれは憎悪や軽蔑の目だ」

それで? そんな当たり前の事を今ここで白状するのか? 
何なら教会を紹介しましょうか? それともムスリムの友人の方が良かったか? 或いは仏教の僧侶や神社?

「知りたいのだ・・・・・何故あれ程まで連邦市民から私は憎悪を向けられているのか、その理由を。そしてこの戦争の意義を」

私は心底思った。ガルマ・ザビのこの発言に。心の底から呆れ返る発言とはこの様な発言を指すのだろうか? そうだな、そうに違いない。
こいつは歴史を知らない頭でっかちのシロッコ中佐並みに御目出度い頭の構造の持ち主らしい。憎悪される? しかも今先生ときたか? 何を言っている?
当然だろう。ガルマ・ザビよ、お前の一族は地球連邦と言う国家の敵対国の王族であり支配者なのだぞ? それさえ自覚してなかったのか?

(嘗て私たちをサイド3政庁に護送してくれたランバ・ラル氏はこんな奴の為に死んだのか? これでは無駄死にではないか?
第9次地球周回軌道会戦で死んだジオンと連邦の全将兵は一体何のために死んだ?
こいつの敵地でのバカンスの為に死んでやったのか? 私の様に家族を故郷に残して!? 悲しむ人間を増やして?)

怒りが込み上げてきた。いや、呆れもある。だから言ってやった。

「ガルマ・ザビ大佐、貴方は馬鹿だ。ハッキリ言って最悪の馬鹿だ。その理由は語るに及ばずだ。自分で察してもらいたいな。
私は貴方に申し上げる事は何もない。貴方は貴方で、自分でその答えを探せ。そうしない限り貴方はずっと兄たちに追い付けないだろうよ。
そしてギレン氏は決して貴方を認めない。ああそうだ、他人事ですがね、これだけは保証しますよ。
その甘さを除かない限り、長兄のギレン・ザビ総帥はガルマ・ザビ大佐、貴方をザビ家の家族の一員とし認めても、対等な人間としては絶対に認めない。
それがギレン・ザビと言う男の鋭さでありますよ。貴方が憎悪をどうこうと言っている間は何も変わりはしない。甘い坊や扱いされるだけだ。」




この言葉が歴史を動かす。




宇宙世紀0080.08.20、ドイツ領ハンブルグ近郊。
戦闘開始からこの方まで激戦がいまだに続く。数機のドムがジャイアント・バズを放ち、ジムキャノンやジムの上半身を吹き飛ばした。当たり前だがパイロットは即死。
また、別の戦線ではザクと陸戦型ガンダムが対峙していた。ザクがマシンガンのドラムマガジンを交換する為に一度動きを止める。

「そういう時は身を隠すんだ!!」

サウス・バニング大尉の陸戦型ガンダムがこの隙を捉えて100mmマシンガンを撃ち込む。仰け反るザクに更に二条の閃光が貫く。後方に爆発音。
爆風、爆音と共に、MS搭載のソナーがドムの退避する音を捕えた。どうやら身を隠す必要があったのは自分の様だ。助かったか。

「こちらデルタⅡ、ラリー機、援護した。0401、無事か?」

「デルタⅢのアニッシュです、バニング大尉を援護!」

デルタ小隊に所属するジム・スナイパーⅡのラリー機とアニッシュ機から通信が入る。ミノフスキー粒子が濃くなりだしているがこの距離ならまだ通信可能圏内だ。
見るとデルタⅢのハイパー・バズーカから噴煙が出ている。銃を上にあげて感謝の意を表す。パイロットにはパイロットの流儀があるからそれで通じるだろう。
ふと、戦場に意識を戻す。一機のジムがグフのヒートサーベルにコクピットを貫かれて沈んだ。
パイロットはまたもや即死だろう。更にフィンガーバルカンで数台の61式戦車を破壊した。そのグフに部下たちが襲い掛かる。

「てめぇ!! この宇宙人野郎!!!」

「は!! いい気になるな!!!」

「もらいましたよ!!!」

そのグフにモンシア、ベイト、アデルが三方向から陸戦型ガンダム三機が一斉にビームサーベルを構えて突っ込む。突きだ。ビームの三段突き。
件のグフは咄嗟にシールドでベイトの右手を叩き、ビームサーベルの軌道をずらしたが、他の二本は避けきれなかった。コクピットに対して正面と左からビームが貫く。
爆発がした。その爆発に乗じて距離をとったアデルの陸戦型ガンダムに別のグフがフィンガーバルカンを撃ちながら接近し・・・・・直後、真横から放たれたビームに頭部を貫かれて爆散する。

「こちらファングⅠ、一機撃破。続いて二機目にうつる。ファング3、援護を」

「了解!」

「こちらファング2、現在BD01を援護中。BD02、BD03の援護を求める」

中腰からレイヤー大尉の無線が聞こえる。
流石は自分たちと互角に戦える英雄部隊の一つ。
因みにジム・スナイパーⅡが使っているのは陸戦型ガンダム用のビームライフルだ。こちらの方がスナイパー型ライフルよりも使いやすい。
戦場ではパイロットの感覚や武器の取り回しが大きく戦闘を左右する。そう考えればこの選択は間違ってない。特にMSの登場以降はそうだ。
更にファング2がザクを1機落とす。ビームがコクピットを焼き切り、ザクが前方に向かって倒れる。その下にいた敵兵の死体を押し潰して。
と、一機のザクが右側からザク・バズーカを構え放つ。ザク・バズーカが放たれた。爆炎で一瞬だが機体を見失う。
それをヤザン大尉のガンダム・ピクシーが陸戦型ガンダムに使われているシールドで受け止める。
その爆炎と煙の向こう側からBD1号機の放つ100mmマシンガンがザクを仕留める。

「ラムサス、ダンケル。聞こえているな? このまま戦線を押し上げるぞ!!」

「フィリップ、サマナ、無事だな? 敵の増援が市街地から向かってきている。迎撃するぞ。敵はグフが1機、ザクが3機だ。カムナ大尉、大尉の01小隊と共に援護してくれ」

「了解した。シャーリー、パミル、残弾確認。敵を迎え撃つ!」

陸戦型ガンダム5機とBD1号機が南の市街地から出て来た敵軍を迎撃に向かう。良く分からないエグザムとかいうシステムはシナプス司令官の権限で物理的に遮断されている。司令官曰く、『兵士は実験動物では無い』との事だ。
因みにこの戦闘には直接関係ないが、ジオンのニュータイプ研究が急速に進化しているのはニュータイプ研究の第一人者であった人物のクルスト博士の亡命事件も影響している。
博士の亡命でジオンに危機感を抱かせたと言うのが正直な話である。
連邦軍にとっては迷惑極まりない。そもそも暴走する兵器など兵器に値しないのだから。
それを乗せたBDはシナプス司令官やリム艦長、マオMS隊隊長から危険視されていた。ユウ・カジマ中尉を殺す、『味方殺し』だと思われて。
(実際に4名のテストパイロットが重傷を負っている。不完全な起動と博士は言っていた。詳細は良く分からない)

地上で若干の優勢を確保している頃、一方で第13独立戦隊の旗艦アルビオンらはドップ36機の攻撃を受けていた。

「輪形陣。迎撃せよ」

シナプス准将の的確な判断で何とか戦線を維持する第13独立戦隊。オペレーターらもこの状況にパンク寸前である。
現在の連邦軍は凡そ200kmに渡って一斉に渡河作戦を実行。
一方で事前に1000機爆撃を20回は繰り返し、ガンタンクを師団規模で、さらにビッグ・トレー4台の対地艦砲射撃を決行した。
海上艦隊からも若干宛にならないが、それでも数百発単位の地形誘導型艦対地ミサイルによる精密爆撃を敢行していた。
これだけ叩けばジオン軍が如何に地下陣地を築いていても突破できると思ったのだが、実際は違った。戦場で予想と現実が実際に違う事は良くあるが。
ジオンは想定以上に、まるで連邦軍がハンブルグ経由でベルリンを目指す事を知っていた様に、大規模な防御陣地を構築。
戦闘は当初の予想とは異なり完全に膠着化する。もっとも消耗戦はジオンにとって不利なのでこの事自体は問題では無いのだが、それでジオンが黙る筈も無い。
そしてリューベックとハノーバーを出発したジオン軍第2軍が戦場に到着。辛うじて連邦軍が優勢であった均衡が一気に崩れだす。
そのリューベックから来た主力攻撃部隊の4つの矢の内、一つを抑えるべく第13独立戦隊が投入されたのだ。言うまでも無く、100機以上が入り乱れて戦う大激戦区である。
その大攻勢を防ぎきっているのは最新型MSの性能、チーム戦術、そして何よりも。

