――――卵があるから鶏がいるのか、
鶏がいるから卵があるのか、
兎角難解に成りがちな問題だが、ヒントをくれる場所がある……。
そう、ここナイトスプリングスでは。
ケビンは昔から水道水を飲まなくては頭痛がするという体質の持ち主だった。
彼は今日も水道水を口にしていた。
「これがないと始まらないよ」
「ミネラルウォーターじゃだめなの?」
妻がそう尋ねると彼は首を振ってコップになみなみ注がれたカルキの匂いがする透明な液体を見せつけた。
それは水道水だった。
湖の水を施設でろ過したものでありその地域では特別なものではなかった、ごくありふれた飲み物である。
「飲まないと頭が痛いから仕方がないだろう。水道水じゃないとダメなんだ」
「変な体質ね。飲むのをやめてみたらどうかしら」
妻の思わぬ提案に彼は一瞬まばたきをやめたが、ややあって神妙な顔つきで答えた。
「それもいいかもしれないな、実験してみよう」
だが半日もすると彼の頭痛がぶりかえしてきたのだった。
彼は水道水を蛇口からじかに飲むと、口元を拭った。
そこでふと、幼いころを思い出した。
水道水しか飲めないほど貧しいころ。水道水を飲むと頭痛がしていたことに。
「もしかするとこいつが原因なのか? いや、だからと言って飲むのをやめるのは問題だ……」
彼の目の前で透明な液体は蛇口から流れ続けるのだった。
水が体調に干渉することは広く知られているが、彼の場合は特殊なケースだったのだろうか?
いずれにせよ。
そう、ここはナイトスプリングス。