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No.33595の一覧
[0] 僕が伝説になる必要はない(ドラクエ3っぽい世界観)[かんたろー](2012/08/23 03:27)
[1] 僕が伝説になる必要はない 第二話[かんたろー](2012/07/10 02:06)
[2] 僕が伝説になる必要はない 第三話[かんたろー](2012/08/23 03:28)
[3] 僕が伝説になる必要はない 第四話[かんたろー](2012/12/26 02:32)
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[33595] 僕が伝説になる必要はない 第三話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:a89cf8f0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/23 03:28
 強すぎる。それが、アスターがアリアハンの女勇者、アルルに抱いた印象である。
 空を飛び交う凶悪なる黒鳥を投石の一撃で沈め、ぬらぬらと光る舌を波のように這わせる狂獣を一刀の下に斬り伏せる。
 覇道、そんな言葉がアスターの脳裏に浮かんだ。額から流れる汗を拭い、やはり自分の目に狂いは無かったと口角を持ち上げた。それは残虐性からくるそれではない。むしろ、恐ろしいとすら感じていた。目の前の剣を片手に鮮血を浴びる少女の目は血走り、獲物を探す狩人そのものだったからだ。アスターは、いつか近いうちに暴走するだろう少女との戦いを想い、武者震いを隠すために笑ったのだ。
 だがしかし、その光景を斜に構えた、もう少し違う視点で解説してみよう。だがその前に、何故今アスターは魔物との戦いに手を貸さずあえてアルル一人に戦闘を任せているのか? それは単純にアスターがアルルの力の真価を見極めたいと考えたのだ。元より強さは疑っていないが、いざという時に逃げ出すようでは意味が無い。強敵との戦いでも恐怖を抑え勇気を持って立ち向かえるのか。勇者の仲間というのならば、その程度持ち得ていて当然だからだ。並びに、彼女の修行という名目もある。
 では、前述したように違う視点で彼らの闘いを見てみるとしよう。
 まずアルルだが、目から涙が流れている事から、血走っているのではなく泣き腫らしているのではないか、という考え方も出来るだろう。今現在アルルが真に迫った声で「手伝ってよ!! 私死んじゃうわよ!? 嫌でしょ私は嫌よ死にたくないいぃぃ!!!」と剣を振り回している。アスターは地面に座り込み少女の闘いを見物している。時折あくびをしているのが、アルルの精神にどのような影響を及ぼしているのか、それは誰にも分からない。

「痛い! 今当たった、魔物の攻撃が当たった!? やだやだ死にたくない助けてってばアスターの馬鹿!!」
「眠たいなあ、もう少し寝てから出発すべきだったなあ」アルルの救難を無視してアスターは寝転がった。辺りが騒がしい事を除けば、彼にとって寝るには充分な環境らしかった。そうしている間にも、アルルの剣舞──振り回しているように見える者もいるだろうが、アスターにはそれが計算されつくした剣戟であることを見抜いていた──が、口元を歪めふらふらと空を彷徨う黒い悪魔を半分に断っていた。

 これで、彼女が殺めた魔物は三匹。アリアハンを恐怖に貶めている鳥獣大がらすに、骸を貪る獣大アリクイ、旅人を誘い永遠の眠りに導く悪魔ドラキーである。大きさから見れば、どれもが成獣に達さない子供のようだったが、それでも魔物は魔物、人間では敵わない力を秘めた恐るべきモンスターなのだ。少なくとも普通の子供ならば太刀打ち出来まい。元気が良くて運動の出来る子供ならばそうでもないだろうが。
 そして、残る魔物は一匹。神代の聖獣ユニコーンに酷似した鋭い角を携えた魔物──そう、一角うさぎだ。角の鋭さも去ることながら、恐るべきはその突進力。成長した一角うさぎならば馬車すら大破させるという。子供ならば逃げる蛇くらいなら貫けるんじゃないだろうか? ちなみに、アルルの眼の前にいる一角うさぎも子供である。
 威嚇の声を上げ、一角うさぎは己が同胞を次々に殺したアルルに向かって角を向けて飛び跳ねた。まだ子供だからか、目測は少し外れ、アルルの太股を掠めるだけに終わった。万一まともに当たれば、結構な出血になっただろう。多分。

「血!? 血が出た! うわあん血が出たああぁぁぁ!! アスター助けてアスターアスターアスターあああぁぁぁぁ!!!」
「うるさいなあ、アルル、いくら戦うのが面倒だからってわざと僕に押し付けるのは止めなよ」
「違うってば馬鹿!! 本当に痛いの、お願いだから助けてよぉ……」

 左手で剣を持ち、右手で血が滲んでいる太股を押さえているアルル。その程度で戦意を失う訳が無いと知っているアスターだが、例え嘘泣きでも女性の泣き声を聴くのは耐えられないアスターは鈍重に立ち上がりのろのろとアルルと一角うさぎの間に立った。少女は安心のあまりその場で座りこむ。
 いくら相手が弱いとはいえ、戦いの最中になんて緊張感の無い、と呆れるも渋々相手の魔物を見遣る。

「随分と興奮しているみたいだけど、それで僕を倒せるかな? ──消し炭になりたくなければ消えろ。いかに魔物でも、勇者たる僕は逃げる相手を追う真似はしない」

 威風堂々、その悠々たる様は見る者に安心感を与える。そして、敵には畏怖を植え付ける。
 証拠に、アルルの震えは止まり一角うさぎの目には迷いが生じていた。本当に戦っていいのか、こいつの力は並外れた物に違いないと知らせるのだ。
 だが、それでも一角うさぎには意地があった。幼くとも、初めて人間と戦うにしても、友を殺されたのだ。魔物としての矜持が一角うさぎにはあった。例え負けるにしてもせめてあの女だけは串刺しにしてやると、魔物は鼻息を荒くした。

「そうか、逃げないのか……いい度胸じゃないか、気に入ったよ」アスターは杖を構えて迎え撃とうと腰を低く保つ。

 魔物にアスターの言葉が通じたのか、それは分からないがアスターが「気に入った」と言った瞬間、一角うさぎが口を開き「キキキ」と笑い声に聞こえる鳴き声を発した。それはまるで「俺もだ」と言っているようだった。
 この一角うさぎはまだ子供だ。本来ならば、親の一角うさぎに餌を貰い甘えていればいい年齢の幼い子供。人間を襲う事で得る愉悦や興奮など今の今まで知らなかった子供なのだ。
 しかしもう知った。戦いの楽しさも強敵と対峙した時に得る興奮も知ってしまった。そして友を失う悲しみも味わった。そんな魔物が退く訳が無い。負けても死んでも退くだけはないのだ。そう、この一角うさぎは戦士となった。

「来いモンスター! 勇者アスターが相手をしてやる!!」
「キキィィィィ!!!!!!」












 僕が伝説になる必要はない
 第三話 猛襲破砕拳の使い手、シュテン












 時は戻り、アリアハンを出た後の二人の事。
 二人は町を出て暫く歩いた後アスターの「眠い、寝よう」という簡潔な言葉により野宿の準備に入った。この頃には、ようやくアルルも泣きやみしゃっくりも止まっていた。恨めしそうにアスターを睨む事は止めなかったが。
 準備と言っても大した事では無い。辺りに生えている雑草を抜き取りアスターのメラで燃やし焚き火代わりにした後眠るだけだからだ。煙が酷かったのですぐに消したが。つまりは何もせず寝たに過ぎない。
 とはいえ、もう暖かい季節だが風の吹く野外で寝るのはアルルには厳しいものがあった。アスターのようにローブを纏っているのではなく、長袖ではあるが膝下のズボンを履いているアルルは足に当たる風が冷たくて、中々眠れずにいた。

「ねえちょっと……ねえまだ起きてるよね?」堪らず起き出したアルルは少し距離を取って横になったアスターに近づき(最初に距離を空けたのはアルルである)揺さぶった。
「んん、なんだよアルル……もしかして、魔物が近くにいたのかい?」言いながらアスターは見張りを立てるのを忘れてたなあとぼんやり思った。反省はしても後悔はしない。むしろ反省もしない。流石勇者。
「ううん、魔物はいないみたい……それより、何か防寒具とか寝具とか持ってない? 風が寒くて寝れないの……」

 こう言われれば、優しさの塊であるアスターは当然彼女に防寒の為の道具を渡す。のそのそと体を起こして、自分が付けていた薄い布の手袋を片方渡して彼女に投げた。アルルはまじまじとその手袋を見る。

「それで。じゃあおやすみ」アスターは再度横になる。
「………………うん」

 アルルはとりあえず足が寒かったので渡された手袋を足の上に置いてみた。風が吹いた瞬間飛ばされて近くの地面にぽてりと落ちた。もう一度足の上に置いた。同じ結果となった。

「……ねえアスター、起きてよねえ」少女はもう一度アスターを揺らし起こす。
「んん、なんだよアルル、今度こそ魔物がいたのか?」
「あのね、もうちょっとだけ寒さが凌げそうなもの無い? 手袋一つじゃ全然あったかくないの」
「そうだなあ……」アスターはごそごそと体を動かし防寒具の代わりになるような物を探す。しかし残念ながらそれらしいものは見つからなかったようで、どうしたものかと辺りを見遣ると、彼は良いものを見つけた! と顔を輝かせた。
「じゃあそれで。おやすみ」アスターが渡したのはお鍋のふただった。