「これで9つ!」

アムロ・レイ少尉の声が聞こえる。ドムの改良型3個小隊を瞬時と言っても良い時間で壊滅させた。彼こそこの攻撃を防ぎきっている立役者。

「連邦の白い悪魔だ!」

この言葉にすべてが集約されるだろう。
ホワイトベース隊が担当したドワッジ12機は3分も経たずにホワイトベースのガンダムアレックスを中心とした防衛線に捉まり、撃破される。
そして、この損害の甚大さと衝撃はジオンに撤退を決意させる。

「ん? こちら006。敵の撤退を視認、ブライト聞こえて? アムロ、カイ、ハヤト、スレッガー少尉、確認できて?」

セイラ・マス少尉の乗るガンダムからの言葉に『追撃は待て』と言うブライト大尉の声が聞こえる。どうやらアルビオンのシナプス司令官も一度ジオン軍と距離を離すようだ。
ふと時計を見る。セイラは思った。戦闘を初めて既に1時間以上。近代戦では異常なまでの戦闘時間だと言われている。
他の部隊も奇跡的に損害率が低い。いや、殆どの小隊が被弾こそしているが犠牲者はいないようだ。これを奇跡と言うのか?

(私たち・・・・・ジオンから見れば本当に化け物でしょうね。これだけ攻撃に出て生き残ったのだから。それも勝って。
アムロに付けられたあだ名。連邦軍の白い悪魔・・・・・・言い得て名だわ)

その感想の通り、攻勢に投入した36機のドワッジの内、実に三分の一がわずか3分弱で壊滅させれた事を知ったケラーネ少将は一度トイレに駆け込むと、指揮杖思いっきり個室の壁に叩きつけたという。
もっとも、第13独立戦隊以外のこの方面に投入された連邦軍MS隊120機中、犠牲は90機を越しており、そう言う意味ではジオン軍の戦術目標の達成は成功したと言える。
が、ジオンも50機以上の機体を失った。その殆どが第13独立戦隊の戦果であった。

「006、セイラ・マス少尉。ガンダム二号機は一度ホワイトベースに帰還します」

「了解、ガンダムが抜けた穴のラインは私達ライラ隊が埋める。一度帰還せよ」

こうして部隊は入れ替える。もっとも第13独立戦隊のペガサス級格納庫もまた戦闘の真っ最中だ。艦載機が帰還した母艦の整備員は仕事が山積み。
武器弾薬の補充、装甲の交換、ジェネレーターの冷却作業などやる事は山ほどある。
戦闘はまだまだ続いていて終わる気配を見せない。




宇宙世紀0080.08.21、ワシントンでまたもガルマ・ザビが会いに来た。良く会いに来るな。あれだけ言われたら普通の人なら嫌って会いになど来ないと思うが。
余程暇なのか?そう思っていたが。

「あれから考えた」

どうやら俺はカウンセラーか精神科に転職したらしい。なんで20歳の若者の疑問にこんな牢屋で聞いて答えなければいけない。
それよりもリムは無事なのか? オデッサ攻略部隊は大激戦を繰り広げていると聞く。その最前線で第13独立戦隊は盾代わりに使われたとも。
仕方ないとはいえ、やはり戦死は絶対に認められない。そもそも一度除隊させたのに。くそ、こんな事なら無理にでももう一度除隊させておければ良かった。
とりあえず、悩める若者の相手をしよう。したくは無いのだがな。

「何をですか? 私も暇じゃないのですがね、ガルマ・ザビ大佐殿」

そう言い放つくらいは今の私は許されるだろう。こんな対応しても決して悪くない。と、思いたい。
だいたいこいつの相手は別の政治家や官僚の仕事だろう? どうして牢屋にいる自分が相手をしなければならないのだ!?

「私はザビ家の男だ。それは変わらない、変えられない。だが、それだけで終わってはいけないと思う。」

そう言うガルマ・ザビの目はいつの間にやら前のお坊ちゃんの目でなくなっていた。この目は見た事がある。決意を秘めた青年の目だ。

(例えが悪いが昔リムにプロポーズした時の俺がこんな目をしていたとリムが言っていたな。まさか、藪蛇になったか?)

それでも思う。一体何を言うのだ?
牢屋にいる高級官僚などと言う矛盾した存在に独白して何が楽しいのだろう? そもそも何ができるのやら? 私が聞きたいくらいだ。

「で、何ですか?」

ここまでザビ家の末子を粗雑に扱う者はおるまい。少なくともジオン公国には。
それがどうやら彼を変える切っ掛けを生んだ。

(これが吉凶いずれとなるのか。そんな事を今直ぐに分かれ、理解しろ、可能だと言うのはシロッコ中佐の唱える万能人間型ニュータイプだけだろうな。
そんな人間などいない。いたら哂ってやろう。お前は神か狂人かどちらかだ、とね)

と、埒もない事を考えているとガルマ・ザビはとんでもない事を言ってきた。
いや、これは恐らくジャミトフ先輩やブライアン大統領らが裏で仕組んだのだな。
例のティターンズ計画の為のか? まあ良い事だよ。この戦争の戦後を見据えているのは良い事だ。俺の為にも、リムの為にも。

「私は兄たちをサイド6かフォン・ブラウンにまで誘い出す。誘い出すと言う言い方は変かもしれないが・・・・・そこでケンブリッジ次官、貴方が彼らと終戦交渉をしてくれ」




「敵機MS接近、数70機前後! 機種はイフリートタイプが36機、残りはドム・トローペンです!! あと少数ながら陸戦型ゲルググを確認!!」

ミユの声に艦橋全体が震えた。
自分達第13独立戦隊は敵の主力部隊の前に居るのはまず間違いない。恐らく連邦軍上層部のレビル将軍の意向だ。数日前のあの圧倒的な戦果が誤解を生じさせている。

「対空レーダーに反応あり、ペガサスの方向からドップ80機、ドダイ80機が接近!! 地上ではマゼラ・アタック隊の移動も確認」

更にミユ・タキザワ少尉が報告する。陸空同時攻撃か。これはこの間と同じ、いや、情報にあった第7師団、第12独立戦隊、第8師団、第10独立戦隊を壊滅させた部隊だな。
迎撃に転じる連邦軍のMSは増援部隊として送られた通常使用でマシンガン装備のジムが100機ほど。が、ジオンの方が早い。
早速、見た事の無い騎士の様な機体に一機のジムが落とされた。
ビームランサーとでも言うべき装備にジムは胸を貫通されている。これは不味いな。そう思ったが誰もそんな余裕はない。

「各機、順次発進体制!」

マオ少佐が叫ぶがその都度、ドップが放つ小型ミサイルが何処かに命中する。護衛のシバーフィッシュは12機。コアー・ブースターⅡは4機。既に数の暴力の前に飲み込まれた。

「ミサイルで応戦!」

リム・ケンブリッジ大佐は命令しながらも思った。これで火消しは二度目。いい加減にして欲しい。だがジオン軍も必死だ。
ここで連邦軍を包囲撃滅しないとベルリンまで遮る者も遮る物も何もなくなる上、組織的な抵抗も不可能になるだろう。
組織的な抵抗が出来ない軍隊などゲリラ化するか降伏するか、必死に撤退するしか道は無い。それはどれも苦難の道だ。
そしてゲリラ化する為の前提条件がこの統一ヨーロッパ州では欠けている。民の支持が無いからだ。そもそも民による支持が在って初めてゲリラ戦術は効果を出す。
ところが、ここ欧州に住む人々は地球連邦による統治を望んでいるのであって、いくら善政をマ・クベ中将らが施行しようとも侵略者であるジオン公国の統治を心から受け入れる事は無い。
だからジオン軍は必死だ。現に南から北上してきたジオンの部隊は既に連邦軍南方方面軍を撃破していると言う噂がまことしやかに流れている。

