―――よそ者が忌み嫌われる一方で強力な力を持つのは、マレビトの概念で説明される。
かの大工の息子もマレビトであった。
ではマレビトはすべてが有益なのか? 答えられるものは、きっといないのだ……。
ここナイトスプリングスでさえも……。
今夜のお話は「移住者」。
隣人ほど憎いものはない……。
ピークス一家の引っ越しをサラ=ジャガーは気に入らないでいた。
彼女は、ピークス一家が無作法にも夜中になっても音楽をかけて大騒ぎしていることがどうにも気に食わなかったのだ。
村に広がる閉鎖的な空気がその感情を呼び起こしているのかもしれなかったが、とにかく煩わしかった。
夫に相談してみると、彼も同意見だった。
「あの家はうるさすぎる」
「いずれ天罰が下るわ!」
「だといいが。天罰を下しているほど神もお暇ではない」
ヒステリックな気のあった妻とは違い、夫は冷静だった。
夫が冷静になれと暗に諭してもサラは興奮が冷めなかった。
彼女はこっそりと家を出るとピークス一家の様子を見に行った。
「あら?」
家は先ほどまでの騒音などなかったかのように不気味なほどに静まり返っていた。
サラは不思議に思うと、家の門前から様子をうかがった。
窓ガラスにかかったカーテンの奥では蝋燭が揺らめいていた。
「なにかしら……」
サラはさらに寄ってみた。門をくぐって、窓のそばへと。
なにやら蝋燭がサークル状に並べられており、その中央には―――。
サラは顔色を失った。
「もしもし?」
そこで彼女は肩を叩かれた。
サラは帰宅した。
夫は新聞に目を通しながら問いかけた。
「どうだった? やけに静かになったようだが」
「何も問題はなかったわ」
サラの顔には奇妙な笑みが張り付いていた。
まるで作り物のような。
―――知らないほうがいいこともあるのだ。
ここ、ナイトスプリングスでは……。