 アルルは足が寒かったのでお鍋のふたを足の上に置いた。たかが鍋のふたのくせにまあまあ重かった。さらには、平型の物を足の上に置いたところで風が防げる訳が無かった。分かっていた事なのに希望を預けて足の上に置いた自分に苛立ちアルルはお鍋のふたを地面に叩きつけた。相当な音が鳴り、アスターがまた起き上がった。そのまま何も言わずアルルの前に立つと渾身の力で彼女の頭に拳を振り下ろした。少女は頭を押さえて悶絶する。

「良いかいアルル。こんな言葉を知ってるか?」アスターが問うが、痛みでそれどころではない少女から返事は返ってこなかった。気にせずアスターは続ける。
「ルビスの顔も三度までという言葉さ。遠い異国の地で言うことわざというものなんだってさ。それと非常に近い意味でこんな言葉がある。勇者の顔も二度までという言葉さ。意味は、勇者のように寛大な者なら二度までの無礼は許すが、三回迷惑を被られたら怒るぞって意味だ。何が言いたいか分かるかな? 何度も起こしてんじゃねえよボケがって事だよ」

 ぺっ、と地面に唾を吐いてアスターはまた地面に横になって目を閉じる。慌てたのはアルルである。このままでは寒くて眠れないし、彼が寝入ってから声をかければまた痛い思いをしなくてはいけないと焦ったのだ。

「待って! 寝る前に待って! このままじゃ私寒くて寝れないわ、凄く嫌だけど、一緒に旅をするんだから仲間の悩みを解決すべきじゃない!?」
「……なんだ、寒くて寝れなかったから僕を起こしたのか。先に良いなよ全く」

 言う前に殴ったんじゃないか、と口に出すのをアルルは止めた。また痛くされそうだからだ。短い付き合いだが、アルルはアスターという好青年の人格が分かってきたようだった。

「でもごめん、さっき渡した物以上に風を防げそうな物は無いんだ。それこそ僕のローブくらいしかない。だからといってこのローブに君を入れるとなると抱き合いながら寝るような形になってしまう。それだけは避けたい。例え君が風邪を引こうが肺炎になろうがその結果短い人生を終える事になろうがそれだけは避けたいんだ」
「…………………………ふううぅぅぅ……それで、結論は?」必死に何かの感情を抑えるような表情と間を作ってアルルは先を促した。
「さっきも思ったんだけど、野宿をするなら見張りが必要だよね。だから今は君が見張りとして起きていてくれ。横にならなければそう寒くもないだろう? 時間が来たら僕を起こしてくれ。その時に君にこのローブを貸せばいいだろう?」
「なるほど、貴方のローブを毛布代わりに、交代で使うという事ね。でもなんで最初に見張りになるのが私なの?」
「今僕は凄く眠たいからだよ」

 それ以上取り合う事も無くアスターはすやすやと眠りについた。
 普通こういう時なら男が見張りに立って女性は寝かせるものではないか、と思ったがそれは男女差別だろうし、何よりローブを貸してもらうのは自分なのだから当然だとアルルは考えた。剣をしっかり握り辺りの様子に気を配る。素人臭い気を張り詰め過ぎた構えであるが、それは仕方の無い事だった。
 彼女は内心嬉しかったのだ。今まで誰に頼られる事無く駄目人間の駄目勇者と呼ばれ続けた彼女は誰かに何かを頼まれた事が少ない。たかが見張りと言えど仲間の命を握る行為である。それを任された事が、アスターという仲間に信頼されているように感じて半ば興奮すらしていた。

(こうして考えてみると、旅に出たのも悪くない……かもね)

 鼻歌でも歌いたい気分だったが、隣にいる仲間を想い(叩かれるのが嫌というのもある)ただ静かに暗闇に目を光らせていた──





「ふわあ、よく寝たなあ。おやもう朝なのか……朝?」眼を擦りながら伸びをして、空に太陽が輝いている事を不思議に感じたアスター。隣を見ると、眼の下にクマを作った少女が人を殺せそうな視線を彼に送っている。
「おはよう、よく眠れたみたいね。羨ましいわ本当に心から羨ましいわよ」
「……もしかして、ずっと起きて見張っていたのかい? 交代しようと言ったじゃないか、何故そんな……」自分で言ってからアスターは己の過ちに気付いた。
(そうか。彼女は自分の真の力に気付く事無く、あのアリアハンの住民達に軽んじられてきたんだ。そんな彼女だからこそ、人一倍に勇者たる僕の役に立とうとしたのか。見張りくらい自分一人でやってみせると、そう意気込んで。己だけで夜を越したのか、僕の身を案じて!!)

 思い立った瞬間、アスターは堪らず少女の肩に手を置いて震えた声を絞り出した。少女の目に光は無い。

「止めるんだアルル! 僕の身を案じてくれるのは嬉しい、でも僕達は仲間なんだ!! 君一人に労を預ける気は毛頭無い! 僕達は一心同体なんだ! 眠くなれば僕を起こせばいいじゃないか、なんでもかんでも背負いこむな!」アスターの目には涙すら浮かんでいる。彼の涙には二つの理由があった。一つは少女の覚悟と優しさに、もう一つは勇者である自分に頼ってくれない、それはつまり信用されていないのではという感情からだ。
「……何勘違いしてるのか知らないけど、私が何回起こしてもあんたが起きなかっただけ。何度も、何度も、それこそ頭を叩いたり耳元で騒いだり両足を持ち上げて振り回したりしてもあんたが起きなかったの。だから私がこうして徹夜で見張ってたの。分かる?」
「そんな……っ!? 止めてくれ、自分の優しさを嘘で隠さないでくれよアルル!!」
「…………死んでしまえ」

 自分の本心を言い当てられ、照れ隠しに暴言を放つアルル。それを察したアスターは、彼女の優しさを無にしてはいけないと小さく項垂れた。
 そして、アスターは思う。勘違いだったのだと。目の前の少女はきっと残忍で残酷で性格が破綻した悪鬼の如き少女だと思っていたが、それは間違いだった。彼の親友うんこを殺したのは確かだが、いきなり力ある魔物が飛び出してくれば誰しも剣を抜いてしまうだろう。戦う力のある者なら尚の事だ。
 許してくれ、とアスターは呟いた。自分が未熟なばかりに他人の都合を考えず糾弾した事を恥じた。零れた涙は頬を伝い地面を濡らす。

「えっ、ちょっと! いやあの、確かに私も寝たかったけど、そんな泣いて謝る事じゃないわよ……初めての旅で疲れてたんでしょ? ……ま、まあそれは私もだけど……あ、アスターは沢山の魔物と戦ってたんでしょうから当然だわ、次から起きてくれればそれで良いから! 私も酷い事言ったわね、ごめんね?」
「…………そう、言ってくれるのかい?」

 ちら、と見上げるとアルルはぶんぶんと頭を縦に振っていた。
 なるほど、とアスターは感謝の中に納得を滲ませた。伊達に勇者を命じられたわけでは無いのだな、と。その優しさは勇者たる片鱗を見せている。
 だが。彼は心の奥にざわついた何かが這いあがってくるのを感じた。
 優しいのは良いことだ。しかし優しすぎるのは毒となる。勇者とは時に情けを殺す非情な戦士でもあらねばならないのだから。

(なんて、残酷な世界なんだ)

 優しいが為に人々に嫌われる見下される。あって良い訳が無いのだそんな世界が。
 誰しも優しくなりたいと願うが、実際優しさを振り撒ける人間はそういない。誰しも自分が一番大切だからだ。優しいとは自分を殺す事に他ならない。彼女はそれを躊躇い無く出来るのだとアスターは直感した。それは諸刃の剣であることも。
 勇者は人々の為に生き、人々の為に戦うべきである。だが、人々を救う為に人々を見捨てる事もあるだろう。なにより、魔物との戦いで迷いが生じてはいけない。その結果命を落としては救うことも出来ないのだから。
 残酷な世界。彼がそう評したのはそういう事だ。真の優しさを得ている彼女の心を悪と断じる、いや断じなければならないこの世界の不思議が悪癖がアスターの胸を刺した。

「──決めた」
「え、何を?」

 戸惑うアルルを尻目にアスターはすっくと立ち上がった。その際にローブを外しアルルに渡す。白い袖の無いシャツと、同じく無地のズボンが晒される。
 既に日が昇った為寒くは無いのだが、折角の優しさだとアルルは大人しくローブを身に纏った。分かっていた事だが、立ち上がっても裾が地面に着くだろうな、と彼女は思った。

「君を強くする。それは昨日から思っていた事だけど、昨日とは意味が違う。勇者の仲間としてではなく、君がこの世界で強く生きていけるように、その為に君を強くしたい」
「強くって、特訓とか修行とかって事?」アスターは頷いた。
「戦う強さだけじゃない。生き抜く強さを君に身に付けて欲しい。君の強さは身に染みて分かっているけれど、それではこの世界を渡ってはいけないから」

 澄んだ目で言うアスター、となんとなく雰囲気に飲まれるアルル。彼自身は知っているはずなのだが。アスターがまだ旅に出て二日という事を。そんな身分で他人に生き抜く強さを伝授しようとしているアスターは果てしなく賢者だった。
 一つ二つ、間を置いてからアルルはこくんと首を振る。内心では「特訓かあ。筋肉とか付いちゃうかな、やだなあ。若い頃に筋肉が付いたら背が伸びないっていうし……でも断り辛いもんなあ……」というお断りしたい気持ちが強かったが、流されやすい彼女にそれは無理だったようだ。何よりアスターの真摯な目がそれをさせなかった。












 そして、現在に戻る。魔物の集団を見つけて、アスターはアルルに一人でやるんだと命じた。少女は驚きすぎて鼻水を噴き出していた。
 何故どうして何がどうしてそうなるの!? と喚いていたが、これには意味があった。アスターはアルルの弱点を見抜いていたのだ。アルルがうんこを殺したものの、その後震えていた理由を知ったからだ。

(アルルは、戦いを知らないんだ。剣を握り他を圧倒する力を秘めていても命を奪えない。それでは勇者の旅に生き残れない!!)