「個別に対応するな。各艦のデータリンクとメガ粒子砲の一点集中射撃を行え!!
レーザー通信を・・・・・ケンブリッジ艦長、ホワイトベースに命令しろ!! 前に出すぎだ!! 所定の位置に戻れと!!!」

シナプス司令官の怒鳴り声が艦橋に響く。方や地上はもっと混沌としている。
既に30機以上のジムを破壊されたが、こちらも第13独立戦隊のMS隊を投入。更にガルダ、スードリ、アウドムラの空挺陸戦型ガンダム隊が後方に降下。突破を図るジオンを逆包囲戦とする。
が、ジオンも伏兵の伏兵としてザクⅡJ型18機を戦線に投入。止めにドダイ爆撃機が一斉に空対地ミサイルと爆弾を投下する。爆炎と爆風が地上を覆った。
これで戦線は完全に乱れた。エレンもノエルもアニタもフラウ・ボウも他の誰もどこに味方がいてどこから敵が来るのかが分からない。そんな状況に置かれてしまう。

「索敵は!? く、被弾か!? 被害状況を知らせなさい!! あとレーザー通信だけは保持せよ!!」

ケンブリッジ大佐が必死でアルビオンを維持するが、恐らくこの戦いこそハンブルグ会戦の、いや、アウステルリッツ作戦の山場だろう。
出なければ困る。これほどのMS隊が双方ぶつかり合うなど本来はあり得ないのだから。

「犠牲は!?」

ケンブリッジ大佐の声になんとかエレンが反応。ミノフスキー粒子の下で何とか両軍の状況を確認する。そして一瞬だが絶句した。
既にヤザン隊とライラ隊がそれぞれの第一小隊を除き壊滅。しかしながらWBやWD、BDなどのそれ以外は何とか健在、と。

「ガンダムです! アレックスの活躍でなんとかアルビオン隊は生きてます!!」

その通り。
アレックスは既に5機のドム・トローペンを撃破し、2機のイフリートを撤退に追い込んだ。この前もそうだったが一番最年少でありながら最大級の撃墜王であるアムロ・レイ少尉。その戦果は異常と言っても良いだろう。

(これがニュータイプなの?)

そうとも思うが、これが1年前にはただ引きこもり少年だと言うのだから人生分からない。しかし人殺しで褒められる人生と言うのが良いのか悪いのかは分からない。

(もっとも私の旦那みたいに何がその人にとって本当に幸運なのかはわからないけど)

と、今度は下方に回り込んだザクのザクマシンガンの連射を浴びる。アルビオンにのみ装備されていたレーザー機関砲が何門か潰された。衛生兵が戦死者と負傷者を回収しに艦艇下部へ向かう。
そのザクを『青い死神』と異名を取るようになったユウ・カジマ中尉のBD1号機がビームサーベルで一閃する。袈裟懸けに切り落とされる機体。




宇宙世紀0080.08.22.地球連邦首都のあるジャブローの首相執務室では地球連邦安全保障会議の面々(首相、副首相、内務大臣、国防大臣、国務大臣、財務大臣、文化教育大臣、厚生労働大臣、法務人権大臣、宇宙開発大臣、外惑星開発大臣、経済産業大臣)がそれぞれの秘書官と首席補佐官らを連れて協議していた。
その場にはジーン・コリニー提督とブレックス・フォーラ少将もいた。他にも宇宙開発担当官や佐官、尉官がいる。秘書官の代わりに書記官も多数いた。

「それではこれにて最後の議題です。首相、地上戦の為ジオン軍が打ち上げ阻止に出られないというこの好機を利用した我が軍の宇宙艦隊の打ち上げにサインを」

軍主流派であるレビル派閥の一員としてブレックスは制服組のNo3のコリニーを差し置いて連邦政府そのものに脅しをかける。
が、連邦政府もこの脅しと言う名前の提案に乗る。彼らにはもうすでに道は一つしか無くこれに乗るしか他に道は無いのだから。彼らにとって連邦軍の約束する勝利は政権運営の最後の拠り所。
ここで軍主流派のレビル将軍派を敵に回すのは厄介を越して不可能。既に一蓮托生なのが現実である。もうレビル将軍らからは逃れられない。

「勝てるのか?」

問うことは出来る。そして問いに対する答えも決まっている。勝てるのか? 勝つのです! 勝たねばならないのです!! と。それが軍人の答え。

(もういったい何百回繰り返した押し問答だろう。いい加減に疲れてきた。そろそろ理性を復活させる時期に来たのだろうか?
だが、ここで引けば私は、アヴァロン・キングダムはジオン公国と言う弱小のコロニー国家に良い様にやられた無能者として歴史に名を刻むだろう。それだけは避けたい)

そう思ってしまう。一体どこで道を間違えた? ケンブリッジの提案を黙殺した時からなのか? それとも他の時か? もしくはレビルの演説を受け入れた時から?
だが、もう行くしかない。敗者にはなりたくないのだ。それだけは嫌だ。

「打ち上げ準備は整ったのだな?」

別の閣僚が、国防大臣が確認する。何を今さら。
連邦軍レビル派閥である軍主流派の独走は昨日、今日に始まった事では無い。
あの南極条約締結時からあった。それの再確認にしかならない。ジオン軍と同様連邦軍も既に文民統制が崩壊していた。
形式上は総帥に従うジオン公国軍に対して、既に形式を半ば無視して地球連邦政府に自らの計画を承認させる地球連邦軍。

(この戦争はレビル将軍の言うには民主主義対専制政治と言う戦いだったが、今の状況を見て本当にそう言えるのか?
ましてそのレビル将軍が軍のみならず政治の世界にまで影響を及ぼしている現状。これで本当にジオンに勝てるのか、それよりも勝利して良いのか? 
むしろ負けて肥大化した軍部の発言権を取り除くべきではないのか? それが首相としての役目ではないか?)

だが既にサインはした。もう彼らとは一蓮托生なのだ。何度も言うが。
だから拒否はしない。それに勝てば未来がある。輝かしい未来がある筈だ。無傷のサイド1からサイド6、月面自治都市群からの大規模な収入があれば北米州らにも対抗できる。

「では、打ち上げは3日後。第3艦隊から第10艦隊の7個艦隊全ての打ち上げを2週間かけて行います。
この際、ルナツーの第1艦隊と第2艦隊は地球周回軌道に進出、ルウム戦役前半の様なジオン宇宙艦隊の襲撃に対応するべく行動します」

こうしてブレックス・フォーラが持ち出した大規模宇宙艦隊打ち上げ計画『ガガーリン』は『アウステルリッツ作戦』を壮大な囮に開始される。




宇宙世紀0080.08.27。地球連邦軍は遂にハンブルグを解放する。
ジオン軍の総反撃にあい、その戦力の大半(6割強)を失いつつも、別働隊としてデンマークに地球連邦軍の海兵隊が一挙に上陸。一路リューベクを陥落させる。
この会戦、ハンブルグ会戦やエルベ川を巡る一連の戦いで、連邦軍は投入したMS隊893機の内、650機以上をパイロットごと永久に失った。
が、ハンブルグは陥落。これが転換点となりジオン軍は南下を開始した。連邦軍南方方面軍の正面突破という荒業で。
そして敵方であるジオン軍もドム隊を中心に200機以上を失った為、ドイツやポーランドを中心とした中部ヨーロッパ、北部ヨーロッパ、ヨーロッパ・ロシアを放棄。
アイヒマン大佐指揮の60機を超すガウ攻撃空母部隊が将兵とMSを積んで一路、オデッサ基地を目指す。
これを立案していたユライア・ヒープ大佐は『オクトパス』作戦と呼んだ。
列車とガウ攻撃空母を利用した大規模な撤退作戦を開始。もっとも中欧から後退する20万のジオン兵への連邦軍による攻撃、空爆は熾烈を極めたが。
しかしながら北欧からのオデッサ急行や脱出便と呼ばれた大規模空輸作戦、これに対応する余力は連邦軍にはなかった。




