―――夢とは脳の情報整理中の風景だとも、たんなる錯覚だとも言われている。
また一説では夢とは自らが望む欲望の映像だとも言う。
オカルティズム的な観点では夢とは未来と過去の両方をも超越した風景を映し出すこともあるという。
夢とは、将来への希望でもある。
我々は夢を見るとき、本当にそれが夢なのか、現実なのかの区別ができない夢を見ることもある。
もしかすると我々は夢そのものなのかもしれない。
さまざまな夢が交差する場所。
まさにこれこそが、ナイトスプリングス。
今夜のお話は「正夢」。
ジークムント氏は夢を見た。決して素晴らしいとは言い難い夢だ。
朝、仕事に出かける際に空き缶に足を取られて転倒するという夢である。
彼はそれが正夢に違いないとして、足元に気を付けることにした。
「やはりそうか。その手には乗らんぞ」
足元にあった空き缶を躱した彼はほくそ笑んだ。
ところが、次の瞬間横から滑り込んできた自転車があった。
彼は自転車を避けるためによろよろとよろめいた。そして結局彼は転んでしまった。空き缶を踏むことはなかったが転んでしまったのである。
次の日も彼は夢を見た。電車が事故で止まってしまい遅刻するという夢だった。
彼はそれに見越して電車に乗るのをやめると車で出勤した。
ところがその日に限って道が大渋滞して、結果的に遅刻してしまった。
「酷い正夢もあったものだ」
彼は憤慨して眠りにつくと、夢に黒服の胡散臭い男が登場した。
ジークムント氏は怒りにまかせて詰問した。
「あーあー、困るんですよ。あまり先と後の関係性を乱されちゃ壊れてしまう」
「誰だお前は」
「私? 名前は特にないですが、あなたたちの生活を守るものとだけお答えします」
「私の夢を操っているのはお前なのか?」
「操る? いいえ、違います。ああなることが決まっていたと言いましょうか。あなたがいかに夢を見て未来を変えようともすべて決まっていることなのですから。変えられたとしても……」
「何をわけのわからないことを!」
「私だってそう。あなたも同じ。あの月も、星々もそうですよ」
抽象的なことしか言わない黒服に、ジークムント氏は青筋を立てた。
胡散臭い男はどこかを見上げた。
「……きっとこれを読んでる人だって」
変えたつもりでも、変わらないことだってある。
ナイトスプリングスでは、特に。