「ああ、何も見えない。灯りをつけてくれ」
「灯り? 俺にはその概念は理解できないね」
「何を言ってるんだ、こんなに暗いじゃないか。何も見えやしない。1フィート先も霞んでやがる」
「違うね。見えないんじゃなくて、そもそも無いんだ。ほうらわかるだろう。俺たちが誰かも無いから顔を見ることだってできないんだ」
「確かに……そうだが。おかしいじゃないか、何も見えないなんて」
「わからないぜ? 見えないんじゃなくて、そもそも見ることができないのかもしれない。目の無い生物かもしれない」
「何を言っているんだ。俺らは人間だろうに。それにここはどこなんだ」
「ンぁあ。物わかりの悪い奴だが、俺は嫌いじゃない。よく見てみろってのも変だが俺らは人間でもない。猫かもしれないし、犬かもしれない。誰かの夢かもしれない」
「どういうことなんだ?」
「深刻な顔をしなさんなって。まだ俺らの設定すらないどころかここがどこかなのかさえ書いちゃいないんだ」
「なんだって? もっとわかりやすく頼む」
「簡単に言えば、俺らは作品なんだ。書かれてないことはないのと同じだ。ほら、あんたが灯りをつけてというからここが暗闇になってしまったじゃないか。んまぁ灯りが無い、暗闇も無い、どっちつかずの状態はありえないんだがね」
「俺らはこの先どうすればいいんだろうか。まだ書かれてないんだろう」
「落ち着けって。俺らは人殺しに快楽を感じるような男とは書かれてないし、斧でドアをブチ破るような奴とも書かれてない。ベッドの下の殺人者でもなければ、変な話になるが一晩過ごした翌日にバスルームに口紅でエイズの世界にようこそとも書かない。鳥が襲ってくる世界観でもない」
「だから、一体、どうすればいいんだろうってな」
「どうしようもないさ。他人の夢を覗けるか? 弄れるか? なぁ、俺には無理だ」
「なるほど。では、話が終わるまで待っていればいいのか」
「そういうことさね」
暗闇と無限は同じ意味合いを持つこともある。
想像一つで変化自在に形を変える力が宿る場所……
そう、そこはナイトスプリングス。