「敵MS隊、ザクⅡC型12機、全て沈黙。各機は警戒態勢に移ります」

マオが艦長であるリム・ケンブリッジに報告する。そのマオ少佐の言葉に私は安堵する。方やシナプス司令官は思った。

(あの大攻勢を耐えきれるか、生き残れるかと不安だったが。どうやら何とかなりそうだ。この戦いも終わりが見えてきたな)

通信によるとジオン軍は撤退に撤退を重ねている。明らかにどこからか情報が漏洩していたとしか思えない程に強固な防御陣地を築いていたエルベ川防衛線をも遂に放棄している。
もっとも我が軍も南欧解放軍やイベリア半島解放軍から戦力を10万ほど引き抜いたことを踏まえると、決して連邦軍の一方的な勝利では無かった。むしろ敗北していた可能性が高かったと言える。
途中までの混戦と劣勢。それを覆したのがペガサス級4隻の指揮管制能力。これ
が勝敗を動かした。この点はルウム戦役で活躍したジオンのドロス級移動要塞の活躍に似ている。ミノフスキー粒子下の管制能力の有無と言う点で。

「後退する部隊か。これで7つ。その全てを一方的に多数で囲み撃破する。指揮官としては正しいが人としては・・・・やりきれません」

マオが言う。ユーグ中尉が今しがたマシンガンで撃破したザクの残骸が森林地帯に散らばっていた。あのジオンの大攻勢からもうすぐ1週間になる。

(ふむ、補給の為にも一旦帰る必要があるな。各艦の被害状況も弾薬の消費状況も危険なゾーンにあるのだからな。
何より疲労の蓄積が半端では無い。このままでは優勢な敵に当たればそのまま壊滅するだろう。)

地球連邦軍上層部の精神論者に勘違いされては困るが、かのホワイトベースも補給があってはじめてジオンの勢力圏を横断したのだ。
まして今回の戦闘では既にBD小隊からサマナ、フィリップの二名が、ヤザン隊はヤザン大尉の直卒である第1小隊を除いて、ライラ隊はライラ・ミラ・ライラを含めて全員が戦死。
特にライラ中尉の機体を一瞬で両断した敵の新型MSを逃したのは痛かった。更にスレッガー小隊もスレッガー・ロウ小隊長が両足骨折の重症、今のスレッガー小隊はキム・ログ曹長しか戦えない。他の二名は死んだ。
アルビオン艦載機もサウス・バニング大尉が負傷した。これ以上の戦闘継続は部隊の全滅を招く恐れがある。それにこの艦隊には独自行動の自由がある。

「司令官」

私、リム・ケンブリッジは何事かを考えている司令官であるシナプス准将に意見具申した。
艦隊を反転、一度補給の為にブリュッセル基地に戻るべきです、と。

「そうだな。更に抱え込んだ捕虜の問題もある。一度戻るよう司令部に具申する。なお現地の判断で一時戦線から80km程後退する。
各艦、反転。進路をオランダ領のアムステルダム基地に取れ」




宇宙世紀0080.08.29。この日の日没時、ベルファスト基地は混乱に包まれていた。
統一ヨーロッパ州であるイギリス領のセント・ジョージア海峡をジオン潜水艦艦隊が突破、アイリッシュ海側から敵の水陸両用MS隊が猛攻撃を仕掛けてきた。
その猛攻にさらされるベルファスト基地。今も一両のホバートラックが破壊され宙を舞う。
それを見て赤い彗星の異名を取る男は思った。

「ふーむ、ガンダムがいないのは仕方ないか。他愛ないな。
各機、艦艇を重点的に叩け。特に輸送船は見逃すな。大陸に向かう物資を沈めるのだ」

赤いズゴックはビームスプレーガンを放ったジムをしゃがみ突きでコクピットを貫通させて黙らせる。更にそのまま左手のメガ粒子砲で別のジムの頭を撃ち抜く。
倒れるジム。倒れた拍子に持っていたハイパー・バズーカの弾薬が誘爆して破片を周囲にばら撒き、対MS用ミサイルを構えていた勇敢な連邦兵を切断する。
その後、シャアの搭乗する赤い指揮官専用ズゴック、ズゴックS型のモノアイがズームで高台にあるビルを捉えた。

「さて、あれが連邦軍のアウステルリッツ作戦の総司令部か。マ・クベ中将の不可解な攻撃禁止命令が無ければこのまま督戦に来ている作戦本部長のエルラン中将とやらも殺害したのだがな。
まあ良い。エルラン・・・・・奴がジオンと連邦を繋ぐ裏の外交官と言うアンリ・シュレッサーの言葉を確認できただけで良しとしよう。それにマ・クベにも色々と恩を売って置いてもよかろう」

そう思いつつ、湾岸部に停泊中の駆逐艦に頭部ミサイルを8発同時に撃ち込む。喫水線よりも上甲板に命中した為か沈みはしなかったが前部の120mm砲塔が誘爆した。
吹き飛んだ砲塔はそのまま上空に打ち上げられ、そして地面に叩きつけられる。ガンと鈍い音がした。
これであの駆逐艦は戦えない。見ると一つ目の巨人コードネームを持った部隊も周囲の艦艇を蹂躙している。
この作戦に投入された水陸両用MSは全てズゴックEとハイ・ゴックに指揮官専用ズゴックだ。総数51機。この強力な部隊が完全な奇襲攻撃になった。
いや、奇襲にしてくれたのか? そう思えるほど警戒は手薄だったし奇襲後の対応も明らかに不可解だ。命令系統が浮き足立っていた。夜と言う事もあるだろうが。

「ふ、マ・クベも存外にやる。獅子身中の虫か。さて私とどちらが性質が悪いかな?」

赤い彗星にしてこの奇襲作戦の指揮官、シャア・アズナブルは戦果を確認すると全部隊に撤退を命じる。
この時ジオン軍は51機中、僅か4機の損失で数万トンの物資を海水に沈めた。
色々と疑惑があるのだが、とにかく連邦軍はベルファストと言う統一ヨーロッパ州最大の拠点で無様にジオン軍相手に敗退してしまった。




地球連邦軍の地球並び宇宙での同時反攻作戦を知ったザビ家は地球での持久戦策の成功と、再度のルウム戦役の大勝利を再現する為にソロモン要塞の放棄を決定した。

「艦隊陣形を乱すな。一分一秒の遅れが生死を分ける。全艦、撤退陣形05を維持せよ」

無論、ただで放棄する事は危険極まりない。連邦軍がこの要塞を橋頭保にしてジオン本国を目指すのは既に常識のレベルになっている。
つまり無血開城は宇宙にいる連邦軍を調子に乗せる上、何もせずに戦略拠点を奪われると言う事でジオン軍の士気にも影響する。
と言う事で、ソロモン要塞には地球には行かなかった(行かせられなかった)ダイクン派とキシリア派が集められた。その数は2万名。
ジオン宇宙軍が現在30万名程度まで減少した事を考えるとそれなりの大部隊である。

「艦隊の撤収作業と守備隊の退避、要塞放棄を連動。連邦軍役に付け入れる隙を作るな!」

ユーリ・ハスラー少将は必死に艦隊を纏める。何度も大戦略に基づいた撤退戦の準備を行う。艦隊にも出来る限りの新鋭機を配備する様、上層部に働きかける。
そのお蔭でハスラー指揮下の駐留艦隊は何とかリック・ドムⅡかザクⅡF2型で構成された。が、ソロモン要塞の内実は酷い。
配備された機体のほとんどが旧式のザクⅠかザクⅡC型、良くてザクⅡF型であり、要塞守備隊にはリック・ドムさえほとんど配備されなかった。
もっとも、これに反発したのがドズル・ザビである。

『この様な事は将兵の士気をいたずらに悪化させる上、他の部隊の国家に対する信頼さえ損なわれる。
ギレン兄貴、サスロ兄貴、今からでも遅くない。放棄するソロモン仕方無いが、それはそれとしてともかく、ソロモンの駐留艦隊と将兵はを見捨てないというポーズを取ってくれ』