 故に、助けも無く一人で魔物と戦わせてやればその弱さを克服できるのでは、と考えたのだ。
 結果は戦いの潜在能力といい現時点での力といいどちらも素晴らしい値だった。しかし最後になり命を奪う事に躊躇したのかアスターに助けを求めてしまう。
 敵は少し大きくて角が生えただけの魔物。アルルに勝てない道理は無いのだが、前述したとおりアスターは女性の助けを無視できる性格では無い。非情である必要もあるのだと考えている彼だが、彼もまた十分に優しすぎるのだ。
 そして場面は角を生やしたうさぎ──一角うさぎとの戦いに戻る。


「来いモンスター! 勇者アスターが相手をしてやる!!」
「キキィィィィ!!!!!!」

 後ろ脚で地面を蹴り、一角うさぎは弾丸の如く飛び出した。砂煙は舞い、魔物が踏み出した地面は円形に陥没している。そのスピード、筆舌に尽くし難い。成長した一角うさぎとなんら遜色ない動きだった。
 上では無く前に跳ぶ、滑空するような跳ね方だった。角は地面ぎりぎりまで、頭を下げている。下から上に突き上げる魂胆なのだろう。イメージは、アスターの喉を突き破り脳天すら貫くもの。魔物は勝利のビジョンを浮かべていた。
 重ねて言うが、恐ろしい速度だった。戦いを棄権したアルルはその突進を見て小さく悲鳴を上げた。あってはならぬ事だが、魔物から目線を離して自分を旅に連れ出した男を見る。男──アスターは……笑っていた。
 その直後、何かが地面に突き刺さるような音が聞こえて少女は視線を戻す。そこには、地面に角を突き刺してひくひくと体を痙攣させている一角うさぎの姿があった。そのまましばし眺めていたが、やがて動きは止まり魔物は死んだ。
 何があったのかアルルには何も分からない。自分が一瞬目を離した隙に、その瞬間に何があったのか。アスターが何をしたのか。それを問いただす前に、アスターが口を開いた。

「さあ行こうアルル。魔物とはいえ、死体の近くに長居したくないだろう?」
「待ってよ! アスター、貴方今何をしたの?」一角うさぎの亡骸を指差しながらアルルは訊く。アスターは一瞬だけ遠い目をして、自分の掌を見遣り、ぐっと拳を握り締めた。
「気だよ」
「気?」捻りの無い鸚鵡返しをしてしまうアルル。
「そう、気。僕の気に当てられた魔物がそのショックで自害したんだ」
「…………は?」アルルの反応にアスターは苦笑を洩らした。
「徹夜で頭が覚醒しきってない君には難しかったかな。つまり、僕の強過ぎるオーラにやられたって事さ」
「しっかりしてアスター。半覚醒の私でも分かる位に貴方おかしな事言ってるわ」

 アスターはそれ以上話さず歩きだした。結局、少女は勇者(自称)である男が何をしたのか分からないまま、疑問符を頭の上に出しつつ歩いていく。
 様々な可能性を並べ上げて、一つの考えが浮かんだ時アルルは小さく「まさか……!?」と呟いた。

「死の呪文、ザキ……?」

 死の呪文ザキ。敵の生命活動それそのものを停止させる呪術。扱える者は限られており、高位の魔物が使えるという異端の呪文。人間では選ばれた僧侶が大神官の許可を得た時だけ使用を許される魔法。そして、その選ばれた僧侶達は皆揃って人々に恐れられ、国によってはザキを使えるというだけで処刑されることもあるそうだ。
 思い至った時には、例に洩れずアルルもアスターに恐怖を抱いたが、それにしては魔物の死に方が妙である。ザキは瞬時に命を断つのだから、一角うさぎは角を地面に突き立てる事も無く横たわっていなければならない。

「走ってる途中にいきなり命を奪われて、勢い余って角が刺さったのかな……うーん」
「アルル?」考え事に熱中しすぎたか、アルルの歩く速度が遅くなり、それが気になったアスターが声をかける。それに驚き、少女は飛び跳ねるように顔を上げた。

(訊いてもいいのかな? でも本当にザキが使えるなら怖いし、そうじゃないなら凄く失礼だよね……)

 魔法を使う者にとって、ザキを毛嫌いする人物も珍しくない。有無を言わせず相手の命を奪うというやり方はルビスの教えに反しているからだ。共存を主題にしているルビス教において、それは当然の事である。まして、勇者であると自分を語る人物だ、熱狂的なルビス信徒である可能性は高い。
 どうしたものか、と悩み続けるアルルに、アスターは優しく声をかけた。

「怖いかい? 僕が」
「ッ!」悩みをずばりと言い当てられて、口籠るアルル。その時、アスターは一瞬だけ悲しそうに口を歪ませた。すぐさまに笑顔を取り戻したが。
「怖いだろうね。僕も怖いんだ、他人の君が怖がるのも当然さ」
「怖いっていうか、その……」アルルは咄嗟に否定の言葉を作れない自分の不器用さを呪った。最初は一人で戦わせたけれど、結果的には助けてくれた人物に恐怖を抱くなんて、と自分を罵倒する。
「でも大丈夫。当然だけど、僕は仲間にこの力を振るったりしない──君を傷つける事は絶対に、ね」

 その自信は揺らがず、澱み無く彼は言う。その言葉には自分が、だけでなくありとあらゆる存在からも、という意味が含まれているようでアルルは心が軽くなったような気がした。
 旅は怖かった。戦いなんて以ての外だった。今さっきも一人で戦わされて、傷も負った。けれどそれは些細な傷。治療の必要もない、走っている時にこけた方が痛いだろうくらいのもの。魔王を倒す為に旅をしているのだ、この程度日常茶飯事以下だろう。
 けれど、なんとなく。
 アルルは、本当に危ない時は彼が助けてくれるんじゃないか、と思ったのだ。彼女の心に巣食う恐怖が僅かに薄れた。

「……うん」小さくとも、色々な感情を込めてアルルは呟いた。

 それから、二人は距離を開けたまま歩きだした。
 けれども、少しだけアルルが歩くスピードを上げてその距離を縮めた事を、前を向いていたアスターは知らない。




 蛇足だが、一角うさぎが死んだのは突進中石に躓き、角が地面に刺さったからである。そのまま地面に刺さった角を軸に一回転し首を折ったのだ。アスターの放つ気に当てられたというしかないだろう。彼を止める事が出来る存在などいるのだろうか。単純にモンスターの足がもつれた為起きた事態では無いか? という憶測も立てられるがそれはそれである。





 草原を歩む二人は黙々と旅を続けていた。先ほど現れた魔物以外モンスターの姿は見えず周りは長閑なものだった。鳥は囀り太陽の光は温かく草花に元気を与えている。アルルが気持ち良さそうに伸びをした後、くはあ、と目を細めて息を漏らす。なんとも平和だった。
 すると、今まで規則的な歩行を続けていたアスターが足を止めて振り返った。急な行動だったためアルルはびくっ、と身を縮こまらせてしまう。

「何? どうしたの」
「大変だアルル、僕らは大変な間違いを犯していたんだ」
「大丈夫よ、私あなたが正しかったなんて思った事無いし。短い付き合いだけどこれからもそうなんじゃないかなって薄々感じてるわ」アルルの意味不明な言葉を無視してアスターは高らかに答える。
「次に何処に向かうべきか考えてないんだよ僕達は!!」
「ああ、道理で方角も決めずに適当に歩いてるなあと思ったわ」

 掌を空に向けてはあ、と溜息一つ。アルルは何故か疲れた様子だった。
 しかし、思いもよらなかった事態に直面したアスターはそれを気にしてはいられない。この状況もまた魔王の手によるものではないかという悪寒を彼はみしみしと感じていた。背中から何か、冷たい手が這いずっているような気になり思わず身震いしてしまう。

(恐るべき、魔王バラモス……!!)

