―――創造力。
それは人の欲望、理想、思想、ありとあらゆるものを源泉とする一方、奪い去る要素を多数内包した世界。
現実、知識、経験。
どれも創造のためには欠かせないとされながらも、自由を奪う存在である。
だが、ここでは創造力への阻害が自由どころか人生を左右することもあるのだ。
そう、ナイトスプリングスでは。
今夜の話は「小説家になろう」。
スティーヴン氏は小説家特有のスランプに苦しんでいた。
書きたいことは山積みだというのに、文章に起こすことができない。少し書いただけで「これが俺の書きたい文ではない」と削除してしまう。
先人たちに習って彼は散歩に出かけてみることにした。
ある程度売れている小説家であった彼は一日中肉体労働を行わなくてもよかった。
遠出をした彼は素敵な公園を見つけた。比較的新しく、池は浄化システムが素晴らしい構造をしているのか汚れひとつ無い透明度の高さを誇っていた。彼はベンチに腰かけて気が付いた。
何やら封筒が落ちているのだ。
「なんだ……書類だろうか?」
中を開けるという誘惑に負けた彼は、周囲に誰もいないことを確かめると、慎重に開封した。
「小説家になろう」という題名の紙切れが入っていた。
「なんという天からの贈り物……誰かは知らないが、嫉妬を覚える……」
彼はそれを読んで驚愕を受けた。驚くべき才気に溢れた瑞々しいアイディアが詰まっていたのだ。
彼は帰宅すると早速それを小説に書き起こした。瞬く間に指先は踊り、あっという間に本を書きあげてしまった。それを読んだ編集者は文の素晴らしさに唸った。本はたちまち出版されベストセラーになった。
だが彼は再びスランプに陥ってしまった。
同じようにあの公園へと赴くと、封筒があった。
その内容を本に起こして、スランプに嵌まる。そんなことを何回も繰り返した彼は気が付いてしまった。
自分だけではアイディアを作り出すことができなくなっていたのだ。
彼は只管頭を悩ましたが、結局封筒に頼ってしまった。
封筒を頼りにアイディアを練り上げる日々。
彼は、もう公園に行くべきではないとわかりきっていながらも、どうしても足を止めることができなかった。
テレビのインタビューに出演した彼は暗い顔をしてこう言った。
「私のアイディアは決して素晴らしいものなんかじゃない。あえて言うなら……いやこのへんでよしておきましょう」
「では最後に小説家の卵たちに一言」
「自分一人で書くに限る。特に、小説はね」
馬鹿げた話だと笑うのなら、きっと誰かに笑われる。
それが、ナイトスプリングス。