それは正しい。そう言った理由でユーリ・ハスラーとドズル・ザビは遅滞戦術の研究と訓練を行っている。
今もハスラー少将の艦隊が最大射程圏内で砲撃戦をしつつ、ソロモンから部隊が撤退する演習をしているのだ。
実際、現時点でパプア、パゾグ級のソロモンへの補給船団はジオン本国からの大規模補給を装って各サイドから徴収した物資やソロモンで生産された(極めて少数であるが)MSに人員(ザビ家が有用と判断したという但し書きが付くが)をサイド3に送っている。
地球連邦軍もこの動きをある程度掴んでいるのだが、そもそも制服組、つまりゴップ大将とコリニー大将は中立派だったワイアット中将を抱き込んで、レビル将軍によるソロモン奪還作戦を政治的に利用しようとしていた。
つまりレビル派閥と反レビル連合との内部抗争でこの話を握りつぶしている。そして舞台はジャブローに飛んだ。




「かけたまえ、政務次官」

ウィリアム・ケンブリッジは釈放されると直ぐにジャブローの奥地に呼ばれる。そして来てみてば、ゴップ大将が席を進めてくれる。
コリニー大将を中心に左隣にはグリーン・ワイアット中将が、右隣には外務大臣と国務大臣、国防大臣が座っている。
私の右後ろにはローナン・マーセナス議員が座っている。文官は全員がスーツ。
しかも図ったかのように自分を除いた文官は全員が紺のバーバリーに白いシャツに黒いストライプ入りのネクタイ。

(遂にティターンズ計画の始動か? それとも別の何か? どちらにしろこれは何かあるな。上等だ。家族の為にも負けるか!)

そう思いつつ、椅子に腰かけてキリマンジャロコーヒーを飲む。やはり地球産は美味だ。
今度このコーヒー豆を友人になったばかりの3つのアフリカ州議員らから送ってもらおう。無論、経済格差解消の為のフェア・トレード方式で。
お互いがドーナツとコーヒーを食する。それを片付けてハンドタオルで手を拭く。それを見たのかいよいよ本題に入る。

「さて、コーヒーも飲んだ事だし本題に入ろうか。
ウィリアム君。君は現在のレビル将軍と彼ら幕僚たちの作戦や方針をどう思うかね?」

コリニー大将はいきなり核心をついてきた。なるほどね、まずは牽制なのか。望むところだ。まずは美辞麗句を並べてやれ。

『地球連邦を憂える真の将軍』

『自由と民主主義の担い手』

『地球反攻作戦の指導者にして連邦軍きってのジオン通』

『我らの英雄、ジオンに兵なしの演説を行った稀代の名演説家』

などなど言いたほうだい。もっとも半分も信じてないが。
いや語弊があるな。全て白々しい嘘だ。本心は南極で終わる筈だった戦争を継続させた戦犯だと思っている。
事実、南極条約をご破算にして何十万人も死なせている。これが戦犯でなくて何が、誰が戦犯だ?
あの時、地球圏全土に反戦平和の演説を行う事も出来た筈だ、そうすればこの流れを考えると逆に平和が来た可能性は極めて高い。

「そうか、君は中々面白いな。ブレックスやジャミトフ君が気に入るだけの事はあるね。ああ、ジャミトフ君の北米州軍の強化は大したものだよ。
・・・・・それで、だ。まず先に謝ろう。
君の奥方に関してはすまない事をしたと思っている。最低限の護衛しかつけられず戦場に送り出した。ウィリアム君、誠に申し訳ない」

そう言って頭を下げるコリニー大将。

(騙されるか。そうやって人の心を掴むのはお前らの得意分野だろうが。それに何度騙されて利用された事か。だが、今は利用されてやる。
あのレビルの戦争大好き野郎とキングダムのクソじじいを引き摺り下ろすにはこいつらの権力が必要なのだ。権威がいる。
あの二人を凌駕する権威と権力が。
その為には多少の嘘も、大いなる犠牲も払ってやろう)

それが俺の覚悟だ。俺の本当の意志だ。見ていろよ、この戦争を終結させて俺は英雄になる。そしてその地位を使ってリムを除隊させる。絶対に除隊させるんだ。

「いえ、お気になさらず。妻も高級軍人です。覚悟はあると言っていました。私も大人気なかったと思います。
こちらこそお手を煩わせて申し訳ありませんでした。謝罪させて頂きます」

その言葉に数名がひそひそとざわめいた。どうやら俺が激発すると思っていたらしい。あのガルマ・ザビ暴行の件か。尾を引くな。当然だろうが。
それから何度もどうでも良い事を話していた。そして彼が言ってきた。彼、コリニー大将が一つの提案をしてきた。

「話していて君は実に面白いと思った。そして実に頼りがいがあるね。正直に言おう。
君の戦後を考えていたウィリアムプラン、我々はWと呼んでいるが、とでも言うべき戦後統治案をブライアン大統領とマーセナス議員を経由して聞かせてもらった。実によくできていた。
だからだ、私が思うに君が関与している例の計画を成就させる事と君の本当の望みは一致しないかね? 
私は一致すると思う。戦争の終結こそ奥方の安全を確保する最良の道ではないかな?」

全員の前にあるコーヒー。その湯気が出ているコーヒーをコリニー大将は飲み、咽を潤した。

「既に我が地球連邦は戦後を考える時期が来たと私たちは思っているのだ。
どうかな、政務次官。君を再び対ジオンの特別政務官に任命したいと思うのだ。
無論。首相は反対するだろうが・・・・・安心したまえ。君さえ承認すれば直ぐに閣議で賛成多数の結果可決されるだろう。
残念ながら・・・・・内閣なのだが言い方は悪いが首相を救う事を諦めた者が絶対多数派になってしまっている。
どうする、もう一度聞いておこう。私たちの提案に乗るかね? それとも律儀に地球連邦の官僚として地球連邦首相キングダム氏の言う事を今まで通り聞くかね?」

予想できたとはいえ、コリニー大将の言葉はまさに渡りに船だ。ここで功績を作って、戦争を終結させてリムを取り戻せれば必然的に北米州の発言権も高まる。
俺が高める。俺が事ある毎に太平洋経済圏の諸州を代表しているとして行動して、そのままジオン公国と和平を結ぶ。それこそこの戦争で失点を稼いでいる愚か者どもに鉄槌を下す切っ掛けに、契機になる。

(そうだ、まずは北米州のティターンズ計画を推進して権力を得る。絶対に子供らとリムを守れる権力を得る。そしてレビルとキングダムを追い払う。
レビルもキングダムも戦争犯罪人にして処断してやる! 最初は北米州の強化は北米州大統領補佐官である俺の立場の強化だ。
ジオンとの和平の立役者になれば今度こそリムを安全な場所に連れ戻せる。戦後になれば軍縮を名目に除隊させられる!!! リムを子供たちに帰してやれるんだ!!)

もちろん、顔には出さない。ゆっくりと考える。考える振りをする。
そうする事で連邦に忠誠心を持つと錯覚させてやる。或いは証拠固めに走る。
そして5分ほどの沈黙の後、目を開けた。



「・・・・・・・分かりました。対ジオン特別政務官の役目、お受けします」

内心でこう思いつつも。

(見ているが良いヨハン・イブラヒム・レビル、そしてアヴァロン・キングダム。俺はお前たちにやられた事をやり返してやる。
戦争を平和的に終わらせると言う事で貴様らが失敗をしていた事を証明してやる。見ているが良い!!)