 遥か彼方にいるだろう魔王を思いアスターは冷汗を流した。と同時に、僅かな高揚を覚える。それでこそ、己が目標であると。

「とりあえず、あなたに明確な目標が無いならあそこに向かいましょう」

 そう言ってアルルが指差したのは海を越えた先に見える塔だった。
 その塔はアスターも知っている。遠く離れたレーベからも見る事が出来たからだ。

「ああ、天気塔か」
「天気塔? 何言ってるの、あれはナジミの塔よ。勇者オルテガが訪れたという事で有名な塔じゃない」
「へえ、君達の所ではそんな風に言われてるんだね。レーベではあれは天気塔と呼ばれていて、その由来は朝からあの塔が見えるならその日は雨が降らないと分かるからだよ」
「天気予報に使われる塔って、何かシュールね」呆れたように言うアルル。
「でも何でわざわざ天気塔に?」
「なんでも塔の最上階にいるお爺さんが旅をする人に役立つ物をくれるらしいわ。塔を登りきった兵にだけ与えるとかなんとか。私も話に聞いただけだけど、お爺ちゃんとお母さんがそこに行けってうるさかったし、行って間違いは無いんじゃない?」
「そうなのか。先に言っておくれよアルル。無駄な時間を過ごしちゃったじゃないか、それでどうやってあの塔に向かうんだい? まさか泳いで渡れなんて言わないだろうね? 自慢じゃないが僕は泳ぎだけは、そう“泳ぎだけは”苦手なんだ」
「泳げない云々より人の話を聞かないとか何でもかんでも人のせいにするとかは貴方の悪い所だと思うけど、質問に答えるなら岬の洞窟とかいう場所から行けるらしいわ。その場所までは知らないけど……」

 そこから二人は困り顔で唸りだした。向かうべき場所は分かれどどうやってそこに向かうかが問題となった。アスターが「一度アリアハンに戻ってルイーダさんに聞いてみようか」と提案した際アルルが猛烈に反対したので断念。果たすべき目的を果たさずして故郷の土を踏まぬというのか……! とアスターは感涙する。アルルの目は何故か血走っている。
 しかし、アリアハンに行けないとなれば残るはアスターの故郷レーベしかない。

「よし、一度僕の故郷に帰ろう。ここで立ち往生しているよりは有意義だろう」
「また野宿するのは嫌だし、正直凄い眠たいし……村に行くのは賛成かしら」

 それから、二人はレーベに向かう。時折おおなめくじ等々の魔物が行く手を遮ったが全てアルルの剣技の前に散った。時にはアスターの手も借りたが大凡難の無い旅であったと言えよう。腐るほどあった薬草は数えるほどになったが。数えられないほどアルルは悲鳴を上げたが。数えるのも馬鹿らしいくらいアルルはアスターに殺意を覚えたが。それでもなんとか戦い抜き敵を退けたアルルは相当の実力の持ち主という事であろう。ドラキーに、まるで餅にたかる蠅の如き数に襲われた時も撃退した時はアスターはアルルの強さに驚き、しばらくアルルをさん付けで呼んだほどだ。その間中、彼女はアスターに向けて剣を構えたままだった。



 レーベに到着すると、二人は村人から盛大な歓声で迎えられた。それに目を白黒させたのはアルルだ。今まで人々からこんな歓声を浴びた事は無かったからだ。
 アスターもまた顔を綻ばせている。近寄って来た両親と抱き合い、よく無事で……と涙の再会を演出していた。たかだか一日会わなかっただけなのでは? と思う者はいない。アルルもまた(随分長い間村を出ていたのね……)と貰い泣きしていた。

「貴方、アスターのお仲間さん?」きょろきょろと視線をあちらこちらに向かわせていたアルルに一人の修道女が近寄り話しかけてきた。小さな村だけど、教会はあるんだな、とルビス信仰の強さを知る。修道女は黒い髪を腰まで伸ばした、柔和な顔立ちの長身の女性だった。アスターとそう変わらないだろう、アルルからすれば見上げねば顔を見る事も出来ない。小さな劣等感を抱きつつ、アルルは「はい」と答えた。
「そう! あの子協調性なんて無いからさ、旅の仲間なんて出来ないんじゃないかって思ってたのよ。でも良かった、貴方みたいな可愛い子が一緒なんてちょっとアスターが羨ましいわね」
「いえ、そんな……」

 可愛いと言われてアルルは顔を紅潮させ、謙遜の言葉を出しておく。並びに心の中でアスターに悪態をついておいた。見ろ、やっぱり私は可愛いんじゃないか! と。諦めかけていた踊り子への夢が蘇ろうとしていた。

「マナ、アルルは女の子だぞ、男と間違えるなよ」
「えっ! 女の子なの!? ……ああいや、分かってたわよ勿論。うん」

 なるほど、修道女──マナはアルルを男と間違えていたらしい。彼女の反応からそれが知れたアルルはにやけた顔が一変して寒々しい視線をマナに向けた。口笛を吹く修道女は何かを耐えるように自分の太ももを抓っていた。というか、何故貴様はこの無礼な修道女が私を男と勘違いしていると見抜いたのだ、等々の怒りが含まれている視線をアスターに送るのは御愛嬌。

「なあに、女の子はこれから成長するもんさ! マナ、お前だって十歳の頃は女だか男だか分からなかったぞ?」
「私、十五ですけど」ねじり鉢巻きをつけた、日焼けした男にアルルは訂正の言葉を告げる。男は静かに「すまん……」と悲しげに呟いた。

 その日の夜は、小さな村ながらに騒がしくなった。勇者の帰還だ! と誰もが笑い秘蔵の酒を振る舞った。繰り返すが、アスターが旅に出て一日の事である。
 主役はアスターとアルル。二人ともその歓迎ぶりに驚いたが、アルルはアスターの比では無い。「大変だったでしょう?」「お若いのに魔王討伐の旅に同行するなんて素晴らしい! 勇気溢るる御方だ」「お姉ちゃん、お話を聞かせて!」と、子供まで目を輝かせて彼女を見るのだ。
 二人とも疲れているだろう、夜までは静かに眠らせてやろうと気を利かせていたものだから、村人は今だ今だと二人、取り分け少女の身で旅をするアルルの話を聞きたくて仕方なかったのだ。その熱に押され、アルルは酷く縮こまってしまった。
 ええと、と口ごもらせる度にアスターが彼女のフォローに回り答える。女性を守らんとする誇るべき行いである。問題があるとすれば、彼女に代って答える言葉が些か過剰な事か。
 例えば、村人が「アルルさんはやはり相当の剣の腕前なのでしょうな?」と聞けばアスターは「僕の見立てでは、この若さでこの大陸一の腕前だろう」と答える。自信満々に。
 例えば、村人が「アルルさん、魔王を倒す事に恐れなど無いのですか?」と聞けばアスターは「彼女は自分の身に降りかかる災難など物ともしない。恐れるのは相手を傷つける行為そのものだよ」と答える。威風堂々と。
 例えば、村人が「アルルさん、貴方が戦った強敵を教えて下さい」と聞けばアスターは「そうだね、少なくともアルルは魔王幹部の一角を倒せたのだから、相当の強敵と戦ってきたのだろう。僕にも教えてくれないか?」とさらに問うた。彼の言を聞いて周りの人々から歓声が上がる。

「ほへえ!? 何言ってるのあんた何言ってるの!?」
「誤魔化すなよアルル、僕の友……いや、それはもういいんだけど……僕と出会った時の事を思い出しなよ、あの時倒したあいつは魔王幹部の一人なんだろう? なんせ、僕のメラを喰らってなお生きていた程の魔物なんだから」
「あんなのが魔王幹部な訳ないでしょうがっ!! あれはただの雑魚よ、雑魚!!」アルルは立ち上がって否定した。

 彼女の言葉は、周囲に衝撃を与えた。誰もが青褪め、その後爆発したように紅潮する。興奮の為だ。
 まさか、あのアスターの魔法に耐えた魔物を雑魚扱いするなんて! 正に剣聖! いや戦女神に違いない! と両手を上げて叫び出す。その熱は収まらずレーベ一帯を包みこんだ。

「いや、私が言ったのはそういう意味じゃなくて……」
「そういえば、アルルはルビス様の声を聞いた事があるらしいね?」アルルが何やら困惑しているのを余所に、彼女の仲間である賢者はぽつりとこぼした。
「うおおおお女神に選ばれし者というのかっ!!? なんて人を仲間にしたのだアスター!!」
「魔王バラモスめ……奴の最後はもう間近だなっ!!」

 手に持ったコップを置く事も忘れて一人の戦女神は左右に体を揺らした。震える瞳は美しく、聖女に選ばれるのも然もあらんと誰もが思った。慌てている? まさか、そんな風に思う者など誰もいはしない。鍛冶屋である男は二人分の銅像を作る計算を始めた。一人は雄々しく闇を蹴散らす炎を操る青年アスター、もう一人は不浄を断ち慧眼と無限の優しさを纏う剣の女神アルルである。ちなみにそれは二か月の月日をかけて作り上げることとなる。
 あう、あう、と何やら文呪めいた言葉を発するアルルに皆々注目し彼女の答えを待った。

「わ、私が倒した中で、一番強かったのは……のは……」そこにいる村人が一斉に「のは!?」と先を促した。その反応を見て、彼女は吹っ切れたように立ち上がりコップを掲げた。なお、中身は牛乳である。
「わ、私が倒してきた強敵は皆恐るべき力を有していたわ! 漆黒の翼を持つ闇の眷属! 何者をも溶かす地獄の悪魔! あらゆる物を貫く角を掲げた魔獣! そのどれもが私にとって強敵だった! けれど……これから先私はもっと強大な敵と立ち向かう! それは魔王バラモス! 奴と戦うのに、過去の闘いを思い返すなんて愚の骨頂よ! 私とアスターは後ろを振り返らない! なぜなら、未来は前にだけあるんだから!!」

 答えになっていない答えを返すアルル。しばし沈黙が流れると、彼女の膝が目に見えて震え始める。喉は痙攣し口を閉じてはいるもののしゃくり上げようとする衝動が収まりはしない。

(漆黒とか、悪魔とか魔獣とか言ってるけど、ドラキーとおおなめくじと一角うさぎだもんね、そりゃあ説得力ないわよね……でも私は悪くないわ! 皆が“そういうの”を期待したのが悪いのよ! だから……もう許してよう……)

