―――自立心は時に反社会的な性質と解釈される。
意志が強いということは他者の考えに反抗するということでもある。
それでも人は反抗せずにいられない生き物なのだ。
ここナイトスプリングスでも。
今夜のお話は「反抗心」。
カール青年は鏡の中にもう一人の自分を見出すようになっていた。
両親の言いつけを守ってとことん自分を抑制してきた自分とは似ても似つかない派手な格好と態度の自分が鏡に映っているのを何度も目撃したのだ。
彼はなんとかもう一人の自分に会おうと部屋に鏡を設置すると、実験を試みた。
深夜になって鏡の前に立つともう一人の自分が居た。
彼は咄嗟に言葉をかけた。
「お前は誰なんだ!」
鏡の中の自分は笑みを浮かべて答えた。
「俺かい? 俺はお前さ。特にお前さんの好き勝手したいって欲望の面さ」
「なんだって? 信じられない」
「驚くことじゃないさ。医者にかかるようなことはするなよ。これはお前の心の風景なんだから」
「なぜ鏡にお前が映ってしまったんだ?」
「なぜって、お前が俺を憎んでるからさ。ほっとくと自分自身を引き裂いちまうからな。けど離れすぎても駄目だ。俺たちは所詮運命共同体なんだ」
「お前が居たせいで、どれだけ苦労したと思ってる」
「苦労しに行ったのはお前さんじゃないか。両親の言うことばかり聞いて苦労に飛び込んでいく。好きな人生も歩めない。結構だが、まるで面白くない」
「いいやお前なんかいらない。吐き気がするね」
カール青年がそう強めに言葉を発すると、鏡の中のカール青年は悲しそうな顔をした。
するとあろうことかカール青年の体から、カール青年と同じ姿をした青年が飛び出して鏡に入っていった。
カール青年はその場に蹲ってしまった。呼吸はしていたが目に光が無い。
鏡の中の二人は顔を見合わせあった。
後から鏡に入っていったカール青年の反抗心が言った。
「言わんこっちゃない。あんまり否定しすぎて反抗心に対する反抗心まで捨てちまった」
最初に鏡に居た反抗心は首を振った。
「捨てればいいもんでもないってのに」
取り返しのつかないことが頻繁に起こる場所……
それがナイトスプリングス。