マッド・アングラー隊はベルファスト基地を奇襲後、その経路を北に取る。北海を北上。ブリテン島最北部にて全艦が反転、一路南下した。攻撃目標はアムステルダム補給基地。
その攻撃日は宇宙世紀0080.08.31日。
奇しくも第13独立戦隊が前線から一時退避した日時とほぼ合致した。地球連邦軍のアムステルダム補給基地を襲撃すべくシャア・アズナブルは行動を開始する。

「ほう、偵察機が帰還したのか?」

この時点でイベリア半島内陸部並び沿岸部、フランスからドイツ中部、イギリス、アイルランド、デンマークらに北海、ドーバー海峡の制海権、制空権は連邦軍の手にある。
その中でジオン軍のユーリ・ケラーネ少将とダグラス・ローデン准将は威力偵察に託けて大規模な偵察隊を派遣した。その中の一つが闇夜のフェンリル隊であった。
その機体、ニッキ中尉のザクⅡS型が連邦軍の哨戒網突破し、木馬四隻を中心とした艦艇が補給の為にアムステルダムに寄港した事を知らせた。
映像を確認する。木馬らは簡易ドッグに入港していた。

「なるほど、木馬は動けないのだな?」

ブーン副司令官に問うシャア大佐。彼の問いにブーンも簡潔に答える。
はい、と。マイクを持つ。水中でも通話が可能な特別音響マイクだ。

「では出撃だ。艦長、全艦への放送準備。
・・・・・諸君、司令官のシャア・アズナブル大佐だ・・・・・地球での戦局を考えるにこれが我が海中艦隊マッド・アングラー隊最後の攻撃になるだろう。
諸君らの働きに期待するや切である。出撃は1時間後の午前4時丁度。目標は周囲の艦船、補給物資、そして・・・・木馬である」

こうしてジオンの海中艦隊が攻勢に出る。




一方。件の木馬ら、第13独立戦隊は後方の安全地帯に到着したと言う事で大きく安堵していた。緊張の糸が途切れていたと言っても良かった。
それは百戦錬磨のシナプス司令官ら全員がそうであった。
事実、連邦軍はその総力を挙げた攻勢に転じた(実際はジオン軍がドナウ川を放棄し、オデッサ地域まで全軍を撤退させる事を決定しただけ)事で、優勢なのは連邦軍。
その為か連邦軍のどの部隊もジオン軍がまさかアムステルダム基地に攻撃してくるとは考えもしなかった。その付けを払わされる。

「?」

警戒中の歩兵が異常に気が付いた時は時すでに遅かった。
対要塞用魚雷と言うジオン独自の魚雷が湾口に突き刺さったのと、その爆発の衝撃でその哨戒任務に就いていた警備兵4名がバラバラになったのは同時だった。
一斉にそそり立つ水柱。その高さと位置からタンカーや超大型輸送船が標的にされた事が分かる。

「ジ、ジオン!」

そう叫んだ女性兵士の乗るホバートラックをハイ・ゴックがメガ粒子砲で破壊、一気にブーストを使って防衛線を突破。
それを契機に次々と上陸してくるズゴック、ハイ・ゴック、ズゴックEの混成部隊。数が多い事、明け方であった事を踏まえ、連邦軍は碌な迎撃が出来ない。
それでもホワイトベース隊で一番に反応したのはアムロ・レイ少尉だった。ガンダムアレックスがビームライフルを装備して即座に迎撃に出る。ただし問題はあった。
母艦であるホワイトベースらが全艦補給の為、核融合炉を停止していたのだ。結果としてカタパルトデッキをビームサーベルで破壊して出撃となる。盾もない。
次にヤザン隊最後の生き残りのダンケルとラムサスがヤザンと共に陸戦型ガンダムで出撃する。ヤザンもガンダム・ピクシーで迎撃に出た。

「け、ジオンどもが!! 夜中に討ち入りとはチュウシングラのつもりかい?」

特注の90mmマシンガンで突進してきたハイ・ゴックを穴だらけにした。そのままこのハイ・ゴックを盾に別のハイ・ゴックに向かってマシンガンを連射する。
その攻撃を回避するジオンのMS。別の一機が水中から上半身だけを出して援護のメガ粒子砲を放つ。慌てて回避するヤザン。シールドの表面は溶解する。
ズチャと溶けた高温のレア・メタルが地面に落ちて火災を発生させる。
その隙をついて、ヤザンのガンダム・ピクシーの横を赤いズゴックが駆け抜ける。狙いは別のズゴックとやり合ってるラムサスの陸戦型ガンダムだ。そう直感した。

「ラムサス!!」

ガンダム・ピクシーの右足を軸に、機体を急反転させて90mmマシンガンを放つ。
ラムサスのガンダムも100mmマシンガンを一斉射撃する。と当時に胸部と頭部バルカン砲も放つ。やったかと思った。
だが、このセンスが悪い赤いズゴックは一枚も二枚も上手だった。
奴の狙いはラムサスでは無く、ラムサス機に注意がいった為に対応が遅くなったダンケル機である。
ズゴックはそのままのスピードを維持して右手でダンケルの乗る陸戦型ガンダムのコクピットを貫く。その後バックステップで距離を取った。と、その直後に陸戦型ガンダムが爆散。ダンケル少尉は確実に死んだ。

「ダンケル! この赤ズゴックめ!! くたばれぇぇ!!」

ラムサスが怒りでビームサーベルを引き抜くがそれは愚策だ。
ヤザン大尉は止めようとして、遅かった。ビーム(恐らく両手に内蔵されていたメガ粒子砲の光)がラムサス機の胸部を貫いた。
弾薬に引火して上半身が木端微塵に吹き飛び、部下を両名とも失う。
これで失った部下は全員だ。あのカモノハシ以来ずっと仲間や部下を失ってきたと柄にもなく感傷に一瞬だが浸る。もっとも体は勝手に動き、紅いズゴックからのビーム攻撃を回避したが。
一瞬で連邦のエースパイロットの乗った陸戦型ガンダムを二機も仕留めた。こいつは間違いない。あの赤い彗星だ。

「本当に・・・・・あのシャア・アズナブルなのか?」

思わず声に出す、すると別方向から90mmガトリングガンの発砲光が見えた。
距離を詰めてくる一機の白と黒に灰色にカラーリングされたガンダム。そう連邦の白い悪魔であるアムロ・レイの愛機、ガンダムアレックスだ。
その噂通り、進路上にいたハイ・ゴックを二機、ビームライフルの連射で即座に撃墜した。爆散する機体の横で背を向けていたズゴックを後ろから貫く。この間、僅か2分程。信じられない機動だ。

「ヤザン大尉ですね、アムロ、アムロ・レイ少尉です。この赤い機体、シャアは僕がやります。大尉は港を!」

そう言われて気が付く。展開している連邦軍のMS隊の半分がやられている。

(どうやら俺とした事が赤い彗星の実力にビビったらしい。情けない!)

ラムサスとダンケルの仇を討ちたいが今は全体の事を考えるべきだろう。
しかも悲鳴のような救援要請が自分たちの母艦のペガサスやアルビオンから聞こえてくるとあっては勝手な行動は慎むべきだ。

(それに悪いが坊やより俺の方が指揮官に向いている。ラムサス、ダンケル、二人ともすまん)

心の中で戦死した部下に謝罪すると激戦区となりつつある第二エリアに向かった。




「更に出来るようになった、ガンダム!!」

そう言ってビームを放つが避けられる。高速のビームを紙一重で避けるその技量の高さに怖気がする。まさかあのガンダムがここまで強くなるとは思いもしなかった。
その傲慢さのツケを払わされている。あの時、第9次地球周回軌道会戦で仕留めていれば、或いはサイド7で完全に仕留めていれば良かった。
そう思えるほどの、思わせるほどの強さだ。

「ええい、腕のガトリングか!? 何!? 装甲がやられた!!」

目の前のアレックス(この時点で既にコードネームは判明していた)こと、白い悪魔はビームライフルを撃つと見せかけて右手のガトリングガンを放ってきた。
咄嗟の事で左に垂直ジャンプして避けようとしたが、全弾発射と思える乱射ぶりに思わずメガ粒子砲を内蔵した両腕でコクピット周りをガードする。
その際に90mmマシンガンの弾丸でどうやらメガ粒子砲を奪われたらしい。これでは勝てない。