 精悍な顔つきとやらを自分なりに作り上げたものの、アルルの限界は秒読みだった。このままならば泣き喚きながら村を出て行く少女が拝めたろう。
 だが、その限界はやってこなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお剣士アルルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 誰もが立ちあがり誰もが涙していた。叩く両手は頭上へと、滂沱の涙は感動にて。
 これが泣かずにいられようか?
 魔物の襲来は運良く免れてきたレーベだが、魔王の復活を知らぬわけがない。遠眼だが魔物を見た事もある。数年に一度の行商で殺された人もいる。何より、魔王誕生の際に人々が魔物へと変化した時この村の人間もまた魔物となったのだ。町などに比べてその人数は少なかったが、確かな被害が出た。
 つまりは、皆不安だったのだ。戦う力などないただの村人である彼らが恐怖を抱かぬわけがない。
 そんな中、言ったのだから。アスターのように極炎を生み出すでは無い、勇者でもない、男でもなく、それどころか少女であるアルルが声を大にして言ったのだから。魔王バラモスと立ち向かうと。未来は前にあるのだと。
 心躍らぬ訳がない。皆感じただろう、勇者と共に剣を振るいありとあらゆる害悪を切り払う聖女を見ただろう。
 今ここに、レーベにて勇者のパーティーが誕生した。






(嘘……ついちゃった。どうしよう……嘘は駄目だって、お爺ちゃんに言われてたのに……)

 誰が思うたか、妙におどおどとした考えを抱いた者がこの場にいたとかいないとか。






「……魔王と、戦うやて?」



 妙に汗を掻き始めたアルルを称える中、レーベに必要があるのか疑問視されている宿屋の一室にて一人の女性が起き出した。
 女は肩を鳴らし、首元に手を当てた。寝汗が酷くじっとりと湿っている。脇に置いてあるサイドテーブルに手を伸ばし布を取って首から上を拭いた。それでもじっとりとした肌は変わらず、後で水風呂に入ろうと決める。
 窓を開けて空を見れば深夜とも言えない時間であると星の位置から分かった。
 女が宿屋にチェックインしたのは朝の事で、それからぐっすりと寝入っていた。その為、奇妙な時間帯に目を覚ましたのか……いや、外の騒ぎに起こされたのだ。彼女はここ二日眠っていない、彼女の考えとしては深夜に眼を覚ましてそのままチェックアウトしようと思っていたのだ。
 しかし女は当てが外れた、と気分を悪くする事も無く部屋の扉に手をかけた。颯爽と歩くのは様になっており、後ろに束ねたポニーテールが揺れている。袖の無い服は風を通し汗が乾いていった。心なしか躍動感のある、わくわくしているような歩き方だった。実際そうなのだろう、左手で拳を作りこんこんと壁を叩きながら歩いている。上機嫌である事は間違いない。

「今時そんなんやろうと思うアホがおるとわなあ……一つ噛ませてもらおうやんか」

 階段を降りながら、女はにやり、と犬歯を見せた。






 宴──いやこれは最早祭りか。両手を上げて規則的に歩調を合わせ村に伝わる歌を歌っていた。内容は精霊神ルビスを称えるものらしいが、誰もそんな事を気にしている様子は無く、ただ歌詞があるなら歌っておこう程度である。信仰心の欠片も無いものだ。得てして、神とはそういう形で使われるのが正しいのかもしれないが。
 酒は流れるように消えて食べ物もあっという間に平らげられる。小さな村だ、そのように消費しては持たない事は明々白々である。それでも、村は騒ぎ続けた。
 誰も口にはしないが、嬉しかったのかもしれない。アスターという人知を超えた力を持つ若者に仲間が出来たという事が。
 無論、彼らは皆アスターを愛している。村の仲間として、心優しい若者として、一部ではからかい相手として。ただそれはあくまで身内故のものと分かってもいた。大いなる力は人々を遠ざける。その程度の想像がつく程には彼らは賢かった。
 そしてまた、そのような事など露知らぬアルルは村人の暖かい心が嬉しかった。心から自分を認め期待されているのがひしひしと伝わったからだ。
 彼女にとって期待とはただ重いだけの必要無い、むしろ邪魔な存在だったのに、今は何故か心躍るものとなっていた。何故か? 質が違うのだ、単純に。
 必ず出来る、出来ねば期待外れだ必要無い物だ唾棄すべきものだ、出来ぬ事は許されない出来なければ理不尽だ。それが彼女が知っている“期待”である。その考えこそが理不尽だと誰も気づかない。
 対して、今彼女に当てられている期待は少々違う。きっと大丈夫、貴方なら出来る、大丈夫。
 “大丈夫”という言葉は無責任と言えよう。だが大丈夫に加えられているのは無関係な自分達だけでは無く、アルルも入っているのだ。怖がらなくていいよ、君なら大丈夫だよ、と励ますようにも聞こえる。今までの、「出来なければ許さぬ」という脅迫めいたものではなく「出来る筈だ」という安心を促す心地。
 言葉にした訳では無くとも、アルルにはそう感じた。それが……堪らなかった。
 アルルは祭りの主席を共にしているアスターを横目に見て、なるほどと納得した。疑わない訳だ、己が勇者だと。こんな人々に囲まれて、断言されては信じる筈だ。青年の信念が揺らがぬ理由、その一端が垣間見えた気がした。

「ねえアスター?」村の男衆がとっておきの踊りを披露すると息巻いた時の、人々が二人から気を逸らした瞬間を狙ってアルルはアスターに声を掛けた。
「なんだいアルル」
「私さ、頑張ってみる。さっきの言葉を本当に出来るくらいに頑張るよ」
「? 良く分からないけど、頑張るのは良いことだね」

 疑問符を上げた仲間を見て、彼女は力強く頭を縦に振った。その勢いのまま空を見て煌めく星が自分の決心を褒めているみたいで、なんだか嬉しくなった。目を瞑ると、何処までも行けそうだった。






 祭りは深夜遅くまで繰り広げられた。広場の中央で盛大な焚火をしたからか、酒が入っていたからか、皆寒いとは思わずそのまま野外で眠りに就いた。アルルだけは、村人が布団代わりの長い布を持ってきたのでそれに包まっていたが。
 やがて、日が昇った事でざわざわと目を覚ましていく。アスターもまた、体を起こし大きく伸びをした。隣に眠る少女を見てうげ、と苦い顔をして離れていく。やもすれば、体が密着しそうだったからだ。
 誤解せぬよう伝えるなら、彼は女嫌いでは無い。ロリコンではないだけだ。年がそう離れていなくとも、見た眼がそうなら彼には関係の無い事らしい。
 村の女性たちがきびきびと昨夜の片づけをしているのを見て、自分も手伝おうとする。これは私らの仕事だから、と一度断られたがそれで引くアスターではない。というか、レーベ村は女の仕事、男の仕事、というように区別はしないので全員で片付けを始めた。アルルだけは疲れているだろうから寝かせてやってくれというアスターの発言でそのまま寝かせておいたが。女性としては見ずとも仲間としては見ているアスター、流石勇者である。

「いつ出発するんだ?」アスターの父が近寄ってきてそう訊いてきた。
「アルルが起きたら、すぐにでも。昨日村に帰って来てすぐ寝たはずだからもうすぐ起きると思うよ。昼までに起きなければ僕が起こす」
「そうか……もう少し休んでいけと言いたいが、そういう訳にもいかんのだろう?」父の言葉にアスターは頷いた。寂しいが、それでは魔王は倒せないと。「なら、その前に隣の家の爺さん婆さんに会っていけ。お前に渡したい物があるそうだ」彼が言う隣の爺さん婆さんとは、アスターが旅に出る前にキビ団子を渡してくれた者達だ。
「渡したい物?」アスターは聞き返した。
「そうだ。なんでもお前のメラを更に強化するアイテムらしい」

 父の言葉に、アスターは身震いした。その感情は恐怖と、それ以上に歓喜。
 歓喜? 何故だ、自分は己の力を恐れ嫌悪していたのではないのか、それをさらに増幅する物など何故喜んで受け取るのだ。アスターは自問する。
 答えは……嫉妬だった。そう、彼は嫉妬していたのだ、まだ幼い少女アルルに。昨日は笑って聞いていたが、その実彼は恐れすらしていた。様々な強敵と戦い鬼神のような戦いを見せるアルルに自分は勝てないのではないか、と。そして、彼女は言った。そのような強敵すら霞むような敵、バラモスと。彼女がそこまで言うバラモスに本当に自分は勝てるのか半信半疑だった。
 そんな中言われたメラを強化するアイテム。喜ばずにはいられなかった。

(……旅に出てこんなに早く僕の心が変わるなんてね。まさか、もっと強くなりたいなんて思うとは……世界は広いんだな)

 そう思ってまだ寝こけている少女を見る。少女は口から涎を垂らし、「がんばるぞー」と寝言を漏らしていた。
 あれだけの強さをもちながら尚も限界を目指し続ける者がいる。それだけで、彼が迷う必要は無かった。
 まだ怖い、自分の力がどこまで行くのか、最後にはどうなるのか想像したくない。しかし怖がってはいられない。前に進むのだ、前にしか未来は無いとアルルが教えてくれた。気が付くと、恐怖は失せていた。