「ん!? バランサーが狂ったのか!?」

しかもしっかりと歩く事さえ出来なかった。どうやらバランサーも狂った様だ。潮時。そんな言葉が頭をよぎる。
もともとマ・クベ中将の中部ヨーロッパ、北欧、ヨーロッパ・ロシアからの撤退命令に端を発した陽動攻撃だったのだ。
ここで死んではザビ家を利するだけ。それは避けるべきだ。と言う事は、引くべきだ。それに成果は上がっている。批判もされまい。一瞬で判断する。指揮官の判断としても間違っては無い。

「マッド・アングラー隊の攻撃隊全機へ撤退する、ブーン、赤色の信号弾を!」

既に夜が明け始めている。急いで撤退しないと航空隊の餌食になる。それを分っているマッド・アングラー隊は急速に戦線を縮小。海に逃げ込む。
この戦いは攻撃に参加したMS隊51機中、27機しか帰還しなかったシャア・アズナブル大佐の敗北であると思われる。
もっとも、ジオン軍の攻撃で大量の物資を焼かれ、更にアルビオン、サラブレッドを小破、ペガサスを大破させられた事で連邦軍の進撃速度は大幅に低下した。
また、ベルファスト基地攻撃により連邦軍の海上艦隊である第一連合艦隊に甚大な損害を与えた以上、マッド・アングラー隊の作戦目的は達成していたと言えるだろう。

(長居は無用だ、ましてザビ家に復讐するまでは死ねないからな。とりあえずララァのもとにもどるか)

シャアの目論見通り、水中用装備の無い連邦軍は海中に退避したジオンを追撃する事は出来なかった。

「しかし、この機体ではガンダムには勝てない。どうすれば良い? どうしたら奴に勝てる?」




宇宙世紀0080.08某日。地球連邦議会。
ニューヤーク市に凡そ50年ぶりに再び移設された連邦議員の有力者らが、ジャミトフ・ハイマンの叔父であるハイマン議員の提案により秘密議会が行われていた。
出席者は各州代表の地球連邦議員の中でも最有力候補100名程。
俗に太平洋議員連盟とも揶揄される議員らである。そしてこの会議である密約が決定した。宇宙世紀0080.08月上旬の事である。




『ジオンとの単独講和と連邦中央政府が独占していた利権をちらつかせて他州を引き込む』

『それは連邦政府に対する裏切りでは?』

『事ここに至ってはやむを得ない。裏切りも視野に入れて行動すべきである。いや、そもそも連邦政府の現政権自体が連邦市民を裏切っていると言える。
第一、戦場となって無い州である諸州の民は戦争の早期終結を望んでいるのだ。これは各国王室や各国政府も同意見である』

『そうだな、今の連邦政府はおかしい。我々がキングダム内閣府を抑える事で連邦政府をあるべき姿に戻すのだ。
その為にはアラビア、アジア、オセアニア、極東、北米の協力が必要だ。
それに・・・・・戦後復興の為の資金援助をちらつかせれば北部アフリカや内戦状態に陥った中部アフリカ、中央アジア州も賛成するだろう』

『我ら太平洋諸州にとって目障りだった統一ヨーロッパ州。その発言権など今や無いに等しい。それに非加盟国との交渉も上手くいっている。政治の裏側は整いつつある』

『では、やはりキングダム首相にはそろそろ退場してもらおうか。次の首相には北米州のエッシェンバッハ氏かマーセナス氏で良いか?』

『異議は無い』

『こちらもその二人のいずれかなら認める。それにだ、やはり例のケンブリッジ政務次官を参加させる事が条件だな』

『あの人物は得難い。戦後復興や対ジオン政策に必要不可欠だからな。彼を手に入れる事が我が州の条件だな』

『連邦議会の有力者らは我々が抑えよう。マーセナス議員らは反抗的な州政府の代表や議員を抑えるのだ』

『ジオンとの交渉は?』

『これもケンブリッジだな。奴に任せれば上手く行く。実際に上手くいかなくてもギレン・ザビを交渉の場に引きずり出せるだろう。それだけで大した成果と言える。それが必要だ』

『その通りだな。それに連邦議会議長の親書や各王室を代表した皇室の直筆の親書も手に入れました。これでジオン公国と交渉可能になったと言えます。
問題はこの情勢下で誰がジオンの勢力圏内に行くかであるが・・・・・候補はいるのですかね?』

『その点は提案者のブライアン大統領に任せましょう、いえ、それも名目ですね。そうですわね、みなさん』

『そうだな。やはり地球連邦で唯一にして最大の宇宙通であるウィリアム・ケンブリッジ氏に任せよう』




地球連邦議会での主導権を握る事で、連邦政府そのもの主導権を握ろうとした北米州は自領土であるニューヤーク市に連邦議会を移設させた。その効果が戦争半年を経過した今漸く出てきている。
連邦軍はともかく、首相をはじめとした内閣は連邦議会と対等に存在である。主権国家としての司法、行政、立法の三権分立の大原則があるのだ。
戦時とはいえ、或いは戦時だからこそ無視はできない。まあ守られてないと言えばそれまでだが。
その一例、連邦憲法を無視したのがケンブリッジ人権侵害事件であり、ワシントンとジャブロー間の冷戦であった。
口さがない者は第三次冷戦とも呼ぶ。因みに第二次冷戦は非加盟国と地球連邦の、宇宙世紀元年から50年代のジオン台頭以前の冷戦、第一次は宇宙世紀以前の米ソ対立。

(決まったな。やはりあのウィリアム・ケンブリッジがキーマンとなったか)

ここで黙っていたジョン・バウアー議員が話だす。

「私に策があります、議員の諸兄ら。まずはブライアン大統領の提案する戦後復興庁の設立に協力をお願いします。全てはそれから。
そして・・・・・ケンブリッジ特別政務官の対ジオン政策参加を認めてやりましょう」

反対意見は無かった。既に根回しは終了していたからである。




宇宙世紀0080.08.01.ジオン公国ズム・シティに地球連邦からの極秘通達が来た。戦争継続を目論むレビル将軍に対抗する為に和平交渉を開始したいという内容である。
その為に然るべき対応を望む。
それがブライアン大統領、つまり太平洋経済圏を構成するアジア州、極東州、北米州、オセアニア州、アラビア州らアメリカ合衆国と関係が深い5つの州政府と州代表の議員100名の意見であり、連邦政府の一部がジオンに接触した理由である。




『ガトー少佐、貴公の艦隊に護衛を頼む』

この時、ソロモン要塞に帰還したジオン軍のジオン親衛隊艦隊の第二戦隊であるアナベル・ガトーは最上の上官であるエギーユ・デラーズ少将からの呼び出しを受けた。
兵員の交代という名目とドロス、ドロワのMS隊であるゲルググ部隊の調整の為にデラーズ指揮下の親衛隊はソロモン要塞を訪れている。
そのレーザー通信越しに通信する二人。他には誰もいない。しかも至近距離の極秘通信回線だ。余程聞かれたくないのだろう。
地球連邦軍の宇宙反攻作戦を察知した、ジオン諜報部のいう所の『チェンバロ作戦』。これを知ったジオン軍は艦隊の大規模な入れ替えを行う。
ソロモン駐留艦隊からムサイの砲撃強化型である新造艦12隻を撤収する代わりに宇宙世紀0070年代のチベ級重巡洋艦と旧式なるムサイ級軽巡洋艦を配備する。
唯一、ソロモン方面軍の司令官であるユーリ・ハスラーにとって増援らしい増援は士気高揚の為に送られた新造戦艦グワンバン級一隻とその艦載機のMAビグロ、ザグレロがそれぞれ12機、36機という一撃離脱部隊の配備のみだ。
アナベル・ガトーはこの命令を不服と思いつつも、受け取る。

『貴公の艦隊は5日までに本国に帰還。これは連邦に対する擬態でもある。
そこで一週間の休暇の後、15日から特別任務に向かってもらう。この際、ドズル中将指揮下の第一艦隊も同行する。
疑問についてはあろうが、貴公の実力と実直さを信じて任せるのだ。命令を持った伝令のシャトルが10分前後で貴公の艦に到着する予定だ。詳細はそこに入っている』





宇宙世紀0080.08.25日。ヨーロッパでの大戦闘も大きな契機を迎えていた頃、連邦軍本部ジャブローでは一隻のシャトルが用意されて出発する。
目的地は月面都市であるグラナダ市。ここはジオンの勢力圏内である為、それを知っている連邦軍はこのシャトルを非武装中立組織の青十字を装う。
それ、青十字とは国際医療組織の事であり、赤十字の後身にあたる。
赤十字は地球連邦設立時にオイル・マネーを持っていたアラビア州の遺憾の意を考慮して変更された為に伝統と歴史と共に消滅している。赤十字のシンボルが十字軍を思い出させるからだ。
しかもウィリアムの乗ったシャトルは直通せずにサイド6リーアを経由した航路を取る。
見送りに来たパラヤ議員に愛想笑いを浮かべて彼、ウィリアム・ケンブリッジは機上の人になった。自らの願いの為に。大切なモノを取り戻す為に。

「ウィリアム、息子と娘の事は私たちが責任を持って守る。
だからお前はお前の仕事をしろ。頼んだぞ、自慢の息子よ」

父が、

「ウィル、どうか、どうか体に気を付けて。本当にどうしてお前がジオンの支配圏の月になんて行かなきゃいけないの? 戦争に行かなきゃいけないの?
お前は軍人じゃないのに。本当は臆病で優しい子供なのに・・・・・お願いだから生きて帰ってきて。お母さんの為にもお願いするわ。
ああ、どうしよう。こんな事ならお前を官僚にさせるのではなかった。大学など行かせず実家を継がせれば良かった」

母が。

「ウィリアム君、娘の未来を頼む」

義理の父が、

「ジンとマナの為にも帰って来なさい。良い事、貴方とリムには言いたい事が山の様にあるのだから。絶対に帰って来なさい」

義理の母が言う。

そう言われてから、彼は5日の時間かけて宇宙世紀0080.09月の裏側にある月面都市グラナダに到着した。
前日に100隻を超えるジオン軍の大演習があったと言う事でグラナダ市は戒厳令が敷かれている。無断夜間外出は原則禁止されたグラナダ市。
その最高級ホテルの一室。タクシーと特別通行許可書を使ってジオン軍が敷いた検問を何個も突破して、宇宙港併設のビジネスホテルからこの月面最高級にしてジオン公国の月総督府がある『月世界ホテル』についた。

「こちらが鍵になります」

そう言われてフロントの黒スーツを着たフロントマネージャーから鍵を預かる。

「荷物、持ちますね」

唯一、連邦政府から付けられた秘書役の青年が後に続く。頼むと言って彼にバッグを渡す。と言ってもスーツケースをフロントに預けてあるので荷物は情報端末とA4ノートにボールペン、電子メモリーディスクと連邦議員らの署名付き親書くらい。まあ、それが重要なのだが。
出発前にジャブローで購入したアルマーニ製のビジネスバックに全部整理して入る。妙な誤解を避ける為に護身用の拳銃は地球に置いてきた。この状況では必要ないからだ。

「それでは行くか」

颯爽と進んでいく。傍目からは迷いも何もない正に英雄と言える姿だった。
その後ろ姿に、連邦政府の無理解さと傲慢さに絶望を感じていたこの若者は、目の前の対ジオン特別政務官ウィリアム・ケンブリッジに希望を見た。

(これだ! これこそコスモ貴族主義の体現だ!! ジオンと言う敵に四方を囲まれても一切動じない心の強さ。鍛え抜かれた体。
何よりも自ら危険な任務に志願するその強き意思に加えて、100億の人民の重圧に耐える姿勢!! まさに貴族の鑑!!!)

この青年の名前をマィツナー・ブッホ。新興企業であるブッホ・コンシェルの若き創設者の一族である。
一方でウィリアム・ケンブリッジはただ前線にいる妻のリム・ケンブリッジの事だけを、彼女を戦場と言う地獄から解放する事だけを考えていた。それがこの青年に誤解されている元とは知らず。

(さてと、リム・・・・・行くよ。今から行ってくる。あのサイド3で行った様に、全力で行く。
私はお前のパートナーとしてお前を助ける。だからそれまで無事に生きていてくれ)

と、右手でカードキーを通して電子ロックを外し、両手で扉を開く。中には女性が一人いた。彼女はこちらです、とだけ言う。
ジオン側の女性にお辞儀をすると、彼女が案内する。ロイヤル・スイートルームのリビングに案内される。
入る直前、先ずはジオン軍の少佐の階級を付けた人間が何度も厳重にボディチェックをする。
彼が全てボディチェックを終えると、私はビジネスバッグを金属探知機並び生物探知機(宇宙世紀なって開発された生物兵器対策用の検索システム)に通す。問題は無かった。
そして扉を開ける。まずは用意された椅子とテーブルの横にある鞄入れに鞄を入れる。
さらにバックから地球産のリンゴの果汁ジュースを出す様にブッホ君に頼む。2Lの高級リンゴジュースの瓶を二本出すと彼は退出した。
そのまま自分は座って無言で待つ。スーツのスタイルはいつも通りのアルマーニのスーツに茶色のマドラス靴、イタリア製のネクタイに仕立て屋で仕立てられた薄い水色のワイシャツ。後は連邦高級官僚にのみ支給されているカフスにネクタイピン、そして連邦高官を示す特殊なバッチ。

「あの時を思い出すな」

目の前にはイタリアのボローニャワインがある。クーラーボックスに自分の持ってきた地球土産であるリンゴジュースを入れる。待つ事約15分。
一人の男が書類を持って入ってきた。扉を閉める。
その時の彼らの会話にて知ったのだが、扉を開け閉めしていた少佐はアナベル・ガトー。あのソロモンの悪夢だった。




「待たせたかな?」

その言葉に返答する。立って一礼して。

「いえ、それ程でも。それと地球産の中でも高級リンゴから作った搾り立てのリンゴジュースです。これは美味ですよ」

両方が腰を掛ける。そうだ、ついに始まる。
反撃の狼煙を、反逆の篝火を焚く日が来たのだ。いよいよだ。いよいよなのだ。

「そうか。ありがとう。この会談中に頂くとしようか。
・・・・・・・・・・でははじめようか、ウィリアム」

先ずは乾杯。双方ともグラスに注いだワインを飲む。摘みは無い。そんなものは要らない。不要だ。今からは言葉が摘みだ。

「ええ、はじめましょう。交渉可能な日程は僅か3日間。お互いに時間は少ないですから」

地球では大規模な戦闘をしながら、宇宙の高級ホテルにて片方では秘密裏に高官同士が話し合う。
第三者や前線の将兵が見れば唾棄すべき光景かも知れない。だが、兵士には兵士の、政治家には政治家の義務がある。それは仕方ない面がある。
自分も義務を果たす。そうして初めて家族を守れると言うならば、そうしよう。それが一家を支える男としての義務ならば、そうしよう。

「そうだな」

相手が頷いて私は連邦議員連名の親書に議長からの親書、各王室を代表した極東州の皇室の親書手渡す。一方で、情報端末を起動させる。A4ノートとペンも出す。

「これが親書です。さてと、まずは何から話しますか?
ジオン軍の解体という要求から話し合いますか?
それともサイド3自治権剥奪と保障占領、艦隊の駐留と言う案件にしますか? 若しくは戦時賠償金の徴収から話しましょうか?」




その提案は過激だ。向こうも笑って、しかし鋭い眼光で反論する。




「ならばこちらはコロニーでも落とそうか? ウィリアム。
君らが望むならばジャブローはこの世から消え、その上で地球には新たな湖が出来る。大ジャブロー湖とでも言うべき湖がね」




更に一口飲む。
宇宙では取れないであろう最高級の赤ワインだ。だが酔わない。




「そうですね、とりあえず双方が最初に合意できるのはレビル将軍の銃殺刑で良いと言う事かと思います。
レビル将軍は南極条約を砕いた戦犯であり、連邦とジオン双方にとって和平の障害である・・・・・・・・そうは思いませんか?・・・・・・・・・・ギレン・ザビ総帥?」




この言葉に相手は、ジオン公国総帥ギレン・ザビは笑って答えた。




「実に的確な意見だ、ウィリアム・ケンブリッジ対ジオン特別政務官」




と。


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