「分かった。父さん、悪いけどこれおばさん達に渡しておいてくれる? これで最後だから」言って、食べ残しがこびりついた皿を父に渡す。そして、半ば走るような速度で老夫婦の家へと向かった。
「…………寂しいものだな、子供の成長は」息子の後ろ背中を見送りながら、父は言う。その目には、涙が浮かんでいた。ぐっ、と袖で拭うと、肩を叩く者が。アスターの母である。彼女は笑って、言う。
「息子で良かったわね。娘なら、号泣したんじゃないかしら」冗談交じりに言うが、父としてそれを想像したのだろう、その場で座り込んで泣き声を上げてしまった。母は大層困ったと、夫の背中をさすり出す。
 その声で目覚めたアルルは、どうしたものかと視線を彷徨わせたのだった。






「良い村だったわね」レーベを出て十五分というところか、アルルがぽつりと言った。
「僕の故郷だからね。気にいってくれたみたいで、僕も嬉しいよ」
「気にいったというか……うん、そうかも」

 何だか、関係性が綻びつつある夫婦間の会話のようだ、と感じてアルルは溜息をついた。夫婦云々は勿論、綻びつつあるって何だ、まだまだ乙女であるのに何故中年の心理に近づかねばならんのか、と頭を抱えたくなったのだ。

「そういえば、私達がレーベを出る前に泥棒が出たんですって」話題を変えたくなったアルルが言う。
「それなら聞いたよ。宿代を持ってないくせに宿屋に泊まった奴の話だろう? よくあるんだ、レーベでは。なんでも女らしいよ」
「女の人なんだ……やっぱり衛兵がいないと旅人の犯罪が多いのね」アルルが言うと、アスターは腕組みをして苦い顔をした。
「宿屋だけじゃないんだよ、食事処や武器屋でも旅人がお金を持ってないのに物を買おうとする人が多いんだ」
「そんなに高いの? レーベの物価は」
「いいや。確かに住人が買うのに比べて、旅人は少し割高な値段になるのは確かだけど、それでも良心的な値段なはずさ。他の村や町を僕はよく知らないから相場は分からないけど」
「ふうん。世の中怖いのね」

 確かにレーベ村は住人が購入するにあたっては相当に品物は安い。それは宿泊でも同じことである(そもそも同じ村に実家があるのに泊まる者がいるのかどうか甚だ疑問であるが)。それらは一重に同じ村の人間を大切に思うが為の、家族と同じであると捉えている証である。
 これはあくまで噂だが、極たまに訪れる旅人はレーベのそのシステムをこう評しているらしい。曰く、「住人同士で金をやり取りしない分旅人からせびっているのだ」と。まるでぼったくりにでもあったかのような口ぶりであった。
 ちなみに、レーベ村の薬草の通常価格は2G。旅人に売る際の値段は70G。宿屋は通常価格4G。旅人を泊める際の値段は200G(素泊まり)となっている。後者は後払いとなるので、宿屋の場合うっかり泊まれば払えきれなかった分だけ無償で働かせることとなる実に合理的なシステムである。どうしても払う気が無いという犯罪者にはどういう罰があるのか、それはレーベ村に住む大人達しか知らない。
 なお、今は昔の事であるが、レーベから時折アッサラームという少々治安の悪い町へ馬車が走っていた事はこの金を払わない者への罰と何か関係があるのでは? と無粋な勘繰りをする者もいる。が、それは今は関係の無いことであろう。人身売買などという悪に染まる村では無いはずだから。

「また来たいな、レーベ。私もこの旅が終わればあそこに住もうかしら」
「いいんじゃないか? 若い人が年々減ってるんだ、アルルみたいに元気な子が来てくれるのは万々歳さ」
「そう? なら本当にそうしようかな、あそこで踊り子としての私が始まるのよ!」
「それはないよ。薪割りとか、やぐらを作るのに君の力は重宝しそうだ。鍛冶屋か大工としての活躍を期待するよ」
「……いつか見てろよ」

 しばし剣呑な空気が流れるも、いつしかそれは薄れ和気藹々と二人は話し込んでいる。出会ってまだ二日と経たぬ内に随分と壁は無くなったようだった。元々アスターは他人と壁を作る性格では無いのでアルルの棘が抜けた、というのが正しいが。ただそれは、仲間というよりも傍から見れば兄妹にしか見えないものだが。
 しかし……実はアルルは気付いていた。一つ重大な事を忘れていた事に。それを思い出してから、どことなく彼女の表情は硬かった。

(ナジミの塔への行き方、まるで聞いてなかったや……)

 一体何をしに行ったのか、ていうかアスターもアスターで何故忘れていたのか、と脳内で騒がしく論議を醸していたが、でもまあ楽しかったし私なりの決心が一つついたのだから無駄じゃ無かったよなあとぼんやり思う彼女は恐らく間違っていない。
 そのような悩みを抱いているとは露知らず、アスターは(アルルが元気になって良かった良かった)と朴訥とした考えを抱いていた。あくせく営々と話を止めないアルルに不信感を覚える事は無い。なんという純粋な心か。

「あ、そういえばナジミの塔への行き方を聞くのを忘れてたね、何で思い出さなかったんだよアルル」しかし、アスターがふと思い出した事で必要があったのかどうか分からないアルルの努力は水疱となった。
「流れるように私のせいにするのはやめてよ! もう、忘れようとしてたのに! 先延ばしにしてただけかもしれないけど!」
「駄目だよアルル。失敗を認めなければ後ろに戻る事は無くても前に進む事もできないのだから」
「言っとくけど、私とあんたで五対五だからね? 十対零で私が悪いように言ってるけど、お互い同じだけ悪いんだからね!?」
「まいったな、また戻るのか。なんだかみっともないなあ、アルル一人で戻る気はないかい?」
「もしかしてあんたと私は別の次元にいるのかもしれない。最近そんな風に思うの」

 アスターの言葉を聞かずアルルはきゃんきゃんと吠えるも、取り合う事は無い。相手の失敗を水に流す度量を持ち得てこそ勇者だという証明である。惜しくも、アルルはまだその領域に立ってはいないようだ。
 結局歩く意味を失くした二人はその場に座り、どちらが村に戻るかという勝負を始めた。村を出て行く際にも盛大な見送りをされた手前、のこのことまた戻るのは相当に恥であるとお互い分かっているからだ。ならば、どちらかだけでも恥を避ける方法を選ぶのは自明の理だろう。後、来た道をまた戻るのは面倒臭いというのも本音。
 勝負方法はシンプルにじゃいけんに決まった。掛け声とともに岩、刀、天、いずれかの形に変えた手を出す。それだけの勝負だ。岩は刀に強く天に弱い、刀は岩に弱く天に強い、天は岩に強く刀に弱い。自分が出した形が相手の出した形よりも強いものなら勝利である。遠い異国の地ではじゃんけんと呼ばれるものらしい。

「じゃい、けん、ほい!」二人は同時に手を出した。アルルの手は岩を模っており、アスターは両手を出し両足を開いていた。彼曰く、足を開いた事で天の力を得ており、両手で残りの刀と岩の力を得たとの事。分かりやすく言えば無敵の構えというやつだ。アスターの勝利が決まった。
「認めるわけないでしょ!? 反則よ反則! はいアスターの負けー!」相手を指差し顔を赤くして反論するアルル。見苦しいと言えよう。
「おいおいアルル。戦いに反則や卑怯は無いんだ、昨日あれだけ死線を越えたというのにまだ分からないのかい? 戦士たるもの、例え背中から斬りつけられようと卑怯なんて思ってはいけないんだ」
「認めないって言ってんの!! 何よそれ無敵の構えって! 子供じゃないんだから下らないことしないでよ!」
「はあ……我儘だねアルル。ちょっと引くよ」
「ひくっ!?」

 それからも顔を真っ赤にして自分の非を認めないアルルだったが、懇々とした説明に自分が悪いと悟ったか、彼女も渋々村への道を戻り始めた。

「私は悪くないもん……絶対正しいもん……」

 ずりずりと剣の鞘を地面に擦らせながら歩く様は、中々に惨めだった。
 後ろから「駆け足ー」と言われた時は、どうしてだか彼女の手が剣に伸びたが、理由は分からない。歯ぎしりの音がいやに盛大だった。彼らを囲むモンスターが二の足を踏み逃げ去ってしまう程の形相は彼女の特技なのかもしれない。
 と、彼らが微笑ましいやり取りをしている中、彼らの前──村のある方向だ──から小型の馬車が走ってきた。

「あれ、まだ行商の日じゃないのにな?」

 レーベ村から馬車が出るのはレーベ草を他の村や町に売りに行く時だけと知っているアスターは不思議そうに呟いた。レーベは三年から四年に一度だけ、それも秋口に行商を行っているのだ。所詮着色料でしかないレーベ草を欲しがる人々はそう多くないので、思い出した頃程度の周期で十分なのである。
 今は夏、初夏である。秋でもないしそもそもレーベ草の行商は去年行った事をアスターは覚えていた。

「おんやあ? アスターにアルルちゃん。まだこんな所におったのか」馬車から二人を見つけた、麦わら帽子を被った男が顔を出した。そこにとてとてと足音を立ててアルルが近づく。
「こんにちはおじさん。さっきぶりね……何を運んでいるの?」昨夜で村の大半の人間と仲良くなれた彼女は(彼女の性格からすれば快挙と言って良い事である)明るく問いかけた。

 問われた老人は何故かしまったというように顔を歪ませて、幾度か空を見上げながら目の前の少女から視線を外しつつ答える。

「いや、その……宿屋に泊まった癖に金が無いとか抜かしやがった奴がいてな? そいつを町の憲兵に突きだそうと護送してるわけさ、うん」

 老人一人で護送も何もあったものではないし、犯罪者を送るのは護送とは言わないが、ともあれ意図は伝わったようでアルルは一つ頷いた。しかし、その後間を置かず首を傾げ「でもアリアハンはそっちじゃないわよ?」と馬車が向かおうとしていた方角を指差した。

「え!? そうかい? いやあ、そういえばそうだねえ……いやあ年を取るとこういう事があるんだよなあ、あっはっは!」
「そ、そういうものなの……? っ!?」

 アルルが気の無い相槌を打った瞬間、馬車の中から苦しそうな呻き声が聞こえ、アルルは身を固くした。
 そもそも犯罪者とは無縁の人生を送ってきた彼女である。怖がるのも無理はないだろう。さっさと身を引いて行ってもらおうとした。
 しかし、それを許さぬ者が一人。

「待ってよおじさん。その犯罪者と少し話をさせてもらえないか? 勇者たる者悪に染まりし罪人に説教すべきだと思うんだ」
「え!? いんやあ、そりゃあ立派だと思うがアスター、こいつは本当、根の腐った奴でなあ……お前さんが気にかけるような奴じゃねえぞ?」頬をひくひくと痙攣させながら男は言う。アスターは顔を横に振りながら、
「どんな悪人でも必ず正道に戻れるはずなんだ。その為にも僕はその悪人と話をしたい」

 彼の言に感動したのか、はたまた困ってしまったのか、滝のように汗を掻く男。いやあ、とかええと、とかとりあえず言葉にならぬ声を吐きつつ、なおも反対した。

「いや本当に駄目な奴なんだよ。もう見るからに悪党! って感じでよ、そりゃあもう暴れ者だわ不細工だわ言葉遣いは悪いわ臭いわ太ってるわで碌な奴じゃねえ! お前さんの声を聞かせることすらおぞましいただの怪物……いやそれ以下の」
「この糞親父がああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「んぼふっ!!!?」

 雷光、それは正に雷光が如き速さだった。
 馬車から何やら黒い影が飛び出して来て馬車を操る男が吹き飛んだのだ。きりもみ回転しながら飛んで行く男はさながら紙風船。二度地面を跳ねてぴくぴくと体を揺らすだけとなった。なんとなく、アルルは胸の前で十字を切った。
 何が起きたのか分からぬアスターは呆としたまま飛び出してきた影の正体を見た。
 そこには、体中に布の縄を巻き付けられて、首に猿轡をかけた(おそらく口を封じられていたのだろうが、途中で落ちたのだろう)黄色い武闘着を着た女性が地面でのたうちまわっていた。飛び出したまま受身も取れず地面に叩きつけられたからだろう、片目を閉じて痛みに耐えている。が、まだ男を睨んでいた。憤怒の形相であった。
 顔は土がこびり付き血管が浮かんでいるも、その顔は美しかった。狐目に少し高い鼻、荒い息を吐く度に覗かせる八重歯は彼女の性格を表しているようで、武闘家らしいすらっと伸びた手足は無駄な贅肉は見当たらない。少しかすれた声は逆に聞きやすく耳通りの良い声質だった。

「……なるほど。犯罪者らしい粗暴な人間らしいね」男ならば見惚れもしよう美しい女性だが、アスターにはただの乱暴な女性にしか映らなかったようで、酷く寒々しい視線を送っていた。
「犯罪者とちゃうわ! ウチはただ宿屋に泊まっただけ、それも素泊まりやで!? せやのに200G!? 払えるかいそんな金! ぼったくりやないか持ってへんわ!」
「素泊まりでに、200G? 王族御用達の宿屋レベルじゃない……」呆然とアルルが呟いた。それを聞いてか、武闘家風の女性はさらに声を荒げて叫ぶ。
「しかも後払いで値段を聞いたのは泊まった後や! 昨日の夜宿を出ようとした途端無理やり抑えつけられて金払えやで!? えらい手際も良かったし、山賊も真っ青やわ!! しかも!」

 女はギッ、とまだ倒れて目を回している男を見て憎々しげに吠える。

「そいつ、町の憲兵に突き出すとか抜かしよったけど、実際はそうやない! ウチ聞いとったで、あんたさっき『ちょっとくらいなら遊んでもいいよなグヘヘ』って今時聞いた事も無いゲスな台詞吐きよったやろ!? も、もうウチ大切な初めてこんな散らされ方するんかいってめっちゃ怖かったんやから!!」

 恐怖を思い出したのか、女はふるふると震えながら、声が固まっていた。涙は出ていなかったがずるずると鼻を啜っているのが印象的である。
 ふむ、と顎に手をやってから後ろを振り向くアスター。そこには吐瀉物を見る目で倒れた男を見遣る少女の姿がそこにあった。すらりと抜いた剣の光が神々しい。二三度振って、「良し」と漏らしているのは何の意味があるのか。

「なるほど、君の言い分は分かった。でも君の言葉が正しいのか僕達にはまだ判断できない。それになんだか面倒臭い話に繋がりそうだから僕としては見なかった事にしたいな。どうやら君は悪人ではなさそうだし僕が説教出来る雰囲気でもないし……どう思う?」自分の意見を提示したアスターを女は信じられない物を見た、という目で口を開いた。
「あんた頭おかしいんか!? 目の前の女の子が今にも可哀想な初体験迎えそうやっちゅうとんねん! 男やったら助けよう思わんのか!?」
「僕は、そういう男なら~~するべき、という考えは嫌いだな。小さくともそれは差別だ」
「何で今そこを論点にしとるんじゃボケェ!!」

 両手が縛られているためじたばたと金魚運動をするしかない女性は、実に滑稽であった。
 どうしたものか、と困っていると後ろからアルルが剣を剥き出しにしたまま肩を叩いてきた。その目は胡乱で、何をするか分からないという印象を与える。片手で剣の柄を回しているのがその印象をさらに色濃く変えていた。

「女の敵よアスター。今すぐその下衆を刺身にしてそこらの魔物に食わせるべきだわ」
「落ち着くんだアルル。もう一度言うがこの子が正しいという証拠はない。おじさんの話を聞くべきじゃないか?」
「これだけ怯えてるのよ? 演技とは思えないわ」柄を握る力が強まる彼女の肩に手を置き、アスターは悲しげに瞳を揺らす。
「いいかいアルル、世の中には吸って吐くように嘘をつく人物がいる。僕はそれをマナというなんちゃって修道女に教え込まれた。何よりあの女からはなんだかよくない臭いがする。嘘つきの香りだ、そもそもおじさんはあの子と遊びたかっただけだろう? 別に良いじゃないかおじさんが童心に戻って女の子と遊びたいと願っても」
「あんたの考えてる遊びとあの変態の遊びではベクトルが違うのよ!」
「こら、人を変態呼ばわりするのは良くないぞ」

 めっ、と指を立てて注意するアスター。誠実たる者の風格が滲み出ていた。
 二人はそれからも遠回りな会話、むしろ停滞した会話を続けたが縛られた女の「まずはこれを解け」という頼みを聞き入れる事とした。アスターは頑として聞き付けぬという構えを取ったものの隣に立つ少女がいつまでも剣を収めぬ事を理由に渋々受け入れた。
 一息つきながら立ち上がる女。中々の長身でアスターより僅かに低いほどか。心なしかうるんだ瞳はやけに色気のあるものであった。そのまま倒れている男の下へ向かおうとしているのをアスターに止められて、仕方ないと溜息一つ。地面で拾った石を落とした。その石で男を殴るつもりだったのか、握力を強めて殴る力を増す為に用いる気だったのか、それは分からない。聞いていないから。

「ほんま災難やわ……まさかあんな辺鄙な村であんな悪どいことしとるなんて思わんわ……」
「おい、僕の村を馬鹿にするな。レーベはとても良い所だ」
「すまんけど、同意できん。あんなトラウマ確定な出来事あったらどうしたって悪いようにしか言えんわ」
「御愁傷様……っていうべきなのかな? とにかく、無事でよかったわね」
「なんかあったらあのおっさん間違いなく殺しとるっちゅーねん」

 ぎりぎりと歯ぎしりしながら言う。なんだかもう関わりたくないなあ、とアスターは思う。というか小声で言った。アルルでさえも無視をしたので、少しさみしくなったとか。
 腕の関節をほぐしながら、女は髪をかき上げて二人を見遣る。うん、と何やら納得しながら口を開いた。

「あんたらやろ? 声しか聞いてないけど覚えてる。魔王バラモスを倒そうとしとるらしいやん」
「ああ、昨日君もレーベにいたんだよね。そうだよ、僕達は必ずやバラモスを倒し怯えて生きている人々を救おうとしている最中さ。君の名前は?」
「ウチはシュテン。名前はあれど真名はまだ無い。それはウチの国特有のもんやから、知らんでもええか。あんたはアスターで、そっちのちいちゃい女の子がアルルやろ?」

 問われて二人は頷く。アルルだけはちいちゃいに異論を挟みたかったようだが、これ以上無駄な話をするのにも疲れたのだろう、そも、自分が同年代に比べ背が低いのは変えがたい事実だと身にしみて分かっている。悲しい事に。

「そかそか。村の奴等に捕まった時は最悪や最悪やと思っとったけど、こうなったならそう悪くも無いかな……」女──シュテンは指を鳴らし少しだけ笑った。不気味な笑顔だ、と目を逸らすアスターは間違っていない。
「なあ、あんたらの仲間に入れてもらえへんやろか? ウチも魔王を倒す旅をしとる。せやけど、流石に一人で旅を続けるのはしんどいって思っとったところや」急な言葉にアルルは「へ?」と間抜けな顔を晒したが、アスターは「嫌だ!」とけんもほろろに返す。本当に嫌そうだった。その反応に気を悪くしたシュテンはぐわっ、と頭突きをする勢いで詰め寄った。
「何でや!? 見たとこ、あんたら魔法使いと剣士やろ? こう見えてもウチは武闘家やで、並の魔物やったら瞬時に潰したる!」
「いや、スピードなら間に合ってる。生憎アルルは電光の速度で走る剣士だ、僕も詠唱速度では人の域を超えると言われているんだ。早いだけの武闘家は必要無い」
「そんな、二人しかおらんねやったらとりあえずでも仲間に入れていいんちゃう!?」取りすがるように粘るシュテンだったが、その言葉は勇者にとって度し難いものだった。
「とりあえず!? 君は馬鹿にしているのか、魔王を討伐するということがいかな事か、分かっていないようだな! 並みの実力で、吹けば飛ぶような覚悟で続けられる旅じゃないんだ! 現に僕達は既に魔王幹部の一角と対峙している!!」

 なっ! とよろけるシュテンと「もういいよそれで……」と遠くを見るアルル。なんとも対称的な反応であった。
 言葉も出ない、という態度であったが、拳を握り未だ強く目を光らせながらシュテンは続ける。そこには、彼女なりの誇りが垣間見えた。

「ウチかて……ウチかて適当に言ったんとちゃう! あんたらに負けへんくらいの覚悟を持って言い出したつもりや!」
「ならば訊くよシュテン、君には何が出来る!? 力か? 早さか? 運か魔法か賢さか!? その程度の、あやふやな技能で戦い抜く事なんて不可能だ! 不明瞭な“力”で魔王を倒すなんて泡沫の夢にすらならないんだぞ!」

 どちらかと言えば、男と二人旅より女の子がいるほうがいいなー、とぼんやり思っていたアルルは(再三言うが、アルルの性格からして恐るべき成長である)小さく頑張れーとだけ呟いた。限りなくどっちでもいいや、と思ってる立場としてはそんなものであろう。そもそも、途中から話に入れなくなった彼女は退屈していた。
 ──沈黙の時は流れ、二度風が草原を揺らした時シュテンは小さくこぼした。

「ひ…………ひっさつ、わざ、とか?」

 あいたたたー……と漏らしたのはアルルである。心細げなのは良い。どもるのも許容しよう。しかし必殺技とは痛々しい。見るからにアスターと同じ、もしくはそれ以上の年齢のいい大人が発して良い言葉では無いからだ。疑問文で形成されているのもよろしくない、一つのボケとして言ったのではないと分かるからだ。同じ言うならば、「私には必殺技という武器がある!!」と豪語した方がいくらか好印象だ、とつらつら考えているアルルは今大層に暇なのかもしれない。
 しかし、我らがアスターはいやに目を輝かせて、それでいて平静を装うとしているのかちらちらとシュテンを見つつ、そわそわと自分の服の裾を握ったり離したりを繰り返していた。

「必殺技か……そうか必殺技……ふうん。そんなものがあるのか、ふうん」
「ッ! そう、必殺技や!!」どうやらシュテンは攻め時と見たらしい。
「別に僕はそんなに興味は無いけどね、ちなみにどういう必殺技なんだい? 必殺技なんだから、技名とかあるんだろう?」にやにやと嬉しそうに問うアスター。何故か身体が上下しているのは興奮しているのか。
「わ、技名は……も、もうしゅう……猛襲破砕拳や! 猛烈と襲いかかり破壊し砕く拳で猛襲破砕拳!」どや! と頭上に出ていそうな表情であった。
「も、猛襲か! そ、それはどんな技なんだシュテン!」技名を聞いた時には平静も糞もなく、前のめりになって彼女の言葉を促している。アルルはネーミングセンスとは酷な言葉だな、と認識した。
「猛襲破砕拳は、名前の通り敵に襲いかかり隙を作らせた後渾身の正拳突きをお見舞いする技や! 喰らった相手は砕け散る、武道を極めた者のみ扱える禁断の奥儀よ!」
「き、禁断だって!? 恐ろしい……流石の僕も禁断の技は使えない!!」
「襲いかかって隙を作った後どうやって正拳突きするのよ……ていうか襲いかかるって時点で技でもなんでもないじゃない……」

 アルルの言葉を誰しもが聞いておらず、他二人は熱が入った技談義をしていた。シュテンの話を鵜呑みにすれば、彼女は両手から龍の形をした気功波を撃てるらしく、その威力は三里離れた相手でも砕け散るらしい。最初はもごもごと喋っていたくせに、今は饒舌この上ない様子だった。
 それを聞く度にアスターは顔を赤くして「凄い! 凄い!」と幼子のように絶賛している。跳ねながら両手を上げている所なんか、それそのものである。可愛らしい。
 何だか色々とやる気を失ったアルルは、倒れていた男が目を覚まし馬車に乗り込んで村に帰っていくのをぼんやり見ていた。処罰すべきじゃないか? と思ったが地面を這うアリの行列が巣に餌を運ぶ様子が気になって夢中だったので無視した。小さな力でも沢山集まれば侮れないものだなあと微笑ましい気持ちにすらなっている。

「おおいアルル! 新しい仲間が加わったぞ、聞けば彼女は天上天下において比べる者無しと言われる程の武神らしい! 鉄板六枚を素手で貫通できるそうだ!」
「ああ、そう……」

 それは人間では無く魔物でもないぞ、と思いながら立ち上がるアルル。蟻達が餌を巣に運び終えたので丁度良かった。お尻についた砂を払ってシュテンを見ると、何やらご満悦といった表情だった。一仕事終えました感満載。

「ナジミの塔に行きたいんやろ? 安心しい、塔に続く洞窟ならウチが知っとる。国を出る時に世界地図を貰うたさかい! 各地の情報はびっしり書き込まれとるで!」
「あっ、それは本当にありがたいわ」
「勿論、ウチ自身もあんたらのお役にたてるよう精進する! よろしゅう頼むでアルル!」

 にっ、とまっさらな笑顔と共に握手を求められ、アルルは少し照れながら「ま、まあ二人で旅をするのは厳しいと思ってたしね……」と顔を逸らしながら握手に応えた。
 アスターは「良いなあ、僕も必殺技を作るべきだろうか?」とこれからの旅を考えて己のさらなる強化を望んでいた。「メラを極炎召喚! と言いながら発動するのはどうだろうか? いや、それはありきたりだろうか……」と、余念が無い。
 村を出てまだ僅かと経っていない内に、勇者アスターは二人の仲間を見つける事が出来た。
 次の目的地はナジミの塔、並びに岬の洞窟。
 恐らく、おぞましい魔物達の群れが彼らを待ち受けているだろう。
 だが、案ずる事は無い。彼らはそれぞれが戦いの熟練者である。
 空も大地も焼き尽くす異端の勇者であり賢者アスター。
 一度剣を振れば魔物の大軍をも切り払う閃光の剣士アルル。
 突きだす拳は空を切り穿つ天下の武闘家シュテン。
 魔王への道は確実に近づいていた────

















 おまけ

「そういえば、戦いのスタンスはどんなんやの? やっぱりアスターが後衛でアルルが前衛なんか?」シュテンに問われ、リーダーであるアスターは答えた。
「ゆくゆくはそうしようと思うけれど、今はアルルを鍛えているところなんだ。だから基本的に僕は戦いには参加しない。危なくなれば手助けはするけどね」
「そうか……うん、ウチもアスターと同じ立ち位置にしよかな」

 つまりは、基本的に自分は戦わずアルルに任せるという発言に、任せられた少女はぶぼっ! と唾と空気が混在したものを吐き出した。

「何言ってんの!? シュテンは強いんでしょ必殺技とやらを持ってるんでしょ!? だったら私を差し置いて前線に出るのが筋でしょうが!」キンキンに高い声で反論するアルルだが、シュテンは至って普通に
「いや、ウチが戦ったら一瞬で勝負決まってまうし、そもそも必殺技はいざという時に使うから必殺技やねん。分かってへんなあアルル」
「全くだよアルル。君はもう少し戦いの情緒というものを知るべきさ。恐るべき強敵と戦い、苦戦を強いられもう駄目か!? という瞬間に使ってこそ必殺技は栄えるんだ」
「あんた戦いに卑怯も反則も無いとか抜かしてたくせに、なんで情緒とか語ってんのよ!? 栄えるって何? 頭に苔でも生えてんの!?」

 多数決とは常に不条理であり、どれだけアルルが喚こうと二人は己の言を変える事は無かった。
 まあ言ってしまえばシュテンが仲間に入る前となんら変わっていないのだが、いかんせん魔物と戦う際に少しでも自分にモンスターが近付けばシュテンが「いややっ!」とか「無理無理無理!」と悲鳴を上げるのが煩わしくて仕方なかったとか。
 純粋無垢な少女が仲間ってなんだ? と黄昏るのはシュテンが仲間に入って三時間後の事だったとか。


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